過去への挑戦状

作者:坂本ピエロギ

 おや、と思った時には刃が振り下ろされていた。
 出会いがしらの一振りを躱し、上野・零(焼却・e05125)はすぐに武器を構える。
「……物騒ですね。私に御用ですか?」
「くくくっ……どうやら腕は鈍ってねぇらしいな、オイ?」
 零が振り返った先にいたのは、大鎌を構えた一人の男だった。
 羽織っているのは、ケルベロスのそれによく似たコート。零へと投げつける視線は憎しみと敵意に満ち、全身から溢れ出る殺気を隠そうともしない。
 それを見て、零は不思議そうに首を傾げる。
「……ふむ、貴方は誰でしょう? 失礼ですが人違いでは?」
 恐怖するでも驚くでもなく、ただ困惑の表情を浮かべる零。
 男はそれを挑発と受け取ったのか、ギリッと奥歯を軋ませた。
「それ以上なめた口を利いたら、殺すぜ」
 最初から殺す気だったでしょうにという言葉を零は飲み込んで、敵を注意深く観察する。
 ――サルベージされたと思しき体に、巨大な鎌……死神か。
 ――街に人の姿が見当たらないのも彼のせいだろう。
 冷静さを崩さない零に苛立つように、死神の男は今にも噛みつきそうな形相で吼えた。
「俺がデスバレスに帰れねぇのも! 他の同胞どもから狙われるのも! 全部てめぇのせいだろうが、ガリオル!!」
「……ガリオル……ああ、なるほど」
 合点がいった風情で頷くと、零は死神に口を開く。
「……では、やはり人違いです。私は――」
「別人だろうが関係ねぇぜ。俺はてめぇを殺すと決めた。だから死ね」
 そこから先を死神は言わせなかった。
 得物の大鎌を構え、その刃よりも物騒な笑顔を浮かべて零へと襲い掛かったのだ。
「このシニガミ・モルトに切り刻まれてなぁ!!」
「……やれやれ」
 死闘が、始まった。

「召集の呼応に感謝する。時間がない故、準備をしながら聞いてくれ」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は口元を引き締めてそう告げると、ケルベロスに事件の概要を伝え始めた。
「上野・零がデウスエクスの襲撃を受ける事が判明した。まだ敵と接触してはいないが、残された時間は少ない。彼には何度か連絡を試みたが、全て失敗に終わっている」
 残念ながら、零がデウスエクスに襲撃される未来を変えることは出来ない。
 だが今から現場に急行すれば、零を救出してデウスエクスを撃破する事は十分可能だ。
 王子はそう言いながら、淀みない口調で説明を続ける。
「現場は両脇をビルに挟まれた、街の大通りだ。周囲は敵の手で人払いがなされ、一般市民が被害を受ける心配はない。お前達は現地到着後、直ちに零と合流して敵を撃破してくれ。現場は一本道なので、迷う事は無いだろう」
 敵はシニガミ・モルトと名乗る死神だ。
 巨大な鎌を得物とした肉弾戦を得意とし、その破壊力は脅威の一言。小細工や厄介な能力は用いず、ただシンプルに手強い敵だという。
 モルトと零の間には何らかの因縁があるようだが、その子細までは王子の予知でも分からなかったらしい。たったひとつ明らかなのは、このままでは零の命が危ないという事実だ。
 一人のケルベロスに迫る危機。それを救えるのは、同じ仲間たるケルベロスしかいない。
「さあ出発しよう、飛ばすから掴まっていてくれ。零のことを頼んだぞ!」


参加者
八千草・保(天心望花・e01190)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
上野・零(焼却・e05125)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
エトワール・ネフリティス(夜空の隣星・e62953)

