城ヶ島浸透作戦~狙え竜十字島! 島の回廊を制圧せよ

作者:青葉桂都

●竜は空へ舞う
 神奈川県、三浦半島の南端に、今や竜の支配する土地となった島がある。
 城ヶ島と呼ばれるその島は、ケルベロスとデウスエクスの戦いの中でドラゴン勢力によって支配下に置かれていた。
 今、ドラゴンたちはこの地から飛び立とうとしていた。
「大阪城か……たどりつけるといいんだがな」
 けれどもその中に、よたよたとふらついた動きをしている者が少なからずいる。
 弱っている理由はもちろん1つしかない。
「いや、たどりつかないわけにはいかんか……せいぜい、攻性植物やエインヘリアルと一緒に戦い、憎悪と拒絶を集めてくるとしよう」
 身体に力を入れ直して、仲間たちと共にドラゴンは飛ぶ。
 向かう先は陸地ではなく太平洋だ。
 日本列島の上空を突破していないのは、もちろんケルベロスの妨害が少しでもしにくいルートで移動を行うためだ。
 海の上を移動すれば、水棲型のドラゴンによる援護も可能という目論見もあるだろう。
 見る者が見れば、空を飛ぶ無数のドラゴンだけでなく、海中にもドラゴンが移動していることに気づいたはずだ。
 定命化により弱った体を支えあいながら、ドラゴンたちは大阪城へと飛んでいった。

●城ヶ島攻略戦
「グランドロン迎撃戦に参加された方はお疲れさまです。ケルベロスの活躍により、城ヶ島のユグドラシル化は防ぐことができました」
 ケルベロスたちへ石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「作戦の失敗を受けて、ドラゴンたちは定命化の危機を脱するために、大阪城のユグドラシルに多くのドラゴンを送り込む作戦を断行しようとしているようです」
 実利もあるが、ドラゴンのためにデウスエクスの同盟が動いたことへの恩義を返すためという理由もおそらくあるのだろう。
 第二王女ハールはこうなる可能性も見越していたのかもしれない。成否によらず、大阪城の勢力はドラゴンを取り込めるというわけだ。
「いずれにしても、大阪城への移動にはドラゴン勢力の命運がかかっており、最大限の戦力が動員されています」
 いずれ大阪城に新たな固定型魔空回廊を設置し、城ヶ島の回廊は壊してしまうのではないかという推測もできる。
「もしも移動を阻止するつもりならケルベロス・ウォー並の大作戦が必要となり、現実的ではありません。しかし、代わりに城ヶ島の防衛には大きな隙ができています」
 この隙をつけば、城ヶ島を奪還し、そこにある魔空回廊を制圧することも可能なのだ。
 固定型の魔空回廊はドラゴンすら移動可能だが、一度に移動できるのは1体きり。出口側を制圧すればもう竜十字島から来ることができなくなる。
「さらには、逆にこちら側から侵攻をかけてドラゴンのゲートを破壊する作戦を行うことも可能となるでしょう」
 仮に大阪城にドラゴンが合流しても、ゲートさえ破壊してしまえばそれ以上大阪城のドラゴンが増えることはない。
 残党となってもドラゴンは侮れる敵ではないが、危険度が大きく下がるのは確実だ。
「さて、まず前情報として、ドラゴン側の動きについてご説明しておきます」
 芹架は言った。
「大阪城へ向かったドラゴン勢力が城ヶ島攻撃を受けて引き返してくる可能性ですが、これは低いと考えられます」
 ドラゴンの移動を阻止するのは難しい。だからこそ、敵は『移動を断念させるために』ケルベロスが攻撃をしかけたと考えると予想される。
 それに大阪城へ拠点を移そうとしている以上、もう城ヶ島の魔空回廊は重要度が低い。
「とは言っても、できるなら大阪城に新たな回廊を設置するまで、こちらの回廊を維持したいとは考えているでしょう」
 固定型魔空回廊の設置というのは気軽にできるものではないからだ。
 故に防衛戦力そのものはきちんと残している。ケルベロスが回廊破壊のために戦力を送り込んでくることは予想のうちだ。
 熊本で復活した魔竜の1体、デス・グランデリオンがその指揮官となっているようだ。
 戦力は貪欲竜ボレアースや喪亡竜エウロスをはじめとする飛行できないドラゴンたちが少数と、多くの竜牙兵やオークたちとなる。
「ただし、これは敵がケルベロスの目的が陽動か魔空回廊の破壊だと考えていることによる動きとなります」
 もしも魔空回廊を制圧して竜十字島に侵攻をかけようとしていることに気づけば、おそらく自分たちの手で回廊を破壊してしまうだろう。
