藤花の下で

作者:坂本ピエロギ

 とある都市のターミナル駅からバスに乗って移動すること暫し、オフィス街の喧騒を離れた郊外の一角に、緑豊かな大公園がある。
 その公園では毎年晩春を迎える頃、園内の藤が一斉に蕾をつけるのだ。
 藤は晴天の日には太陽を浴び、雨の日には身を寄せ合いながら、赤子の指先のような蕾をひとつふたつと花開かせていく。初夏ともなると、すっかり満開になった藤の花々は、竹で組んだ藤棚を彩り、枝垂れの花弁を風にそよがせるのだ。
 今年もまた、公園には藤のシーズンが訪れていた。
 藤棚を飾る花々は令和の年を祝うように、ここ数十年でもとりわけ見事な美しさである。
 皐月の風にさらさらとなびき、涼し気な影を地面に落とす藤に、公園を訪れた人々は息をするのも忘れるように見入っていた。
 しかし。
 そこへ風に乗って飛んできたのは、金色に輝く砂粒ほどの胞子が4つ。
 デウスエクス・ユグドラシル――攻性植物の胞子達は一房の藤花に取りつくと、瞬く間にその身を作り変えていく。
 人々を殺めてグラビティ・チェインを収奪する、異形の姿へと。
『ギギギギィ……』
 攻性植物達はただ静かに、園内の人々へと牙を剥いた。

「そウか。藤の花が攻性植物に……」
「はい。このままでは公園の藤棚は踏み躙られ、多くの犠牲者が出てしまいます」
 息を呑む君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)に、ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は静かに頷いた。
 大阪市内の公園に咲き誇る藤の花々が、攻性植物と化す未来が予知されたのだ。
「ヒトと藤が憩ウ場に、デウスエクスは必要なイ。確実な排除が必要ダ」
 迷いなき決意を表明する眸に、ムッカは礼を述べて、依頼の説明を始める。
「この公園は、正門を潜った先に大きな広場があります。遮蔽物もなく、周囲が戦闘の被害を受ける心配もありませんので、そこで迎撃を行って下さい」
 市民の避難誘導は警察に任せられる。ケルベロスが広場に到着する頃には、避難は完了しているだろう。
 攻性植物の数は4体。個々の実力は並だが、群れるとそれなりの脅威となるので万全の準備で臨みたい。万一ケルベロスが敗北すると公園に被害が出てしまい、最悪の場合は犠牲者が出てしまう恐れもあるので気をつけて下さいとムッカは付け加えた。
「状況は分かっタ。皆が再び藤の花を観賞できるように、尽力しよウ」
「よろしくお願いします。戦闘が無事に終わったなら、皆さんも藤の鑑賞を楽しんで来ても良いかもしれませんね」
 藤棚は公園の周りをぐるりと囲むように設けられ、のんびりと園内を散策しながら初夏のひと時を堪能できる。
 藤棚を覆い尽くすように咲き誇る藤の眺めに、ほんの少し羽を休めて行ってはどうでしょう――ムッカはそう言って、依頼の説明を終えた。
「確実な勝利と、素敵な憩いの時間が皆さんにありますよう。それでは、出発しますね」


参加者
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
井関・十蔵(羅刹・e22748)
桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●一
 皐月の空は、抜けるような青に染まっていた。
 砂利敷きの静まり返った広場の奥、初夏の風にそよぐ白藤へアウレリア・ドレヴァンツ(曙光・e26848)は静かな視線を向ける。
「素敵な眺めね」
 簡素で頑丈な竹棚から枝垂れた白藤の花は、時折吹く風にそよぎながら、鮮やかな木漏れ日のコントラストを落としている。それは純白のシャンデリアを空の一面に飾ったような、静謐で荘厳な景色だった。
