城ヶ島浸透作戦～未来への布石

■リプレイ

●夜明け前の上陸
　長い夜だった。ドラゴンゲートを破壊するチャンス、失敗は許されない。クルーザーで城ヶ島灯台から南東に回り込むケルベロスたちの気は張り詰めていた。とりわけジュスティシア・ファーレル（エルフの砲撃騎士・e63719）は今回のようなチャンスが巡ってきたことに対して、内心まだ信じられないような気持でいた。
「今日も元気に呪っちゃうぞ☆」
　遠野・篠葉（ヒトを呪わば穴二つ・e56796）が船内の重苦しい雰囲気を察してか、陽気な声を上げた。
「陽動用の呪いって何かあったかしら……寝癖が爆発する呪いとか何だか踊りたくなる呪いなんてどう？」
　筐・恭志郎（白鞘・e19690）は息を抜いたように笑い、双眼鏡で岸の様子を確認する。
「そうですね、俺たちの役目はあくまでも陽動。敵を誘き出せればOK」
「ああ、落ち着いていきますか」
　と久遠・征夫（意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214）は友人の言葉にうなずき、飛行して一足先に岸辺に到着。敵影がないのを確認、仲間たちの上陸を促した。
　ケルベロスたちはうなずきあい、迅速に作戦行動を開始、魔空回廊を目指す。だが、すぐに不穏な気配に足が止まった。
　森の影が動く。木々を薙ぎ倒すように、その巨大な敵は姿を現した。長い首、ぬらりと黒光りする皮膚、頭部にぎょろりと赤い双眸が瞬く。
　ドラゴンだった。
「さっそくおいでなすったようだね」
　ウォーレン・ホリィウッド（ホーリーロック・e00813）が油断なく身構えた時、ドラゴンは長い首を天に突きあげ、咆哮を木霊させた。

●漆黒の竜
　黒いドラゴンは口から炎を撒き散らした。夜が燃えていくような業火。
「早速ドラゴンとハナ！　遠慮ナク食べルゾ！」
　意気揚々と飛び出したアリャリァリャ・ロートクロム（悪食・e35846）。天空より無数の刀剣を召喚し、戦場にばら撒く。つづけざまに、エニーケ・スコルーク（黒馬の騎婦人・e00486）はドラゴニックハンマーで果敢に攻める。
　ドラゴンは巨大な爪を振るい、アリャリァリャを叩き落とす。そしてさらなる炎を吐く。
「この力が仲間の支えとなるなら……存分に振るおう。異形の力を！　誰ひとり……倒れさせない！」
　ガートルード・コロネーション（コロネじゃないもん・e45615）の祈りが混沌の水から生じた霧を呼び、仲間を活性化させる。さらにはジュスティシアがメタリックバーストを乗せていく。
「いくよ、征君！」
　恭志郎が地獄の焔を放ち、それに呑まれゆくドラゴン目指して征夫が駆ける。
「刀を極めし者は自らも刀と化す……無刀っ！」
　翼を広げながら高速で相手に突っ込み、自らの翼を巨大な刀のように叩きつける。
　ドラゴンの首に深い傷が生じた。その傷口をさらに押し広げんと、ウォーレンがIce shaverを突き立てた。
　苦しみもがくドラゴンは闇雲に四方八方炎を吐き出した。
　自分たちが相手にしているドラゴン、確かに強いが、手に負えないほどでもない。
「思った以上に弱体化しているのかな。竜十字島に行って確かめないと――そのためにもこの戦いは負けられない」
　ウォーレンは自分に言い聞かせるように囁き、次の一手に備える。
　その間にもアリャリァリャがドラゴンの背に飛びついていた。そのまま大口開き、肉にかぶりつくことで魂をも喰らわんとする。
「おいしい！」
　肉を食いちぎっての歓喜の声。
　ドラゴンは身を振ってアリャリァリャを振り落とした。
　恭志郎が西空を仰ぐ。大阪方面のドラゴンが戻ってくるのを気にかけた。
「早く倒さないと奴らが戻った時に挟み撃ちになるんじゃ」
　一時撤退か。ケルベロスたちは頷き合う。
「はーい、私にお任せあれ」
　体も重そうに追いかけてくるドラゴンに篠葉が見舞う呪。
「冥府より出づる亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え」
　大地より引き摺り出された怨霊たちが、ドラゴンに絡むように取り憑き、拘束する。怨霊達の怨嗟の声はドラゴンの耳にも聞こえるのだろうか。
　ともかく敵の足は止まる。その隙にケルベロスたちは退いた。

