機神帝の咆哮

作者:雷紋寺音弥

●魔皇の機械神
 静岡県富士宮市。県の東部に位置し、霊峰富士や浅間大社といった、数多くの文化自然遺産を保有する中規模都市。
 そんな富士宮市にある田貫湖の周りは、今日も釣り人やキャンパー達で賑わっている。農業用水確保のために造られた人造湖ではあるものの、今では人々の憩いの場所となっていた。
 だが、それらの静寂を破るように、突如として田貫湖の湖面が湧き立つと、水底から漆黒の装甲に包まれた機械の巨人が現れた。
「……ウ……オ……ォォ……」
 地獄の鬼が唸るような声を上げ、巨人は腕を振り上げた。かつての戦いで傷付いたままなのか、右の瞳は破損しており、背中の翼も折れている。
 だが、そんな古傷の残る身体でも、巨人の力は人の築き上げる営みなど、一撃で吹き飛ばしてしまうだけのものがあった。
 手始めとばかりに、巨人は手にした大剣で湖畔の別荘やレストハウスを次々と薙ぎ払って破壊する。逃げ惑う人々を踏み潰し、堤防を破壊して湖を決壊させ……破壊の限りを尽くした巨人が見据える眼下には、富士の麓に広がる住宅街が映っていた。

●地獄の巨大ロボ
「召集に応じてくれ、感謝する。静岡県富士宮市で、巨大ロボ型のダモクレスが復活することが予知された」
 場所は富士宮市にある巨大な人造湖。復活したダモクレスは、手始めに人造湖周辺の建物を破壊することで人々を虐殺すると、そのまま市街地へと向かって行く。被害を食い止めるには人造湖の周辺にて迎え撃つしかないと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、自らの垣間見た予知について詳細を語った。
「お約束の通り、こいつも大戦期にオラトリオによって封印されたダモクレスだ。随分と古傷を負っているようだが……それでも、巨体から繰り出されるパワーと堅牢な装甲は、決して侮れるものじゃなさそうだぜ」
 敵はグラビティ・チェインが枯渇しており、故に本来の性能を出し切れない状況にある。見たところ、色々と内蔵武器を搭載していそうな外見なのだが、実際はパワーに任せた物理攻撃を主に用いるようだ。
「このダモクレスなんだが……スピードは大したことはないが、とにかく固い。おまけに、戦い方も随分と暴力的で、闘争本能のままに暴れ回るようなやつだ」
 その様は、まさしく鋼の鉄壁城塞。手にした刺付きの大剣を振り回す、高速回転する腕を飛ばして相手を挟み潰すといった攻撃に加え、胸部装甲を戦斧に変えて装甲を破壊する一撃まで放って来る。
「巨大ロボ型ダモクレスの例に漏れず、こいつと戦えるのは7分間だけだ。それ以上は、魔空回廊が開かれて、撤退してしまうから注意しろよ」
 加えて、敵は7分間の間に1度だけ、全力のフルパワー攻撃を行うことも可能である。さすがに、反動が大きいため敵も大ダメージを負ってしまうのだが、それでもフルパワーで武器やら腕やらを叩きつけられれば、無事で済むという保証は無い。
「繰り返しになるが、今回の敵は、とにかく固いのが特徴だ。ゆっくり準備して、弱らせて……なんてやっていると、倒し切れずに逃げられるかもしれないから、気を付けてくれ」
 強大なパワーから繰り出される攻撃に耐えつつ、圧倒的な堅牢さを誇る装甲を打ち破るだけの攻撃を、常に叩き込む必要があるだろう。時間が限られているからこそ、それらを成すための工夫が要求される。下手に搦め手を考えるよりも、どれだけ相手の防御力を下げられるか、もしくは味方の火力を上げられるかが、勝利の鍵となるだろう。
「付近住民には避難勧告が行われるから、戦闘の際、周囲のことを気にする必要はないからな。地獄から蘇って来たような悪魔の機械……もう一度、地獄にお帰り願おうか」
 それこそ、今度は復活などしないよう、徹底的に破壊して欲しい。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)

