●青空の下
ソメイヨシノを中心に、シダレザクラ、八重桜など、約50種類2600本の桜が咲き誇る公園。
沢山の露店が並び、観光客に地元の人々で賑わっている。
「ソメイヨシノは散り始めてるけど、まだ綺麗だねぇ」
「ほら! ヤエベニシダレが丁度満開だよ!」
公園の中で美しく咲き競う桜たちと、楽し気な人々の声で満ちていた。
――ズシン!
突然、弘前城本丸の前に4本の巨大な牙が突き刺さる。
牙はみるみるうちに鎧兜をまとった骨の化け物――竜牙兵へと姿を変えた。
『グラビティ・チェインを!』
『ササゲヨ!!』
飛び散る血飛沫と臓物。
薄紅の花は赤く染められ、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。
むせかえる血の匂いと悲鳴は、桜の花びらと共に青空に舞い上がった。
●血染めの桜
「桜はのんびり眺めたいものですが……」
一度言葉を区切った祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が、軽く息を吐く。
「もしかして……。お花見会場に……?」
「えぇ。星奈さんの危惧されていた事件です」
星奈・惺月(星を探す少女・e63281)が小首を傾げると、蒼梧が頷いた。
桜のお祭りが開催されている会場に竜牙兵が現れる、と説明が始まる。
「事前に……。避難勧告……。できないよね」
「えぇ。予知が変わって他の場所に竜牙兵が出現してしまいますから……」
現れたら即座に撃破して下さい、と頷いた。
「避難勧告は警察等にお任せできますので、皆さんは戦闘に専念して、撃破だけを目標として下さい」
時刻は13時すぎ。
大勢の人で賑わっている弘前城本丸の前に現れる。
前衛に簒奪者の鎌を装備した攻撃力の高い個体、ゾディアックソードを装備した防御力の高い個体、中衛にゾディアックソードを装備して状態異常付与が得意な個体、後衛には命中力のバトルオーラの鎌を装備した個体の計4体が現れるようだ。
「バランスよくて……。嫌な感じ……」
惺月が小さく唸る。
「現れる竜牙兵は精鋭部隊ですからね。連携してくる可能性もありますし、しっかり対策をお願いします」
戦闘が始まれば、竜牙兵は撤退する事はありません、と付け加えた。
「桜を楽しむ人々の命を散らすわけには参りません。どうか、迅速に竜牙兵の撃破をお願い致します」
参加者 | |
---|---|
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399) |
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943) |
菊池・アイビス(飼犬・e37994) |
セレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784) |
終夜・帷(忍天狗・e46162) |
エリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581) |
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592) |
星奈・惺月(星を探す少女・e63281) |
●美しい光景を
「こんなにきれいなんだな、弘前の桜……」
青空に薄紅色の雲が広がるように咲き誇る桜を見上げたイブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)から溜息が零れる。
「ほんま立派やなあ」
周辺を警戒していた菊池・アイビス(飼犬・e37994)も、恋人の呟きに桜を見上げた。
「みんな楽しんでる……。お祭り壊すの……。ダメ」
「この満開の桜を血染めにしない為に……頑張ろう、惺月」
星奈・惺月(星を探す少女・e63281)がこれから起こる事件に、表情を変えぬままぼそりと呟き、セレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784)は絶対に人々を守ると拳を握り込む。
――ズシン!
その時、予知通り巨大な牙が4本、次々と弘前城本丸の前に刺さり、竜牙兵へと変じた。
「桜を楽しむ人々を襲うとは無粋な奴らだ」
呟いたソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)がジャマー竜牙兵へと向かう。
「全ての命の源たる青き星よ。一瞬で良い……私に力を貸してくれ!」
ソロの周囲から蒼く輝く光がその手に集い、身の丈ほどもある光刃になったかと思うと、ジャマー竜牙兵を大きく斬り裂いた。
「派手にやってやれ!」
避難する一般人と竜牙兵の間に体を躍らせたエリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)が、爆破スイッチを押して後衛の背後にカラフルな爆発を発生させる。
その爆風を受けながら、ウイングキャットのロキが翼を羽ばたかせて後衛の邪気を祓った。
『!? ケルベロスゥ!!」
