●王女のビジョン
ユグドラシルの一部と化した大阪城。
その周囲に五つの巨大な城塞が浮遊していた。
グランドロンである。
それらの城主と呼ぶべき存在は皆、女のデウスエクスだった。
マスタービーストの継承者を自称する乱戦忍軍、ソフィステギア。
ダモクレスの科学者、ジュモー・エレクトリシアン。
ドリームイーターの第七の魔女、グレーテル。
エインヘリアルの第四王女レリ。
そして、同じく第二王女ハール。
錚々たる……いや、ケルベロスからすれば、恐るべき面々だ。
もっとも、彼女たちもまた、自分以外の四人を恐るべき存在と見做し、警戒しているかもしれない。今のところは利害関係で結ばれているものの、明日にはまた敵になっているかもしれないのだから。同種族にして姉妹であるハールとレリでさえ、一枚岩というわけではない。
「役者が揃った……と、言いたいところですが、まだ足りませんね」
グランドロンのうちの一つ――そのコアルームでハールが独白した。スクリーンに映し出された他の四つのグランドロンを見回しながら。
「ケルベロスを相手にするからには、彼らにも……そう、ドラゴンたちにも舞台に上がっていただかないと……」
●音々子かく語りき
「アイスエルフ救出作戦は大成功! 数百人のアイスエルフさんアンドたーくさんのコギトエルゴスムを助け出すことができましたー!」
ヘリポートに召集されたケルベロスたちにヘリオライダーの根占・音々子が現れ、ハイテンションで報告した。
しかし、勝利の報告だけでは終わらない。
「でも、まだまだ戦いは続きそうなんですよー。なので、皆さんに奮闘していただくことを切望する次第です、はい」
音々子に切望されるまでもない。奮闘せざるをえない状況が迫っているのだ。
アイスエルフ救出作戦の際に得られた情報によると、第二王女ハールの働きかけによって、複数のデウスエクス――エインヘリアル、攻性植物、ドリームイーター、螺旋忍軍、ダモクレスの勢力が大阪城に集結したのだという。
「なんと、ハールとかレリとかソフィステギアとかジュモー・エレクトリシアンとか第七の魔女グレーテルとか、デウスエクス・ヒロイン・オールスターズって感じの凶悪な面々が手を組んじゃったんですよー。それだけでも厄介だというのに、ハールはドラゴンまで引き込もうとしているんです。引き込むためのエサは、ずばり『定命化の克服』! 攻性植物と与して『始まりの萌芽』を限定的に再現し、ドラゴンの拠点の城ヶ島をユグドラシル化しようとしているようです」
ドラゴンにとって、定命化は悩みの種。ケルベロスからすれば、大きなアドバンテージだ。城ヶ島がユグドラシル化してしまったら、そのアドバンテージが失われてしまう。
「当然のことながら、城ヶ島のユグドラシル化というのはかなり大がかりな儀式になりますよー。ざっと説明しますと、大阪から城ヶ島に至るルート内の五つのポイントにグランドロンが降下して、地中にグラビティ・チェインを注ぎ、ユグドラシルの根を成長させ、城ヶ島まで導く……といった感じです。ちなみにグラビティ・チェインを注いでいる間、グランドロンはずっと無防備ですし、三十分以上はポイントに留まっていなくてはいけません」
グランドロンが儀式をおこなうポイントは、奈良、伊勢、浜松、静岡、熱海。そのうちの三つ以上のポイントで儀式が完了すると、城ヶ島はユグドラシル化する。
逆に言うと、ケルベロスが三つ以上のグランドロンを撃破するか、あるいは撤退させれば、ハールたちの計画は失敗に終わるということだ。
「そういうわけで、皆さんに五つのグランドロンのうちの一つを攻めていただきたいのです。どのグランドロンを標的にするのかはお任せします。
ちなみに各グランドロンの全長は二百メートルから五百メートルくらい。本来は一つだった物が五つに砕かれた後で補修されているので、どれも歪な形をしているんですよー。
先程も言ったように儀式がおこなわれている間はグランドロンは無防備ですから、外壁を攻撃して破壊すれば、内部に侵入することができます。けっこう分厚い外壁ですけど、いろいろと工夫すれば、少ない攻撃回数で破壊できるかもしれませんね。
