●縞々ヘリオライダーが現れた!
「いよっすー、おっつー。調子はどうだ。ちゃんと休めてっか? 旨いもん食ってっか?」
その日、久々原・縞迩(縞々ヘリオライダー・en0128)は朝からご機嫌だった。
ケルベロス達に出会う傍からフレンドリーに声を掛けて行く様は、ある意味いつも通りではあるのだが、とにかく彼はすこぶる上機嫌であった。
――と、いうのも。
「やー、俺、超旨いカフェオレ出す店見つけてさ。今日もこれから行くトコなんだが、一緒に行かねーか? もちろん時間があれば、と、気が向いたらで構わねぇけど」
ちょっとした空き時間を埋めるにも良い場所だ、と彼は軽快なトーンで誘う。
――レトロカフェ『古木の庭』。
アンティークコレクターのオーナーが自ら手掛けた趣のある内装、中でも群を抜いて目を引く柱時計を筆頭に古い時計の数々は、常連客に「時の森」と形容される程。幾つかは今も動いていて、静かに時を刻む振り子や針の音が落ち着いた空間を創り出している。
そして、何より、とにかくカフェ・オ・レが旨いのだ――!
「使ってる豆も良いんだろうけど、あれはミルクも凄ェんだろーなぁ」
美味なる至高の一杯に思いを馳せる縞迩の、本気の声音と視線は空へ。
「ラテアートとかもやってる店でな。泡立てたミルクが、なんてーかこう……もっちりむっちりふわふわで甘くて――つまるところミルク自体がもう激ウマな訳よ。だからカフェオレも超絶旨いし、ラテ系なんて絶対ェ旨いに決まってる。究極! あのフォームミルクだけでも飲んでみる価値あるぜー」
是非皆にも味わってもらいたい、と力説する彼。
ちなみに、ラテアートはバリスタに描いてもらうだけでなく自ら挑戦する事もできるという。ミルクがしっかりしているから立体的な、いわゆる3Dラテアートも楽しめるし、珈琲が苦手な人にはショコラやティーのラテもお勧めだ。
ホットでもアイスでも、その時の気分で好きな方を選ぶと良い。
「あの店に皆と行けたら、俺ァこの上なく嬉しいね」
真っ直ぐに言葉を投げる、くだけた表情。
他者との距離感に遠慮がないのはいつもの事。
だが、今日の彼は、いつにも増してじっとしていられない。
「よければカフェオレに合う食いもんとか教えてくれよ。……って、流石に厚かましい事言ったか? 別に、ついでのついでとかでも良いんだ――」
テンション高く笑い飛ばしながら、それもまた包み隠さず。
――本日、5月9日は、彼の誕生日なのだ。
●『古木の庭』へようこそ
静寂を切り取る秒針のステップ。
微妙に遅れたり先走ったり、少し休んで追い付いたりと、時の歩みも表情豊かに、それでいて動いている古時計達が示す時刻は不思議と概ね合っていたりもするのだ。味わい深い古時計の森を抜け、案内された席に着く。古い木と革、珈琲の良い香りが漂う空間に、聞こえ来る談笑の声も融け合いながら、決して邪魔にはならない。
それらの音に耳を傾けながら陣内(e05753)はふと、あかり(e04291)の胸元に揺れる懐中時計に目を向ける。直してもらったのは昨年の事。規則正しく時を刻む音を聴きながら待つ、二人分のカフェオレ。
家ではいつも、彼がブラックコーヒー、彼女はカフェオレを――朝は彼が、夜は彼女が用意して、共に過ごす。もう何年も続く彼らの日常だ。
今日は、家ではない場所で、誰かが淹れた、カフェオレを二人で。
『いつもと違う』というだけでも、ちょっとした特別感を味わえる気がする。
彼女の上向き気味の耳を見て、彼の表情が緩んだ。あかりが喜んでくれるなら連れて来た甲斐があったというもの。視線に気付いた彼女は音に合わせて揺れる彼の耳と尾を見遣り、
「……」
その眼差しにハッとして彼は頭上に手をやった。
「え、嘘。動いてた? いつから?」
正直な反応はお互い様だ。が、彼は俄かに沈んだ目をして何やらジレンマに陥っている様子。あかりは、彼が見ていた懐中時計を弄りながら笑む様に目を細めた。
――色んなことがあったね。
