さぁ、お前の業を数えろ

作者:久澄零太

 除・神月(猛拳・e16846)はとあるヘリポートに寝転がっていた。夜空の果てに流れる星が煌めいて……。
「感じる……あなたの中に、流星を感じる……」
「なんダ!?」
 突如跳ね起きた視線の先、絵筆……じゃねぇ。鍵だアレ。鍵持って絵画の額縁構えた、なんかもうビジュアルだけならやべーのが立ってる。
「さぞやお星様が流れているのでしょう……さぁ、もっともっと輝くのです」
 にじり寄るそれは、決して強敵ではないはずだ。だというのに……。
「体ガ……動かねェ……!?」
 見てはいけないモノを見てしまったように、除の体は震え、力が抜けていく……。

「みんな、出るよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)は武装した番犬を連れて、己の愛機へ向けて走っていた。除が敵の襲撃に遭う事を予知したものの、連絡がつかなかったのだ。
「今回の敵はちょっと変わってて、みんな一人一人に対して強さが変わるみたいなの!」
 誰かにとっては即死クラスの一撃を放つかもしれないし、誰かに対しては紙装甲かもしれない。せめて基準はないか、と問えば。
「占星術? みたいな魔術を使うみたいで、みんなの中の星を詠む、みたいな事言ってた気がする! それと、みんなの業の深さに合わせて強くなるみたいなんだけど……」
 この緊急時故か、ユキの説明もどこか曖昧なままにヘリオンに辿り着けばそこには既に四夜・凶(泡沫の華・en0169)がスタンバイ。
「何かあったら凶がフォローするから、なんとしても無事に帰って来てね……!」
 ヘリオンは夜のヘリポートを飛び立ち、その姿を流れ行く星々が見送っていた……。


参加者
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
除・神月(猛拳・e16846)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
月白・鈴菜(月見草・e37082)
アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)
皇・露(記憶喪失・e62807)
ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329)

■リプレイ

●業の深い人々
「ハッ、あたしが輝いてるとか見る目があるじゃねーカ! 見てろヨ、てめーを倒してもっと輝いてやっかんナ!」
 除・神月(猛拳・e16846)は空元気を纏い、クァッ!
「……また狙われる的な意味でナァッ!」
 それダメな奴ぅ!?
「番犬たる者、常在戦場が基本だろーガ!!」
 ダメだこのバトジャン、早くKOさせないと……。
「パンダの人が沼沼にはまってさあ大変だそうです」
 アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)はヘリポートに繋がるドアの陰からジッと状況を見つめる。
「しかも、夢喰が出てきてこんばんはだそうです。やっぱり、「嬢ちゃん一緒に遊びましょうぐへへへ……」って奴でしょうか? 通報事案でございます」
 本当に通報した所で「テメーでなんとかしろ」って言われるんだけどその辺は置いといて。
「この中のメンバーで一番危ないの……私と除さんになるんでしょうか?」
 本日一、二を争う業の深さを誇るビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)も反対側のドアからひょこり。
「私は深くないですよ? 具体的に言うと画像一覧は二ページもありませんし」
 メメタァ!? 白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)よ、メタい話をするなら、貴様は前世の業が結構深いのだが……?
「えー」
 不満顔するな!
「星の宿業をみる夢喰ですか。腕利きの方は、さながら流星群を纏う星降る夜のように見えるのでしょうが」
 コツリ、ローファーを鳴らしてジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329)が参戦すると、そっと髪をかきあげて。
「私は……星のない夜の漆黒の帷【スターレス・ナイト】とでも言うところでしょうか」
 うわぁ……。
「うん、少しこじらせた学生さんみたいでいいね」
 自覚あったんか!?
「さあ、闇夜に震え……凍えよ!」
 ジルダリアを中心に冷気が渦を巻き、大気の水分は微細な礫に姿を変えて……。
「あの、シリアスになる前にちょっといいですか?」
 どしたアンヴァル?
「章タイトル的に他の三名は分かりますが、なんで私とジルダリアさんまで? 出番はもう少し後では?」
 自分とジルダリアのプレイング見直して見ろよ。同背後かなってレベルで業が深いから。

