城ヶ島浸透作戦~城ヶ島を奪還せよ!

作者:カンナミユ


 ばさり。
 翼をはためかせ、ドラゴンは地を蹴り空へと羽ばたいた。
 ばさり。ばさり。
 羽ばたくドラゴンは一体だけではない。既に上空には数え切れぬドラゴンの姿がある。
 ――と。
 飛び立とうとするドラゴンがバランスを崩す。
 グオォオオオオ……!
 悲鳴に近い咆哮も弱く、地に落ちそうになる体を下から支えるのは数体のドラゴンだ。
 危なげな様子もあるが仲間達の助けもある。よろよろと飛ぶドラゴンだが、それはこの一体だけではない。周囲には仲間達の支えや守りを受けながら飛ぶドラゴンは何体もいる。
 近いのだろう、定命化が。
 ドラゴン達が向かう先は――。


 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)がヘリポートに足を運ぶと、既にケルベロス達が集まっていた。
「ユグドラシルの一部でもある『大阪城』と固定型魔空回廊の設置されたドラゴンの拠点『城ヶ島』を繋ぎ、城ヶ島での定命化をなくそうとしたグランドロンによる強襲作戦は、お前達の活躍によって阻止する事に成功した。良く頑張ってくれた」
 そう話すザイフリートの労いには続きがある事をケルベロス達は感付いていた。
 強襲作戦が成功した結果、攻性植物の指揮官レプリゼンタ・カンギと強襲の首謀者であるエインヘリアルの第二王女・ハールは『ドラゴン以外のデウスエクス同盟軍が定命化で苦しむドラゴンを救うために強襲作戦を行ないケルベロスに敗北した』という事実をもって、ドラゴン勢力に対し、大阪城のユグドラシルへの『撤退と合流』を呼び掛けたのだ。
「ドラゴンは邪悪なデウスエクスだが、ネレイデスの死神達への対応などからも判るように現在のトップである魔竜達は『恩義や信義』に対してある程度報いる気性があり、ハールは、それを狙って今回の作戦を決行したのだろう」
「定命化の危機から脱する為に大阪城のユグドラシルへ多くのドラゴンを送り込む作戦の断行を決定した、という事か」
 説明を聞くケルベロスの声にザイフリートは頷く。
「定命化ドラゴンの大阪城への退避作戦は、ドラゴン勢力の命運をかけた大作戦だ。現在ドラゴン勢力が用いることのできる最大限の戦力が、この作戦の為に動員されている。と、いう事は城ヶ島の防衛には大きな隙が生じているのだ。この隙をつく事で、最小限の戦力で城ヶ島を奪還する事が可能になるだろう」
 『城ヶ島を制圧』し、かつ『固定型魔空回廊を破壊されずに手に入れる』事が今回の作戦の目的だとザイフリートは話し、手にする資料を開く。
「ドラゴンの一部が大阪城に合流したとしてもドラゴンのゲートを破壊してしまえば、そのドラゴン達は『残党勢力』に過ぎず、危険度は大きく下がるだろう。まさに、肉を切らせて骨を断つ作戦と言えるな」
 その作戦にケルベロス達は加わる事になる。


「今回の作戦はドラゴン側の隙をついた作戦だ。城ヶ島の戦力は大阪城に移動する事が難しい空を飛べないドラゴン達と、配下種族であるオークや竜牙兵といった警備戦力になる。ドラゴン側の戦略を踏まえて、作戦行動を行って欲しい」
 言いながら資料をぱらりとめくり、ザイフリートはドラゴン側の戦略を話す。

(1)大阪城へ向かったドラゴン勢力が引き返してくる可能性。
 ドラゴン勢力は大阪城に向かったドラゴンの護衛部隊を撤退させる為にケルベロス達が城ヶ島に対して陽動攻撃を行ってくる事を予測している。
 その為ケルベロスの攻撃が行われても、出発したドラゴンが城ヶ島に戻って来る事はない。

