グランドロン迎撃戦~あまねく剣よ、かの地へ集え

作者:雷紋寺音弥

●集いし災厄
 大阪城。戦国の世より難攻不落の城として知られた古城の後は、今や攻性植物のゲートであり、ユグドラシルの一部として、地球にその名を馳せていた。
 そんな大阪城の地に集いしは、リザレクト・ジェネシスの戦いで5つに砕かれたグランドロン。エインヘリアルとアスガルドの覇権を賭けて戦い、敗れ去った者達が、宝玉の形で納められていた宝物庫。
 そんなグランドロンに納められていた宝玉達は、エインヘリアルの第二王女・ハールの招聘によって、再び大阪の地にてひとつになろうとしていた。
 ダモクレスの進化を目論む科学者、ジュモー・エレクトリシアン。彼女の集中にあるのは、『グランドロン』の名を冠した妖精族の宝玉。
 マスタービーストの継承者を自称する乱戦忍軍、ソフィステギア。その手の中にあるのは、半人半馬の妖精族、セントールのコギトエルゴスム。
 そして、寓話六塔の座を虎視眈々と狙う、第七の魔女・クレーテ改め、グレーテル。牛の被り物を取り去った今、本気の彼女の力は底が知れない。そんな、彼女の手にあるコギトエルゴスムは、蝶の翅を持つ妖精族のタイタニア。
 最後に、女性の地位向上に取り組むエインヘリアルの第四王女・レリ。ハールも含め、グランドロンの欠片の主である彼女達の間には、信頼も友愛も存在しない。ただ、互いに利用し合う利害関係でもって、彼女たちは、攻性植物と第二王女ハールを主軸とする同盟を組むに至っていた。
 彼女たちの次なる作戦は、定命化の危機に瀕するドラゴンを懐柔し、その勢力に加える事。宇宙最強の戦闘種族であり、究極の戦闘生物であるドラゴン勢力を取り込めれば、それだけで恐るべき戦力の増強が成されることだろう。
 かつての大戦期には、およそ考えられなかった多数のデウスエクス達による連合軍。数多の災厄を併合した、地球の命運をも動かす大作戦が、ゆっくりと動き始めていた。

●史上最大の作戦
「まずは、アイスエルフ救出作戦、ご苦労だったな。お前達の活躍によって、およそ数百名近いアイスエルフに加え、多数のアイスエルフのコギトエルゴスムも救出できた」
 中には既にケルベロスとして覚醒し、早くもこちらの力になってくれる者も現れ始めている。だが、彼らの歓迎会を開くのはしばらくお預けになりそうだと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、次なる作戦の概要を語った。
「先のこの作戦時に得られた情報から、第二王女ハールを含む複数の勢力が、グランドロンと共に大阪城に集結しようとしている事が判明した。攻性植物、エインヘリアル、ダモクレス……それに螺旋忍軍とドリームイーターの5勢力が大阪城に揃う事になる」
 この時点でも非常に危険な状況だが、しかし事態はそれだけに留まらない。攻性植物と第二王女ハールは、『限定的な始まりの萌芽』を引き起こし、ドラゴン勢力の拠点だる『城ヶ島』をユグドラシル化する事で、竜十字島のドラゴン勢力も自勢力に引き込もうとしているのだという。
「仮にドラゴン勢力までが連中に糾合された場合、冗談では済まないことになる。それこそ、ケルベロスが出現する前に行われた、地球滅亡の危機の再来だ」
 数多の世界、あまたの時代に、様々な預言者によって告げられて来た滅びの日が、本当に到来してしまうかもしれない。ここは、なんとしても出撃して来たグランドロンを撃退して、敵の作戦を阻止しなければならない。
「現在、補修されたグランドロンは、全長200m~500m程度の歪な形になっている。砕かれたグランドロンを、再び一つに纏めて補修しながら使っているからだろうな」
 そのグランドロンだが、市街地に着陸した後、全力でグラビティ・チェインを地中に送ると、その後は無防備になってしまう。そのため、着陸前に、護衛のデウスエクスが地上に降下し、着陸地点の敵を掃討した後に、グランドロンが着陸。護衛のデウスエクスはそのまま、周囲の警備を行うようだ。
