ミッション破壊作戦～死をもたらす者たちへと叫べ

■リプレイ

●ヘリオンは岬へと飛ぶ
　四国の最南端に位置する高知県の足摺岬に向けて、ヘリオンはケルベロスたちを乗せて飛んでいた。
　サルベージされたデウスエクスたちと共に岬を支配している死神は、今も四国への攻撃をひたすら続けているという。
「家主ー。もうすぐ、つくみたい、だぞー」
　伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）が声を発した。
　赤い髪の少女が無表情に声をかけた相手は、ぼさぼさの髪をした中年の男だ。
「おう、そうかい。そんじゃあ、やれるだけやってみるとするかね。てめえもうまくやれよな、ガキ」
　壁に寄りかかったまま、伏見・万（万獣の檻・e02075）が勇名へと応じた。
　名字は同じだったけれど、勇名はレプリカントで万は狼のウェアライダーだ。親子ということは、おそらくないのだろう。
「……んうー、わかってる。家主も、酒のこと、かんがえてないで、しごとしろよー」
　平坦な声のままで優奈が言う。
　どちら側もあまり親しげではないようでいて、どこか気安い様子でもある。
　いかなる縁かはわからないが、万の家に勇名は居候をしているようだ。
　共に歴戦のケルベロスでありながら、依頼を一緒に受けるのは今回が初めてだった。
　とはいえ、勇名も万も、そのことを気にしているようには感じられなかった。
「死神がいつまでも悲劇をもたら続けているのを、見過ごすわけにはいきません。解放できるように、全力を尽くしましょう」
　ジュスティシア・ファーレル（エルフの砲撃騎士・e63719）は持ってきた小さなくまのぬいぐるみに手をかけ、少しだけ力を込めた。
　いつも持ち歩いているぬいぐるみは、この地にいるものとは違う個体ではあるものの、死神に関わる事件に際して手に入れたものだった。
　デウスエクスとの戦いに死がつきまとうことはケルベロスとなった日からすでにわかっていたけれど、それでも許せぬことがある。死神の存在はそのうち１つだ。
「そうだな。死神という連中は平然と人の傷口をえぐる真似をする。本来いるべき場所へさっさと送り返してやるとしよう」
　フレデリ・アルフォンス（ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627）の言葉にも、怒りがこもっていた。
　美麗な顔に隠しきれない怒りをにじませている彼もまた、忘れることができない死神との戦いの記憶を抱いている。
　二度と会いたくなかった敵がサルベージされ、思い出さざるを得なかった記憶。
　グラディウスを握る手にフレデリは力を込めていた。
　海へと突き出した、切り立った岬にさしかかると、ケルベロスたちはそれぞれ輝く小剣を手にして、次々に空中へと身を躍らせていった。

●死神の住処へと叫べ
　足摺岬を一望できる高空から、ケルベロスたちは次々に落下していった。
　死神と、そしてサルベージされたデウスエクスたちがうごめいているのが見える。
　ケルベロスたちに気づいているのかどうかはわからなかった。気づいていたとしても、この高度からの攻撃には対応できない以上関係ない。
　高い空の上でも、吹きつけてくる風には潮の香りが混ざっているように思えた。
　あの岬からながめる風景は、きっと絶景なのだろう。けれどもこの地を取り戻さなければ、誰も見ることはできないのだ。
「……んう。岬、かー。海はきっと、うれしいとか、たのしいとかのとこ。こわいもあるってきいたけど……こわいとこにするのは、いくない」
　岬を見下ろして、勇名は途切れ途切れの言葉で想いを込めていく。
「……このもやもやするの、ぶつけて、ここに住んでる、ここが好きなだれかのうれしいやたのしいを、かえしてもらう」
