城ヶ島浸透作戦~陽動か侵攻か?

作者:雪見進


 ここは城ヶ島。そこで大きな動きを見せていた。
 ドラゴンの大軍が、城ヶ島から空へと向け飛び立っていく。地上では、それを見送る飛行能力を持たないドラゴンや、オークや竜牙兵の姿が見える。
「もう少しだ、彼の地へたどり着けば、この忌々しい『定命化』を止める事が出来る!」
「……そうだな」
 空を飛ぶドラゴンたちに余裕は見えない。定命化が進んだ影響なのか、その命の灯火が消えそうにも見える。
 そんな状況の中、お互いに支え合いながら、何処かへと飛んでいくドラゴンたちだった……。


「グランドロン迎撃戦、お疲れ様でした。皆さんの活躍により、城ヶ島のユグドラシル化を阻止する事が出来ました」
 そう説明をするのはチヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)。その結果、ドラゴン達は、定命化の危機から脱する為、大阪城のユグドラシルに、多くのドラゴンを送り込む作戦の断行を決定したようだと、説明を続ける。
「定命化ドラゴンの大阪城への退避作戦は、ドラゴン勢力の命運をかけた大作戦です」
 そう説明をしながら、少し切ない表情を浮かべる。その退避作戦を阻止する方法が実質的に無いのだ。現在のドラゴン勢力の最大限の戦力が動員され、いずれは大阪城内に、魔空回廊を設置するだろう。
「ですが、これはチャンスであるとも言えます」
 ドラゴン軍が大阪城へと入るのを止める方法は無いが、逆に考えれば城ヶ島の防衛には、大きな隙が生じていると考えられる。
 この隙をつく事で、最小限の戦力で城ヶ島を奪還する事が可能になる……と、チヒロは説明をする。
「この作戦の目的はは二つです」
 『城ヶ島を制圧』し、かつ『固定型魔空回廊を破壊されずに手に入れる』事が、今回の作戦の目的。
 固定型魔空回廊は、ドラゴンが移動可能な特別な魔空回廊ですが、移動できるドラゴンは1度に1体づつに過ぎない。
 つまり、城ヶ島側の出口を制圧してしまえば、竜十字島からドラゴンが移動してくることが不可能になる。たとえ、無理やり移動してきても、集中攻撃で1体づつ各個撃破が可能である。
 更に、固定型魔空回廊を利用すれば、竜十字島に逆侵攻してドラゴンのゲートを破壊する作戦も実行可能になるだろう。
「ドラゴン軍が大阪城に合流する事は防ぐ事は出来ません。ですが、ゲートが破壊出来れば、ドラゴン勢力の力を大きく削ぐ事が出来るのです」
 無論、それが成功してもドラゴン勢力のゲートの破壊が出来るかは別の問題だが、今出来る事をやるしかない。

「それで、城ヶ島に残る戦力ですが……」
 そして、城ヶ島を制圧するのに必要な情報の説明に移るチヒロ。
 城ヶ島の戦力は、大阪城に移動する事が難しい空を飛べないドラゴン達と、オークや竜牙兵といった配下だ。だが、それ以上に目的がある。魔空回廊の奪取だ。
 詳細な説明は省略するが、大阪城へ向かったドラゴンが戻ってくる事は無いと想定されている。
 無論、ドラゴン勢力は、ケルベロスの攻撃を想定している。可能であれば大阪城で魔空回廊を設置するまで城ヶ島の魔空回廊を残したいと考えているようだが、ケルベロス側に奪われるくらいなら破壊してしまうだろう。
「……とても難しい作戦である事は理解しています」
 実際に口に出し説明をする事で、この作戦の難しさを実感したのだろう。チヒロの表情は明るく無い。しかし、この作戦に成功しなければ大阪城のドラゴンは定命化が進まず、これからの戦いが厳しいものとなるだろう。
 様々な気持ちを飲み込みながら、説明を続けるチヒロだった。

