グランドロン迎撃戦～宝瓶宮再動！　防げ悪しき同盟！

■リプレイ

●浜松のグランドロン
　市街の一角に、巨大な建造物が空を移動していた。
　すでに避難は完了しており、これから戦場となる場所にいるのは隠れているケルベロスと、グランドロンの中にいるデウスエクスだけだった。
　巻き込まれる者がいないことは幸いなことだった。
　けれど、普段とは違うその風景は、この町を知っている者にとっては衝撃的だろう。
「もうじき祭りだってあるのに何してくれてんだ！」
　怒りの声を上げるのは栗山・理弥（見た目は子供気分は大人・e35298）だ。
（「あと早いとこ浜松を解放して、俺の元に避難して来てるうるさいおふくろと姉貴達を一刻も早く地元に帰したい！」）
　……もっとも、聖人ならぬ存在である彼の理由は、地元愛ばかりでもなかったけれど。
「お祭り！　それは素敵なのです。お祭りは美味しいものがたくさんあるのです」
　ヒマラヤン・サイアミーゼス（カオスウィザード・e16046）が笑顔を見せた。
　いつも腹ペコの女性は、空腹を思い出したようにお腹を押さえる。
「お祭りのためにも、……故郷を守るためにも、全力を尽くさなくてはいけないね」
　源・瑠璃（月光の貴公子・e05524）が静かな声を出す。
　金木犀を髪に生やしたオラトリオの青年は、その花と同じ名を持つ霊杖を握り直した。
　グランドロンはケルベロスたちの想いなど知らぬ風に進撃を続ける。
「現在の速度を維持するなら、到着して降下するまで残り３分と５２秒だな」
　ヴォルフ・フェアレーター（闇狼・e00354）が目測で距離を計り、仲間たちに告げた。
「けど、止まったえ。露払いの連中が降りてきたみたいや。本当に懲りへん奴らやねぇ」
　月宮・朔耶（天狼の黒魔女・e00132）は義兄の言葉にうなづきつつも言う。
　漆黒の髪を持つ青年と、真っ白な髪の少女、義兄妹ながら対称的な２人は言葉を交わしながらすでにそれぞれの武器を構えていた。
　他のケルベロスたちももちろん同様だ。
　やがて安全が確保できたと判断したのかグランドロンが再び降下を始めた。
「俺たちは外班だから、当てが外れたふりをして、こっちに引き付ければいいんだよね。後は、突入側の人たちにお任せっと」
　ルア・エレジア（まいにち通常運行・e01994）は軽い調子で言った。
　グランドロンに先駆けて降下してきたデウスエクスの姿を確かめながら、ケルベロスたちは動き出すタイミングを計る。
「……そうなっちゃったのよね。あーあ、話が違うんだけど。敵を退ける作戦のはずが、どうして宝強奪と制圧に変更しているのよ。難易度高いのがグレードアップしたわ」
　草津・翠華（碧眼の継承者・e36712）がぼやいた。
　中性的な美女は、ドジ踏まないでよね、とここにいない者たちに向けて呟く。
　もっとも、ぼやきながらも油断はしていなかったが。
　グランドロンが市街地へ着地するのと前後して、ケルベロスたちは動き出した。
「拠点攻撃を開始、オープンコンバット」
　ミオリ・ノウムカストゥルム（銀のテスタメント・e00629）が乙女座の刻印された白銀の剣を構える。
　銀髪の中に混じった、ひと房だけ金色の髪を揺らして、少女は走り出す。
　ケルベロスたちに気づいた屍隷兵たちがこちらに向かってきた。
　予定していた通りの動きだった。
　戦力を少なく見せる都合上、他の陽動チームはすぐ近くにはいないが、彼らが気を引くために立てた音は聞こえてきた。

●迫りくる獣の群れ
　近づいてきた敵は獣のような姿をしていた。
　ヒッポグリフやマンティコア、キメラといったファンタジー世界の住人たち。
　ただし、その材料は人の死体だ。
　ドリームイーターによって作り出された屍隷兵たち。かつて寓話六塔戦争で魔女と共に姿を現したのを、覚えている者は果たしてメンバーの中にいただろうか。
