艶やかなる毒

作者:白鳥美鳥

●艶やかなる毒
 クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)は、夜空を見上げていた。
 夜は好きだ。夜空は見上げる度に色を変える。少しずつ廻る星と同じ様に、自分の心も見る度に変わる。……今は寂しかった頃とは違う。優しさと温かさを抱いていられる事を幸せに思う。
「あら、坊やじゃない」
 聞き覚えのある声が聞こえて来た。振り返ると、艶やかな紫色の髪をした妖艶な女性が微笑んでいた。
「ふふ、相変わらず綺麗な顔ね。坊やのその顔は好きよ? でも、嫌な事も思い出すのよねえ……」
 彼女はキセルの煙を吹かすと、息を大きく吐いた。
「……うん、そうね。その綺麗な顔を見られなくなるのは残念だけれど……血まみれになる姿を見るのも悪くなさそうだわ」
 女性がそう微笑むと、クレーエの視界は真っ赤に染まった。

●ヘリオライダーより
「大変だ、緊急事態だよ!」
 顔色を真っ青に変えているのは、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)。
「あのね、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)が、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けるって予知したんだよ。で、急いで連絡を取ろうとしたんだけど……連絡が全然取れないんだよ! 何かあったのかもしれない……急いでクレーエが無事なうちに助けに向かって欲しいんだ!」
 デュアルは状況を説明する。
「相手は螺旋忍軍の女性だよ。キセルの煙を使った攻撃と、素早い身のこなしによる格闘技が得意みたいだ。綺麗な容姿を存分に利用するみたいだから、気を付けてね」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)が真っ青になる。
「クレーエちゃんが大変なの! 直ぐに助けにいかなきゃなの! ミーミアと一緒にクレーエちゃんを助けて欲しいの! みんなの力を貸して欲しいのよ!」


参加者
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
武田・克己(雷凰・e02613)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)

■リプレイ

●艶やかなる毒
「あら、坊やじゃない」
 クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)にとって、聞き覚えのある声。……同時に酷い嫌悪感を覚える声。
 そこに立つのは妖艶な女性。キセルを吹かせながら、悠々とした立ち振る舞いをしている彼女は、《毒蜂》紫艶。クレーエにとって嫌な思い出しか浮かばない相手。だが、それは相手も同じ様だ。
「でも、坊やの顔を見ると嫌な事も思い出すのよねえ……」
「嫌な事を思い出す? それはこっちのセリフだ」
 そう言いかえすクレーエに、紫艶はくすりと微笑む。そしてキセルをくゆらせた。
「そう。じゃあ、お互い様って事ね。だったら遠慮はいらないかしら?」
 彼女が動き出す前に、銀狼のウェアライダーが飛び込んできた。
「クレーエから離れろ!! 血塗れになるのはお前だクズ女!!」
 凄い言葉を放つのは、クレーエの妻である深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)。言葉だけでなく凄い形相もしていて、紫艶はやれやれと肩をすくめる。
「なんだい、そのお嬢ちゃんは。どうやら坊やが大事なのは分かったけど……初対面の相手に向かってその言い草は無いんじゃないかい?」
(「おーおー怒っていらっしゃる……」)
 同じく駆けつけた椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)は、ルティエの様子をチラ見して苦笑した。他、武田・克己(雷凰・e02613)達も次々と合流してくる。
「ありがとう、来てくれて」
 クレーエの感謝の言葉に、皆は頷く。それを見て、紫艶はにやりと微笑む。
「ふうん、坊やにお友達がこんなに出来ているとは思わなかったよ。……まあ、そんな事は関係ないか。私に勝てるって思っていたら、痛い目にあうわよ?」
 紫艶は、すっと構える。その身体からは恐ろしいほどの殺気が溢れていた。

