グランドロン迎撃戦~インベーダーズ・アライアンス

作者:弓月可染

●アライアンス
 地下より顕現したユグドラシルによって大阪城周辺が失陥し、二年以上が経つ。
 いまや、攻性植物の母星たる世界樹の一部と化したその地に、魔導神殿群ヴァルハラが一基、宝瓶宮グランドロン――その五つの『欠片』が集結していた。
 無論、その所有者達もまた。

 ダモクレス六大指揮官が一、ジュモー・エレクトリシアン。
 マスタービーストの継承者を自称する、螺旋忍軍・ソフィステギア。
 パッチワークの魔女の生き残り、第七の魔女・グレーテル。
 白百合騎士団を率いる、エインヘリアルの第四王女・レリ。
 そして、それらをこの地に招いた、エインヘリアルの第二王女・ハール。

 互いの利だけを求めて結ばれた大同盟は、更なるピースを求め蠢動する。
 ――城ヶ島を橋頭保とする、ドラゴンという力を。

●ヘリオライダー
「アイスエルフの救出作戦、本当にお疲れさまでした」
 激戦の疲れを未だ残したケルベロス達を、アリス・オブライエン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0109)は心から労った。
 戦いの成果は輝かしいものだ。数百人のアイスエルフと、多数のコギトエルゴスムの救出。その結果としてのアイスエルフの参戦。
 だが、ある意味で最も重要な成果は、彼女らが齎した大阪城の情報だった。
「アイスエルフの皆さんによれば、エインヘリアルだけではなく、複数の勢力が大阪城に集結しようとしているんです」
 既に判明していたエインヘリアルの第二王女・第四王女に加え、ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーターの各勢力が、グランドロンの欠片を携えて共闘しようとしているのだ。
「しかも、攻性植物と第二王女ハールは、ドラゴンすら取り込もうとしているのです」
 ユグドラシルの超増殖現象、『始まりの萌芽』。
 彼女らはそれを限定的に引き起こすことで、根を通してドラゴンの拠点である城ヶ島をユグドラシル化し、竜十字島の本隊をも自陣営に引き込もうとしていることが、予知で判明している。
「ユグドラシルでは定命化を克服できるという情報もあります。そうでなくても、ドラゴンの合流だけは、絶対に阻止しなければなりません」
 この作戦を行う為には、大阪城から城ヶ島までの根の通り道に、莫大なグラビティ・チェインを注ぎ込む必要があるのだという。
 第二王女は、グランドロンを利用してグラビティ・チェインを注ぎ込もうとしているらしい。
 グランドロンが現れるのは、大阪城と城ヶ島を繋ぐ経路である、奈良、伊勢、浜松、静岡、そして熱海。
「皆さんには、このいずれかに赴き、グランドロンを撃破か撤退させていただきたいのです」
 充分なグラビティ・チェインを注ぎ込むため、グランドロンは三十分以上その場に留まって作業を行う必要がある。この間に、五つの内の三つを撃破か撤退に追い込めば、最低限『始まりの萌芽』を阻止することが可能だ。
 また、危険度は跳ね上がるが、妖精八種族のコギトエルゴスムの救出や、グランドロンを制圧して敵将を撃破する事も出来るかもしれない。
「もし阻止に失敗すれば、大変な事態に陥ることは間違いありません。ですが、グランドロンの撃破や更なる妖精八種族の救出など、これはチャンスでもありますから」
 どうか、よろしくお願いします、と。
 妖精八種族をルーツとする少女は、そう言って一礼した。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)