「着陸地点については、市街地である事は判明しているが、それ以外の詳細は不明だな。全域の市民の避難は終了し、市街地は無人なのが幸いだが……」
 無防備になったグランドロンの外壁に攻撃を集中すれば、外壁を破壊して内部に侵入することが可能だろう。扉や補修部分などの弱い所を狙えば、より少ない攻撃で破壊できる。内部にはコアとなる部分に強力な敵と、その護衛。宝物庫にはコギトエルゴスムを守る守備隊などが残っていると思われる。
「お前達には、この5つのグランドロンの内、最低でも3つを阻止してもらいたい。考えようによっては、2つは無視できるわけだから、戦力配分が重要になるだろうな」
 デウスエクス随一の繁殖力を持つ攻性植物に、指揮と数だけであれば他勢力に勝るとも劣らないエインヘリアル。これに、最強の戦闘生物であるドラゴン勢力が加わるというのは、もはや悪夢以外の何物でもない。
「ハールの狙いは十中八九、攻性植物やドラゴンの力を借りて、エインヘリアルの王位を簒奪する事で間違いないだろうな。だが、うまく戦えば、グランドロンの撃破や、更なる妖精八種族のコギトエルゴスムを奪取できる可能性もあるぞ」
 この戦い、こちらにとっても大きなチャンス。だからこそ、負けることは許されない。
 互いの命運を賭け、大阪の地に集うデウスエクス連合とケルベロス達。妖精八種族も巻き込んだ史上最大の戦いが、今、ここに始まろうとしていた。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
セレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●降り立つ宝瓶宮
 浜松市。飛散したグランドロンの一部を従え降下の機会を窺うドリームイーターの軍勢と、それを阻止すべく馳せ参じた体のケルベロス達。
 戦いは、一見すればドリームイーターの軍勢の方が優勢に見えた。が、しかし、彼らは知らないのだろう。この地に集結したケルベロス達の真の目的が、グランドロンの潜入にあるということを。
「デウスエクスの大連合ね。私達が勝利を続ければいつかはと思ってたけど、ついに来たか」
 遠間から戦況を眺めつつ、セレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784)は空を見上げた。
 グランドロンは、未だ高い空の上。敵もこちらの戦力を把握し、その上で作戦を決行しようとしているのだろうか。
「なかなか大きな話になって参りましたね」
「それこそ、グラビティ・チェインごと地球ぶっ壊す気か、この作戦?」
 どこか楽し気なラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)とは対照的に、パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)は半ば呆れた表情で、グランドロンの降下するタイミングを窺っている。
 敵の作戦が成功すれば、多くのデウスエクス達が、一時は窮状を打破できるかもしれない。
 だが、それで人類に壊滅的な被害を与えてしまったが最後、そこから先は、果たしてどのようにグラビティ・チェインを得て行くのか。世界を構築する大元を失えば、その先に待っているのは、壮絶なる内ゲバと裏切りによる終わりなき戦い。
 それらを経て、やがて世界は文字通り空っぽになる。それこそ、この全宇宙に住まう全ての知的生命体から、バクテリアの類までが例外なく死滅する。
 そんなことは、敵も十分に理解しているはず。だからこそ、互いにどこかで相手を信用してはおらず、それがこの同盟の隙になっている。
「むむっ、グランドロンから敵が下りてきたね……ちょっと様子を見よう」
 戦いの中、今までとは異なる雰囲気の敵が降りて来たことで、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が思わず顔を出した。が、それを見た他の者達が、直ぐに彼女を引き留めた。
「駄目だよ。今、迂闊に動いたら、こっちまで見つかっちゃう」