(2)固定型魔空回廊の防衛。
 ドラゴン勢力はケルベロスが少数精鋭のチームによって固定型魔空回廊の破壊を目指した、潜入作戦を行ってくる可能性を考えている。
 固定魔空回廊の設置には多大な労力が必要となる事から大阪城に新たな固定型魔空回廊を設置されるまでは、城ヶ島の固定型魔空回廊を失いたく無いと考えており、固定型魔空回廊の防衛を行うだろう。

(3)固定型魔空回廊の破棄。
 ケルベロスの目的が固定型魔空回廊の制圧による「竜十字島への逆侵攻」であると気づかれた場合、ドラゴンは自ら固定型魔空回廊を破壊して破棄する危険性がある。

 そう説明するザイフリートに城ヶ島の防衛に関する質問の声が上がる。
「城ヶ島の防衛戦力は貪食竜ボレアース、喪亡竜エウロス、それに空を飛べないドラゴンが主力となっているが、ほとんどが大阪城へ向かっており、少数しか残っていない。周辺の海域もドラゴンの配置はない。大阪へ向かったドラゴン達を海中から護衛する為に同行しているからな」


 今回の作戦は城ヶ島への陽動作戦と見せかけた侵攻である。
「少人数のチーム毎に様々な方法で城ヶ島に潜入・上陸を行い、固定型魔空回廊がある島の中心部へと向かってもらう。城ヶ島海南神社跡だが周囲は焼き払われ、ドラゴンが活動しやすいよう見晴らしは良くなっているようだ」
 ケルベロスの狙いが陽動であり、固定型魔空回廊の破壊までは目指していないと見せかける事ができれば、侵攻してきたチームを蹴散らそうとドラゴン達が迎撃に出てくるので、比較的容易に各個撃破が可能となる。
 そしてこの迎撃戦の中、隠密行動に特化した3チーム程度が迎撃をすりぬけて固定型魔空回廊に到達する事ができれば最善だろうともザイフリートは話す。
「固定型魔空回廊に到達する事ができた場合、回廊の防衛に残っていたドラゴンを撃破し、魔空回廊を制圧を目指してくれ。制圧できれば竜十字島の増援を阻止できるので、残る敵を掃討すれば、城ヶ島の奪還は完了する。隠密チームによる制圧が行えなかった場合は、魔空回廊を防衛しようと集結するドラゴン達と異変を知り竜十字島から増援で現れるドラゴン達を相手取って、決戦を行う事になるだろう」
 決戦時、ドラゴン達は『固定型魔空回廊』を防衛しようとするが、ケルベロスの真の目的に気づいてしまうと魔空回廊の破壊に方針を転換する危険がある。そうならない為にもケルベロス達のの目的が『固定型魔空回廊の破壊』であると誤解させたまま、敵を排除する必要がある。
 なお魔空回廊を制圧するか魔空回廊が破壊されると、竜十字島からの増援が無くなる為、残る敵を掃討すれば城ヶ島の奪還は成功となる。

「大阪城に合流したドラゴンが大阪城内に固定型魔空回廊を設置した場合、竜十字島と大阪城のデウスエクスが自由に行き来できるようになる。そうなれば、大阪城と竜十字島のどちらかでケルベロスが決戦を挑んだ時、もう片方からの増援が発しえるということだ」
 それだけは絶対に避けたいとザイフリートは真摯な言葉を向ける。
「城ヶ島を制圧し、固定型魔空回廊を利用して竜十字島のドラゴンのゲートを破壊できれば、状況は逆転する。ドラゴンのゲートを破壊できれば、大阪城に流したドラゴン達も、残党軍に過ぎず大阪城も孤立無援となるだろう」
 ぱたんと資料を閉じ、説明を聞くケルベロス達をぐるりと見渡し、
「今後の地球の命運がかかった戦いとなる。お前達の活躍を期待する……頼んだぞ」
 それだけ言うとヘリオンへと向かっていった。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)