いきなり攻撃を受けたジャマー竜牙兵が咆哮を上げてゾディアックソードを振るうと、後衛目掛けてオーラが飛ばされる。
「わしの恋人には指一本触れさせへんで!」
「惺月!」
アイビスがイブを、セレネーが惺月を庇い、体の一部を凍り付かされた。
「助かったぜ。やられた分は僕がきっちりお返ししよう」
アイビスに笑顔を向けたイブが、軽やかに跳び上がり、煌めく脚でジャマー竜牙兵に飛び蹴りをして重力の錘をつける。
「……」
イブが飛び退いた瞬間、終夜・帷(忍天狗・e46162)から氷結の螺旋が放たれた。
『邪魔スルナラ貴様ラカラダ!』
『ウオオオ!!』
スナイパー竜牙兵が音速を超える拳でソロを吹き飛ばし、クラッシャー竜牙兵が飛んできたソロの首筋目掛けて鎌を振り下ろす。
「こっちも派手にいくでえ!」
アイビスが凍り付く腕を軽く振りながら爆破スイッチを押し、前衛の背後にカラフルな爆発を起こした。
『シッカリシロ!!』
ディフェンダー竜牙兵がスターサンクチュアリでジャマー竜牙兵の傷を癒して守護をつける。
「随分しっかりと連携が取れた敵の様で……」
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)が眉を顰めた。
「まぁ、負ける気はありませんけど、ね?」
しかし、次の瞬間には、ふっと口元を不敵に歪め、一気に距離を詰めて月光斬で思い切り斬りつける。
『ギャアアアアアア!!』
回復されるも、それまで集中攻撃を浴びていたジャマー竜牙兵は、ガラガラと音を立てて崩れた。
「♪ あなたの心に夜明けがくるね──」
惺月の祈りを込めた歌声が響くと、後衛の者達は体の底から力が沸き上がる感覚を覚え、ロキとファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)の傷を癒して氷を解かす。
「ありがとね」
ファランが惺月に笑いかけると、ロキも感謝を伝えるように惺月の周囲を嬉しそうに飛び回った。
「次はあいつね」
セレネーがクラッシャー竜牙兵を見据え、ローラダッシュで勢いをつけて炎を纏った足で蹴りつけようと飛び上がる。
『退ケ!』
クラッシャー竜牙兵の前に体を割り込ませたディフェンダー竜牙兵がセレネーのグラインドファイアを受け止めた。
「あと3体だよ!」
ファランがケルベロスチェインを展開し前衛を守護する魔法陣を描く。そして、ソロの傷を癒し、アイビスとセレネーの氷を溶かしながら回復させた。
●血で汚さない為に
「やってくれるじゃないか」
敵の連携攻撃を受けたソロが、魂うつしで傷を癒しながら神経を研ぎ澄まさせる。
「思う存分ぶちのめしてやんな!」
振り向いたエリアスが麗威に赤いオーラの拳圧を叩き込んだ。
「任せろ!」
ニッと力強い笑みを浮かべた麗威の体の周りに、バチッと赤い稲妻が走る。
ふわりと跳び上がったロキが尻尾のリングを飛ばし、クラッシャー竜牙兵の鎌を持つ手首にダメージを与えた。
「交久瀬」
帷が麗威に声をかけ、ちらりと視線を送る。
「……」
麗威が無言で頷いて動き出した。
素早く、ディフェンダー竜牙兵のカバーも間に合わない程の速度でクラッシャー竜牙兵に迫った帷が月光斬で斬りつける。
「嗚呼、もう……止められない」
クラッシャー竜牙兵の背後に回り込んでいた麗威が赤い雷を左腕に纏わせ、がら空きの背中を思い切り殴りつけた。
「♪ どんなに願っても──」
翼飛行で避難誘導を手伝っていた愛柳・ミライが、避難誘導はもう大丈夫だろうと合流して上方から歌声を響かせる。願望こそ、人類の原動力たることを証明するその歌は、ソロを大きく回復させた。
「この桜吹雪を汚すなんて、なんて風情のない輩共なんだ。哀れないのちには救済の歌を――」
眉を顰めたイブは、痛々しいまでに透き通った声で歌いだした。
その激しい歌は、クラッシャー竜牙兵のあちこちにヒビを入れて──、
『グアアアアア!!』
断末魔の叫びを上げたクラッシャー竜牙兵はガラガラとその場に崩れる。
「――静かにおやすみなさい」
そっと目を伏せたイブの背後に桜吹雪が巻きあがった。まるで拍手をするように。
『ウルセェ!!』
叫んだスナイパー竜牙兵は、イブに向かって気咬弾を放つ。
「触れさせへん言うてるやろ!!」
アイビスが、イブを正面から包むように、その広い背を盾としてオーラの弾丸を受けた。
「くっ……!」
ダメージに眉を顰めつつも、恋人を潰す様に倒れるわけにはいかないと踏ん張って態勢を維持する。
一度息を吐いて気合を入れると、バッと振り向いてディフェンダー竜牙兵に達人の一撃を思い切り叩き込んだ。
『クゥッ……フン!』
攻撃を受けたディフェンダー竜牙兵は、反撃とばかりに星座の重力を宿した剣をアイビスに振り下ろす。
「ッ!!」
咄嗟に顔の前で腕を交差させて剣を受け止めた。
「♪ その時わたしは消えてしまうけど──」
再び惺月の歌声が響き、後衛の者達は力が沸き上がる。
「春を楽しむ人々を襲うなんて許さない」
セレネーは怒りを激しい雷に変え、スナイパー竜牙兵に放った。が、スナイパー竜牙兵は、寸でのところで横に飛び退いてかわしてしまう。
「受け取りな!」
ファランが前衛にメタリックバーストを使って、超感覚を覚醒させながら怪我を癒した。
●全力で!