 最後まで、騒がず目立たず動くべきだと、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)が和を制した。
「いや……というか、もう既に見つかってしまった者達がいるようだな。少し、様子がおかしい気もするが……」
 そんな中、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)の指差す先には、もう片方の潜入班が、タイタニアと邂逅している光景が。
 これは、早くも作戦失敗か。思わず嫌な予感がケルベロス達の頭を過ったが、しかしどうにも様子がおかしい。タイタニアはこちらに仕掛けるでもなく、何故か発見された潜入班の者達と、あれこれと話をしているようだ。
「少数精鋭で仕掛けて来た……にしては、様子がおかしいですわね。どう思われます、リリちゃん?」
「……分からないね。でも、タイタニアの意識があっちに集中しているなら、その分だけこっちが見つからずに動けるよ」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)の問いに、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が淡々とした口調で答える。
 陽動が順調に進んでいる以上、ここで下手を踏むわけにはいかない。もう片方の班に接触を図って来たタイタニアの真意も気になるが、今はとにかく、作戦を成功させることを優先すべきだと。

●その先に未来を
 潜入班の1つが予期せずタイタニアと遭遇したことは、ケルベロス達にとってむしろ有利に働いていた。
 グランドロンへの侵入経路を教わった上、こちらの戦力は過少に報告されている。忍び込むなら今だとばかりに突入したケルベロス達であったが、一度足を踏み入れれば、そこは敵の巣窟と化していた。
 地上であれだけ陽動したのにも関わらず、まだこれだけの敵を擁していたのか。もっとも、数はともかく質の方は大したことがないため、各個撃破が容易なのは幸いだったが。
「行くよ、ルー。後ろは任せるね」
「リリちゃんの頼みとあれば、断るわけにも行きませんわね」
 リリエッタの言葉にルーシィドが頷き、銀色の粒子を広げて行く。しかし、大勢で固まって動いているためか、効果の程は平時における戦闘の半分程度。じっくりと味方を強化しながら戦う方法は、このような混戦においては効果的ではなさそうだ。
「ごちゃごちゃしてるね。だったら……」
 次々と敵軍へ攻撃を仕掛けて行く他の面々を横目に、リリエッタは自らも敵の群れの中へと身を躍らせると、両手の拳銃を撃ちまくる。威力こそ単発で放った時よりも劣るが、敵を攪乱するのには十分だ。
 唸りを上げて襲い来るキメラの大口に、黒衣のレプリカントが放った砲弾が、吸い込まれるようにして炸裂する。そこを逃さず、パトリックは星辰の力を宿した剣を抜き、一刀の下に両断した。
「事前検討したのだと、宝物庫はこっちの方にありそうだったけど……」
 敵の一団を退け、和が再びグランドロンの内部を探索しようと歩き出す。が、直ぐに新手が出現したことで、ケルベロス達は再び行く手を阻まれる。
「このっ……しつこい!」
 蔦を伸ばして絡みつこうとした攻性植物を、リナが一刀の下に斬り捨てた。先程から、遭遇する度に素早く敵を撃破してはいるが、しかし遭遇率の高さから、なかなか前に進めていないのが現状だ。
「ふむ……これは少々、敵の戦力を過小評価していましたかな?」
 敵の一団に向けてラーヴァがミサイルを叩き込むも、数の多さから、普段通りの効果を発揮することはできなかった。
 それに対し、敵の主力はキメラやマンティコアといった合成獣と、雑多な種類の攻性植物。その多くが猛毒や炎を武器にしており、時間が長引けば長引くほど、無駄な消耗が増えてしまう。
「……面倒臭い技ばかり使って来る相手だね。これだけの毒や炎……放っておくわけにもいかないけど……」
 氷の盾を広範囲に展開しつつ、アビスは思わず歯噛みした。