 しかし――。
「眺める人がいなくてハ……薫るような色彩モ、寂しいですネ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)らケルベロス達が眺める先、藤の鑑賞を楽しむ市民の姿はない。
 攻性植物との戦闘に巻き込まれぬよう、園内から避難していたからだ。
「白藤、せっかく綺麗に咲いたのにね……」
 ジェミ・ニア(星喰・e23256)は、折り畳んだ地図をしまい込み、悲しそうに呟いた。
 罪なき植物を討つのは初めてではないが、一抹の罪悪感は拭えない。
「この時期の藤は本当に綺麗で、皆さん楽しみにしていたでしょうに……」
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)が沈鬱な面持ちで頷いた。手塩にかけて育てられたであろう花々が事件を起こす事に、彼も心を痛めているのだ。
「必ず勝って、人と公園を守ってみせます」
 せめて愛された花が人を傷付ける前に――。
 恭志郎の決意に、桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)が同意を返す。
「もったいないよねー。白藤って綺麗なのに」
 萌花の出で立ちは、真っ赤なリップ&チークの戦化粧を施し、キラキラのデコレーション武装という煌びやかなもの。そんな彼女が敵に抱く思いは割り切ったもので、
「ま、愛でるのはあとあと。さっさと倒して、楽しむためにもがんばろ」
 戦いの後の楽しみに向けて、静かに戦意を燃やしている。
 そして――。
 ふいに、広場の風がぴたりと止んだ。
「……来たな」
 象牙色の衣装を羽織った君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が、公園の奥へと続く藤棚のひとつに目を向けた。
 そこから現れたのは、4つの影。
 蝋燭のように白い花を揺らし、幽鬼のような足取りで向かってくる侵略者。
 地球のグラビティ・チェインを奪わんとする、白藤の攻性植物達だった。
「行こウ、皆。美しき場に奴等は不要ダ」
「おう、酒がぬるくなる前に仕事を終いにしちまおうや」
 井関・十蔵(羅刹・e22748)は星辰を宿した剣を抜き、地面に守護星座を描き始めた。
 1秒でも早く、終わらせる。
 決して誰も、倒れさせない。
 刃のように鋭い眼に決意の光を宿す十蔵。そんな彼とは対照的に、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は、無邪気な笑顔で敵を見据えると、
「綺麗な花なのに勿体ねえなあ」
 じりじりと迫ってくる白藤達へ、無骨な拳をグッと突き出して、
「なるべく早く壊してやるよ。行くぜっ!」
 戦いの火蓋を、切って落とすのだった。

●二
「容赦しません!」
 ジェミがエアシューズで広場を滑走し、一切の情を排した蹴りを放った。
 流星のように輝く一撃を浴びた左端の個体が、足を砕かれて奇怪な叫びをあげる。
『ジャアァァァッ!!』
 人の形に枝分かれした枝。その全身を覆う白い花が一斉に赤い光を放ち、瞬く間に広場を炎で包んだ。
「待ってろ、いま回復するぜっ!」
 後衛の二人を庇って炎にまかれる恭志郎と眸。それを広喜が、腕部換装パーツ拾弐式の描く魔法陣で包む。
 眸はキリノに念を込めた小石で敵を牽制させると、炎上のダメージにも構わず、膂力にものを言わせた鉄塊剣の一撃を、負傷した1体めがけて叩きつけた。
「貴様の敵は、ワタシだ」
 機械剣が浴びせる碧蓮の炎に怒り狂う攻性植物は、根をしならせ眸を捕えようとする。
