●大連合
攻性植物のゲートであり、ユグドラシルの一部と化した大阪城。
この地に、リザレクト・ジェネシスの戦いで5つに砕かれたグランドロンが、エインヘリアルの第二王女・ハールの招聘に従って集結していた。
青髪青眼に鮮やかな青色ナイトドレス。球体関節人形のごとき肢体を持つ青き麗人、ダモクレスの進化を目論む科学者、ジュモー・エレクトリシアン。
足元まで届く金髪に鋭い金色の瞳。闇の如き黒布をまとい、頭上に螺旋の面を頂く美女、マスタービーストの継承者を自称する乱戦忍軍、ソフィステギア。
手には巨大な金の鍵、背には二本の三つ編みを垂らし、頭に赤いスカーフ巻いて。寓話六塔の座を虎視眈々と狙う童女、第七の魔女・グレーテル。
そして、白銀の鎧に身を包み、女性の地位向上に取り組む、エインヘリアルの第四王女・レリ。
ハールも含め、グランドロンの欠片の主である彼女達の間に、信頼も友愛も存在しない。ただ、互いに利用し合う利害関係でもって、彼女たちは、攻性植物と第二王女ハールを主軸とする同盟を組むに至ったのだ。
彼女たちの次なる作戦は、定命化の危機に瀕するドラゴンを懐柔して勢力に加える事。
多くのデウスエクス勢力を糾合した、大作戦が、今、動き出そうとしていた。
●グランドロンを打ち砕け!
「ケルベロス達よ、よくぞ集まってくれた!」
ヘリポートに集結した一同をザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)の朗々とした声が出迎える。
「先のアイスエルフ救出戦、よくぞやってくれた! お前達のおかげで、数百名のアイスエルフと、それよりも多数のアイスエルフのコギトエルゴスムを救出することに成功した。心から感謝する!」
喜色満面でケルベロス達を絶賛する、ザイフリート王子。総勢200名以上のケルベロス達が参加した大作戦の成果に、一同の間にも笑みが浮かぶ。
「だが、そう浮かれても居られない。この作戦時に得られた情報から、第二王女ハールを含む複数の勢力が、グランドロンと共に大阪城に集結しようとしている事が判明した」
一転、ザイフリート王子の声が真剣みを帯びる。
「それだけでも、攻性植物、エインヘリアル、ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーターの5勢力が大阪城に揃う事になり、非常に危険な状況だが……第二王女ハールの狙いはさらに厄介だ。彼女は攻性植物と組んで『限定的な始まりの萌芽』を引き起こし、ユグドラシルの根を大阪城地下から城ヶ島まで一気に成長させるつもりだ。ドラゴン勢力の拠点だる『城ヶ島』をユグドラシル化する事で、竜十字島のドラゴン勢力も、自勢力に引き込もうとしている事が予知により判明したのだ!」
もし、先の5種族に加え、ドラゴンまでが一つの勢力に糾合されれば、大変な事態に陥る事は間違いない。一同の間に緊張が走る。
「敵の出方はこうだ。5つに分かれたグランドロンを奈良、伊勢、浜松、静岡、熱海の五カ所に向かわせ、『限定的な始まりの萌芽』に必要なグラビティ・チェイン供給を五カ所同時に行うらしい」
用意した地図に5つの印をつけ、ザイフリート王子が説明を続ける。
「砕かれたグランドロンの欠片はサイズもバラバラだが、だいたい全長200m~500m程度だ。各勢力で独自に補修して、無理やり使用している為、どれも歪な形をしている。場所については、市街地である事はわかっているが、詳細は不明だ」
ただ、全域の市民の避難は終わっており、市街地は無人なので安心して欲しい、と付け加える。
「グランドロンはグラビティ・チェインの供給を開始すると無防備になる為、先に護衛のデウスエクス部隊が降下し、着陸地点の敵を掃討。その後、グランドロンが着陸し、護衛のデウスエクスはそのまま、周囲の警備を行うようだ」