共に歩んで来た時間を振り返り、言葉にはせず、運ばれて来たカフェオレを一口。
「美味しいね」
少女の笑顔が咲き零れた瞬間には、彼ももう立ち直っている。
何気ないこのひと時は、どこに在ろうときっと変わりはしない。
何よりも大事で幸せな時間だと、あかりは心から思った。
もっちりミルクとラテの誘惑――甲乙つけ難し。
悩んだ末にティアン(e00040)が注文したのは、連れを彷彿とさせるカラーのショコララテ。気付いているのか否か当のアイヴォリー(e07918)は、たっぷりの泡に包まれた魅惑のカフェオレを前にして、ときめきを抑え切れずに逸る。
「飲みましょう、いざ!」
ふわふわ。なのに、少々傾けたくらいでは崩れないミルクの泡は唇に触れるや、すうっと蕩けて、奥からやって来る仄かな苦みも酸味も甘やかに包み込み、アイヴォリーの舌の上で踊る。一方で、芳ばしいカカオの香りと濃厚な泡ミルクが織り成すコクのある甘味と心地好い苦味をティアンも迎え入れている。
「「……!」」
ティアンの耳が、アイヴォリーのミルク色の翼が、幸せそうに揺れた。
「――?」
ふと、視線を感じて見遣るとアイヴォリーが嬉しそうにティアンの仕草を見つめていた。優しい笑顔で彼女の視線を受け止め、アイヴォリーは噛み締める様に胸に手を当てる。
「――あの日のわたくしの願いは、叶ったのですね」
そして、ティアンの口元に、そっと差し出すビスコッティ。
『お祝い』と聞けばティアンも素直に受け入れる。選んで決めた、生きて行く事。それを望んでくれた誰かが居てくれたからこそ、ティアンもそちらへ踏み出したのだ。
歯応えのあるビスコッティはカフェオレに浸して食すも乙なもの。だが、啄む様に齧り取るザクザクとした食感も良いものだ。香ばしい胡桃の風味が、含んだ空気と共に鼻腔に抜けて行く。7日前に迎えた己の誕生日と、彼女の心願成就を祝し、ティアンもお返しの一匙。一口サイズにカットされたバウムクーヘンを、差し出されるまま口に含んで笑みを深めるアイヴォリーを見て、ティアンは改めて感じ入る。
生きて、幸福を求めても良いらしい。
その心は年輪の如く、焼き重ねて行く生地にも似て。言葉は自然と口を衝いて出る。
「おめでとう、それから――」
――ありがとう。
●ついでのアレ
5月9日―――今日の店内は普段より少し賑やかだ。
親しい者と共に来店したケルベロス達の幾人かはアンティーク・クロックの森の狭間で既に一服決め込んでいた男に、挨拶代わりに声を掛けて行く。
「誕生日おめでとう」
「おめでとうございます」
「お、おう。皆ありがとな!」
祝辞に応えてカフェオレのカップを掲げ、久々原・縞迩(縞々ヘリオライダー・en0128)は照れ臭そうに口の端を上げた。本人が「ついでで良い」と言うのもその性分によるものではあるのだろうが、それでいてこんな時、彼は解り易く嬉しそうな顔をする。
「素敵な場所を紹介して下さりありがとうございます」
イヴ(e34691)と英世(e34862)は感謝を伝え、続いて、祝いに来たというアンセルム(e34762)の横から環(e22414)とエルム(e35594)も言葉を添える。
「カフェラテみたいな、何気ない日常を素敵に彩るものと沢山出会える一年になります様に」
「今日が素敵な一日になりますよう」
「幸せ香るカフェオレで、笑顔溢れる日になるよう願ってる」
笑顔と共に立ち寄るラウル(e01243)とシズネ(e01386)にも感謝を示しつつ縞迩はますます照れ笑い、照れ隠しからメニューを開くその様に彼がまだカフェオレのお供を頼んでいないと見て取るや、ラウルは言い足した。
「そういえば出がけに縞迩が気にしてたカフェオレに合う食べ物――」
「ん?」
平静を装う一方で縞迩の瞳が期待に輝く。
「似合う男なら知ってるぜ」
と、シズネ。きょとんとする縞迩。
「ほ、ほう……?」
「カフェオレみたいに甘みも苦みも備えたオトナって感じだよなあ縞迩は」