 だがそこへ、エトヴァの甘く柔らかな『Bluete』の声音にのって、真っ赤に咲き誇る火の花が攻性植物達を包み込んだ。
「Bluehe, wie die Sonnenstrahlen――」
 妨害に優れるポジションから放たれたエトヴァの炎は強烈だった。
 弾ける火花に包まれた白藤が、煙を立てて燃えながら花を散らしていく。
「俺が相手です!」
 恭志郎がフェアリーブーツで砂利を蹴り、直滑降の蹴りで真ん中の敵を捉える。
 怒りで狙いを恭志郎へと向ける藤花。その横では、眸の挑発を受けた1体がアウレリアと萌花のコンビネーションを浴びて、早くも劣勢に追い込まれ始めていた。
「あまり公園を荒らしたくないの。早く倒れて」
「ほら隙だらけだよ、どこ見てるの?」
 涼やかな、しかし決然とした声でアウレリアが流星蹴りを叩き込む。敵を挟み込むように電光石火の蹴りを追撃で浴びせる萌花。
 二人の息もつかせぬ蹴りが攻性植物を切り裂き、白い花を散らす。
「こいつでパーッと消火してやらあ!」
 十蔵は地面に描く守護星座で前衛を包み、守護の力を付与した。シャーマンズゴーストの竹光もヒラヒラと踊りながら無言の祈りを捧げ、十蔵をサポートする。
「すまなイ、助かル」
 眸はガネーシャパズルから召喚した女神の力で、新たな敵を更に挑発した。
 怒り狂った敵の放つ根が絡みつき、眸を拘束する。その力たるや凄まじく、十蔵の支援があっても完全に拘束を解くことは出来ない。
「随分元気な敵だな? こいつで黙らせてやるぜっ!」
 広喜は四肢からミサイルポッドを展開し、豪雨の如きミサイル群の爆撃で敵を包む。
「ジェミ、次の敵を頼みマス」
「任せてエトヴァ!」
 致命傷を浴びた1体を屠るべく、エトヴァは九尾扇の羽を多節鞭の如く伸ばし、一思いに振り下ろした。
 氷をもたらす一撃を防ぎきれず、集中砲火を浴びた白藤が悲鳴を上げて斃れる。ジェミはそのままマシンアームを回転させ、恭志郎の蹴りを浴びた敵を刺し貫いた。
 木片と花弁が、渦を描いて空に舞った。恭志郎は露出した木の内部に狙いを定め、一心に精神力を集中させる。
「……吹き飛べ!」
 バァン、と空気が破裂し、攻性植物の体が吹き飛んだ。
『ギャアァァァ!!』
「――その花は、あなたを逃がさない」
 断末魔の悲鳴を上げる敵へ最後の餞を送るように、アウレリアは『朱花』のグラビティを紡いだ。藤の足元を炎より赤い花々が覆い、命を奪う芳香がふわりと包む。
 ぱたりと途絶える悲鳴。
 攻性植物はそのまま灰となって燃え尽き、粉々に崩れ去った。
「あたしの茨は、ちょっと痛いよ?」
 麻痺で倒れた敵を狙い定め、萌花が白い茨を伸ばす。
 『World's End Nightmare』。グラビティで生み出した、標的の命を奪う幻想の茨を。
「至上にして最高の絶望を」
 真っ赤な唇が妖艶に笑み、藤の花を散らしていく。
 十蔵は前衛に振りまく花弁のオーラで、萌花らの炎を消し去りながら、
「おい、竹光! おめえはあっちだ! こっちの回復は俺がやらぁ!」
 眸の拘束を祈りで解くよう指示を飛ばす。
 炎に捕縛に毒。吹き荒れる状態異常の嵐は、敵が頭数を減らし、十蔵と竹光が送り続ける支援によって、少しずつ収まり始めていた。
 残る敵は2体。
 番犬達は、最後の仕上げに取り掛かろうとしていた。

●三
 戦況は完全な優勢だった。
 回復能力を持たない攻性植物は、広喜とエトヴァが付与する炎と氷とパラライズによって見る間に体力を奪われていき、あっという間に崖っぷちに追いやられた。
 必死の反撃で放つ光線も、眸が薙ぎ払う剣の風圧で、その威力を封じられてしまう。
「眸。そのエラー、こっちに寄越せ」
 広喜は、眸の身を覆っていた捕縛の根を、医シ詠の光で完全に取り去った。