無防備になったグランドロンの外壁に攻撃を集中すれば、あるいは扉や補修部分など強度の弱い所を狙えばより容易に、壁を破壊して内部に侵入が可能だろう、と彼は言う。
「グランドロン内部には当然、敵の有力者が揃っているはずだ。コア部分には指揮官級とその護衛、宝物庫にはコギトエルゴスムを守る守備隊などが残っていると考えられる」
どの勢力のグランドロンを狙うか、そこで何を目指すかによって、必要な準備や戦術が変わってくるだろう。
「ハールの狙いは、攻性植物やドラゴンの力を借りて、エインヘリアルの王位を簒奪する事で間違いないだろう。大阪城のユグドラシルは攻性植物の本星の一部であるので、その影響範囲内で、定命化の影響が小さくなる……というのは、理屈的には理解できる」
そして、定命化現象に苦しむドラゴンは、その蜜に間違いなく乗って来る、と語るザイフリート王子。
「攻性植物、エインヘリアル、ドラゴンの3種族が同盟を組むというのは、まさに悪夢だろう」
その結末だけは、なんとしても防がなくてはならない。集まったケルベロス達の間に戦意が宿る。
「幸い、かどうかは分からんが。儀式の成功には最低3つのグランドロンが必要なようだ。逆に言えば、2つまでは見逃してしまっても構わない」
場合によっては、戦力の選択と集中が重要になるだろう、と彼は告げる。
「また、うまく戦えば、グランドロンの撃破や、更なる妖精八種族のコギトエルゴスム奪取も可能な状況だ。これは地球陣営にとって、大きなチャンスでもある」
もはや後戻り出来ない第二王女ハールの、ハイリスク・ハイリターンな大勝負。それは同時に、ケルベロスから見てもハイリスク・ハイリターンという事になる。
「少なくとも、デウスエクス大連合などという最悪の事態だけは、なんとしても阻止する必要がある。大きな作戦続きで、お前達には随分負担をかけていると思うが……この一戦、この星の未来の為、どうかよろしく頼む!」
そう告げて、静かに頭を下げるザイフリート王子に、一同は力強く、応えを返した。
参加者 | |
---|---|
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813) |
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921) |
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189) |
江田島・武蔵(人修羅・e01739) |
四辻・樒(黒の背反・e03880) |
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557) |
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
●誓いを胸に
熱海、市街地――住民の避難を済ませ、無人となったその場所に、ケルベロス達の姿があった。
「よーし、しっかり阻止しようね。熱海、あたみー!!」
腰に差した赤錆ノ幻銃を一撫でした少女の、弾むような愛らしい声と、跳ねる赤茶のポニーテール。地球人の少女、露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)は元気な笑みを浮かべ、大切な仲間達に声を掛ける。
「ん。鞘柄、露切。今回も宜しくな」
艶やかな黒髪から覗く尖った耳と、絶妙なバランスで整ったしなやかな肢体。細く切れのある瞳に優しい光を宿らせ、シャドウエルフの若き女性――四辻・樒(黒の背反・e03880)は見知った仲間たちと挨拶を交わした。
「私の方こそ。皆さんと一緒なら、心強いです」
