グランドロン迎撃戦~糾合と思惑

作者:柊透胡

 大阪府大阪市――2016年末に勃発した「爆殖核爆砕戦」により、攻性植物のゲートであり、ユグドラシルの一部と化した大阪城。
 彼の地に、昨年末の「リザレクト・ジェネシス」の戦いで5つに砕かれたグランドロン――即ち、グラドロンの欠片と共に妖精8種族のコギトエルゴスムを掌握したデウスエクスが集結していた。エインヘリアルの第二王女・ハールの招聘である。
 具体的に名を挙げるならば――。
 ダモクレスの進化を目論む科学者、ジュモー・エレクトリシアン。
 マスタービーストの継承者を自称する乱戦忍軍、ソフィステギア。
 寓話六塔の座を虎視眈々と狙う、第七の魔女・グレーテル。
 そして、女性の地位向上に取り組む、エインヘリアルの第四王女・レリ。
 奇しくも、グランドロンの欠片の主となったデウスエクスは、ハールも含めて女性ばかりであるが、そこに好意的な信頼は存在しない。
 ただ、互いに利用し合う利害関係を以て、攻性植物と第二王女ハールを主軸とする同盟結成に至った。
 彼女らの次なる企みは、ドラゴン勢力の懐柔――斯くて、多くのデウスエクス勢力を糾合した大作戦が今、動き出そうとしていた。
 
「アイスエルフ救出作戦、お疲れ様でした。皆さんの奮闘により、数百名に及ぶアイスエルフと、更に多くのアイスエルフのコギトエルゴスムの救出が叶いました」
 集まったケルベロス達に、粛々と報告する都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
 既に、救出されたアイスエルフは定命かを果たし、ケルベロスとなった者も現れているようだ。新たな仲間が増えた事は確かに喜ばしいが、創の表情は厳しい。
「作戦時に得られた情報から、第二王女ハールを含む複数の勢力が大阪城に集結しようとしている事が判明しました」
 つまり、攻性植物、エインヘリアル、ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーターの5勢力が大阪城に揃う事になる、これだけでも、非常に危険な状況であるのは間違いない。
「更に、ヘリオンの演算により、竜十字島のドラゴン勢力をも引き込もうとしている事が判明しています」
 大阪城のユグドラシルは、攻性植物の本星の一部だ。その影響の範囲内では、定命化の進行が抑えられるという。定命化の危機に瀕するドラゴンにとって、多大なる一利となろう。
「攻性植物と第二王女ハールは、『限定的な始まりの萌芽』を引き起こし、ドラゴン勢力の拠点である『城ヶ島』をもユグドラシル化する事を企んでいます」
 もし、ドラゴンまでもが1つの勢力に糾合されれば、大変な事態となるのは必至。何としても阻止しなければならない。
「城ヶ島のユグドラシル化は、大阪城から城ヶ島に至るまで、ユグドラシルの根に莫大なグラビティ・チェインを注ぎ、成長させなければなりません」
 第二王女は『5つに分かれたグランドロン』を利用した。まず、同盟勢力がそれぞれ、特定の地点にグランドロンを出撃。グラビティ・チェインの注入を開始する。
「ユグドラシルの根の成長に足るグラビティ・チェインを注ぐには、30分以上、その場に留まって作業を行う必要があるようです」
 5箇所のグランドロンの内、3箇所以上で作戦が成功すれば、城ヶ島のユグドラシル化は成立してしまう。
「グランドロンの出現地点は、奈良、伊勢、浜松、静岡、熱海の5箇所。皆さんには、最低でも3箇所のグラビティ・チェイン注入阻止をお願いします」
 グランドロンは、全長200m~500m程度。5つに砕かれた欠片である為、歪な形をしている。
「グランドロンは各地に着陸の後、グラビティ・チェインを地中に送り始めます。その間は作業に専念する為、無防備状態です」
 そんなグランドロンを護る為、先んじて護衛のデウスエクスが降下。露払いの後、そのまま周囲の警備に移行する。
「着陸地点については、市街地である事は判っていますが詳細は不明。ですから、最大限、全域の市民を避難させていますので、市街地は無人です」
 作戦を成功させるだけならば、作戦開始から30分以内に、デウスエクスを撤退させれば充分だ。
「無防備のグランドロンを外から集中攻撃すれば、外壁を破壊して内部に侵入が可能です」
 例えば、グランドロンの宝物庫に忍び込み、妖精八種族のコギトエルゴスムを救出すれば、アイスエルフに続いて新たな種族を仲間に迎える事も夢ではないだろう。
「但し、グランドロン内部のコア部分には有力な敵と護衛、宝物庫にはコギトエルゴスムの守衛などが残っていると思われます」
 その上で、グランドロンを制圧出来れば、妖精八種族を救出のみならず、指揮官の撃破にまで手が届くという訳だ。
「同盟の中心である第二王女ハールの狙いは、攻性植物やドラゴンの力を借りて、エインヘリアルの王位を簒奪する事で間違いないでしょう」
 エインヘリアル、攻性植物、ドラゴンの3種族が同盟を組むというのは、正に悪夢と言って過言でない。だが、上手く戦えば、グランドロンの撃破や更なる妖精八種族のコギトエルゴスムの奪取と、リターンも大きなチャンスと言える。
「逆に考えれば、『城ヶ島のユグドラシル化』自体は5つのグランドロンの内、2つまでは阻止出来なくても構いません。ですから……戦力の選択と集中が重要になるかもしれませんね」
 ご武運を、とヘリオライダーは静かにケルベロス達を見回して締めくくった。


