城ヶ島浸透作戦~城ヶ島をとれ

作者:のずみりん

 その日、竜が飛んだ。
 それも一頭や二頭ではない……まるで渡りの季節を迎えた鳥たちのように一斉に、一直線に。
 横切る地は熱海、静岡、伊勢……失敗に終わった城ヶ島のユグドラシル化作戦の要を遡り、作戦の始まりの地へ。
『大阪へ!』
 戦に向かう勇壮さではない。ドラゴンの一群には定命化に翼折れた竜もいる。だがそれを支える仲間がいる。
『エインヘリアルの勇者は応えた』
『ならば我ら、応えねばならぬ』
『竜の誇りにかけて!』
 ユグドラシル化した大阪……そこに希望があるように、彼の地の主を祝福するかのように。ドラゴンたちは大空を舞った。

「グランドロンの迎撃は成功し、城ヶ島のユグドラシル化は阻止された」
 作戦の舞台となった地の人々に代わり皆の奮闘に感謝する、と言ったリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)の顔は、労いには少々明るくない。
「予想の上をいかれた……いや、ひっくり返された。ユグドラシル化がとん挫してなお、その武勇でドラゴンたちの信を得た、エインヘリアルの第四王女レリ……彼女をドラゴンと引き合わせた第二王女ハールに!」
 勇者と対峙するとは、かのような理不尽に都度都度襲われる事なのか?
 感情に上擦る声に、すまないと一言置き、リリエは状況を説明する。
「……城ヶ島のユグドラシル化は失敗したが、ドラゴンたちはレリを信頼し、自分たちが移動する決断を決めた。ドラゴンたちはユグドラシル化した大阪城へ、定命化したドラゴンを退避させようとしている」
 これはドラゴン勢力の命運をかけた大作戦であり、現在ドラゴン勢力が用いることのできる最大限の戦力が投入されている。
 現在のケルベロスでは作戦を阻止することは不可能だろう……が、ピンチはチャンスだとリリエはケルベロスたちを見渡した。
「大阪城退避作戦はドラゴンのすべてを駆けた大作戦だといったが……それはつまり、今の城ヶ島はもぬけの空ということだ」
 今なら城ヶ島を落とせる。そしてそれは、竜十字島に逆侵攻してドラゴンのゲートを破壊する作戦が可能になるという事でもある。
「ドラゴンの一部が大阪城に合流したとしても、ドラゴンのゲートを破壊してしまえば残りは『残党勢力』だ。大作戦を行う余力はなく、危険力は大きくさげられる」
 肉を切らせて骨を断つ作戦ではあるが、千載一遇のチャンスというわけだ。

「この作戦はドラゴン側の隙をついた作戦だ。現地の戦力は空を飛べないドラゴンと配下種族のオーク、竜牙兵といった警備戦力だけだ。そう苦労しない相手だろうが、状況の変化には気を付けてくれ」
 先の戦いでも見られたが、デウスエクスたちもケルベロスを警戒し、研究するようになってきているとリリエは言う。
 たとえば陽動、少数精鋭での有力敵や重要物件への強襲などだ。
「特にドラゴン勢力は陽動と強襲を警戒している。このため大阪城へ向かったドラゴン勢力が引き返す可能性はないと見ていいが……固定型魔空回廊から現地戦力を引き離すことも不可能だろう」
 固定型魔空回廊は設置に多大な労力が必要な施設だ。将来的には大阪城に新たに設置するにしろ、それまでは失われたくないといったところか。
「一方でドラゴンが固定型魔空回廊を破壊する危険もある。我々の最終目標……竜十字島への逆侵攻に気づかれた場合だ」
 デウスエクスたちにとって、最も守らなければならないものは自分たちのゲートだ。それに危険が及ぶなら、ドラゴンたちは躊躇なく、優先度の低い固定型魔空回廊の放棄を選択するだろう。

