未必のワンナイトLOVE

作者:質種剰


 夜の街。
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は、煌びやかなネオンから背を向け、一週間分の食糧の買い出しを終えて家路へ急いでいるところだった。
 閉店間際だからと鮮魚店が割引してくれた河豚を、早く持って帰って夜食に食べようと心が弾んでいたのだ。
 そのせいか、足を停めずに歩き続けていた蒼眞は暫く気づかなかった。
 いつの間にか、街の喧騒もネオン煌めく店も人の話し声も全てが消え失せ、自分はひと気のない路地裏にぽつんと取り残されていた事に。
「ねぇ、お兄ちゃん」
 思わず立ち尽くした蒼眞の耳に入ったのは、甘ったるい声。
 振り向くと、幼い容姿とアンバランスな女の表情をした螺旋忍軍が、ぶかぶかの袖をゆるゆると動かしながら、自分を誘惑してきた。
「ネーナね、イケナイコトがしたいの。お兄ちゃん、教えてくれないかなぁ……?」
「ふぅん……?」
 確かにネーナと名乗った美少女は、整った容姿に加えて、その気になれば男を虜にするだけのフェロモンを持っていそうな気がした。
 それでも、見も知らぬ他人に突然誘惑されて襲いかかるように身体を触られれば、男女問わず誰だって恐怖して警察を呼ぶものじゃないのか——と蒼眞はどこか冷静な頭で思う。
(「それとも、元々『その為』に相手を探しているような盛り場ならば、一晩の遊び相手として案外魚がかかるのだろうか……?」)
 ともあれ、ネーナが普通の人間でなくデウスエクスだと景色の変化から直感していた蒼眞は、彼女の誘いに乗ってみる事にした。
 ネーナが本性を見せて攻撃してくるように仕向ける作戦だとか、他のケルベロスが助けに来てくれるまでの時間稼ぎだとか、色々頭の中で言い訳しながらも本当のところは。
 やはり、抵抗せず自分を受け入れる美少女へ密着したり、身体を撫で回すのが愉しかった、というのが本音だろう。


「皆さん、変態であります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、何やら困惑した様子で語り始めた。
「おっと、間違えました、大変であります。日柳・蒼眞殿が吸精姫ネーナなる螺旋忍軍に襲われ……いや、襲いかかり? ともかく組んず解れつなのであります!」
 ここまで要領を得ない説明というのも珍しい。
「急いで連絡を取ろうとしたのでありますが、まぁ当然のことながら、一向に繋がらないであります……」
 吸精姫ネーナは、歓楽街で気に入った男性へ関係を迫った挙句、悦楽の中で精のみならずグラビティ・チェインをも搾り取ってしまうらしい。
 即ち、今の蒼眞も一応は切迫した事態といって良いだろう。
「もう一刻の猶予もありません。どうか皆さん、蒼眞殿がご無事なうちに、いち早く救援に向かってくださいませ! お願いします!」
 深々と頭を下げるかけら。
「吸精姫ネーナは、螺旋氷縛波と毒手裏剣、螺旋掌を使って攻撃してくるでありますよ」
 ポジションはスナイパーで、何より男からグラビティ・チェインを搾り取るのを最優先し、事あるごとに誘惑してくる為、戦闘力だけで判断するなら隙の多い敵だそうな。
 そこまで説明すると、かけらは再び頭を下げて頼み込む。
「どうか蒼眞殿をお救いして、吸精姫ネーナを撃破してくださいませ。宜しくお願いいたします……!」
 あと、お仕置きはご随意になさって構いませんので、とも補足して。


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
月白・鈴菜(月見草・e37082)
 

■リプレイ


 謎の路地裏。
 吸精姫ネーナの——というより大抵のデウスエクスが持っている誘き寄せの力なのだろうが、周囲にひと気が全くないというこの状況が、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)には有り難かった。
「デウスエクスだから敵、という訳でもないだろう……まあ、生きるのにグラビティ・チェインが必要だから何かしているんだろうけど、もし地球人を殺さずにやっているのなら無理に戦う理由も無いしな……」
