ミッション破壊作戦～竜との決戦を前に

■リプレイ

●八代轟炎竜獄
　ドラゴン・ウォーを直前に控え、ケルベロス達はドラゴンとの前哨戦というべき戦いを決行する。
　今なおドラゴンに支配されたままの地域がいくつかある中、参加メンバー達が攻略を決めたのは、熊本県八代市。
　その海は沸騰し、大地は割れ、火山のごとき有様となっていた。
「轟炎竜母……。まるで、災害だな、こりゃぁよ」
　それまで、現地周辺地域の地理を頭に入れていた水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）だったが、ヘリオンから見える光景に釘付けとなってしまう。
　この地は現在、その惨状から八代轟炎竜獄と呼ばれている。
　メンバー達は降下に当たって現地の地図を確認し、退却ルートの割り出しを行う。
　過去、この地域は２度の作戦を決行しているが、破壊は叶わず今なお強襲型魔空回廊は稼働したままだ。
「今回こそは破壊したいな」
　ナザク・ジェイド（とおり雨・e46641）は普段の飄々とした性格がなりを引締め、１度参加したことがあるこの場所の魔空回廊の破壊をと意気込んでいる。
「３度目か、成功させたいね」
　撤退の経路を確認していた落内・眠堂（指切り・e01178）は、信を置く仲間達へと柔らかい態度で接していた。
　機内の端では、伏見・万（万獣の檻・e02075）が持参のスキットルの中身を煽っている。
「デウスエクスはお仕置きする対象。抱擁すべき、捕食すべき対象」
　そばでは、ユグゴト・ツァン（パンの大神・e23397）が万と語らっている。彼女にとって、全ての生命は自らの仔と認知しているらしい。
「胎内に還れば皆、快楽の極みへと到達するのだ」
　さらに、近くでフレデリ・アルフォンス（ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627）がミッション攻略中のケルベロスと連絡を取り合っていると、どうやら現地に到着したらしい。
　先んじて四乃森・沙雪（陰陽師・e00645）が飛び降り、続いてケルベロス達が次々に降下していく。
　自身の身につけた灼鱗に視線を向ける、夜陣・碧人（影灯篭・e05022）。
　それは過去のミッション破壊作戦において、この地のドラゴンを倒した際に供養をと剥ぎ取った鱗。
　灼鱗を身に着けた碧人は再び、この地のドラゴンとの戦いに臨む。
　例え、ドラゴン達との戦いに決着がついていようと、やらなきゃならない戦い。
「さて、どんな戦いになるかな」
　気合を入れなければと、鬼人もまた仲間を追って降下していくのだった。

●グラディウスに魂の叫びを
　ケルベロス一行が降下するのは、八代市の沿岸部。
　口を開く強襲型魔空回廊へと、沙雪が最初に飛び込んでいく。
「この地で生活していた人たちの為にも、多種多様な命の源たる海の平穏を、いつまでも貴様らの好きにさせておくものか」
　彼は普段、刀印を結んだ指で愛刀をなぞるが、今回使うはグラディウス。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
　必ずこの地を取り戻すという強い気持ちを沙雪が込め、手にする小剣が煌めき、一際大きな声で彼は叫ぶ。
「返してもらうぞっ！」
　沙雪の光る刃がバリアを切り裂き、さらに魔空回廊を切り裂いた。
　その瞬間、周囲へと駆け巡る爆炎と雷光。
　八代の地を巣食っていたドラゴン達が動揺する声が聞こえてくる。
「こないだのグランドロン迎撃戦では、白百合騎士団と仁義ある信頼関係を築いたってね」
　そんなドラゴン達へとフレデリが呼びかける。
「だからと言って、お前らのやってる事が帳消しになるかよ」
　いつもいつも、オーク、ドラグナー、竜牙兵に好き勝手させているドラゴン勢力にフレデリは怒りを漲らせて。
「戦争前の景気付けに、派手に燃やすぞ！」
　煌めく小剣を、フレデリは魔空回廊深くまで突き入れていった。