「侵攻に際しては、陽動作戦と見せかける形での襲撃を行います」
 ケルベロスたちは少人数のチームで城ヶ島へと上陸し、固定型魔空回廊が存在する島の中心部、城ヶ島海南神社へ向かうことになる。
 神社の周囲はドラゴンが活動しやすいように焼き払われ、見晴らしがよくなっている。
「目的が陽動で、固定型魔空回廊の破壊までは目指していないように見せかければ、侵攻してきたチームを蹴散らすためにドラゴン達が出てくるでしょう」
 チームごとにばらばらに戦うことになるが、各個撃破するのは難しくはないはずだ。
「その戦闘中、隠密に特化したいくつか……3チームほどが、迎撃をすり抜けて固定型魔空回廊に到達できるのが最善となるでしょう」
 防衛のために残っていた敵を撃破して、固定型魔空回廊の制圧を目指すことになる。
「隠密チームによる制圧に失敗した場合は、総力戦となります。陽動チームも回廊に向かい、竜十字島からの増援を加えた敵と決戦を行うことになります」
 ただし、繰り返しになるが、もしもケルベロスの目的が回廊の破壊でなく制圧だと気づかれたならドラゴンは自分たちの手で回廊を破壊しようとするだろう。
 うまく誤解させたまま戦うよう、注意する必要がある。
 回廊を制圧できれば、あるいは破壊されてしまえば、竜十字島からの増援は来なくなる。残った敵の掃討は難しくないだろう。
「大阪城に固定型魔空回廊を設置された場合、竜十字島と大阪城をデウスエクスが自由に行き来できるようになります」
 それがどれだけ厄介なことかはもちろん言うまでもない。
 ここで竜十字島のゲートを破壊できるかどうかで、今後の戦いの難易度が大きく変わってしまうだろう。
 そう告げて、芹架は頭を下げた。


参加者
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
レオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)
アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)

■リプレイ

●あの島へ向かって
 一艘の船が、数人のケルベロスを乗せて、城ヶ島に向かって接近していた。
「目指すは鬼ヶ島ならぬ城ヶ島。命を張って竜を相手に芝居をうつ、か。中々骨は折れそうだが、それだけの価値はありそうだね」
 闇に紛れる黒いマントを身に着けて、船上にたたずむ男は浜本・英世(ドクター風・e34862)だった。
「回廊制圧までの敵の陽動。僕等もそれなりに強くなったもんだね?」
 レオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411)の白い髪から見える片目に、薄い微笑みが浮かんでいるのがケルベロスの視力なら見えただろう。
 ケルベロスたちを乗せた船は島の北西側、楫の三郎山神社がある方向から近づく。
 もちろん不用意に上陸したりはしない。
 船を隠せそうな障害物を見つけ、ケルベロスたちはそこで停止させた。
「匙加減が難しいお仕事ですが、うまく護衛戦力を引きずり出し、敵に目的を悟られない程度に暴れましょう。それではいってきます」
 フック付きのロープを手にしたアンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)が仲間たちへと言った。
 旧型のすくーるみずぎに身を包んだ彼女は、翼を広げることなく海の中へと消えていく。
 やがて、少女は背中まである髪から雫を垂らして海から上がると、フックを適当な場所へひっかけて固定する。
「見つからないように行こう。できれば情報を得てから行きたかったけれどね」
 刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)が言った。
 中性的な顔立ちをした黒髪の歌手は、城ヶ島の動物たちから情報を得られないか試みていたが、残念ながら有用な情報を得ることはできなかった。
 ケルベロスたちはロープを伝い、なるべく水音を立てないよう泳いで、神社付近の岩場へ上陸していく。
「……城ヶ島。この作戦に成功したら、あの場所への道がひらける」
 フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)は再びたどり着いた島を静かに見回す。
