包み込め、ラミネーター

作者:baron

 ジューっ。
 郊外にある古アパートのガラス窓が融け、カーテンが焼け落ちた。
『ラミ・ネーたー!』
 部屋から出て来たナニカは、奇声をあげるとその辺りの物を固め始めた。
 破片や木々をプラスチックか何かで固めると、砲弾や、カードの刃の様にして飛ばして来る。
『ラミラミラミラミ』
 そいつは周囲に人が居ないと知ると、町中を目指して移動したのである。


「郊外に有る古アパートに放置されていた機械がダモクレス化します。壊れたまま忘れられたモノに、ダモクレスが入り込んだようですね」
 セリカ・リュミエールは名刺大のカードを取り出した。
 それにはちょっとした絵が描かれており、プラスチックシートで覆われて居るのが特徴的だ。
「郊外なのと時間的にまだ人が通らない時間ですので、幸いにも被害は出ていません。ですが放置すれば通りかかった人が殺され、街に辿りつけば虐殺事件が起きてしまうでしょう」
 その前に対処して欲しいと言いながら、セリカは説明を続ける。
「ダモクレスはラミネータと言う機械を元にして居ます。このようなカードをコーティングするように、相手を捕まえたり、固定した物を飛ばして来ます」
「そういえばアレって結構安くなってるんだよね。オリジナルのカードゲームとかに使ったことある」
「うちはTRPGとかのデータをカードにしたな。覚えるのが楽なんだ」
 そんな事を言いながら、地図を受け取り相談を始める。
「攻撃方法は射撃系だけど得意で、格闘もできなくはないんだっけ?」
「そうですね。どんな方法かは判りませんが、注意しておいた方が良いでしょうあくまで参考にして居るだけですから」
 セリカは古株のケルベロス達の質問に答え、新人達にどうしてかを説明していく。
 取りついた形状は得意技に影響は出るが、別に使えない訳ではないので油断は禁物だと。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは放置できません。今の内に対処をよろしくお願いしますね」
 セリカはそう言うと資料を預け、出発の準備に向かうのであった。


参加者
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)
エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)

■リプレイ


 だいぶ暖かくなり、花粉の害もかなり控えめになってきた。
 猫たちはブロック塀や屋根の上でお昼寝中だ。
「なーっ」
 とグラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)が声を掛ければ、猫もニャーと返事を返す。
 中にはペタンと寝ころんだまま、腹を撫でろとせがむ巨猫も居た。
「敵はえっと、コーティングする機械……だったかー? こういうのだと、どーなるんだー?」
 グラニテの顔は無表情だが、その視線と声は好奇心でいっぱいだ。
 あまりも嬉しそうなトーンなので申し訳ないのだが、それは無理な注文である。
「紙類を、熱圧着でコーティングする機械なのですね。さすがに猫は無理ですわ」
「そうなのかー」
 エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)の返事に、残念にションボリと、それでいて安心したような声。
 その微笑ましい光景に、周囲は自然と笑みがこぼれた。
「とはいえ用途が広そうですわね。地球は細かくもかゆい所に手が届く便利な物に溢れていますね」
「その分、多過ぎて帰り見られない物も多いのが残念ですね……」
 エレインフィーラはそう言いながらも笑顔を曇らせた。
 その視線を追ってルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)も苦笑する。
「だからこそ、ダモクレスの温床となり易いとは皮肉な物です」
 エレインフィーラのまま視線の先には、よく判らない機械が庭の方に積んである。
 散水機かそれとも農業用か判らないが、まだ動きそうな物なのにアレだ。
 わずかでも壊れた物は倉庫にしまいっぱなしか、場合によっては適当な場所に捨てられかねない。
「まぁ、ダモクレスとなったからには、人に危害が加わる前に倒すのみです」
 ルピナスは頷きつつ、問題のアパートの前で身構えた。