「城ヶ島の制圧は迅速に行う必要があるが、初戦から勝ち過ぎてもまずい……敵に真意を悟らせぬよう静かに攻め、気づかれてからは敵の行動を許さず一気呵成に倒し切る必要がある」
 大筋としては、大阪城退避作戦の阻止を警戒する隙に乗じるのがいいだろうとリリエ。
「まず各チームごと分散して城ヶ島に潜入。そのまま退避作戦の阻止が目的の陽動と見せかけつつ、向かってくるドラゴンたちと交戦して回る。目的は陽動で、城ヶ島の制圧ではないと誤解させるようにな」
 本命は隠密行動に特化したチームが三つもあれば十分だろう。制圧担当チームが迎撃をすりぬけて、固定型魔空回廊に到達する事ができれば、防衛を担当するドラゴンを撃破し、魔空回廊の破壊前に制圧することが可能だろう。
「隠密チームによる制圧が失敗したり、行わない場合、竜十字島から増援で現れるドラゴン達を相手どって決戦を行う事になる……この場合、ドラゴンたちが真意に気づき、固定型魔空回廊を破壊する危険が大きい」
 この場合、ケルベロスの目的が『固定型魔空回廊の破壊』であると誤解させたまま決戦を切り抜けなければならない。
「……最悪の場合だが、敵増援が手ごわく不利になった場合、本当に固定型魔空回廊の破壊してやるという手もである。竜十字島への逆侵攻は難しくなるがな」
 様々な状況、危険を想定し、過去の成功に囚われ過ぎず判断を行ってほしいとリリエはまとめた。

 大阪城に合流したドラゴンが、大阪城内に固定型魔空回廊を設置した場合、竜十字島と大阪城のデウスエクスが自由に行き来できるようになる。
 それは唯でさえ堅牢な両デウスエクスの拠点へ、更にもう片側からの増援まで確約されるということだ。
 これ以上、デウスエクスの戦力を強化する事は絶対に避けるべきことだ。
「皆の活躍に期待する。頼むぞ、ケルベロス」
 リリエの握る拳が声に震えた。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)

■リプレイ

●城ヶ島を望む
 城ヶ島大橋は三浦半島と城ヶ島を結ぶ、建造当時は東洋一とも呼ばれた優美な歴史ある海橋である。
「ぉかね、はらぅ?」
「深夜早朝は無料だそうだし、いいんじゃない?」
 三浦半島側、無人の料金所を振り返るラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)の何の気ない話題に、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)もまた何の気なく返す。
 デウスエクスたちが城ヶ島を占領してから、料金所も役割を停めて久しい。今の占領者たちには橋を整備する知恵も手間も無く、人気のない橋梁の紅白塗装は潮風に綻び始めていた。
「デスグランデリオン……ヒナちゃんの宿敵。ドラゴンオーブの時に戦った因縁もあるけど、今回戦うのは難しそうかな」
 対岸の光景に神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)はやや残念そうに肩を落とす。連絡橋の全長は600メートル足らず、護り手がドラゴンなら肉眼で捉えられるだろう距離だが、見える姿は眷属の竜牙兵ばかり。
 数だけは溢れ、見えているだけでも十を軽く超えている。
「こっちから迎えねぇ以上来てくれるかは運次第だが、ドラゴンどもが前回を覚えているなら……」
『敵最優先防衛対象は魔空回廊。最大戦力が離れる可能性は極小』
「……R/D-1?」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)の呟きに反応する『R/D-1』戦術支援AIに、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は違和感を覚え声を上げた。
「どうしたの?」
「いや、支援システムの助言だ。ドラゴンが現れる可能性はまずないだろうと」
 だが脅威のない事を提言するなど、主たるマークにも覚えのない事だ。
 彼の戦闘システムはダモクレス時代の僚機より回収したものというが、過去の戦いの記憶だろうか?
「まぁ、よかったわ……どうやら相手は竜牙兵だけじゃないみたい」
 マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は推測しながらも、新たな脅威に疑問を振り払った。
「うわぁ……オークだ」
 マキナの指した橋脚に羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)は思わず声をあげる。橋梁の輪郭を揺らがせる正体は、けがらわしい触手。それも無数。
 更に辛いことには、今日の彼女は前衛にあり、全力で相手取るポジションということ。
「目立ちながら適当に? 陽動のフリして陽動? 本命? ……話聞くと難しぃ……考ぇるの面倒」
「別に考える必要はない……強いて言うなら、ソイツの中身は置いていけ」
 既に疲れた様子でミミック『リリ』の荷物を漁るラトゥーニに言いながら、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は『R.F.NVゴーグル』を暗視モードに切り替える。
 時刻は午前四時過ぎ、日の出前の薄闇がケルベロスたちの選んだ時間だ。
 まず落とされないが、絶対落としてはならない正面玄関への攻撃は陽動として、そして陽動と誤解させる役割として十分な効果を期待できるだろう。
「マキナさん、頼りにしているわ!」
「任されたわ。前回果たせなかった雪辱、今回は成し遂げてみせる」
 有効射程内。結衣菜の盟友『ルナイクリプス』が放つメタリックバーストの輝きを存分に吸気し、マキナのコアブラスターが竜牙兵の守備陣を先制する。
「襲撃! 襲撃!」
「ッンぞオラァ!」
「重力装甲展開。SYSTEM COMBAT MODE」
 吹き飛ぶ白骨、打ち返される物量と星辰、汚らわしい溶解液。マークの脚部『LU100-BARBAROI』クローラーが火花を上げて機動し、展開した『重力装甲』が矢玉を割って戦線を押し上げる。
「正面口が眷属のみとは、舐められたものだな!」
 飛び込みざま、ティーシャの『Iron Nemesis』から放たれるグラインドファイアが竜牙兵を両断する。すかさず『擬態用マルチウェア』から専用アームドフォートとライフルを展開、一斉射撃。
 スナイパーたちの猛攻と爆発的な支援グラビティ、音と光が浸透作戦の開幕を告げた。

