人口10万人をわずかに上回る、とある地方都市。
10万人と言っても周辺の町村を合併してなんとかその水準になっただけで、今もまた人口は減り続けている。大台を割るのも数年後のことであろう。
よく言えば風光明媚。山の斜面には柑橘類の葉が色濃く茂り、そこから見下ろす海は陽光を反射してキラキラと輝いている。
そんな風景の中にたたずむ市営住宅がある。いわゆる団地で、5階建ての建物が4棟。築年数は驚くほど古いが、学校やスーパーマーケットなどが近くにあり、町の中心からもそう離れていないので、入居率は高い。10年ほどまえにリフォームされたこともあって、内装も多少はマシにもなっている。
建物に囲まれた中庭には遊具もあって、休日の今日などは、団地の子供たちの歓声が響いていた。
ピンポーン!
「タク、まだー? みんなもう、集まってるぞー?」
友人宅のチャイムを鳴らしたのも、そうした子供のひとり。
早々に集まって遊んでいる仲間たちの方を見るために外の方を振り返った、そのとき。
建物の向こうに、巨大な『何か』の姿を認めた。
「ロ、ロボット……?」
少年の姿に反応したわけではあるまいが、巨大な人型ロボット……ダモクレスの目が赤く輝く。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
全高7メートルにも及ぶ巨大ダモクレスは、雷鳴のように歪な駆動音を上げながら建物に躍りかかり、拳を叩きつけた。頑丈なコンクリートが易々と砕け散り、瓦礫が、遊んでいる子供たちの頭上に降り注いだ。
「ひ……!」
惨劇を見下ろす少年が腰を抜かしている間にも、巨大ダモクレスは異様に長い手を伸ばし、建物に拳を叩きつけていく。
逃げようとする間もあればこそ。眼前に迫った拳が、少年に黒い影を落とした。
「あぁ……! 恐るべき封印が解かれる。解き放たれた災厄が人々を傷つけ、町を滅ぼしていく……!」
ヘリオライダーから事件のあらましを聞かされた是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)は大げさに天を仰ぎ、嘆息した。
「建物が破壊され、人々が、子供たちが……うぅッ」
はじめは歌うような調子で声を上げていた奈々だったが、口にしているうちに事態の深刻さが染み込んできたのか、口元を押さえた。
奈々が口にしたとおり、現れるのは先の大戦末期にオラトリオによって封印されたはずの存在、巨大ダモクレスである。
恐るべき強敵だが、幸いなことに、蘇ったばかりでグラビティ・チェインは不足している。その能力は往事とは比べものにならないほどに低くなっているだろう。
しかしそれだけに、敵は多くの人間を殺戮し、グラビティ・チェインを略奪しようとしている。この団地を手始めとし、さらに町の中心へと進撃していくものと思われる。
グラビティ・チェインの入手に成功した敵は、自身の戦闘力を増すだけでなく、内蔵された工場で様々なダモクレスの量産を開始してしまうことだろう。
撃破する機会は、敵がその力を取り戻す前の。
「今、しかないと……!」
奈々が青い顔で唾を飲み込んだ。
始めに標的となる団地群はすべて5階建てで、巨大ダモクレスとはいえ、それよりは小さい。3階程度である。
「そ、そんなことよりも住んでいる人たちは……!」
昼間とはいえ多くの住民がいるが、事件が予知できた以上は対策を取ることが出来る。
避難勧告を出し、団地の住民を待避させる余裕は十分にある。また、たとえ建物が破壊されようともヒールで修復することが可能である。
制限時間は7分。これを過ぎると、ダモクレスは開かれた魔空回廊から撤退を開始すると予想されている。
たとえ人的な被害が避けられたとしても、巨大ダモクレスが回収されれば敵にとって大幅な戦力増加となってしまう。建物の被害はやむを得ぬものとし、なんとしても敵を撃破することが重要である。
「が、がんばりましょう。ここで食い止めることが出来なければ、避難の間に合わない街の中心までが危険にさらされてしまいます……!」
奈々は両手を胸の前で組み、目を伏せた。
参加者 | |
---|---|
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184) |
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180) |
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641) |
アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796) |