「その為、今回の作戦は『城ヶ島への陽動作戦』と見せかけての『侵攻作戦』となります」
 少人数のチーム毎に、様々な方法で城ヶ島に潜入・上陸を行って、固定型魔空回廊がある島の中心部へと向かう。
 城ヶ島海南神社跡ですが、周囲は焼き払われ、ドラゴンが活動しやすいよう見晴らしはよくなっている。
 ケルベロスの狙いが陽動であり、固定型魔空回廊の破壊までは目指していないと見せかける事ができれば、侵攻してきたチームを蹴散らそうとドラゴン達が迎撃に出てくるので、比較的容易に各個撃破が可能になるだろう。
「この迎撃戦の中、隠密行動に特化した3チーム程度が、迎撃をすりぬけて、固定型魔空回廊に到達する事ができれば最善となります」
 到達出来た場合は、固定型魔空回廊の防衛に残っていたドラゴンを撃破し、魔空回廊を制圧を目指す事になる。
 固定型魔空回廊を制圧できれば、竜十字島の増援を阻止できるので、残る敵を掃討すれば、城ヶ島の奪還が完了する。
「もし、隠密チームによる制圧が行えなかった場合ですが……」
 相手はドラゴン勢力。様々な状況を想定しなければならない。
 制圧が失敗した場合は、魔空回廊を防衛しようと集結するドラゴン達と、異変を知って竜十字島から増援で現れるドラゴン達を相手取って、決戦を行う事になるだろう。
 決戦時、ドラゴン達は城ヶ島の『固定型魔空回廊』を防衛しようとしますが、ケルベロスの真の目的に気づいてしまうと、魔空回廊の破壊に方針を転換する危険があります。
 ケルベロスの目的が『固定型魔空回廊の破壊』であると誤解させたまま、敵を排除する必要があるります。
「魔空回廊がある限り、竜十字島からの増援が来る可能性もあります」
 その場合には、ケルベロスの手で魔空回廊を破壊する必要があるかもしれない。状況判断が必要な戦いとなるだろう。

「……ふぅ」
 長い説明を終え、大きく深呼吸するチヒロ。そして静かに言葉を選びながら、一言だけ告げる。
「皆さん、無事に帰ってきて下さい」
 そう言って、後を託すチヒロだった……。


参加者
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)

■リプレイ


 ここは城ヶ島。ドラゴン勢力の拠点の一つ。そこへケルベロスたちが攻略作戦を実行しようとしていた。
「み、みんなで、無事に帰りましょうね……!」
「そうですね」
 心配そうなシルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)の声に丁寧ながらも、親しさを込めた言葉を返したのはウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)。
「以前の作戦では、足止めまでとなりましたが、今回相見えることができるならば、なんとしても撃破を狙いたいところですね」
 この城ヶ島には『貪食竜ボレアース』がいる事が分かっている。
「そうだな。オーブを巡る戦いでは、ただ足止めしかできなかった五体の竜達……」
 以前の雪辱を思い出し、舌打ちするレッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)。以前の戦いで足止めの役割をした彼にとって、それは苦渋の記憶。
「……今や残りは二竜、ここで仕留めたいところだな」
 他のも『魔竜デス・グランデリオン』『喪亡竜エウロス』がいるはずだ。
「……気になる竜もいる事だし、ここで決着つけられたら最高なんだけどだぜ」
 そんなレッドレークと想いを共にするタクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)も静かに想いを口にする。
(「皆さん、士気が高いですね」)
 そんな皆の想い……いや、『ココロ』を強く感じるフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)。その『ココロ』に頼もしさを感じながら、静かに進む。
 しかし、大規模な作戦で私情を優先するような者はここにはいない。相見えれば、撃破に全力を尽くすだけだし、そうでないなら仲間の無事を祈るだけだ。
「……」
 ドラゴン勢力との戦いは様々な事があった。それを思い出すと、溢れそうになる涙。その涙を、仲間から借りたハンマーを握りこらえる愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)。借りたのは、作戦成功の願いか、それとも彼女への無事な帰還の祈りか。
 様々な想いを込め、城ヶ島に上陸するケルベロスたち。ここは安房崎灯台の近くの海岸。この作戦の主目的・固定型魔空回廊がある場所から最も遠い上陸地点。
 そんな想いを受け止めるように声を上げたのはイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)。
「おおよそ三年半、ドラゴン勢力に支配されてきた城ヶ島……」
 一度言葉を切り、城ヶ島を大きく見渡す。
「……今こそ、奪還の時です!」
 小さい声だが、静かに皆の気持ちを代弁するかのように響かせる。
「そうだな、こちらは陽動だ。しっかりと役割を果たすとしよう」
 そんな高まる気持ちを少し緩衝させるように飄々とした声を出す日月・降夜(アキレス俊足・e18747)。
 高い士気は悪い事じゃない。気迫も覚悟もある。だからこそ、最年長として緩衝が必要であると、面倒見のいい彼は感じていた。
「そうです。隠密班の方々も頑張ってくれる事をいのりつつ、こちらも全力で戦いましょう!」
 降夜の気持ちが伝わったのか、少し言葉を柔らかくして、同時に動いているであろうケルベロスたちの事を思い出すようにイリスが言葉を繋げる。
「ああ、そうだな。やるべき事をやろうぜ」
 イリスと降夜の言葉に、静かな頷きで応える他のケルベロスたち。
 城ヶ島奪還作戦、陽動班の作戦開始だ!