 ドラゴンのゲートへとつながる魔空回廊がこの島にあることが判明し、決死の作戦が展開されてから、いったいどれだけの月日が流れただろう。
 赤い頭巾の彼女は死者すら出したあの戦いの参加者だった。
「まだこの作戦は入口だけ。でも、今度こそ手が届くチャンスだからね。大丈夫、縒ちゃんもいるし! 先走ったりしないし、落ち着いて作戦遂行!」
 自分に言い聞かせた後、フィーは隣に来た黒い三角耳の少女へ視線を向けた。
「頼りにしてくれてありがとうね、フィーちゃん。グランドロンでは陽動失敗しちゃったから、今度こそはきちんと役目を果たすよ!」
 月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)は長い尻尾をリズミカルに軽く振った。
 城ヶ島へとたどり着いたことに感慨を覚えているのは、もちろんフィーだけではない。
 だが、感慨にふける時間はなかった。
 鳥居のところに伏せていた灰色のドラゴンが、ケルベロスたちに気づいたのだ。
「ああ、僕のことは取るに足らない塵と思ってくれて結構」
 目が合ってしまったレオンが発した言葉を聞いているのかどうか、敵は地を揺るがして突進してくる。
 竜牙兵やオークではなくドラゴンがいるということは、対岸に近い神社はそれなりに重要地点なのだろう。
「来たぞ、ドラゴンだ。……当然だが、魔竜ではないか」
 リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)が仲間たちへと告げた。モノトーンのスタイルで統一した男は、金色の瞳で竜を見据えて武器を構える。
 他の者たちももうすでに上陸を終えており、すぐにそれぞれの得物を抜く。
 もし上陸前に気づかれていれば、手痛い被害を受けていたことだろう。見つからないように行っていた様々な工夫が功を奏したようだ。
「……来い」
 漆黒の蔦とハンマーを手にしてリューデは正面からドラゴンを相手に身構えた。
「長らくドラゴンに支配されていた城ヶ島を、今こそ奪還するのであります!」
 クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)が叫ぶ。
 魔導強化を施した重鎧をまとった少女騎士は恐れることなく神社のドラゴンへと突き進んでいく。
 ほかのケルベロスたちも、もちろん2人と同様だった。

●ドラゴンを欺け
 敵は翼を持たない竜だったが突進してくる動きは速い。
 クリームヒルトはその敵に対し、翼を広げて地を蹴った。
「ここは通さないでありますよ!」
 敵の前に飛び出し、体よりも大きなシールドを地面に打ち付ける。
 迫ってくる敵の鼻先には角がついていた。甲高い音とともにシールドに当たる。
 盾越しであるにもかかわらず、衝撃は彼女の体を容赦なく打ち据える。
 空中要塞の異名を持ったクリームヒルトだったが、ドラゴンの突進はその彼女へと痛烈なダメージを与えていた。
「さすがの威力でありますな。しかし、この程度でボクは倒せないであります!」
 ドラゴンだけあって並のデウスエクスよりは強力だが、定命化で弱まった力で簡単に倒れる彼女ではない。
「クリームヒルトさん、大丈夫? すぐに回復するよ」
 フィーが声をかけてきた。
「望むままの結末を――その手に」
 赤ずきんの手の中に絵本が現れた。
 絵本から姫君が飛び出してきて、クリームヒルトのもとへと駆けてきた。立ち向かう彼女のために、幸せをつかみ取った姫君は願う。
「助かるであります。まだまだ倒れている暇はないでありますからな」
 腕に装着したビフレストから飛び出した紙兵が、彼女自身を含めた仲間たちを守る。
 さらに、クリームヒルトのテレビウムであるフリスズキャールヴが応援動画を流して支援してくれた。
 回復している間に、リューデが黒と灰の翼から聖なる光を放った。
 単独の敵に対し、あえて広範囲に広がる技を使ったのは他の敵もここに集まってくるよう仕向けるためだった。
 ドラゴンはブレスを吐き、爪と牙と角を振り回し、ケルベロスたちへ攻撃してくる。
 範囲攻撃を重視して作戦を立ててきたケルベロスたちにしてみると、敵がドラゴン単独だったのは当てが外れたと言える。
 けれど、押しているのはケルベロスのほうだった。
 もっとも今回は単に勝てばいいという戦いではない。
