城ヶ島浸透作戦~迎え撃つのは飛べないドラゴン

作者:質種剰

●城ヶ島にて
 城ヶ島。
 グランドロンから根へグラビティ・チェインを大量に送ってユグドラシル化させるという、今のドラゴン勢力にとって願ってもない作戦は、失敗に終わった。
 その尻拭いという訳でもないが、何せ定命化に苦しんでいるドラゴン達にとって、次策があるならすぐにでも決行したいと気が逸るのも当然の事。
 重グラビティ起因型神性不全症という重過ぎる荷物を抱えながらも、未だ翼の動くドラゴン達は、決死の思いで、城ヶ島から海へと飛び立った。
「けひん、けひん」
 辛そうによろよろと飛ぶ桃色の毛玉を、骨だけの翼で仲間のドラゴンが支え合い、互いにいたわりながら飛行する様は、哀れですらある。
「…………」
 そんな彼らをどことなく心配そうに見送っているのが、空を飛べないドラゴン達と配下のオーク、竜騎馬兵達であった。


「皆さん、グランドロン迎撃戦お疲れ様でございました。皆さんのご活躍により、城ヶ島のユグドラシル化を防ぐ事に成功したでありますよ」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、まずはケルベロス達を労ってから話し始める。
「城ヶ島のユグドラシル化が失敗した事で、ドラゴン達は定命化の危機から脱するべく、大阪城のユグドラシルへ多くのドラゴンを送り込む作戦の断行を決めたようであります」
 ドラゴン達は、城ヶ島から東京湾を抜けて太平洋に出た後、紀伊半島を大きく迂回して瀬戸内海へ入り、大阪湾から上陸、大阪城へと至るルートを選んでいる。
 彼らは『極力戦闘を行わず、大阪城に到達する』為に全力を尽くしていて、海上での迎撃戦や、淡路島と和歌山市を防衛ラインとする作戦などでは、突破の阻止は不可能と算出された。
「その為、大阪城への合流を阻止する為には、大阪湾に上陸するドラゴン達を水際で迎撃するしかありません」
 しかし、この場合は大阪城側からも強大な戦力が出撃してくると予測され、戦場となった大阪市内は壊滅的な被害を受けるだろう。
「日数的に市民の避難は可能ですが、200万人近い大阪市の住民の避難と、被災地の復興などを考えると、ケルベロスウォー並の財政出動が必要となるため、現実的には不可能に近い作戦でありましょう」
 城ヶ島のユグドラシル化を阻止された際の次善の策だったのだろうが、上記の通りこれを阻止するのは困難を極める。
「それだけ、定命化ドラゴンの大阪城への退避作戦は、ドラゴン勢力の命運をかけた大作戦なのであります……」
 現在ドラゴン勢力が用いることのできる最大限の戦力が、この作戦の為に動員されているという。
「大阪城への退避にもし成功すれば、いずれは、大阪城内に固定型魔空回廊を設置し、城ヶ島の拠点を破却するなんて計画も……起こり得ないとは言い切れません……」
 だが、その分、現在の城ヶ島の防衛には、大きな隙が生じているのも事実。
「この隙をつけば、最小限の戦力で城ヶ島を奪還する事が可能でありましょう」
 すなわち、『城ヶ島を制圧』し、かつ『固定型魔空回廊を破壊されずに手に入れる』事が、今回の作戦の目的である。
「固定型魔空回廊は、ドラゴンが移動可能な特別な魔空回廊ですが、移動できるドラゴンは1度に1体ずつに過ぎません」
 よって、城ヶ島側の出口を制圧してしまえば、竜十字島からドラゴンが移動してくることは不可能となる。
「更に、固定型魔空回廊を利用すれば、竜十字島に逆侵攻してドラゴンのゲートを破壊する作戦も実行可能になるでありますよ」
 ドラゴンの一部が大阪城に合流したとしても、ドラゴンのゲートを破壊してしまえばそのドラゴン達は『残党勢力』に過ぎず、危険度は大きく下がるだろう。
「まさに、肉を切らせて骨を断つ作戦! 皆さんのご健闘を祈るであります」
 かけらは力み返りつつ皆を激励した。