参加者
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)

■リプレイ

●陽動開始
 大阪城から城ヶ島へ――ユグドラシルの根を通じさせんとするエインヘリアルの第二王女、ハールは分かたれたグランドロンの利用を画策。地下にグラビティ・チェインを注ぐべく、奈良、伊勢、浜松、静岡、熱海の5箇所に出現させた。
「利用関係とはいえこれだけ多種類のデウスエクスを結びつける……ユグドラシル、分かってはいたけど恐ろしい存在なんだよ」
 七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)の言葉通り、ハールの画策に乗ったデウスエクスは1つや2つではない。
「あれダナ」
 果たして、上空を警戒していた君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は、自然にはあり得ぬ影を認めるや、すぐさまバイクのエンジンを吹かす。グランドロンは何処に降下するか知れない。市街地を素早く移動出来るよう、ケルベロス達は予め分かれてバイクに搭乗していた。タンデムに加え、動物変身して乗り込んでいる者もいるようだ。
「なるほど、あれか……」
 標的たるグランドロンを見上げるのも束の間。マントをはためかせて先導する眸のバイクを、追い始めるウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)。更に、エンジン音が次々と無人の街中に響く。
「おっしゃ、行くぜーっ」
 特に、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)はとても楽しそうだった。その運転は、覚えたばかりの所為か豪快だ。
「実はこういうのは慣れてなくてな」
 対照的に、バイクの不慣れを口にしていたのはナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)。
「……まあ、ケルベロスなら事故っても死なないし。転んでも痛いだけだ」
 サラッと不穏を嘯いたが、実際、ドライビングテクニックは完璧で、彼独特の冗談であったのかもしれない。
 街中を疾駆するケルベロス達は、程なく、地上へ降下しつつあるグランドロンを発見した。
 三重県伊勢市に出現したグランドロンの護衛は――ダモクレス軍。
(「またうちの故郷でやらかしよって」)
 四日市といい、桑名といい、今回の伊勢といい!
「三重は、アンタらダモクレスの演習場やないんやで!」
 大いに憤慨している田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は、一発お返しどころか撃滅する気満々だ。
(「市街地の被害、減らさんとな」)
 そうして、グランドロンより出撃してきた一団は、竹の攻性植物の兵士らと……遠目には、ケルベロスも戦った事のある試作進化型ダモクレス、クレイドール・クレイドルに似ていない事も無い。
 ともあれ、ケルベロス達の今回の役割は『陽動』。派手に引き付けるべく一斉に身構える。
「敵さんはっけん! 妖精さんはお前らのパーツじゃないんだからねっ!」
 ストップウォッチを作動させた月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)は、スコープ片手に声を張る。同時に、瑪璃瑠もストップウォッチのボタンを押す。制限時間は、30分。この間に、最低限、グランドロンを撤退させなければ。
 勿論、それだけで終わらせる心算は、誰も無いけれど。
「さて……お互い、粘れるだけ粘ろうか」
 不敵に呟くフローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)。いつでもヒール出来るよう、仲間を注視する。
「ルべウス……皆に力を……」
 手始めに、背の偽翼より展開する六芒陣から溢れる膨大な光を以て、前衛に破魔為す光翼を齎した。