●螺旋忍軍・《毒蜂》紫艶
 紫艶はキセルをくゆらせる。
「威勢が良い事。まずは、実力を見せて貰おうかしらね」
 彼女の吐き出した煙がクレーエ達を取り巻く。煙草の煙の筈なのに、思考がはっきりとしない。
「こほっ、ルティエ、大丈夫かい?」
 煙に巻かれたクレーエは、同様に煙に巻かれたルティエに声をかけながら、守護星座を描くと護りを高めていく。
「大丈夫、クレーエこそ気を付けて」
 彼の言葉に、ルティエは頷いた。
 笙月達も直ぐに反撃に出る。
 雷獣を召喚した笙月は紫艶へと攻撃を図るが、微笑みを湛える彼女はすらりとそれをかわしてしまう。だが、そこに克己は狙いを定めた。
「女を斬る殴るするのは俺の流儀じゃないんだが、そんなもんよりダチ公の命の方が大事なんでな」
 克己の雷の霊気を帯びた一撃は紫艶を鋭く突く。流石に、彼女も一度にはかわせない様だ。
「クレーエは私が護る!」
 愛しい人を護る為、ルティエは狼の腕を使って攻撃を仕掛けるが、体勢を立て直した紫艶が直ぐに飛び退いた。ボクスドラゴンの紅蓮のブレスもかわされてしまう。
「ふふ、愛されてるみたいだねえ」
「そうですよ。ここに居る人達は、皆、クレーエさんを大切に思っているのですから」
 楽しそうに笑う紫艶に、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)がそう答える。
「ミーミアさん、笙月さん達をお願いします」
「分かったの!」
 奏過はミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)に話しかけ、オウガ粒子をクレーエとルティエに放つ。同様に、ミーミアは笙月達にオウガ粒子を放ち、シフォンも護りの風を送った。
「ねぇ、誰に攻撃してると思ってるの? お前……僕の友達に手を出した罪は重いよ」
 月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)は、バスターライフルを構えるとビームを放つ。紫艶はそれをかわそうとするが、かすったようだ。少々顔をしかめている。ユアのビハインドであるユエはそれを補うように歌い、痺れる攻撃を与えた。
「さて、感覚を研ぎ澄ませようか」
 安海・藤子(終端の夢・e36211)はクレーエ達にオウガ粒子を放って精神を研ぎ澄ませていく。オルトロスのクロスは神剣で紫艶に斬りかかりにかかるが、こちらはかわされてしまった。中々、素早い。
 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)もアカギツネに腕を変えると続けて攻撃を仕掛けるが避けようとする紫艶に対して攻撃を命中させるものの、その動きに確実に入ったとは言えなかった。ウイングキャットのノッテはユア達に清らかなる風を送りこんで護りの力を高めていく。
「ふん、私を捉えて来るとは中々やるねえ」
 紫艶が狙うのは笙月達。次々と踊る様に蹴りを叩き込んでいく。痺れるような痛みが襲ってきた。
「……中々、面倒な相手なざんしね。安海、こちらにもサポートをしておくんなし」
 悪友的存在の藤子にそう声をかけると、紫艶に向かって御業を放つが、やはり紫艶にかわされてしまう。攻撃が当たらない事には意味が無い。まだサポートを受ける必要を切に感じる。一方で克己は空の霊気を載せた斬りで彼女の傷を正確に抉っていった。クレーエはその間にステラ達に守護星座に依る護りの力を高めていった。
「今度こそ、当てる!」
 ルティエは弧を描きながら紫艶に向かって急所を狙い、斬りかかる。確実に当たったとは言い難いが、それでも手ごたえを感じた。ただ、残念ながら紅蓮のタックルはかわされてしまったけれど。
 奏過はそんなルティエ達にオウガ粒子を放って更に神経を研ぎ澄まさせていく。ミーミアは続いてユア達へとオウガ粒子を放っていった。シフォンもそれに重ねて清らかなる風を送っていく。
 ユアは虚無の球体を紫艶に向かって放ち、ユエも歌いながらポルターガイスト現象を引き起こしていった。
「笙ちゃん、リクエストに応えるぜ」
 藤子は笙月のリクエストに応え、笙月達へとオウガ粒子を放って集中力を高めていく。
「さあ、流れ星がみえるかな?」
 ステラは足に魔法を纏わせ、紫艶に流れるような足技を喰らわせていく。一方のノッテは、ステラ達に清らかなる風を送って護りを高めていった。
「……全く、女一人に8人揃って。まあいいわ。ちょっと、お顔をお見せ?」
 高速で紫艶は動き、次の瞬間にはクレーエの前に現れていた。
「……!」
「ふふ、綺麗な顔をして、坊やも残酷になったもんだねえ」
 クレーエの顎をくいっと上げると、ルティエを見る。勿論、彼女の表情は引きつっている訳で……。
「おやおや、お嬢ちゃん。綺麗な顔が台無しよ? まあ、あなたに免じて……この位で勘弁してあげる」
 すっと、クレーエの頬に痛みを伴う唇が降りてきた。その痛みは痺れるようにクレーエの生気を奪っていく。
「この女ぁ!」
 怒りが頂点に達したルティエの狼化した腕が紫艶を思いっきり殴った。そんな彼女に対して紫艶はくすくすと笑っている。
「クレーエ、大丈夫!?」
「……! 大丈夫、ありがとう」
 口付けされた瞬間、クレーエの中の思い出したくもない記憶が過り、息が止まりそうになったが、愛する人の声で我に返った。
「素敵な夫婦に水を差すとは……無粋な女性ざんしな。しかし、いつまでその笑みを浮かべていられるやら……」
 笙月は、再び雷獣を呼びだす。その獣は容赦なく紫艶に襲い掛かった。畳み込むように克己の刃が急所を断つ。
「クレーエさん、大丈夫ですか?」
「クレーエちゃんに力をあげるの!」
 奏過が施術を行い、ミーミアがクレーエの回復を図る。シフォンも清らかな風を送りこんでいった。
 ユアは紫艶に向かって輝きを伴う強力な蹴りを放ち、ユエによる歌の斬撃が引き起こされた。
「もう一度かけておくぜ」
 藤子はクレーエ達にオウガ粒子を放って、更に集中力を研ぎ澄ませていく。クロスは炎を紫艶に向かって放ち、燃え上がらせた。その上にステラの重い蹴りが放たれ、ノッテは藤子達に向かって清らかなる風を送っていく。
「……くっ、こうなったら坊やだけでも」
 紫艶の華麗なる蹴りがクレーエとルティエに繰り出される。
「おいおい、人が折角意地捨てて戦ってるんだからもう少しこっちの相手してくれや」
 克己は大地の気を集約した森羅万象・神威を用いて、紫艶に次々と斬りかかる。
「塩次郎はようざんし」
「クレーエは私が護る!」
 笙月の御業が紫艶を縛り付けた所をルティエが急所を狙って斬りつけ、更に紅蓮がタックルをお見舞いする。
 ふらりと何とか起き上がる紫艶の視界に、見たくない相手が映った。
 黒紅・石榴(マダムガーネット・e21659)。彼女にとっては一番殺したい相手。柘榴は優雅に見ている。……まるで、自分の死を見届けに来たかのように。
 そこに隙が生れた。クレーエは攻勢に出る。
「……傲慢なその鼻っ柱、へし折ってあげる。僕はもうお前の奴隷じゃ、ない!」
 黒き翼を持つ悪魔が襲い掛かる。まるで、紫艶の傲慢な態度を謝らせるかのように傅かせて。……そして、その悪魔の一撃で紫艶は消え去ったのだった。