「さて、城ヶ島の残存戦力でありますが、大阪城に移動する事が難しい空を飛べないドラゴン達と、配下種族であるオークや竜牙兵といった警備役がいるでありますよ」
 今回の作戦はドラゴン側の隙をついた作戦だが、その分ドラゴン勢力とてこちらの行動を全く予測していない訳ではないらしい。
「大阪城へ向かったドラゴン勢力が引き返してくる可能性はゼロであります。何故なら、ドラゴン勢力は、大阪城に向かったドラゴンの護衛部隊を撤退させるべくケルベロス達が城ヶ島に対して陽動攻撃を行うだろうと予測してるであります」
 その為、ケルベロスの攻撃が行われても、出発したドラゴンが城ヶ島に戻って来る事は無い。
「また、ドラゴン勢力は、ケルベロスが少数精鋭のチームによって、固定型魔空回廊の破壊を目指した潜入作戦を行ってくる可能性も考えてるであります」
 固定魔空回廊の設置には多大な労力が必要となることから、ドラゴン側は大阪城に新たな固定型魔空回廊を設置されるまでは城ヶ島の固定型魔空回廊を失いたくないと考えていて、残存戦力によって固定型魔空回廊の防衛を行ってくる。
「ただ、ひとつ気をつけていただきたいのは……ケルベロスの目的が、固定型魔空回廊の制圧による『竜十字島への逆侵攻』であると向こうへ気づかれた場合、ドラゴンは自ら固定型魔空回廊を破壊、躊躇いなく破棄する危険性があります」
 これらのドラゴン側の戦略や行動指針を踏まえて、作戦を行って欲しい。
「とまあ、そんな訳で皆さんには、城ヶ島への陽動作戦と見せかけて侵攻していただきます」
 少人数のチーム毎に、様々な方法で城ヶ島に潜入・上陸を行い、固定型魔空回廊がある島の中心部へと向かって欲しい。
「ちなみに城ヶ島海南神社跡ですが、周囲は焼き払われ、ドラゴンが活動しやすいよう見晴らしがよくなってるであります」
 ケルベロスの狙いが陽動であり、固定型魔空回廊の破壊までは目指していないと見せかける事ができれば、侵攻してきたチームを蹴散らそうとドラゴン達が迎撃に出てくるので、比較的容易に各個撃破が可能になる。
「この迎撃戦の中、隠密行動に特化した3チーム程度が、迎撃をすりぬけて固定型魔空回廊に到達する事ができれば……最善でありますね」
 その場合は、固定型魔空回廊の防衛に残っていたドラゴンを撃破し、魔空回廊の制圧を目指せば良い。
「固定型魔空回廊を制圧できれば、竜十字島の増援を阻止できますので、残る敵を掃討すれば城ヶ島の奪還が完了となります」
 一方、隠密チームによる制圧が行えなかった場合は、魔空回廊を防衛しようと集結するドラゴン達と、異変を知って竜十字島から増援で現れるドラゴン達を相手取って、決戦を行う事になる。
「決戦時、ドラゴン達は『固定型魔空回廊』を防衛しようとしますが、ケルベロスの真の目的に気づいてしまうと、魔空回廊の破壊に方針を転換する危険があります」
 あくまでケルベロスの目的が『固定型魔空回廊の破壊』であると誤解させたまま、敵を排除する必要があるだろう。
「魔空回廊を制圧するか……もしくは魔空回廊が破壊されるとどのみち竜十字島からの増援が無くなる為、残る敵を掃討すれば城ヶ島の奪還成功となります」
 万一の場合だが、もし敵増援が手強く、ケルベロス側が危機に陥った時は、ケルベロスの手で固定型魔空回廊を破壊し、増援を阻止する方策も必要になるかもしれない。
 状況に応じて、自己の判断で動いて欲しい。
「大阪城に合流したドラゴンが、大阪城内に固定型魔空回廊を設置した場合、竜十字島と大阪城のデウスエクスが自由に行き来できるようになるであります……そうなれば、大阪城と竜十字島のどちらかでケルベロスが決戦を挑んだ時、もう片方からの増援が……」
 かけらはそこまで言うと、ケルベロス達へ向かって必死に懇願した。
「ですが、その前に城ヶ島を制圧し、固定型魔空回廊を利用して、竜十字島のドラゴンのゲートを破壊できれば、状況は逆転します。これは今後の地球の命運がかかった戦いであります。皆さんどうかご武運を!」