●業が浅い……?人々
「お……オレは力量もイベント参加もほどほどっすしー、友達と一緒のことが多いっすから業なんてほぼないと言っても過言ではないっすしー?」
 そっと目を逸らすセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)。実際マシな方だし、来世もモフモフが好きそう竜人(偏見)なだけでぶっ飛んだ業は背負ってなさそうか。てか、自分がモフモフになればいいのに。
「セルフモフモフは虚しいだけなんすよ……!」
「神月さんとは共にオークと戦い、オークと相撲取ったりした仲間ですもの! 仲間を襲わせる訳にはまいりません! 絶対に神月さんを助けますわ!」
 歯噛みするセットの傍ら、皇・露(記憶喪失・e62807)は決意新たに……って待って、オーク絡みの縁しかないの!?
「ただの御縁ではありませんわ! まずはサウナ事件でご一緒になって、その後オークと相撲を取る際にも……」
「あのー」
 挙手。露が過去の戦闘記録を広げてる間に口を挟んだのは、まさかの夢喰。
「帰っていいですか?」
 ダメ。仕方ないだろ、皆の業の話をしないとあれかなって思ったら、業以前の問題なんだもん。
「……人が星降る夜のように見えるのなら……私は……夜闇の魔法使い……?」
 月白・鈴菜(月見草・e37082)がようやく真面目な流れを……。
「……貴方で流れた星は……六つ……かしら……?」
 お前も混沌側かよ! どうすんだ、戦闘が始まらないぞ!?
「それはそれでよいのでは?」
 明日香がビスマスの陰に隠れつつ。
「今回の目的は除さんの救援ですから、敵が帰るなら帰るで何も困りませんし……」
「いやダメだロ!?」
 襲われてる側の除からツッコミが!
「敵を逃がすとか勿体ねぇだろうガ!」
 そこ!? 建前でも取り逃がすと近隣住民に被害が出るとか言えないの!?
「敵あらば殴ル! これ番犬の鉄則ダ!!」
 どう考えてもただのバーサーカー!!
「あ、やるんですね」
 脚力を足裏の前半に集中、体重移動と共に直線的な跳躍。一足で距離を詰め、加速と腕力を重ねた拳の砲撃。されど、その一撃を絵筆(鍵じゃないよ、本物だよ!)でサラッと流された。
「ナッ!?」
 仕留めるつもりで放った拳を受け流されたばかりか、持っていた額縁に絡めとられ、背負い投げられる除は背中を強打、肺の中身を吐き出して一瞬眼球がひっくり返る。
「ちょ、攻撃の威力はガチじゃないっすかー!?」
 ゆるーい空気を吹っ飛ばす事態にセットが大慌てで浮遊機を展開。危くワンパン即死しかけた除の耳に明日香が電極を挟んで。
「それじゃちょっとビリッとしますよー」
 バヂィッ!
「イッテー!?」
 跳ね起きた除は明日香に食ってかかり、両者たわわな果実をぶつけ合う零距離のにらみ合い。
「普通に治療できねーのかヨ!?」
「いきなり死にかけたアニマルさんにはこっちの方が有効だと思いまして」
 除の在り様を見たビスマスの頬に冷や汗が一筋。
「これは……まともに喰らったら耐えられる保証はなさそうですね……!」
 両手を左右に伸ばしたビスマスの周囲に、貝を象る重力鎖が展開。
「ガイアグラビティ生成……ローカルシェルシールド合体展開!」
 無数の貝を重ねて鎧を包み、貝殻のドレスアーマーを身に纏うビスマスの周囲に更なる貝が浮遊。それを核にして輝ける貝の盾が形成されてビスマスの姿を覆い隠す。
「ローカルシェル・ガイアイギスッ! 除さんは私の後ろへ! まずは機を覗いましょう!!」
「チッ、それしかねーカ」
「これでこちらは安心ですね」
 明日香も一緒に隠れた!?
「燃え上がるのと、踏まれるのと、痺れるような突きと……穿たれるのはどれがお好み? 今なら全部乗せの大サービスですよ!」
 アタッカーの除が身を潜めたため、アンヴァルが部隊の主砲となり、ジルダリアと共に前へ。
「まずは大好きなお星様からどうぞ!」
「好きなだけ持って行ってくださいね!」
 アンヴァルが白い星を生み出しジルダリアが打ちだす度に黒く染まった星が敵に向かってシューッ! (見た目だけなら)JKコンビのお星様が夢喰の頭にザシューッ!
「グァーッ!?」
 あまりにもモロに行って、逆にアンヴァルとジルダリアが顔を見合わせるという事態に陥った。
「お二人が攻略の鍵ですね」
 ここで支援に来た真理が到着、二人を庇うように最前線へ。
「援護するです。その間にトドメを……」
「おやぁ?」
 夢喰の視線が、真理に流れた。
「素晴らしい輝きを感じますねぇ?」
「ッ!?」
 視線を向けられただけだというのに、真理はその場にペタンとへたり込んでしまう。
「た……ターゲット、ロック……」
 巨大な敵の掌の上に転がされているような錯覚に囚われた真理は、せめて援護射撃しようとするも、自慢の砲台はシステムがダウンしてしまっている……通常の武装ならありえない事だが、真理のそれは己の神経に直結した特別製。並みのOSとは比べものにならない精度を誇るが、彼女の心理状態による神経の乱れを感知し、誤爆防止の安全装置が作動して機能停止してしまっているのだ。
「そんなッ……今まで、強くなろうって必死だったのです。こんなに、手も足も出ないですか……!?」
 人としての肉体は恐怖と絶望に囚われもはや立ち上がる事もできず、兵器としての機体はシステムダウンして撃鉄一つ動かせはしない。
「ククク……こんなにも流星を感じる人が集まるだなんて……」
 ポタリ、夢喰は一滴の絵具を垂らす。
「ほら、心の中にあるでしょう、人並み外れた自制心が」
「あれ、普通逆なんじゃないですか?」
 お星様沢山なのは、我慢しないからなんじゃないかなって思ったジルダリアだが、何かを察したアンヴァルが口元を押さえる。
「そう言う事ですか……!」
 敵の目的を理解したアンヴァルは振り返り、ビスマスと除に叫ぶ。
「逃げてください! こいつの目的は……!」
 アンヴァルが気づいた時には、除は既に敵に襲いかかっていた。