■リプレイ


 見上げる空は藍が薄まり、夜明けの気配も近づいている。
「ドラゴンの居城を攻略! ってゲームみたいな話だよね」
 上陸した那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)はくるりと周囲を見渡した。
 三崎工場の南側の水っ垂れあたり。まだ薄暗いが夜明け前という事もあり、作戦遂行に問題はないだろう。
「他の班は大丈夫かしら」
「きっと大丈夫だぜ」
 潮風に乱れる髪を押さえ、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)にハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)は言い、傍らのオルトロス・チビ助も肯定するように尻尾を振った。
 ドラゴンの拠点『城ヶ島』には15チームが上陸しており、固定型魔空回廊を攻略する3チームが気付かれずに潜入できるように動く陽動班の一つとして今回は行動する事になる。
 他の班もそれぞれ島に上陸している筈だ。
「まぁ、主人公側じゃなくてサポート側だけど、でも目立たないそこが最も大事なポジションだから気合い入れないとね!」
「そうだね」
 周囲の気配に注意しながら、摩琴に頷く七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)は用意してきた機材を下すと手早く準備に取り掛かる。
 今回の作戦は調査で攻略するつもりは無いと見せかける為に用意した特製のデジタルカメラを頭にセットし、ビデオカメラも録画状態に。防水に優れているから万が一の事があっても大丈夫だろう。
 地図を手にする月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)の傍には義兄、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)がおり、既に周辺の異変や変化がないかと気を向けているようだ。
 仲間達と共に準備を整える相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)だが、ふと視界に伏見・万(万獣の檻・e02075)が入る。
 手にはスキットルがあり、準備を済ませた万は中身をあおっていた。これから陽動作戦を開始するというのに酒が好きなのか、それとも景気づけか。
 作戦の準備が完了するのにそう時間はかからなかった。
「じゃあ計画通りに出発だよ!」
 戦闘準備を完全に整えた摩琴が地図を取り出すのを目に、万はスキットルを懐にしまうとケルベロス達は歩き出す。
 その先に待つものは――。


「ったく、竜牙兵しか見えねェなあ。あの辺りにあるのは見張り台か? 他に敵は……」
 装着した目線カメラに映る様子を万は解説しつつ辺りを見渡した。
 順調に進んでいたケルベロス達であったが、小高い場所に見張り台を見つけて警戒しつつ、カメラやビデオには見張り台で警戒をする竜牙兵がしっかりと収める事ができた。
 こちらから積極的に戦闘を仕掛けようにも、竜牙兵との距離が離れている。
「こっちを見ているな」
 竜人の声に向いたハインツもその様子が見えた。
 見張り台で警戒する竜牙兵も警戒を強めたようだが、距離がある為か即座に攻撃に転じる様子はない。双眼鏡を使い注意深く見れば、竜牙兵達はこちらの様子になにやら言葉を交わしているのが見える。
 程なくして竜牙兵の数体が見張り台から姿を消した。
「オレ達の事を報告しに行ったかな」
「そうじゃないと困るわね」
 ハインツと言葉を交わすバジルは目を細め、その姿を双眼鏡で追う。調査する様子を見ていた竜牙兵は報告に行ったに違いない。
「ボク達が威力偵察に来てるって報告してもらわないとね」
 機龍の蹄を手に周囲を警戒する那磁霧は周囲を見渡した。
 そう、『ケルベロスが調査に来ている』と報告に行ってもらわなければ困るのだ。
 陽動作戦が展開されている中、このチームは調査を装っている。『本格的な攻略をするのならば、調査の必要はない。これは本攻略の前の威力調査なのだ』と、敵に思わせるのが立てた作戦の一つなのだ。
 見張り台に立つ竜牙兵は相変わらずこちらを警戒するだけで攻撃を仕掛けてこない。こちらの様子を伺っているのだろう。
 戦うには難しいし、相手が動かないなら仕方がない。先へと進むだけだ。
「魔空回廊のある海南神社、だな」
 朔耶は記録を記した地図を確認するが、ここからは距離がある。
「距離はあるけど大丈夫! 調査を続けながら行こう!」
 元気な笑顔を見せ、摩琴は地図を確認し先導する。
 見張り台から離れると竜牙兵の警戒網から離れたのだろう。もしかすると、移動した事も報告されたのだろう。ケルベロス達は外縁部から離れ、海南神社に向けて索敵しながら注意深く進む。
 ビデオやカメラで周囲を撮影しながら瑪璃瑠は他の仲間達がいるかも注意してみるものの、仲間はおろか敵の気配もない。ここはドラゴンが多く存在する地域。きっと姿を隠しているのだろう。
 他の陽動班はどうしているだろうか。そして、固定型魔空回廊へと潜入する仲間達は――。
 ん……ずん……。
 地響きに仲間達の足が止まる。先導する那磁霧は得物を構え直し、場所を特定すべく意識を集中させたヴォルフが時計でその位置を示す。
 物陰から姿を表すのは、定命化が進み島から離れる事が出来なかったドラゴン。
 ずしん……ずしん……。
 1体だけではない。数体のドラゴンが――気付いた!
 グルル……ルル……。
 グルアアアアアアアァァァァ!!!
 竜牙兵とは違い、ドラゴンはケルベロスの調査をよしとしなかった。敵意の咆哮が体がびりびりと響く。
 調査はここまでだ。ここからはもう一つの作戦である。
「おい」
 その声にテレビウム・マンデリンが見上げれば、竜人の顔は髑髏の面となり、
「アクセス、リル……。うん、分かってる。この力、使いこなしてみせるんだよ」
 瑪璃瑠の左の瞳が金を灯す。
「それじゃあいきましょうか」
 戦闘態勢を整える中、夜明け前の涼やかな風がバジルの髪を揺らし――。
 オオオオオオオオォォォォォ!!!!!
 咆哮が轟いた。