言うまでもありませんが、グランドロンそのものは無防備とはいえ、内部は敵でいっぱいですよ。コア・ルームには幹部クラスの者やその護衛がいるでしょうし、宝物庫にもコギトエルゴスムの守備隊がいると思われます」
そう、グランドロンの宝物庫には妖精八種族のコギトエルゴスムが眠っている。戦力に余裕があれば、儀式の阻止は他のチームに任せて、コギトエルゴスムの回収を試みるのもいいかもしれない。
「では、いきましょう!」
説明を終えると、音々子はヘリオンに向かって歩き始めた。
「六軍同盟、なにするものぞ! いえ、たとえ百軍くらい集まっても、皆さんの敵ではありませーん!」
参加者 | |
---|---|
青葉・幽(ロットアウト・e00321) |
大弓・言葉(花冠に棘・e00431) |
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486) |
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
スウ・ティー(爆弾魔・e01099) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331) |
ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503) |
●竜蟠虎踞
「どきなさいよ!」
一般市民の姿が消えた熱海の某所に青葉・幽(ロットアウト・e00321)の怒号が響く。
アームドフォート『Pterygotus』のアフターバーナーを噴かし、目の前に立ちはだかる敵――赤いドラゴンの懐に彼女は飛び込んだ。近距離から火砲の一撃を浴びせ、瞬時に離脱。それを何度も繰り返す。高速戦闘機動『フルヴェロシティ・マニューバー』。
だが、数度目の離脱の際にドラゴンは体勢を立て直し、飛び退る幽めがけてブレスを吐いた。烈火のごとき体色に相応しからぬ氷のブレス。
その攻撃範囲には幽以外の者もいた。馬の獣人型ウェアライダーのエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)、シャドウエルフの新条・あかり(点灯夫・e04291)、『先生』という名のウイングキャット。ただし、エニーケだけは無傷。ボクスドラゴンのぶーちゃんが小さい体を盾にしてかばったのだ。
「ナイスよ、ぶーちゃん!」
自分のサーヴァントを讃えながら、オラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)がドラゴンめがけて時空凍結弾を発射した。人から『可愛い』と評価されることに全力(とまではいかなくとも、かなりの力)を注ぐ彼女ではあるが、今回はその欲求よりも任務にかける意気込みのほうが大きい。
そんな主人の気持ちが伝わったのか、いつもは震えてばかりいるぶーちゃんも凛として……いなかった。それどころか、いつも以上に激しく震えている。竜十字島にいるであろう因縁浅からぬ魔竜ブースト・レイノルズのことを思い、恐怖とプレッシャーに押し潰されそうになっているらしい。
「あらあら。寒くて震えているのですね。氷のブレスのせいで熱を奪われましたから」
自分を守ってくれた小さなナイトの怯えに気付かぬ振りをして、エニーケが両腕を左右対称の形に組み、エネルギーの奔流を放った。その名も『ニコニ光線(スマイリングレイフォース)』。
しかし、ドラゴンに向かって延びた光線は白灰色の壁に防がれた。
竜牙兵が盾となったのだ。
「邪魔だ」
オウガのルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)がガネーシャパズルから竜型の稲妻を解き放ち、竜牙兵を打ち据える。
その残光が消えぬ間に、オラトリオのエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)が――、
「異界に渦巻く虚無、千の刃となり、罪深き者を打ち砕け!」
――『針嵐殺滅陣(ニードルスピア)』を発動した。
無数の黒い針がどこからともなく現れ、敵陣へと降り注ぐ。
敵陣へ?
