グランドロン迎撃戦~デウスエクス集結

作者:木乃

●呉越同舟
 攻性植物の本拠である、世界樹ユグドラシルと繋がる大阪城。
 この地にリザレクト・ジェネシスの一戦で別たれた、5つのグランドロンが集結していた。

 エインヘリアルの第二王女ハールの招請に、グランドロンを回収した他勢力が承諾したことにある。
 ダモクレスに進化の概念をもたらそうと画策する、ジュモー・エレクトリシアン。
 マスタービーストの継承者を自称する螺旋忍軍の獣使い、ソフィステギア。
 寓話六塔の空席に座すべく暗躍するドリームイーター、第七の魔女・グレーテル。
 そして……女性エインヘリアルの地位向上に奔走する、第四王女レリ。

 ハールも含め、グランドロンの欠片を有する彼女達の間に信頼、友愛、恭敬という情はなく。
 ただ、利害が一致した関係でしかない。
 彼女たちは、攻性植物とハールを軸に据えて同盟を組むに至ったのみ。
 次なる策は既に決してる……定命化の危機に瀕するドラゴンを懐柔し、同盟に加えること。
 ……権謀術数うずまくデウスエクス達による、一大作戦が始まろうとしていた――!

●大地穿つは割れた瓶(かめ)
「数百名のアイスエルフ、それを上回るアイスエルフのコギトエルゴスム救出に成功しましたわ。これでアイスエルフの皆様も安心できるでしょう」
 全てはケルベロスの頑張りあってのこと。
 オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は労いの言葉をかけ、同時にバインダーをめくりだす。
「しかし、この作戦時に得られた情報から、第二王女ハールを含む複数の勢力が、大阪城に集結しようとしていることが判明しましてよ……攻性植物、エインヘリアル、ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーター」
 いずれもグランドロンの欠片を回収し、コギトエルゴスムを手中に収める勢力。
 大阪城に5勢力が集うだけでも、非常に危険な状況であるが、問題はそれだけではなかった。
「攻性植物と第二王女ハールは、『限定的な始まりの萌芽』を引き起こすつもりですわ。深刻な定命化に苦しむドラゴン勢力の拠点、『城ヶ島』をユグドラシル化することで、ドラゴンを同盟に引き込もうとしていますの」
 最強の戦闘種族までも糾合するとなれば……どれだけの被害が出るかすら、想像がつかない。
「出撃してきたグランドロンを撃退し、ドラゴンとの同盟結成を阻止する他ありませんの。緊迫した情勢が続きますけれど、なにとぞお力添えを頂きたく存じますわ」

 目的地は大阪城――ではなく、
「今回は『各軍勢へ仕掛ける』ことになりますわ。奈良の第二王女軍、伊勢のダモクレス、浜松のドリームイーター、静岡の螺旋忍軍。そして熱海の第四王女軍にはドラゴンが援軍として参陣します――皆様は『いずれのポイントへ向かうか相談』してくださいますよう」
 宝瓶宮グランドロン……その欠片ひとつでも全長200~500mに及ぶ超巨大建造物。
 すでにそれぞれの勢力が補修を済ませ、ハールの要望通り稼働出来る状態だ。
 機動すれば猛威を振るう星辰要塞だが、難点は規格に見合うだけの、莫大なグラビティ・チェインを必要とすること。
「ハールは『5つに分かれたグランドロン』を利用し、大阪城からユグドラシルの根を成長させることで、城ヶ島を定命化の影響を受けないフィールドに変異させることが狙いです。『5つのグランドロンのうち、3つを撤退』させられれば、同盟軍の作戦を阻止できるでしょう」
 そして……戦場内に現れるグランドロンの宝物庫には、大量のコギトエルゴスムが保管されていることが予想される。
 撤退させるだけなら武力行使のみで収まるが、コギトエルゴスムの保護も行うなら――グランドロンの宝物庫へ潜入する、危険を冒すか否かが問われる。
「もし、その地のグランドロンの動力コアを制圧することができれば、ほぼ全てのコギトエルゴスムを救出し、有力な敵をも撃破することができるやもしれません。詳しい概要は別途、資料に記載しますので目を通してくださいませ」
 デウスエクスが徒党を組む……それだけで、危険度が高まるだけに、これ以上の連携は阻止したい。
 ドラゴンまでも定命化のリスクを脱すれば、積極的に破壊活動を行うだろう。
「うまく立ち回れば、妖精八種族のコギトエルゴスムを救出することも可能でしょう……その分、撤退させる以上に厳しい戦いとなりますわよ。『他のチームと連携して行動する』という選択肢も、視野に入れてくださいませ」