 と、誰にともなく言い訳をして、ネーナへねだられるままに彼女を組み敷いているからだ。
「眼力もあるんだし俺がケルベロスだというのは分かっているだろうに、直ぐに仕掛けてくるつもりが無さそうなら、取り合えずは様子見かな……」
 そうぶつぶつ呟きながら、愛用の『風の団』専用ジャケットを地面へ敷いて、その上へネーナを寝かせるような気遣いまで見せる蒼眞。
 ——広げたジャケットの上へ身体が収まってしまうネーナの小柄さを目の当たりにすれば、多少罪悪感が湧かない訳でもなかったが。
 幸いとでも言うべきか、容姿が幼いだけの女性なら彼にとって充分守備範囲内である。
「ね、おにいちゃん、はやくぅ」
 そして本人に甘い声でせがまれれば、色々どうでもよくなるのも事実。
「はいはい」
「あん、そこダメぇっ」
 やりたい事とやるべき事が一致したその時、蒼眞の脳内では世界の声が聞こえたという。
 据え膳食わぬは男の恥! と。
「んぅ、いきなり激しくしちゃイヤ……!」
 だから、愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)が駆けつけた時も、蒼眞の両手はネーナの黒くぶかぶかした服の内側で忙しなく動いていたし、頭は短いスカートの中で白いガーターベルトが眩しい太ももに挟まれていた。
「……」
 想像以上の惨状もとい淫らがましい振る舞いにミライは思わず天を仰いだが、
(「私の知ってる先輩ならかなり冷静……なはずなので。なんらかの狙いがあってこの状態、のはずなのです!」)
 そう思い直して、素直に今何をしているのか訊く事にした。
「……えぇっと先輩? 幼く見える女の子の……両脚の間に顔を埋めて、一体何をしているんですか? 是非とも詳しく説明していただきましょう、か!」
 そして、どうせ訊くなら事細かに問い質して先輩を困らせようと思ったものの、実行してすぐに後悔した。
(「……何かこれじゃまるでわたしが先輩にセクハラしてるみたいじゃないです!!?」)
 その通りである。
「詳しく……? なるほどな……」
 そして、ミライの想像の斜め上をいく行動を取るのがこういう時の蒼眞。
「口ではイヤと言っててもこっちは正直に泣くほど悦んでいるじゃないか。それにしても顔に似合わずオトナな……」
「言わないで恥ずかしいっ、おにいちゃんの意地悪ぅ」
「イケナイコトとか言いながら結構慣れているんじゃないのか……?」
(「ああ、至極冷静に言葉責めを始めてる辺り、もうダメそう」)
 仕方なく、ミライはクッキーちゃんを『鋼の鬼』へ変化させて、がつーんと拳によるツッコミを喰らわせたのだった。
「宇宙の理を破ったケルベロスの魔の手から、デウスエクスの少女を救わなければならないのです……!」
 その標的は当然ながら蒼眞の方だった。
「……ん? 違います?」
 一方。
「それなりにお世話になってるから助けに来たけど……デウスエクスって分かっててあえて自分から飛び込むって、ほんとソーマらしいというか懲りないというか……」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、殴られて頭を抱えるまでずっとネーナの股座へ夢中になっていた蒼眞を見て、深い溜め息をついていた。
「……男の人ってああいう子好きなの? どうなのガイバーン?」
「そうじゃのう」
 ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)も、マヒナにジト目で話を振られて思わず視線を逸らしながら唸った。
「決して嫌いな訳ではないが、一生添い遂げる相手に選ぶかどうかは別じゃ。そういう場合には操の固い子を求めるし、幾ら可愛くて床上手でも誰にでも体を許すようなタイプなら、やはり遊び相手止まりじゃな」
「ふ〜ん……」
 とりあえずずっと棒立ちなのも来た意味が無いと思い直して、こちらはネーナの方へ圧縮したエクトプラズムの霊弾をぶち込んでおくマヒナ。
 他方。
「大丈夫っすか! 助けに来たっすよ!」
 頼もしいセリフと共に颯爽と現れたのは、シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)。