そう、竜牙兵は一体ではなかった。
何十体もの数で隊列を組み、連携を取り合い、赤いドラゴンとともに戦っている。
後方にそびえる魔城――この熱海の地に降り立ったグランドロンを守るために。
「やれやれ。思っていた以上に敵さんは必死みたいだねぇ」
竜牙兵たちの攻撃を躱しながら、スウ・ティー(爆弾魔・e01099)が円柱形の爆破スイッチ『Happy』を操作した。
ドラゴンの盾となっていた竜牙兵が遠隔爆破によって吹き飛ばされ、力尽きた。
「本来なら、とっくの昔にグランドロンの外壁に穴を開けて――」
『先生』の主人であるレプリカントのアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)がドラゴニックハンマーをドラゴンに叩きつける。
「――内部に侵入してなきゃいけないのになぁ」
嘆きの声に合わせるかのようにアラタのアイズフォンがアラームを鳴らした(本人にしか聞こえないが)。戦闘を開始してから五分毎に鳴るようにセットしてあるのだ。
これは一度目のアラーム。
「五分経過だ」
片目を閉じてアイズフォンに表示されている時間を確認すると同時に反対の目でアナログの腕時計を見ながら、アラタは皆に告げた。
「ああ。五分経過だね」
『Happy』を持ってないほうで懐中時計を取り出し、スウが頷く。
目と鼻の先でグランドロンが無防備な姿をさらしている(儀式の間は動けないのだ)にもかかわらず、この五分の間、ケルベロスは前に進めずにいた。
苦闘を強いられている理由はシンプルだ。
圧倒的な戦力差。
熱海のグランドロンを標的に選んだのはこのチームだけではないが、ドラゴンたちを相手取るには少なすぎた。しかも、スウが言うように相手は必死。定命化による死を免れるための戦いではあるが……いや、そのための戦いだからこそ、死を恐れていない。
「我らは決して退かぬ!」
赤いドラゴンが翼を翻して体を反転させ、尻尾の一薙ぎでケルベロスたちを攻撃した。ちなみに翼を有してはいるものの、彼は一度も空は飛んでいない。おそらく、飛行できないほどまでに弱っているのだろう。定命化の影響によって。
「定命化に苦しむ同胞たちの命を背負っているのだからな!」
「それはアタシらも同じこと!」
幽が跳躍し、ドラゴンにスターゲイザーを見舞う。
「この地球に住まう人たちの命を背負ってるのよ!」
「……そう、僕たちも同じ」
あかりが呟いた。蔦のような形状の鎖『IVY』が袖口から延び、サークリットチェインの魔法陣を描く。対象は、ドラゴンの尻尾の攻撃を受けた前衛陣だ。
「背負っている命は絶対に守り抜くよ。誰も殺させない」
無表情で戦いに臨んでいるあかりであったが、心の中では戦意の炎が燃え上がっていた。その炎の燃焼剤は、かつての戦いの記憶だ。暴走せざるを得ない状況にまで追い込まれた、城ヶ島での戦い。
しかし、少女は敵への攻撃ではなく、味方の治癒という形で戦意の炎を昇華していた。目の前にいるドラゴンと違って、死を恐れているからだ。自分ではなく、仲間たちの死を。
「にゃあ!」
あかりの想いに呼応するかのように『先生』が雄々しく鳴き、清浄の翼でケルベロスを癒していく。
その姿を誇らしげに一瞥した後、アラタはエニーケに囁いた。
「敵に行く手を阻まれてしまったが、結果的にはアラタたちが陽動の役目を果たしたことになるんじゃないか?」
「そうですね」
敵方に聞こえないように小声で答えながら、エニーケはアームドフォート『ヒルフェンファイア』を操作した。四つの砲塔がドラゴンめがけて続け様に火を吹く。
「こうやって私たちが敵の目を引きつけている間に、他のチームがグランドロンに侵入しているかもしれません」
一縷の望みを持って、ケルベロスたちは戦い続けた。
●竜攘虎搏
「力で玉座を奪ったところで、それは『力で玉座は手に入れられる』って喧伝することにしかならないのよねー」
地獄の炎を纏った如意棒を言葉が振り抜く。
命中率はさして高くなかったにもかかわらず、その一撃は赤いドラゴンに命中した。状態異常が累積して回避力が低下しているのだろう。