参加者
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
朧・遊鬼(火車・e36891)
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

●伊勢に降り立つ超層戦線
 交戦は免れられぬものだった。
 気配を消そうと、足音を忍ばせようと……羽虫一匹のがさぬ機兵の防衛網は侵入者を絡め取る。
 伊勢市を一時制圧したダモクレス達は、広域にわたって厳戒態勢で待ち構えていた。
 それに加え、友軍がどこからか発砲音を轟かせたとなれば、哨戒する兵士らも襲撃に備えて身構えるというもの。
 ――最初の接敵はアラームをセットして1分と経たなかった。
「よくもこれだけの試作機を用意できました、ねっ」
「攻性植物の技術で改良しているらしいけど……これだけ大掛かりな事をして、見逃されると思わないでもらいたいな!」
 霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)が熱線を遮る真後ろ、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)の放つ幻影のドラゴンが、クレイドール・クレイドルに熱風を見舞う。
 焼ける青銅の揺り籠の陰から、バンブーソルジャーが各々の竹槍を手に戦線を押し上げにかかるが、『接近は許さない』と水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)のアームドフォートが火を噴く。
「浮遊砲台、展開……――行けっ!!」
 固定用アンカーを射出した後、和奏の周囲に砲台が展開されると、足場ごと砲撃に飲み込まれていく。
 被弾を避けたもう一方の槍兵は砂煙から死角をとろうとするが、飛びかかってきたユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)のほうが一瞬早かった。
「腐葉土と成れ、雑兵。我が貴様の在りよう一切を否定してくれよう」
 掻き消すように否定しよう。無いものを証明させよう。
 非にして実。有にして無。――汝はいずこに在りや?
 ソルジャーが不自然にぐらついた直後、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)のブラックスライムが一口に捕らえる。
「どけどけどけどけぇ!! 遊びに来てんじゃねぇんだよ、こっちはよぉ!?」
 拳で殴る……いや、滅多打ちにしたという表現が正確か。
 一方的に暴力を振るうと、双吉はトドメとばかりに大斧で両断。
 そのままの勢いで第一陣を切り崩しにかかった。
「天狂瀾、開放……!」
 呪詛の残滓が弧を描き、クレイドールに致命打を与えた園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)に併せて朧・遊鬼(火車・e36891)の大鎌が飛来する。
 外殻ごと肥大化しようとする青銅童女は首を殺がれ、落着と同時に貴石がこぼれ落ちた。
「そのコギトエルゴスム、回収させてもらうぞ!」
 逃すまいと長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が滑り込むように拾い上げると、手にした宝玉は懐へ。

 コギトエルゴスム搭載機を退け、随伴していた攻性植物を一気に撃破してみせると、藍励達は遠巻きに映るグランドロンの欠片を見上げた。
 近づけば近づくほど、超高層ビルひとつに匹敵する巨大建造物であることが痛感させられ、内部の探索も容易ではないことは想像に難くない。
「向こうのチームと離れちゃったみたいだね……隠密気流はあまり頼りに出来ないようだし、警戒を怠らないようにするしかないかな」
 唸るアンセルムの言葉に、ナノナノのルーナをフードに仕舞いつつ遊鬼が頷く。
「どのみち目的地は同じだ……陽動班が引きつけている間に、俺達は前へ進むしかないだろう」
「此処は既に敵地と成っている、そして我らは眠れる命脈を手繰り寄せる為に在る。疾く向かわねば成るまい」
 『時間との勝負だ』とユグゴトが歩を促すと、再び陣形を整えて進軍を再開。
 アンセルムと双吉が数メートル先を行き、その背を和奏達が追従する。
 ――屹立するグランドロンの欠片へ肉薄するものの、迫るにつれて警備の網目は狭くなっていく。
(「くそ、思うように身動きがとれねぇな……」)
 道中での交戦は避けて体力温存を……と考えてはいたが、道を選ぼうとするほど時間は経過していく。
 一歩でも前へ、先へ進まなければ。時間は有限。内部へ潜りこんでからが正念場となる――。
 こみ上げる焦燥感を押し殺しながら、双吉は角の先を確かめようとこそっとミラーを差し出す……そのとき、微かな反射光が生じた。
 平時ならば気にするほどのものではない、ほんの些細な光……だが、その微かな異変にすら警戒する状況に身を置いているのだ。
 ――鏡越しに無機質なレンズと視線が交わる――。
 双吉自身も鏡を破壊される直前に、敵影を確認できたことは幸いだろう。