　さらなる雷光が駆け巡る中、ナザクと碧人が仕掛けていく。
「まだこの地に居たのか。もうこの間のようにはいかない」
　前の作戦でも言ったようだが、ナザクは何度でもと叫んでみせる。
「熊本は俺の故郷だ。いつまでも貴様に踏み躙られてなるものか」
　焦土と化した街。復興の積み重ねを一瞬で崩された城。
　――あんな思いはもう御免だ。
「今こそ返してもらう。この地に平和を」
　眩く光る小剣を、ナザクは力の限り振り下ろす。
　そばの碧人も１０か月前に作戦攻略に当たっていたが、竜の結界は強固だ。今回こそ壊したいものだと彼は本音を語る。
「轟炎竜母、母を捩りながら地を燃やし尽くすのは皮肉だな」
　一部の竜にとっては、理想郷なのかもしれない。
　それはある意味で、竜との共存を願う碧人にとっては素晴らしい世界かもしれない。
　ただ、碧人が溺愛する箱竜フレアは、炎より魚のほうが好きだそうだ。
　お昼寝とご飯が大好きなフレアは魚も好きで、魚も食べたいと主張する。
　可愛らしいフレアがそういうのなら、この地のドラゴン『轟炎竜母』は敵でしかない。
「――海を、熊本を完全に返してもらうぞ！」
　碧人もまた、渾身の力で魔空回廊を切り払った。

　ケルベロス達の侵攻は止まらず、万とユグゴトが飛び込む。
「ただでさえこれから暑くなるってェのに、暑ッ苦しい奴だな」
　海を沸かし、大地を燃やし、好き勝手する竜。
　こうも好き勝手に焼くドラゴンの所業は迷惑極まりない。
「なら、今度はてめェが、人間の怒りや恨みに焼かれても、文句言えねェよなァ？」
　そばでは、ユグゴトもまた吹き上げる熱気を感じながら、この地のドラゴンに語り掛ける。
「熱で朦朧としそうだが。兎角。此処は母なる海だ」
　全生命の母親と語るユグゴトにとって、この地もまた彼女の領域。
　いや、地球上に存在する遍く仔の領域だ。
「此れを支配する為に沸騰させ、蹂躙する事は赦されない」
　――さあ、お仕置きの時間だ。
　ドラゴンすらも抱擁するユグゴトの体内は、常々空っぽなのだ。
「火遊びは仕舞いだ。ここは返してもらうぜ！」
「愛すべき仔の為に壊す。独占する仔へのお仕置きを。竜に優しい抱擁を」
　万、ユグゴトと次々に、突き刺さるグラディウス。
　轟炎に包まれたで巻き起こる爆炎の中、さらに眠堂が突っ込む。
「赦さないってのは、もう決めた」
　その竜はただ荒れ狂うだけ。壊れていくものを顧みすらしない。
「お前の蒙昧さは……、前に戦り合ってよく解ったぜ」
　普段、感情を露わにしない眠堂だが、その叫びには次第に熱が籠る。
　――この身がどれほど灼かれようと、此処を郷に持つ、愛しむひと達の為なら。彼らを脅かすお前を、斃す為なら。
　滲むは、破壊しきれなかった以前の口惜しさ。
「這ってでも、どこまでも追うさ。此処を返せよ、轟炎竜母――！」
　眠堂の光る刃が魔空回廊を切りつけ、そこから濃いスモークが噴出してくる。
　最後に飛びかかるのは、鬼人だ。
「ドラゴンがどれだけ強いかは身に染みて解ってるがよ。それでも引けない戦いってのがある！」
　ここは、ドラゴンが好き勝手していい場所でない。
「返してもらうぞ、この地に住む人達の為に！」
　鬼人はグラディウスを刀と同様に握って。
「我流剣術、鬼砕き！　この地の呪縛を打ち砕きやがれぇ！」
　刹那の間に、左切り上げ・右薙ぎ・袈裟と切った彼は、その三撃の斬撃痕が交わる中心を刺突する。
　直後、華麗に降り立った鬼人は仲間と共に、魔空回廊を見上げる。
　全てのグラディウスから光が消えども、傷つく強襲型魔空回廊は小さな音を立てて動き続けていたのだった。