■リプレイ

●一
 夜。
 しんと静まった大通りで、その死神は白髪のケルベロスに告げた。
「ガリオルと別人だろうが関係ねぇぜ。俺はてめぇを殺すと決めた。だから死ね」
 死神モルトはぎしりと笑い、憎悪を込めた視線を上野・零(焼却・e05125)に向けた。
 その手に構えたのは血に濡れた大鎌。標的に速やかな死を与える処刑器具の刃が、冷たい輝きを湛えて零の首を捉える。
「このモルトに切り刻まれてなぁ!!」
「……やれやれ。問答無用という事ですか」
 言い終えるや、大鎌の斬撃が零を襲った。
 恨みを込めて薙ぎ払われる巨大な鎌。零の首を狙ったその一撃は、しかし空から降下してきた影に阻まれた。
 龍の翼を広げて降り立った、一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)によって。
「零殿に手を出すな、死神!」
 害為す敵から友人を守らんと、白はマインドリングで光の盾を具現化する。
「零殿は絶対、無事に生きて帰させてもらう……この身に代えてでも!」
「新手か。邪魔だ、てめぇらから死ね!!」
 白の背中から現れたビハインドの『一之瀬・百火』が念を込めて飛ばすアスファルト片をモルトは躱し、反撃の拳を握り固めた。
 だが、その一撃が白を襲う事はない。
 空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)が挨拶代わりに突き出した螺旋掌が、モルトの腹にめり込み、プレッシャーで足を縫い留めたからだ。
「私達の友人には、指一本触れさせない」
「あれが、もると……はん? どなたかは知らへんのやけど……」
 エアシューズで路上を滑走しながら、モルトを牽制するモカ。そこへ八千草・保(天心望花・e01190)も殺神ウイルスのカプセルを手に加勢に入った。
「零はんに危害を加える気やったら、はよ帰っていただきますえ……!」
 憎悪を燃やし重圧を跳ね除けるモルトに、回復を阻害するカプセルを浴びせながら、保はモカと足並みを揃えて牽制の輪を狭めていく。
 一方、零の周りでは、増援として到着した仲間達が次々に隊列を組み始めていた。
「……皆さん、来てくれたのですね」
「勿論ですよ、零さん。ご無事で何よりです――全てを撥ね返す力を!」
 仲間達に感謝を告げる零と仲間達を、イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が『護言葉』の力で包み込み。
「零、大丈夫か!?」
「零お兄さん、加勢するねっ!」
 続くピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)とエトワール・ネフリティス(夜空の隣星・e62953)が、ケルベロスチェインの描く魔法陣と、金色杖型ガジェットから噴き出すスチームバリアによって白の傷を塞ぎ、零の守備を固める。
(「よしっ」)
 ピジョンのサークリットチェインの効果は、うまく前衛全員に行き渡ったようだ。
 初めて使用するケルベロスチェインの幸先良い手応えに、ピジョンは小さくガッツポーズを決め、敵の死神に視線を投げた。
「なるほど、彼が今回の敵か……」
 モルトの姿に、疑問を漏らすピジョン。彼のテレビウム『マギー』もまた、零とモルトを不思議そうに見比べている。
「何か昔の零にちょっと似てない?」
「……そう、ですね。ちょっとと言いますか、写し絵と言いますか……」
 零はマギーの鋏攻撃を捌くモルトを見て呟くと、改めてピジョンと仲間達を振り返る。
「……本当に助かりました、皆さん」
「水臭い事は言いっこなしですよ上野さん。困った時はお互い様です――ところで」
 御子神・宵一(御先稲荷・e02829)は安堵を込めた声で頷くと、そっと零にモルトの事を尋ねる。
「あの死神は、ご存知の方ですか?」
「……いえ、全く……」
 言い切った後、零はほんの少し言い淀む。
 面識がないのは事実だった。
 だが、全くの偶然とは思えないのも事実だった。
 暴走し白髪化する前の零と瓜二つの、モルトの容姿。そして何より――。
(「……ガリオル、ですか。名は聞いた事がありますが」)
 零の一族に連なる、今は亡き先祖のひとり。
 果たして偶然なのだろうか?
(「……あの死神、なぜ私をガリオルと……いや、今考える事ではないか」)
 思考を打ち切ってシルクハットを被り直す零に、ピジョンと宵一は力強く頷いた。
 モルトに勝って、必ず全員で帰ろうと。
「零、回復はこっちに任せて存分に戦ってくれ」
「人違いのようですし、さっさと冥府の海とやらにお引き取り願いましょう」
「……ではお言葉に甘えて」
 右目から生じた地獄炎が、零の『Wild bone』を包み込んだ。髑髏の杖を模した如意棒の石突が燃え盛り、モルトの顔へぴたりと向けられる。
 ここから先は言葉ではなく、刃で語る時間だ。
「……人違いの妄執に巻き込むとは、傍迷惑な――まあいい」
 燃え盛る如意棒の石突を、拳を握り固めてにじり寄るモルトの心臓にぴたりと合わせて零は口を開く。
「……やるからには全力だ。覚悟してもらいます」
「面白ぇ。全力で俺に踏み潰されろ!」
 かくしてケルベロスと死神の戦いは、幕を開けるのだった。

