テンペスト!

作者:藍鳶カナン

●テンペスト!
 清々しい朝の光が窓から射していた。窓の外では花風に散らされた桜が嵐のごとく舞う。
 そう。恋は嵐のように訪れ、嵐のように過ぎ去った。
「いや過ぎ去ってない! 入学式で一目惚れしたクラスメイトが速攻で馬術部のイケメンと付き合い始めただけだ!! 俺にもまだチャンスはある、そうだろインコたん!?」
『コイハ、アラシミタイ! ハナトハ、マダ、アラシノナカ!』
 誰よりも先に到着した早朝の教室で、まだ新しい制服を着た少年――華斗がひとり熱弁を揮えば、自宅から連れてきたセキセイインコ達が昨夜教えたとおりに合唱する。
「そう、昨日彼女は俺のスマホのインコたん画像を見て言ったんだ。『かわいー! あたしインコ大好きー!!』って! だからこう、インコたん達を肩や手にとまらせながら彼女に告白すれば馬術部のイケメンにも勝てる! そうだろインコたん!!??」
『ハナトハ、ステキ! アナタト、オニアイ!!』
 寝る間も惜しんで特訓した甲斐があった。
 何せ初恋、初告白である。だがインコたん達の援護射撃があれば、きっと――!
 華斗がぐっと拳を握った、そのとき。
「あなたからは初恋の強い思いを感じるわ。私の力で、その初恋実らせてあげよっか」
 見知らぬ少女が教室に入ってきた。
「え。君、だれ……」
 気圧された華斗が後退れば、少女は自分が口にしていたロリポップキャンディをぽんっと抜き去って、彼に甘いキスひとつ。それでは終わらず、華斗の胸に鍵を突き刺して。
 彼の強い初恋の夢を奪ったドリームイーター『ファーストキス』は、意識を失って頽れる華斗とそっくりなドリームイーターを誕生させた。
「さぁ、ハナト。あなたの初恋の邪魔者、消しちゃいなさい」

●テンペストインコたん!
「大変です! このままだと馬術部のイケメンくんがインコたんの嵐で殺されますっ!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が今日も元気いっぱいにそんな予知を語る。敵はテンペストでインコたんなグラビティを使うらしい。
 各地の高校に現れ、高校生の強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出さんとするドリームイーター達のひとり、『ファーストキス』。
 今回彼女に初恋を拗らせた強い夢を奪われたのは、同級生に恋する一年生の華斗だ。
 意識を失った本物の華斗は教室で倒れたまま。彼が連れてきた本物のインコたん達も主の様子を窺っているうちに昨夜の特訓疲れで眠ってしまったのだけど、華斗から生み出されたドリームイーターは早朝から活動している馬術部を襲撃してイケメンを殺す気満々である。
「でもでも! ねむがヘリオンをかっとばしますので、ドリームイーターが馬術部めざして誰もいない校内の桜並木を爆走してる辺りで捕捉できます! 他のひとの避難とかはねむが手配しますので、みんなは桜並木に直接降下して敵と戦ってください!」
 敵はケルベロスに遭遇すると標的の襲撃よりケルベロスとの戦闘を優先する。
 このドリームイーター『ハナト』が揮うのは全てグラビティのインコたんを操るもの。
 愛らしいインコたん達の嵐で敵勢を誘惑する範囲攻撃、巨大なインコたんで敵を押し潰す単体攻撃、そして、敵勢の手や肩へととまらせたインコたん達にピュアな瞳で見つめさせる範囲攻撃。見た目は可愛らしいが相手がクラッシャーゆえにいずれも高威力。範囲攻撃でも結構凶悪な火力なのだという。普通に戦えば苦戦は必至だ。
「華斗くんの初恋の夢が強力だからなのか、このドリームイーターもかなり強力ですっ! でも元になっている華斗くんの『初恋』を弱める説得ができれば、敵は弱体化します!」
 但し、ただでさえ初恋で熱くなっているところに寝不足によるハイテンションも重なった華斗の夢も相当な手強さである。何故なら。
「熱いハイテンションのせいで、正論とか冷静なツッコミとか現実的な指摘とかはまったく効きませんっ! なのでみんなも華斗くんの土俵にあがって、彼の熱さとハイテンションを凌駕する説得をお願いします!!」
 つまりこうだ!
『インコたんで馬術部に勝てると思う? ダチョウぐらい乗り回して見せなさいよ!』
『フッ……俺が高校生の頃は校庭でアフリカゾウ乗り回して彼女の気を惹いたものだ』
 とか言ってみたり!
『本当に好きならこれくらい派手に告白しろ! 君が! 好きだあああああああ!!』
 とか叫びながらドラゴニックミラージュを(ドリームイーターに)かましてみたり!
「そんな感じでですね、本物の華斗くんが『恋ってそんなすごいことしなきゃダメなの? 無理だ!! 俺には恋なんてまだ早かったんだ……!!』とか思うような感じでいけば敵は弱体化するはずですっ!!」
 なお、意外に要注意なのが、インコたん達がピュアな瞳で見つめてくる攻撃である。
 ピュアな瞳が齎すのは魔法ダメージと『恥ずかしさ』。
 恥ずかしさで戦闘に支障が出ることはないが、
『えっ……アフリカゾウ乗り回してたとか俺なに言っちゃってんの、恥ずかしい!!』
 的なことになるので、出来るだけキュアしたほうが良さそうだ。
 このドリームイーター『ハナト』を弱体化させれば、本物の華斗の初恋への拗れっぷりも弱まるだろう。次の恋ができるようになるまで大分かかる気もするが、敵を弱体化させねば相手を撃破して華斗を目覚めさせることそのものが困難になるのだ。
 それに!
 いつか華斗がケルベロスとして覚醒、街を襲うデウスエクスをドラゴニックミラージュで撃退し、助けた相手と恋に落ちる……なんてことが起こる可能性もゼロじゃない!!
「そんなわけで! 色々な意味で手加減無用でお願いしますっ!!」


