ソフィアの誕生日~アップグレード2019

作者:のずみりん

「皆さんの装備データを所望します」
 その日、ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)はケルベロスたちに言った。
「守るための力を、昨年も所望し、共に修行させていただきました。ですがデウスエクスたちもまた、それぞれにたちも新たな力を求め、実験を繰り返しています」
 デウスエクス間の従属、同盟に活路を見出すもの、地球の人々を取り込むもの、他種族のコギトエルゴスムから進化を求めるもの……種族の特色を生かした模索は一定の成果を上げつつある。
「ケルベロスの特色は何か、それは心、武具に宿る魂ではないかとソフィアは評価しました」
 代々受け継いできた所縁の品、自分や誰かのために作られた武器や防具……あるいは一見して戦闘に役立たない御守やアクセサリさえ、込められた思いは凡百の矢弾を凌ぐ力をもたらす事がある。
 ソフィアのように、生誕やケルベロスとしてのルーツが武具と関係した者は多い。また武具に関わる独自のグラビティを使うケルベロスも、少なくはないはずだ。
「ですが、まだデータは足りません。より多くの装備、より多くの話をソフィアは知りたいのです」
 そして、新たな力へと形にしたいとソフィアは言う。
 彼女の事は勿論、自分自身を振り返り、新たな道を模索するいい機会かもしれない。

「今年も、首都郊外の山麓を確保できました。多少地形が変わっても大丈夫です」
 少々物騒な発言と共に並べられた地図は、現在は休止中の小さな工場と、そのレクリエーション施設だったという自然公園。
 装備の実演、試作品のテストでケルベロスたちが暴れまわっても、この規模ならそう被害は出ないだろう。

「開発の例、ですが……ソフィアの今の装備はこちらです」
 知られざる「古の騎士」より継承したという武具、鎧装騎兵の力たるアームドフォート、力なき人々を守るゾディアックソードと騎士の盾。
 ケルベロスのルーツであり、レプリカントとしてのルーツ『人を守る誓い』を実践する力でもある。
「ソフィアは武具がルーツですから、今の武具に装備や機能を追加する方針を考えています……安直ですが、盾を増やすとか、増加装甲をつけるとか、ですね」
 人によってはより大胆に、減らす、統合するという考えもありだ。
 また大きく手を加えずとも、整備や修理で最大限の力を引き出し、保つのも立派な強化だろう。
「アップグレードは定期的に行うものです。日本の言葉でいう……日々是修行也、ですね」
 修行も思い出も、誰かに語る事で気づけるものがある。だから一緒にやりませんか? 少し柔らかくなった笑いでソフィアはケルベロスたちに誘いかけた。


