作者：鹿崎シーカー
攻性植物のゲート、ユグドラシルの一部・大阪城！
物々しい雰囲気の空間に、五つに砕かれたグランドロンが集結していた。巨大な五つの影の上には異形の人影が一人ずつ。
一人は、深い青の髪をした女性の球体関節ドール。ダモクレスの科学者、ジュモー・エレクトリシアン。
二人目、黒いローブに黄と黒の螺旋面を着けた女。マスタービーストの継承者、ソフィステギア。
三人目、大きな牛頭と金の鍵を持つ少女。パッチワーク第七の魔女・グレーテル。
四人目、白馬に乗った純白の戦乙女。エインヘリアル第四王女・レリ。
そして五人目、赤いマントをはためかせる金髪の女騎士。エインヘリアル第二王女・ハール！
無言でけん制めいた視線を投げ合う彼女達が執り行うのは、恐るべきデウスエクスブリーフィング。それは実際、勢力の垣根を超えた同盟が挑む、一大作戦の前触れであったのだ！
●
「で、具体的な話に移るんだけどねー……いや、目が回りそうな話だよ、ほんと」
額に手を当て、跳鹿・穫はアンニュイな溜め息を吐いた。
事は、先の戦いで救出したアイスエルフ達からもたらされた情報が発端だ。
曰く、エインヘリアル第二王女・ハールが、砕け散った五つのグランドロンが大阪城に合流するつもりであるらしい。
どうやら、大阪城のユグドラシルはデウスエクスの定命化を抑制する力を持つようで、第二王女はこれを餌にドラゴンとも同盟を組もうと画策しているようなのだ。加えて、既にダモクレス・螺旋忍軍・ドリームイーターと協力関係を結んでおり、他種族混合の一大勢力と化している。
第二王女がここまでする理由は、ユグドラシルのゲートを通ってアスガルドに侵攻し、エインヘリアルの王座を奪いたいがため。そして彼女は、自身の野望の一環として大規模な作戦を実行しようとしているのだ。
その作戦とは『始まりの萌芽』の限定再現。大阪城の地中から城ヶ島までにユグドラシルの根を通し、城ヶ島をユグドラシル化させてしまおうというのである。
これが成功し、定命化を克服したドラゴン勢力が第二王女と手を組めば……地球側にとって、最悪の事態となるやもしれない。
作戦の詳しい概要だが、大阪城から城ヶ島までの根の通り道に莫大なグラビティ・チェインを注ぎ込む。このエネルギーを使ってユグドラシルの根を急成長させ、城ヶ島まで一気に根を張るというものだ。
第二王女は『５つに分かれたグランドロン』を利用して、この莫大なグラビティ・チェインを注ぎ込もうとしており、現在グランドロンを確保した勢力がそれぞれ特定の地点にグランドロンを出撃させている。
充分なグラビティ・チェインを注ぎ込むには、３０分以上その場に留まって作業を行う必要がある。逆に言えば、この３０分以内にグランドロンを機能停止させることが出来れば、作戦は失敗に終わると言う事でもあるわけだ。ノルマは５つ中３つの破壊。もし、３つ以上のグランドロンがグラビティ・チェイン注入を終えてしまえば、城ヶ島はユグドラシル化する。
戦場と敵戦力は以下の通り。
奈良・第二王女軍。陽動目的として出陣。戦力は、第二王女配下のエインヘリアルと、第二王女に協力する少数のメリュジーヌ、攻性植物からの援軍。
伊勢・ダモクレス軍。グランドロンのコギトエルゴスムを利用したダモクレス部隊。コギトエルゴスムを組み込んだダモクレスの改良型タイプと、攻性植物からの援軍からなる。
浜松・ドリームイーター軍。寓話六塔戦争の残党軍で構成。屍隷兵と攻性植物の援軍を加えた連合部隊。
静岡・螺旋忍軍。動物型の螺旋忍軍と狂月病型病魔、攻性植物による複合部隊。高い諜報力を持つ。
熱海・第四王女軍。ドラゴン勢力の援軍があり、戦力は第四王女軍と第四王女に協力するシャイターン、オーク、竜牙兵、ドラゴン。
熱海の第四王女軍を除いて、どの部隊もそれほど戦力は高くなく、あまりにも戦力差があったり形勢不利だと判断すればスッパリ引き下がると思われる。第四王女軍が撤退しない理由は、定命化の危機にあるドラゴンたちにあるようだ。