「ハッハハ、照れるじゃねェかシズネ君よ。いやいや、その境地にはまだまだ程遠いと思うぜ俺ァ」
あと十年、いや二十年あれば或いは、と嘯く縞迩の真顔一秒。
ラウルは咳払いをして流れを引き戻す。
「お菓子なんだけどね。アマレッティはどうだろう。素朴な甘さが相性抜群なんだ」
「! 情報提供恩に着る! やー、いつも何頼もうか悩んじまってよ。早速探してみるぜ」
いつもは結局決め兼ねてベーグルサンド(ハーフ)かクロワッサンに落ち着くのだと話しながら、嬉々としてメニューを捲り始めた縞迩に、ラウルはにっこり。
「是非試してみてね」
「ラウルの勧める菓子はみんな激ウマだからな! 俺からもオススメだ」
シズネもイチオシの焼き菓子、アマレッティ。単品では載っていない様だが――。
「おー、あった」
メニューを辿っていた縞迩の指先が止まる。
焼き菓子プレート3種盛――メレンゲとアマレッティにマドレーヌ――、飲物とのセットメニューの中にそれはあった。
「ボクもそれにしようかな」
カフェオレに合うものをお任せで注文しようかと考えていたアンセルムにとってもそれは渡りに船。彼らのテーブル席の斜向かい、喫茶店の中央に近いカウンター席の縞迩が「いいんじゃねェ?」と楽しげに背中を押してくる。彼はそれが絶対旨いと確信している様だったから、アンセルムも安心して乗っかる事にした。
●ラテアートに想いを込めて
「なるほど、ベースのミルクはもう注いであるのだね。初心者にも易しい、と」
後は描くだけという状態で提供される『ラテアート挑戦セット』を前に、英世は袖を留め、眼鏡を押し上げた。トールカップに残るクリーミーなフォームドミルクは描き損じた時に上から注いだり、細かな修正に使うものらしい。
卓に常設してある爪楊枝を使い、チョコレートソースで描き始める四枚の葉。イヴも真剣な顔でカップと対峙している。彼女は――何やら細かな花を描いている様だ。立体での表現には向かない、故に、二人とも平面での挑戦だが、ぷかぷか揺れる泡ミルクのキャンバスに扱い慣れない小さな筆記具で描くのは中々に難しい。
「うむ、出来た」
比較的シンプルな題材を選んだ英世は作業を終え、イヴは驚いた様に顔を上げた。
「わ、……は、早いですね英世さん……」
焦燥感に駆られつつ何とか彼女も最後の一筆を走らせ、一息。吐息にふるふると揺らぐラテアートに一瞬ひやりとしたものの、崩れる事無く鎮まり、胸を撫で下ろす。しっかりとした硬度を保つフォームドミルクは前評判通りであるらしい。
「ナズナ、だね」
「さ、さすが。英世さんは何でもご存じですね」
「何でもという訳では」
謙遜はすれど博識な彼の事、きっと花言葉も知っているに違いない、とイヴは恥じらいから敢えてその言葉を秘密にしたまま、少しだけ勇気を振り絞った。
「これは英世さんへの気持ちです。……どうぞ、お受け取り……下さい……」
ほんのり頬を赤らめる彼女に、彼はふむと鼻から笑む様な吐息を零した。
「安直かもしれないが――四葉のクローバーの意味には諸説あってね」
「?」
「多くに共通しているのは「愛情」や「希望」「幸福」等だろうか? どれも私がイヴくんから貰っているもの。そして、イヴくんに贈りたいものだ」
「――!」
くるり、と。
ナズナのカップを手繰ると同時に、眼前の四葉を描いたカップを彼女の方へと向ける。
「さあどうぞ、イヴくん。今日は君と二人でいる幸福に感謝を」
カップから溢れんばかりにミルクの泡を盛り付ける。
こんもりとした雲の両端を尖らせ、チョコソースで器用に描く肉球と福々とした表情。御利益がありそうな顔つきをしたふわもこにゃんこの出来栄えに、ラウルが浮かべる会心の笑み。彼の文字通りの会心作を二度見したシズネも瞳を輝かせた。
「うぉお、肉球まで! おめぇやるな! 職人か!? ――よし、オレも!」
俄然勢い込んで、彼もショコララテにミルクの泡をもこもこさせてみるものの……!