●ドラゴン『轟炎竜母』
　今作戦で、この地の強襲型魔空回廊の破壊は叶わなかった。
「……次に繋げられればいい」
　破壊に強い意気込みを見せていたナザクは落胆せず、前向きにこの事実を受け入れると、沙雪も不浄払いの弾指は次の機会かと考える。
　ともあれ、すぐさま撤収の準備を始めるメンバー達。
　グラディウスは各自管理し、紛失、奪取対策として、眠堂、万、ナザク、フレデリは装備に固定する。
　碧人、沙雪、ユグゴトも、しっかりとグラディウスを管理している間に、煙の中から現れるドラゴンが。
　グルルルル……。
　堂々たる体躯から、膨大なる熱を放つドラゴン『轟炎竜母』。
　仲間達が態勢を整える間に、鬼人がその敵の牽制に当たる。
「轟炎竜母、こいつは巨大そうだが……」
　ともあれ、鬼人は抜いた日本刀『越後守国儔』に空の霊力を纏わせて切りかかり、そのまま相手の体へ取り付く。
「体に纏わりつかれれば、どんな奴だって鬱陶しいだろうからよ」
　グオオオオオォォォ……！！
　咆哮を上げる相手は体が大きいこともあって、動きはやや鈍い。
　また、鬼人に注意を向けたドラゴンは、仲間への注意が散漫になっていたようだ。
　その間、メンバー達も戦闘態勢を整えて。
「うちの子の力を見るといい！」
　碧人は封印箱に入った箱竜フレアが体当たりを仕掛けた直後、そのフレアの陽属性を鹵獲した力を光弾に変え、轟炎竜母の頭上から降り注がせていく。
　ドラゴンも頭上ばかりに気を取られてはいられない。
　余裕すら見せる佇まいの沙雪は神霊剣に一度刀印を結び、雷の霊力に満たされた刀身をドラゴンへと突き入れていく。
　体に雷を駆け巡らせる轟炎竜母目掛け、ユグゴトが仕掛ける。
「脳味噌が茹だる前に、突破せねば」
　灼熱の地となり果てたこの場は、ケルベロスであれども耐えがたい熱気だ。
　そんな中、ユグゴトはドラゴンへと迫って。
「貴様の物語を否定する」
　グラビティ『Eraboonehotep』。
　彼女は目の前のドラゴンに対するお仕置きとして、敵が轟炎竜母である証明を混濁させてしまう。
　グルルルル……！
　躊躇いを見せる敵へ、ナザクが抑えに当たる。
「この場は手早く倒して、次の機会を待つべきだ」
　淡々と彼は手にする槍に雷を纏わせ、超高速で敵の体を突き貫いていく。
「そろそろ、反撃に出てくるはずだ」
　回復役となるフレデリは先に対策をと『風雷剣サンティアーグ』を使い、正面に雷の壁を展開していった。
　その後ろから、冷ややかな視線を轟炎竜母に向けた眠堂が攻撃へと出る。
　洋装の上を部分的に鎧で覆う彼はさらにバトルオーラを……薄い衣被の意匠を纏い、ドラゴン目掛けて拳を叩きつける。
　薄皮を凍り付かせはしたが、相手の体躯は巨大だ。凍った部分も体の一部に過ぎない。
　そこを目掛けて万が黒い鎖を操り、仲間が傷つけた部分を中心に轟炎竜母の体を縛り付けていく。
　グオオオオオォォォォ……！！
　巨躯のドラゴンは多少の拘束など意にも介さず、万の拘束する鎖を引きずるようにして強引に動き、燃え盛る炎を吐き出してくる。
　炎熱に身を焦がされながらもケルベロス達は踏ん張り、さらなる攻撃に当たっていくのである。