参加者
クィル・リカ(星願・e00189)
八柳・蜂(械蜂・e00563)
真柴・隼(アッパーチューン・e01296)
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)
黒姫・楼子(黒耀玲瓏・e44321)

■リプレイ

●ジャイアントインコたん!
 この胸の高鳴りは、誰にも負けない――!!
 熱い想いを胸に、真柴・隼(アッパーチューン・e01296)は高校敷地内の桜並木めざして跳んだ。何せ少女ヘリオライダーが華斗くんって連呼するたびに隼の鼓動は跳ねまくり。
 ――ハヤトとハナトってめっちゃ名前似てるし! 何かもう色んな意味で親近感湧くし!
 そんなわけで! と彼は桜舞う地へ降り立ち、
「拗らせた初恋は俺達が受け止めて、派手に昇華させてあげようじゃないか!」
 真っ向から爆走してくる高校一年生ドリームイーターめがけて地を蹴った!
 敵の名はハナト、インコたんの援護射撃つきで片思いの相手に告白せんとした華斗の強い初恋の夢から生まれたデウスエクスである!!
 相手は強敵なれど、
「インコたんに頼るなんて……足りませんよ! 何もかもが!」
「インコたん……確かに目の付けどころは悪くない。悪くはない、が!!」
 クィル・リカ(星願・e00189)は怯まない! 心からの言葉とともに迸らせた鎖が前衛へ守護魔法陣を展開し、花風に舞ったアンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)が狙い澄ました流星の蹴撃を決めたところへ、
「インコたんが可愛いのは認めるッ! だが! そんな弱気で!」
 隼が如意棒から変じた双節棍を叩き込み!
「彼女の心が奪えるとでも! 思ってんの!?」
 勢いのダブルで爆破スイッチをぽちっとな! しかしハナトは遠隔爆破を回避した!
 けれど、
『ケルベロス……! いや、ケルベロスにだって、俺の恋の嵐は止められない!!』
「そう、この吹き荒ぶ桜吹雪のように、恋はテンペストでハリケーン!!」
 彼に振り落とされた爆弾が桜吹雪の中で爆ぜた瞬間、跳び退って間合いを取ったハナトを確実に捉えたニケ・セン(六花ノ空・e02547)の轟竜砲がばっちり直撃!!
 人生で一度しかない初恋ならば、と畳みかけ、
「古今東西の告白方法を全て網羅して派手に告白するんだ!!」
 芝居がかった所作で腕を広げた瞬間、ニケの陰から跳び出した桐箱風ミミックが山盛りの書物をエクトプラズムで掲げて見せつつハナトに迫る――!(ヘリオン内で『蓋の上に本を山盛りしたままキックでガブリングして!』って特訓してみたけど無理だったよ!)
 だがしかし!
『そんなのよりインコたんのほうが凄いに決まってる! そうだろインコたん!?』
『チュ! ピ!!』
 恐らく具体的なイメージを与えられなかったのだろう、相手は熱いインコたん推しで彼の説得を一蹴。途端に愛らしい鳴き声が轟いて、巨大な影がニケの頭上からずどーんと、
「その巨大インコたんアタック、待ったあああ!!」