■リプレイ

●武具の魂
「えへへ、今年もお祝いに来たよ! ソフィア誕生日おめでと!」
 鉄扉の音に見合わせた顔を上げるソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)と仲間たちにイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は明るく手を振った。
「今年もありがとうございます、イズナ殿」
「うんっ、ソフィアも……今年は装備なんだね」
 大雑把に区切られた事務所のスペースに、ところ狭しと張られ、並べられた武具のメモ書き、写真資料をしげしげと眺めるイズナに、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)が無骨な首を顎引くように頷いて見せた。
「ああ。まず方向性と、現状の確認からといったところだな」
「ソフィアさんの武具も歴史あるものだものね。誕生日おめでとって事で、目一杯語り合っちゃうよ!」
 今度は自分の番、とシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は好奇心に輝く目で、一振りのゾディアックソードを机上に見せる。
「わたしのは……このゾディアックソード、『風精の涙(シルフィード・ティアーズ)』だね」
 鞘から抜いて見せる淡い碧色の刀身は、ソフィアの持つゾディアックソードと比べると随分と短く、一方で握り少々長く両手で握れるサイズ。
「随分と古い……業物のようですが……それに、刃渡りにしても軽い」
「博物館で見付けたものだけど、見つけた時は錆び付いていて武器としては引退している感じの子だったんだけど……なんか、惹かれちゃってね?」
 それから磨き、打ち直ししてもらい、息を吹き返したのが現在の姿なのだという。持ち手が少し長く、両手持ちできるのが自分の手によくフィットするのだと、シルは剣を手に取って見せた。
「この軽さも、重さよりスピードで切り裂くのも、すごくなじむの。ケルベロスになってからずっと使っている思い入れある子なんだ」
「はい、よくあっていると思います……まるでシル殿に合わせた姿になったような、ソフィアは感じます」
 武具に魂があるのなら……としげしげと見やるソフィア。その横顔にすっと褐色が並ぶ。
「フフ、ソフィアさんらしい感想ですね。自分のあるべき姿に悩まれているご様子と拝見しましたが」
「樒殿……!?」
 心内をつく声に驚いたレプリカントの少女に、専門外といえウィッチドクターの心得ですからと空木・樒(病葉落とし・e19729)は上品に微笑んだ。
「そうですね。わたくしはセミラミスの話でもいたしましょうか」
 といっても由来や出会いではありません……と、微笑みを少し悪戯めかして樒はいう。
「普段から特に公言はしていませんけれど、実は同じものをずっと使い続けてはいません。わたくしが使用しているロッドはすべて同じ名前に統一している、というだけです」
「初耳ですが……たしかに」
 不確かな記憶をたどり、ソフィアは驚きを素直に表した。だが言われてみれば、確かに特に公言することでもないのかもしれない。
「グランペールさん。すべての道具は消耗品です。愛着を持ち、修理しながら永く愛用する、という考えも理解はできますけれど……ベストの状態のを保てる僅かな期間、刹那で完璧に使い切るという使い方もまた一つ。装備の魂は納得すると思いますよ」
 自分の武具は特性上、無毒になるよう処理してから廃棄していますが……と付け加える樒に、マークが瞬きのようにセンサーを明滅させた。
「一理ある。俺たちにとっては追加装甲、盾がそれだな」
 盾や増加装甲は、いわば使い捨てられるように分けた外付けの防具だ。たとえばマークの肩を守る『HW-13S』防盾はディザスターキングを始め、多くの強敵に何度も貫かれ、身を犠牲に彼という本体を守ってきた。
 ソフィアのタワーシールドにしてもそうだ。
 護るべきものと使い切るもの、その切り分けも進化のためには必要なのだろう。

「初めて手合わせしたのは、確か去年のここだったよな」
 ウォーミングアップにストレッチをしながら、エリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)は、同族の交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)に呼びかける。
「そう。地球で知り合った人たちと、初めて何かをしたのが去年のここ。お前と手合わせしたのもな?」
「ソフィアも拝見させていただきましたが、すごかったです」
 二人の姿に整備の手を休め、ソフィアが懐かしそうに言う。
 まだオウガが地球に来て四半年たつかという頃。仲間の新技開発への付き合いから、荒ぶる闘争本能にえらいことになってしまったものだ。
「あの時は組手くらいしかできなかったけど、今は色々出せるようになったぜ?」
「そいつはお互い様だぜ。あの頃は地球の文化から自分に合うものを探すくらいが精一杯だったが……アレから一年、お互い強くなれたんじゃねぇかな?」
 力拳を作るエリアスに、ライフジャケットを羽織ったウイングキャット『ロキ』も猫パンチ。闘気を満たしたオウガが二人、ならばやる事は一つだけだと、二人は一足先に演習場に歩き出した。

●受け継ぐものと創るもの
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)と連れ立ったヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)は、やってきたソフィアにガジェット『Blitz Falka』を示した。
「『稲妻の鷹』という意味ですね……何か由来があるのでしょうか?」
「こいつは爺ちゃんの遺物なんだ。爺ちゃんが死んだ後、俺が譲り受けて兄貴の詩集に因んだ名前をつけた……兄貴は詩人志望だったんだがて……その形見は今もここにある」
 そういえばお前さんに見せてなかったな、とフィストに『誇り高き者の証』、ソフィアには風雨に傷ついたハードカバーを渡すヴィクトルの声は、ドイツ訛りが強い英語。
 その声が、もはや中の字も読めない詩集が、彼の人生を想像させる。しげしげと見やり、手に取って、フィストは思い人の系譜に身を馳せた。
「……たしかに初めて見る。祖父の代からケルベロスだったのか」
「いや。爺ちゃんは軍人だったが、ケルベロスじゃなかった……かれこれ今から二十年より前って話だったかな……デウスエクスが襲って来た町の人々を機転で守り抜いて、その功績に授与されたそうだ」
 華々しい活劇ではなかっただろう。だがそれがどれほど困難な事かは、ケルベロスの身ならば例外なくわかることだ。
「立派なお祖父様だったのだな……と、すまないなソフィア。祝辞が遅れてしまって」
「いえ、ソフィアも見入ってしまいましたから……その、フィスト殿のものも?」
 言われてフィストは自分の『ドラゴンスレイヤー』を触る手の感触に気づいた。無意識に考えていたのだろうか?
「ああ……元々はケルベロスである父親より受け継いだものだが、竜を屠ったという逸話、父が命を賭して宿敵『黒死のルイド』たるドラゴンを傷つけた剣という事以外、なにもわからないままでな」
 そして私は結局強くはなれなかった……と、フィストは自嘲する。聞けば『黒死のルイド』は最後までその心臓に刃を届かせず、戦いのなか定命化に最期を迎えたという。
「……為すべき事がフィスト殿と剣に残されたのでしょうか……ソフィアの、感じただけですが」
「さてな。だが探さないととは、思っているよ。私にとっての生きる道を」
 ソフィアの控えめな感想に、フィストは鞘に納めた竜殺しの剣と、ルイドの死の証明たる『黒死の鱗盾』……それにヴィクトルの鋭いクマネズミの横顔を見やり、少し笑みを前向きに上げた。