「出来た?」
ラウルが見遣る、と。そこには真白きミルクモンスターがへんにょりと鎮座していた。
「ね、こ? ……ツノの生えたおばけに見えない事もないけど、これはねこ! どうだ!」
首を傾げつつ己に言い聞かせるかの様に、終いには胸を張って『猫』と言い張るシズネが歳上ながらに可愛くもあり――くつくつと喉を鳴らすラウルに彼は、
「それに気持ちはこもってるから!」
得意げに言い放った。違いないねと肩を揺らし、ラウルは改めてそれを眺めた。何故だか次第に、目と耳(?)が猫に見えて来た様な……気が、しなくもな――猫だコレ。
「もこもこで愛らしい猫だね」
愉し気に伝えてやれば、シズネはじょうずにできたと上機嫌。これが初めての3Dラテアートと思えば上出来には違いない。
崩れる前に飲み干そう。どちらからともなく乾杯する様にカップを軽く当て、聞きしに勝るむっちりもっちり具合に驚嘆しつつ口に含んだ。ヨーグルトに浸したマシュマロの様に、不思議な弾力のある甘い泡が口中に弾けて溶ける様に消えて行く。
「格別だな」
シズネが零した感想に、幸せの波間に身を任せていたラウルも静かに同調するのだった。
もこもこ。ふかふか。ゆらゆら、と。
「お、だんだん形になって来たな」
エスプレッソに注がれたミルクのベースの上に形作られて行くものを見守っていたウリル(e61399)が、声を上げる。大小のスプーンとピンを巧く使って形を整え、リュシエンヌ(e61400)は眉尻を下げて含羞む様な笑顔で応えた。
今日のデートを楽しみにするあまり中々寝付けず、目の下にクマを作りながらも一生懸命3Dラテアートに挑む妻の姿に、溢れる愛おしさ。
スチームでミルクを泡立てるのはお店の仕事だったけれど、フォームドミルクのカップを受け取り颯爽とテーブルに置いた彼女は、少し得意げな顔で宣うたものだ。
「2分待つのがミソなの」
少し時間を置く事でミルクの泡が分離して、よりしっかりした泡が出来上がる。
「へえ、そうなのか」
相槌を打ちながら、込み上げてくる微笑ましさを彼は止められない。彼女が夜遅くまで何か調べ物をしていた事はもう知っていたから。
とにかく、そうして生成された絶妙なもっちりミルクを器に取り、そこから彼女は1つのカップに三つの山を作り上げた。真ん中の少し小さな山には可愛らしく三角に尖った耳。猫、だろうか。そして、三つの山それぞれにチョコソースで顔や髪が描かれて行く。
「これは?」
「家族の肖像なの」
家族。ウリルの胸を温もりで満たす言葉。
「凄いね。でも困ったな……もったいなくて飲めないよ」
もったいないと言ってくれる彼を愛おしく思いながら、リュシエンヌもまた温かさを覚えている。完成したラテアートをスマートフォンで撮影すれば、綺麗に残る思い出のワンショット。彼女の手元を覗き込み、なるほど、と彼。
「ほら、こうしたら残しておけるし、それにね」
お家で何度でも作るの、と彼女。
そうだね、と彼は頷いてカップに手を伸ばした。
ふるふる揺れる可愛らしいラテアートに一層綻ぶ口元。
「何度でも、作ってくれたら嬉しいな。ルル」
冬真(e23499)は痛感した。
結局、最後は当人の画力がものを言うのだと。
(「……うーん、可愛さが出せない……」)
店員にコツを教わり、何とか形にはなったが、やはり本物の可愛いさには勝てない。仕上げのハートマークに渾身の愛情を注ぎつつ、隣に座る最愛の妻が何を描いたか気になって顔を上げる。
「有理(e14635)は何を描いたの? ……すごい、3Dだ」
「ふふ、冬真に似てるでしょ? 白いオオカミさんだよ」
製法は企業秘密だというこの店自慢のもっちり泡ミルクをふんだんに使用した、堂々たる白狼。ピンと立てた耳の先まで尖らせ、丁寧に描かれた表情と肉球マークが相まって、勇ましくも可愛らしい仕上がりに、冬真は素直に喜ぶ。
「可愛いオオカミをありがとう。すごく嬉しい」
「冬真が描いたのは……ウサギさん?」