 落ちる直前に彼へ体当たりする勢いで盾になった熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)が巨大なおすわりインコたん(羽色は白×スカイブルー)を全身で受けとめた!!
 傍から見ると超でかい。超まるい。超かわいい。だがそれでけではなく、
「めっちゃ重い! めっちゃ強いよこのインコたん……!!」
 事前情報どおりの高威力!
 なお深手に至らなかったのは彼女が精鋭かつ護り手であり、防具の相性も合致していたがゆえ。巨大インコたんの破壊への耐性を持たず、サーヴァントと命を分け合うニケや隼なら一撃でぷちっと潰しうる、色々な意味で重い攻撃だ!!
 巨大インコたんが消えると同時に反撃するも圧力に負けたゼログラビトンは弾かれたが、
「恐ろしい敵ね、インコたん……いえ、ハナトくん――!」
「ん、色んな意味で手強いよねー。護りはばっちり固めてくから、全力でいこ?」
 眩いまりるの光弾が宙で弾けた瞬間に八柳・蜂(械蜂・e00563)がライトニングボルト!
 間髪容れず桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)がネイル煌く指先を踊らせれば、彼女の意のまま翔けた鎖が前衛に三重の守護魔法陣を織り成し、蠍と青龍の心臓を表す柘榴石煌く星辰の剣で黒姫・楼子(黒耀玲瓏・e44321)が星の聖域を描く。
 随分インコちゃんに自信がおありのようですけれど、と楼子が微笑み、
「貴方、サバンナでも同じことをおっしゃれますか!?」
 涼やかな碧の双眸をカッと見開き迫力の美貌で迫れば、
『サバンナ!? いやでも』
「今サバンナとか行かないしって思った? 甘い、甘いな少年!」
 双節棍を手に躍り込んだ隼が言葉をも叩き込んだ!
「世界はもう全てサバンナやジャングル同然! うちの店の指名No.1ホストなんか毎日黒豹に乗って出勤してくるし、俺だってコモドドラゴンの育成中! これくらいはしなきゃ女の子のハートは掴めないっしょ!!」
『黒豹!? コモドドラゴン!? そうなのインコたん!!』
『チュピ、チュピ! チュピピピピ?』
 気圧されたハナトが腕を突き出せば溢れだすのはインコたん(羽色は白×ライラック)の群れ! 前衛陣へ襲いかかったインコたん達はその腕や肩にとまり、つぶらでピュアな瞳で見つめてきて――!
 隼を庇ったテレビウムがコモドドラゴンを映した顔画面をぽっと赤らめ、
 ――兄ちゃんてば、あんなこと言って……恥ずかしいっ!
 的な感じできゃっと顔を覆ってしまう!
「いや待って地デジ! そんなポーズしないで!!」
「大丈夫だ隼! カッコいいじゃないかコモドドラゴン、ハナトにも効いてるぞ!!」
 激励しつつアンゼリカがバスターライフルから撃ち込んだ凍結光線に貫かれた敵は確かに『コモドドラゴン……』とか呟きながらぷるぷるしている。
「そうです隼さん、強くて大きい爬虫類は魅力的ですとも! ね、つづらちゃん?」
 楼子の分もインコたんに見つめられた蜂はもうハナトを見るだけで(その拗れっぷりが)恥ずかしかったが耐えぬいて、気合満点で顕現した巨大な黒蛇に彼を強襲させた!!