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264) |
エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280) |
●とどろく駆動音
休日。いつもなら子供たちが中庭の遊具で遊ぶ賑やかな声が響いているはずの、午後。
団地は物音ひとつせず、遠くを走るパトカーの、かすかなサイレンの音のみがかすかに聞こえてくる。
「ついにあたしが、この町にもやってきたにゃ!」
アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)は鼻息も荒く、大きく胸を反らす。
「残念ながら、ライブじゃないけどにゃ」
肩をすくめながらも、ウインクしてみせる。
「この町の人たちにも、アイクルさんの歌を届けられれば良かったんですが……残念ですね」
しかし、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が素直に感嘆すると、
「いや、あの……アイドルといっても自称みたいなものだし、グンマー以外の知名度だと、ちょっと」
と、とたんに語尾がしぼんでしまった。
「で、でも! がんばるにゃ!」
「えぇ。巨大ロボット……浪漫あふれる単語だとは思いますが、人々に危害を与えるというなら、放ってはおけませんからね」
「こんなところでダモクレスが暴れたら、大惨事でしたね」
立ち並ぶ団地を見上げ、ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)が眉を寄せた。
「避難は順調に進んだようで、何よりです」
ケルベロスたちは警察などの力も借りて、住民をすでに避難させている。先ほどのパトカーも、警戒線を巡回するものであろう。
これならば、市民が巻き込まれる恐れはないだろう。
ここで、撃破できれば。
「……絶対に、これ以上の侵攻は阻止しなければ」
「えぇ。さて……他の皆さんも配置に付いたでしょうか?」
タキオンの視線を追って、ルピナスも団地を見上げた。
「風が……騒がしい。木々もまるで、怯えているみたい。きっとダモクレスはもうすぐ……」
なびく髪を押さえ、是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)が呟く。
すると、そこに。
「住民の避難も順調! これで心おきなくダモクレスを迎撃できるというものです! なに、天才のわたしにかかれば、そんなことは造作もないことですよ!」
「ひゃああッ!」
屋上に出る扉が勢いよく開き、奈々は素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「おぉ、ここにいたのですか、ナナ」
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)はその驚きも狼狽も気づかないのか、
「ふむ。確かにここは、敵を待ち受けるのにふさわしい場所ですね」
満足そうに頷いて、敵が出現するという向かいの棟を見つめた。
「もー、屋上にいるのなら、わたしも呼んでよー! わたしもここで、一緒に待つー!」
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)も姿を現した。
「えぇ、ご一緒しましょう。なにせ、絵になりますからね、ここは。
残念ながら、わたしには風にたなびく髪はありませんけどね!」
日出武が頭をたたくが、奈々はどう答えたものかとおろおろするだけ。
一方のグラニテは表情をパッと輝かせると、とたんに上機嫌になり、
「おー! ここ、周りがよく見えるなー! 山の木もキラキラ光る海も、すごくきれいー!」
などと、屋上の柵から身を乗り出すように辺りを眺めた。
「あ、エレンだ。おーい!」
別の棟の屋上にエレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)の姿を認め、ぶんぶんと手を振る。
なんとも微笑ましい。苦笑しつつも、エレインフィーラは手を振り返した。
敵が現れるのは、1号棟付近。その隣にあるのが、エレインフィーラのいる2号棟。中庭を挟み、1号棟と向かい合わせになっているのがA棟、そして隣にB棟。A棟の屋上に日出武らがいる。予知されたタクと呼ばれる少年の部屋もその棟にあるが、すでに避難済みである。
「……よし、ここからならば」
1号棟の方に目を向け、エレインフィーラは大槌を握りしめる手に力をこめた。
まるで、それに呼応するように……。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!