「そんなこともレリ王女は判らないのかしら?」
「あの脳筋な姫様に判るわけないよ」
ロングコートの裏地に仕込んでいた薄型のガジェット『Surpriser』を銅鞭形態に変えて、スウが竜牙兵たちを薙ぎ倒した。
「五軍とか六軍とか、節操なく抱え込み過ぎた同盟がどれだけ危険かってことも判ってないだろうねぇ。同盟なんて、瓦解する時は一瞬なのに……お?」
懐中時計に目を走らせる。
「十分経過だよ」
「あと二十分以内にこいつらを蹴散らし、グランドロンの内部に入って、儀式を阻止する……というのは難しそうだな」
ルイーゼがスウの前に立ち、竜牙兵の攻撃を体で受け止めた。間髪を入れず、鬼神角で反撃。
「全員を蹴散らすのは無理だとしても――」
あかりがライトニングロッド『タケミカヅチ』を振り、エレキブーストをルイーゼに施した。
「――ドラゴンは倒せそうだよ。かなり弱ってるみたい」
「ほざけ!」
あかりの声が聞こえたのか、ドラゴンが怒声を発した。いや、怒声ばかりではなく、大量の血も吐き出した。確かに弱っている。
「まだだ! まだ死ねぬ! 我が背には、定命化に苦しむ同胞たちの命が……」
「それはもう聞きました」
血を伴った述懐を無情に断ち切り、エルスがドラゴンに突進した。その手に光るはゾディアックソード。
「定命化の回避などさせません……重力に引きずられて、死ぬがいい!」
エルスの中では怒りと憎しみが渦巻いていた。
謂れなき怒りでも憎しみでもない。
彼女は竜十字島に足跡を印した四人のうちの一人なのだから。
たった二人の生還者のうちの一人なのだから。
しかし、エルスの放ったゾディアックブレイクがドラゴンに届くことはなかった。
またも兵士の一人が自分の体を盾にして庇ったのだ。
いや、『またも』と言っても、これまでに何度か繰り返されてきた光景とは差異がある。
その兵士は竜牙兵ではなく、白百合騎士団のエインヘリアルだった。
「なんの真似だ!?」
ドラゴンが目を剥いた。
いつの間にか、周囲に白百合騎士団の面々が立ち、彼を次々とヒールしている。
「貴様らの役目はグランドロン内部の警護であろうが! 捨て駒たる我に構うな! グランドロンに戻れ!」
「戦いは非情。捨て駒が必要となる時もあるでしょう。しかし、この戦いにおいて、捨て駒となるのは貴方ではありません」
と、騎士の一人が言った。
「なぜなら、これは定命化に苦しむ貴方たちを救うための戦いなのですから」
と、別の騎士が言った。
そして、三人目が声を張り上げた。
「貴方たちは男である上にドラゴンですが、捨て駒として扱ってしまっては、この戦いの意義に反します! それを良しとするレリ王女ではありません!」
騎士の半数はドラゴンのヒールを続けていたが、残りの半数はケルベロスたちに攻撃を仕掛けてきた。誰の目にも迷いがない。レリの判断――ドラゴンを捨て駒としないことを正しいと信じているのだろう。
(「レリめ!」)
騎士たちに応戦しながら、ルイーゼが苛立たしげに歯噛みした。
(「また、部下たちを死に追いやるか……」)
「同盟相手を見捨てないレリは立派だと思う。ドラゴンたちが必死になるのも理解できる。死活問題だしな。でも、だからといって――」
『黄色辛味魔法(イエロー・ショック・マジカル)』を発動させるアラタ。
頭上に出現したからし種から、金色に輝く十三発の荷電粒子が弾け飛び、騎士の一人に次々と命中した。
「――この熱海の地を蹂躙させるわけにはいかないぞ!」
●竜吟虎嘯
激しい戦いの末、加勢に来た白百合騎士団の面々は一人残らず討たれた。
竜牙兵の軍団はまだ健在だが、癒し手たちを失った赤いドラゴンは今にも倒れそうだ。
しかし、闘志までは失っていないらしく、ケルベロスめがけて幾度目かのブレスを吐いた。
「敵ながら、あっぱれ! ……と、言いたいところだけど、あっぱれすぎるでしょ!」
言葉がブレスの下を掻い潜り、如意棒を伸ばした。
「こちとら、レリと戦う気満々だったのに邪魔してくれちゃって! 空気を読みなさいよ、空気を!」
地獄の炎を纏った如意棒の先端がドラゴンの首の根元に突き入れられた。