●さて、どう創るか
「武具が呼びかけるか」
「カイム殿も、御経験が?」
 呟きに興味を示すソフィアに、九条・カイム(漂泊の青い羽・e44637)は『涙に濡れた妖刀』を抜いてみせる。赤黒い血の色を帯びた刀身、そこに一筋、はねた涙滴が走ったような銀の地金が印象的だ。
「実は、どうせもう使わないと思って何度か捨てようとしたんだ。実際、折って捨てた事もある」
「えっ」
 まさに目が点といった顔になるソフィアに、けどダメだったとカイム。
「勝手に戻ってくるわ、折っても折っても、目を離せば次の日には元通りに修復されて……結構怖かった」
「それは……その、確かに」
 付き添うレリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713)は、カイムがケルベロスになった時のためだったのだろうというが、本当に役立つ日が来るとは思わなかったと溜息をつく。
「無辜の民ではなく、デウスエクスを斬るため……斬らせるためか……この特徴的な色も、力も、理由は今の所不明なままだがな」
「そうそう、せめて失われた技術の再現でも出来たら、ケルベロス用の武器として役に立つ日が来るんじゃないかなーとか話したっけ」
 二年前の失伝調査の時を思い出すとレリエルは懐かしそうに竪琴を弾き語りのように鳴らす。
「この竪琴も故郷の村に伝わる由緒正しい品物でね。る程度成長した歌い手に与えられる一人前の証なんだって。あ、この慶事用ケルベロスコートは一応わたしのデザインね」
 と、翻すコートは白地に紅ライン、金具は金銀の豪華仕様が美しい。
「武具以外の用途か……阿頼耶識に光量調節機能などはうまくいかなかったな」
「光でわかる距離なら、武器が何でも気づいちゃうし、そういうものなのかな」
 カイムの体験談に、レリエルは小首をかしげて見せる。
「そういうのってどこまで融通利くのかな。例えば…このブラックスライムをこうして、シャイターン変装セットとか……」
 レリエルは羽を思わせる形状にブラックスライムを見せてしきり。
「似ていると思いますが……シャイターンのタールの翼と、ブラックスライムは、同じ黒でも色合いがちょっと違うように、ソフィアは感じます」
 ケルベロス、デウスエクスの身体能力は柔軟で、感覚は鋭敏だ。明るさで気づくような距離ならどの武器でも同じ程度には気づけるし、グラビティでも駆使しない限り姿形をまねてもたやすく見破る事ができる。
 状況に合わせた小型化や収納機構は取り回しや隠匿が多少楽にはなるが、別に機能がなくともやりようはある。
 勿論、それが最後の一手を詰めることもあるし、拘りを持つのは悪い事ではない。
「ソフィアちゃんだと、やっぱり鎧? 盾?」
「そうですね……古の騎士は、そう呼びかけていると、ソフィアは感じました」
 圧力を増すデウスエクスに今のままとはいかないが、彼女の受け継いだ古の騎士の武具は、受け継いだ騎士の魂の元に完成した品だ。
 その守る意志を大事にしたいとソフィアは手直された具足に手足を通した。

