かつて天下を布武し、天下を決した戦の舞台となった地、大阪城。
ユグドラシルの一部と化した大阪城に、エインヘリアル第二王女・ハールの招聘によりリザレクト・ジェネシスの戦いで五つに砕かれたグランドロン、それを要するデウスエクス各種族が集結する様は彼の地の栄光をを彷彿とさせた。
ダモクレスの進化を目論む科学者、ジュモー・エレクトリシアン。
マスタービーストの継承者を自称する乱戦忍軍、ソフィステギア。
寓話六塔の座を虎視眈々と狙う、第七の魔女・グレーテル。
そして、女性の地位向上に取り組む、エインヘリアルの第四王女・レリ。
これにゲートの主たる攻性植物を加えれば、大阪城に君臨した天下人と五大老、その様相の再現となる。
「招聘に応じ頂いたこと、まずは感謝する。さて我々の取るべき道ですが――」
第二王女ハールのとる音頭に敬意を示すものはいない。かつての主と異なり、まだ彼女は上に立つ立場ではない。
ハール、そしてグランドロンの欠片の主である彼女達の間には……身内である第四王女レリさえ例外なく、信頼も友愛もなく、ただ互いに利用し合う利害関係でもって、攻性植物と第二王女ハールを主軸とする同盟は組まれるにいたったのだ。
勿論、それは第二王女ハールの無力さではない。そのような薄氷の、本来敵対しあう相手さえ懐柔する交渉術は彼女を現す力の一つ。
「我々はまだ完成してはおりません。最強の戦闘種族でありながら、定命化に命尽きようとする同胞の助けを求める声は、遥か城ヶ島より届いている」
ドラゴン。その名に第四王女レリが身を固くする。先刻の戦いで戦力の多くとコギトエルゴスムを失った彼女へ加わる援軍は、心穏やかな相手ではない。
「定命化の危機に瀕するドラゴンらを救済し、この大同盟に加えることが成れば、我々の栄光は一層に契られましょう」
ハールの言葉に異議を唱えるものはいない。
多くのデウスエクス勢力を糾合した大作戦が、いま動き出そうとしていた。
「アイスエルフ救出作戦は大成功だ。みんなよくやってくれた」
柄になく明るい声でリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は集まったケルベロスたちをねぎらった。
それもそうだろう。アイスエルフ救出の作戦はほぼ完ぺきに成功し、数百名のアイスエルフと、それを上回る数のアイスエルフのコギトエルゴスムを救出。
第四王女レリを討ち果たす事こそできなかったものの、彼女率いる白百合騎士団の有力敵を討つことにも成功している。
「更に大きいのは情報だ……あまり嬉しくはない話だろうがな。エインヘリアルの第二王女ハールの大作戦が動き出しつつある」
得られた情報では攻性植物とエインヘリアルに加え、ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーターまでもが大阪城に集結。
更に彼女を中心としたデウスエクスの同盟はドラゴンまでも自勢力に引き込もうとしているという。
「攻性植物と第二王女ハールの策は『限定的な始まりの萌芽』! 大阪城の地中から城ヶ島までユグドラシルの根を伸ばし、ドラゴン勢力の拠点だる『城ヶ島』をユグドラシル化しようというものだ」
これを為すためには大阪城から城ヶ島までの通り道に莫大なグラビティ・チェインを注ぎ込み、ユグドラシルの根を成長させる必要がある。
「この大作戦を為すため、ハール王女は大阪城から必要なグランドロンを有する種族との同盟を提案したとみていいだろう……敵ながら恐るべき交渉力と戦略眼だ」
もしドラゴンまでが一つの勢力に糾合されれば、地球上における有力デウスエクスほぼ全てを統合した大同盟が完成することになる。
そのような事態は絶対に避けなければならない。
「幸いなことは、まだ大同盟は完成しきってはいない。皆が皆、この作戦の利益を前提とした集合であり、成功のためにリスクを冒そうというものはいない……第四王女レリさえも、だ」