■リプレイ

●鋼の城塞
 泡立つ湖底より現れし漆黒の巨体。翼が折れ、肩目を失ってもなお圧倒的な威圧感を誇る重厚なフォルム。
 正に、地獄から帰還した機械の魔神。巨大な大剣を構える強敵に、どこかシンパシーを感じたのだろうか。
「防御に秀でた鉄巨人か……。正に『鉄の城』だな!」
 言うが早いか、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)は駆け出した。まずは一撃、高々と跳躍して敵の頭に戦斧の一撃を叩き込むが、返ってきたのは鈍い手応えと激しい火花。
 固い。想像していた以上に、敵の装甲は堅牢だ。おまけに、随分と攻撃的なプログラムを組まれているのか、早くも胸の装甲を取り外すと、巨大な戦斧に変形させて襲い掛かって来た。
「ふぉおおおおおっ! すごいです! 日曜日の朝にテレビで見る巨大ロボみたいです!」
 仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)が、何やら感動した様子で叫んでいるが、そんなことをしている場合ではない。我に返ったところで改めて敵を見れば、既に相手は斧を振り下ろす寸前だ。
 衝撃だけで、大地が揺れる程の重たい一撃。まともに受ければ、太刀はおろか、それを駆る者の腕さえも粉砕してしまうかもしれない。
 だが、そんな一撃を、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は真っ向から槍の柄で受け止めていた。身体が沈み、槍の柄が嫌な音を立てていたが、それでも心までは死んでいない。
「機神だか、悪鬼だか、知らないけれど……虐殺なんて、させない……」
 そちらから、わざわざ近づいてくれるのであれば、好都合。まずは一発、敵の弱点と思しき場所を見極めながら、痛烈な一撃をカウンターで与え。
「その身を、氷漬けにしてあげますよ」
 続く、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)もまた、研ぎ澄まされた一撃によって敵の装甲を凍らせた。
「時間制限、気を付けなきゃだなー……!」
 とりあえずは牽制に一発。続くグラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)の竜砲弾が機神の身体に直撃するも、やはり敵の装甲が厚過ぎるからだろうか。
 凄まじい炸裂音が響くも、やはり敵は微動だにしない。機動性こそ劣悪だが、そもそも避ける必要がないということか。
「巨大ロボ型、ね……。こういうデカい相手は、つい『夢』を思い出しちゃって苦手だけど」
 しかし、だからこそ殴り飛ばすだけだと、曽我・小町(大空魔少女・e35148)は巨体を見据え。
「久しぶりの大物相手頑張らないとね」
 ゼリー状の栄養ドリンクを口に含みつつ、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)もまた同時に大地を蹴る。
 天を駆ける流星が二つ。高々と跳躍した小町と黄泉の蹴りが、敵の顔面に炸裂する。
 これは決まった……かに思われたが、それでも敵は、少しばかり身体を揺らしただけだった。
 効いていないはずがない。手応えは十分。巨岩を砕き、鉄の壁さえも凹ませるだけの威力を持った蹴りを、同時に二つも叩き込んだのだから。
 それでも、なお敵が平然としていられるのは、やはり堅牢な装甲に阻まれて内部まで衝撃が通り切っていないからだろう。
「やっぱ、堅すぎるわね。だったら……」
 装甲の薄い、関節部分を狙えば良い。そう判断し、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)がブラックスライムを伸ばすも、その攻撃は敵の腕の一振りで払われた。
