藤棚を見上げながら、美味しいものを~シズの誕生日

作者:中尾

●ある日のヘリポートにて
「今日も1日、お仕事お疲れ様でした。――ところで、皆さんは藤まつりに、興味はありませんか?」
 雨宮・シズ(オラトリオのヘリオライダー・en0197) は、仕事帰りのケルベロス達にそう声をかけた。
 5月8日に、とある藤園で行われている藤まつりに遊びに行こうと思うのだが、折角なのでケルベロスの皆さんもどうだろうか、というものだった。
「古い大きな藤の木が並んでいるんですが、紫の花がとても綺麗なんですよ。夜はライトアップもされるんです。近くには屋台が並んでいて、僕は藤を眺めながら、フルーツ飴が舐めたいなぁ、なんて考えているんですが……」
 シズはそう言って、ふふっ、と笑った。

●藤園
 それは、音のない風鈴に似ていた。
 暖かな春の風が吹き、藤棚から下がる薄紫の花房が一斉に揺れる。
 黄緑の葉と青空を背景にして咲く、その美しさに来園者は息を飲む。
 しかし、藤の美しさはそれだけではない。
 黒い幹は長い年月をかけその身を伸ばし、あるものはまるで龍のように波打ち、またあるものは魔女の爪のように円を描き、見る者を圧倒させた。
 花に酔う者、カメラを構える者。それぞれ藤を楽しむ人々は、やがて祭りの声にハッとする。
 賑やかな声に目を向ければ、少し離れた場所に焼きそば屋や、かき氷屋を始めとした屋台が並んでいた。白いテントを広げ、藤苗の販売をする花屋の姿もある。
 学生がチョコバナナを食べながら笑い合い、仲睦まじい老夫婦がベンチに座りたこ焼きをシェアしている。
 平和な、藤園の姿が広がっていた。


■リプレイ

●藤の季節
「わあ、フジの花キレイだね!」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)の夜明け色の瞳が瞬く。
 その瞳が映し出していたのは、春の日差しを浴びた藤棚だ。
 ふんわりと口元に笑みを浮かべる彼女の横で、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) は流暢に語り始める。
「藤の花は好きでね。 花の時期は短いけど、房になった花のグラデーションが小さな滝みたいでさ」
 見上げた先、花房が風でふわりと揺れる。
 マヒナはピジョンの言葉に紫色の小さな滝を幻視した。
「たしかに小さな紫の滝みたいだね」
 ピジョンの言葉に、マヒナはうんうん、と頷く。
「なんとなく、ブドウの房にも似てる、かなぁ」
 などと話しながら砂利道を歩く、そんな2人を見守る影があった。
 朱桜院・梢子(葉桜・e56552)である。
 遡ること数分前。彼女はビハインドの葉介と共に鉄板アイスに、クロワッサンたい焼き、タピオカジュースなどを両手いっぱいに抱え、満足そうに園内を歩いていた。
 青空の下、風流な場所で食べるアイスは絶品である。ふふっ、とひと時の幸せを噛みしめる彼女の視界が、見知った顔を捉えた。
「おおっ、あれは」
 サクットロッと、口の中でたい焼きのカスタードが溢れる。ごくん、と飲み込むと梢子は遠巻きに2人の観察を始めた。葉介が梢子の肩をちょんちょんと叩き、制止を促すも効果はない。
「うん……?」
 マヒナが視線を感じて振り返ると、そこにはにやにやと笑う梢子の姿があった。
「ショーコ! 何やってるの!?」
「梢子も来てたんだ?」
 2人に見つかり、梢子はスイーツ両手にてへっと笑った。
「お気になさらず……どうぞ続けて? 何なら熱い接吻の一つもかましてくれていいのよ」
「せ、せっ……!? ……って目の前でするわけないでしょ! もー!!」
 真っ赤になったり、照れたり、怒ったり表情がコロコロ変わるマヒナの横顔を見ていたピジョンがふふっと笑った。
「まぁまぁ、あんまりマヒナをからかうなよ」
 葉介はおろおろと懸命に梢子を窘めようとするも、梢子はノンブレーキだ。
「なら人前じゃなければするのかしらねー。お熱いことで。ほら、いったいった!」
 梢子は彼女の側へと寄ると、ピジョンの方へとマヒナの背中をドンっと突き飛ばす。
「わわっ!?」
「おっと、大丈夫かい?」
 突き飛ばされてとよろけるマヒナをピジョンが抱きしめ、受け止める。
「あ……ご、ごめん!」
 マヒナはあわててピジョンに預けたその身を起こす。
「はは、梢子も困ったものだねぇ」
「もう、本当に困った人なんだからもっと言ってやって!」
 ぷんぷんと怒るマヒナにピジョンが苦笑する。
「まあ、藤の元で逢引きもいいんじゃない?『恋に酔う』二人が『決して離れない』なんてね?」
 そう、花言葉に因んだ言葉を呟き、じゃあごゆっくり、と手を振って去っていった。
「ロマンチックなのか茶々入れたいだけなのか……」
 ピジョンは過ぎ去った嵐に、小さなため息をつく。
(「ま、元より離す気はないけど」)
 と、チラリとマヒナを眺める。
(「恋に酔う……って酔ってるように見えるのかなぁ……」)
 マヒナは赤くなった頬を両手で抑えた。
(「決して離れない……ワタシも、早く応えないとなぁ……」)
 2人の元を去った梢子は、藤のトンネルを歩く。
(「『決して離れない』、ね……だけど私は……」)
 傍らの葉介をちらりと見やると、梢子の視線に気づいた黒髪のビハインドがふわりと笑む。
「ううん、なんでもないの」
 梢子は首を振り、すっかり温くなってしまったタピオカジュースを口にした。

