●人形屋敷で
深い森を抜けると古い洋館があった。
中は、どの部屋も埃や蜘蛛の巣だらけであるが、やけに人形やぬいぐるみが多い。
――カタカタ……カタカタ……。
不気味さすら漂う居間であっただろう場所、棚の上に並んでいたバイオリンを持った女の子の人形から小さな音が響く。
パァっと眩い光が放たれると、人形は幼稚園児くらいの大きさになり、ぴょん、と棚から飛び降りた。
『踊リマショウ!』
ゆったり体を揺らし、クラシックな曲を響かせる。
暫く曲に合わせてくるくる踊っていたかと思うと、体中からミサイルポッドを出し、大量のミサイルを発射した。
『パーティー ヲ 始メマショウ!」
●動き出したオルゴール人形
「怪談には少し早いのですが──」
表情を暗くした祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が、集まったケルベロス達を見渡す。
「誰もいない人形屋敷と呼ばれる古い洋館で、電池で動くオルゴール人形が勝手に動き出します」
「古い洋館……人形……」
静かに、重々しく続けられた言葉に、ごくり、と息を飲んだ小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)が、ウイングキャットのねーさんを抱いていた腕に少しだけ力を込めた。
ねーさんも涼香にぴたりと身を寄せる。
「まぁ、幽霊でも呪いでもなく、ダモクレスなんですが」
いつも通りの雰囲気に戻した蒼梧が、軽く苦笑して説明を始めた。
時刻は深夜2時すぎ。
山奥で周囲に人はおらず、洋館の周りは雑草が伸び放題であるが、開けている為見通しは問題ない。
「中より外のが戦いやすいかな」
「そうですね。待ってれば出てきますし、外の方が動きやすいでしょう」
涼香の呟きに頷く。
「このダモクレスですが、バイオリンがチェーンソー剣と同等の武器になっているようです」
本来腕が動く事はないオルゴール人形であるが、ダモクレスになった事で腕はヒトのように動き、バイオリンを振り回せるようだ。
「ダモクレスですので、ミサイルやエネルギー光線も発射します」
可愛らしい人形の見た目であるが、非常に高い攻撃力を持っているので注意して欲しい、と説明を締めくくった。
「動く人形が人々を襲うなど、ホラー映画の中だけの話。現実にしない為に、ダモクレスの撃破をお願い致します」
参加者 | |
---|---|
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386) |
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730) |
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154) |
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920) |
アルナー・アルマス(ドラゴニアンの巫術士・e33364) |
深幸・迅(罪咎遊戯・e39251) |
●月明りに照らされて
「確かに……こんな所だと怪談の香りが致しますわね」
静かに佇む洋館を見上げ、薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)が呟いた。
「ダ、ダモクレスだから! 動くのは人形じゃなくてダモクレス!」
『!?』
光源にするべくライトを床に転がしていた小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)が、怜奈の呟きに、バッと立ち上がって自分に言い聞かせる。ぴたりと涼香に身を寄せていたウイングキャットのねーさんは、いきなり立ち上がった涼香にびくりと毛を逆立てた。
「……。時間が時間ではありますけれど……念には念を、ですわね」
涼香とねーさんの様子に小さく苦笑した怜奈は、すっと視線を鋭くして殺気を放った。
「時間か……ダモクレスもちょっとは時間帯を考えて欲しいものだな……」
光源確保を涼香と手分けするかのように、LEDランタンを地面に置きながら軽く息を吐いた泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)が振り返る。
「んー……あれ、もう朝飯?」
壬蔭の視線の先、こっくりこっくり船をこいでいた深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)が、はっと顔を上げてキョロキョロと周りを見渡した。
9歳の蒼は普段なら寝ている時間なのである。眠くてしょうがないようだ。
「と、そうだった。ダモクレスだっけ?」
今ここにいる理由を思い出して、眠気を覚ます様に頭をぶんぶん振る。
「はは、おこちゃまはおねむか?」
にやりと口元を歪めた深幸・迅(罪咎遊戯・e39251)が、蒼をからかうように頭をくしゃくしゃと撫でまわした。
「ち、ちが! 大丈夫なんだぜ!」
迅の手を払うように両手を上げてバタバタと振る。
「うふふ、こんな時間、普段なら寝なさいって怒られる所だけど、今日は別よね」
眠そうな蒼より2つ年上のアルナー・アルマス(ドラゴニアンの巫術士・e33364)は、特別な夜更かしにはしゃぎ、ランプをつけて地面に置いた。
「お人形さんとパーティなんてワクワクしちゃう!」
「パーティするにしちゃ随分寂しい場所だけどもなァ……」
迅も光源を邪魔にならなそうな場所に置きながら、蒼と同じくらいの年であろうに元気なアルナーを見ながら苦笑する。
ガシャーン!!