 しかし、
「ついに一般人にまで手を出すようになったっすか」
 何やら勘違いしてプラズムキャノンで吹っ飛んだネーナを助け起こす辺り、流石はノリを勢いだけで生きているシルフィリアス、見事な天然ボケっぷりを披露してくれた。
「……いや、一般人じゃないから、その子。デウスエクスだから……」
 追いついたシェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)が、そっちを助けたくなる気持ちは判るけど、と付け加えつつ至極冷静にツッコむ。
「え? デウスエクスっすか? デウスエクスは助けた方がいいんすかね?」
「いやいや、定命化の見込みも無いし、既に何人も腹上死……とは厳密には違うが……させてるようじゃし」
 素できょとんと首を傾げるシルフィリアスへ、次はガイバーンがツッコんだ。
「……両方倒せば解決っすね」
 暫く考えたのち、シルフィリアスはあっけらかんとした顔で結論づけた。
 何せ、蒼眞が女の子を襲っていると勘違いしてすぐに、異形化して牙の生えた口を持った髪の毛を蒼眞へ嗾けてギチギチ巻きつかせ噛みついていたのだ。
 今更蒼眞を助ける方へシフトするのも、彼女の中では無理な話なのかもしれない——あくまで彼女の中では、だが。
「……真偽を確かめる前から攻撃するとはな……」
 無防備な状態で身体を噛みつかれた蒼眞が、蒼ざめた顔で呻いているのがいささか哀れであった。


 さて。
「日柳さんにあの娘を襲わせる訳には行きませんね。襲うのは私で、襲われるのはあの娘の方です」
 一応は蒼眞を助けて螺旋忍軍討伐という依頼へ挑む意気込みからして、他の仲間とは明らかに異彩を放っているのが、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)。
 自分がネーナを襲いたいというだけあって、如何わしい事やえっちな事には肯定的で、外見さえ良ければ年齢性別関係なくイけるとか。
 そんなシフカだけに、表面上はいかにも清楚でお淑やかな雰囲気を持っていながら、黒い上衣の下が真っ裸だったりする。
 ヘリオン内でも蒼眞のとんでもない風評被害を口走って同行者の度肝を抜いた、ある意味大物なシャドウエルフの女性だ。
 どんな形であれ、吸精姫ネーナへの悪意なき害意があるのはある意味頼もしいかもしれない。
「という訳で、ちょっと失礼しますねー」
 ——ゴンッ!
 そして、ネーナというロリ目当てでやってきたシフカの情熱のとばっちりを受けるのが、割り込みざまにバックドロップをかまされた蒼眞であった。
「おい……」
「え? YESロリータNOタッチ? 私は紳士でなく淑女なので問題ありません」
 ネーナとお楽しみ中だった蒼眞を躊躇いなくバックドロップするシフカの神経は相当なもので、すぐに彼の代わりにネーナを好き勝手しようと彼女の華奢な身体を撫で回し始める。
「…………」
 だが、そのおかげでミライやマヒナは見たくもないモノがやたらと元気なまま宙を舞う様を目撃してしまい、呆然としつつもそれぞれポンちゃんとアロアロへ両手で目隠しをする羽目になった。
「…………大丈夫、蒼眞?」
「……バックドロップなのが不幸中の幸いじゃのう」
 シェミアやガイバーンも遠慮なくドン引きするが、それでも今回ばかりは蒼眞が背中から落ちて良かったと胸を撫で下ろしてもいる。
「ああ……何とかな……」
 そして、シフカに迫られた吸精姫ネーナは、
「ぎゃーっ、やめてっ触らないで!!!」
 シフカに身体を慰められそうになって悲壮な声で泣き叫ぶと、
「おにいちゃんを返せえええ!!!」
 ここに来てようやくグラビティを使用、シフカへ毒手裏剣をぶっ刺した。
「お願いおにいちゃん助けてっ、変な女に犯されちゃううう!!」
「あらあら、そんなに力一杯逃げなくてもいいんですよ。恥ずかしがり屋さんなんですかね」
 とはいえ、幾ら嫌がって泣き喚いても今までの所業からすれば吸精姫ネーナの窮地はまさしく因果応報、同情の余地は無いだろう。
 同じ頃。
(「……そんなに楽しくない……私なら翼で飛べるから……感じ方も違うのかしら……?」)
 ——ドサァッ!!