　言葉は激しくはなかったけれど、うまく言葉にできない想いも、勇名はグラディウスへとしっかり込めていく……。
「だからいこう、グラディウス……！」
　輝く小剣を振り下ろす。最初の爆炎と雷光が、一気に岬へ広がっていった。
　万は勇名に続いて落下していったが、別に居候の少女の様子を気にかけようとはしていなかった。視線の先にあるのは、あくまで魔空回廊を守るバリアだ。
　死神やサルベージされたデウスエクスがうごめく、酒が不味くなりそうな光景をにらみつけるように見すえる。
「……デウスエクスだろうが何だろうが、死んだ奴ァ死んだ奴だ。それをほじくり返して、しかもてめェの都合よくどうこうしようってなァ、ケッタクソ悪ィんだよ」
　不愉快な光景はさっさと消し去って、気分よく一杯やりたいところだが、そのためにもまずは死神どもを片付けなければならない。
　胸糞悪いその想いを、万は手にした小剣へと込めていく。
「とっととこっから消えやがれ！」
　乱暴な動きでグラディウスをバリアへと叩きつけると、また爆発が起こった。
　聞いていた通り、デウスエクスは高高度からの攻撃には反応できないようだった。
　ケルベロスたちは次々に攻撃をしかけていく。
　フレデリは一瞬だけ目を閉じた。
「死神共のクズっぷりはよく知っている。人間と友達になってダモクレスからレプリカントに変わろうとした矢先に、因子を植え付けられたあの子を忘れられない」
　まぶたの裏に浮かんだのは、死神の因子を植え付けられたダモクレス。
　心を得るかもしれなかったダモクレスを、フレデリは仲間たちと共に打ち砕くことしかできなかった。
「しかもくたばったデウスエクスをサルベージとか、手間取らせやがって！」
　あのダモクレスがもしもサルベージされてここにいたならば……それを想うと、フレデリの心はまた燃え上がる。
　こんな物言いをすれば、高貴さが足りないとまた言われるかもしれないが、言われてもかまわない。この目障りなバリアを壊せるならば。
「とっとと地獄に帰れクズ共！」
　力と想いを溜めた一撃をフレデリは放ち、そしてまた爆炎と雷光が広がった。
　そして、ジュスティシアもまた、死神には強い怒りを抱いていた。
　くまのぬいぐるみを手に入れたあの日の事件。決して忘れられない事件。
　黒幕だった『無垢の死神』イアイラは東京六芒星決戦で滅びたけれど、ジュスティシアの心がそれで収まるはずもない。
「イアイラの犠牲者を殺したあの日、誓った。死神共は根絶やしにしてやると」
　同時期に、同じように心を利用する別の死神も活動していたことを考えれば、そう感じるのはある意味で当然かもしれない。
「人の心も命も魂も弄ぶ死神はオークの次に下劣な種族！」
　赤い瞳を怒りに燃やし、ジュスティシアは輝く小剣を強く握る。
「例え奴等が最後の一匹になろうと手は緩めない。この地の安寧の為にも、跡形もなく塵になるがいい！」
　そして、また大きな爆炎と雷光が周囲へと広がっていった。
　ケルベロスたちは爆煙の中に次々に着地していく。
　全員が岬の堅い地面に降り立った……そのとき、古びた扉が開いたかのような音がケルベロスたちの耳元で響いた。
　次いで、足元が砕けたかと思うほどの衝撃が走り抜ける。
　衝撃が過ぎ去った後に周囲を見回すと、岬の一角に存在していた魔空回廊のバリアは、もはやどこにも存在していなかった。
「こわせた……？」
　勇名が呟いた。
「当たりどころがよかったのかもな。なんか……そんな手応えだったろ」
「そうね。普通の武器との比較はしがたいけれど、装甲の薄い場所に当たったときに似た感触だった」
　万やジュスティシアが言葉を交わす。
「……んうー。まえとちょっと、ちがったかも、しれない。でも、ちがったの、バリアかこころか、よくわからない」