その時、ガラスが割れる大きな音が響いた。
●パーティーを始めましょう
クラシックな音楽が遠くで聞こえだす。オルゴール人形がダモクレスになって動き出したのだ。
音楽が次第に近づいてくる事に、ケルベロス達は武器を握る手に力を込めて気合を入れる。
「蒼……涼香さんへの分身、任せるな……」
「おう! まかされたぜ!」
壬蔭が声をかけると、先ほどまで眠そうだった蒼は、全く眠気を感じさせない笑顔で、ぐっと親指を立てた。
「あれはダモクレス。そう、ダモクレス……。近付いてきてるのは人形じゃないから……!」
涼香が自分に言い聞かせるように叫ぶと──、
『遊ビマショー!』
居間の窓を破って庭の方からくるくる踊りながら近づいてきたオルゴール人形──だったダモクレスがパッと両腕を広げる。
胸元を変形展開して発射口を出すと、涼香目掛けてエネルギー光線を発射した。
「おっとー! そうはさせないぜ!」
すっかり眠気を飛ばした蒼が、涼香の前に体を割り込ませた。
「……っ、いい目覚ましだぜ……」
ダメージに顔を歪めて片膝をつく。
「ありがとう! 今治すから! ほら、ねーさん、引っ付いてないで、いくよ……!」
蒼に礼を言って、自分の背中にくっついて大きな人形に怯えているねーさんを叱咤する。
涼香がケルベロスチェインを展開して前衛を守護する魔法陣を描くと、気合を入れ直したねーさんが飛び上がって清浄の翼で邪気を祓った。
「さて、被害が出る前に……だな」
武器にバチバチっと雷を纏わせた壬蔭は、仲間の位置を確認する。自分に注目する事で仲間のいる方向が死角になるようにするには、と瞬時に考えて神速の突きを繰り出した。
「敵とは言え良い音色なこと……ですが、音色が素晴らしくても……」
ダモクレスが洋館の中へ戻らぬよう背後に回り込んだ怜奈はケミカルライトをばら撒き、
「厄介ですわね……」
背後から半透明の御業でダモクレスを鷲掴みにする。
「ご希望通り、パーティを始めようぜ? 尤も、踊るのはお前だけどな?」
挑発的に口元を歪めた迅は、前衛の前に雷の壁を構築した。
「お人形さんとパーティ! いっぱいあそぶためにも、しっかり狙いすませましょ!」
アルナーが前衛に光輝くオウガ粒子を放出すると、動きが止まった隙を見逃さなかったミミックのおどうぐばこが、ダモクレスの左脚にくらいついた。
「みんなありがとなんだぜ!」
傷ついた体を回復してくれ、支援をつけてくれた仲間達に笑顔で声を上げた蒼は、分身の幻影を涼香に纏わせた。
●楽しいパーティーも終わりはくる
『踊ッテ踊ッテ!』
──ギュイーン!!