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
皇・絶華(影月・e04491)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)

■リプレイ


 城ヶ島。
 隠密班3班はそれぞれ別地点より上陸という手筈になっていた為、8人はウミウ展望台の南東から島の中央部を目指す。
「ドラゴンは恐ろしい。だが……こうして此処まであいつらを追いつめられたのは……竜十字島へと突入を成功させた『彼ら』が居たからなのだろうな」
 と、軍用双眼鏡を覗いて降り立った現在地からどんな経路を辿れば効率的か考えているのは、皇・絶華(影月・e04491)。
「……彼らの残したものはこうもドラゴンを追いつめ続けている。ならば……その戦いを意味あるものとしなければならないな」
 迷彩服に身を包んだ上で螺旋隠れを用い、絶華なりに気配を殺しながらの敵地への潜入。
 予め用意してきた城ヶ島の見取り図によれば、ウミウ展望台を迂回して島の中央部『海南神社』へ向かうのが最良と思えた。
「……ドラゴン勢力は撤退という言葉を知らないのか……?」
 そんな絶華の前方を、隠密気流を巻き起こした状態で進むのは日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)。
「死にたくないなら回れ右して母星に帰る、戦闘の果てに死にたいならデウスエクス同士で戦えば良いだろうに……」
 彼もまた迷彩コートや消音ブーツを着けて気配を断つ対策を怠らず、その上、真剣な面持ちで真面目な事を考察していた。
「……勝手に決戦相手へ認定されても迷惑なだけだし、対話という選択肢がない相手というのは本当に面倒だな……」
 けれど、その結論が迷惑で面倒な辺り、考え好きが高じてそれ自体を楽しんでいるいつもの蒼眞である。
 しかも、ここへ来るまでのヘリオン機内で小檻へおっぱいダイブを敢行した挙句、心ゆくまで挟まれ圧迫された結果やっぱり蹴落とされて、いつもの愉しみを謳歌してきた蒼眞であった。
 一方。
「城ヶ島を再びボク達の手に取り戻すぞー!」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は、見た目通り——それでいて実年齢とは妙に剥離した——幼い物言いで元気に発奮していた。
 アクアカーモを被って腕を振り上げている様は無邪気にすら映る。
 それでいて、水没してはマズい貴重品を丈夫なナイロンバッグへ仕舞っておく気の利く一面も披露していた。
 他方。
「ボレアースには昔熊本城で痛い目に遭ったけど……今はそれを考えている場合じゃないよね」
 苦い記憶を呼び起こされる中、迷彩服の中に収まったマシュちゃんを両手でずり落ちないように支えて移動するのは、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)。
「やることをなしてドラゴンへの一撃を加える……やるべきことをなさないと、だね」
 彼女もまた、他の仲間同様に特殊な気流を纏い努めて気配を殺し、極力ドラゴン配下たるオークや竜牙兵との戦闘を避けるべく隠密活動に徹していた。
 幸い、スノーエル達が選んだ道は——安房崎灯台から上陸した陽動班が竜牙兵を引きつけてくれているお陰もあって——未だ敵に遭遇せず安全に進軍できている。
「いよいよ大きな戦いになりそうな感じね」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、潜水服から解放されて心地好さそうな表情だ。
 ヘリオンから直接城ヶ島へ降下するのは敵地故に不可能と判断し、8人は直接海へ飛び込んで根性を見せて泳いできたのだった。
「そして思った以上に見晴らしが良いのね……」
 道を塞ぐ茂みをいつでも脇へ避けさせる準備を整えつつ、ドラゴン勢力に占拠された事によってすっかり変わってしまった地形を目の当たりにし、困惑するかぐら。