●襲撃VS迎撃
 陽動班は東西に分かれて――その一翼を担う彼らは、突入口からなるべく離れる算段で動き始める。
「広喜、背中は任せタ」
 相棒に言葉を掛け、ミサイルポッドの照準を合わせる眸。まだ敵のポジションは知れぬが、先制攻撃の好機を逃すのは勿体ない。
 ――――!!
 直近の敵にマルチプルミサイルを浴びせれば、息を合わせたビハインドのキリノがポルターガイストを操る。続いて、駆け寄りながらオウガ粒子を放出する広喜。凡そ、眼力が示す命中率は高めながら、今回の編成は、実戦経験にも差がある。全員の攻撃が命中するようになってこそだ。
「皆さんのお力に」
 マリアのブレイブマインが爆ぜると同時、氷結輪から派手に冷気の嵐を奔らせるナザク。
「前衛は……ダモクレス3、攻性植物2」
 これで、突入班の動きを眩ませられれば重畳だ。
「了解!」
 最大効率を幸いに、後衛の位置からよくよく狙いを付けた縒が掲げるのも「六花戦輪」と銘した氷結輪。素早く地面に「魔法の霜」の領域を展開する。
「邪魔をしないで欲しいんだよ!」
 抗えず前衛の半数が動きを鈍らせれば、一目散にグラントロンへ向かわんとする素振りで、血染めの包帯を振るう瑪璃瑠。染み付いた血が硬化するや、槍の如き鋭さで1体を真っ向から貫いた。
 ちらりと腕時計で時間を確認するウリル。
(「必ず成功させて、皆で無事に帰ろう」)
 最愛の妻が贈ってくれた大切な時計にそっと触れ、気合を入れる。次いで、ドラゴンブレスを吐こうとして、微かに眉を顰めた。
「メタリックバーストを、頼む」
 更なる命中率向上を要請しながら、攻撃は得手のグラインドファイアに変更した。
 ――――!!
 攻撃を浴びせてきたケルベロス達へ、覿面迎撃に向かってくる敵の一団。その数は攻性植物5、ダモクレス7、合せて12。デウスエクスとて眼力を具えるならば――標的は、前衛に立つウリルに集中した。幾許かは眸とキリノ、広喜が阻むも、敵の手数は多い。少なからずの傷が、ドラゴニアンの青年に刻まれる。
「回復を」
 ウリルのダメージの程を見て取ったナザクの掛け声に、すかさず、自らとウリルと大自然を霊的に接続し、傷を大きく癒やす瑪璃瑠。
「生きて欲しいんだよ。生きたいんだよ。それがボクたちの願いだから!」
「これで、少しはましになる筈……」
 フローライトの右砲より放たれた光弾――マインドシールドも、ウリルに当たるや光の膜となって包み込む。
「命中補助します」
 爆破スイッチは一先ず置いて、マリアは要請通りに全身から光輝くオウガ粒子を放出した。ジャマーのエンチャントは、掛かれば心強い。
 各個撃破を目指すのはケルベロスも同様。一連の動き、射程、命中率から、敵のポジションを見出すや、まずは盾たる攻性植物から倒しに掛る。
 逸早く、キリノが金縛りを掛けた竹の兵士に、胸部を変形展開させ必殺のエネルギー光線を放つ眸。広喜は素早くガネーシャパズルを組み替え、竜を象る稲妻を解き放つ。
 何処か物憂げなナザクの呪怨斬月が呪詛を載せて美しい軌跡を描けば、ウリルの喰霊刀は魂を啜らんと呪われた斬撃が唸りを上げた。
(「陽動だから、がっつり敵さんの気を引かないとだね」)
 そうして、縒は「砲撃形態」から竜砲弾をぶっ放す。轟竜砲と言うからには、大きな音が出ればいい、そう思った。