「えぇっ! な、なんで!?」
「無駄に特定の部位を狙うな! 外れた場合は、何もできなかったのと同じことになるぞ!」
 唖然としているトリュームに、ジョルディが叫んだ。
 彼の言う通り、いかに狙撃手とはいえ、特定の部位だけを狙って攻撃すれば、それは貴重な攻撃の機会を失うことに繋がり兼ねない。関節を狙うという判断は悪くないが、それが可能なのは、確実に相手の急所を射抜ける保証があってこそだ。
「……ウ……オ……ォォ……」
 呻くような雄叫びを上げながら、機械の魔神が再び動き出した。
 装甲の厚さも脅威だが、強大なパワーから繰り出される武器の一撃もまた恐ろしい。直撃を食らったら、ただでは済むまい。少しでも仲間の守りになればと、かりんは大地に残る記憶から、この地で散って行った者達の想いを具現化して壁とする。
「ぼく達は、みんなの命を背負って、みんなの命の上に立っているのです。だから、絶対に、負けられません!」
 瞬間、あちこちから湧き出でた無数の骨の手が、互いに繋ぎ、重なり合って、敵の攻撃を阻む壁となった。
 その様相は正に地獄の戦い。しかし、その地獄の中から希望を見出すため、自分達はここに立っている。
 残り時間は、既に6分。魔神との死闘は、始まったばかりだ。

●崩れぬ牙城
 湖畔で続く激しい攻防。矢継ぎ早に放たれるケルベロス達の攻撃を食らいながら、しかし敵のダモクレスは未だに怯むような素振りさえ見せようとはしなかった。
 装甲は破れ、凍り付き、明らかに防御力は低下しているはず。それでもなお、決定打を与えることができないのは、布陣と戦術による影響が大きい。
「まだ動く? だったら、脳天に一発、キツいのをお見舞いしてやるわ!」
 敵の死角に回り込み、後方から黄泉が斧を叩きつけたが、それでも敵は少しばかり揺らいだ程度だ。並のデウスエクスであれば致命傷も間違いない一撃なのだが、敵は元より固いのである。
 攻撃と同時に、より大きなダメージを与えられる技か、もしくは装備を考慮した上で最大級の火力を誇る技を叩き込めなければ、彼女の高い攻撃力も、完全に生かし切ることはできない。ただでさえ安定して高火力を発揮できる攻め手を欠いている状況では、少しでもダメージを稼ぎたいところだが。
「このままでは、少し拙いですね。ならば……」
「ん……了解。一緒に仕掛けるよ」
 互いに頷き、散開するミントと無月。まずはミントが燃える蹴りから三日月状の炎を飛ばし、それに合わせて無月もまた凄まじい速度で斬りかかる。残像を伴う、連続攻撃。一発、一発の威力ではジョルディや黄泉に劣らなくとも、重ねられるだけの数を重ねれば。
「……オォォォォッ!!」
 身体を焦がされ、足を斬り刻まれ、魔神が吠えた。威嚇のつもりだろうか。両手を大きく振り上げて迫る様は、正に悪鬼羅刹の如し。
「あー、なるほど、手数で押せばいいわけね。最初から、そーすりゃ良かったかも……」
 動きと止めても止めなくても、攻撃の命中精度に大差がなかったことで、トリュームも武器を持ち変え斬りかかって行く。鈍重かつタフな敵を相手にする場合、必要以上に神経質になるのも考えものだ。
「とんでもない化け物ね。とにかく、今は少しでも装甲を剥がないと……」
 今は少しでも勢いが欲しい。リングを投げるグリと共に、小町が氷結の弾丸を放つ。さすがに、ここまで氷漬けにされれば、誰の攻撃でもある程度の火力は保証できるはず。
「そーれ、これもオマケだよー」
 駄目押しに、グラニテがナイフでイラストを彫り込んだところで、とうとう敵の装甲が砕けて爆ぜた。脆くなった個所を徹底的に広げられたことで、さすがに限界を迎えたのだ。
「鎧を穿ったか! ならば、今が攻め時だな!」
 この機会を逃してはならないと、ついにジョルディが切り札を解き放つ。己のリミッターを解除して、全身を地獄の炎で包むことで放つ、超絶威力の破壊光線を。