●何かを得る時、人は何かを犠牲にしている
「そのキャンパスにテメーの血で真っ赤なトマト描いてやるぜェ!!」
 飛びかかる除だが、彼女の拳は躱されて受け身もとらずにコンクリートの床にぶつかると、痛みも忘れて再度襲いかかろうとする。
「急にどうしたんですか!?」
 狂気に囚われた除を案じるビスマスだが、その手は帆立の身を叩いて合わせる白身魚を吟味している。相棒のナメビスが必死に止めようとしているにも関わらず、だ。
「遅かった……!」
 崩れ落ちたアンヴァルの様子に、鈴菜は察した。
「……敵は皆の……自制心を食べてる……?」
「うるゥア!!」
 除の渾身の一撃すらもパレットで適当にいなし、勢い余った彼女が自滅する様を見下し夢喰は笑う。
「星の煌めきは何にでもなる。それは時に食料であり、娯楽であり、住居である。しかし、流星群を呼ぶという事は、それらを犠牲にする者ということ……」
 たまにいるよね、お昼ご飯抜いてお星様にしたり、家賃の半額まではお星様にしても平気だと思ってたりする奴。
「衣食住の充足を『我慢して』でもお星様を呼ぶというその自制心、なんと美味なる事でしょうか……!」
「……人の中に流れる星……輝きが強い程……業が深い……?」
 嘲笑する敵に小首を傾げる鈴菜。理解したところで、それは今の今まで積み重ねてきた業の末路。もはや手遅れだ。
「い、嫌です……!」
 真理の震える声に番犬達が振り向くと、彼女はどす黒い沼に引きずり込まれかけていた。みれば、その原点は敵が垂らした一滴の絵具。
「私はまだ……何も……何も守れてないですのに……!」
 沼から伸ばされる無数の腕が、真理の体を掴んで沈んでいく……。
「嫌です……助けて……」
 恋人の名を口にしようとして、真理は沼に消えた。
「ちょ、コレどうなってるすか!?」
 一方、自滅続きで足が折れたらしい除は体の半分が沼に浸かり、なめろうしか作ってないビスマスも膝まで沼に呑まれている。
「助けようにも、触れないっす!」
 セットが除を助け起こそうとするも、彼女に触れても沼に触れる事ができず、引き上げる事はおろか、引き留める事すらできずにいた。
「沼は沼の民にしか触れる事はできません……そして沼の民はお星様をじゃぶじゃぶした者しか辿りつけぬ一つの境地……」
 にやり、夢喰は口角を上げて。
「自制心を食い尽くしたら、次は命と重力鎖です。どうですか、最期のお星様でも呼ん」
「はあああああーーー!!」
「どぅえっ!?」
 露の強烈な拳が夢喰の顔面を襲い、前歯を二、三本へし折りながらヘリポートの縁までブッ転がした。
「あらあら、瞳孔引き絞ったラスボス顔が台無しですね?」
 明日香にクスクス笑われたとおり、強キャラ感凄かった夢喰が丸まって殴られた頬を押さえてプルプルしてる。酷いなこの構図……。
「沼沼した方にしか泥沼化した方を救えないというのなら、神月様が手遅れになる前に貴方を倒してお救い申し上げるだけですわ!」
 熱血と脳筋入り乱れるような事を口にする露だが、何一つ間違ってない。
「さぁ、お覚悟を!!」