デウスエクスらは日本各地にグランドロンの破片と共に出陣し、グラビティ・チェインを地中に注ぎ込こもうとしているが、作戦成功には三十分の時間がかかる。
グランドロンを死守しようという気概のあるデウスエクスはおらず、守り切れないと判断すれば撤退する。この条件なら作戦の妨害は十分に可能だろう。
「第二王女はそれも織り込み済みだろうが……デウスエクスらの出現地点は東海地方を中心に五ヶ所。そのうち三ヶ所でいい。三ヶ所を取れれば私たちの勝ちだ」
示される地図には五つの目印。
最西端の奈良のポイントには第二王女軍と、彼女に協力する少数のメリュジーヌ。
伊勢のポイントにはグランドロンのコギトエルゴスムと攻性植物の技術で改良されたダモクレス部隊。
続く静岡西部……浜松に布陣するのはドリームイーター、寓話六塔戦争の残党軍だ。ここにはかの戦争第二の魔女、第四の魔女が使役した屍隷兵が配置されている。
静岡中央、静岡市には螺旋忍軍から動物型の螺旋忍軍と狂月病型病魔が出陣する。
そして静岡の東、熱海には大阪城で刃を交わしたばかりの第四王女レリと白百合騎士団、それにコギトエルゴスムを失い消耗激しい彼女らを支援するドラゴンの一族……シャイターン、オーク、竜牙兵に加え首魁たるドラゴンも布陣しているようだ。
「戦意でいうと、熱海の部隊……レリ王女とドラゴンがずば抜けて高い。因縁もあるし、何より是が非でも成功させたいドラゴン勢力が加わっているからな。三十分経過後、作戦成功以外で撤退することはないだろう」
逆に浜松のドリームイーター、静岡の螺旋忍軍は比較的戦意が低い。しかるべき戦力が集中し、敗北の可能性が見えれば戦闘を避けて撤退するだろう。
また奈良の第二王女ハールは陽動目的として出陣しているらしく、相応の戦力が集中すれば作戦成功と判断して撤退すると考えられる。
「大事なのは敵がどう考えるか、だ。少数の戦力でも勝ち目がないような数に見せる経略があれば、デウスエクスを楽に撤退させることもできるだろう……諜報に優れる螺旋忍軍は難しいかもしれないが」
また大きな戦力を投入すればグランドロンの宝物庫に忍び込み、妖精八種族のコギトエルゴスムを救出、更には有力敵を撃破してグランドロンを制圧することもできるかもしれない。
「グランドロンが降下する周辺地域は護衛のデウスエクスが掃討作戦を実施することが判明しているため、既に避難を要請している。皆はデウスエクスの迎撃に全力を注いでほしい」
護衛を突破し、無防備になったグランドロンの外壁に攻撃を集中すれば、外壁を破壊して内部に侵入が可能になる。
グランドロン内部はコア部分に有力敵と護衛、また宝物庫にも守備隊が置かれていると推測される。三十分以内に撤退もしくは有力敵の撃破、コギトエルゴスムの奪取を行うなら、作戦を立てて手際よく進行する必要があるだろう。
「この戦いは極めて重要なものになるだろう……デウスエクスの大同盟は我々には悪夢そのものだが、ハール王女には最終目的への布石に過ぎない」
王女と攻性植物の作戦が成功し、デウスエクスの同盟にドラゴンが参画すれば、その勢力と中心たるハール王女の力は揺るがぬものになる。
「ハール王女の最終目標はレリ王女が言う通り、エインヘリアルの王位を簒奪する事……大同盟が成れば、彼女を『王女』と呼べなくなる日も近いだろうな」
ハール女王、クイーン・ハール。
皮肉交じりなリリエの呟きは、ことのほか脅威に現実味を感じさせた。
参加者 | |
---|---|
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125) |
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708) |