「HADES機関オーバードライブ! 最終形態『インフェルノ・フォーム!』俺の野性が! 魂が! お前を斃す炎へ変わる!」
 空間を切り裂き、大地を焦がす破滅の光が、真一文字にダモクレスの胸元へと飛んで行った。
 瞬間、巻き起こる大爆発。さすがに反動が大きかったのか、全身の間接から白煙を上げて、ジョルディはガックリと膝を折っている。
「おぉぉぉっ! すっごいですねぇっ! あんなの食らえば、いくら巨大ロボだって……」
 無事でいられるはずがない。そう、感動のあまり叫ぼうとしたかりんの声は、しかし爆風が晴れると同時に遮られた。
「……えぇっ! な、なんで壊れてないんですか!?」
 装甲の一部を溶かされながらも、敵のダモクレスは微動だにせず立っていた。それだけでなく、全身から赤いエネルギーを放ちつつ、手にした大剣を振り上げながら向かって来た。
「あー、たぶん、敵もフルパワーで来るんだぞー。みんな、上手く逃げ……って、ジョルディが動けそうにないんだぞー!?」
 ここに来て、絶体絶命の状態になっていることを察したグラ二テだったが、今の彼女には成す術がない。後方にいる自分達は良いとして、攻撃の矢面に立たされている面々が、あれの直撃を食らうのは必至だからだ。
「こ、こうなったら、一か八かです! いっぽ……ごめんなさい!!」
 敵の大剣が振り下ろされると同時に、相棒のミミックであるいっぽを投げ付けるかりん。彼女に投げられたミミックは、ジョルディよりも先に大剣の直撃を正面から受け、凄まじい爆発と共に弾け跳んだ。

●地獄は地獄へ
 ミミックのいっぽを失い、それでも戦いは終わらない。既に反動でボロボロの身でありながら、敵は未だ戦うことを止めようとはしない。
 残り時間は、既に1分を切っていた。敵は遅いが、しかし硬い。だからこそ、全ての力を攻撃に注いで撃破すべしという、ヘリオライダーの忠告が頭を過る。
 敵の機動力を奪い、その上で急所の狙撃にかける。確かに、戦い方として誤りではないだろう。
 だが、それはあくまで、時間に余裕がある場合の話だ。戦いが長引けば長引くほどに急所狙撃の期待値は上がるが、それに至るまでの布石を積み上げている段階では、どうしても瞬間の最大火力が低下する。
「このままじゃ時間が……って、アタシを狙って来た!?」
 何の前触れもなく標的にされ、思わず小町の顔に動揺の色が走った。
 散々、接近戦ばかり仕掛けていながら、ここに来て最後の最後で両腕を発射してくるとは。敵も、なりふり構っていられないということか。だが、それはこちらも同様だ。
「上等じゃない。だったら……拳には、拳をぶつけてやるわよ!」
 天高く拳を掲げ、小町は光の粒子を集めることで、自らもまた巨大な拳を形成する。今から放っても、良いところで相討ち。しかし、グラビティというものは、なにも敵を攻撃するためだけに在るに非ず。
「この手に宿れ、生命の光! ――グリッター……グラインドッ!」
 迫り来る敵の拳目掛け、小町は躊躇うことなく光の拳を発射した。空中で激突する、巨腕と巨腕。同じ性質の技を叩き付けることで、小町は敵の攻撃を見事に相殺してみせたのだ。
「……今よ、アンタ達! アタシが抑えている内に、やっちゃって頂戴!」
 両腕を欠いた今、敵にこちらの攻撃を防ぐ術はない。ならば、後は残された時間で、徹底的に叩くのみ。
「はーい、動かないで……ちょっとビリッとくるだけだから!」
 トリュームが謎のレーザー銃から光線を放ったのを皮切りに、まずはサーヴァント達が一斉攻撃! 噛み付き、ひっかき、果ては全力で体当たりを仕掛け、敵を攪乱するように立ち回り。
「いくら巨大なロボでも、バランスさえ崩せば……」
「受け身も取れずに、倒れるってわけね!」