　けれども同情をしている暇はなかった。
　味方よりも数の多い敵へ、ケルベロスたちは挑みかかる。
　目立つように大きく振り上げた竜の紋様が刻まれている偃月刀を振り回し、ヴォルフが容赦なく敵へ叩きつける。
「命令通りに動くしか能のないとか……まだ人形の方が可愛げもあるな」
　義兄と肩を並べて立つ朔耶が、神刀と言われる日本刀を鋭く振るった。オルトロスのリキも、主と同じ敵を霊剣で切り裂く。
「これだけ数がいるのなら、まずはまとめて攻撃させてもらおう」
　弱ったところに、瑠璃が生み出した氷の風が吹きつける。
「敵ながら寒そうだねえ。でも、俺がもっと寒くしちゃうから、悪く思わないでね」
　ルアも吹雪の形をした『氷河期の精霊』で敵を氷に閉ざしていた。
　ブレスを吐いたり、毒蛇の尻尾を伸ばして攻撃してくる敵を朔耶やリキが防ぐ。
「強くはなさそうだぜ」
「でも数は多いです。気をつけて下さい、朔耶さん、ヴォルフさん。――全目標ロックオン、ファイア」
　ヴォルフへと伸びた尻尾の鞭をかばいながら、ミオリが無数のレーザーを放った。
「ミオリもな。頼りにしとるからのう」
　朔耶が言った。普段から親しい２人の少女が笑顔をかわす。
　同じく友人であるヴォルフも一瞬視線を向け、それからすぐに敵へ向かって行った。
「長引きそうだし、とりあえず守らせておくよ」
　後方から声が聞こえた。
　翠華が生み出したドローンが朔耶やリキを含む前衛たちを守って飛び回る。
「ヴィーくんも、まずはみんなを支援するのです！」
　ウイングキャットに指示を下しながら、ヒマラヤンはなんだかやたらモフモフした扇を振り回して自分自身にちらつく幻影を纏わせている。
　命じられたヴィー・エフトは翼を広げて、清浄な風をミオリへと吹きつけていた。
　理弥はヒマラヤンと共に、後衛から敵を狙っていた。
「浜松は俺の地元だ、出てってもらおうか！」
　リボルバー銃を素早く連射して、彼は戦場を制圧する。
　敵の気を引く派手な音が無人の浜松市に響き渡った。
　ドワーフである彼は、見た目は子供のように見えるけれど、実際にはもう青年と言っていい年齢だ。
　大人の男として、家族や地元の人たちを守ってやらなければならない。
　しっかりと狙いをつけた銃撃は確実に屍隷兵たちを撃ち抜き、そのうち１体が断末魔の悲鳴を上げて倒れ伏した。
　けれど、敵の数はまだまだ多く、戦いは始まったばかりだった。
　グランドロンにより近い場所にいた敵が集まってきている様子で、屍隷兵を中心とした敵の数は徐々に増えていった。
　ルアは輪ゴムを指にひっかけ、人差し指をピストルのように構えて敵に向けた。
「俺も当たったことあるけど、地味に痛いんだよね～。今度はアンタに当ててあげるね♪」
　輪ゴムにグラビティを乗せてそれを飛ばす。
　弾かれたような鋭い痛みを覚えて、屍隷兵たちがひるんだ。
（「内班のみんなは、そろそろ動き始めてるかなあ。ここからじゃよく見えないや」）
　敵をひきつけるために多少距離を取る必要があったため、グランドロンの周囲がどうなっているかはわからなかった。
　もっとも、徐々に敵が増えていっているのだから、敵はケルベロスたちの陽動に引っかかっているということだ。
　少なくとも潜入するチャンスがないはずはない。
「グランドロンを攻撃できる位置まで近づくのは難しそうだなあ」
　できれば、必要ならグランドロンを攻撃できる位置にいたいが、そこまで前進するのは無理そうだった。とはいえ、それは陽動がうまくいっていることを示していたが。
　戦況がデウスエクス側に有利だと認識したのか、戦場には攻性植物たちまでもが姿を現し始めていた。