「来るぞ!」
 鋭い竜人の声に仲間達は身構える。
 目前の竜は4体。その内の1体が巨大な尾を振るったのだ。
 ぶおぉんっ!
「リキ」
 空を震わせる音。朔耶の声にオルトロス・リキは仲間の前に立ち、竜人のテレビウムは言葉をかける必要もなかった。攻撃を防ぐそのマスクの奥の瞳は凶爪とブレスを捉え、更に前へと踏み込んだ。
 攻撃は全て受け止めてみせる。
「大丈夫?」
「気にするな」
 攻撃を庇いぼだりと血が流れ、心配の声を掛けたが返る声に摩琴はきっと前を見据えた。雷を纏うドラゴン達が殺意を向けている。
「派手に戦って目立とうじゃない♪」
 こちらも負ける訳にはいかない。ゆらりと体が動き、オーロラピンクの髪もふわりと動く。
「ボクの中に眠る”暗殺”の力、ちょっとだけ見せてあげる」
 グアアアアァァ!!
 回避困難な斬撃にドラゴンは声を上げ、朔耶が仲間を守る為のサークリットチェインを展開するのを目にヴォルフは大型のシースナイフを構えた。
 地を蹴り、一気に距離を縮めて斬り裂く後を竜人が続く。
「まさかとは思うが植物サマんとこ逃げたら助かるとか思ってねえよな?」
 が、づん!
 煌めく脚撃と共にテレビウムの攻撃が決まる。
「さて、ドラゴンを喰うか」
 サークリットチェインを展開させる万が視線を向ければ、視界に入るのは微弱な雷光を発する球体状の雲塊を生成するハインツだ。掌に生成されたそれは上空へと投げ飛ばされ、
「雷雲よ、みんなに力を! 奔れ、研ぎ澄ませ、《閃》ーーッ!!」
「――リミッター限定解除! 廻れ、廻れ、夢現よ廻れ!」
 竜ノ加護が稲妻となり仲間達の加護となる。それに続くように瑪璃瑠が緋眼のメリーと金眼のリルに分かれると互いの魔具を共鳴させ、常よりも広範囲で現と夢を入れ替えた。
 ドラゴンの攻撃で受けた痛みがすうと引き、流れる血もぴたりと止まる。
「まずはあのドラゴンから倒さないとね」
 バジルは足を振り上げる。4体の中で仲間を庇うドラゴンがいるのをケルベロス達はしっかりと見ていた。
 だあん!!
 オオオオオォォォ!!
 がしりと腕で受けるドラゴンは返すように力任せに腕を振り上げるが、その爪は緑の髪をはらりと数本落とすだけで、残りは髑髏が立ち塞がった。
「させるかよ!!」
 サーヴァントを除けばディフェンダーは竜人ただ一人。全てを受ける心意気で前に立つが、やはり全ては難しい。
 咆哮が響き立て続けに迫る攻撃を万は跳び避け、ヴォルフは得物で打ち払ってみせた。
「定命化が進んでるみたいだけど、やっぱり手強いね」
「大人しく寿命のある生を受け入れりゃ少しは楽しめるんじゃないかい?」
 攻撃を耐えきる摩琴は額を伝う血をぐいとぬぐい、朔耶の言葉を背に地を蹴った。