●過去から未来へ
「大丈夫、クレーエ!」
 ルティエがクレーエに抱きつく。温かい体温が伝わってくる。優しさが伝わってくる。……愛しさが溢れる。
「……うん。もう、大丈夫だから」
 にっこりとクレーエはルティエに微笑み返す。大丈夫、もう暗い過去は一緒に振り切ったから。そう言うように。
 一緒に戦っていた仲間達も、心配そうに集まってくる。それに、クレーエは同じく笑顔で答えた。……そう、今はこんなにも大切に思ってくれている人達がいるのだから……。
「よし、暗い空気は無し!! にゃんこー!!」
 クレーエの視線の先にはウイングキャットのシフォンとノッテ。もふもふにゃんこ好きな彼にとって最高の存在だ。二匹を抱っこすると、嬉しそうにもふもふしながら幸せそうな笑顔になる。本当に猫が好きなんだなと、周りが思わず笑みを零してしまう位。
「あのね……ミーミアもクレーエちゃんがもふもふにゃんこが大好きな事、知ってるから……何かないかなって思ってたの。……これ、どうかな?」
 おずおずとミーミアが取り出したのは、ウイングキャットの姿かつ大きさのマシュマロ。
「流石ににゃんこの様にもふもふなのは作れなかったのよ。みんなには普通のマシュマロを作って来たの。お疲れ様なの!」
「……マシュマロにゃんこ。シフォンやノッテのようにもふもふでも温かくも無いけれど……この触り心地も……僕、食べられないかもしれない……でも、食べ物を無駄にするのは……!」
 二匹のウイングキャットを抱きながら、クレーエはうんうんと唸っている。それを見てルティエはくすりと笑みを零した。
 クレーエの負っている傷は簡単には消えないだろう。だけど、彼には愛する人がいて、大切に想ってくれる人達がいて……もう、昔とは違っていて……。
 クレーエがこれからも幸せに笑っていられますように。そう心から願うのだった――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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