眼鏡の奥に柔らかい笑みをたたえ、漆黒の瞳を持つヴァルキュリアの男性、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が握手を交わす。肩より上で括り直された灰色の髪は、臨戦態勢を示す彼流の自己暗示だ。
「樒っ、熱海といえば温泉っ。月ちゃんは海の見える温泉に入りたいのだ。でもその前にドラゴン共へのお礼返しはしっかりと……叩き返してやらないとなのだ」
赤髪青眼の若い女性――月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)が、拳を握り締めて戦意を燃やす。
「まったくだな」
闇を溶かし込んだような漆黒の短髪をかき上げ、ため息交じりに同意するのは地球人の青年、江田島・武蔵(人修羅・e01739)だ。
「まぁ、好き勝手やられるのは気分が悪いし、ちょっとお仕置きしますか」
腰に帯びた斬霊刀「散椿」とリボルバー銃『バントラインスペシャル』の具合を確かめ、彼は敵の来襲を待ち受ける。
「レリの信念とか、知らないけどさ。皆で声かけて、それでも聞かないならぶん殴るだけよ!」
真っ赤なツインテールを躍らせて、若いレプリカントの女性――ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が力強く啖呵を切る。その脳裏に浮かぶのは、オークを擁するドラゴンなんかと手を組むなんて!?、という素朴な疑問だ。
「そうだね。ドラゴン勢力は決して女性に優しい種族じゃない……種族間の勢力図が変われば、今より酷い立場に追い込まれる可能性もあるはずだ」
柔らかな緑髪の奥で、橙色の瞳に憂いをにじませながら。サキュバスの青年、ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は、ままならない現実にほぞを噛む。
彼らはザイフリート王子と同じ、エインヘリアルだ。ならばきっと、同じように共に歩める者たちも居るはずなのに……投げかける言葉は心に届かず、差し出す手のひらは空を切る。共に歩む為の妙案は、未だ見えていないのだ。
「噂をすれば、来たようだね」
青空の如き髪を後頭部で束ねた地球人の青年、クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)が虚空の一角を指して言う。その言葉を頼りに仲間達が仰ぎ見れば、大空の彼方から飛来する、いびつな形の巨大建造物――グランドロンの姿が見えた。
「行こう。グランドロンを押さえられれば、何かの切っ掛けになるかもしれない」
翠玉のような瞳に決意を宿して告げるクリムに応えを返し、一同は静かに移動を開始した。
●予期せぬ遭遇
「今の内ですね……さぁ、行きましょう」
グランドロンが着陸し、ドラゴン勢力が出撃して行くのを遠目に見届けて、奏過は隠密気流を纏い直す。おそらく、陽動班がドラゴン達を引き付けてくれたのだろう。心の奥で助力に感謝しながら、一同は市街地の路地を静かに駆け抜ける。
「ん……あそこが脆そう。彼らの思い通りにはさせない」
大規模に補修されたグランドロンの一角を指さす、樒。
「うん、確かに。皆、あそこを目指そう」
「おーけー、了解よ」
グランドロンを観察し、補修箇所の位置を頭に叩き込んでいたウォーレンが仲間達を促し、ジェミが軽快に応えを返す。
彼らは進む。極力足音を抑えながら、路地から路地へ。そして、あと少しでグランドロンをグラビティの射程に収められると思った、その時。
「そこまでだ、ケルベロス共!」
無人の市街地に響き渡る鋭い声。とっさに武器を構えて、声の主を探すケルベロス達。
「なっ……」
「うそ……」
声の主の姿を見つけた灯音と沙羅が、驚きに目を見開き、声を詰まらせる。短い黒髪に褐色の肌、白地に赤の部分鎧姿。両手にククリに似た異形の刃を構えるその姿は――……。