 敵の種類が、寓話第六塔戦争と大差ないことは、こちらも予想していたはず。ならば、その際に敵が使って来るグラビティも知り尽くしており、故に毒や炎へ警戒を強めることはできたのだ。
 それにも関わらず、強敵との邂逅や宝物庫への侵入を優先し過ぎた結果、敵のグラビティに対する警戒が甘くなり過ぎた。戦闘が終われば身体に痛みが残らない類のダメージとはいえ、こうも大量に蓄積すれば、それだけ除去に手間がかかる。
「さっきから、ちょっと手間取り過ぎてる気がするのよね。このままじゃ、いずれ……」
 こちらが潜入したことが、魔女に気付かれてしまったのではないか。ふと、そんな不安がセレネーの頭を過ったが、果たしてそれは正しかった。
「不法侵入者あり。不法侵入者あり――」
 突如として、グランドロンの内部に響き渡る機械的な放送。やはり、敵の討伐に時間を掛け過ぎたせいで、潜入したことに気付かれたか。
「このままだと、目的を達成する前に、こちらが囲まれてしまいそうだね」
 撤退するなら、ここが決断の分かれ目だ。残る敵を掃討しつつ告げるアビスだったが、ここまで来て手ぶらで帰るのも口惜しい。
「……私達は、コアに向かおう。コアが狙われれば、警備はコアに集中するはずだ」
 ならば、こちらが囮として敵の中枢へ向かえば良いと、しばし思案した後にセレネーが言った。
「正気か!? この戦力だけで、敵の中枢を叩けるはずが……」
「それに、コアの破壊とか予定にないし!」
 一見して無謀なセレネーの提案に、パトリックや和は煮え切らないようだった。だが、その一方でリリエッタは、双方の話を冷静に聞きつつも、親友であるルーシィドに尋ねた。
「どう思う、ルー?」
「敵の戦意はそこまで高くありませんわ。ここまで潜入され、その上でコアが狙われたとなれば、撤退する可能性が高いと思われます」
 別に、コアを破壊する必要はない。ただ、そちらに戦力を向けることができれば、それだけ宝物庫を手薄にできるというだけの話。
 それに、そもそも宝物庫に忍び込むことを考えた場合、あまり大人数でゾロゾロと行動しても、却って目立ち無駄な敵を引き寄せるだけだ。
「決まりだね。そっちは敵が撤退する前に、宝物庫のコギトエルゴスムを助けてあげて」
「……任せなさい!」
 刃を納めたリナが、改めて告げた。ウェアライダーの少女が威勢よく答え、それに続けて他の者達も駆け出して行く。
「どうせ邪魔をするなら、とことん邪魔をしてやりましょう。これで中枢に、傷のひとつでも与えられれば儲けものですな」
 陽動を仕掛けるなら、最初から破壊するつもりで攻撃してやろう。ラーヴァの頭を覆う炎が微かに揺れ、ケルベロス達は二手に分かれてグランドロンの奥へと歩を進めた。

●中枢部の死闘
 破片となったグランドロンの中枢部。そこを破壊されれば全てが終わると知っているだけに、敵の抵抗も激しかった。
「予想はしていたけれど、やっぱり敵の数が多いわね」
 翼から放つ光で敵の一団を迎え撃つセレネーだったが、倒れた敵の死骸を乗り越える形で、新たな敵が湧いて来る。コアを守るため、戦力の大半を投入しているからだろう。ここまで数が多いと各個撃破も難しいが、しかし広範囲を纏めて攻撃しようにも、今度は攻撃が拡散し過ぎてしまい、威力が減衰してしまう。
「ですが、これは好都合でございます。こちらに敵が寄って来るのであれば、それだけ敵の目を欺けているということになります故」
 空中から襲い掛かろうとしたスフィンクスを、ラーヴァがライフルで撃ち落としながら言った。絶対零度の冷凍砲を浴びたスフィンクスは、そのまま床に落下すると、衝撃で木っ端微塵に砕け散った。
「どうせなら、このまま一気にコアも破壊しちゃおう! 突撃だーっ!」
 戦いの流れがこちらに向いていると察し、和は氷結の槍騎兵を召喚すると、それを敵の群れに突撃させて行く。もっとも、さすがにそれだけで全ての敵を突破することはできず、新たに現れた合成獣の群れが、突撃する騎士を乗り越えて襲い掛かって来た。
「うわわっ! ちょっ……な、なんでボクばっかり!?」