 他のケルベロスたちも班ごとに別の上陸地点から城ヶ島へ攻勢を仕掛け、上陸しているはずだ。まずは、陽動班が動き隠密班が固定型魔空回廊へ潜入しやすいようにする必要がある。
「コチラカラモ、テキダ!」
 最初に現れたのは竜牙兵。どれほど戦ってきた相手だろうか。ドラゴン勢力の兵士たち。
「貴様等程度で、我々を止められるとでも思ったか!?」
 レッドレークの挑発が響く。
「……さっさと、お仲間を呼んだらどうですか……?」
 シルフィディアは戦いとなると、冷酷になる。その冷酷さを込めた言葉を竜牙兵たちへと投げかけ、援軍を呼ばせる。
「よし、この間に洲乃御前神社を制圧するぞ!」
 大きな声で、仲間に情報を共有するウィッカ。あえて敵にも聞こえる声を上げたのは、いくつかの目的がある。一つは、想定外の事態に対しての撤退路の確保。
 そして、もう一つは、この場所を確保する事で、ドラゴン軍に『長期戦』を意識させる事だ。
 今回の作戦は、電撃作戦。城ヶ島の固定魔空回廊を制圧し、そのまま十字島までの攻撃が大きな一つの作戦。
「いきましょう!」
 ウィッカに答えるようにシルフィディアが大きな声で答える。同時に不快なオーラをまとった邪悪な気配を感じる。
「ちっ、違うか……」
 レッドレークが思わず呟く……残念ながら、貪食竜ボレアースとは違う気配。だが、その進みは止める事は無い。
「まずは、制圧を!」
 状況によっては、制圧後に動く必要があるかもしれない。
 まずは目の前の敵を撃破するべく、進行する。
「ふむ、ケルベロスか……!」
 そこで待ち構えていたのは、巨大なドラゴン。その背には翼は無く、重鈍な身体はどう見ても飛行出来るようには見えない。
「所詮は、ただの余り物ですね……」
 愚鈍なドラゴンに思わず素直な感想を呟くシルフィディア。
「嘲笑か、憐憫か?」
 そんなシルフィディアに笑みを返すドラゴン。その笑みの意味が見えない事に不気味さを感じさせる。
「余り物は、さっさと消えろ」
 残忍な笑みを浮かべながら、殺意と共に地獄の炎を燃えたぎらせるシルフィディア。墜龍槌で凍結させる超重の一撃を放つ。
「余り物とは、面白い表現よ。されど、表現としては的確である……つまり、主らが正しき情報を得ている証拠でもあるのう」
 シルフィディアの攻撃をまともに受けながらも、微動だにしない。そして口から吐く言葉は、ケルベロスたちのちょっとした言葉から、情報を分析しようとしているのだろうか。
 自身を『余り物』と称されるも、それを受け入れ分析しようとする姿に不気味さを感じさせる。
「……こちら、城ヶ島東側班、作戦ステージ3へと移行」
 そんな中、ウィッカは大阪方面と連絡を取る『フリ』をする。
「ふむ……『虚』か……」
 そんなウィッカの行動に笑みを浮かべる『余り物』のドラゴン。
「……」
 『フリ』が見破られたのか、それともブラフなのか、判断出来ない。ウィッカは沈黙を返答とし、紙兵を放ち、仲間たちを支援する。
「ふむ、そこで何も言わぬか……主は賢者だな」
 そんなウィッカの対応を褒めるドラゴン。外見的には愚鈍としか表現しようのない相手だが、その頭はかなり回る様子。
 『沈黙は金なり』古来からの言葉だ。
「……飛べなくても、ドラゴンは、ドラゴン」
 そんな不気味さを感じさせるドラゴンに対し、轟竜砲弾を叩き込むミライ。
「……ふむ、迷うておるのぅ」
 ミライの一撃は、ドラゴンを捉えている。しかし、吐き出される言葉が、戦況を混沌へと招かれているように感じさせる。
「どれ、反撃の一つでもせねばならぬか、建前もあるし……のう」