●イノセントインコたん!
 巨大インコたんは勿論のこと、テンペストやイノセントで襲いくる範囲攻撃も油断ならぬ高威力。幾重もの守護魔法陣と状態異常攻撃に護り手達の挺身、そして癒し手たるクィルの奮戦で凌ぎつつ、ケルベロス達は色々な意味で手強い敵の弱体化を狙う!!
 巨大インコたんに潰されかけたテレビウムにクィルが魔法手術を施したのと同時、萌花が幾重にも展開するのはパールピンクな桜シールでデコられた紙兵達。続いて、
『チュピ! チュピピピ、チュピ!!』
 愛らしきインコたん(羽色はイエロー×ライトグリーン)達の嵐が前衛陣を呑み、仲間の盾となった蜂とまりるが篭絡されかかったが、
 ――あっ! 紙兵も可愛い!!
 可憐な紙兵達の加護で誘惑を克服!!
「ハナトくんのインコたんの可愛さと強さは分かりました。でもまだ温い、温いのよ」
 即座に漆黒のナイフを波打たせた蜂が躍り込み、斬撃とともに刻みつける言の葉は!
「インコたんにムキムキの腕と脚を生やしてからが本番よ!!」
『インコたんに……ムキムキの腕と脚!?』
 一種の想像で衝撃を受けたらしいハナトへ地獄の炎弾をぶっぱなしつつまりるが追撃!
「インコたんだけじゃない、君も鍛えて近代五種で馬術部のイケメンに対抗するんだ!!」
『近代五種って何!?』
「よろしい、説明しよう!」
 スポーツ好き(但し観る専)まりるの解説!
 近代五種とは! 馬術に加え、射撃・フェンシング・水泳・ランニングを一人でこなす、近代オリンピックの父クーベルタン男爵が考案した複合競技である!!
「渋カッコいいぞ! これならモテる!!」
『成程つまりイケメン殺して俺が近代五種に挑めば完璧! そうだろインコたん!?』
『チュピ、チュピ! チュピピピ……!』
 だが、何故か立ち直ったハナトがピュアな瞳のインコたん達を解き放った!!
「インコたんにムキムキなんて……私、何を言って……!」
 たちまち蜂は耳まで薔薇色に染め、
「ああっ! 恋敵より凄いスポーツで対抗しろって、ある意味正論……ですよねー!?」
 三毛猫の耳と尻尾をぷるぷるさせたまりるが身悶え、
「近代五種の過酷さが分かんなかったんだろうな~……ハナトくん、恐ろしい子!」
「予想以上のおバカ――もとい、お子様っぷりだね。これは確かに手強いかも……」
 無知は時として無敵であることを痛感した隼がハナトへ放った不可視の爆弾を起爆させた次の瞬間、ニケの掌から顕現した幻影竜が灼熱で襲いかかった。フロストレーザーのはずが何故かドラゴニックミラージュを携えてきていたのは気にしないことにする!
「実に強敵ですわね、ハナト様……!」
「勢いも大事だが、相手が理解できなければインパクトも薄れるってことだな!」
 ――インコちゃんはお可愛らしいですけど、ハナト様、貴方は?
 と訊いてみたかった楼子だが、訊いても間違いなく空振りに終わっただろう。何せ正論も冷静なツッコミも現実的な指摘もまったく効かない相手である。深緋の薙刀に凍気を乗せた楼子の斬撃が、血色、否、モザイク色の雪花を咲かせたのに続き、アンゼリカが仕掛けた!
 鳥に目をつけたなら、と胸元に薔薇二輪を煌かせつつ跳躍し、
「君自身が空を舞って彼女をエスコートする気概を見せてみたまえよ!」
 私のデートは空を巡るのが定番コースだ! と炸裂させるスターゲイザー!!
「翼がないならダチョウで飛べ! You can fly!!」
『え! ダチョウって飛ぶの!?』
「最愛の相手に告白する時は私も怖気づいた……だが! それを乗り越えれば!」
 ダチョウだって飛ばせる! と猛攻するアンゼリカに萌花が続く!!
 馬術部のイケメンなんて白馬に乗った王子様も同然、
「ならこっちはダチョウくらいぽんと買える経済力がなきゃ。石油王クラスは欲しいよね、いっそヘリで学校に乗り入れるくらいの気概見せなよ」
『ヘリで!?』
 驚愕に後退ったハナトの懐へ萌花はふわりと跳び込んで、
「てか、ヘリは手始めだし。そこからちゃんと甘い口説き文句言える?」
『えっ、それはほら、インコたんが……!』
 悪戯に煌く青い瞳で見上げれば相手に逃れるすべはなく、カリスマ読者モデルな美少女の魔法と魅力が幾重ものプレッシャー(状態異常な意味でもドキドキな意味でも!)となって襲いかかる! ここで最大の機を掴んだクィルが仕上げに入った!!
「インコたんに頼るなんてダメダメじゃないですか!!」
『ダメダメなの!?』
 反射的に巨大インコたんを召喚するハナト! だが萌花の術で勢いの鈍ったインコたんを蒼花咲く鎧を活かしたクィルが鮮やかに躱して語る!
「まずはヘリから跳んで、華麗にパラシュートを開いて着地! そして!」
 天に突きあげた手に花束をしゅぱっと収め!
 跪いて愛の言葉を唇に乗せると同時、背景の高層ビルに輝く『I LOVE YOU』!
 勿論空には数多の花火が煌びやかに花開くのだ!!
「これくらいの自力演出は最低ラインです。どうしてもっと本気を出さないんですか!?」
 クィルの熱弁に思わず振り返った蜂が、
 ――なんて純真な瞳なのくーちゃん。本気ね、本気でそう思っているのね……!!
 胸を震わせた、そのとき!
『それが最低ライン……? そうなの? 恋ってそんななの……!?』
「当たり前じゃないですか! 最低ラインですよ!!」
 最低ラインですよ!!
 最低ラインですよ!!
『そんな最低ラインクリアできない……! 俺には恋なんてまだ早かったんだ……!!』
 清々しい春の早朝に響き渡った声に打ちのめされたドリームイーターが、がっくりと両手両膝を地についた。誰が見ても明らかに弱体化を起こしていた。
「これでもう貴方の勝ち目は消えましてよ、ハナト様!」
『そうなの!?』
 高らかな楼子の宣言にハナトが顔をあげた刹那、深山の淵に住まう竜の化身めいた美貌が呪いとなって彼を縛りつける――!!