耳障りな駆動音を響かせ、ダモクレスが姿を現した。
その姿は、かろうじて人型とは言えるものの、各部の部品は歪に接続されていて、左右も非対称。両腕が異様に長いせいか、猿が背を丸めて駆けているようにも見える。
「ガガガガッ!」
それは雄叫びなのか。金属音を轟かせながら、ダモクレスは建物に拳を叩きつける。拳はベランダを砕き、粉塵が辺りに降り注いだ。
「罪なき民を守るため、今は剣となりましょう……!」
顔の半分を覆う「溶けない氷」越しに敵を睨み、エレインフィーラは大槌を振り回す。砲撃形態と化した大槌から放たれた竜砲弾は、狙いを過たずダモクレスの頭部に命中した。直撃を受けた敵は頭を押さえながらよろめく。
しかし、すぐに状況を把握したらしい。ケルベロスたちの姿を認め、振り返った。
「そうそう。団地なんかより、あたしのこと、よく見ててほしいにゃ♪」
スカートを翻しながらくるりと回ったアイクルが、ウインクしながらダモクレスに向けて笑う。
しかし敵はアイクルを一顧だにせず、突き出した腕から覗く銃口から、エレインフィーラにむけて無数の弾丸を放った。炎が全身を包む。
「く……!」
よろめきつつも、すぐさま建物から飛び降りて位置を変える。
「うぉい! 無視すんなやぁッ! ただでさえギャラリーもいないのに!」
アイドルにあるまじき罵声を浴びせるアイクル。
しかし敵はお構いなしに、「通りすがりに」とばかりに壁に拳を打ち付けながら、歩みを進めてくる。中庭にあった滑り台は無惨に踏みつぶされ、ブランコが蹴り飛ばされた。
その前に立ちはだかったのは、タキオンとグラニテ。
「時間は7分……それまでに、決着をつけなければ」
「みんながいるんだから、ぜったい大丈夫! いっくよー!」
ふたりはちらりとタイマーに目をやってから、タキオンは得物である杖を構え、グラニテは掌を突き出した。
タキオンの杖から雷が迸り、大きく開かれたグラニテの掌からは、鋭い氷柱が生じた。雷が敵の胴体を焦がし、そこに命中した氷柱が、その装甲を1枚剥がした。
「時間もあまりありません。一気に片づけるつもりで行きましょう」
「わかった。あたしを無視したこと、地獄で後悔しろやぁッ!
ぶっkrおおおおおおす! fぁあああああああっく!」
ルピナスに応じたアイクルは、お行儀悪く中指を突き立てながら、マイクを手に怒声を放った。
さんざんにハウリングした大音量のせいか、それともその迫力のせいか。吹き飛ばされたダモクレスは、その背を壁に打ち付けた。タイルが剥がれて降り注ぐ。
「意外な一面があるものですね……」
苦笑しつつも、ルピナスは自身の周囲に無数の剣を生み出した。
「無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
その声に従って、エナジー状の剣が敵に襲いかかる。
「グゴゴゴ!」
「よぉし、トドメはこのおれだぁ!
……いける。天才のわたしなら、いけるのですッ!」
ブツブツと呟いた日出武は、「えええッ?」と驚く奈々を後に残して屋上の柵を乗り越える。蠢いたブラックスライムは巨大な敵さえも飲み込めるほどに、大きく顎を開いて襲いかかった。
しかしダモクレスは日出武を見上げると、ドリルのように高速で回転する拳を打ち付けてきた。
「なにぃ~ッ? ぐはぁッ!」
拳を浴び、吹き飛ばされる日出武。駐輪場の屋根をぶち抜き、並んだ自転車をなぎ倒して、やっと止まる。
「なに……天才であるこのわたしが、直撃を受けるはずがないではないですか! 痛くも痒くもありませんとも!」
「大丈夫ですか? 膝、ガックガクのようですけれど」
「武者震いです!」
「……それは頼もしいですね。なるほど、たしかに致命傷ではないようです。すぐに手術しますね」
タキオンの卓越した治療技術により、傷はたちどころにふさがっていく。
しかしその間にも、嵩に掛かった敵は高笑いをするように、甲高い駆動音を鳴り響かせながら襲い来る。肩の装甲が開いたかと思うと、そこに内蔵されていたミサイルがケルベロスたちに襲いかかった。
「きゃ……!」
避けきれなかったミサイルがルピナスのもとで炸裂し、彼女は悲鳴を上げて倒れた。ミサイルはさらに襲いかかってきたが、