●番犬って時々酷い事する
「一刻の猶予もない以上、容赦はしませんわ!」
 露の拳が輝き始めたかと思うと、さっきとは反対の顔にストレートを叩きこむ。
「……沼に溺れるのはどうしようもないわ……大抵は自覚なく……もう嵌っているものよ……」
 殴られた衝撃でクルクルしてる敵に鈴菜が接近。
「……あなたも沼の民なら……お星様を出してみる……?」
 防御もままならない夢喰の顎にアッパーカットォ!! ガツッと歯を打ち合わせた敵の眼からお星様がちらり。
「額縁を奪って、角で電気あんまの刑を執行しちゃいましょうか? それとも、あの鍵で秘密の鍵穴を……開けてしまってもいいんですよ?」
 左手の親指と人差し指で輪っか作って鍵穴に見立て、右手の人差し指を鍵のように輪っかに差し込み、カチャカチャ回すジェスチャーをするジルダリア。
 ちなみに、ここのムーブは完全にコピペしました。ジルダリアが(歳がいってないと分からないであろう)下ネタめいたモノを書くから、完っ全にコピペしました、俺は悪くない。
「まずは額縁から!」
 ぶん殴られて落っことしてた額縁をかっさらい、敵の股間に向けて思いっきり振り上げるジルダリア。痛みを理解する前に真っ白になった敵の背後で、アンヴァルがドリルに炎と雷を纏わせて。
「この流れは、アイツに痺れるような激しい突きを叩き込んで、新しい世界への道を穿ってやって、燃え上がらせてやればいいんですね?」
 相も変わらず何言ってんだアンヴァル。
「よし、考えたら負けだ。無心で拡張工事しよう」
 ブチュッ、ヂュィイイン!!
「アッー!?」
 詳細は書かないけど、敵さんが熱と電気で爛れた尻を押さえて、ビクンビクンしてる所から察してくれ。
「自制心を食われたって事は、我慢ができない状態なんすよね?」
 治療用の浮遊機を展開して、沼に肩まで浸かってる二人のメンタルを見たセット。ふと、電球がピコン。
「ビスマスさん、あの夢喰が必殺技の為に流したお星様について……もとい、元ネタになった料理について聞きたいそうっすよ!」
「何とっ!?」
 ざばぁっ、ビスマスが沼から出てきた!?
「なめろうについて知りたいとは実に素晴らしいまずはなめろうについて説明するところから始めましょうかこのなめろうという名前は皿までなめつくす程の旨味を表していまして始まりはいわゆる漁師飯でした叩くことからも分かりますが鮮度劣化が非常に激しく作ってから食べるまでの時間が非常に重要で……」
「後にしてくれませんか!?」
 セットに誘導されたビスマスへ、尻を押さえて内股気味の夢喰から沼の泥が放たれる。局所的な濁流はビスマスを飲みこもうとすると帆立の盾と衝突。一枚、また一枚と盾を砕き、ビスマスすら飲み込もうとするが。
「内臓が弱っているのでしょうか体調を整えつつお腹の中を綺麗にするものをご用意しますね好き嫌いとかありますかありませんよねあっても許しませんが何かを食べるという事は……」
 いつの間にか夢喰の背後でなめろう作ってるビスマス。敵はおろかセットも引いた。
「なめろうなら釣れると思ったんすが……これは酷いっすね」