 月白・鈴菜(月見草・e37082)が珍しくヘリオンから蹴落とされてきた。
「ぐえっ!」
 しかもバックドロップを食らって倒れた蒼眞へ激突する形で。
「……ごめんなさい……太陽機蹴落顕現の逆バージョン?」
 慌てて蒼眞の上から降りる鈴菜だが、その呟きは微妙に不穏だった。
「逆バージョンって、まさか……」
「……蒼眞みたいに……私も蹴り飛ばして貰えるかと思って……」
 どうやら、本人がヘリオン内に居ないという違和感を埋める為か、何となく蒼眞の真似をしてみようと思い立ったらしい。
 蒼眞の真似とは即ち小檻へのおっぱいダイブであり、それを実行した鈴菜だけはシフカの行動を責められまい。
 現に、彼女が落下中に楽しくないと感じていた理由は、普段の蒼眞との戯れ合いと違って小檻が本気で嫌がってマジ蹴りしていたからに他ならないのだから。
「……蒼眞は私に……どうして欲しいの……? ……ちゃんと分かるように教えて……」
 そして、鈴菜としては蒼眞が求める理想の女性像はネーナのようなものなのか、と知りたくて訊いたのだろうが。
「……ネーナからシフカを引き剥がしてやってくれ……」
 いかんせん尋ねるタイミングが悪く、蒼眞からこんな要請が返ってくるのは当然の流れであった。
「……逆のような気もするのだけど……本当にこれで良い……のかしら……?」
 とりあえず言われた通りに、ネーナを抱き竦め舐め回してるシフカの脇を掴んで、ずるずると引っ張る鈴菜。
「おや、もうお楽しみの時間は終わりですか?」
 シフカは別段抵抗する事もなく乱れた上衣を整えていたが、ロリに気を取られて蒼眞の事はすっかり忘れているようだ。
「理想的な死に様は腹上死、枯死するなら寧ろ本望! ネーナとの一晩の逢瀬を邪魔する無粋な相手は全力を以て排除するのみ!」
 尤も、そんなシフカ相手だからこそ、蒼眞も遠慮会釈なく彼女へ対して、全力で手加減攻撃をぶち込めたのだろうが。
「YESロリータGOタッチ! 合法ロリ最高!」
 ゴスッ!!
「……あ、あの、ソーマ……?」
 流石に本格的な仲間割れを始めたとなれば心配するのも道理で、マヒナがおずおずと声をかける。
「何、紳士の鉄則? 知らんな。それ以前に外見が幼かろうと成人しているのなら手を出したとしてもなんの問題があると?」
「いや、そっちじゃなくて……」
「デウスエクスと戦うのがケルベロスの使命? 知らんな」
(「ワタシが気になるのは、味方を本気で攻撃するコトなんだけど……」)
 その傍ら。
(「ひぃいいっ……」)
 椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)は、風の団団長を見つけて声を掛けようとするも、ミライやマヒナ、シフカそして鈴菜と女性陣の放つ得体の知れぬ恐ろしさに息を呑んで後退っていた。
(「なんか、御一緒する女子陣がこわいのでありんし。これは一緒になって団長のダメ男ぶりに叱咤をすればよいのざんしかね……」)
 そう考える間もなく蒼眞がバックドロップされたり上空から激突されたりするのを見れば、
「……いや、その前に団長殿に手を物理的に出してる勢いでありんしかね」
 もはや苦笑するしかない笙月。
「団長、ご愁傷様やな……」
 同じ男として慰めの言葉をかけるものの、
「ああ……今回もやっぱりパンツ穿いてなかったざんしか」
 困惑も尽きない苦労人ポジションであった。
「あっ、ちょっとそこの綺麗なおにいちゃん! 口直しにネーナとイイコトしない!?」
 ネーナは笙月を見るなり、嬉しそうにコナをかけ始める。
(「匂い? ででもかぎ分けているのか……もしくは本能なのか……」)
 見た目も喋り方も花魁そのものと自負する笙月は、男と見破られた事へ素直に驚いた。
「判別方法に興味は尽きぬども団長のようなフシダラ? 思考は持ち合わせちゃおらん」
 それでも当然誘いには乗らず、ネーナへ向かって螺旋を籠めた半透明の掌による張り手をお見舞いする。
 バチィン!!