各戦場に配置されたグランドロンは全長２００ｍ～５００ｍの巨体。５つに砕かれた破片を補修して動かしているためか歪な形になってしまっている。
これらは各市街地の上空から着陸、無防備状態でグラビティ・チェインを地中に送る。そのため、まずはグランドロン護衛部隊が地上に落下して着陸地点の敵を殲滅し、グランドロン着地後はグラビティ・チェイン注入中の警護を請け負うことになる。
以上より、作戦はグランドロン護衛部隊の突破・グランドロン外壁破壊・内部に侵入してグランドロンの心臓部の破壊という流れになる。外壁は扉や補修部分など、脆い場所を狙って攻撃すれば比較的楽に侵入可能。グランドロン心臓部には有力敵とその護衛、心臓とは別所にある宝物庫にはコギトエルゴスムとそれらを守る守備隊などがいるようだ。
ちなみに、全域の市民は避難済みであるためそちらの心配は必要ない。
「城ヶ島のユグドラシル化が成ったらどうなるかって？ そりゃあ、定命化を克服したドラゴンの群れに、エインヘリアルの王位を奪った第二王女に、攻性植物の連合軍が出来上がるわけで…………多分、僕らに勝ち目は一切なくなるだろうね。なんとしても止めないと！」
| 参加者 | |
|---|---|
 叢雲・蓮（無常迅速・e00144） |
 シエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858） |
 源・那岐（疾風の舞姫・e01215） |
 メリーナ・バクラヴァ（ヒーローズアンドヒロインズ・e01634） |
 イピナ・ウィンテール（剣と歌に希望を乗せて・e03513） |
 神宮寺・結里花（雨冠乃巫女・e07405） |
 ジークリット・ヴォルフガング（人狼の傭兵騎士・e63164） |
 フレイア・アダマス（銀髪紅眼の復讐者・e72691） |
■リプレイ
伊勢・ダモクレス軍担当のグランドロン。
陸の孤島じみたグランドロンの周囲で爆音と戦火が上がる。グランドロンの外壁、なだらかな坂状になった場所に立ち、フレイア・アダマス（銀髪紅眼の復讐者・e72691）は薄っすらと笑みを浮かべた。
「始まったようだな。私達も動くとしようか」
「はいはい、ではご注目ー！」
メリーナ・バクラヴァ（ヒーローズアンドヒロインズ・e01634）が大きめの紙をバッと広げた。それはグランドロンを上から見た見取り図。メリーナは数箇所につけた丸印を指でなぞっていく。
「えーっと、陽動班がこことここ。それで宝物庫狙いの班がこっちから侵入するのでー……この辺を壊せればショートカットできるかもしれませんね！」
メリーナと略図を覗き込む七人のうち、イピナ・ウィンテール（剣と歌に希望を乗せて・e03513）がふと顔を上げ、なだらかな丘陵めいた外壁を見上げる。ところどころ短い草が生えた岩肌は一貫して黄土色。
「となれば、次は侵入経路ですね」
源・那岐（疾風の舞姫・e01215）がこくりと頷く。
「ええ。補修跡ならば破壊しやすいという話でしたので、近くにそれらしきものが無いか探してみましょう」
ふと、視線を横に向ける那岐。外壁を見つめるシエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858）の横顔に、那岐は心配そうに声をかけた。
「シエナさん、大丈夫ですか？」
「C'est bien……」
シエナは軽く首を振り、那岐を見返す。
「Merci beaucoup……平気ですの。少し、お母さまのことを考えていただけですの」
「ジュモーのことを、ですか。それは……」
那岐が口ごもった、その時である！ 彼女達の背後上空に異形の影が四つ滑り込みをかけた。緑の機械殻に守られた植物球体から人型の上半身が生えたような姿。クレイドール・クレイドル達は植物球体についた眼球を輝かせ、レーザーを発射した！ 四連爆破が噴煙を上げた直後、爆煙の側面が真横に伸びた。煙を切って飛び出したケルベロス達のうち、ジークリット・ヴォルフガング（人狼の傭兵騎士・e63164）は神宮寺・結里花（雨冠乃巫女・e07405）を小脇に抱えたまま制動をかけ、クレイドールを振り返った。
