
気象情報の通り、夕刻から雨が降ってきた。
にわか雨とのことだし、それに、べつに降られるのも嫌いではなかったが、今日の犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)は傘を持ってきていた。透明なビニールに水滴の跳ねる音が、耳朶に触れる。
――何してらっしゃるんですか犬曇士長! そんな所にいたら風邪ひいちゃいますよ!
「時間が経つのは早いもんだね……あれからいろいろあったな」
下に誰も眠らぬ墓標の前で、猫晴は独りごちた。傘越しに頭上を仰ぐ。破壊痕も無残なビルが見えた。
そう、デウスエクスの襲撃からいまだ修復の行き届かぬこの街と違い、本当にいろいろあった。死にそびれて、ケルベロスとして戦うようになり、その中で数々の出会いもあった。
「けどまあ、たまに……ほんとにたまにだけどね。思うことはあるよ。ここで避難誘導してたのが君じゃなくて僕だったらどうなってたか、ってね」
今さら言ってもしょうがないけどさ――自嘲して、猫晴は踵を返した。過去を振り返る時間は終わりだ。帰る頃には雨もあがっているだろう――。
「――タスケテ、クダサイ」
猫晴の足を止めたのは、廃墟の陰からよろめくように現れた人影だった。
武装ジャケットを着込んだ少女だった。どこかの軍隊に所属する子だろうか。ジャケットはいたるところが破損し、覗く素肌はどす黒く抉れている。雨に打たれる黒髪の下で、血と泥に汚れた顔は青ざめて見えた。
「さえちゃん……」
だが猫晴が声を震わせたのは、少女があまりに痛ましい姿だったからではない。
「驚いたな……生きていたのかい」
「ダレ……どなたデス、か?」
「士長の顔を忘れたかい? 僕だ。犬曇だよ」
「イヌグモリ……シチョウ……犬曇、士長……」
少女が瓦礫に蹴つまずいた。支えようと猫晴が前へ踏み出し――とっさに傘を投げ捨て、真横へと倒れ込む。
次の瞬間、直前まで猫晴が立っていた空間を眩い熱線が貫いた。
「タスケテ……犬曇士長、助けて、クダサイ……」
雨を瞬時に蒸発させた熱線が廃墟ビルに大穴を開ける。それをなした少女の右腕では、醜悪な花の花柱のように、放射状に展開した腕部パーツの中央でブラスター砲が白煙をあげていた。
「さえちゃん……」
熱線に焼き切られたビニール傘が、路傍を転がる。
「そうか。君は、もう――」
●廃墟に現れたる過去
「猫晴がダモクレスに襲われる。今すぐ救出に向かってほしい」
繋がらない電話を諦めて、ティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)は緊急事態を告げた。駆けつけたケルベロスたちをヘリオン内の談話室へといざなう。
目的地は荒廃した街。
かつてデウスエクスの侵攻を受け、その爪痕が今なお色濃く残る地。
そして、猫晴にとっては忘れえぬ場所でもあった。
「具体的に何があったのかは、猫晴に聞いてみないとわからない。いずれまたヒールに向かいたいところだけど、今回のところは戦いに集中しよう。それだけ敵が強力だ」
現れるのはダモクレスが一体。
外見こそ少女のものだが、右腕に内蔵した光線銃の威力は侮れないものだ。間に瓦礫や廃墟があっても、もろとも貫いて大打撃を与えてくるだろう。彼我の立ち位置や距離には注意しておきたいところだ。
また、防御手段として電磁障壁を展開でき、体力がわずかとなれば周囲を巻き込んで自爆まで行うようだ。最後まで気の抜けない戦闘になることが予想される。
「それからダモクレスの外見のことなんだけど、猫晴の知ってる人物と瓜二つみたい。本人がダモクレスになったのか、たまたま似てるだけなのか、それはわからないけれど」
その少女については、以前、猫晴が呟いているのをティトリートは聞いたことがあった。
名前は『朝霞さえ』。
猫晴の前職での後輩にあたり、人懐っこく、礼儀正しい人物だったという。
……それ以上の情報は、猫晴がはぐらかすような笑みで会話を打ち切ったためわからない。