 その後方では、
「マヒナ、緊張してる? 頑張ろうな」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が、緊張のせいかやや強張った面持ちになっている恋人のマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)を、優しく微笑んで励ました。
 彼自身はスーパーGPSを用いて城ヶ島の紙地図へ自分達の現在位置を表示、大分地形は変わっているものの方角を具に確かめながら、中央部目指して歩いている。
 テレビウムのマギーも、ピジョンがアクアカーモの光学迷彩に頼っているのへ合わせてか、迷彩コートを着て画面も迷彩柄を映していて、大変可愛らしい。
「ありがとう。ワタシは大丈夫。……ワタシよりアロアロが心配、かな?」
 マヒナは恋人へ心配かけまいと無理に笑顔を作って、腕の中でガクガク震えているアロアロを掲げてみせた。
 これだけ震えていようともそこはシャーマンズゴースト、迷彩コートを着てマヒナの前をちょこちょこ歩く様は、全く音を立てない静かなものであった。
(「グランドロン迎撃戦、奈良は不本意な結果に終わっちゃったから……今度こそ成功させないと」)
 それでも、奈良での敗戦が余程堪えたのだろう、マヒナの頭の中では冷たい嵐が渦を巻いて荒れ狂っている。
「戦う相手は違うけど……あんな気持ちはもう味わいたくない」
 どうしても失敗の記憶がちらついて落ち込みそうになるマヒナだが、なればこそ自分を奮い立たせようと、真っ直ぐ前を向いて進むのだった。
 そして、
「ドラゴン達のゲート破壊の為にも、前回の雪辱を必ず果たすわ……」
 マヒナと同じぐらい奈良戦の敗北を引き摺っているのが、円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)だった。
 その表情は明らかに普段より硬く、纏う空気もピリピリしている。
 とはいえ、キアリは上陸後真っ先にクリーニングを敢行、海中を泳いできた8人をパンパンして身体と服装を清め、彼らが快適に行軍できるよう心を砕いてもいた。
 今は動物変身を用いて黒猫姿になり、オルトロスのアロンと一緒に仲間の足下を走っている。


 8人が海南神社へ到着した時、既に馬の背洞門近辺より上陸していた隠密班が、周囲で息を潜めて境内の様子を伺っていた。
 程なくしてウミウ展望台の南からオークを蹴散らしながら現れたもう1班とも合流し、いよいよ魔竜デス・グランデリオンへ一斉攻撃を仕掛ける24人。
「あなたが立ち向かっているのが誰なのか、改めて見せつけちゃうんだよ?」
 まずはスノーエルが、ドラゴンの幻影』を放つ竜語魔法の応用で、ふわもこドラゴンの幻影を生み出す。
「……さぁここに、おいでっ!」
 どこぞの綿属性ボクスドラゴンによく似た幻影は、恐ろしい形相でデス・グランデリオンを睨みつけ、低く唸って奴の動きを鈍らせた。
 マシュちゃんも幻に負けじともふもふブレスを吐き出して、デス・グランデリオンの反射神経へ更なる追い討ちをかけている。
「ドラゴンは……何故地球を愛せぬのか、何故憎悪に拘るのか」
 迷いを振り切るように斬狼を履いた両足で駆け出すのは絶華。
「闘争に生きながらも奴らもまた、仲間の為に戦ってるのに……」
 地面との摩擦によって炎を纏ったローラーダッシュから、激しい蹴りをぶちかました。
「魔空回廊を固定してる石碑的なのはっと」
 和はきょろきょろと辺りを見回して、デス・グランデリオンへの陽動として魔空回廊の破壊を行う振りをしている。
 その傍ら、全身の光学迷彩から光輝くオウガ粒子を放出し、前衛陣の超感覚を覚醒させた。
「頭上注意、だよ?」
 マヒナは、自身の異国情緒溢れる雰囲気にぴったりなヤシの木の幻を顕現。
 デス・グランデリオンの遥か高い頭上へも、しっかりとココナッツを複数ぶつけてみせた。