 どこだろうと探し始めた所、部屋の一つが燃え始める。
『ラミ・ネーたー!』
 ガラス窓がジュっと融け、カーテンが燃えて居るのが判る。
 出て来たのはプリンターよりも小さく、一見、子供用の鍵盤ハーモニカだとかミシンのような機械だ。
 もちろん鍵盤や縫製用のパーツなどはない。あれは単に抑える為の場所、そして今はカードホルダーだろう。
「ラミネーターは、実物は初めて見ますけど。面白そうな道具ではあるのですよね」
「あまり怖そうな感じはしませんが、油断は禁物ですね」
 ルピナスと旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)は間合いを計りながら左右へ。
 まずは壁を形成して町の中心部への道を遮りつつ、ここで足止めの予定だ。
「気を引き締めて、速やかに仕留めるとしましょう。……いや、誰も通って居ない今がチャンスだ」
 嘉内は周囲を確認し、意識を集中させると戦いに集中した。
『ラミラミラミラミ』
 コーティングにはシールを使う筈だが、こいつはその辺のプラスチックか何かを取り込んで放って来る。
 白色の塊が、空中で融けて白く煮えたぎる!
「現れましたね、ラミネーターとやら。あなたの熱は私が全て受け止めます」
「速攻で……カタを付けるっ! 最初から全力で行くぞ!」
 放たれた攻撃にエレインフィーラが立ち塞がり、その脇を抜けて嘉内が飛び込んで行った。
 エレインフィーラの腕や髪にプラスチックがこびりつき、危うい所で嘉内が走り抜ける。
 こうしてダモクレスとケルベロスの戦いが始まった。


「まずはその防御、削らせてもらう!」
 嘉内は体を低くしたまま飛び込むと、弾を仲間に任せた。
 そして身を起こしながら、アームドフォートのデータを読み上げる。
「隙あり!」
 装甲板の隙間を殴りつつ、ブースターを掛けて圧力を与えて行った。
 そこへ新たな影が襲い掛る。
「ここで抑えます。……無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 ルピナスはエネルギーで形作られた剣を無数に呼び寄せた。
 そして合図を掛けると、ソレは次々にダモクレスを目指す。
 避けようとしても許さず、右から左から切り刻んで行く。
「まずはこれでも喰らいなさい! いずれアイスエルフの制圧を持って氷漬けにして差し上げましょう」
 そこへエレインフィーラが飛び込み強烈な蹴りを浴びせた。
 そして仲間たちが一撃離脱で離れていく中、その場に留まり闘気を高まらせて仁王立ちに成る。
 先ほど受けた傷など恐れない。なぜならば……。
「わたしが何とかするぞー。被害は出させないし、この戦いでも出さないからなー!」
 グラニテは両手いっぱいに符を用意して、前に向かって投げながらふと思いついた。
 常温に戻って白く固まり始めたプラスチックを、符が代わりに受け取り、固まって行ったからだ。
「そういえば、これは、どうかなー?」
「ヒール、助かりますわ。……それならラミネートできると思いますよ」
 グラニテの質問の意図を悟り、エレインフィーラは治療に対するお礼と共に答えた。
 紙でできた符をラミネートで包み、カードにするのは十分可能だろう。
 もしかしたら、もう既にやっている人間も居るのではないかとすら思った。
「そっかー。後で造って見るのも面白いかもなー」
 それでもグラニテには良く判らない。
 だって実際にやって見たこと無いですからね。
 でも、エレインフィーラが言うのです。ルピナスや嘉内だって当然そうに頷いて居ます。
「その為にも、がんばるぞー。おー」
 きっとみんなでやったら楽しいでしょう。今からワクワクしてくるじゃないですか。