 今回、チームが取った作戦は『島の威力偵察』そして『大阪に行ったドラゴン勢力を呼び戻すよう見せかける事』。
「解放……ポテさん、お願いしますっ!」
 ばさり。朔耶の白いコキンメフクロウが羽ばたき放つ魔法弾に義兄の刃が後を追う。
 ギャアアアアァァァ!!
 ざぐりと裂いた傷口から血が溢れ、集中攻撃を受けるドラゴンは悲鳴を上げた。
「魔竜の奴らは元気にしてるかい?」
 朔耶はドラゴン達へ問うが、返る言葉はない。
 竜人は気に食わなかった。今更慌てて手を組む敵の見識の無さが気に食わなかった。
 だから、
「まずはテメエらから死んどけや、なぁッッ!!」
 ――殺す。
「永遠に廊下に立ってやがれ」
「引き裂け、喰らえ、攻め立てろ!」
 オォ……アアアァァァアアアア……!!!
 ワイルドスペースから雷のように爆ぜ暴れる光の強弓を呼び出し、竜人が影の矢で敵を射抜けば、その一撃に暴れる背後を飢えた獣達の牙が襲い掛かる。傷口を狙い食い込む牙。ぼたぼたと血がこぼれ、悲鳴が上がる。
 ずう……ん……。
 ドラゴンは己が流した血に沈んだ。びくびくとした痙攣もピタリと止まる。
「番犬の一斉攻撃だ。いくら弱っていても、あんたらを見捨てるほどお仲間は薄情ではないだろう」
「お仲間呼び戻すなら早くするこった。てめえらの便利なドア、じきに使えなくなっちまうぜ?」
 仲間を癒しながらのハインツの声に竜人も言い、チビ助がたっと駆けた。可愛い外見をしていても、その攻撃は苛烈だ。
「今回は質より数だ。弱そうなやつから順次叩くぞ!」
 素早い動きに翻弄され攻撃を受ける様子を目にハインツは声を上げ、
「ボクたちは兎にして獅子。月下咆哮!」
 決意の剣は獅子の如き砲台となり、瑪璃瑠の一撃は新たな標的へと咆哮を上げる。
 得物を構えなおす摩琴は前を見据え、戦いは続く。
 ハインツの言葉を借りるのなら、質より数の戦い。
「Weigern……」
 ヴォルフが紡ぐ太古の魔術を受けたドラゴンは竜人と万、そしてバジルの攻撃を立て続けに受け、倒れた。
「ドラゴンズロアとかで助けを呼ばなくていいの?」
「おい、さっさとお仲間を呼び戻さねえと島中のドラゴン全て殺すぞ」
 瑪璃瑠と竜人の声を聞き、挑発の言葉を放つハインツの心はちくりと痛む。
 ドラゴンたちの『仲間を守りたい』という気持ちを利用する挑発の言葉。この言い方では、なんだかこちらがワルモノみたいだ。
 苦渋の表情をぎゅっと拳で握りしめ、
「生きたいと願う気持ちは同じだけど、その上でボクたちも押し通るんだよ!」
 瑪璃瑠にバジルは頷き戦いは続くが、ドラゴンも必死だった。
 戦いの音を聞きつけ新たにドラゴンが現れ、ケルベロス達は更なる戦いを続ける事になる。
 戦いを長引かせるのも作戦の一つだ。敵の引き付け倒せるだけ倒す。
 瑪璃瑠とハインツが声を掛け合い仲間達を癒し、
「甘露転じて毒となる、用法容量を守って正しく使ってね」
 バジルの毒がドラゴン達へと回っていく。
 毒は回る――が、長期戦はだんだんと不利になっていく。
 仲間達の前に立ち戦い続けた竜人が遂に集中攻撃に倒れ、
「義兄!」
「…………」
 義妹を気遣う言葉を微かに残し、力を出し切ったヴォルフも崩れ落ちる。
 数体のドラゴンを倒した。こちらはまだ二人――まだ、まだ戦える。
「ボクは……負けない!」
 これが最後の一撃になるかもしれない。
 血で滲む視界をぎゅっと拭うと最後の力を振り絞り、満身創痍のドラゴンにとどめを刺した摩琴はドラゴンの攻撃に崩れ落ちた。
 全力を尽くした仲間を戦闘に巻き込まれない場所までバジルが運んでいると――聞こえる。
 ずしん、ずしん、ずしん……。
 それは、新たな敵の音。
 オオオォォォオオオオ!!
 グルオアァァアアアア!!
「新手か……」
 空気をも振るわすその怒号に汗を拭う事も忘れ、万は呻く。
 ケルベロス達と同じように島に残ったドラゴン達も『仲間を守りたい』という思いがあるのだろう。仲間を倒されたドラゴン達は仲間を倒された怒りに震えているのだろう。
「ハインツさん!」
「避けて!」
「っ、! ……!!」
 鋭いバジルと瑪璃瑠の声に振り向くも間に合わない。避ける事は叶わず、その一撃をハインツは不意打ちに近い形で受けてしまった。
 ばっと血が散り、傷口から血が溢れ、止まらない。傍らにいたチビ助も攻撃に力尽き、その姿はざあっと消えてしまう。
「ハインツ君、大丈夫? しっかりして!」
「ごめ、ん……、……」
 攻撃を受け、それでもなんとか踏みとどまろうとするが、既に限界を超えていた。膝をつき、駆け寄る瑪璃瑠の声を聞いたが、それも霞む視界と共に消えてしまった。