　勇名が言葉を発した。なにかを試すかのように彼女は幾度もグラディウスを使用しているが、この場ではっきりと言えることはなかった。
　帰ってから落ち着いて考えればなにかわかるかもしれないが……。
　もちろん勇名だけでなく他の破壊作戦経験者たちも同様だ。
　ただ、仮にいくらか他より脆い部分に当たったのだとしても、バリアである以上相応の攻撃力がなければ貫けなかっただろう。
「確かに幸運もあったかもしれない。だが、その幸運を引き寄せたのは、俺たちの想いの強さのはずだ。少なくとも、俺はそう思うぜ」
　フレデリの言葉に仲間たちが頷いた。
　幸運の助けもあったとはいえ、ミッション地域の難易度がどんどん上がる中、少ない回数の挑戦で破壊できたことは快挙と言っていいだろう。
　濃い爆煙の中、ケルベロスたちは意気揚々と走り出した。

●死を呼ぶ者を討て
　ジュスティシアやフレデリは、作戦に挑む前に、ミッションへ向かう者がいたら退路での援護をしてくれるように伝言を依頼してきていた。
　直接連絡を取ることはできないので誰がどう動いているかは不明だが、誰かに伝わっていれば援護があるはずだ。
　仮に伝わっていなくとも、ミッションに挑むケルベロスは援護してくれるだろう。
　デウスエクスの活動のせいか事前に調べておいた地形と完全に一致はしなかったが、少なくとも退路を選ぶための参考にはなった。
　だが、容易に撤退できないことも、事前に得たヘリオライダーからの情報通りだった。
　緋色に怪しく輝く本を従えて、死神がケルベロスたちに立ちはだかる。
　黒いフードの下で赤く光る瞳は怒りに燃えているように見えた。
「キレてやがるなあ。けどよ、怒ってんのはこっちも同じでね。……喰ってやらぁ！」
　万が惨殺ナイフと簒奪者の鎌を手に前進する。
　その背後からは、勇名が無表情に砲を構えていた。
「悪事を邪魔されたことが腹立たしいか？　でも、あなたにはもう誰の命も奪わせない」
　ジュスティシアが万の横をすり抜けて、一気に敵へと接近する。
　だが、機先を制してデウスエクスは行動を開始していた。
「うおぉぉぉっ！」
　デスサモナーが叫ぶと、本の形をした召喚門が開いてケルベロスへサルベージされたデウスエクスが襲いかかった。
　狙われたのはジュスティシアだ。改造したバトルオーラに力を込めて彼女はデウスエクスからの攻撃を防ぐ。
　Ｊ＆Ｗ社製の対物狙撃ライフルを構えて、彼女は氷のレーザーで反撃した。
「短期決戦で決めるぜ。強化するからよろしくな！」
　フレデリが仲間たちに告げて、アロンソという名のオウガメタルから感覚を強化する粒子を仲間たちへとばらまいた。
　前進する万はオウガメタルを鋼の鬼へと変化させていた。
　鋼鉄の拳は支援を受けてどうにか敵を捉え、デスサモナーがまとっていたローブを引き裂いている。
「支援があってもギリギリか。厄介だな、強化型ってのもよぉ」
　勇名は彼の言葉を聞きながら、アームドフォートの砲口を死神の足元へと向けていた。
「家主、もっとあてやすくしてやる。うごくなー、ずどーん」
　小型ミサイルが飛んだ。
　後衛からしっかりと狙った砲撃は強化された個体と言えどもかわせはしない。
　敵の足元に着弾して、カラフルな火花を散らしながら敵を吹き飛ばす。
「助かるぜ、ガキ！　けど、酷え花火だなあ！」
　足止めされた敵へと突っ込んでいきながら、万が言う。
「……んうー。家主のいうこと、よく、わからない。でも、やくにたってるなら、いい」
　アームドフォートに添えていた手を離して、勇名はルーンアックスを握る。
　接近する隙をうかがう視線の先で、死神が拳を握っているのが見えた。
　フレデリがオウガメタル粒子をばら撒き、さらにカラフルな爆発で仲間たちを鼓舞している間に、仲間たちは敵の足を止めて、凍りつかせ、装甲を引き裂いていた。