●時期尚早
 戦いは、続く。あっという間に数分が過ぎ、ナザクは気付く。ダモクレスの姿は、クレイドール・クレイドルに似る。だが、ポジションによって、強化された要素が異なるようだ。強化が特化した所為か、数分経ても自壊する気配はない。
「改良型、とでも呼べば良いのかな……?」
 コギトエルゴスムが埋め込まれているのは変わりないが、より植物めいて見えるのはけして気の所為ではないだろう。或いは、攻性植物の技術も使われているのかもしれない。
「このよウな姿になって利用され、哀れだと思ウ」
 様々なテクノロジーが詰め込まれていれば尚の事、ジュノーがコギトエルゴスムを素材扱いしているのが透けて見え、同情の色を浮かべる眸。
 その刹那を逃さず、攻性植物の攻撃がレプリカントの青年を穿つ。
「眸さん!?」
「大丈夫ダ」
 心配そうな瑪璃瑠に返し、眸はコアの出力を最大まで上げる。
「……Ally/Emerald-heal……承認」
 コアエネルギーを生命力に転換。肌に浮かび上がった回路の光で自らを癒す。
「ほんとにもう……生きると決めたんだ……。ボクたちの現も夢も終わらせないんだよ!」
 大事無さそうな眸の様子に、ホッとするのも束の間。瑪璃瑠の眼が、金色に変じる。
 現世は夢、夜の夢こそ真。儚き現よ、ボクの夢に呑まれよ――敵にとって都合のいい現実を夢とし、己にとって都合のいい夢を現実として押し付ける「夢現天換」。果たして、攻性植物が求める夢は如何なるものか。
「動かないでもらえるかな?」
 攻性植物が残らず潰え、続いて縒が眼を細めれば、金色の光を帯びる。瞳にグラビティ・チェインを集中させ、眼力を以て空間を歪ませる。
「牽制します……まずはその動き、止めてもらいますよ!」
 抗えず動きを鈍らせたダモクレスへ、マリアは神鎖抑制閃弾――対デウスエクス用の麻酔弾を発射する。
 敵の後衛よりヒールが飛ぶも、エンチャントが威を発揮する前に、広喜の拳が奔る。
「全部ぶち壊してやるよ」
 掌部パーツに集中させた青い地獄の炎が敵の加護を砕き潰す。元より力加減はコントロール出来ず、そのままダモクレスの少女めいた頸を握り潰し動作停止に追い込んだ。
 集団戦は、最初の1体を倒すまでの競り合いが苦しい。だが、そこを乗り越えれば、後は一気呵成。デウスエクスは次々と、重力の楔を穿たれていく。
「……それが……あなたの『核』」
 フローライトが落としたアンプルより、霧と共に浮かぶのは彼女の姉の影。
「……捉えたよ……『核分裂』……」
 対象の魂――『核』へと魔術介入を行う『核魔術』。姉妹の魔力を以てして『核』を引き裂く。それは、心なきダモクレスでも例外なく。
「……逃がさない」
 無数の花弁に紛れて放つ、白銀の一閃。夢魔の子たるナザクは、一切の迷いを断ち切るように、機械児の夢の終わりを見届ける。
「もう終わりにしよう」
 黒き竜が哭く――それは、シュウエンノトキ。俄かに立ち込める霧の中で死神が両手を広げて切り裂けば、深紅の薔薇は滴る血のように散る。ウリルの目の前で、最後のデウスエクスは闇に沈むように崩れ落ちた。

「ディフェンダーへの移動は……必要ないか」
 第1戦を経て、少なからずの敵と対峙しながら仲間は誰も膝を突いていない。顔にこそ出さないが、フローライトは頼もしく思っている様子。
「よっしゃ! このまま次行こうぜ!」
「皆、行けるかな?」
 広喜が明るく戦闘継続を宣言すれば、気遣うように7人と1体を見回すナザク。
「大丈夫だよ! うちだってケルベロスだもん!」
「ヨシ。ならバ、全ての敵ヲ、殲滅してやろウ」
 縒の強気に、眸も力強く肯き返す。
「休ませては……くれないか」
 意気盛んな仲間を見やり、ウリルも不敵に笑む。戦いに高揚した身体の熱は、少々の事では収まるまい。
「そうだな、各所で味方が奮戦しているからね。俺達も負けてはいられないだろう?」
「だったら、先に癒しますね」
「じゃあ、ボクも!」
 さして苦戦で無かったとはいえ、多数の敵を相手にすれば無傷ではない。マリアがメディカルレインを降らせれば、瑪璃瑠は癒しの風を喚ばう。
 素早くヒールを済ませるケルベロス達。連戦するべく索敵する。だが、次の戦闘の目星を付ける前に――事態は急転する。
「……あれ?」
 スコープ越しに次の索敵をしていた縒は、唐突に覚えた違和感に眉を顰める。
「え……」
 最初にその原因に気付いたのは、マリアだ。
「グランドロン、もしかして……動いてる?」
「マサカ!?」
 眸が急ぎ首を巡らせば、よもやそのタイミングでグランドロンが浮き上がろうとは。
「まだ、15分しか経ってないのに!」
 丁度、最初のアラーム鳴り出したストップウォッチを握り締め、縒は狼狽を叫ぶ。
「むぃー」
 思わず兎の鳴き声めいた声を上げ、追い掛けようとした瑪璃瑠だが、急浮上したグランドロンは、どんどん小さくなっていく。
 果たして、ケルベロスのグランドロン侵入の前に逃げられたという結果は、程なく彼らも知る所となる。