「先ずはお前も見たことのある雷結びだ、さぁどう捌く!?」
「拳と蹴りを合わせた体術だけじゃない、これも俺の一部だろ!」
 麗威の本気の圧力に大地が揺れる、雷がとどろく。さしものエリアスも受け止めるのが精いっぱい……と、思い来や、その資格を襲い掛かる茶虎の閃光。
「なっ、なにぃ!」
 エリアスの注目した隙をつくウイングキャット『ロキ』の猫ひっかきに麗威の手元がずれる。
「ならば――!」
 少々危うい手元で放たれる黒い雷、『霹靂神』がはなった、霧と積乱雲からの無数の落雷が訓練場を撃ち抜いていく。
「はっはは、こらめちゃくちゃやりやがるなァ!」
「容赦なく俺の近場に乱れ堕ちるから気をつけろ? っていうかロキィィー!」
 ロキに狂った手元もものともせず荒れ狂う麗威の大技に、エリアスも生み出した新手を切った。

●2019年の挑戦
 遠来のような閃光と時折聞こえる咆哮。麗威たちの激しい組手が伝わってくるなか、ソフィアと工場の仲間たちは仕上げを終えた武具を確認した。
「……よし、これで完成だ。試してみてくれ」
「何から何までありがとうございます」
 マークから手渡された『サイティングナイトヘルム』の機能美を丹念に鑑賞し、ソフィアはそれを鎧装の兜へと追加する。
 装甲を重ねたアームドフォートに方型盾を左右上腕部で二基。ゾディアックソードを二振り。鎧装騎兵の証たる装甲と武具がレプリカントの少女の魂だ。
「なんだか近代的な感じ……!」
「ソフィアは剣による近接戦闘が多いと聞いた。剣や盾で戦闘を行いながらでも、素早い照準を助けてくれるはずだ」
 機能を説明するマークのアイセンサーも、目を細めるように輝きを変えた。素振りと共に照準機能を確認したソフィアにイズナがおぉ、と声を漏らす。
「すごいね、これ。作ったマークも、ソフィアも」
「ありがとうございます……そういえば、イズナ殿とは、まだお話を聞けておりませんでした……」
 ちょっと申し訳なさそうなソフィアに、気にしない、とイズナは手を振って言う。
「わたしの武器は……黄金の剣もあるけど、やっぱり樹の槍かなぁって」
 それは『黄金色に波打つ稲穂』。世界樹より創られた神秘の槍は彼女にグラビティとして力を授けている。風に揺られて波打つと、舞い上がる無数の金色の光が小枝となって獲物を射抜く。
「これは……そういうのも、ありですね……!」
「えへへ、わたしの成長の権能(ちから)でいっぱい成長させていっぱい創って投げつける感じかな? ソフィアもよかったら戦ってみる? ソフィアの好きに決めていいよ、ほら一年前の……ワイルドグラビティ!」
「おっ、そっちもやってるみたいだな」
 イズナと湧く仲間たちに降ってきた声はエリアスのもの。
 服も体もボロボロだが、対照的にその声は剛毅にあふれているのが印象的だった。
「うん、ワイルドグラビティの話……って、大丈夫!?」
「いやぁ驚いた勢いで少々やってしまって……エリアスの技に助けられたところ」
 続いてやってきた麗威が説明しながら、ああいう技もいいなぁと笑った。
「武装ごと癒しに特化させた、名付けて『癒しの拳・改』だ」
「成程、癒しの零距離射撃か」
 打ち合わせた拳から放たれるヒールの力に、マークが納得とうなづく。
「戦いが人生みたいな種族に生まれたが、今は命が有限だからな。なら、こんなのも悪くないだろ?」
「まぁ、戦う意味は、あの頃よりかははっきりしたかな?」
 エリアスにふられた麗威も楽しそうに笑う。彼らオウガの中でも、この一年は大きな変化の一念だったのだろう。
「で、そっちはどうなんだ? 名前付けとかさ」
「去年の合わせ技……イズナ殿の技を、ソフィアが後押しする感じを元でどうでしょうか? ……名前は……グングニルは『揺れ動くもの』といった由来で……」
「ドイツ語だと『シャッテンファルベ』とかそんな感じかな? 十字斬でシャッテン・クロイツ……うーん」
 相手は任せろと構えるエリアス、それに仲間たちに悩ましくも楽しい試行錯誤は続く。
 でもきっとこの調子なら、昨年よりももっと強く、きっと形を出せるはずだ。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月23日
難度:易しい
参加:10人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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