●テンペストインコたん!
 清冽な朝の光に舞う桜吹雪、それよりも鮮麗な黄や緑の羽が乱舞し愛らしきインコたんの群れが嵐となって襲いくるが、決定的に弱体化し、数多の状態異常を刻まれた敵の技は最早恐るるに足らず!!
「早々に決着をつけさせてもらうぞ! ドリームイーター・ハナト!!」
「初恋への拗れっぷりも何とかなった……なった? ことだしね」
 可愛さの嵐で攻め立てるインコたん達の渦中で不敵に笑み、アンゼリカの両の掌から解き放たれるのは敵を焼き尽くすための終の光! 軽やかな跳躍でインコたん達の嵐から逃れたニケは着地と同時に構えたバスターライフルから迸る光弾で狙い撃つ。別方向に拗れてった気もするが、肝心なのは眼前の相手を倒し、本物の華斗を目覚めさせてやることだ!
 お目覚めになられたら武道で男磨きをおすすめしましょうかと思いをめぐらせて、楼子はそのためにも六花咲かせる氷刃を揮い、白馬に乗った王子様に初恋の彼女を攫われたんだと思えば色恋に興味の無いまりるでも華斗を憐れまずにはいられないから、まぁ頑張れー、と本物の彼へのエールも込めつつ凍結光線を撃ち込めば、
『チュ! ピ!!』
 頭上に轟く愛らしきインコたんの声! だがしかし!!
「そっちがインコたんなら、こっちはペンギン! 喰らえペンギンアタック!!」
 降り落ちる巨大インコたんめがけ彼女の許から羽ばたく、可能性を顕現するペンギン――疾駆企鵞(ハシレペンギン)がジャイアントインコたんを相殺!!
「凄いですねちーちゃん、まりるさんのペンギン!」
「ええくーちゃん。でも、ちーちゃんのつづらちゃんも凄く張りきってるのよ」
 蜂の声に力強く頷いた巨大な黒蛇は猛然と標的へ襲いかかり、丸呑みする勢いでハナトをがぶり! カッコいいですと破顔したクィルが腕を躍らせれば、途端に桜降る地から伸びた黒き水がハナトを取り囲み、
「じゃ、本物の彼も次の恋に向けて張りきってくれますように、っと」
 禍を増す水の膜で彼を包み込んだところへ、真っ赤なリップ艶めく唇を笑ませた萌花から三重の麻痺を乗せた旋刃脚のプレゼント!!
『くっ、俺には好きな子がいるのに……眼の前の美少女に目を奪われて動けない!』
 いやそれパラライズだし!!
 的なツッコミは全員が呑み込んで、まあ今朝だけでもこんだけ美女や美少女が集まってるわけだから、と笑みを閃かせた隼が如意棒も一閃。まっすぐ伸びた棍でハナトの胸を貫き、
「世界には素敵な子がいっぱいいるってこと! 次はきっと飛びきりの恋に出逢えるさ」
 その時には、可愛い家族自慢より先に、自分自身の器量を見せられるよう。
 恋は嵐とはよく言ったもの。初めての嵐が彼を成長させてくれるはずと願いつつ告げると同時、胸からモザイクを溢れさせたドリームイーターの全てが煌くモザイクの粒子となり、舞い散る桜吹雪に融けるよう消えていく。
 初恋の夢が還る先、本物の華斗がいるだろう教室の窓を見て、ふふ、と蜂が笑んだ。
 いつか彼が、好きになった相手に自分自身の器量で挑める勇気を持てたなら。
 ――ケルベロスの能力も開花させてくれるといいな、なぁんて。

作者:藍鳶カナン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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