「流麗なる我が剣技を見せてやろう」
ソロが流れるような動きで、ディフェンダー竜牙兵に向けて呪詛を載せた美しい斬撃を放つ。
『グゥ……』
ディフェンダー竜牙兵が攻撃を受けて動きが泊った瞬間、エリアスが氷結輪を右手に構えてちらりと麗威に視線を向けた。麗威も左手で氷結輪を構えると、先ほど左腕に纏わせた赤い雷が氷結輪に纏う。
「いくぜぇ!」
「あぁ!」
スナイパー竜牙兵に向かって、エリアスが楽し気にフリスビーを投げるように飛ばし、同時に麗威が大きく振りかぶって投げた。
イブはスナイパー竜牙兵にマジックミサイルを放ち、アイビスがディフェンダー竜牙兵をマインドソードで斬りつける。
ディフェンダー竜牙兵の動きが止まった瞬間を見逃さなかった帷は氷結の螺旋をスナイパー竜牙兵に放った。
惺月が紅瞳覚醒を歌い上げて前衛を奮起させると、セレネーはスナイパー竜牙兵にグラインドファイアを蹴り込み、ファランがサークリットチェインで更に前衛に守護をつける。
ソロはスパイラルアームでディフェンダー竜牙兵の動きを封じるようにドリルのようになった腕を突き刺し、エリアスはライジングダークを、ロキはキャットリングを同時にスナイパー竜牙兵に飛ばした。
帷がサイコフォースでスナイパー竜牙兵を爆破させると──、
『ガッ!!』
息を詰まらせたような声が漏れた次の瞬間、バラバラに砕け散った。
イブが最後に残ったディフェンダー竜牙兵にブラックスライムをけしかける。
「わりいんやが──」
スゥと深呼吸したアイビスは、身体中の螺旋力を走りながら足先へ纏わせた。
「サイナラちゃんね!」
振りぬいた両足から衝撃波を発生させ、思い切り飛び蹴りでディフェンダー竜牙兵の胸元を蹴り抜く。
『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
最後の響いた断末魔は青空を震わせた──。
●桜と共に
「では、もう安心して過ごせる様になったとお声がけしてきますね」
ヒールや片づけがひと段落して、麗威が人々が避難している方に向かって小走りで向かう。
はらはらと舞う桜の花びらに、ソロがそっと目を閉じた。
「ソロ姉……?」
たった今、惺月の無事と幸せを祈っていたのだが、本人から声をかけられ、軽く目を見開いて振り向く。
「折角だから一緒に桜の花を見ていかないか?」
そして優しく微笑んだ。
「うん……。ミライ姉とセレネーも一緒に……。三色団子……」
頷いた惺月が振り向く。
「そうですね。私も三色だんご食べたいのです♪」
「これでお花見出来るね!」
ミライがキラキラと瞳を輝かせると、セレネーもにこっと楽し気な笑みを浮かべた。
「あ……。ミライ姉……。駆けつけてくれてありがとう……」
「可愛い妹のピンチに駆けつけるのは当然なのですよ♪ お団子買いにいきましょう♪」
改めてサポートに駆けつけてくれた事にぺこりと頭を下げた惺月に、ミライはにっこり微笑み、屋台へと足を向ける。
「折角だ、桜観て行こうぜ」
「せやな。出店もまた始まっとうし、何ぞ食いたいもんあるか?」
イブが微笑みかけると、ニカッと笑顔を広げたアイビスが手を差し出した。
「……」
帷が満開の桜を見上げて目を細める。
少し視線を下げて並ぶ食べ物の屋台を見つめていると、
「どれが美味しそうかねぇ……」
背後からファランが声をかける。
「……全部食べればいいだろう」
軽く振り向いて表情を変えぬまま答えた。
「それもそうだね」
ファランはポンと開いた左手のひらに右こぶしをポンと当てて、目についたものを全部食べる決意をする。
実は帷も屋台の制覇を目指していたのだ。
そこへ、エリアスとロキと麗威が屋台の方へ向かって走っていく。
「帷くんもファランさんも一緒にどうですか。屋台まで競争っ」
通りすがり様に麗威が2人に声をかけた。
「……」
「……」
無表情な帷と、にやりと楽し気に口元を歪めたファランが顔を見合わせる。
2人は同時に頷いて、先に走って行った2人と1匹を追いかけた。
作者:麻香水娜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年5月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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