●城ヶ島大橋を封鎖せよ
「助ケル?」
「イラネー! ヤラネー!」
 竜牙兵に応えるオークたち、欲望の咆哮が大橋を揺らす。
「」
 城ヶ島大橋の橋幅は10メートル足らずで、東京六芒星決戦の舞台となったレインボーブリッジの四半分にも満たない。そして橋下から攻寄るオークたちの触手は実際、容易にケルベロスたちの下方をいやらしく狙ってくる。
「ッリャア! 正面突破は無理そうだな……」
「予定通り、予定通り。いったん下がろ!」
 耳元から伸ばした『蒼星狼牙棍』で溶解液を撒くオークを直突きしつつ、煉は結衣菜に頷いて身を引いた。
 橋上に上がった数体のオークが勢いのままに追ってくるが、作戦通り。
「いらっしゃーい」
『かかったなアホが!』
 吊り上げられたのはオークが数匹。その一帯が芍薬のテレビウム『九十九』の挑発的な応援動画と共に、哀れな犠牲者は『火葬』の拳に焼き払われた。
『ハンドレッド!』
『アリガトウゴザイマブゲッ!』
 言わせねぇよと、すかさずの戦術超鋼拳。受け継がれる煉のオウガメタル『天牙』が妹たちへの魔手を引きちぎっていく。
「……この調子で引っ張り出せればいいのですけれど」
「ぅん、ダメそぅ」
 戦闘時間はほんのわずか。マインドシールドを展開しなおす鈴に、ボクスドラゴン『リュガ』とラトゥーニが首を水平に振った。
 再び接近し、後退を繰り返すも釣り出せたのは負傷した二体。
 頑張れと投げられたミミック『リリ』がガブリングと食いちぎり、結衣菜のシャーマンズゴースト『まんごうちゃん』の神霊撃が素早く処理したが、次につられる敵は恐らくゼロだろう。
 橋を守るオークと竜牙兵の混成部隊はドラゴン一体に劣る戦力だが、十分に組織された手練れのようだ。
「まさに現代に蘇るドラゴン・ジョー……というにはちょっと小さいけど、いい勝負だわ」
 橋が竜ならオークはその舌、竜牙兵はまさに牙か。芍薬はその光景を『竜の顎』と呼ばれたアジアの巨大橋に例え、芝居めいたうめきを付け加える。
「……けれど、悪くはないわ。むしろかなり良い」
「AFFIRMATIVE」
 そう、一芝居の余裕くらいには、むしろケルベロスたちには好都合。
 マキナの分析に、マークも首肯で答える。時刻は戦闘開始からおよそ十分、そろそろ本命の三班が隠密強襲を開始したはずだ。
「つまり……いっちゃう?」
「倒して困る事もあるまい。派手なノックをお見舞いしてやろう」
 芍薬の過激な笑いにティーシャが相乗りする。
「ドラゴンこそいませんが、ここのオークや竜牙兵が偵察に回されると、それ以上に厄介かもしれません。このまま押し切るつもりで、いいと思います」
 けがらわしい触手たちに目をしかめながらも、鈴は踏み込む弟と仲間たちを後押ししていう。索敵においては戦闘力以上に数が脅威となる。
 ここに部隊を釘づける事は、仇敵の討伐へ大きな援護となるはずだ。
「矢弾は引き受けます! 空間に咲く氷の花盾……皆を守ってっ!」
 前衛を襲う触手溶解液、ゾディアックミラージュが鈴の一声に静止する。敵陣とケルベロスの間に顕現したした『時空氷壁』、オラトリオの秘術が生み出した時空凍結空間は、氷花の盾のように美しく咲いた。