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710) |
●フルブラスト・エントリー
「強襲成功、無線封鎖解除」
グランドロン外縁の強化陣地、リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)の合図にケルベロスたちは隠密を脱ぎ捨てる。伊勢方面、グランドロン迎撃戦はケルベロスたちのペースで始まった。
「SYSTEM COMBAT MODE」
「っしゃぁ!」
その数、六チーム四十八名。
サーヴェントらを加えれば五十を優に超えるケルベロスに浮足立つデウスエクスを尻目に、殿を守るハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が気合一声。
極彩色のブレイブマインにフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)の散布した紙兵が舞った。
「敵襲! 敵襲! 支援求む! 支え……!」
「M158 STAND BY」
うなりをあげて機動するリティの『強行偵察型アームドフォート』が捉えた敵影めがけ、戦闘機動したマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の『M158』多銃身回転機銃が照準。
奏でられるガトリングデストラクションに、不幸にも彼らを発見した攻性植物……バンブーソルジャーは一瞬で細切れと化した。
「着地からわずかでこれほどの護りを……ですが、渡すわけにはいきません!」
お粗末ながら島嶼防御を形成したボムソルジャー、ガンソルジャーには紫水晶の城塞、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)とミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)、そして支援するハインツのオルトロス『チビ助』が飛び込み、白兵戦で制圧していく。
「伊勢にも攻性植物……! ですが多種族の結束ならば地球こそが随一だと、思い知らせてやりましょう」
想い人が過ごした思い出の地を奪わせはしない。静かに、強く、ミチェーリの拳が地面を叩く。
迸る重力震動波に打ち上げられた青竹の兵士たちへ、脚部『ダイヤモンド・ブースター』に増速されたフローネの脚が美しいレガリアスサイクロンを描く。
「ォンッ!」
「上出来だ、チビ助!」
僅か残るボムソルジャーをチビ助が切り裂けば、もはや動く影はない。
「はいこんにちはー、引っ越しの御挨拶回りだよ。拒否権はないけど」
「デカブツが出てきた、手早く片すぞ!」
相互支援するはずの別隊には橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)とティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)のコンビ。
展開した『擬態用マルチウェア』より引き出される『バスターライフルMark9』と『カアス・シャアガ』重砲の砲撃は弾幕と呼ぶのもはばかられる。熱い支援を受けながら、芍薬は『零距離銃術』を舞った。
愛用の射撃を拳の延長に、肉薄するランスソルジャーを紙一重の回避で一蹴。掴み上げて接射。動くものが消えうせるまで、そう時間はかからない。
『GO! GO! GO!』
十徳凶器を振り回すテレビウム『九十九』の応援動画のバックライトの赤に照らされ、沈黙した防衛線を殲滅者たちは飛び出した。
「こちらも突破しました、猶予は!?」
「作戦開始より五分経過、敵前衛をほぼ突破。いいペース、だけど……!」
御霊殲滅砲で残集団を潰すフィルトリアにミチェーリが答える。