　前線となっている場所に十分な戦力を投入するつもりでいるのだろうが、グランドロンの降下地点付近に潜んでいたチームはより動きやすくなっているはずだ。
　うまくいっていれば、そろそろ潜入にも成功したころだろうか。
　とはいえ、屍隷兵はともかくドリームイーターや攻性植物は強敵だ。
　ヒマラヤンの手から飛んだ黒い塊が敵を捕縛し、ルアのステッキが攻撃をさばいて威力を弱めるが、気にする様子もなく攻撃してくる。
　ミオリは襲い来る蔦による攻撃から、瑠璃をかばった。
「ありがとう。助かるよ」
「まだまだです。このくらい、大したことはありません」
　礼を述べる青年に、少女は言葉を返す。
　とはいえディフェンダーである彼女や朔耶、リキはもう浅からぬ傷を負っている。
　翠華が回復してくれていなければ、そろそろ倒れていてもおかしくはない状況だった。
「生体構成要素解析……ナノマシンによる治療を開始」
　少女はナノマシンを操作して自分自身の細胞や循環系を修復させていく。
　まだまだ戦いは続けられる。
　とはいえ、戦いがどれだけ続くかはまだわからないが。
　回復している間に、瑠璃は月白のオーラをまとった降魔の拳を繰り出して、敵の１体を撃破していた。
　ヴォルフは弱っている屍隷兵を見極めて、素早い動きで接近した。
　敵を殺すためだけに作られた大型シースナイフを無言で構える。
「一度死んでいる奴らは殺しやすいな」
　どこを斬れば殺せるのか――的確に見極めながら、黒い狼はキメラを切り捨てる。
　吹き出した返り血を浴びて、ヴォルフの肌が赤く染まった。
　ディフェンダーたちもすべての攻撃をかばえるわけではない。
　けれど、青年に刻まれた傷は、鮮血を浴びて徐々にふさがっていく。
　動かなくなった敵には目もくれずに、彼は次に殺すべき相手を探して視線を走らせる。
　殺すべき相手は、まだまだ多数残っていた。

●撤退と追撃
　最初の交戦から１０分ほどが経過した。
　グラビティ・チェインの３分の１ほどが注がれているはずだが、少なくとも当面のところ、グランドロンに異変は見受けられなかった。
　屍隷兵はかなり撃破したはずだが、まだまだ敵は残っている。
　鞭のようにしなる尾が、ミオリへと連続して命中する。
「ちょっときつくなってきましたね」
「まだ倒れないでよね。負担が増えるのは嫌よ」
　翠華はそう言いながらも、闘気で練りこんだ盾を朔耶の前にまた１枚重ねた。
　本来は自分用の盾を他人にも使えるように調整したので少し精度が落ちているが、後衛で援護に徹することができる状況なら十分な効果を発揮する。
「ええ、わかっています。最後まで倒れる気はありません。進路設定、行きます！」
　言いながらミオリは一気に敵へと突撃し、白銀の剣でまとめて切り裂いた。
　グランドロンの巨体へと翠華は視線を向ける。
「これだけ苦労してるんだから、うまくやってもらいたいものね」
　嫌いな言葉は正義と愛だと公言してはばからない彼女は、マイペースにぼやきながら仲間たちの回復を続けている。
　とはいえ、その回復は的確に効果を現し、仲間たちを支え続けている。
　敵の数は徐々に減っていた。
「冷式誘導機全機準備完了。さあ、突撃するのですよ！」
　ヒマラヤンが猫の模様の入った小型ミサイルを造り出し、戦闘機型の青いオーラに乗せて飛ばしてぶつける。
　ミサイルを受けた屍隷兵が氷漬けになって砕け散った。
　弱った敵が後退しようとするのを、ケルベロスたちは止めるつもりはなかった。
　ただし、グランドロンのほうに逃げるのだけは見過ごせない。
　朔耶は傷ついた攻性植物の１体がグランドロンの方向にに向かって撤退しようとしているのに気づいた。
「義兄！」
　声をかける前に、ヴォルフはすでに動いていた。
「わかっている。逃がす気はないが……何処まで逃げてくれますか？」
　投げたシースナイフが敵に追いすがり、そして最後には貫いた。