「一応、これでも娘を持つ父親ざんしなぁ」
 龍の顎すら破壊するという威力の打撃を喰らって、後ろへ吹っ飛ぶネーナ。
 ともあれ、まだまだカオスな状況を引き摺ってはいるものの、ようやくケルベロス対デウスエクスという基本の構図に立ち返った9人であった。


「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 高らかに名乗りを上げたシルフィリアスがカラミティプリンセスを振った刹那、全身を光に包まれる。
 何せ周りが好き放題やっている為、今回ばかりは遠慮なく全裸姿になっていた。
 そこへシュルシュルと段階を踏みつつリボンが巻きつき、魔法少女の衣装へ変身を遂げて可愛く決めポーズを取る。
「いくっすよ! グリューエンシュトラール!」
 次いでマジカルロッドの先端へ集束させたエネルギーの塊を光と共に発射。
「ふふん」
 ネーナへ真っ直ぐぶち当てては、髪をかきあげてポーズをキメるシルフィリアスだ。
「戦闘準備完了……では行きましょうか」
 鎖を両腕に巻きつけるや、すらりと廃命白刃を抜き払うのはシフカ。
 雷の霊力を帯びた刀身を神速で繰り出し、ネーナへ鋭い突きを浴びせた。
「さて、団長はお取込み中でござうんすな。暫し、私の相手をしておくんなし」
 いそいそとパンツを穿いている蒼眞を尻目に、笙月はユルング・カルマから光の剣を具現化させる。
「酷いっ、おにいちゃんがつれない……」
「私は、ロリコンの趣味はないのざんしがね……」
 マインドソードで斬りつけられたネーナがグズグズ泣くのへは、呆れた風に呟いた。
「全く、蒼眞は相変わらず変な女の人に絡まれて……しかも敵だと判っていながら拒むそぶりが無いとは……」
 シェミアは深い溜め息をつきながら、ネーナへ蒼き炎獄の裁首をぶん投げる。
 回転する鎌がネーナの細い手足を抉り抜き、容赦なく斬り刻んだ。
「……どんな理由でも……蒼眞を傷つけるなら……私の敵……」
 微妙に目が据わった様子で、竜語魔法を唱えるのは鈴菜。
 掌から『ドラゴンの幻影』を放ち、ネーナを焼き捨てんばかりの勢いで燃やし尽くした。
「双方に正しい判断力と。合意があるのならば。別に、あんなことやこんなことをしてても構わないのです。ええ!」
 ミライは内心どこか面白くないのかやたらと自らへ言い聞かせつつ、Angel voiceから物質の時間を凍結する弾丸を精製してブッ放す。
「判断力があればですけ、ど! 双方に、本当に愛があるなら、ですけ、ど!!」
 そう繰り返してネーナへ着実にダメージを蓄積させる一方。
(「……それにしても死生観が分からないのです。にゃんにゃんした相手を、殺すのって辛くないのでしょう、か?」)
 と、まるでグラビティ・チェインを求めるついでに男漁りしているようなネーナの感覚へ、至極真っ当な疑問も抱くのだった。
「俺の道はおっぱいダイブ、そして落下と共にある!」
 とりあえず身繕いを整えた蒼眞はワイルドスペースから石英の残霊を召喚。
 小檻へおっぱいダイブをかまして蹴落とされる一連の流れを再現し、落下の勢いでネーナの平らな胸へ激突、ついに彼女の息の根を止めたのだった。
「もっと……したかっ……」
 事切れたネーナの遺体が、地面へ吸い込まれるように跡形もなく消えていく。
 それと同時に、閑散とした路地裏が煌びやかな夜の街という元の姿を取り戻した。
「お仕置きするならどうなとしてくれ。覚悟完了だ」
 蒼眞は落ちていた河豚のナイロン袋を拾って、神妙な顔になる。
 氷をたんまり入れていたおかげか、まだ傷んではいないようだ。
 シルフィリアスと鈴菜は不思議そうに首を傾げ、シェミアと笙月が穏やかな佇まいで顔を見合わせた。
 マヒナやガイバーンもアロアロと共に、笑みを含んだ様子で成り行きを見守っている。
 ちなみにシフカは若干ネーナへ未練があるのか、妙に背中を丸めてとぼとぼと歩き始めていた。
「もう気疲れしてお仕置きする力もないので、代わりにご飯奢ってもらうのです。ええ♪」
 ミライは皆の気持ちを代弁すべく、にっこりと屈託のない笑顔を見せた。
「……そうだな。じゃあ河豚刺しや唐揚げでも作るか……」
 かくて、奇妙な縁による一晩の逢瀬を愉しんだ蒼眞は、仲間たちと一緒に帰路へ着いたのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月19日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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