突入を装う陽動班たちの援護も功を奏したのだろう、文字通り破竹の勢い。
だが……程度は大概にしろ、その初手はデウスエクスらも想定はしていたのだろう。
「矮小ナル者メ、決戦ヲ挑ムカ! モード『豪焼炎河』!」
「おいでなすったな、バックヤードの両腕が!」
刻まれた記憶の条件反射で構えたハインツの周囲、ガネーシャパズルから放ったヒーリングパピヨンを灼熱の空気が焼き払う。
身構えたまま確認した敵影は見覚えある機械の掌、『攻勢機巧』日輪と『防勢機巧』月輪のペアが三対。共通する褐色を帯びた装甲の柔らかさは、コギトエルゴスム強化された量産型のものだが、それだけではない。
「ADM TARGET Lo……!?」
対ダモクレスミサイルを装填するマークを襲うダモクレスと異なる爆発、銃撃。咄嗟に構えた『HW-13S』防盾をグラビティの連射が叩く。
「マーク! 新手か……って何コレ」
『警告。敵攻性植物、急速に展開』
それは『防勢機巧』月輪の掌上。リティの『増設レドーム・センサーユニット』からリンクされた情報を、芍薬は思わず二度見した。
「デウスエクスが、タンクデサントの真似事とはね……!」
差し出すように開かれた掌からバラバラと散開するバンブーソルジャーたち。マークの『R/D-1』戦術AIが寄越したライブラリ情報にリティもうなる。
装甲車両にしがみつき、相互に盾となって突進する捨て身の機動戦術。だがこの戦術の仇花はことのほか、この二種族にマッチした。
「敵勢力、侵攻率142%。緊急支援を要する。モード『月輪氷壁』」
展開される氷の防御結界に舌打ちし、リティは電磁施術攻杖を引き抜くやライトニングボルトを打ち付ける。再びバンブーソルジャーの銃撃。
連携の経験不足は個々の能力で補う、これはもはやデウスエクス版の諸兵科連合だ。多少の犠牲は問題ない。かの種族らに兵の命は極めて軽い。地球の軍隊と比べれば、無に等しい。
●オーバード・アサルト
「ジュモー・エレクトリシアン……彼女達も必死という事ですね。ですが、私達も負けるわけにはいきません」
「えぇ、その価値観を認めるわけにはいかない!」
フローネのかざす『【トゥルー・ヴァイオレット】』の輝きを盾に、フィルトリアは踏み込む。その身に刻まれた傷にかけて、命を踏みつけ使い捨てるデウスエクス達に屈することは決してできない。
「認メテモラウ必要モナイ」
神経を逆なでする量産型日輪の片言。掴みかかるような構えは本来量産型の持たない……デウスエクス『グランドロン』のコギトエルゴスムが生み出した忌むべき力。
突進が進路上を抉り、握りつぶし爆破するまで猶予はさしてない、が。
「そうでしょうね……であれば」
フィルトリアの答えはシンプルだ。先ごろ結末を迎えた因縁を思えば、考えることもないほど体は動く。
「その罪を刻みなさい!」
真正面からぶち抜く『虚空』の諸手突きが突進を阻止し、上下左右に『断罪の紅十字』を抉り描く。
「メディック! メディック!」
穿たれた傷はヒールをもってしても塞がらない不癒のもの。バンブーソルジャーたちに動揺が走る。
「構ってる暇はあんまりないのよ……ティーシャ、右!」
「任された!」
一瞬乱れた隊列に降り注ぐ銃砲の雨。
ティーシャのフロストレーザーに続き、芍薬は飛び越えざまの轟竜砲で兵を撃ち抜いていく。
そして開けた道を突進するミチェーリ。
デウスエクスの諸兵科連合は厄介だが、今この時点では総合点でもケルベロスたちにほぼ遠い。
「フローネ、『十字傷』を!」
「えぇ!」
呼びかける間にも、籠手から突き出される『сосулька』の氷柱。発声回路まで貫かれたか、雄弁な片言も声なく、展開された『アメジスト・シールド』の包囲に動くこともできない。
「吼えなさい、ダイヤモンド・ハンマー!」
横薙ぎに氷の杭へと振るわれるフローネのダイヤモンド・ハンマー……振り下ろしの加速こそないが、今日の彼女にはダイヤモンド・ブースターの加速がある。