「絶影の……」
「……ラリグラス」
その名を呟き、クリムと武蔵が低く唸る。
声を聞きつけた白百合騎士団員達が駆け付け、盾を並べて槍を構えた。もはや、グランドロンに取り付こうと思ったら、居並ぶ相手を蹴散らし、押し通るより他に無い状態だ。
「くっ……釣り出し切れなかった、という事か……」
呟く武蔵の表情に、悔しさが滲む。今回の作戦は2つの陽動班が敵を引き付けている間に、突入班が侵入する手筈だった。しかし、絶影のラリグラスがここに居るという事は、『前線はドラゴン勢力だけで大丈夫』と判断されたという事だ。
「演出が足りませんでしたか……とはいえ、人手も限られていましたからね」
奏過が眉間にしわを刻みながら、唇を噛む。
唯一、不退転の構えを見せていた、熱海のレリ&ドラゴン軍。大軍をもって挑めば、正面から一人残らず切り伏せ、グランドロンまで確保できる可能性もある状況だったが……当然、他の地点も看過はできず。結果、確実を期してエインヘリアル以外の3勢力地点へ戦力を集中。この熱海へ来れたのは、4チームだけだった。
「ま、こうなっちゃったんなら、仕方ないよ」
未練を断ち切る様に、沙羅は努めて明るく、仲間達に声をかけた。
「どうせいつかは戦う身なら、ここで一戦、交えようじゃないか!!」
その言葉に同意するように、沙羅の隣へと肩を並べる、灯音。
「仕方ないのだ……沙羅ちゃん、樒、よろしく頼むのだ」
青く澄んだ瞳で敵を見据え、手には『銀槍』を握りしめる。
「ん、任せて」
樒は小さく頷き、灯音の後ろにそっと立つ。愛する人の背を守り、その心を支える為に。
「さぁ! かかってきなさいよ!! 貴方達の敵は、ここにいる」
自慢の腹筋に力を込めて、グラビティの光を纏い。最前列に躍り出たジェミが、威勢よく啖呵を切った。
「いいね? 皆で、必ず、生きて帰るよ」
仲間達にそう声を掛けながら、ウォーレンもまた、ジェミと共に並び立つ。その為に僕たちが盾になるから、と言い置いて。
「まさか、ドラゴン以上に厄介な状況になるとはね……。ですが、それでも全員守って見せますよ……全ての力でっ」
その為に今、自分はここに居ると、奏過は胸に決意を燃やす。
「ええ、その通りです。頼りにしていますよ、奏過さん」
クリムと奏過、2人のメディックが互いに視線を交わし、力強く頷いた。
「そうか、どうしても邪魔をしたいようだな……」
次々と武器を抜くケルベロス達を見据え、絶影のラリグラスが静かに告げる。
「いいだろう、定命化で苦しむドラゴン達を救わんとするレリ様の大義を阻むなら、それ即ち悪! 今ここで、成敗してくれる! かかれ!」
ラリグラスの下した号令に呼応するように、両陣営は一斉に動き出した。
●孤軍奮闘
「こんなものっ!」
仲間に迫った穂先の前に、ジェミは素早く割り込んだ。自慢の腹筋に力を込めて、気合で逸らし、受け流す。
「ジェミさん、ありがと! さぁさぁ、クルッと狂って踊ろうか!! 」
凶刃から逃れた沙羅が、理力を籠めた星型オーラを蹴り込んだ。白百合騎士団員の装甲に、ピシリと大きく亀裂が入る。
「今瞳に映るは鏡像……信じて身を委ねて欲しい……」
奏過の優しい言葉と共に、赤光のメスが仲間達の傷口をなぞる様に踊る。逆式「左右創傷の鬼」―― 反転の力を持ったメスが通り過ぎれば、傷は塞がり、痛みは消える。
「奏兄、ありがとうなのだ!」
灯音は笑顔で感謝を返し、前衛の仲間達を守る為、雷の壁を打ち立てる。
「ありがとう、助かるよ」
傷が癒え、痺れが取れる感覚に、ウォーレンは短くお礼を返す。
味方の継戦能力はいまだ十分。立ち塞がる白百合騎士団員達は、一人、また一人と倒れてゆく。まるで、先の大阪城救出作戦のデジャヴュの様。ただ一つ、違うとすれば――……今回は、本当に前に進まなければ、行けないはずなのに……っ!