■リプレイ


「こ、これは……、相当に警戒されていますね」
 風に紛れる程に小さく囁く結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)。
 伊勢に降り立ったグランドロンの近く。衣擦れの音すら抑えて進んだ彼らは、ここまで敵の警戒をやり過ごし、戦闘を回避する事に成功していた。
 だが、ここにきてその足は止まる。
「予想していたよりも、敵が減っていないみたいです」
 彼等の作戦は、陽動班が敵戦力を引き付けている間に、突入班が神殿へと侵攻するというもの。だが、多少は敵を間引けてはいるものの、決して守りが薄くなったとは言い難い。
「むしろ、僕達は待ち構えられていたようです。……来ますよ」
 周囲に気を配っていた藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)の発した警告。それと同時に、一行の前後からダモクレスが現れる。
「ハッ、前にぶっ壊した奴に似てるな。ひぃふぅみぃ……六つってとこか」
 前後に三体ずつ、計六体現われたのは、先日全国に現れたクレイドール・クレイドルとよく似た姿。交戦経験のある柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が、鬼瓦の様な笑みを貼り付けて、ずい、と前に進み出る。
「見つかったなら仕方ねぇ。聞いて驚け、俺はオウガ、柴田鬼太郎!」
 蘇芳の鞘より抜き放った大太刀を引っ提げて、魁偉なる戦士は見栄を切る。ぶんと一閃、得物を横薙ぎに振るうと同時に掌中のスイッチを押せば、赤備と見紛う爆炎が彼らの背を彩った。
「いざ、押し通る! 死にてえ奴から前に出な!」
「ええ、参りましょうか」
 一方、反対側の小隊へと向かう景臣。密やかなれど華やかに舞う彼の手に、まっすぐ一筋の光が集まって。
「灸で済ます程、甘くはありませんよ」
 雷纏う銀の刃が伝える手応え。いつの間にか眼鏡を外していた彼の視界が白く染まった。さの純白の輝きの中、一本の棍が突き入れられ――いや、その長さを伸ばしてダモクレスの外殻を抉る。
「こ、怖いですけれど」
 それこそが、レオナルドの放つ開戦の嚆矢。後戻りはしないという決意。
「――怖くない、ですから」

「これも、グランドロンの力を利用したダモクレス……」
 ぐ、と踏み込めば、火花を散らす金の歯車が少女を一足飛びに疾らせる。四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)が自らに与えた役割は、戦場を掻き乱す一撃離脱の刃だった。
(「まだ、当分は大丈夫の筈……」)
 改良されてはいるようだが、彼女もまた、この敵を知っている。傷つければ強化され、やがては用いられたコギトエルゴスムごと失われてしまう事を。
 故に、千里は、そしてケルベロス達の多くは、範囲を薙ぎ払う様な攻撃を自ら戒めていた。
「助ける……一人でも多く」
 竜槌より放たれた火砲が『揺り籠』を怯ませ、足を止める。その隙を見逃さず仕掛けたのは、ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)。彼が弦を爪弾くたび、彼の相棒はアンプを通したかの様に重い音を響かせる。
「デカいハコにノリのいい観客。熱いライブになりそうで何よりだ」
 メロディの勢いのままに踏み込んで、ベースのネックを一突き。ずん、と伝わる衝撃。しかしウルトレスとその相棒はものともせずに、敵を蹴りつけ跳び退って。
 ちらり、右側に視線を飛ばす。蒼き視線のその先で、紅の瞳が絡まった。
「そろそろ交代じゃない、UCさん?」
「仰せのままに」
 いつしか、演奏はよりメロディアスな旋律へと変わっていく。コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)、夜空の星を纏う歌姫をこの戦場へと迎える為に。
「それじゃ、謡おうかしら。打ち上げの一杯の為にも、ね」
 そして、世界は時を止める。今この瞬間、戦場を支配するのは唯一人のソプラノヴォイス。伸びやかなれど力強い歌声が、集う仲間達の意識を覚醒させていく。
「派手なのはいい。派手に目立ってくれりゃいい」
 咲き誇る戦場の華。その陰に潜むかの様に、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)はゆらりと動いた。
「災いの芽は、実を結ぶ前に断つに限る――」
 視界を。気配を。意識を。乱戦の中、全てが気取られぬ様に。
 囁く様な詠唱ひとつ。ふわり、とその姿がぶれた。
「――オヤスミ」
 魔術と剣術とが意図的に作り出した死角から躍り出て、一息に斬りつける影の刃。
「足止めはやっとくさ。そっちは景気良く頼まぁ」
「ああ、任せた。そして任されよう」
 龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)が、腕を上げてその声に応えた。突き上げられた禍々しき手甲を黄金のオーラが包む。
「速やかに敵を倒し、グランドロンへと辿り着く!」
 穿つべき敵、既に外殻が破損した個体を見定め、彼は一直線に突き進んだ。戦士たる誇りを胸に、その拳一つを得物として。
「さて、いくぞ」
 回避しようとした敵の機先を制し、全力で殴りつける隆也。爆発にも等しい轟音が、二人の奏者のメロディを掻き消した。