 相変わらず意味不明な言葉と共に、吐き出すのは、毒のブレス。毒々しい色の息吹がケルベロスたちへと襲いかかる。
「ここは防ぎ切ります! アメジスト、ルビー、両ドローン! 防壁陣展開!」
 紫水晶と紅玉のバリアは混じり合い、赤紫色のバリアを展開し、仲間たちを守る。
「ミライさん、しっかりして下さい!」
 バリアを展開しながらミライへと声をかけるフローネ。
「は、はい!」
 フローネの言葉で、ドラゴンの不快な言葉を振り払うように、顔を上げるミライ。
「シルフィディアさん!」
「ウィッカさん!」
 シルフィディアとウィッカもお互いに声を掛け合いながら、一歩距離を取る。
「案外不運ってのは、其処ら中に転がってるもんさ」
 そんな空気の中で、飄々と動くのは降夜。高速でドラゴンの背後を取ると、経穴にグラビティチェインを流し、正常な動きを乱させる。
「……主らはいいのう。人間ならば『美しい』と表現するのかのう」
 降夜の攻撃を受けながらも、フローネと降夜へ送ったのは呪詛のような言葉ではなく賛辞。
「大切な物が分かっとる者、そしてやるべき事を終えた者……」
 そんな言葉を吐くが、二人は何も反応を返さない。
「……いい加減にしやがれ!」
 レッドレークがドラゴンに対し、苛立つ『フリ』を見せる。実際、多少の苛立ちはあるが、それはそれとして苛立つ演技を見せる。
「それは『虚実』混じっとるのう」
 そんなレッドレークの演出を見破ったのか、再び不気味な言葉を吐くドラゴン。レッドレークの拳から放たれた超重の氷撃を、ドラゴンは避ける様子すら見せずに真正面から受ける。
 その戦い方から見て、外見通り、愚鈍なのは間違いなさそう。しかし、その毒ブレスの威力は一歩間違えば重傷者が出かねないダメージ。
 さらに、耐久力はとても高く見える。
「焦る様子を見せぬのは、『虚』か『実』かわからぬのう……」
 この戦いは長引くことになりそうだ。しかし、焦る必要はない。この場で戦闘を続ける事に意味がある。この班の目的は陽動。
「さーて、目にもの見せてやるとするかだぜ!」
 そんな戯言に耳を貸さずに突撃するタクティ。両手の爪を硬化させ、真正面から超高速の竜爪撃でドラゴンを貫く。
 周囲の音に耳をすませてたイリスだが、様々な音が入り混じり判断は難しい。
「ならば……束縛せよ、魔呪の邪光!」
 まずは眼前の敵を倒すべきと判断し、詠唱と共に魔法の光を放つ。
「ふむ、落ち着いているのう」
 ケルベロスたちの冷静な連携攻撃を受け、ダメージを受け続けるも、その体躯により耐えるドラゴン。
「そうそう、名乗りすら、まだだったのう。我はライアー……いや、肩書きがある方が『らしい』かのう。我は、空すら飛べぬ……いや……」
 そこまで言ってから、シルフィディアに一瞬視線を送る。
「『余り物』ライアーだのう」
 意味は『嘘つき』だろうか。しかし、ウィッカの行動を『虚』と言ったのは間違いではない。他の言葉も一概に嘘だと言い切る事が出来ないものばかり。
 とはいえ、冷静に判断するなら、詐欺師の詐話でしかない。『悩みを抱えている』『大事なものがある』など、インチキ占い師の口癖みたいなものだ。
「なるほど、ライアーですね」
 そんな嫌な雰囲気を切り裂くように、武器をライアーに突きつけ声を上げるイリス。
「銀天剣、イリス・フルーリア……参ります!」
 遅くとも名乗ったライアーに対し、名乗り返すイリス。
「その覚悟、潔しいのう」
 そんな堂々とした名乗りを眩しそうにみつめるライアー。戦いは後半へと移っていくのだった。