●二
 アスファルトを蹴った零と宵一が、矢の如き勢いでモルトへ迫った。
 地獄炎を纏った如意棒が炎の尾を引いて突き出される。咄嗟に大鎌でガードするモルトの態勢が崩れた一瞬を、宵一の『浮木』は逃さない。
「……捉えました」
 家伝の太刀がモルトの胴を払う。
 ゴムの塊に食い込むような手応え。並のデウスエクスなら一撃で悶絶してもおかしくない斬撃に、モルトはまるで怯んだ様子を見せない。
「吹き飛べ!」
 カウンターで放たれた怨嗟の拳が、宵一を捉えた。
 振り上げる一撃がガードを突き破り、宵一を庇ったイッパイアッテナのミミック『相箱のザラキ』を軽々と宙へ吹き飛ばす。
「ザラキっ!?」
「今回復する。時が戻るように再現し、再生せよ!」
 地面に激突し、悲鳴を上げるザラキ。ピジョンは魔法の針と銀糸でザラキを繕いながら、モルトの力に息を呑んだ。
(「この威力……まともに受ければ、長くは保たないな」)
 視線を死神へと向ければ、モルトはモカと零を相手に立ち回りを演じていた。
 Wild boneを構え、速く重い直突きの連撃を浴びせる零。それを狂ったような大鎌の猛攻で捌き続けるモルト。
 横合いからモカが叩き込むスターゲイザーで足止めを受けるのも構わず、モルトは更なる憎悪を燃やして炎を振り払った。
「イッパイアッテナ、奴の威力を封じられないか?」
「任せて下さいピジョンさん。ザラキ、行きますよ!」
 傷を縫い終えたザラキがモルトの肩に噛みついた。モルトは激痛に顔を歪めながら、怨嗟の拳をザラキへ向ける。
「ちっ! このクズ箱が――」
「あなたの敵は私です。ザラキの分、返させてもらいますよ」
「うるせぇ!」
 ヌンチャク型に変形した如意棒が、唸りを上げてモルトに襲い掛かった。
 乱れ飛ぶヌンチャク。薙ぎ払われる大鎌。立ち並ぶビルを、道路の信号柱を、次々に瓦礫へと変えながら、イッパイアッテナの斉天截拳撃はモルトの刃をなまくらへ変えていく。
 だがモルトはお構いなしに、更に大鎌を振るった。
「刻まれろ!!」
(「まずい……!」)
 零へと向いた射程を塞ぐように、イッパイアッテナは身の丈を超える鎌を受け止めるも、衝撃を殺しきれず背後のビルへと叩きつけられた。
「随分と元気のいい死神ですね。ところで、先程から疑問でしたが」
 空の霊力を帯びた一閃を背に浴びせ、宵一は飄々と口を開いた。ボロボロになったコートを指さして、心に浮かんだ素朴な疑問をモルトに投げる。
「デウスエクスに追われるのが嫌なら、そのコートを脱げば良いのでは?」
「それ、僕も思ってた」
 マインドシールトで宵一を癒しながら、白は頷いた。
「ねえ、どうして脱がないの? 脱げない理由でもあるの?」
「知ってどうする?」
 百火の鎖による拘束を振りほどき、モルトは太々しい笑いを返す。
「ガリオルが着せたこの呪い、てめぇらが被りでもする気か? 出来もしねぇ――」
「隙ありだよ!」
 エトワールの斧が、ルーンの輝きを帯びて振り下ろされた。守りを剥ぐエトワール渾身の一撃が、モルトの背中に直撃する。
「絶対に目を背けない。ボクはボクの出来ることを頑張るんだ!」
 千切れ飛ぶコート。傷口から迸る血潮。
 エトワールに服を破られてもなお、コートは死神の体に吸い付いたように離れなかった。まるで衣服そのものが、彼の皮膚と一体化したかのように。
「……脱ごうにも脱げん、いう訳ですか」
 言葉を失ったのも束の間、保はガネーシャパズルから精製した力をモルトの傷口目掛けて打ち込んだ。時空の力と共に体を凍結させながら、モルトの勢いはなお衰えない。
「殺す! 殺してやるぜ、ガリオル!!」
 憎い敵の面影を重ねるように、モルトが零へと吠える。その身に宿すグラビティを残らず燃やすように、死神は更に凶暴さを増していく――。