「君をイメージして描いてみたよ」
嬉しそうな有理の顔を見て、冬真は改めて思う。やはり本物の方が可愛い。
「可愛らしくて飲んじゃうのがちょっと勿体ないね」
「こっちのウサギの方が可愛らしいけれどね」
無邪気に笑う彼女の額に、何らはばかる事なく冬真は唇を寄せた。
最早、カフェの従業員はおろか他の客の姿も見えてはいない様子でイチャイチャし始める二人。カフェオレも、ミルクの甘さも比較にはなるまい。
既に二人の心は『古木の庭』から飛び出して行ってしまったのだから。
(「これは確かに――『当たり』かも」)
メレンゲに似た、しかし同じではない軽めの食感。口の中に広がるアーモンドの香りとほろ苦さ、素朴だが独特な風味と甘味が癖になりそうな、そんな味わい。エスプレッソやカプチーノにも合いそうだが今回は勧められるままカフェオレで頂く。ミルクの甘味が焼き菓子のそれと融け合う余韻に暫し揺蕩う。
「大人の休日って感じがしていいよね……」
アンセルムは満足げに吐息した。アンティークの森に抱かれ、彼がのんびり優雅にカフェオレを堪能している同じテーブルでは、環とエルムが3Dラテアートに挑戦中だ。
手順を教わりはしたものの、二人揃って悪戦苦闘。何せ見るも作るも初めての3Dラテアートである。巧く行っていたかと思うと、途中から、「あれ?」だの「おかしいなぁ」だの雲行きの怪しい科白が増えて来る。
「なあに、なんだか違う物体ができあがっても、それはそれで味があるというやつだよ」
外野からお気楽なアンセルムに見守られる中、二人のラテアートが完成した。
「で、出来ました! パンダ!」
という名の名状しがたき何か。まるで、白い、スライムの様な。
造形は溶けかけているのに、むちっとした強度と艶を保つミルクの存在感。環が窺う様にエルムの作品を見る、と、カップからこちらを覗き見る、猫の様な犬の様な名状しがたき何かと目が合った。何とも言えない表情。
「ね、猫ですからね? 少し歪んではいますが猫なんです」
「やっぱりそうなりますよね! 仲間!」
同じ体験を経た者同士、エルムとがっちり握手を交わしに行く環。
「それにしても……いや、何でもないよ。何でもない」 言いかけて、すぐに顔を背けたアンセルムの肩が小刻みに震えているのをエルムは見逃さない。
「ちょっと……笑ってるのバレバレですからね? アンセルムさん。見た目はアレですが味は保証できますから!」
「右に同じく。でもって、アンちゃんも1回やってみると良いと思うのですー」
言い返すエルムと環に、「そうだそうだー」と面白がって加勢する縞迩。
「で、本当にアンセルム君はやんねェの?」
続く軽口にも、アンセルムは『あとで時間があったら』なんてのんびり考えている。或いは次回のお楽しみ。
「まあまあ、折角だし、記念撮影しようよ」
サクッと話題を逸らして目先を替える彼の提案には、友人達も勿論賛成だ。それぞれの時間を留め置く撮影会が始まった。
「皆で一緒に入りましょう」
最後にエルムがそう言えば、にこやかに傍観していた縞迩がカメラ係を買って出る。
「俺が撮ってやるよ」
「それじゃあお言葉に甘えて」
と――。ラテアートやアンセルムが連れた人形も入る様に位置を取る三人。
「んじゃ、せーので行くぜー。せーの、『アマ・レッ・ティ』――!」
元気よく、『ティ』の口で撮影完了。
その後は各自、満喫するラテタイム。
一啜りごとに異なる姿を見せるラテアートの第二、第三、(中略)最終形態まで――別れを惜しむ様にじっくり味わいながら、笑い合い、まったりと過ぎて行くひと時。
大事に時を数える一秒刻みの静かな針の音と共に――。
作者:宇世真 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年5月29日
難度:易しい
参加:15人
結果:成功!
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