 恭志郎はジェミを光線から庇い、オウガメタルの拳を振りぬいて白藤の花をはぎ取ると、最後の一撃を促した。
「お願いします、ジェミさん」
「分かりました、必ず仕留めます!」
 ジェミは青空で輝く太陽に身を晒し、広場に大きな影を落とした。
 黒い影の中から矢を束のように形成すると、虫の息となった白藤めがけて一斉に放つ。
「餮べてしまいます、よ?」
 それが、とどめだった。
 音もなく射られた『Devour』の影矢は、藤の体を真っ黒な影に染め上げて、その命を全て啜り尽くし、射手のジェミへと還元していく。
 最後の1体となった攻性植物は、劣勢を自覚しているのかいないのか、炎と氷に覆われた体で根を張り巡らせ、恭志郎の体を締め付ける。
 だがそれは、最早ただの悪あがきでしかない。
「お眠りなサイ」
 木へと突き立てられたエトヴァの惨殺ナイフが、ジグザグの傷を藤に刻んだ。
 火柱を立てて燃え上がり、脚は真っ白な霜に覆われ、もはや白藤の姿は見る影もない。
「とどめを、お願いしマス」
「りょーかい。行こ、アウレリアさん」
 蹴りの風圧で火柱を薙ぎ、幹の中央にめり込む萌花の旋刃脚。
「さようなら。これで最後なの」
 よろめく藤花。身の毛もよだつ悲鳴を上げる敵めがけて、アウレリアが迫る。
 白銀の蔦が彩るエアシューズが放つ蹴りは特大の流星となって直撃し、哀れな攻性植物を跡形も残らず押し潰した。
「お疲れさまです。桜庭さん、君乃さん、怪我は平気ですか?」
 戦いを終え、共に盾役として戦った二人を気遣う恭志郎に、
「ん、だいじょーぶ」
「問題なイ。回復支援も、有難かっタ」
 萌花と眸は頷きを返した。幸い、深手を負った者は一人もいないようだ。
 眸の言葉に十蔵はカラカラと肩を揺すって笑うと、
「へっ、よせやい。じゃ、パパッと修復しちまうか!」
「了解だぜっ。藤の花見、楽しみだなっ!」
 広喜や仲間と共に、公園の修復を開始するのだった。

●四
 修復完了から数分後――。
「綺麗だね……」
「ええ、見事ですネ」
 トンネル型の藤棚に枝垂れ、青空を満たすように咲き誇る白藤の花々。それがどこまでも続く眼前の光景に、ジェミとエトヴァはしばし言葉を忘れた。
「小粒の花が連なって、合わさる事で美しさが増すみたい」
 木漏れ日がさざめく路を歩きながら、純白の蝶が群れたような花房を眺め、ジェミは藤の美しさに見入っていた。
 隣では、ジェミと同じ景色を眺めるエトヴァが、白藤の美しさを言葉に表す。
「房の集まりハ、まるで飛沫を上げて降ル、花の雨のヨウ」
「雨かぁ。なら僕、傘はいらないかな。ずっと浴びていたいかも」
 どこか日常の景色とはかけ離れた美しさに、言葉は自然と少なくなった。
 ジェミは藤という花をもっと知りたいと思い、片目を瞑ってアイズフォンを起動する。
「ふうん……藤ってマメ科なんだね」
 そこでふと、ジェミは思い出したようにエトヴァを見上げる。
「そう言えば、あっちにでっかい枝豆みたいなのがなってた」
「大きな枝豆……ですカ? 見たいデス」
「じゃあ行ってみる? あっちの方」
 興味津々といった表情のエトヴァの手を引いて、すたすたと歩いていくジェミ。そこから少し離れた場所では、アウレリアも藤の眺めに見とれていた。
「きれいねえ……」
 アウレリアはスマホを片手に、藤の景色をシャッターに収めている。
 戦いが終わったばかりの園内は人影もまばらで、自由なアングルから撮る事が出来た。
「ふふ、上手に撮れたの」
 ささやかな宝物に満足の微笑みを浮かべ、アウレリアは一人ぶらぶらと散策を続ける。
 時折見かけた仲間達にも、静かに手を振りながら。
「いとしと書いて藤の花ってやつ。本物見てみたかったんだー」