 パキンッ!!
 ――――鏡が砕け散る甲高い音が響き、和希がいの一番に飛び出す。
「軋峰さん、アンセルムさん……!!」
 凍結光線による牽制射撃で和希が注意を引いた一瞬、周辺で警邏していたダモクレスと攻性植物が波のように押し寄せてくる。
「さすがにグランドロン間近となると、敵の数が多いね」
「ここいらで適当に潰して一点突破としゃれこむか。――ルーナ!」
 鯉口を切ると同時に踏み込む藍励に、フードから飛び出したルーナがハートのバリアで支援しようと飛び回る。
 一斉照射する遊鬼の黒い陽光をはね除けるように、クレイドールも結晶体からビームを放射する。
 前衛ごと一蹴しにかかった熱線はコンクリートを焼き払い、アスファルトは高熱によって半液状化していく。
 攻性植物らも銃火器を構え攻撃態勢に――緩んだ足場に残った石塊を跳び越え、千翠は時計を一瞥する。
(「時間は……8分を超えたところか、ここで立ち止まる訳にはいかないが」)
 思考する千翠の頭上に破壊筒がばらまかれ、舌打ちしながらそれらを掻い潜ると、千翠の後の道が発破でめくれあがっていく。
「邪魔を、するなァッ!!」
 憎き攻性植物の姑息な攻め手に、千翠の表情は嫌悪の色で染まっていく。
 招来した御業に爆弾兵を緊縛させると、構成する竹に荒縄のような痕が浮かび、捕らえたソルジャーめがけて和奏の放った砲弾が頭部を消し飛ばす。
 力任せに得物を突き立て、自らを盾に前進するユグゴトをアンセルムの放つ健脚が孤立を防ぎ、クレイドールを優先して撃破しようと双吉の凍結弾が外骨格を穿つ。
「来るぞ! 本体が膨れてきやがった!!」
「和希――――!」
 アンセルムの呼びかけに和希が銃口を向ける。
「そのまま、潰えろ……」
 ギラリと狂気の光がチラつく。
 放たれる超重力弾が青銅娘の上体を捉え、カウンター気味に放たれた一撃は明後日の方向へ……、
「――爆ぜろ、檻よ」
 射線が逸れた一瞬を逃さず、アンセルムは煉獄の檻で雁字搦めに。
 爆散させた残骸から和希がコギトエルゴスムを漏れなく回収し、きっちり連携を締める。
(「希望の未来のために、是が非でも成功させる……だから!」)
 植物兵と刃を交えていた藍励の右手に力が入る――。
「時解空封」
 妖刀の切っ先から黒と白の光が伸び、入り乱れ、尾を引きながら正八面体を描く。
「――陸之型『菱零』」
 流れるような一太刀で斬り伏せると、繊維の先まで染みこんだ水分が凍結し、脆くも崩れ落ちていく。
 粉微塵となった残骸を踏み越えて、藍励は奥へと突き進む。