 それはそれとして、ダモクレスが待ってくれる筈も無い。
 ついでに言うと、確実にカバー出来る訳でもない。
『ラミー!』
 今度はカードを放って来た。
 そいつは手裏剣の様に、高速で射出される。
「くっ! 危ういところで抜かれる所でしたわ」
 なんとか今回もエレインフィーラは割って入ることに成功したが、今のはギリギリだった。
 その身で受けることで服や装甲が破れる程度で済んだが、さすが今後の全てを防ぐのは難しいだろう。
 今はともかく、他の仲間に攻撃が行った場合、回復調整に気を使わなければなるまい。
「ならばやられる前に倒すまで! 此はデウスエクスの闇を祓い、未来を導く希望の翼――。その羽ばたきは、何人たりとも逃しはしない!」
 嘉内は逃がしはしないぞと、魔法によって翼を作りあげた。
 そのエメラルド色に輝く翼は幻だが、鎧装から散布したナノマシンを使う事で実体化する!
 翼を羽ばたかせて羽根を自律攻撃兵器として射出し、刃や光の弾として攻撃し始めた。
「この一撃で、氷漬けにしてあげますよ!」
 そこへルピナスが踊りかかり、白い杖を一閃した。
 凍気を叩き込んで一気に冷却していく。
 ピキピキと氷が張り始め、ダモクレスが持つ内なる熱がそれを融かして対抗して行く。
「こんどは、わたしが先にヒールするぞー」
 グラニテとエレインフィーラはほぼ同じ速度なので、たまに順番が入れ替わる事もある。
 とはいえやることがいきなり変わったりはしないので、先ほどと同じく符をまくだけだ。
 やはり炎は怖いし、全員に防御結界を張り終えるまで、丹念に周囲を観察して行く。
「踊りなさい! カーリードゥルガー」
 やや遅れてエレインフィーラは女神を開放した。
 パズルより解き放たれた戦いの女神は、まさに踊る様に剣を振るう。
 無数の手を持ち時に変化しながら、ダモクレスを切り刻んで行くのだ。
『ラミ、ネーター!』
 これに対してダモクレスは今までよりも更に強烈で、溢れかえる熱を今度こそ炎として放った。
「やってくれる! だがこの程度で、私達は負けたりはしない!」
 それは範囲攻撃ゆえに全員を守れず、嘉内は焼けつくような痛みを受けた。
 だが幸いにも、あるいはグラニテのお陰で人体発火などしはしない。
 目に物見せてやるぞと睨みつけ、最後まで戦い抜く事を決意したのである。


 それから時間が経過し、一進一退の攻防が続く。
 敵の攻撃はそれほど強くはないが炎などの負荷が大きく、治療に手が取られる事もある。
 とはいえ治癒を兼ねた援護を行う事で、ケルベロス立ちは次第に準備を整えつつあった。
「連れたようですね? そろそろ私も本気で制圧させて頂きます」
 単発の攻撃がエレインフィーラへ集中し始め、彼女へ他の者を守れなくなることも減って来た。
 そこでエレインフィーラは攻撃重視へ切り替えることにする。
「はっ!」
 エレインフィーラは鉄槌を携えた後、軽やかに蹴りを放った。
 そのまま鉄槌を持つことに寄る重心の違いによって回転し、もう一度蹴りつける。
 そして鉄槌は担ぎ直す事でバランスを取り、身構えるのであった。
「またボーボーだぞー。ちゅういほー」
『ラミ、ネーター!』
 グラニテが精神力で盾を造って居ると、敵がまた以前と同じ動きを始めた。
 ブルブル震えて中に詰まった塊を吐き出し、途中でそれが燃え始める。
「っ! ですがこの程度、と言わせていただきましょう!」
「助かります。今回は燃えている人が居ない摸様ですので、このチャンスを活かしましょう」
 エレインフィーラは左右に居る攻撃役の内、ルピナスを守ることに成功した。