●三
 憎悪を燃やし、氷を解かすモルト。対する零も、地獄の炎でその身を包む。
「……君に恨みは無いが……私を殺しに来てるんだ」
 炎を帯びた如意棒でモルトに打ち掛かりながら、囁くような声で無慈悲に告げる。
「……当然死ぬ覚悟、出来てるんでしょう?」
「死ぬかよ」
 大鎌を振り被り、攻撃態勢に転じるモルト。
「俺は生きる! てめぇを殺し、デスバレスへ帰る!!」
「人違い、言うてはるのに。目ぇ開けてよう見はりましたら、どないです……!」
 殺神ウイルスを投擲する保を遮るように、モルトの大鎌が前衛を薙ぎ払う。
 零を庇い、鮮血で服を染めるイッパイアッテナ。宵一の盾となったザラキが、ダメージに耐え切れず消滅する。
 ピジョンはサークリットチェインと魔法の銀糸による縫合を使い分けながら、前衛の決壊を必死に押し留めていた。エトワールのウイングキャット『ルーナ』もピジョンの横で清浄の翼を送り続けているが、焼け石に水の状態だ。
「ルーナお姉ちゃん、頑張って!」
 エトワールは攻撃をやめ、翡翠の星を変形させた。金色のガジェットから溢れる蒸気の盾で、特に深手を負った白の負傷を回復していく。
「もう少し、耐えてみせましょう。――全てを撥ね返す力を」
 イッパイアッテナもまた、護言葉を紡いで回復役へと転じた。回復の力こそ高くないが、彼が施す頑健の暗示は味方の守りを確実に固めてくれる。
 一方で白は魂魄を闘気に変換し、己が手へと収束させた。追い付かない分の回復は自力で補うしかない。この『幻龍剣【喰い千斬り】』で。
「憂い無く、我が血肉となり逝くがいい―――喰い荒らせ、餓龍!!」
 モルトの体を突き刺し、飢えた龍の牙となってグラビティを啜る白の手刀。負傷と疲労で鉛のように重くなった白の体が、ほんの少し軽くなる。
 嵐の如き猛攻を浴びせ続けるモルトは、百火の金縛りによる効果も手伝って、僅かずつ、しかし確実に、その動きに精彩を欠き始めていた。
「こちらの攻撃も、確実に通っているようですね。そこ!」
 僅かな呼吸の乱れを突いた宵一の『浮木』が、モルトの水月にめり込んだ。
 杭を打ち込まれたように動きを止める死神。その口から、大量の血が溢れ出る。
「がっ……は」
「幕引きのようだな」
 モカはエアシューズで駆け出すと、苦痛に顔を歪めるモルトの周囲を回り始めた。
 指から刃を出した手刀を武器に、視認困難な高速移動で、死神をズタズタに切り刻む。
「私の前に立ち塞がるならば、全力で斬り刻む!」
「死ね……ガリオル……!!」
「いい加減にしろ、モルト!」
 傷だらけの拳から宵一を庇い、白はモルトの気を掴んだ。
「何だか訳ありみたいだけど、だからといって零殿を襲うのは筋違いだろう……!」
 ピジョンとルーナの援護、そしてイッパイアッテナの援護。仲間の支援によってギリギリのところで踏みとどまった白は、軋む体を叱咤して、全力で死神を投げ飛ばす。
「さあ、終わりにしましょう」
 なおも憎悪を燃やし、傷を塞ごうとするモルト。
 しかし一歩早く、イッパイアッテナの破鎧衝がモルトの服を破り取る。
「お星さまとの鬼ごっこ。キミは逃げ切れるかな?」
 翡翠の杖をしゃらりと鳴らして、星を描くエトワール。生成された星屑の群れが無邪気な歓声を上げて降り注ぎ、モルトをその場に叩き伏せる。
「上野さん、とどめはお任せします」
「……ありがとうございます」
 非物質化した若宮の刀身でモルトを汚染する宵一に、零は感謝を捧げた。
 そして――。
 零は古びたシルクハットを被り直すと、這い蹲った死神を見下ろして、冷酷に告げる。
「……さぁ、此処が終点だ、一切合切、燃え尽きろ」
「畜生……! てめぇさえ、てめぇさえいなければ……!!」
 零か、あるいはガリオルへ向けたものか。
 ドス黒い血と共に呪詛を吐くモルトの周りを、零の足下から這い出した影が覆った。
「……《之は大海欲の海|全てを呑み込む黑い底》――」
 影――黑海は、零の忠実なしもべとなって黒い棺へと姿を変え、死神の体を包み込む。
「《魂と体を灰塵に|それ以外の全てに鍵をつける》――」
 そして棺に、グラビティの火がくべられた。
 影を模した鹵獲の海は灰色の焔を生じ、モルトの全てを飲み込み、奪っていく。
 コートに覆われた体躯も、怨念に満ちた魂も、断末魔の悲鳴も、何もかも――。
「《地獄は此処に|二度と蘇らぬ死を其処へ》……」
 『死焔火葬』。
 零が術を終えた後、モルトがいた場所には遺骨も遺灰も残らなかった。
 ただ、鹵獲の証である髑髏鎌の鍵だけが寂しげに転がっていた。