　けれども死神はそう簡単には倒れない。
　怒りのこもった容赦ない攻撃をケルベロスたちへと繰り出してくる。その攻撃から仲間をかばって受けているのはジュスティシアだ。
　ジュスティシアはまた一撃、死魂をまとった拳を喰らった。
　守りを固めていても重たい拳が着慣れた軍服越しに彼女を打つと、体力と共に魂までもが奪われたような感覚を覚える。
「こうやってあなたたちは人の心を奪うのか。死神というのは誰も彼も不愉快だ」
　彼女が奪い取られた力で、死神は自らを回復している。
「そんなあなたたちを、いつまでものさばらせておくと思うな」
　銃に装着した刃で、彼女は敵の守りが弱い部分を素早く看破して引き裂いている。
　敵に回復する手段がない以上、ケルベロスたちの攻撃は確実にデスサモナーの守りを崩していた。
　万もジュスティシアに続いて敵へと接近する。
「引き裂け、喰らえ、攻め立てろ！」
　獣を寄せ集めて作ったと自称する彼の言葉を証明するかのように、万の身体から無数の獣が幻影として出現する。
　バイヨネットでジグザグに広げた傷口を、飢えた獣たちが狙う。
　容赦なく食い荒らされて、またさらにデスサモナーの傷が広がった。
　死神はそれでもまだ倒れなかった。
　だが、態勢を立て直そうとはしたのだろう。
　巨大な本を操ってデスサモナー召喚陣を形成する。いくらかの回復をし、そして自らの技を強化してケルベロスを追い詰める算段だろう。
「フレデリ、お願い！　回復は自分でやる！」
「任せろ！」
　フレデリはジュスティシアの呼びかけに応じて風雷剣サンティアーグを構えた。
　自分自身を守りながら、彼女は自らの傷に応急処置をほどこしているようだった。もしも、敵が自らを守ることを選ばなければ倒れていた可能性すらある。
　だが、敵は態勢を立て直そうと試みることを選び、ケルベロスたちはそれを許さない。
　仲間の横を抜け、フレデリは一気に敵へ近づく。
　死神が剣をかわそうとした。
「逃すかあ！」
　シンプルだが強烈な突きで彼はデスマスターの巨大な本を狙った。
　本から形成されていた召喚陣が崩れ去る。
　敵が自らを強化する技をいくら使おうとも、ケルベロスたちはそれを解除しつつ、死神の体力を確実に削っていった。
　煙は少しだけ薄れてきた頃には、もう敵の体力も限界が近い様子だった。
「終わりにする！」
　ジュスティシアのバイヨネットが敵をジグザグに切り裂く。
「ああ、いつまでもつきあってる時間はないんでね！」
　力を溜めたフレデリの聖剣が、死神の体を深々と断っていた。
　さらに万が降魔の力を込めた拳を思い切り叩き込む。
　デスサモナーがよろめき、しかしまだ倒れない。
「喰らってやるつもりだったのに、まだ動くのかよ。しぶとい野郎だぜ」
「どけ家主。ぼくが、くらう」
　ルーンアックスを構えた勇名が跳躍した。
「ずばしゃっ」
　切り裂く効果音を自分の口から吐きながら、少女が振り下ろした斧は死神の体を左右に断ち切っていた。
　敵の体を包んでいた赤いオーラが消えていく。
　ケルベロスたちはまだ消えていない煙の中を素早く撤退していく。
　数日もしないうちに死神たちは撤退し、あるいはミッションに挑みに来たケルベロスによって倒されて、この地からいなくなるだろう。
　足摺岬は再び人々の手に戻ったのだ。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月29日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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