 カバーは必ずしも成功する訳ではないし、負荷を同時に受ける事もあれば、まるで受けない事もある。
 そういう意味で今回は運が良い方だろうし、これまで積み重ねて来た防壁の結果でもあった。
「ここからは逃がさない様に注意しましょう。逃げられたら大変です」
「判ってる! 反撃を恐れるなよ!」
 今までの苦労が、むくわれた瞬間であろう。この機を逃さず、ケルベロス攻勢に移った。
 ルピナスと嘉内は挟み込むように左右に別れ、両側から攻め掛った。
 現在はアパートから道へ抜ける場所を封鎖しているが、アパートの敷地へ戻ることも許さないようにする為だ。
 本格的に包囲網に切り替えつつ、人数の問題で抜けられない様に中央はエレインフィーラとその後ろに居るグラニテに任せる。
「おお!」
 嘉内は体当たりを掛け、ダモクレスの装甲に入った亀裂へ攻撃を叩きつけた。
「まだまだです。螺旋の力よ、敵を内部から破壊せよ!」
 ルピナスは反対側から迫り、腕を捻る様に掌を合わせた。
 螺旋の力をグラビティによって高め、自らの体を通して拡大。
 掌底を当てた瞬間にダモクレスに注ぎ込んだのである。
「傷はこっちで直すのだー。だから……」
「みなまで言う必要はありませんわ。参ります!」
 今回カバーに成功しているのと誰も炎も浴びて無い居ることもあり、グラニテだけで治癒の手が足りそうだ。
 エレインフィーラは符の発動を確認した段階で走り出し、掲げた鉄槌を降り降ろす!
 散りゆく符の雨の中、凍れる息吹を載せた一撃が見舞われる。
 以前に振るった時は外れたが、今度は見事に命中。装甲の代わりに氷で蓋をして、追い込むことに成功した。
『ラミラミラミー!』
「来るのは判って居ましたわ。さあ、今の内に!」
 エレインフィーラは飛んで来るカード状の刃を、蹴りで叩き落とした。
 仲間を守ってはそうはいかないが、来ると判って居るならばグラビティを纏う事で防御出来る。
「トドメは任せた!」
 嘉内はエメラルド色の鮮やかな翼を広げ、自立機動する羽より閃光を放って行く。
 既に装甲が殆どない状態だ、当たりさえすれば倒す事は難しくも無い。
「それでは、これで閉幕ですね!」
 緑色の閃光の中に、黒い光が混じり始める。
 ルピナスが呼び寄せたエネルギ-の剣が、ダモクレスに降り注いで終局をもたらしたのだ。
 一本だけならばまだしも、何本も突き刺さってはここまで。もし動けたとしても、他の仲間がトドメを刺したであろう。


 ボン! と最後に盛大な音を立てて、ラミネーター型ダモクレスが吹き飛んだ。
 中に詰まったプラスチックか何かの欠片も弾け、一緒に入って居た髪もまた乱れ飛んでいく。
「終わったのでしょうか? 消火完了、といった所ですね」
 エレインフィーラは浮かせていた足を降ろした。
 見れば仲間達も同じ様に、得物を降ろし武装を解除して行く。
「そうだな……ああ。そうですね。残りはヒールなのですけれど……」
 嘉内緊張状態の意識を解き、戦闘態勢から日常へと回帰する。
 そしてダモクレスの残骸を拾いに向かった。
「今回はヒールを持って来ていないので、私は荷物持ちをさせていただきますね」
「それは任せるのだー。壊れたとこがあったらしっかり元通り……には、完全にはならないけど、大丈夫そうな感じに直しておくー!」
 嘉内が残骸を移動させ始めると、グラニテはペタペタと符を張って手近な物を整理し始めた。
 その様子に残り二人も頷き、手分けして治癒や修復を始める。
「先に派進ませなかったので、後は部屋で……あらこれは、こんな可愛らしいものを作っていたのですね」
「どうしました?」
 エレインフィーラがヒールしながら部屋に居度すると、ふと足を止めて落ちて居た何かを拾う。
 それを見て居たルピナスが尋ねると……。
「凍える吹雪の中にあって、雪は時にあなたを温める事もあるのをご存知かしら? ……そう、こんな風に」
 エレインフィーラが拾ったのは、ラミネートされたカードだ。
 そこには何がしかの文字と、生き物の姿が描かれている。
「確か来た時に言ってましたわよね? 猫をラミネートしたらどうなるのかと」
「……したら、つまり、どうなるんだー……?」
 エレインフィーラガフっと吐息を吹き掛けると、曲がって居たカードが元に戻って行く。
 見えなかった絵は輪郭を取り戻し、文字も読めるように成った。
「これは……ぬこだー」
「あら。変異してしまったんですね。でも、これはこれで子供が作ったみたいで可愛らしいです」
 猫の柄なのだが変異したせいで、ねこでは無く、ぬことしか読めない。
 グラニテは目を丸くしてヌコという動物が居るのかを尋ね、ルピナスは笑って変異だと教えてくれた。
「集めて帰ればお土産に良いかもしれませんね。狙って作れるものではありませんし」
「その辺に興味はないんで、みんなに任せますよ」
 ルピナスの提案に嘉内は肩をすくめ、その後にみんなで笑いながら帰還した。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月15日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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