「鉄槌!」
金剛石の槌と脚部兵装、結集された二つの力が大穴を穿ち、量産型日輪を破壊。わき目もふらず、開かれた戦線をケルベロスたちは駆け抜けた。
「緊急事態、敵部隊を追撃、追撃……」
「NO PROBREM」
なおも追いすがる月輪、その上に載ったバンブーソルジャーには、旋回したマークのクイックドロウが小器用に叩いた。
ガトリング砲を支える『ガンナーシールド』が隙を狙うバンブーランスソルジャーを殴り飛ばし、悠々とベルトリンクを取り回す。
『第二ライン突破、残弾ガトリング58%、ADW80%』
「ドローン各機、支援対指定完了……この分なら十五分はグランドロンに使えるわ」
「の、割には少々浮かない顔じゃない?」
負傷した仲間たちにメディカルドローンを向かわせるリティは、背を守る芍薬の声に頷いた。
「グランドロン周辺に動きがなさすぎる」
「あぁ……それな」
ハインツはそびえたつグランドロン……五つに分かれた欠片ゆえか、歪に歪んだ数百メートルの宝瓶宮を見上げ、ヘリオライダーからの情報を反芻する。
『デウスエクス各勢力にグランドロンを死守する気概はない。守り切れないと判断すれば撤退する』
大目標である儀式を防ぐだけなら撤退で十分、だが……考える暇はない。
「敵勢力、最終防衛ライン到達」
「無限増殖機械軍、前進!」
バンブーソルジャー、量産型機巧が動き出す。
「時間は気にしながら、けど焦らずに。まだオレたちのペースだ」
『兵は拙速を尊ぶ』
ハインツと故事成語の応援動画を掲げるテレビウム『九十九』に一つ頷き、芍薬は履いた『ナイチンゲール』に蹴りを入れた。
「ここまできた以上、ぶち抜くのみ!」
既に戦いの火蓋は切られている。振り向くのは走り切ってからで十分だ。
●グランド・エスケープ
経過時間、十分。『Iron Nemesis』に火花を散らし、ティーシャは弾幕の中を駆け抜ける。銃撃は装甲でしのぎ、量産型月輪、日輪の大技はディフェンダーたちを頼りに蛇行する。
「『手』を抑えてくれ、『斬環の末妹』で切り裂く!」
「ドローン各機、技術・物資支援を継続、ヘルスチェック……多少の無茶は通るわ。リンク60……っ」
迫撃砲の至近弾に、後方をいくリティの身体が跳ねあがる。『メディカルドローン』を従え、爆風の大波に『エアロスライダー』を乗せた彼女はダモクレス側には脅威であり、美しいワンカットに見えただろう。
「作戦承知しました。量産型ではありますが、私の因縁……!」
「出てこないなら、引きずりだすとしましょう」
会話なし、合図なし、打ち合わせもなしのアドリブ機動。だがミチェーリたちには何ら問題ない。最終ラインにも二機が投入された量産型月輪のどちらを狙うか? どう攻めるか? いまさら声に出すまでもない。
「奔れ、研ぎ澄ませ、《閃(ブリッツ)》ーーッ!!」
ハインツの打ち上げる『竜ノ加護《閃》』が破壊者たちに雷雲を呼ぶ。超局所的に出現した雷雲は敵に動揺を、ケルベロスたちに研ぎ澄まされた神経を轟音と共に授けた。
「ありがとう、一気呵成にいきます!」
氷壁を展開する隙は与えない。
『ダイアモンド・フロスト』から漆黒のパワードユニットへ電光を輝かせ、力と技が量産型月輪を強かに打ち据えた。
「モ、モード緊急変更……冷、扼……!」
「既に穿ち抜いていますよ……露式強攻鎧兵術、“氷柱”」
コギトエルゴスムを引きずり出し、『сосулька』の杭がダモクレスごと炸裂。戦場にはわずかだが、打ち込んだミチェーリの拳よりは十数倍大きく、突破の穴は開かれた。
「十四分四十秒……『斬環の末妹』でいく!」
「マダサセヌ!」
接続レールを展開するティーシャの『アームドフォートMARK9』、背負ったテレサ・コール(e04242)残霊から手渡されるジャイロフラフープの姿に量産型日輪が跳ねた。容易に想像できる運動エネルギーの怪物、もはや役割もなしということか。