●天狼が竜牙を狩る
「切り裂け!! デウスエクリプス!!」
「ヌ、ヌゥッ!」
 テレサ・コールの残霊から受け取ったマスドライバー型アームドフォートがティーシャを守り、滑走する。城ヶ島側、陸橋へと再突入するケルベロスの先手を担う『デウスエクリプス』を、クルセイダー型竜牙兵が剣と身を盾に受け止める。
「ではそのまま静止してもらおうかしら」
 そこに無慈悲に放たれるマキナの氷結輪。第三の輪とかしたクリスタライズシュートは受け止めた四肢を切り裂き、凍り付かせ、破砕する。
「左、お願い!」
「じゃぁ、適当に」
 襲い掛かるオーク触手と溶解液は結衣菜たちディフェンダーが食い止め、遊撃に動くラトゥーニが補助に当たる。
 格下相手なら存分にかわし、当てられるのがキャスターの強みだ。そして『凝縮する闇』をまとい、果敢に迎撃……。
「ぁ、食べられた。まぁいぃゃ、リリ頑張れ」
「いや、まずいでしょ……きゃ!?」
 ……間に合わずリリが食われかけるも、他人事なラトゥーニを突っ込む結衣菜が『ライジングダーク』の輝きと共に割り込み回避。
 締め上げてくる触手が『マジカル着流し』を卑猥に襲うが、袖内を狙う触手の鎌首が突如ふっ飛んだ。
「TARGET CLEAR」
「マーク! 助かったわ……」
 それは乱戦をものともしない『MN16-HAWKEYE』スコープによる、マークの『DMR-164C』バスターライフルによる高速狙撃。
「ソンナ……!」
「ユタカー!?」
 城ヶ島側の陸橋部まで踏み込んだ鋼鉄の巨体は、最奥を守る竜牙兵からのゾディアックミラージュを『ガンナーシールド』でやり過ごしつつ、シールド下に懸架した『M158』の制圧射撃を放ちオークの触手林を切り開いていく。
「まだまだ、もう一丁!」
「オークどもは任せろ、煉たちを援護してやれ!」
 それでもなお勢いを増す触手の乱れ撃ち。熱エネルギーをバスターフレイムの刃と変えて引き千切った芍薬も、まだそこを抜けきれない。
 ティーシャの声に仕草だけで応え、鈴は激戦区へと走る。
『いってよし!』
「すいません……お願いします!」
 器用に触手と十徳凶器で切り結ぶテレビウム『九十九』の応援動画が彼女を護り、そして一見して翼狼にも見える彼女のボクスドラゴン『リュガ』のインストールする属性が、前方……指揮官らしき、黒の竜牙兵に立ち向かう戦う弟たちを支援する。
「助かったぜ、姉ちゃん……ちょっと手ごわい、ぜっ!」
 竜牙兵の振り下ろす骨の大剣を煉は横っ飛びにかわす。大岩をも砕く一撃は、直撃こそならずともケルベロスたちに衝撃だけで少なからずダメージを重ねてきている。
「EX-GUNNER SYSTEM READY.DRONE TAKE OFF」
「シェアッ!」
 ディフェンダーたちが入れ替わり、マークのヒールドローンが盾となり進行を阻むも、戦況はケルベロスにやや不利。
 陽動の完遂を第一にした編成だったが、火力の不足はいかんともしがたい。
「……いけるか、姉ちゃん?」
「今なら。デスグランデリオンの琴線に触れるくらい、やってやりましょう。リューちゃんも……!」
 だが姉弟にはまだ切り札がある。
「ヌッ!」
「Code A.I.D.S……,start up. Crystal generate……Ready,Go ahead」
 無言に察し、マキナは阻止せんと迫る触手と骨の牙に『CCP A.I.D.S』を展開する。彼女の胸のクリスタルにも似た、耐衝撃防御支援結晶と展開される防御スクリーンに、二人一対の天狼が万華鏡のように燃え上がった。
「これが、俺たちの!」
「わたしたちのの絆っ!」
 二人の父が得意としたという魔を食らいし降魔真拳の奥義『天星狼牙』の白と蒼、鈴の『天狼闘気』の光と焔が狼の咢を形どる。
 『双星狼牙――!』
 とっさ、防御へと構えた竜牙兵だが遅い。迸る軌跡、閃光と爆炎を伴う一撃がその得物ごとに竜の眷属を完膚なきまでに食らっていく。
 遠吠えめいた咆哮は城ヶ島大橋、全土へと響き渡った。