「ううん、その人については関係ないよね。いくら似てても相手はダモクレス――しかも予知内容からしてその在り方は人類とは相容れない。猫晴を救い出して、ダモクレスを撃破してほしい」
ケルベロスたちにそう依頼して、ティトリートは操縦席へと向かった。
もうじき、雨が降る。
参加者 | |
---|---|
![]() 桐山・憩(鉄の盾・e00836) |
![]() 真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497) |
![]() 多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518) |
![]() 九十九折・かだん(食べていきたい・e18614) |
![]() ヨルヘン・シューゲイズ(フォールアウト・e20542) |
![]() アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497) |
![]() 峰・譲葉(崖上羚羊・e44916) |
![]() 犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561) |
●戦火に消えた少女
朝霞さえは変わった女の子だった。
不器用で、そのくせお節介で、とりたてて器量が良いわけでもなくて。しかし自然と人から好かれる子だった。
とりわけ変わっていたのは――。
「――丸腰の相手に武装して来るなんて、偉くなったもんだな、『朝霞』」
立ち上がった犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)の声音が、別人のように低まった。空気を張り詰めさせる凄みは、部下を弾劾する上官のそれだ。
「五秒だ。五秒やるからレプリカントになれ。そうしたら駆除は先送りにしてやる」
恩情と言うには無体すぎる命令に、ダモクレスはか細く呻いただけだった。降りしきる雨のせいで泣いているようにも見えた。
だが沈痛な面持ちの逆を行くように、右腕のブラスター砲に光が灯り出す。
「そうか、ならやることは変わらないな」
五秒経過――猫晴の両手足をバトルガントレットとブーツが覆う。
「しつけだ。読んで字の如く、その身朽ち果てることで美しくなれ」
「助けて、犬曇、士長……!」
ダモクレスの懇願に、砲声が重なった。
しかしブラスター砲の光が貫く軌道上に、猫晴の姿はすでにない。沈み込むような低い姿勢で猫晴は距離を詰めている。酷薄に細まったその眼が捉えているのは、かつてこの街で消息を絶った朝霞さえではない――グラビティを操るバケモノだ。その顔面へと、ブーツの先端を叩き込む。
「ッハ、あ、アァ……」
後ろへ勢いよく転倒したダモクレスが、小鼻を押さえながら上体を起こし、猫晴を凝視する。まるでこみ上げる絶望を押し留めるように。そして感情が攻撃衝動に転化したかのように右腕が持ち上がり、砲口が近距離の猫晴を捉えた――。
右腕の砲に、真上から光の矢が突き立ったのはそのときだった。
●助けを求める者の助け方
それがホーミングアローとわかったときには、ダモクレスの右腕は火花を散らし、爆発を起こしている。衝撃に巻き上がった大量の土砂と瓦礫が、紗幕のようにダモクレスの姿を覆い隠した。
「よお。気分はどうだ」
一方、土砂と爆風から顔を庇う猫晴の周りには、複数の人影が着地していた。そのうちの一人、九十九折・かだん(食べていきたい・e18614)の声に、冷徹ともいえた猫晴の雰囲気がほやっと柔らかいものに変じる。
「あれ? 皆が来てくれるなんて意外だな。ありがとう」
「あのダモクレス、聞けば何やら縁があるらしいね。話すことがあるなら、協力するけど」
ウイングキャットのディケーを伴って、アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)が剣を構えた。先ほどの矢はこの金髪の騎士によるものである。
アレックスの申し出に対し、猫晴はどうでもいいように手をひらひらと振った。