 ●午後は穏やかに
 藤苗の販売所には、各地から集められた様々な種類の藤苗が並んでいた。
 よく見る紫のものから、白いもの、淡い桃色のもの。
 花はまだ咲いていないものも、札に写真付きで開花時期や育て方が書かれていた。
「まぁ、こんなに種類がありますのね。どれにいたしましょう」
 庭に植える藤苗を見繕いに来たマリアン・バディオーリ(蓮華草の花言葉・e62567)は迷った様子で藤苗を見比べる。その後ろで彼女の様子を見守っているのは、マリアンのチームメイトのエリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)である。
 オウガは皆、生まれながらに凄まじい腕力を有すると云う。
 マリアンは藤苗の持ち運びを、オウガであるエリアスに依頼したという訳だ。
「花より団子な俺は、藤よりタコ焼きが気になるけどな」
 エリアスの感心したような呟きに、マリアンが微笑む。
「ふふ。では、お手伝いのお礼に、あとでタコ焼きをご馳走いたしましょう」
「よっしゃ!」
 マリアンはよりよく藤苗を見ようと屈みこむ。
「日本では藤を庭に植えるのは縁起が悪いとの見方もあるのだそうですが、この揺れる淡い紫を見ると……その禁も破ってしまいたくなりますね?」
 まだ苗だというのに、立派な花を咲かせている藤を前にマリアンが微笑んだ。
「縁起云々よりも攻性植物混ざってねぇよな? 庭に植えたら大惨事だ」
 エリアスは警戒するような少しオーバーな仕草で辺りの藤苗を見回した。その様子にマリアンはくすくすと笑う。
「すみません、これとこれをくださいな」
 マリアンに声をかけられた売り子が白テントから顔を出した。
 エリアスは彼女が購入した藤苗を、両手でヒョイと持ちあげる。
「こんなん、ヘッチャラだぜ。軽い軽い」
 彼の肩で遊んでいたジェネッタのウイングキャット、ロキが、エリアスが持ち上げた藤苗の香りをすんすんと嗅いだ。
「代わりにロキ様、わたくしが抱いていても?」
 ロキは名を呼ばれると嬉しそうに短くニャと返事をして、マリアンの腕へと飛び込んだ。
「……ふふ、役得」
 もふもふとして可愛らしいロキを抱き、満足げなマリアン。
「タコ焼き屋さんは、っと」
 マリアンは約束通りタコ焼きを買いに行き、藤棚の見えるベンチへと座る。
「はい、どうぞ」
「ちょうど3時のおやつだな!」
 アツアツのタコ焼きの上で鰹節が踊る。
「おっと、ロキはダメだぜぇ? 猫舌だからな、猫だけに」
 なんてからかえば、手加減なしに飛んでくる猫パンチ。
「いってぇ!」
「ロキ様には、あとで猫さん用のササミをご用意いたしますからね」
 ロキは仕方ないとばかりにマリアンの膝上へと戻る。
「ふふっ」
 小さく温かな黒い翼を撫でる。そんなひと時の幸せ。
「今が幸せなら、記憶がなくてもいいんじゃないかって、わたくし、思うのです……」
 ふと、そんな事を呟く。
 マリアンも、エリアスも互いに過去の記憶が無い者同士であった。
「小さな小さな綺麗なものを詰め込んで、今のわたくしが新しく出来上がって参りますから」
 穏やかに語る、マリアンの姿。
「無理に過去を取り戻す必要はないのか……」
 それも本人の選択だ。俺は、どうだろうか。エリアスは思案しながらタコ焼きを口にする。
「ってタコ焼きあッつ!!!」
 唇を火傷して、ヒリヒリする。
「あら、大変。お飲み物を買いに行って参ります」
「ああ頼む」
 マリアンが、屋台通りへと駆けていく。
「あー……、もったいねぇ」
 エリアスが見下ろしたそこには、びっくりして落としてしまった1個のタコ焼きの姿があった。