(「ドラゴンが相手だといっそう匙加減が難しいですね……でも、うまくやらなきゃ」)
 アンヴァルはバケツ状のガジェットを振り回し、ドラゴンと戦っていた。
「最高のアート完成の予感……さあ! 今日のキャンバスはあなたです!」
 バケツから飛び出していくのは、高粘度で速乾性の塗料。
 ドラゴンの灰色の体を、明るい色で派手なマーブル模様に染め上げていく。
「特注品の塗料は、色の乗りもいいし……絡みも延びもいいでしょう?」
 塗料に絡みつかれたドラゴンが怒りの咆哮を上げる。
 ブレスを吐き出してくるが、縒やフリスズキャールヴが攻撃されたものをかばう。もちろん、竜の炎を浴びてもアンヴァルの塗料は溶けたりしない。
 動きの止まったドラゴンに対して、中距離を保ちながら英世が悠然と杖を持ち上げる。
「では、お願いするよミミズクくん」
 言葉と共に、その杖は白いミミズクの使い魔へと戻り、ドラゴンの傷を押し広げた。
「彼らを呼び戻さなくていいのかね?」
 戻っていった使い魔を杖へと戻しながら、英世は問いかけた。
 ドラゴンはなにも答えない。けれど、その瞬間、竜の視線が確かに英世へ注がれる。
 大阪へ向かう増援を気にするかのような言葉を口に出し、あるいは仕草に見せながら戦っていたのは、もちろん英世だけではない。
「私達がここで引くわけにはいかない。ドラゴンの動きを止めなきゃいけないんだ!」
 西のほうへ視線を送り、透希が獣化した腕を竜へと叩きつけた。
 縒は再び仕掛けてきた突進攻撃を、ライオンになったつもりで頑張っているオーラで受け止めた。
 ドラゴンからの攻撃は何度食らっても強力だ。けれど後ろには頼れる相棒がいる。まだ倒れるほどのダメージではない。
「敵さんが戻ってきたっていう連絡はまだなの?」
 声を潜めた風で、けれど敵に聞こえるくらいの声で、縒は声を発した。
「まだ帰ってくる様子はなさそう……」
 言葉とともに、フィーが幻影の姫君を作り出して回復してくれる。
「うーん、おかしいなぁ……うちらが侵入したことは知ってるはずだよね?」
 首をかしげながら、縒はロッドを青い目の黒猫、チロちゃんへと戻した。
 使い魔の爪がドラゴンの傷口を開く。
「暴れ続けるのにも限界があるよぅ……」
「ま、早期決着でも構わないよ。損耗は少ないほうがいいだろ?」
 レオンもまたファミリアロッドによる攻撃を放ちながら言う。
「次は帰ってきた連中も相手にしなきゃならないんだ、此処で削られると厳しいよ」
 ドラゴンは反応を返さなかった。
 けれど確かに会話を聞いている様子だった。仲間に情報を伝えに行くか迷っている節もある。
 リューデは弱ってきた竜に手を差し伸べる。
「これ以上、手出しはさせない」
 彼の手に小さな白い花が咲く。
 敵意に根を張り、開く花。脆弱に散り落ちるその花には刃を鈍らせる力がある。
 それに、ドラゴンがケルベロスの言葉を仲間に伝えるつもりなら、倒してしまうわけにはいかない。
 果たして、花が消え去った後、ドラゴンは巨体を後退させた。
 牽制しつつも後退していく敵をケルベロスたちは追うそぶりを見せつつ、あえてそのまま逃がしてしまう。
 三郎山神社の周囲に、短い静寂が戻った。
「此処まで辿り着く日が来ようとはな」
 逃げていく敵を見送り、リューデは呟いた。まだ遠いけれど、今歩んでいるのは確かにゲート破壊へとつながる道なのだ。
 ケルベロスたちはその道を急ぎ足で進む。

●ドラゴンの増援
 逃げたドラゴンを追いかけていった先には、3体のドラゴンがいた。
 巨体の足元から竜牙兵たちがどこかへ離れていく。おそらく、偽の情報はこのまま流布されていくだろう。
 追ってきたケルベロスたちに気づいて、ドラゴンたちが臨戦態勢に入った。
(「さあ来い、来い、来い……! 気づいた時には手遅れだ」)
 レオンは内心の声を口には出さず、代わりに新たに加わった2体のうち片方へと狙いを定めていた。
「前往くことは許さない、先を往くなど認めない。ここで腐れて沈んでいけ、塵でしかない我が身のように!」
 放つその技は、醜さを具現化したかのような束縛術式。
 定命化という不治の病に冒されてなお強大な竜たちを自分の場所まで引きずり下ろす身勝手な術式。
 無数の影から飛び出した黒い縄がドラゴンを捕らえ、縛り上げる。
 ドラゴンが3体ともなればさすがに楽に勝てるとは言い難い。何人かが新手の敵の動きを阻害し、その間に打撃役を中心とした者たちが最初の1体の撃破を狙う。