「気持ちは嬉しいけど、だいじょうぶ。知り合いに似てるとはいえ、本物とは限らないからね。あれはただの敵――手心を加える必要は一切ないよ」
「オーライだ。盛大に弔ってやろう」
桐山・憩(鉄の盾・e00836)がギザギザ歯を剥き出した。改造されたダモクレスに思うところがないこともないが、握りしめた爆破スイッチを、押し込む。
「やっちまおうぜ」
腹に響く音とともに、虚空に色鮮やかな爆煙が咲いた。ブレイブマインのただなかを突き破って、峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)が疾走する。かだんのメタリックバーストもまとわせて、突き込む拳が向かうのは、降り散る土砂の奥に見え隠れする敵のシルエットだ。
「くっ⁉︎」
痛みに呻いたのは、獣撃拳を繰り出した譲葉の方だった。硬い壁にぶち当たったかのように拳がビリビリと痺れを訴えている。
濡れた土砂が地に落ちきってダモクレスの姿がまたはっきりと現れたとき、その体表には青白い電光が走っていた。雨滴すら完全に弾く電磁障壁が、譲葉の拳を跳ね返したのだ。
「黙ってサンドバッグにはならないぜ、ってか」
「それでもなってもらうけどな」
水滴のついた眼鏡を鬱陶しげに押し上げながら呟いたのは、敵の側方へと回り込んだヨルヘン・シューゲイズ(フォールアウト・e20542)だ。
とろそうな見た目通り鈍い動きでこちらを向いたダモクレスに、地面を削りながら蹴りを放つ。スターゲイザーそのものは雷壁に凌がれたが、本命は蹴りそのものではなく、敵の顔へと蹴り上げた土砂だ。
視界が一瞬黒く染まったダモクレスの胴体に、飛来した鎖が巻きつく。
「あなたには親近感を覚えます。でも――」
猟犬縛鎖を緩めることなく、真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)は悲痛の形相でもがくダモクレスを見やった。
ダモクレスに改造された過去を持つ梔子にとって、朝霞さえの境遇は他人事とは思えなかった。叶うなら助けたい。レプリカントとして新たな道を歩み出せた、かつての自分のように。
だからこそ。
「罪を重ねることは阻止します。いつかのあなたが苦しまないように」
抵抗を抑え込むように鎖が締めつける力を増す。動けぬダモクレスに、次の瞬間、小さな竜巻が躍りかかった。多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)のスピニングドワーフだ。
「タタン知ってるですよ。『タスケテ』って言う人は助けなきゃいけないです」
高速回転で懐に潜り込んでからのジャンピング頭突きは、障壁の守りを貫通した。くの字に折れ曲がったダモクレスの小柄な体は何度もバウンドしながら、廃墟の壁を破って屋内にまで転がっていった。
「ちゃんとお休みなさいって、やるです。だいたいコブシで!」
猫晴に助けを求めたダモクレス――彼を昔『士長』と呼んでいた人。
その姿にどうしてこんなにも胸がざわざわするのか、この『哀しい』をどう言葉にすればいいのか、タタンにはわからない。それでも終わらせ方は――助け方はタタンなりに心得ている。
ダモクレスが開けた壁の穴――廃墟となった店舗の中は埃と建材の白煙が充満して、なかなか透かし見れない。まるでもう戦いが終わったかのような静けさの中、譲葉が言った。
「来るぞ!」
直後、白煙の中から光条が奔った。
●崩壊
あたかも雷神の剣のように、紫電帯びるブラスター砲はタタンへと直進した。だがタタンが串刺しになる寸前、アレックスが立ちはだかる。
「俺の目の前で、女の子に手出しはさせない!」
盾のようにかざした天秤剣Libraの剣身と、ブラスター砲が激突し、爆光が生じた。数秒にも満たぬ拮抗の末に光は霧散したが、衝撃と高熱にさらされたアレックスも無視できぬダメージを負っている。
「おーい無事か、アストライア」
「なんとかね。それよりも!」
エンチャントを継続する憩が猫のエイブラハムをヒールに回す一方、アレックスは自身の火傷には頓着せず、砲撃が飛び出た壁の穴に注目していた。正確には、白煙から浮かび上がった赤い光点を。