 広範囲に放たれる熱線と、集束して穿つ麻痺光線。人工の紅眼より放たれる光が、次々とケルベロスを襲った。
 途切れた伴奏。ウルトレスが身体の自由を奪われた事に気付き、コマキもまた歌声を止める。代わりにと手にしたのは、星辰の力持つ薔薇の短剣だ。
「『ノリが良いのは結構だが、少し黙ってろ』――なんてね」
 抑えた声でそう台詞を真似てみせ、彼女はふわりと虚空を刃でなぞった。途端、地面に浮かび上がる天秤座の文様。降り注ぐ金星の女神の加護。
 もっとも、彼女はそれを、月長石の男ではなく前衛達へと与えた。そうする事そのものに迷いは感じなかった――けれど。
「へばってんじゃねぇ色男! いいおっさんが嫁さんを泣かすんじゃねぇぞ!」
「なっ……、鬼太郎さんよりは若いつもりですが」
 大声でどやす鬼太郎に、ずれた答えを返すウルトレス。だが、視界の端で捉えた日長石の恋人、その唇が僅かに弧を描いたのに気付き、彼は荒々しい檄の意図を悟る。
「おうよ。それでいい。俺達がしっかり癒しきれりゃ、それで勝てるんだ」
 そう言い捨てて、彼は自らの旅団の団長、その背へと太刀を振り被る。
「龍造寺殿、悪いが纏めて吹き飛ばすぜ!」
 ぶん、と斬り下ろせば、生まれ出でた剣圧が負傷の概念だけを切り捨てる。無論、身体に圧を叩きつけられる負担も無くはないのだが――。
「感謝する。――此処が正念場だ、怯むな!」
 縛めが消え去った瞬間、大喝と共に敵へと踊りかかる隆也にとっては如何程のものでもない。曲面の装甲で拳がいなされたと思いきや、勢いを殺さずに左脚に重心をかけ、風切る様に鋭い蹴りを放つ。
 直撃。
 大きく装甲が抉れ、生体めいた内側が露出し、そして。
「――ッ!」
 内側に秘されたヒトガタが吠える。初見の者達ですらここからが本番だと悟る程の、それは容赦のない殺意。
「……どこまでも好き勝手してくれる連中だな」
 使い捨てのコギトエルゴスム。そのやり口に、雅貴はす、と目を細めた。鋭い眼光に、明確な怒りが乗せられる。
 その間にも、ケルベロス達は集中攻撃を仕掛けていく。足止めも防御も今だけは捨てて、自壊する前に、あるいは強化された攻撃を防ぐべく。
「ああ、これ以上やらせてたまるかよ――」
 そして彼は動いた。
 常の様に漆黒の外套を翻し、なれど、飄々とした雰囲気は薄れ、その征く先はまっすぐに。
 ただ、雅貴の刀だけがゆらりと舞う。
「――文字通りの根回しも、更なる火種も、妖精の使い捨ても」
 円弧描く剣筋が銀の軌跡を奔らせ、そして彼の敵を両断し――妖精の宝石と瓦礫とに分かち隔てた。