 4名が倒れ、4名が残った。
 半数が倒れた状況となり、4人は倒れた仲間をそれぞれ抱え、後ずさる。
 これ以上の戦闘は行わない。それは、決めていた撤退条件でもある。
 オオオオオオオオォォォォォ……!!
 それぞれ武器を構えたまま後ずさり、咆哮を背に一気に駆けだした。
 駆ける弾みで崩れそうになる瑪璃瑠を抱え直し、バジルは思う。
 みんなで積み上げてみたものは、着実にドラゴンを追い詰めただろう。じわじわと。
 それはまるで毒のように――。
「ボク達ちゃんとサポートできたかな」
「大丈夫だ」
 義兄を支える朔耶は瑪璃瑠に言葉を返す。
 竜牙兵に誤情報を掴ませ、島に残るドラゴンを出来るだけ倒せた。
「まぁ、多少なりとも嫌がらせと情報収集が出来ただけでも良しとするか!」
 そう、退却はしているものの、陽動としては十分な働きができたはずだ。
 ドラゴンの追跡を振り切り、ケルベロス達は地図に記した経路を頼りに来た道を駆け抜ける。
 戻る途中、見張り台近くを通過したが竜牙兵の姿はなかった。おそらく他の陽動班の対応に向かったのだろう。
 水平線を見れば空は白み、日の出も近い。
 水っ垂れまで敵と遭遇することなく無事に戻った4人は動けない仲間達を乗せる。出発準備をする中、万は警戒しながらもスキットルを取り出すが――。
「……結果を聞きながら飲むのも悪くねェか」
 懐にねじ込み、8人は島から撤退した。

 こうして陽動作戦は終了した。
 自分達の行動の結果、そして仲間達の行動の結果はいずれ知る事になるだろう。
 日が昇り、朝を迎えたその先で。

作者:カンナミユ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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