●四
 修復の済んだ大通りは、再び静寂を取り戻した。
「……ありがとうございます皆さん。本当に助かりました」
「良かった……ご無事で何よりですえ」
 零は鍵を回収し、仲間達に深い感謝を述べた。
 ほっと胸を撫で下ろす保の横で、ルーナを抱きしめたエトワールが頷く。
「人違いで襲われるなんて……因縁って深くて怖いんだね」
「何はともあれ大事がなくて良かった。ね、百火?」
 白の問いかけに元気いっぱい頷いたのも束の間、皆の微笑む視線に恥じらうように、百火はサッと白の後ろに隠れてしまった。
 温かな空気が生まれたところで、ピジョンはポンと手を叩く。
「よし。じゃあ皆、帰ろうか」
「……そうですね。皆さん、お疲れさまでした」
 仲間と共に帰り支度を終えて、零は古びた帽子を目深に被る。
 大侵略期頃の遠い昔、零の先祖が遺したというシルクハットを――。
(「……ガリオル、か」)
 熱気が引いた戦場へ別れを告げて、零は仲間と共に帰路に就いた。体の奥でくすぶる火を鎮めるように、零は今夜の出来事をゆっくりと反芻する。
 かつての零に瓜二つの死神。零が狙われた理由。そして、ガリオル。
 モルトから真相を聞き出す機会は灰と共に失われた。零が全てを知る機会が再び訪れるか否か、それは誰にも分からない。少なくとも、今はまだ。
(「……何事もないと良いのですが」)
 髑髏鎌を模した鍵はただ静かに、主人の手中で冷たい光を讃えていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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