 藤を背景に自撮りをした萌花は、指先で描いた平仮名の藤花を本物に重ね合わせ、真白いオーロラのように輝くその美しさに感嘆の溜息を吐く。
 藤棚を人々が訪れるのは、ほんの少し先のことだろう。それまでは、この眺めを独占する贅沢に、もうしばらく浸れそうだ。

●五
 またしばらく歩くと、恭志郎の姿が目に映った。
「あ、ドレヴァンツさん」
 藤棚の外で、めくれ上がった土を整えていた恭志郎が、アウレリアを見て手を振った。
 攻性植物化によって花が無くなった場所の土を、整えていたのだという。
「園芸とか好きですし、植物と向き合う時間は落ち着きますから」
 恭志郎は額に滲む汗を拭って、恥ずかしそうに笑う。
 いつか再び、藤の花が根付くことを願って――そう言って作業を終えた恭志郎は、仲間と一服する事に決めたようだ。
「俺は一休みがてら、向こうでのんびりして来ますね」
 そこには、酒杯を片手に藤を眺める十蔵と、弁当を広げる仲間達の姿があった。
 藤棚の少し外れに敷かれたゴザには、ジェミが持ち寄った食事とお茶が『ご自由にお取り下さい』のメモと共に置いてある。
「お弁当置いておきますね、十蔵さん」
「おう、ありがとよジェミ! コイツも自由に持ってってくれや!」
 そう言って十蔵は、おにぎりの傍に飲み物と菓子を添える。そこへ恭志郎とアウレリア、萌花も合流し、賑やかな宴が始まった。
「おーい、遠慮しねえで食って飲みな! 宴は大勢の方が楽しいしな、カカカッ!」
「あ、はい。じゃあお言葉に甘えて」
 気風良く笑う十蔵に恭志郎はお酌を一杯、ジェミから頂いたおにぎりに齧り付く。
(「俺に足りないのはこういう余裕だよなぁ」)
 体に染み渡る心地よい塩味を噛みしめて、恭志郎はほうと息を吐いた。
「ふふ、座ってみるのもまた景色が変わっていいね、エトヴァ」
「ええ……風が心地よいですネ、ジェミ」
 ジェミとエトヴァもまた、二人揃って座しながら、お茶とおにぎりをお供に白藤を鑑賞していた。これもまた、散策の花見とは違った趣がある。
「あ、おじさま、せっかくだからお酌するね」
「おう? ありがとよ、こいつぁ照れるねえ!」
 いっぽう十蔵は、萌花からのお酌に、ずいぶん赤くなっていた。
 程なくして酔いが回ったのか、彼は一人立ち上がると、
「いやー、日陰はヒンヤリして酔い覚ましに丁度いいねえ、カッカッカッ!」
 藤の天井を見上げるように、寝そべって昼寝を始めた。
 視界いっぱいに広がる藤の花を独占する、こんな贅沢はそうそう味わえない。
 うつらうつらと船をこぐ十蔵。のんびりと藤を眺める仲間達――。眸はそれを藤棚の下で眺めながら、静かに口を開く。
「嬉しイものだ。この穏やかな、美しイ景色を、信頼できル仲間とともに見られルのは」
「本当だぜ。白って綺麗な色だよなあ……」
 ゴザの方へ眸を誘いながら、広喜はとびきりの笑顔で頷いた。
 真っ白い天使のような姿で、白藤の下を歩く眸の姿に思わず見惚れる広喜。
 眸は仲間の元へと歩きながら、そんな彼を見上げて問う。
「広喜。前は見えルか」
 2mに届こうかという上背を誇る広喜は、藤の花が視界を塞いでしまうのだ。
「え? ああ、大丈夫だぜっ。いやー、藤の花っていい香りだよなっ」
 白藤に顔を隠すようにして、照れくさそうに笑う広喜。
 それを見た眸も、静かに笑みを浮かべる。
(「……本当に、嬉しイものだ」)
 白藤は美しい。だが笑い合える仲間と共に眺めるのは、更に美しい――。
 暖かい光と、瑞々しい香りに包まれて、二人は仲間の元へ歩き出した。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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