●夜が来る
 ケルベロス達は時間、時間によって姿を変える藤棚を楽しんだ。
 夕焼けに照らされた藤もまた、美しい。影が深みを増し、紫に赤が差す。
 やがて、陽が沈み、藤棚へ向けられたライトが点灯される。
 ざわざわと、どこかで歓声が聞こえた。
 夜の紺を背景として、幻想的な姿が美しい。
 藤まつりは、消える前の炎のように、賑やかさを増したように思えた。

 玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は藤園の脇に折り畳みの椅子を設置し、画用紙を噛ませたカルトンを抱えていた。
 絵を描くにはやや暗い手元の中、カッターで削られた鉛筆が藤の輪郭を描いていく。
 その迷いのない線は、彼が経験者である事を物語っていた。
「そういやタマちゃんが絵描くとこ初めて見るな」
 その隣で、そう呟いたのは佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)だった。
 照彦は両手の人差し指と親指とで長方形を作ると、それを覗きこみ、どこをどう写真を撮ろうかと思案していた。
 『絵と写真、どちらが綺麗にこの風景を残せるだろうか』そんな話を切り出したのは、どっちだったか。自然と、そういう話の流れになった2人は、己の美に没頭していた。
「苦戦してますね」
 ふと、筆洗いから筆を取ったタイミングで顔を上げた陣内が言った。
「藤は下がってて常に揺れてるから、ピント調整難しいねん。しかも夜やし」
 照彦が藤へと視線を向けたまま、目を細める。
「せやから秘密兵器持って来てん。レプリカントの本領発揮やな」
 シャッキーン。そう笑って、左目に装着したのはアダプターとレンズだった。
「格好いいやろ? 明るいし微調整が感覚で出来るねん。慣れんとアイズフォンしそうなるし目ぇ回るけど。寄りでボケ重視の雰囲気写真狙うで~」
 照彦が再度藤へと視線を向け、しばし沈黙。
 そこへ、ぽつり、と陣内が呟いた。
「夜の花の凄味を出すのはカメラの方に分があると思っていました」
 触れることができそうな、匂いも立ち込めてきそうな写実的な絵を理想にしてきたから、尚更だ。
 身体ごとカメラになれるのは正直言って、羨ましかった。
「簡単やないとこは同じちゃう~? 絵のええとこは表現の自由さやろな。嘘のが本物より凄い事かてあるやん? 俺は筆のタッチがある方が好き~」
「もっともらしい嘘で本気にさせるのは、確かに得意ですが」
 照彦の言葉に陣内は自嘲気味に軽口を言う。
「俺も水彩は本分じゃないので表現には苦戦中です」
 色の乗った画用紙は、筆が撫でる度に刻一刻とその姿を変化させる。
「油彩ならもっとマシに描けるんだけど」
 なんて言い訳を口の中で呟き、紙を替えて、再び藤を描き始める。
 構図はほぼ同じまま、塗り方や色を変えて時間の限り。
 自分の中にあ『答え』を絞り込む作業に没頭していた。
「相変わらず悩んでるみたいやけど、俺にはそれも楽しそうに見えるで」
 照彦はそう言うと、藤に向けていた瞳のシャッターを切った。