●次なる相手
　退いた先で出くわしたのは、羽根の破れた青いドラゴンだった。
　ドラゴンはケルベロスたちに気づくなり、凍てつくブレスを吐き出す。
「やれやれ、どうやらドラゴンの巣にかかってしまったようですね」
　征夫は太刀を構えてブレスを掻い潜り、放った一閃が三日月の如き弧を描く。ドラゴンの体に刻まれた傷口に凍てつく光線が浴びせられた。J＆W2000対物狙撃銃。ジュスティシアの狙撃だった。
「目には目を……といきたいところですが、あの相手にフロストレーザーは効果が薄かったかもしれませんね」
　ドラゴンはのしりのしりとケルベロスたちににじり寄ってくる。
「とりあえず呪い玉っ……と！」
　篠葉がバスターライフルから放つ呪力を込めたエネルギー光弾。それが弾けるやいなや、ぶわっとヒトデのような妖しい影が立つ。その影を打ち消さんとブレスを吐き散らす隙を縫い、
「死にぞこないのドラゴンがよくもまあ抵抗してくれますわね。どれ……受け切れるかどうか、試して差し上げましょう！」
　内に秘める抑えきれない砲火衝動を開放したエニーケの、バスターライフルによる凄まじい連射砲撃。
　破滅的な攻撃を浴び続けたドラゴンだったが、ただ黙っているだけではなかった。怒りの咆哮を木霊させるなり先ほどとは一味違ったブレスを吹き出した。凄まじい冷気の中に怒りの炎も混じるような。
「――――っ！！」
　ブレスをもろに浴びた恭志郎だったが、奥歯を噛んでこらえる。
「このお！　やらせるかよ！」
　身を焼かれながらも、刃を振るい、その剣圧でもってブレスを掻き消す征夫。
「ここで僕がしっかり盾にならないと……」
　傷ついた仲間達を癒やす花びらのオーラが降る。その花びらとともに最前線に舞い立つウォーレン。
　そんな彼を守護するように現れた光の盾。
「私たち一人一人にできることはかぎられてるかもしれないけれど！」
　ガートルードは自身の担う役目を実直にこなす。そうすることで、みんなが無事に生き残り、かつ作戦を完了できると信じて。
「ダイ、コン――おろーし!!!!」
　チェーンソーによる摩り下ろすが如き猛烈な連撃、巻き上がった破塵が着火し、さながら地獄の窯となる。
「ウマソーダナー」
　アリャリァリャは舌なめずり。
　大分派手な戦闘を行った影響か、こちらに近づいてくる敵の気配をジュスティシアは逸早く感じ取っていた。グラビティ配合ホローポイント弾を目の前のドラゴンの傷口に撃ち込み、敵の痛みを押し広げる。
「一旦撤退しましょう！　ここに留まっているのは不利です！」