 英世は3体の竜を相手にしても、悠然とした様子で戦い続けていた。
「敵はすべて前衛か。止めてくれと言わんばかりだな」
 マントをひるがえすと、その下から歯車の形をした刃が無数に飛び出した。
「舞い踊れ我が刃よ――ギア・スラッシャー・ハリケーン!」
 嵐のごとく踊る刃が3体のドラゴンに容赦なく襲いかかり、仲間たちがつけた傷をえぐり取っていく。
 苦痛を与えるのに特化した歯車の刃はドラゴンたちをまとめて苛む。
 アンヴァルがまた塗料をばらまいて、粘性の高い液体が3体の敵をまとめてとらえている。
「改めて追い詰めさせてもらうとしよう。無様に救援要請などしてくれると、非常に助かるのだが」
 呟いて、英世は妨害を積み重ねていった。
 ほどなく、リューデの漆黒のハンマーがまとった炎が、最初の1体に止めを刺した。
 残る敵は赤と青の2体の竜。
 けれどその頃には、縒とクリームヒルト、フリスズキャールヴは大きな負傷を負わされていた。
 誰も倒れずにすんでいたのは、回復役の力が大きかっただろうか。
 冷凍光線がフィーへと放たれたのを、縒がかばう。
「縒ちゃんありがとう! 大丈夫?」
 フィーは頼れる少女の背中に声をかけた。
「うん、まだやれるよ。フィーちゃんがずっと回復してくれてるからね」
 相棒は敵から目を離さず、それでも答えてくれる。
 もう1体のドラゴンが放つ火球をクリームヒルトが盾越しに浴びた。
「クリームヒルトさんも……待ってて、すぐにまとめて回復するよ」
「ボクは自分で治すであります。フィーさんは縒さんを治してあげてください!」
 騎士の言葉に頷いて、フィーは縒へと心霊手術を施した。
 クリームヒルトは盾から放つ光で自分自身を包み込み、さらにテレビウムの応援動画も見ている。
「縒ちゃんが守備で、僕が回復を担う以上は、どんな状況だってきっと上手く行くんだから! リューデさんやみんなが敵を倒すまで、頑張ろう!」
「うん、うちも頑張るよ。猫の力は弱いけど……だけど、何もできないわけじゃないから!」
 縒が放ったグラビティが、見えざる獣となってドラゴンたちに襲いかかっていった。
 誰も倒させないつもりで挑んではいたが、それでもしばし後、2体の竜による攻撃から主をかばってフリズスキャールヴが倒れた。
 クリームヒルトと縒はギリギリでなんとか持ちこたえている状態で、他の者たちもドラゴンの攻撃が直撃すれば倒れてもおかしくない。
 ただ、敵側も、赤い竜はすで限界が近い。
 他の陽動もうまくいっているのか、さらなる敵が現れる様子はなかった。
「これ以上はやらせない」
 短い言葉と共にリューデの手から漆黒の蔦が伸びて敵を捕食する。
 透希はウェアライダーの運動性能を生かし、補食される竜の頭上へ跳び上がった。
「ドラゴン相手じゃ、まず数を減らさなきゃまずいからね」
 空中で、細い足が獣の形へと変化する。
 赤い竜の頭部へと痛烈に叩きつけた一撃を受けて、竜は断末魔の悲鳴をあげた。
「もう1体……急いで倒しましょう。増援が来ない保証はないです」
 アンヴァルがパズルを組み上げて雷を放つ。
 そうしながら、アンヴァルは隠密班が戦っているはずの方向を確認した。すでに魔竜との戦いは始まっている様子だったが……。
 青い竜が大きく息を吸い込む。
 遠くから激しい断末魔が聞こえてきたのはその瞬間だった。
「まさか……デス・グランデリオン様!? ……うっ!」
 動揺のせいでもないだろうが、英世や他の者たちが仕掛けていたマヒの技に負けて、竜の動きが止まる。
 隙を逃さず、ケルベロスたちは一斉に攻撃を仕掛けた。
「悪いね。本当の狙いは、あっちなんだ」
 最後に、レオンの言葉と共にドラゴンは爆発し、3体の竜はすべて倒れる。
 誰も息を抜く者はいなかった。
「……うまく行ったんだ」
 最初に言葉を発したのはフィーだ。
「そうらしい。回廊が壊されていないことを祈るばかりだな」
 英世が頷いた。
「行こう。俺はもう恐れないと、決めた」
 リューデの言葉に皆が頷く。
 ケルベロスたちは真なる決戦の場……竜十字島へ向かう覚悟を決めて、走り出した。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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