　炎熱の地で荒ぶる轟炎竜母は筋肉隆々な見た目もあり、なんとも暑苦しい。
　しかも、突き出す拳、そして業火は侮れぬ威力。さすがはドラゴンというべきか。
　それだけに、この場のケルベロスの数人は暴走を覚悟でこの戦いに臨んでいる。
　ユグゴトもその１人。
　ブラックスライムを発し、相手の動きをできる限り止めようとしていた彼女は、混沌を纏わせた鉄塊剣で相手を切り裂き、前線を持たせる。
　同じく、暴走の可能性を脳裏にちらつかせていたナザクも仲間の盾となりながらも、短期決戦をとやや前のめりに攻撃を繰り返す。
　だが、轟炎竜母は笑みすら浮かべ、拳でカウンターを浴びせかけてきていた。
　長期戦は、ケルベロスにとって不利となる。
　ドラゴンとの交戦でジリ損になる可能性もそうだが、何より、周囲のスモークが晴れれば多数の敵に囲まれかねない。
　ナザクは花びらを舞わせ、白銀の一閃を繰り出す。
「……逃がさない」
　一切の迷いなく彼は刃を振り抜き、ドラゴンの体を大きく切り裂いた。
　前線を支えるのは、フレデリだ。
　彼は自らに懐くオウガメタル『アロンソ』の力を借り、オウガ粒子を前線へと振りまく。
　相手は炎を広範囲にばらまき、こちらの体力を削ってくる。
　どうやら、敵がジャマーらしいこともあり、フレデリは仲間達を護る為に雷の壁を厚くしていく。
　攻撃を畳みかけるケルベロス達。
「血の一滴さえ飲み干すまで、――此の牙が」
　護符の形をした真白な札が眠堂の詠唱によって紋様で彩られ、その色が浮き出るように虎の姿の御業が現れる。
　鋭い牙を煌めかす虎は大きく口を開き、自らよりも身の丈が大きな竜へと食らいついていく。
「引き裂け、喰らえ、攻め立てろ！」
　眠堂の虎に続き、万は己を構成する獣を幻影として呼び出し、竜へとけしかける。
　万の指示を受け、飢えた獣達は群がるように仲間達がつけた傷を狙って容赦なく食らいつき、食い荒らす。
　轟炎竜母は最初に咆哮したのみで、後は炎と拳での攻撃を繰り返し、ケルベロス達を炎の海の中に沈めようとしてくる。
　今のところ大丈夫だが、万も最悪の場合は暴走を考える。
　とはいえ、万本人もできるならば、そのおぞましい姿を皆に見せたくはない。
　そんな仲間達を護るべく、箱竜フレアは陽属性を注入することでケルベロス達の傷を塞いでいく。
　主の碧人はフレアを気掛けながらも、『陽竜のトンカチ』を振り上げて。
「その鱗、貰い受ける！」
　思いっきり叩きつけると、轟炎竜母の体が揺らぐ。
　グルルルル……。
　グアオオオオ……。
　周囲のスモークから聞こえてくるドラゴン達の唸り声。
　これ以上、戦いを引っ張るわけにはいかないと、沙雪が刀印を結ぶ。
「鬼魔駆逐、破邪、建御雷！」
　――臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前！
　九字を唱える沙雪は手慣れた様子で刀印を結び、その手で印を四縦五横に切る。
　指先に集めた光で作った刀身で、彼はドラゴンの体を切り裂く。
　グアアオオオオオォォォォ！！
　苦しみ悶える敵目掛け、鬼人は先ほどグラディウスで見せた技を、無名刀で繰り出す。
　三度の斬撃。それらの刃筋が重なる中心を、彼は素早く刃で突き貫いていく。
　グオオオォォォ…………。
　目から光を失った轟炎竜母は、赤く染まる海へと沈んでいったのだった。

●手早く撤退を
　残念ながら、強襲型魔空回廊の破壊こそ叶わなかったが、ドラゴン・ウォーの為、攻勢のきっかけを作ることはできた。
　されど、この場はスモークが晴れる前に撤退せねば、ドラゴンに囲まれて離脱できなくなってしまう。
　皆動けることを確認し、素早く撤退する眠堂。万はスキットルを取り出して中身を口にしてそれに続く。
　沙雪もまた、皆がグラディウスを所持していることを再確認してそれぞれ離脱する。
　碧人が闇を纏う中、フレデリが再度ミッション攻略中のケルベロスと連絡を取り、合流の為の段取りを組んでいた。
　殿を務める鬼人は婚約者からもらったロザリオを手にし、作戦が終わったことを祈り、仲間に続いて八代の地から離れていくのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年5月30日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。