「まったくです。レリ王女のお命を頂戴する前にお饅頭を差し上げようと思っていたのに――」
饅頭入りの箱を腰に下げたエニーケが横に回り込み、『ニコニ光線』を発射。
「――無駄になってしまいましたわ!」
「死ね! 今度こそ!」
エニーケと同時に叫びながら、エルスがディスインテグレートで畳みかけた。
光線を浴びて体勢を崩したところに不可視の球体の直撃を受け、崩れ落ちるように倒れ伏すドラゴン。
土煙が巻き起こる中、傷だらけの長い首がゆっくりともたげられたが、その動作で力を使い切ってしまったのか、すぐにまた落下し、新たな土煙があがった。
やがて、土煙が晴れると、無様に這いつくばるドラゴンの姿が顕わになった。もう立ち上がることはできないだろう。
しかし、勝利の喜びに酔いしれいるケルベロスは一人もいない。
なぜなら――、
「――三十分経過」
スウが静かに告げた。
グランドロンは無傷の状態で聳えている。儀式は完了したらしい。
ケルベロス側の敗北。他の四つのエリア――奈良、伊勢、浜松、静岡のうちの二箇所以上で同様にケルベロスが敗れているのなら、城ヶ島はユグドラシル化してしまうだろう。
「くっくっくっ……」
ドラゴンが笑い声を漏らした。
しかし、敗者たるケルベロスたちを嘲っているわけではないらしい。命の火が消えかけた彼の目は、自分と同じように地に転がっている白百合騎士団の死体に向けられている。
「まさか、エインヘリアルの小娘たちと手に手を取って、黄泉路を渡ることになるとはな。『定命化したドラゴンを救う』というハールの口約など、ただの名目に過ぎぬと思っていたが……」
そして、目を閉じ、竜牙兵たちに最後の指示を出した。
「同胞たちに伝えよ。ハール率いる五軍同盟は我らを捨て石にしなかった、と。奴らは信用に足る、と」
「なに言ってんのよ! 信用できるわけないでしょうが! レリはともかく、ハールはアンタたちを利用してるだけだって!」
幽が大声で異を唱えたが、ドラゴンはなにも答えなかった。息絶えたのだろう。
残された竜牙兵たちが武器を構え直し、ケルベロスたちに迫ってきた。威嚇するかのようにゆっくりと。
「退きましょう。これ以上の戦いは無意味です。作戦は失敗したのですから」
幽の肩に手を置いて、エルスがそう言った。
「悔しいけど、しょうがないね」
ライトニングウォールを展開して仲間を癒しつつ、あかりが後退を始めた。
他の者たちもそれに続く。
「儀式を阻止できなかったことも痛いけど――」
アブソリュートボムで竜牙兵たちを牽制するスウ。
「――ハールたちに対するドラゴンの好感度が上がったのも痛いなぁ。すぐに瓦解する即席の同盟だと思って軽く見てたけど、少なくともドラゴン勢が同盟軍を裏切ったり出し抜いたりする目はなくなったかもねぇ」
「てゆーか! ドラゴンってば、チョロすぎ!」
言葉が怒鳴った。怒りと悔しさのあまり、可愛く振る舞うのを忘れている。大声に驚いたぶーちゃんが頭上でびくりと身を竦ませたことにも気付いていない。
「いとも簡単にハールのことを信じちゃって! 最強かつ最凶の種族のくせして、おつむの出来がレリと同レベル!」
「同レベルというか、相通ずるものがあるのかもしれない」
と、ルイーゼが言った。
「うん。そうだな」
アラタが同意を示した。
「レリとドラゴン軍というのは相性が良さそうだ」
「オークという要素を無視すればの話だけどね」
眉間に皺を寄せて、ぼそりと呟く幽。
「こうなることを予想した上で――」
あかりが首をかしげた。
「――ハールはレリとドラゴンたちを組ませたのかな?」
「だとしたら、さすがだな。言葉先輩の言い様ではないが、敵ながらあっぱれだ」
皮肉混じりにハールを賞賛しながら、ルイーゼが振り返った。
竜牙兵たちはその場にとどまっている。スウの牽制が効いたのか。深追いすることを警戒しているのか。
あるいは勝者の余裕か。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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