「ふむふむ、感情を利用してあげればいいんですね」
 明日香は敵が落とした額縁(使用済み)をフリスビーの要領で除に向かって投擲。
「きゃー除さん逃げてー(棒)」
「あン? 何だってン……アダッ!?」
 スコーンと当たった除は、プルプルと震えながら頭にぷくーっとコブを作って。
「上等だゴラァ! 舐め腐りやがっテ、テメーは沼じゃなくて海の底に沈めてやんゼ!!」
 ブチ切れパンダも沼からあがり、これはまずいと思った夢喰。
「いいのかパンダよ、未だ獣人形態のカードは少ないのだろう? もっとじゃぶじゃぶしたいのであろう?」
「星を降らせるように誘ってきやがル……アトリエのヤベーやt、いや『沼誘い』ってところだナ」
 うへぇって顔しつつ、返答代わりにバッサァ。組織から支給されたケルカをばら撒く除。その中に獣人姿はない。
「BUとICはあるけどナ」
 はいはい。
「けどお前の眼に見えるだけが全部じゃねーんだゼ?」
「おい馬鹿やめろ」
 チラッと見せたのは、記録に残してはいけないタイプのカード。だって夢喰の方がわざわざモザイクかけてくれるんだもん。この場の未成年組にも見せられないような代物なんだよ、多分。そしてこの隙を見逃すほどバサカパンダは優しくない。
「沼ってのは誘われるもんじゃネェ、てめぇ自身の足で突っ込んでいくもんなんだヨ!」
「どぅっふ!?」
 棒で腹を打ったかと思うと膝で蹴り上げて敵を上へ。得物を投げ捨て、除は左の掌に右の拳を当てた。破裂音はヘリポートを中心にビル街で乱反射、山奥のように反響して除の耳に返ってくる。
「ついでだ、お前もお星様にしてやんヨ!!」
 折れたはずの脚を軋ませて、ヘリポートに蜘蛛の巣状の亀裂を走らせながら跳び上がる除。その右拳が敵の腹を捉えて。
「夜空の果てまでブッ飛びナァ!!」
 振り抜いた拳に撃ち出され、夢喰は雲を突き抜け、番犬達を照らす月を背に浮かぶ。
「クク、フハハ! 見事! だが、貴様はもはや沼から抜けられぬ……アトリエの呼び声は貴様を誘い、己のイラストには飽き足らず、戦った相手のイラストすら用意するだろう……具体的にはシナリオの挿絵なん」
 そこまで語って、敵は星の狭間に散った。
「……なんか、面倒くせェ奴だったナ」
 全力を出し切って、頭から自由落下する除。彼女がコンクリに叩き付けられる前に、露が抱き留めて。
「骨は何本か折れてしまっているけれど……命に別状はなさそうですわね?」
「ッたりめーヨ! この程度でヒギィ!?」
 カッコつけて拳を握って力んだりするから、ビグンッと跳ねた除。その後、太陽機に回収されて部隊は星空の中を飛び立っていく。
「……あの、もしかして、私の事忘れられてたりしないですか……?」
 敵を撃破した事で下の階に現れた真理が、太陽機の後姿を見送っていた……。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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