『タスケテ……』
その光点がダモクレスの眼光と判明したときには、その右腕に次弾の光が収束しつつあった。
『タスケテ……』
「ああ。助けてやる」
ブラスター砲が持ち上がるが、その発射よりもかだんが肉薄する方が速い。熱い砲身を力ずくで押さえる。
(「こんな廃墟に、人なんて、そう、来ないだろうに」)
『萌芽』――かだんは触れた箇所から対象を無害な草花に変えられる。それは機械とて例外ではない。
(「人のグラビティを吸わなきゃ生きられない奴がいたってのは。殺して欲しかったんじゃないか――士長に」)
『タスケテ』
強烈な力がかだんの手を振りほどいた。わずかな芽吹きは高熱に散り、直後、砲撃がかだんを貫く。
『タスケテ、タスケテタスケテ』
よろめくかだんを捨て置き、砲身が滑るように横を向いた。突進するタタンの宝箱、ジョナを、砲口が迎える。
その砲身に光弾が直撃した。梔子の御霊滅殺砲だ。射角の変わったブラスター砲は上方に撃ち出され、廃墟ビルの上階を焼き斬る。炎が斜めに走り、重い物のずり落ちる轟音が鈍く響く。
一方、ジョナの振り下ろした林檎飴型の棍棒はダモクレスを強打していた。武装ジャケットの一部を石化されながらも、ダモクレスがジョナを追い払うように砲身で殴り飛ばす。
その砲身が今度は真後ろに向き、咆哮した。貫かれた廃墟店舗の壁が、天井が爆散し、燃え上がる。その炎の中、吹き飛ぶ瓦礫を蹴りつけて急降下する影。
「俺より先に壊しまくるんじゃねえよ」
鎧装からビームを乱射しながら、心底不愉快そうにヨルヘンが着地した。同時に噴き上がる土砂に紛れて接敵。ダモクレスの悲哀に満ちた顔面を鷲掴みする。泣き顔などと、そんな物に心惑わされるほどぬるい人間じゃない。
「人の形なんざとって、趣味が悪いんだよ。もし油断させるつもりだったんなら――策も悪い」
潰れてろ――押し倒すようにダモクレスを後頭部から瓦礫に押し付けて、即座にヨルヘンは全力で跳び退った。
次の瞬間、ダモクレスの真上に、先ほど斬られたビルの上階が降り落ちる。
轟音と激震は同時に、一拍遅れて突風がケルベロスたちをなぶった。岩を投じた泥池に波紋が拡がるように、黒い土砂と瓦礫が巻き上がっては視界を埋めつくす。
ここが廃墟でなければ大惨事だが、グラビティを伴わない以上、ダモクレスが無傷なのは明白だ。
ゆえに、アレックスは天秤剣を一閃した。かつてビルだった巨大な瓦礫を両断し、拓かれた道へとタタンが飛び込む。見据えた粉塵の先に捉えたのは、電磁障壁の輝きと、ブラスター砲の光。
放たれた熱線はディケーが身を挺して引き受けた。全身を焼かれて墜落する羽猫に後ろ髪引かれつつ、タタンが星型のオーラを蹴り放った。障壁で凌ぎながらも、オーラの直撃にダモクレスが苦鳴のような音をこぼす。
「飽きずにタスケテ、タスケテと、まるで壊れたディスクだな」
呆れたような嘲弄が横合いからダモクレスを打った。
『シチョウ……』
弾かれたように向いた砲口を、猫晴は即座に叩いて逸らした。翻ったその手でダモクレスの頰を打ち、相手が一歩下がったのに合わせて踏み込んで顎を蹴り上げる。
『魔叩』による連続打撃は敵を瓦礫に沈めるに充分な威力を備えていた。動かなくなったダモクレスに、猫晴が冷たい視線を落とす。
「――猫晴」
かだんが呼んだ。憩のヒールで負傷は塞がっているが、足取りはやや重い。
「過ぎた嫌悪は、悪魔しか呼ばない」
いくら敵と割り切っていても、今回みたいな手合いには多少なりとも情けを加えてしまうもの。
だが猫晴にはそれがない。そしてそれは今回に限ったことではなかった。戦いにおけるストイックさではなく、薄い笑みの下に、底知れぬ暗い情動――嫌悪・憎悪がうごめいているようにかだんには感じられ、案じずにはいられなかった。
「悪魔と共に在って正気でいられるほど、ひとの心は正しくない。違う?」
「ひとの心が常に正しくあることはないさ。でもね、かだんちゃん。正しくあろうとすることが大事なんだよ」
猫晴の反駁は穏やかだった。穏やかすぎると言えた。