「……なんて美しい……とても幻想的だな……」
 ライトアップされた藤棚を見上げ、シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123) はぽつり、ぽつりと感嘆の声を零した。
「ああ、綺麗だな」
 その声に頷いたのはジョニー・シルヴァー(銀の弾丸・e72083)だ。
 彼はいつものロングコートと帽子を封印して、和装姿で夜の景色を楽しんでいた。
 そんな彼の姿に、シャインは己の鼓動の早さを感じ、胸に手を宛がった。
 今日はジョニーとの初デートだ。ドキドキと胸が高鳴るが、彼にバレてはいけない。
(「何だか頬が熱い……」)
 藤を見上げる彼。本当は彼と手を繋いで歩きたいが、その言葉を飲み込む。
(「藤に合わせて振袖を着たけど……似合っているかな……」)
 己が着ている、薄紫色の振袖。とても美しい姿だが、恋する乙女はそんな不安を抱く。
 そんな自分とは対照的に、彼は何を着ていても格好いい。
「ジョニー、和装姿も格好いいね」
 声が震えていないだろうか。シャインはできる限り、いつも通りの声で喋る。すると。
「シャインさんの振袖もよく似合ってるよ」
 ジョニーの優しい声に、シャインは嬉しそうに微笑んだ。
 すると、緊張もいくらか解れた気がした。
「古来より藤は、女性のたおやかな姿に例えられていたんだって」
 そう言われれば確かに、と、ジョニーは顎に手を添えて花房を見上げた。女性のしなやかで優しい姿に見える気がする。
「……花言葉知ってる?」
「いいや」
 シャインの問いに、ジョニーは首を横に振った。
「幾つかあるけど……『恋に酔う』そして『決して離れない』」
 藤棚を背に振り返る。夜の風を受け、シャインの前髪が揺れた。
「……ね、もし私が花弁のように風に攫われてしまったら……どうする?」
 銀色の瞳が、青色の瞳を見据える。
 そんなシャインの言葉に、ジョニーは微笑み返答した。
「なら、絶対手を離さないようにしないと……俺は君と一緒に居るよ」
 しっかりとした答えと共に、ジョニーはシャインの手を優しく握る。
「私も、ジョニーの立場なら……繋いだ手を離さない……絶対に……」
 温かい手を握り返し、シャインは微笑んだ。