「させないぞー!」
細剣を構えたグラニテが立ちはだかる。身を翻してそれを避けつつ、すれ違いざまに貫いた。ミサイルは狙いを失ってふらふらと飛び、3階の一室に飛び込んで炸裂した。
「……流れ弾はかんべんしてねー!」
いくつかは防いだものの、無傷ではすまなかった。
「調子にのりやが……るにゃん♪」
アイクルはオーラを溜めて、仲間たちの傷を順に癒していくが。苛立ちは隠しきれない。
「ど、どうしたら……」
敵は強大。狼狽える奈々に、エレインフィーラが鋭く声を張り上げた。
「心配はいりません。巨大ダモクレスとの戦いは、初めてではありませんので。
それよりも、奈々さんは後方から支援を。よく、狙いを付けて!」
「わ、わかりました……え、えぇと、まずルピナスさん!」
「ありがとうございます」
傷はさほどふさがっていない。しかし真に自由なる者のオーラに包まれたルピナスは敵の攻撃にも怯むことなく、前に進んだ。
敵はそちらに振り向いたが、エレインフィーラが外付けの非常階段から、飛ぶ。流星の煌めきと重力を込めた蹴りを膝に受け、関節を妙な方向に曲げたダモクレスは膝をついた。
反撃しようと腕を振り上げたダモクレスだったが、
「未熟者ですが、お手伝いさせていただきます」
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)の放った銃弾が、そのモーターを破壊する。
ケルベロスたちの前には雷の壁が立ちはだかって、敵の攻撃から彼らを守っている。フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)は朗らかな笑みを見せて、
「助けてもらった、恩返しだ。
それに、俺も来てみたかったのさ。巨大ロボは、男のロマンだからな!」
「おっと、天才であるおれを差し置くなど許されんぞ~!」
「この一撃で、氷漬けにしてあげますよ!」
日出武の刀がフレームとケーブルとが絡み合った腕を両断し、卓越した技量から繰り出されたルピナスの蹴りは、敵の腹部に吸い込まれていった。
●団地は灰燼と化して
ダモクレスの銃口が炎を吐き出した。
狙いはそれ、無数の銃弾が建物を深々と貫いていく。何度も攻撃を浴び、柱が傷ついていたのであろう。1号棟の上層部が傾いた。
「ひえ……!」
情けない悲鳴を上げ、奈々が落下した。もちろん、ケルベロスがそんなことで負傷するわけもない。だが、落下する恐怖は、怖い者は怖い。ちびる。
「しぶといですね……」
わずかに口元を曲げ、タキオンがため息を付いた。
ダモクレスの全身は、次々と襲いかかるケルベロスによって、傷の付いていないところを探す方が難しいほどになっている。
しかし、それでも敵は駆動音を鳴り響かせ、排気口から煙を噴きだし、地を揺らしながらこちらに向かってくる。
敵の攻撃は凄まじく、ケルベロスたちは倒れないように必死である。タキオンも、何度も仲間たちを庇い、傷を癒してきた。
だが、そのぶん攻撃の手は止まる。やむを得ないことではあるが。
もう、時間は残り少ない。
「もう一踏ん張りですよ。……癒しの雨よ、皆を浄化せよ!」
タキオンは自分に言い聞かせるように声を上げ、空に手をかざした。薬液の雨が戦場に降り注ぐ。
「ありがとうございます!」
「お気になさらず。誰かのための力になる……それは素晴らしいことですからね」
「では、わたくしは……!」
ルピナスは一気に間合いを詰め、割れたカラー舗装を蹴って大きく跳躍。
「螺旋の力よ、敵を内部から破壊せよッ!」
掌を、ダモクレスの腹に押し当てた。破壊された内部から、黒煙が上がる。
手応えを感じて、思わず笑みを漏らしたルピナスだったが、その顔色が変わった。
「グゴゴゴゴゴゴゴ!」
ダモクレスの駆動音が、かつてないほどに甲高く、大きく轟いた。
「これは……みなさん、危ない!」
今度は肩どころか、胸、腰、腕、脚……全身の装甲が爆発したように開いた。そのすべてが、ミサイルで満たされている。
「グゴッ!」
白煙をあげ、一気に発射されるミサイル群。凄まじい反動があったためか、ダモクレスも吹き飛んで、並んだ室外機を巻き込みながら大の字に倒れた。