●陽動の意義
 ――伊勢に投入されたのは6チーム。その内訳は陽動班2に対して内部突入班4。明らかに、グランドロン攻撃に偏重している。
 そして、陽動班も『陽動と悟られぬよう、本気でグランドロン突入を狙っているように行動する』という指針で行動していた。
 ここで、思い返すべきはダモクレスの行動指針であろう。
『ケルベロスがグランドロンを攻撃する戦力を繰り出してきた場合、無理せずに撤退を選択する』
 そう、ダモクレスの指揮官であるジュモー・エリクトリシアンは、「ケルベロスは全戦力でグランドロンの破壊を目論んでいる」と判断したのだ。果たして、ケルベロスの攻撃が本格的にグランドロンに届く前に、『無理せぬ撤退』が為された訳だ。
 伊勢のケルベロスは、陽動の意義を取り違えたと言わざるを得ない。
 グランドロン内に侵入を果たし、コギトエルゴスムの奪取、更にはグランドロンの撃沈まで狙うならば、「ケルベロスの戦力的にグランドロン攻略は無理そうだから、このまま作戦続行」と、ジュモーに誤認させなければならなかった。諜報力の高い静岡の螺旋忍軍と違い、ダモクレス相手ならば、立ち回り次第で謀る事も十分可能であっただろう。それだけに、残念な結果となってしまった。
(「全滅させてやる、くらいの気概でいたのだけど」)
 いつも全力で武威を示せばいいという訳ではないのは、大規模な作戦の難しい所。苦さ含む眼差しでグランドロンを見送らざるを得なかったナザクは、小さく唇を噛む。
 それでも、伊勢のグランドロンはユグドラシルの根を伸ばす前に撤退した。作戦の成否を問われれば、確かに『成功』だ。
「むぃー、何だか悔しいなぁ」
 とは言え、不本意な戦果にピンクの眼を不満げに眇める瑪璃瑠。
「フローラは……みんなを護れた、のか……?」
 自問するフローライトは、何処か釈然としない面持ちか。
(「過去、己もダモクレスだったからだろウか……ダモクレスの進化といウ言葉には、何か、嫌なものヲ感じルのだ」)
 逃げ果せた形のダモクレスのこれからに、眸は懸念を禁じ得ない。
「ま、次はしくじらないように頑張ろうぜ!」
 広喜のいっそ無邪気な前向きに、救われたケルベロスもいるだろう。
「兎に角、全員無事だ。お疲れ様……少なくとも俺は、思い切り戦えて楽しかった」
 ウリルの言葉に、広喜はググッと両手を握り締める。
「次こそは、ジュモーに『ほら、ヒトってすげえだろ』って言ってやるんだ!」
「……そうやね」
 言葉少なに頷いたマリアは、戦闘で荒れた周辺にヒールを掛け始める。
 周りを見回せば、春の陽射しに反射してチカリと光る物が幾つか――最初の戦いで倒したダモクレスに埋め込まれていたコギトエルゴスムだろう。
「グランドロンさんはどんな姿してるのか見たことないけど……仲良くなれたらいいなぁ」
 数少ないからこそ、得られるコギトエルゴスムは貴重。1つ1つ拾い集めた縒は、大事に大事にウエストポーチに仕舞い込んだ。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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