 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)は思い出の一枚を撮ろうとカメラのファインダーを覗き込んだ。そのレンズに映るのは、藤を背景とした楽しそうな月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)の姿だ。
 藤棚を見るのは初めてだと言った彼女は、その綺麗な紫色の世界に目を奪われていた。
 風が、彼女の銀髪と藤を揺らす。
 刹那、ファインダーの向こうで藤棚に紛れて彼女の存在が霞んだように見えて――。
 気がつけばステラはカメラを投げだして、彼女の方へと駆けていた。
「見てみて!」
 ユアが花房へと手を伸ばし、振り返った瞬間、ぎゅっと、強く抱きしめられた確かな感触。どこか慌てたようなステラの姿に、ユアはきょとんとして彼を見上げる。
「どうしたの?」
「何でもない」
 そう言って、自分の頭を彼女にぐりぐりと擦り付ける。
「今日は甘えん坊だね?」
 ユアはふふっと笑って彼の金色の髪を白い手が優しく撫でる。
「……格好悪いなぁ、俺」
 暫くして、顔を上げたステラが苦笑の混じった照れ笑いをする。
「君が藤に攫われてしまいそうだったからね。俺のお宝は何処にも連れて行かせないぞって思っただけさ」
「おや……ボクが攫われるかぁ……もし攫われたら、どうしようか?」
 ユアが悪戯っぽく微笑む。
「ふふっ、ステラならきっと迎えにきてくれるでしょ?」
 その言葉に、仮面越しの紫の瞳が瞬く。
「勿論ですとも、俺の歌姫様」
 ステラは口元に不敵な笑みを湛え、仮面に手を当てる。
「君を助けるためなら、何処へでも」
 そう、彼女の細い手を取って、手の甲にキスをした。

「……こうした催し物に参加するのも久々だな」
 藤園に入るなり、宮口・双牙(軍服を着た金狼・e352902)が呟いた。
 前回は、いつだったか。甘い甘い、イチゴの味を思い出す。その時も、隣に居たのは彼女だった。――花津月・雨依(壊々癒々・e66142)。
「すごいですよ。見てください、宮口さん」
 雨依は遠くからでも美しい藤棚のライトアップに思わず声をあげる。
 ウキウキとしている彼女の姿に、双牙はふっ、と口元に笑みを浮かべた。
 だが、まずは屋台通りからだ。
「何か気になるものはあるか?」
 雨依は屋台通りを見て、シズの言っていたフルーツ飴を思い出す。
「宮口さんは何味がいいですか? 私はイチゴ味が食べたいなって……」
「では、花津月と同じ物を」
 フルーツ飴の屋台を覗けば、そこには王道のリンゴ飴から、ブドウにミカン。そして、お目当ての飴でコーティングされた鮮やかなイチゴ飴があった。
 2人は同じ物を手にして、夜の藤棚へと向かう。
 時間もあり、ひと気の少なくなった藤園は少し肌寒い。けれど、心はとても温かくて。
(「すっごく綺麗な光景に胸が弾んでワクワクして……。明かりに照らされる藤が綺麗でずーっとここにいたくなっちゃう。でもきっと、この気持ちは藤だけのお陰じゃないんですよね」)
 雨依はチラッと、双牙を見上げた。そこには、思案する双牙がいた。
 ――彼女は俺の何なのだろう。
(「言葉を交わせば穏やかな気持ちになり、姿を見れば目を離すことができない。今も俺が見惚れているのは、灯りに照らされた花か、それとも――」)
 ふと、双牙が足を止める。
「どうしたんですか……?」
 彼女が不思議そうに問う。
「……俺は君に、惚れているんだと思う」
 彼が、雨依にだけ聞こえるように囁いた。
 その言葉に、雨依は、はっと息を飲んだ。まるで、時が止まったようだった。
「そう想う事を、君は赦してくれるだろうか」
 ピンク色の唇が微かにわななき、薄く開く。
「……私も同じ気持ちです。宮口さん……双牙さんの事が、大好きです。出来ればこれからもずっと。同じ気持ちでいれたらなって」
 双牙はその言葉に微笑み、雨依もまた微笑み返した。

●帰りの時間
 夜も遅い時間。屋台の人々は撤収を始め、藤のライトアップがフッ、と消える。
 まつりが、終わるのだ。
「――さて、皆さん。藤は十分楽しめましたか?」
 雨宮・シズ(オラトリオのヘリオライダー・en0197)はケルベロスへ達と微笑みかけた。シズ自身も藤まつりを楽しんだようで、手にはお土産も握られていた。
「……では、名残惜しいですが、帰りましょうか」
 夜風が、頬を撫でる。
 ケルベロス達は夜空を背景にして佇む藤棚に別れを告げて、それぞれの日常へと帰って行くのだった。

作者:中尾 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月17日
難度:易しい
参加:13人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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