 キメラの吐き出す灼熱の炎が、合成獣の尾から放たれる毒針が、一斉に和へと向かって降り注いで来た。しかも、それらは広域に渡って拡散し、後方に立つ者達を纏めて襲い掛かって来たのだから、堪らない。
「……させない!」
 すかさず、リナが割り込んで自らの身を盾にするも、それだけでは守り切れるものでもない。だが、身を呈して仲間を庇えるのは、彼女一人だけとは限らない。
「甘いね。行くよ、コキュートス」
「ティターニア、お前も行け!」
 相棒のボクスドラゴン、コキュートスを連れたアビスが、それぞれに炎を防ぐ壁となる。残る毒針に対しても、パトリックのボクスドラゴンであるティターニアが、同じく身体を盾にして直撃を防いだ。
「今度はこっちの番だよ。……風舞う刃があなたを切り裂く」
 お返しとばかりに、リナの振るった刃が風を呼ぶ。凄まじい風圧がキメラの巨体を吹き飛ばし、更には真空のカマイタチを呼ぶことで、翼も尾も次々に斬り刻み。
「オレは生きる! テメェは死ぬが良い!! Live and Let Die!!」
 視認することさえ不可能な程に鋭く、素早いパトリックの剣撃が、無数の残像を伴いつつ、合成獣を再起不能なまでに破壊した。
「さて、残るは何体だ?」
 未だ奥から湧いて出る敵の数を、改めて数え直すパトリック。だが、彼がその全てを数え終わるよりも早く、突如として床に激しい振動が走った。
「これって、もしかして……」
「グランドロンが、動いてる!?」
 顔を見合わせるリナと和の二人。どうやら、この辺りで潮時のようだ。宝物庫の面々がどうなったかは気になるところだが、下手に留まれば撤退する機会も失ってしまう。
「グランドロンが撤退するなら、とりあえず作戦は成功ね」
「ですが、どうやら敵も、そう簡単に逃がしてくれそうにはありませんな」
 早急の帰還を提案するセレネーだったが、こちらを包囲するように動く敵を前に、ラーヴァが肩を竦めて答えた。
 果たして、この状況から如何にして脱出するか。全ての敵を討ち倒している時間はないが、さりとて敵に背を向けて逃げ出せば、無防備な背後から狙い撃ちにされてしまう。
 進むも地獄、戻るも地獄。進退窮まった状況に思われたが、しかしリリエッタとルーシィドには、何か考えがあるようで。
「……ルー、分かってるよね?」
「ええ、勿論でございますわ。この場を切り抜ける方法は……」
 示し合わせたように、手を繋ぐ二人。いったい、何を始めるつもりなのか。味方だけでなく、思わず敵さえも彼女達の挙動に、一瞬だけ注視した時だった。
「ルー、力を貸して!  ――これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 互いに循環させた棘薔薇の魔力を魔弾に込めて、敵の中心部目掛けて発射する。慌てて敵が散開するが、そもそも狙いは敵などではなく。
「なっ……! 壁ごとブチ抜きかよ!?」
 大穴の開いた壁を見て、パトリックが思わず叫んでいた。強大な威力を持った魔弾はグランドロンの内壁に食らい付き、そのまま外壁まで貫通する形で食い破ったのだ。
「さあ、早く! あの穴から脱出するよ!」
「もう、時間がありませんわ。飛び降りた後のことは、その後に考えましょう」
 そう言うが早いか、圧倒されている敵を横目に、リリエッタとルーシィドは先行して穴から飛び出した。後の者もそれに続き、次々に穴から外へと飛び出して行くが、さすがに敵も、それを黙って眺めているほど馬鹿ではない。
「……っ! まだやるつもり?」
 最後に脱出しようとしたアビスの腕に、攻性植物の蔓が絡み付く。だが、それを軽く振り払うと、アビスは掌に気を集中させ、お返しとばかりに撃ち出した。
「あんまりしつこい奴は好きじゃないんだけどな……!」
 気弾の直撃を食らって吹き飛んでゆく攻性植物を尻目に、アビスもまた穴から飛び降りる。コアの破壊こそ叶わなかったものの、それでもケルベロス達は死闘の末に、浜松からグランドロンを撤退させることに成功した。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。