●ドラゴン・ジョー・ダウン
 夜明けの光が城ヶ島大橋を満たしていく。
「今の、遠吠え……違う……!?」
「やったんだ……!」
 悔恨のように長く細く、朝日に消えいく声。鈴の感じた思いに、確信をもって錬は答える。拳と共に。
「あとは、なぁ……ッ!」
 フレイムグリードの炎が竜牙兵を食らい、その光景に周囲のオークたちが浮足立つ。その姿が如実に彼らの主の消滅をつげていた。
「DRAGON……!」
 確信めいたマークの声。デウスエクスの名を声に出す、彼と彼の支援AIは断末魔の向こうに竜を見たのか? 戦闘システムは起動したまま、仲間たちが確認する間もなかったが。
「押し込むぞ……いけるな?」
「これで最後だけどね……この恵みを以て――!」
 そう、今はまだやるべきことはある。
 息を荒げながらもティーシャに応える結衣菜の『翠緑の恵み』、人類の帰還を喜ぶように城ヶ島の森と緑の恵みを宿した魔法の木の葉は、僅かだが力強くケルベロスたちを再起させる。
「いこう、リューちゃん……!」
「フゥッ」
 癒し切れぬダメージの蓄積をもって、癒しを終えた鈴とリュガも攻勢へと転じた。『天翼の指輪』から取り出される同胞らの力、打ち出された時空凍結弾はオークを撃ち、その欲望の咆哮さえも静止させる。狼狽する眷属をリュガのタックルが転ばし、すかさずティーシャの『Iron Nemesis』が蹴りつぶす。
「ブヒョォ!?」
「エズケェェェェーッ!」
 転がるように陸橋の橋桁を飛び降りる竜牙兵、転がるオーク。もはや共に立ち向かう気概はなかったが、島を蹂躙したデウスエクスらの逃走を黙って見逃す慈悲は、ケルベロスたちにはなかった。
「逃げる敵は手負いの獣……ゆえに」
「ALLRIGHT,DESTROY ALL TARGET」
 マキナの展開するコアブラスターに合わせ、マークの『XMAF-17A/9』アームドフォートが両アームの火器と共に火を噴いた。
「ターゲット、クリア……!」
 爆発、そして爆発。爆風に『メイデンバーガー制服』をゆらす芍薬の手が最後、逃げ損ねた竜牙兵の頭蓋をは掴み『火葬』を叩き込む。
「ガ、ァァァァァ……!」
 掌の放出口から打ち込まれた熱エネルギーが内外より竜骨の戦士を焼き払い、大橋より丘陵へと吹き荒れた。

 断末魔のブレスの後、動くはケルベロス八名と盟友のみ。
 その日、城ヶ島大橋は人類の手へと取り戻された。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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