 アロアロも皆と共に一斉攻撃へ参加、非物質化した爪を振り抜いてデス・グランデリオンの霊魂へ傷をつけた。
「……何だと、ケルベロスは陽動では無かったのか!」
 デス・グランデリオンは、3班の集中攻撃へ一瞬驚いた様子を見せたが、
「少数精鋭で魔空回廊を狙いに来たか、だが甘い!」
 すぐに余裕を取り戻したのか死の臭い漂う黒炎を広域放射して、漁港班の陣を一気に薙ぎ払った。
「面白い。貴様らが真に我が闘争本能を満たすに足る強者なのか、我が見極めてくれよう……」
 そう言い放ってデス・グランデリオンが3班へそれぞれ嗾けるのは、奴の護衛を務めていた眷属とも言うべき存在。
 奴を少しだけスケールダウンさせたような、それでいて黒く尖った表皮や青い眼の禍々しさはそのままの、3体のドラゴンであった。
 そんな死の眷属の1体が大口を開け、後衛陣へ向かって風の刃とでも言うべき鋭いブレスを吐きつけてくる。
「危ない!」
 すかさずかぐらがキアリを庇う一方、アロアロも間一髪ピジョンの前へ滑り込んで彼の代わりに身を切られた。
「すまない、ありがとう!」
 ピジョンは礼を言ってから、銀色に光る針と糸を手に死の眷属へ立ち向かう。
「さあ縫い止めろ、銀の針よ」
 魔法で生み出した裁縫道具達がきらきらと煌めいて、死の眷属の足元をしっかりと縫いつけた。
 マギーは画面に応援動画を絶え間なく流して、前衛陣の士気を上げようと必死である。
「首と肉置いてけ! なあ! お前強いドラゴンなんだろ? なあ!」
 反撃とばかりに躍り出るのは和。
「首と肉置いて、ボクのロマンになれオラー!」
 巫術士である和の御業が、彼の願望を叶えるべく目からビームが出てるように見せかけて光線を撃ち出し、眷属とデス・グランデリオンへ命中させた。
「こいつも魔竜の血族よね……思い出させてくれるわ――」
 キアリは、かぐらの負傷を分身の幻影をちらつかせる事で塞ぎつつ、眷属に戦わせているデス・グランデリオンを見やって複雑な顔になった。
 と言うのも、かのドラゴンオーブ戦にて同じ魔竜の血族のジェノサイド・サードと交戦。
 ドラゴンオーブが破壊されるまで持ち堪えたものの、あわや全滅寸前というところまで追い込まれていたのだ。
 かような主の心境を察しているかはともかく、アロンは懸命に神器の瞳で死の眷属を睨みつけ、烈しく燃え上がらせている。
「大きな戦いの前にもできることはあるってね」
 と、魔空回廊の方へ視線をやる傍ら、かぐらはドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させる。
 そしてハンマーを力の限りぶん回し竜砲弾を発射、死の眷属の顔面へキツい一発をお見舞いしていた。
「なんとしてもこの固定魔空回廊は守らねばならぬ――ここは任せたぞ、我が眷属よ」
 デス・グランデリオンは、和やかぐらを始めとした8人の様子からケルベロスの目的が魔空回廊の破壊と上手く誤認したようで、早々に戦線離脱を図る。
 それから間もなくの事だ。8人が応戦する死の眷属を含めた3眷属が、魔空回廊を守りながら戦える位置へ移っていたのは。
「……あの配下たち、固定型魔空回廊を守るのに加えて、魔竜の援護射撃を受けられる立ち位置で戦っているようだな」
 絶華が後退したデス・グランデリオンの思惑に気づいて、仲間らへ伝える。
 しかし、死の眷属と魔竜デス・グランデリオン双方を相手取る事は、決して楽な戦いではない。
「魔竜たる我の目から逃れられると思うたか……!」
 このままでは魔空回廊を破壊されてしまうと焦ったのか、デス・グランデリオンの振るった露命刈鎌が和の薄い胸を貫き、その重い一撃によって意識まで奪ってしまったのだから。
「俺の道はおっぱいダイブ、そして落下と共にある!」
 蒼眞は眷属と魔竜の位置から先に眷属を倒そうと考え、召喚した残霊たる石英の中で同じく残霊の小檻へおっぱいダイブを敢行。
 ——ゴツン!