●蝟集する力無き竜たち
　まだ明けぬ夜の森に長い首がいくつか持ち上がり、怒りの声を響かせ合う。それに呼応した数匹のドラゴンがケルベロスたちを追いかけてくる。追手はまだ増えるかもしれない。
「えー、こんなにいっぱいの敵を相手するなんて無茶よー」
　という篠葉の言葉は事実だったが、その声は棒読みだった。たしかに力が弱まっているとはいえドラゴンを数匹相手にするのは無茶もいいところ。だが、今回の目的は敵の殲滅にあらず。あくまで陽動。ならば、多くのドラゴンを引き付けている状況は、十二分に目的に適っている。
「上々の出来ということですね。ならば――喧嘩屋の意地、見せてやるぜ！」
「ああ」
　征夫と恭志郎が頷き合い、各々の武器を構えた。
「最後に大暴れというわけですわね！　盛大かつ派手にやらかしますわよ！」
　エニーケは竜騎兵銃をクルクルと回して敵に狙いをつけ、
「ガトリング……ＲＥＡＤＹ！」
　ありったけの弾幕を張り、ドラゴンたちとの戦いの火蓋を切った。
「ギヒヒヒ、たくサンいただきまス！」
　天から刀剣の雨を降らし、みずからもドラゴンの群れに飛び込んでいくアリャリァリャ。
「もう一つ呪いをプレゼント！」
　ネクロオーブから放たれるいくつもの黒鎖。篠葉の合図とともに大きく網のように広がり、ドラゴンたちを絡めとる。
　怒ったドラゴンたちは炎を撒き散らし、夜の底を赤く染め上げていく。
　しかし防御も抜かりない。ガートルードがすでに大地に守護星座を描いている。
「後は攪乱しつつ……！」
　ローレンツセイバーを抜いたジュスティシア、炎の海を流れるようにドラゴンたちを斬りつけていく。
　ドラゴンたちもやられるがままではなかった。群れを成したドラゴンたちの破壊力はやはり凄まじく、より激しさを増していくばかり。ガートルードが支援に徹しているが、徐々に押されていく。
「……っ！　ドラゴンはドラゴンってことね……！」
「陽動としての役目は十分に果たした。被害が大きくなる前に撤退するのが賢明だろうね」
　ウォーレンの言葉に、了承の意を示すようにうなずくケルベロスたち。クルーザーの泊めてある岸辺へと向かう。だが、そちらに回り込んでいたドラゴンがいた。最初に戦った黒いドラゴン。
　他のドラゴンたちとの距離が遠い。ひょっとしたら計画的な行動ではなく、偶然そこにいただけなのかもしれない。いずれにしても、退路を塞いでいるのなら――。
「戦うしかありませんね」
　ジュスティシアが狙いを定め、ホローポイント弾を撃ち込む。
　ぼやぼやしている暇はなかった。後ろからはドラゴンたちが迫っているのだ。
「もっと肉をクレ！」
　アリャリァリャが敵の首にかぶりつく。そのまま離さない。どれほど振り回されてもだ。
　黒竜はついに力尽きたか。声も絶え、重たげに身を大地に横たえた。
「さあ、急ぐわよ！」
　ガートルードが呼びかけ、ケルベロスたちはドラゴンの脇をすり抜けていく。
　だが――。
　ドラゴンはまだ息絶えてはいなかった。首をもたげ、渾身のブレスを放つ。
「……往生際の悪い。もう少し生きたかったでしょうけど、いい加減寝なさいな。永遠に目覚めなくてよいですので」
　連射を浴びせるエニーケ。
　しかしドラゴンはしぶとく、あくまでも命尽きるまで戦い抜く覚悟を見せていた。そんなドラゴンにウォーレンは悲しそうな、憐れむような視線を向けた。
「わかりあえない、のかな。道があれば良かったのに……」
　せめて、安らかに。幽世へ、もう戦わなくてもよい場所へ――。
　頭上にかざした左手の人差し指で小さく円を描き、幽世の風を伴う暗い雨を呼ぶ。雨に打たれたドラゴンの意識は夜の底へとまどろんでいくようだった。
「恭志郎さん。頼めるかな」
「わかりました」
　ウォーレンの意を汲んでうなずく恭志郎。
　まず激しく踏み込んだのは征夫。ダダンと歌舞伎役者が見栄を切るような痛快な一撃。
　華々しいほどの血飛沫が吹く。
　さらに恭志郎が踏み込んだ。
　だが、閃いた居合の刀閃は限りなく静かに――。
「介錯、たしかに承った」
　刀をおさめたとき、ドラゴンは音もなく倒れた。今度は二度と起き上がることもないだろう。
「みんな、早く早く！」
　ドラゴンの群れはすぐ後ろまで迫っている。篠葉は取り急ぎネクロオーブの上で印を結んだ。
「本日最後の呪いよ！」
　放出された鎖が木々に巻き付き、引き寄せ合う。そうして倒れた木々はドラゴンたちを巻き込んだ。
「竜も歩けば木に当たる的なー？」
　その隙に撤退したケルベロスたちは岸辺に到着、急いでクルーザーを出す。
「隠密班は上手くいったでしょうか？」
　ジュスティシアが島を振り返る。
「僕たちにできることはすべてやった。後は仲間を信じて、祈るしかない。大丈夫、きっと彼らなら――」
　ウォーレンは確信に満ちた強い口調で言う。
　そうだ、きっとうまくいく。ケルベロスたちはそう信じ、城ヶ島を離れていった。
　夜明けは近い――。

作者：ＭＩＬＬＡ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年5月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 4
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