「浜松から離れてくれるんなら、逃がしてやってもよかったんやけどね。それでは困ってなくても唱えて下さい♪」
　背に翼が生えた巨大な獣の姿をした御業が、朔耶の後方に出現する。
　敵の体を貫いたシースナイフに向かって雷撃は飛んでいき、そして攻性植物を容赦なく焼き尽くす。
　動かなくなった敵にヴォルフが接近したかと思うと、通り過ぎざまにナイフを回収して死体を踏み越え、次なる敵を狙っていった。
「敵が増えなくなってきたねえ」
　魔法のステッキを分割し、ヌンチャクのように振り回して、ルアがブレスをさばきつつ屍隷兵の１体を叩き潰す。
　屍隷兵の中に回復役がいたおかげで、彼は敵の動きを封じては解除されるイタチゴッコを続けていたが、そろそろ封じるよりは倒すほうが早くなってきた。
「だいぶ時間はたってるからな。アラームが鳴ってないから、２０分はまだ経過してないはずだけど」
　どこかからやかんを取り出しながら、理弥が応じた。
「いっっけー！！」
　思い切り蹴りこんだやかんを受けて屍隷兵がまた倒れる。
　瑠璃は巨大な剣を顕現させていた。
　彼自身に秘められた太古の月の女神の力を集めて作り出したものだ。
　重たい剣を振り上げると、傷が少し痛む。
　２０分は経過していないということだったが、１５分以上はたっているだろう。防衛役の仲間たちがかばってくれているとはいえ、前衛の瑠璃が受けた傷は浅くない。
　けれど、この場にいない婚約者や義姉のためにも、彼は強くあらねばならなかった。
「うん、ちょっと重いけど、行くよ！！」
　扱いにくい剣だが、振り下ろした一閃は攻性植物の１体を一刀両断した。
　理弥の用意したアラームが鳴ったのは、数分後のことだった。
　アラームの音と前後して、グランドロンが動き始めたことにケルベロスたちは気づく。
「まだ３０分はたってないよね？」
「ああ、１回目のアラームだからな」
　ルアの問いかけに理弥が応じる。今のは確かに、２０分のアラームだ。
　デウスエクスたちも移動するグランドロンに気づき、あわて始めた。
「撤退してってるってことなのです？」
　ヒマラヤンが首をかしげる。
「きっと、突入してたみんながうまくやってくれたんだ。そうじゃなかったら、味方を置き去りにして撤退なんてしないと思う」
　瑠璃が言った。
　他の者たちもその言葉に同意する。
「なら、残党を片付けておくとしよう」
　酷薄な表情を浮かべたヴォルフが容赦なく刃を敵に向ける。
「そうだな、義兄。みんな、最後まで油断しないようにしようぜ」
　朔耶も使い魔が変じた杖を敵に向けて構え直した。
　残った敵がすべて倒れるか、あるいは撤退するまで数分がかかった。
「目標達成、クローズコンバット、お疲れ様でした」
　ミオリが仲間たちへと言った。
「終わったわね……ホント終わってよかったわ。使い物にならないグランドロンの後片付けが残って、終わりにならないんじゃないかって心配してたのよ……」
　心から安堵した様子で翠華が言う。
　もっとも本当に終わったかどうかはわからない。浜松は無事に撤退させることができたが、残る４ヶ所の結果がどうなっているか……。
　だが、今は信じるしかない。
　そう考えて、ケルベロスたちはこの町での勝利を喜んだ。
「これでやっと、おふくろや姉貴たちがいなくなってくれ……いや、家に帰れるな」
　特に、理弥は心からそのことを喜んでいるようだった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年5月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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