 本物からと同じように容赦ない蹴りを喰らって、偶々落下地点にいた死の眷属へ激突した。
「ふん、口程にも無い……」
 懸命に態勢を立て直そうとする7人だが、更にデス・グランデリオンはもう何度目かになる死黒炎を勢いよく吐き出してきて、次はアロンとアロアロがやられてしまった。
「……まだまだ、ワタシも頑張る、ね」
 マヒナはHoku loaを天へ掲げて、自分と絶華と大自然を霊的に接続。
 彼が死黒炎によって受けた火傷を大きく癒した。
「……今度は最後まで支え切るわよ。無様は晒さない……!」
 キアリも地面へケルベロスチェインを展開し、前衛陣を守護する魔法陣をせっせと描いては、彼らの体力維持に努めている。


 戦闘開始から9分後。
 馬の背洞門から上陸してきた隠密班が遂に眷属を倒し、更にもう1班と力を合わせてもう1体の眷属も撃破、2班がかりでデス・グランデリオンへの攻撃を再開してくれた。
「我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……『窮奇』……開門……!」
 こちらも早いところ眷属を倒さねば、と絶華が古代の魔獣の力を我が身に宿す。
「……ぐ……ガァアアアアアア!!!!」
 反射神経の超強化された狂戦士と化して死の眷属へ襲い掛かり、カタールを狂ったように振るっては神速の斬撃を浴びせた。
「ドローン起動。集中モードで展開」
 かぐらは念を入れてヒールドローンC——状態異常の治療機能を持たせた小型治療無人機を展開。
 死の眷属の鎌鼬による苦痛が蓄積してきたスノーエルへ効果を集中させて、彼女の体力を大幅に回復した。
「行くんだよマシュちゃん! 私たちはドラゴンだけでなく魔空回廊も破壊しなきゃいけないんだからね!」
 スノーエルは体当たりするマシュちゃんと息を合わせて、四葉の弓から精製した時空凍結弾を射撃、遂に死の眷属へトドメを刺した。
「まさか、貴様らの狙いは……!」
 とうとうこちらの目的に気づいたのか、固定型魔空回廊を潰そうと再び来た道を戻るデス・グランデリオン。
「ケルベロスの手に落とすわけにはいかぬ!」
 魔空回廊を魔竜自身に破壊されてしまうのは、一番避けねばならない窮地だ。
 だからこそ、それを阻止すべく他の2班が最後の力を振り絞って総攻撃をかけたが——尚もデス・グランデリオンは倒れない。
 それでも、デス・グランデリオンとて体力が無限にある訳じゃない。
「フッ……ようやく気づいたようだな」
 ここで挫けてなるものかと、蒼眞は全身の痛みを堪えながらゆらりと立ち上がり、大見得を切ってみせた。
 空の霊力宿りし白刃も、デス・グランデリオンの黒く尖った表皮を斬り裂いて、確かな手応えを伝えてくれる。
「俺達の真の目的が魔空回廊の制圧であり、竜十字島の奪還……ひいては、ドラゴンのゲートを破壊する事だと……!」
 瞳をギラつかせ、自信に満ちた物言いで口角を吊り上げる蒼眞は、さながら悪の野望を語る魔王のようだが、内容自体は何らおかしいところが無いだけに不思議だ。
「貴様ら……!」
 デス・グランデリオンの6つの眼が、ケルベロスに出し抜かれた悔しさで歪む。
「よーし、ここは任せろ!」
 次いで、デス・グランデリオンの懐へ果敢に飛び込んでいくのはピジョン。
「これで終わりにしてやる!」
 着脱式な気品から溢れ出るオーラの弾丸を撃ち出して、デス・グランデリオンの顎を突き破った。
「……よもや、我が敗れようとは……」
 黒い巨体が地に墜ちた瞬間、大気がビリビリと震える。
 島中へ轟き渡ったであろう大音声の断末魔を放って、魔竜デス・グランデリオンは果てたのだった。

作者:質種剰 重傷:平・和(享年二十六歳・e00547) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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