ダモクレスが手にしているバイオリンに、のこぎり状の刃が生え、チェーンソーのような音を鳴らす。
(「やっぱこっちの言葉なんざ理解しちゃいねぇって感じか」)
自分の言葉はやはり通じていないのだろうな、と迅が思った瞬間、ダモクレスが飛び上がってバイオリンで迅に斬りかかった。
「おどりにアルをさそってはくれないの?」
さっと迅の前に出たアルナーがバイオリンを受け止める。
「全てを暴く風を」
涼香の声と共に、アルナーの周りを強い風が取り囲んだ。その風はアルナーの身に潜む邪を暴き、傷を癒す。
ねーさんが、今度は後衛に清浄の翼で清らかな風を送った。
「人形の各所に歪みでも出て来てるみたいだな」
壬蔭がぽつりと呟いて仲間達に目配せする。
ダモクレスは、真っ直ぐ向かってくる壬蔭を回避しようとしたが、禁縄禁縛呪を受けた影響か足が動かず、その指が肩に突き立てられた。
『……ッ!!』
ダモクレスが、まるで石のように重くなった肩によろめいた瞬間、
「そうね、音に歪が出て来たかしら?」
「こういう人形って不気味だよな」
その背後から怜奈が轟竜砲を撃ち込み、蒼がダモクレスの右腕に螺旋掌を当てる。
「バイオリンってな、そういうモンじゃねぇだろがよ?」
「うふふ、パーティたのしいね!」
迅が腹部に達人の一撃を放つと、アルナーが左腕に戦術超鋼拳を撃ち込んだ。更に、おどうぐばこが偽物の財宝をばら撒く。
見事な連携攻撃が決まると、バチバチっとダモクレスのあちこちから、ショートが回路しているのか、火花が散った。
『アーーーー!!』
ダモクレスがヒステリックな叫びを上げると、前衛に向けて大量のミサイルを発射する。
「……くっ」
「させないぜ!」
壬蔭が身構えると、その前に蒼が両腕を広げて、自分の分と合わせて壬蔭の分のミサイルも浴びた。
「きゃっ」
『!!』
アルナーとねーさんもミサイルを浴びて体に痺れを走らせる。
「みんな頑張って!」
涼香が爆破スイッチを押して前衛の背後にカラフルな爆発を起こし、回復させながら体の痺れを取り去った。
『♪~』
回復してもらって体の痺れのなくなったねーさんは、嬉しそうにひと鳴きしてダモクレスの顔面に飛びついて思い切り引っ掻く。
「あと、一息って感じか?」
「そんなに叫ぶなよ。優雅さに欠けるぜ? お人形サン?」
壬蔭が爆風に背を押されるように勢いをつけた旋刃脚で胴体を正面から蹴り抜き、迅が左側からチェーンソー斬りで傷口を切り開いた。
『ゥー……オ、オドリ…オド、ル、マ、マショ?』
髪もドレスもボロボロになったダモクレスは、バチバチと体中から小さな火花を散らす。その声は壊れたロボットのようで──。
「もう終わりに致しましょう……」
「うん。舞踏会はそろそろ終わり、ね?」
背後の怜奈が熾炎業炎砲で炎に包み、アルナーのハートクエイクアローが炎の中のダモクレスを撃ち抜いた。
『イヤアアアアアアアア!!』
夜空を引き裂くような甲高い断末魔の悲鳴が響き渡る。
燃え上がる炎が消えると、そこには元の大きさに戻った焼けたオルゴール人形が転がっていた。
●パーティーの後片付けも忘れずに
「それにしても……何か勿体無いですわね……何とか直せないかしら?」
ふと、怜奈が焼けたオルゴール人形を見つめて、薬液の雨をかける。
すると、焼けてボロボロだったオルゴール人形があたたかな光に包まれた。
「まぁ……本当はこんなに綺麗なお人形でしたのね……」
肌も髪もドレスも、バイオリンまでもが新品同様になったオルゴール人形に、怜奈が歓声を上げる。
「ほんとね! とってもきれいだわ!」
覗き込んだアルナーも瞳をキラキラさせた。
「さて、補修して置こうか」
「うん。ねーさんもいくよ」
いくらか流れ弾が当たって傷ついてしまった建物に、壬蔭が向かうと涼香とねーさんも一緒にそちらに向かう。
「蒼とアルナーは大丈夫か? 時間も時間だし眠くないか?」
壁を修復する壬蔭が振り向いた。
「ちょっと眠いけど、アルはだいじょうぶよ」
アルナーは、にこっと微笑む。
「…………」
しかし、蒼は返事をしない。戦闘が終わって緊張が解けたのか、またこっくりこっくり船をこいでいた。
「んっ、蒼くん……大丈夫ですか?」
メディカルレインで周辺をヒールしていた怜奈が振り向いて声をかける。
「……うん……」
こくりと頷いたのは、返事なのか、眠くて首が揺れただけなのか。
「もう少し待っていて下さいね。破損箇所の修復を直ぐ致しますわ」
「……」
苦笑した怜奈に、今度は無言のまま頷く。
「あはは! 流石に眠ぃか? ほら、おんぶしてやっから来な?」
ヒールがひと段落した迅が、笑い声をあげて、蒼に背を向けてしゃがんだ。
「…………うん」
蒼は、眠そうな眼を擦りながら、よろよろと迅の背中に向かって歩いて行く。
誰もがヒールの手を止め心配そうに見守った。
蒼が無事に迅の背に辿り着くと、全員からほぼ同時に安堵の息が漏れる。
その事に全員が仲間達の顔を見て、小さく吹き出した。
作者:麻香水娜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年5月22日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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