「それに『悪魔』っていうのは、宗教戦争に負けた異教の神とも言うじゃないか。ならばぼくは悪魔でも構わない。ぼくは常に正しくあろうとしてるんだから。だから、かだんちゃん。君も、最上級の真心を込めてぼくの事を悪魔と呼ぶと良い。今日は新たな悪魔の誕生日だ」
そんな真摯で、論理的で、歪んだ主張に、かだんは納得、あるいは諦めたように「――そ」と答えた。
「じゃ、お前が悪魔なら。私はお前を、負かす神の方な」
「ハッ、悪魔だ何だの、まるで自分がそうでないみたいな――」
会話を近くで耳にしていたヨルヘンが不快感たっぷりに罵ったが、そのときダモクレスの身体が異音を発した。
『――グラビティ不足により稼働状態維持は困難。鹵獲阻止のため、これより自爆シークエンスに移行します』
●さよならのカウントダウン
「自爆、自爆ねえ……」
笑えるジョークでも聞いたように猫晴は繰り返したが、倒れたダモクレスの胸ぐらを掴む彼の顔は、普段からは想像もつかないほど苛烈なものだった。
「ふざけるな朝霞! 守るべき国民の街を! これ以上! めちゃくちゃにするつもりか! 廃墟だからって好き勝手して良いわけねえんだ!」
衝動のまま殴る猫晴の拳を、雷壁が弾き返す。
「どきな、お天気野郎!」
遠間から憩の爪が空を裂いた。メディックとしてのブレイク能力がダモクレスの障壁を砕き散らす。
あとは稼働自体を停止させることで自爆を食い止められる。
「……今からでもレプリカントに変わらないでしょうか」
奇跡を想いながら梔子は縛鎖を放ち。
「死すべきものは、死すべきときに死ななければならない」
当然の摂理のためアレックスは天秤剣に魔力を込め。
「達者でな」
譲葉は拳に別れを託し。
「これが。助けだ」
万感の想いをかだんはチェーンソー剣に宿し。
「鉄屑に還れ」
ヨルヘンは死の宣告とともに剣を繰り出し。
「おやすみなさい、良い子でね」
最後の一撃とともに、タタンは甘やかなさよならを告げた。
自爆機能が止まった瞬間、横たわったまま虚空を見つめていたダモクレスの眼が動いた。
「恥晒しは独りで勝手に死んでろ」
もはや五体が原型を留めてないダモクレスに、猫晴は冷酷に吐き捨てた。
その言葉に、ダモクレスの表情が初めて崩れた。半壊した両頰が上がり、目尻が――その最中、この世の熱に耐えきれなくなったように白煙となって消滅する。
梔子が唇を固く結ぶ――助けられる可能性が低いことは理解していた。この結末の覚悟もできていた。だがこの悲劇を納得できるかは話が別だ。いったい誰がこんなひどいことを……!
「――みんな、助けに来てくれて本当にありがとう」
場にそぐわぬほど、普段以上に明るい声で、猫晴は生還の喜びを表した。猫晴の動きに合わせて影も陽気なタップを刻む。
「これは皆に何か美味しいものでもごちそうしなきゃね。なんでも良いよ。もちろん、ぼくの全おごりってやつだ、遠慮しないで!」
「お、言ったな? あとで残高を見て泣くなよ? あーそうだ、あれはどうすんだ?」
憩が示したのは戦闘の余波で壊れた墓標だ。猫晴は興味薄そうに肩をすくめた。
「どうせ形だけの物だったからもういいよ。今日来たのも気紛れだし」
「ところで猫晴……士長って何?」
続いてのかだんの問いに、猫晴は質問の意図を理解しつつ、いつもの笑みを返した。今後、どこまで話したものやらと思案もしながら――。
「階級さ。検索したらわかるよ」
朝霞さえは変わった女の子だった。
とりわけ変わっていたのは、性格最悪な士長にとてもよく懐いていたことだった。
君はほかにすることがないのか、というくらい、どこにでも付きまとってきた。
いつも笑顔だったあの子。
つくづく不愉快だったあの子。
もうあの子のことを、こんな雨に思い出すこともないだろう――。
作者:吉北遥人 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2019年7月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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