「見回りにでも見つかったか？ 少々長居し過ぎたようだな」
「あんまり構ってる暇は無いっすね。手早くたたんで突入っすよ！」
結里花は手にした紙パック甘酒のストローを加え、一息に吸入。眼差しを鋭くした彼女はジークリットの腕から飛び降り、巫女服をはためかせて一回転！ 結里花の隣に銀髪少女剣士の幻影が現れ、稲妻をまとった竜巻を巻き起こす！
「二人心を合わせれば、その一撃は金を断つ！ 連携奥義断金一式！」
結里花が雷をまとわせた手を、少女剣士が風をまとった剣を突き出す！ 稲妻の竜巻はクレイドール達へ雷鳴を撒き散らしながら飛翔した。
「疾風迅雷！」
直撃、及び爆発！ 響く遠雷に混じって金属が軋むような音が鳴り、爆発の中からクレイドール達が左右に分かれて飛び出した！ 赤い眼球を輝かせて突進してくるクレイドール四体を見上げ、イピナ・ウィンテールは長柄の旗を掲げた。ひるがえり、輝く紺色の旗！
「闇を切り裂き、死に誘うは我ら猟犬。雄叫びと共に喉笛を喰らい裂く！」
イピナの頭上に三つ首番犬の旗印が浮き上がった。彼女の足元から広がる光の波紋がグランドロンの外壁を駆け、仲間達の足を登って体を包む。構わず眼球に光を溜めるクレイドールの一体に、ジークリットの飛び蹴りが命中！ 蹴りの反動を使って飛び下がる彼女に、他三体が光線を発して追撃をかけた瞬間、クレイドール四体の真下から影の触手が垂直上昇！ 黒い触手に締め上げられた四体の下方、濃い影を踏んだメリーナが大きく両腕を開く。
「緞帳が降りて、『魔法』が解けて……」
メリーナが指を鳴らすと同時、四体が空から引きずり下ろされる！ グランドロン外壁にめり込んだクレイドール達の真上に跳躍した叢雲・蓮（無常迅速・e00144）が赤黒い電光を身にまとい、両足を踏みしめた那岐が二刀の刀を交叉した。
「那岐姉っ！」
「お先にどうぞ。さて、披露するは我が戦舞の一つ」
演武を舞う那岐の周囲に藍色のカマイタチが激しく渦巻く。蓮は居合い打ちから赤黒い電撃を射出！ メリーナが華麗な連続バク転で飛び下がったところで電撃がクレイドール達に直撃し、四体まとめて爆轟に飲み込ませた。那岐は両の剣を振り上げる！
「風よ、斬り裂け！ セイクリッド・シルフィード・ダンス、インディゴ！」
二刀が振り下ろされ無数のカマイタチが飛翔！ 藍色に染まった風の刃は雷と爆炎を一瞬で細切れに変え、黒焦げたクレイドール達のボディもバラバラにした。爆発四散する四体！ 零れた虹色の宝石球が坂道を転がり落ちていく。刹那、ケルベロス達の後方から新たなクレイドールが四体出現！ そちらを振り返ったフレイアが右肩に止まった金の子竜へ指示を下した。
「ゴルトザイン！」
フレイアの肩からジャンプした子竜が翼を広げ、クレイドール達へ一直線！ 開いたアギトに金色の炎をたたえ、首を薙ぐように吐き出した！ ブレスを浴びたクレイドール達は速度を下げるも、赤い目でゴルトザインをにらみつける。銀ガントレットの右手に戦斧を握ったフレイアは、左手で刃をなぞった。指の軌跡に沿って浮き上がるルーン文字！ フレイアは戦斧を振りかぶる！
「私の復讐の糧となれ！ 行くぞッ！」
手中で回転させた斧をフリスビーめいて投げ放つ！ 黒い炎を燃やした斧は円弧を描くように飛び、クレイドール達の眼球を一気に引き裂く。眼球を暴発させるクレイドール達の頭上に伸びる巨大な薔薇の花。赤い花弁中央から迫り出したワニじみた植物の顎が四体をひとまとめに噛み潰す！ 薔薇を裂かせたツルの先、シエナはスカートから伸びた蔓草を足代わりにして疾駆してクレイドール四体の真下を抜けた。シエナから生えた薔薇のツルに引っ張られ、クレイドール達が引き回される！
「Ne vous arrêtez pas……道を開けて頂きますの！ ヴィオロンテ！」
ツルがしなり、薔薇が捕らえたクレイドール達をグランドロンの岩盤に叩きつけ粉砕！ シエナに続き外壁を駆けるケルベロス達。結里花と蓮が放った黒い風が隊列を包み込み、まるごと透明化。途中、凄まじい速度で宙を滑るクレイドール達とすれ違った面々のうち、イピナは腰部の鎧に取りつけた時計を手に取った。