蛇行しつつ襲い来るミサイル群。ルピナスは身を翻し、タキオンはかろうじて建物の陰に身を隠したが、日出武のもとに、ミサイルは迫る。
「ぬをを!」
「こっちだぞー! 速く!」
グラニテは渾身の力で腕を引っ張り、その勢いで身体を入れ替えた。視界のすべてを覆うミサイルを睨みつけ……。
狙いなど必要ないとばかりに放たれたミサイル群は次々と団地に命中して、ついには真後ろに向けて傾き、おびただしい瓦礫と粉塵をまき散らしながら倒壊した。
「もし、避難が遅れていたら……」
いったい、どれほどの命が失われていただろう。エレインフィーラがゴクリと喉を鳴らす。
永遠の命を持つデウスエクスにとって、人の命などその程度の価値しかないのだろうか。怒りがこみ上げてくる。
「グラニテ!」
もうもうと立ち上る粉塵が辺りを満たし、グラニテの姿はそれに包まれて見えない。はたして……。
「……大丈夫。全力でやれば、倒せるはずだー!」
グラニテは倒れてはいなかった。肩から胸までをべっとりと血で染めてはいても。
「絶対に、ここは守ってみせるぞー!」
「えぇ。感謝しているんです、『私たち』に地球を教えてくれたことを。新しい『故郷』は、必ず守ります」
「こちらこそ、仲間になれて嬉しいにゃ!
ここに観客は誰ひとりいないけど、気持ちはちゃんとみんなに伝わるにゃん!」
アイクルは声を張り上げ、ライドキャリバー『インプレッサターボ』に飛び乗った。
それが炎を纏って突撃するのに応じ、自身は高速で身体を回転させ、敵にぶつかっていく。
「……でもホントは、たくさんの観客の前で応援もされたいにゃ~ッ!」
ここが正念場。
「これが、最後です……!」
「わはは、天才のおれを前に、よくぞここまで粘ったなぁ!」
最後の攻勢に出たアイクルに呼応して、タキオンのアームドフォートも火を噴く。日出武の刃が敵の右足を切り裂き、切断された太いケーブルが火花を発しながら、地面で跳ねた。
自身の傷も省みず、グラニテはエレインフィーラの身体にグラフィティを描き出していた。
「エレン、お願いねー!」
「グラビティ・チェインの不足は同情しますが……見過ごすことはできません。我が翠花白空の闘技をもって、冥府にお送りして差し上げます!」
オウガメタルを纏ったエレインフィーラの拳が、ダモクレスの腹部を深々と貫いた。
天を仰いで倒れたダモクレス。身体の奥から聞こえる駆動音には力がない。
日出武は悲しげにその姿を見下ろし、
「新しい秘孔の究明……それはもしかすると、あなたを救い、地球を愛せる者に生まれ変わらせることができるかもしれません」
そう言いつつ、首筋に渾身の力で人差し指をねじ込んだ。
ボン、という破裂音とともに頭部が吹き飛び、キュウン……という音を最後に駆動音が消える。
そこにいた全員が、「あ……」と日出武が呟いたことを聞き逃さなかった。
「……間違えたかな?」
「とどめでしたねぇ」
「完璧ににゃ」
タキオンとアイクルとが、呆れたように頭を振る。
「はいはい、後始末をしてしまいましょう」
ポンポン、と手を叩きながらルピナスが辺りを見渡した。
「ずいぶん派手に壊されてしまいましたから……さぁ、修復をがんばりましょう」
「了解、ばっちり直すからなー!」
「……これでまた、平穏な暮らしを守れたのでしょうか?」
グラニテとエレインフィーラも作業に加わる。
戦ったのはわずかに7分。しかし修復は、夜までかかってしまった。まるで個性のない、どこにでもありそうな団地の建物は灰燼と化して、奇妙な、どことなくファンシーな造形へと生まれ変わる。
きっと明日から、また賑やかな子供たちの声が響くだろう。
「未来のあたしの、大切なファンにゃ、きっと!」
アイクルが腰に手を当てて笑った。
作者:一条もえる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年6月10日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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