 戦闘音を聞きつけ、まばらに現れる増援ごと蹴散らしながら、遊鬼達は着実にグランドロンの欠片へと距離を詰めていく。
「ユグゴトさん、作戦経過時間は!?」
「刻は――」
 和奏の要請で確認しようとしたとき、最初のアラームがユグゴトの耳に届いた。
「――――現時刻で、10分と成った」
(「グランドロンまで、あと数百メートル……ここで押し負ける訳にはいきません!」)
 弾倉に変形させた竜槌をギアチェンジし、和奏は無数の砲台固定アンカーを足下に射出する。
 がっちり固定できたことを確かめ、和奏は眼力に全神経を集中……射線を瞬時に捉えた。
「突破口を、これでっ!」
 思いの丈を込めた一斉砲撃が遊鬼の頭上を越え、揺籃に風穴を開ける。
 ひらいた大穴からこぼれ落ちるコギトエルゴスムを遊鬼は逃さず、地べたに落ちるより早く確保してポケットにしまい込む。
「もう少し保ってくれよ……!」
 千翠の守護星座が星の河流となり、ユグゴト達に加護を与えていく。
 ……耳を澄ませば、他チームの戦闘音も目的地まで近づきつつあることがわかる。
(「このまま一気に突き進めば!」)
「さあさあ道を開けな、邪魔する奴はこの鬼火で相手してやる」
 凍える炎を揺らめかせ、遊鬼の左ストレートがクレイドールの顎下を打ち貫く。
 下体の揺り籠ごと激突し反撃する童女は、何度目かの変異の兆候をみせ、すかさず藍励と和奏が攻勢に打って出た。
「藍励さん、動きを止めているうちに!」
 和奏は周囲の攻性植物ごと動きを制限し、銃弾の嵐の中を藍励は鋭角な軌道で飛び抜ける。
「それじゃ、おやすみなさい。永遠に――!」
 呪力を帯びた偃月の一撃が童女と揺籃を斬り離す。
 火花を散らして瓦解するクレイドールから覗く宝珠を見つけ、和希は無駄なく引き抜いていく。
「もう少しだ! 気張っていくぞ!!」
 遅れを取り戻そうと意気込む双吉を筆頭に、千翠達は追随する。

 ……しかし、ジュモーがなぜ『進化』にこだわるようになったか?
 最たる要因であったケルベロスが、どれほど脅威であるか自らが感じ取ったか――此度はその想定度合いが影響したといえる。
 ジュモーにとってケルベロスという存在は、脅威として認定され、その恐るべき成長速度を『劇的な進化』と評した。
 故に、彼女は冷静に。
 故に、彼女は慎重に。
 故に、彼女は客観的に。
 ――己が身に迫る猛威へ俯瞰した評価を下すことが出来た。
 機械的な合理性に加え、研究者らしい柔軟な思考をジュモーは持ち合わせていたのだ。
 もしくはその揺るがぬ判断力こそが、指揮官型ダモクレス唯一の生き残りとなった要素なのかもしれない――。

 ――ズ、ズズ…………ンンン……ッッ!
 突然の地鳴りが戦場内を駆け巡る。
 その直後、ユグゴトに穂先を向けていた攻性植物が反転し、ダモクレスらも追うように一斉に後退を開始した。
「何事、か……――っ!?」
 息を呑むユグゴトの視線を追うように、アンセルム達も目を向けると――その先には、再浮上を開始したグランドロンの欠片があった。
 想定以上にはやく見切りをつけたことに焦り、千翠達は離陸する欠片に追いつこうと全力で駆けだす。
「どういうことだ!? こっちはまだ接触すらしていないぞ……!」
 ルーナをフードに仕舞いこむ遊鬼は、加速度的に上昇していくグランドロンに大鎌を擲つ。
 その一撃を皮切りに、継ぎ接ぎだらけの外層へ一斉に攻撃を仕掛けていく。
 ぐんぐんと高度を上げていくグランドロンに、いくつか傷を残すことは出来たものの、決定的な一打を与えるより離脱速度が速かった。
「もしかして、グランドロンを破壊されると思って?」
「――……あーそうか! ダモクレスにしてみりゃ今や超弩級ダモクレスに変わる大拠点……しかもコギトエルゴスム付きとあっちゃ、ほとんど死に体のドラゴンより利用価値が高いってか」
 和希の呟きに、双吉は撫でつけた髪を掻きむしり、悔しさを滲ませた。
 その歯痒さはこの地に降り立ったケルベロス全員が感じたことだろう。
「回収できたコギトエルゴスムは、試作型ダモクレスに入っていた分だけ……か」
 天高く飛翔していくグランドロンを見上げ、千翠は奥歯を噛み締める。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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