 後ろに回り込んだかりんと黄泉が、それぞれに鋼の拳と鉄の杭を、敵の膝裏に叩き込んだ。
「……ガッ!?」
 関節が音を立てて軋み、敵の巨体がぐらりと揺れる。ならば、こいつも持って行けとばかりに、グラニテが敵の頭部目掛けて星型のオーラを蹴り込んで。
「決めるよ、ミント。これ以上、出し惜しみしている時間もない」
「分かりました。あれを使うのですね?」
 互いに頷き、無月とミントが同時に仕掛ける。変幻自在に舞う槍の乱舞と、それに追従するかのような連続射撃。四方八方から攻め立てる二人の前には、もはや敵に逃げ場など存在しない。
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
「……行こう。華空……わたし達の力、刻んで果てて……!」
 全てを貫く鋭い突きと、あらゆるものを射抜く銃弾。それらを胸板に受けたところで、ついに敵の巨体が崩れ落ちる。だが、胸板を剥がされ、満身創痍の様相であっても、敵は辛うじて命を繋ぎ止めていたのだろうか。
「あれは……もしかして、魔空回廊ですか!?」
「げぇっ、マジで? あんだけ叩き込んで、まだ足りないってわけ!?」
 最後の力を振り絞って撤退しようと試みる敵を前に、かりんとトゥルームが思わず叫ぶ。防御も回復も捨て、こちらの持てる火力を全て叩き込んだ今、手段は残されては……いや、ひとつだけ、特大級の炎が残っていた。発動させれば本人とて無事では済まないであろう、極めて危険な切り札が。
「本日二発目……。限界ギリギリだが……退く訳にはいかぬ! 俺と貴様のどちらが先に逝くか……勝負!」
 戦斧を杖代わりにして、ジョルディが立ち上がる。中途半端な攻撃を仕掛け、仕留め損ねるわけにはいかない。だからこそ、自分の身を砕け散らせる覚悟を以て、特大級のオーバーキルを叩き込むのみ。
「イィィィンフェルノォォォ……ヴァスタァァァァァァァ!」
 逃げる敵の真下から、ジョルディはその身を業火で燃やし、凄まじい光の奔流を放った。
 身体が熱で溶けるのが分かる。関節から煙が漏れ、電子部品が火花を散らし、駆動系が焼き付いて悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと……大丈夫なの、あれ……」
 殆ど捨て身で仕掛けるジョルディの姿に、小町が口元を両手で覆いながらも呟いている。放たれた破壊の光はダモクレスの胸板を貫き、崩れ落ちた鋼の巨体が、凄まじい爆発を起こして砕け散ったが。
「ソウル……オーバー……」
 爆炎の中から現れたのは、その身を覆う鎧を溶解させながらも、右手を突き上げて立ち上がるジョルディだった。
「おー、さすがだなー。でも、なんとなくジョルディなら、なにやっても無事だと思ったんだぞー」
 これもまた、ひとつの様式美というやつだろうか。粉々に吹き飛んだ敵の残骸を横目に、グラニテがそんなことを呟いていた。

●悪逆去りて
 戦いの終わった湖畔に平穏が戻る。先程まで、ここで地獄のような激闘が繰り広げられていたとは、ヒールが終わった今、誰が想像できるだろうか。
 危険がなくなれば、この地は再びキャンプ場を訪れる客や、釣り人達で賑わうことだろう。何の変哲もない、穏やかな平穏。しかし、それを守り通すことが、なによりも一番難しい。
 日々、激しさを増すデウスエクスの襲撃。彼らとの戦いに、果たして終わりはあるのだろうか。
 ふと、そんな考えが誰ともなしに頭を掠めたが、それでも戦い続けるのがケルベロスの定め。
 地獄の魔神と地獄の番犬。戦いを制したのは、番犬の方だ。
 この惑星に守るものがある限り、彼らの戦いもまた、終わらない。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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