氷の魔力を秘めた『Ice shaver』で敵を切り伏せながら、彼は押さえきれぬ焦燥に歯を食いしばる。
「そう簡単には行かせてくれんか……ならば、意地の一撃受けてもらおうか」
防御を捨て去った一撃で立ち塞がる敵を屠りながら、武蔵は絶影のラリグラスを視界の隅に収め、歯がゆい思いを噛み締める。
一撃の威力に重きを置くクラッシャーの力。反面、それは当たらなければ意味が無い。武蔵の瞳に映る数字は、雷刃突はおろか、跳弾射撃を使ったとしても、確実とは言い難い値を示していた。
(「流石、絶影の名は伊達ではない、ということか……」)
「ん。任せて」
武蔵の視線の意味を理解して、樒が動いた。塀を駆けあがり、宙を舞い。その足に流星の煌めきと重力を宿して、絶影のラリグラスへと襲い掛かる。
「ぐっ……この程度で!」
樒の飛び蹴りは狙いを過たず、ラリグラスを捕らえた。解き放たれた重力がラリグラスを押さえ付け、彼女を大地に縫い留める。
「貫くは己の信念、穿つは悪しき妄念……」
クリムが手の中に魔力の槍を顕現した瞬間、手のひらにいつものように痛みが走る。巨大な魔力の槍を放つこの技は、その強大すぎる魔力故に、使用者の手すら焼き焦がす両刃の刃だ。
「我が敵を突き抜けろ、ルーン・オブ・ケルトハル!」
クリムは痛みに耐えながら、敵後衛へ向けて、魔力の槍を投げつけた。魔力の槍に貫かれた白百合騎士団員が、爆発に巻き込まれ、崩れ落ちる。
「よし、待たせたのだ!」
仲間達にそう告げて、灯音が光輝くオウガ粒子を大量に放出した。
「これは……これなら……っ!」
オウガ粒子が全身に流れ込み、超感覚を覚醒させて行く感触に、武蔵は目を見開いた。見れば敵は、未だに重力のくびきに捕らわれたままだ。
「一か八か……一気にぶち抜く!」
伝家の大業物、「散椿」を手に武蔵が走り出した。それに続く仲間達。
「させるなっ、急げ!」
そこへ増援の白百合騎士団員が現れた。武蔵達を阻もうと、大急ぎで駆け寄ってくる。
先の見えぬ混戦の中、時間だけが、刻一刻と過ぎ去っていった……。
●未来を信じて
「ラリグラス様を守れーーっ!」
新たに駆けつけた白百合騎士団員達が空いた戦列を塞ぎ、盾を並べて槍を構える。
「また増援っ!? ねぇ、コレ、キリが無いよ!?」
立ち塞がる新手に、沙羅が悲鳴を上げた。
「うぅ……。あたしもそろそろ、限界かなぁ……」
額の汗をぬぐい、弱々しく呟くジェミの声。傷も痛みも、仲間達の支援によってすぐに消える。しかし、グラビティの力をもってしても、癒し切れぬ疲労が積み重なり、赤毛のツインテールもへたり気味だ。それでも、最期まで仲間達の盾にならんと、鉛のような身体を起こして立ち上がる。
「ん……灯、大丈夫?」
被弾した灯音に駆け寄り、助け起こす樒。
「っ、まだ大丈夫なのだ……けど、打つ手が無いのだ」
身を起こしながら、灯音が悔し気に呟いた。
もう一つあるはずの突入班の面々も、姿を見せる気配は無く。別所から無事に潜入を果たしたのか、それとも自分たちと同じ様に、どこかで足止めに遭っているのか。戦況を知る術は、今のケルベロス達には存在しなかった。
「ここまでか……時間切れだ、撤退!」
声に隠しきれぬ無念さを滲ませながら、武蔵は努めて毅然と合図を送る。時間的にも、体力的にも、もはやコアルームを制圧する余裕はない、という判断だ。加えて、敵の増援が尽きる気配が見えず、ラリグラスの退路を断てない以上、これ以上の継戦はリスクばかりで無意味に等しかった。
「残念だけど、仕方ないね。月ちゃん、樒さん、走れるかい?」
奏過が2人の傍に駆け寄り、身体を気遣いながら離脱を促す。
「はぁぁ、今日の戦果は兵隊さんだけかぁ……」
戦場から身を翻しながら、沙羅は残念そうに漏らす。
「目標には届かなかったけど、無駄ではないよ。私達があの場所で戦い続けた分だけ、陽動班やもう一つの突入班へ向か増援が減ったのは、間違い無いからね」
沙羅の呟きを拾って、クリムは並走しながら声を掛けた。
「あたしで最後! 皆、離脱したよ!」
殿を務めたジェミが合流し、一同は市街地の外を目指して、足を速める。
「さぁ、今は他のチームの成功を祈って、全員で生きて帰る為に全力を尽くしましょう。生きていれば、また機会はありますから」
ウォーレンの言葉に皆が深く頷き返す。地球を守る闘いは、まだ終わらないのだから。
作者:okina |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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