「虚言も妄言も、受け手により毒にも薬にもなるのう」
 そんな戯言と共に吐き出す毒の息吹は、どう受けても薬にはならないだろう。
「させねえぜ!」
 そのブレスの中へとあえて突っ込むタクティ。両腕の手甲型のドラゴニックハンマーで毒の息吹を貫き、光の道を作る。
「もう、対策済みです!」
 フローネはタクティの作った光の道に、再びドローンを飛ばし、紅玉の光を放ち、毒の息吹を切り裂く。
「ここまでです!」
 さらに紫水晶のバリアを展開させ、毒の息吹を完全に切り裂き道を作る。
「さあ、笑えよ!」
 そこへ動くタクティ。フローネと共に作ったその道に小さな結晶を無数に成形する。
「なんと!」
 その結晶に目を奪われたライアーが驚愕の声を上げる。
「ふふふ、ははは、あっぁっはぁ! そうであったか!」
 ライアーに何が見えたのだろうか。今までとはまた違う笑い声を響かせる。
「全ては夢だったってな!」
 そんな笑い声を上げるライアーの懐に潜り込み、両拳による連撃を叩き込むタクティ。さらに、フローネが紅玉と紫水晶の光が宿る蹴りを反対側から蹴り込む。
「大切な人を差し出せば、定命化に苦しむ彼らを救えるのだろうけど、それは出来ないから……♪」
 それを勝機と見たミライは、歌声を響かせる。その歌声は、普段以上に様々な想いを込めた歌声。
「汝、動くこと能わず!」
 ウィッカの詠唱と共に彼女の手から、様々な光を放つ石が放たれる。
「む……」
 その石が落ちた地点から光が走り、ライアーを中心として、魔法陣が描かれていく。
「不動陣!」
 五つの石が五芒星を描き、完成と同時にライアーの身体を縛る魔法結界となる。
「そこだな」
 勝機を見逃さず動いたのは降夜。氷結輪を放ち、ライアーの腹部を氷結させ、そこを攻撃の集中点とする。
「爆ぜて……」
 降夜の氷結させた地点を狙い、突撃するシルフィディア。その腕は巨大な地獄の杭打ち機。
「消え去れ!」
 それが狙い違わず、降夜の氷結させた場所を貫く。
「ゴミめ……!」
 貫いた地獄の杭が内部で爆発し、ライアーの腹部を大きく削り取る。
「……ふぉふぉふぉ」
 満身創痍といっても差し支えない状況だが、それでも笑うライアー。口を開き、再び毒の息吹を吐こうと、息を吸い込む。
「光よかの敵を縫い止める針と成せ!」
 その口を塞ごうと、全天より光を集め大きな針を成形するイリス。
 しかし、一歩ライアーの方が早いか……。
「そこで大人しくしてるが良いぞ!」
 そこへ割り込むレッドレーク。『赤熊手』で地面を強く打ち据えると、地面から鋭い石巖が突き出て、ライアーの口を下から突き上げる。
「ぐぅ……」
 塞がる口の中で毒の息吹が暴走する。
「銀天剣・弐の斬!」
 その隙を見逃さず、イリスの降る剣の軌跡と共に、ライアーを貫く。
「ぐふぅ……」
 突き刺さった光の針が次の瞬間に、大量の鎖となりライアーの身体を縛り、動きを封じた……。
 一瞬の沈黙の後、ゆっくりと消滅していく。そのライアーがゆっくりと口を開く。
「我が死すべきは今であった。主らの死すべきは何時かのう。案外遠くないかもしれぬぞ……」
 最後の言葉は呪詛の言葉ではなかった。嘘つきが最後に残した言葉などに耳を貸す必要は無い。
 ただ、これから厳し戦いが続くと思うと、油断だけはしないようにし、『余り物』の言葉を心に留め置くケルベロスたちであった……。


「これで洲乃御前神社は制圧です」
 周囲の竜牙兵の残党を倒し、洲乃御前神社を制圧したケルベロスたち。
 同時に、何処からか断末魔のような叫びが聞こえてくる。証拠がある訳ではないが、直感的に理解した。作戦は成功したのだ。
「さて、これからが大変だね」
 作戦成功に急激に弛緩しそうになる雰囲気をゆっくり和らげるように声を出した降夜。
「そうですね」
 それに応えるフローネ。城ヶ島にも残党が残っているだろうし、作戦が成功したならこのまま次の作戦……竜十字島への侵攻が待っている。
 竜十字島から固定魔空回廊を破壊する事も可能なのだ。竜十字島への侵攻作戦に時間を置く事は出来ない。
 ともかく、まずは城ヶ島を完璧に制圧する必要がある。有力敵は残っていないものの、オークや竜牙兵、そしてドラゴンが残っている。
 この勝利に浮かれず、気合いを入れなおすケルベロスたちであった。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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