「もうすぐ１５分経過します。そろそろ突入しないと厳しいかもしれません……！」
「Se dépêcher……お母様……！」
先行くシエナの表情が曇り、焦りが浮かぶ。足代わりの蔓草を速める彼女のやや後方で、蓮が閃いたように目を光らせた。彼の視界、やや離れたところに、一か所だけ苔で覆われた岩肌がある。苔の周囲には細かな亀裂！
「あった！ 補修跡、あれだと思うのだよ！」
「こじ開けます！ 結里花さんっ！」
「はい！」
足を速めた那岐と結里花が低空ジャンプ！ 那岐の二刀にバラバラになったパズルがまとわりついて金色の刃を形成し、結里花は白い大蛇を模った木のハンマーを振りかぶる。蛇の目が光り、槌の頭部を吹雪が覆った。
「ぶち抜け！ 白蛇の咢！」
振り下ろされたハンマーがコケに包まれた外壁を打ち砕く！ 破砕音と共に壁が吹き飛び、開いた大穴に八人が飛び込んだ。全員が広大な機械回廊に着地したその時、グランドロンに激震が走った！
「わっ!?」
よろめく蓮の手をつかみ、フレイアは震える回廊を見回した。
「いきなりなんだ！ 何が起こった？」
「Regarde ça……皆さん、あれを……！」
全員がシエナの指差した方向、入って来た風穴の方を振り返る。そこには、ぐんぐん下がっていく外の光景。那岐は愕然として目を剥いた。
「う、浮いてる……!? どうして！」
「Aucun moyen……！ もしかして、撤退するつもりなのでは……!?」
シエナの呟きに、渋い顔をするメリーナ。
「あー……。あまりにも戦力差があったり形勢不利だと判断すればスッパリ引き下がる……って言われてましたねー、そういえば。判断されちゃいましたかー……」
イピナは針を進める時計に視線を落とし、次いで仲間達の方を伺う。
「どうしましょう。二十五分経過のアラームが鳴った時点でジュモーを狙う事は一旦諦め、全員でコアへの攻撃を開始するという作戦でしたが……」
那岐がこめかみに手を触れ、頭痛を堪えるように言った。
「やめた方がいいかと思います。あと十分足らずでどこにあるかわからないコアルームを探し出して、ジュモーに守られたコアを破壊するのは流石に厳しいです。グランドロンは今にも撤退しそうですし」
ジークリットは腕を組み、相槌を打つ。
「このままグランドロンと一緒に行けば……恐らく、行きつく先は大阪城のユグドラシル。たったこれだけの人数で、ジュモーの軍勢とゲートに詰めた攻性植物、下手をすれば今回の作戦に参加した同盟者達の相手をしなければならなくなる。確実に死ぬぞ」
「じゃあ、撤退するしかないってことですか？ ここまで来たのに？」
やや唇を尖らせる結里花に、その場の全員が黙り込む。直後、グランドロンが大きく揺らいだ。踏ん張ったフレイアは激しく震えはじめる天井を見上げた。
「のんびり作戦会議する暇も無しか、全く……！」
「急げ、殿は私が務める！」
ジークリットが言い放ち、顔を見合わせたイピナとメリーナが外壁の風穴から外へ飛び出す。嘆息したフレイアと旗布を巻き取ったイピナが続き、不服そうな表情の蓮と結里花が後を追う。那岐はこちらに背を向け、じっと回廊の奥を見つめるシエナを複雑な面持ちで見やった。
「シエナさん……」
シエナは口を引き結び、息を吸い込む。そして両手を口元に添えて声を張り上げた。
「Se facher！ あれほど発送先の確認は念入りにしてって言ったのに―――――！」
回廊に反響する文句を残し、シエナは悔しげな表情できびすを返した。
| 作者：鹿崎シーカー |
重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし |
|
|
種類：
公開：2019年5月2日
難度：普通
参加：8人
結果：成功！
|
||
|
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
||