「ナイン!」
「GOTTCHA,ADM TARGET LOCK……FIRE」
だが幾分遅い。ミチェーリの声にマークの背嚢が火を噴いた。『XMAF-17A/9』アームドフォートから引き出された対無限増殖機械誘導弾『HELL HOUND MISSILE』は威力、誘導性ともにレプリカント汎用の多用途ミサイルとは比較にならない。
鋭角に打ち上げられた飛翔体は敵性体のグラビティチェインを自己判断で追尾、日輪の五指をトップアタックで貫き、内部より炸裂する。
「ッ! 切り裂け、デウスエクリプス!」
開けた進路、絶好のタイミング。変化の予兆にティーシャが反応できたのは警戒の賜物だろう。
「グランドロンが……」
「逃げる!」
量産型日輪の残骸をジャンプ台に『デウスエクリプス』の戦輪が空を駆ける。
ケルベロス、防衛するダモクレス双方を置き去りにグランドロンが浮き上がったのは作戦開始から十五分、まさにその時だった。
●タクティカル・ウィナー
「逃しません! まだ!」
少しずつ上昇を加速するグランドロンにフィルトリアは飛びついた。地獄を覆う大籠手をねじこみ、力任せには抉じ開ける。
飛び上がられはしたが咄嗟の機転で『デウスエクリプス』は外壁を破壊した。上昇は加速しつつあるがまだ……だがこの期におよび、ダモクレスも切り札を切った。
「なっ……!」
「クレイドール・クレイドル……まずいぞ、こいつは!」
フィルトリアたち取りついたケルベロスを弾き飛ばす、回転する巨大なつぼみのようなダモクレス。記憶に新しい姿へ、ティーシャの顔が歪む。
「進化すると数分で自壊するんだったわね……コギトエルゴスムごと」
芍薬に受け止められたフィルトリアの口元から血がにじむ。これを最終ラインに配置する采配、いかにもダモクレスらしい冷徹な計算式だ。
「あなたたちは、どこまでも……ダモクレスッ!」
飛び去るグランドロンに叫ぶフローネの肩甲へ、ミチェーリがそっと手を置いた。
「儀式は防げました……今はそれで由としましょう」
「どうやら緒戦で勝ち過ぎたようね」
陽動攻撃から撃破目標への浸透強襲はケルベロスらが幾度も成功させてきた戦術だが、今回はその成果と五十名近い人数が警戒を必要以上に強めさせたのだろう。
分析するリティとミチェーリに、フローネは大丈夫です、と頷き『アメジスト・ブレイド』を残敵へ向ける。
「決着はいずれ付けられるさ。宿敵でも、因縁でも、縁って奴は引き合うらしいからな」
「機会を逃したのは無念ですが……その心は返していただきます」
改めての宣言にハインツは仲間たちを見やり、再びのブレイブマインを起動させる。
クレイドール・クレイドルは強力だが、幸いと温存のぶんケルベロスも余力は存分。
「行きがけの駄賃よ、あんたらのコギトエルゴスムはもらっていく!」
照射される赤色レーザーから仲間を庇い、芍薬のケルベロスチェインが機械仕掛けの蕾を拘束する。
「進化条件は損傷だ! およそ半壊から強化され、自壊まで四分……それまでに集中攻撃で倒す!」
「ROGER.MISSON UPDATE」
今まさに進化を花開くクレイドール・クレイドルの一体にティーシャが告げる。敵諸元を入力されたマークの『HELL HOUND MISSILE』が真上よりダモクレスを貫いた。
グランドロンは撤退し、伊勢の残敵はほどなく掃討された。
儀式阻止以上の戦果は芳しくないが、ダモクレスは幾分かの兵を失い、ケルベロスは進化体のコギトエルゴスムを回収した。
諸手を上げては喜べない七分勝ち。だが今のところ、勝利というには十分だろう。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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