 続いてもう一体を屠り、しかしなお戦いは続く。
 突如響いた三度目の絶叫に、白い鬣が大きく震えた。
「大丈夫。……まだ、いける」
 レオナルドが抱く不安は理由のないものではない。予想以上の警戒。強化された敵。過ぎていく時間。取り巻く状況全てが彼らの不利に働いている――そう思ってしまうのも無理はなかった。
 だが。
「俺達にとって、こんなものはピンチじゃなかった」
 柔らかい口調を捨て、そう自分に言い聞かせる。駆け抜けてきた数々の大戦。過去の記憶と経験が、震える身体に熱い何かを流し込む。
「我が心より生まれし畏れの炎――」
 溢れ出す白き炎。レオナルドの右手に、溢れ出した畏怖が象を成す。
 そして。
「――この一刀に纏て悪を断つ!」
 轟、と駆けた炎の斬撃が、下がろうとする機体を捉えた。爆炎。そして、その中に身を躍らせる小柄な人影。
「逃げようなんて無駄……」
 炎よりもなお緋き瞳を輝かせ、千里は一足に跳ぶ。回り込む様に着地。勢いのままに機甲靴を滑らせながらも、愛刀を大きく振り被り。
「……絶対に、殺す」
 斬り下ろす。鏡の如く煌めく斬撃が、空間を裂いて飛び――喰らいつく。
 それは千の魂喰らう妖刀。千の敵降す深緋の鬼。
「ここで、企みを終わらせる……グランドロンを利用させたりしない……」
「ええ、させません。……僕も、少々腹に据えかねていますので」
 騙され、縛られ、使い捨てにされる妖精達。自らの内に燻る苛立ちに、自分はもう少し冷静な性質ではなかったかと景臣は口の端を僅かに曲げる。
 薄紫の瞳に浮かべた感情は、彼の常よりも些か波立っていた。
「冷たくはないと思うのです――この様な所業を看過出来る程には」
 月光の如く凛とした刃に、纏うは幽かなる朧の火。じわり、現実を侵蝕する紅蓮が、踊り狂って彼の敵を灼く。
「むしろ――火加減は苦手な方でして」
 崩れ落ちるダモクレス。そして景臣に殺到する、生き残り機体の遅すぎる援護。
 だが、身体の芯を揺らす低音が響くと共に飛来したドローンが、盾となって光線を防いでいく。
「まだセットリストは半分も進んじゃいないんだ」
 髪を振り乱しながらベースを鳴らすウルトレスが、かすれた声で呟いてみせる。
「最後まで聴いて逝け――アンコールはお断りだが」


(「未だ眠ったままの奴らが、この星をどう思うかは判らない」)
 狂乱のままに暴れる四体目を前に、雅貴は刀を握り直した。ぐ、と力を籠めれば、ばちりと鳴る稲光。
「それでも――同じ八種の端くれとして、力を貸そう」
 彼の眼に映るは揺り籠という名の檻。望まぬ戦いを強いられる同胞の牢獄。それは、かつて彼らシャドウエルフが貶められていた境遇と同じだ。
「――自分の意思で、望む生活を送れる様に」
 自由を。祝福を。
 横にステップ一つ。死角からの接近にフェイントすら混ぜて、雅貴は雷纏う刃を突き入れる。装甲の隙間を縫って打ち込まれた一撃が、火花を散らし。
 爆ぜる。
「後二つだ! 敵の大きな一手を打ち砕き、その隙を突くぞ!」
 仲間達を鼓舞すべく大音声を張り上げて、五体目へと飛び掛かる隆也。頬をかすめた熱光線にすら動じず、竜人の勇者は黄金の闘気を漲らせる。
「知るが良い、俺達ケルベロスは人々の希望!」
 彼の手甲は破魔の槌。彼の拳は降魔の剣。数々のデウスエクスの力を鹵獲した隆也の右手が、ダモクレスの装甲を貫いた。
「そして、お前達の絶望だ!」
 ダモクレスが叫び、そのエネルギーを暴走させる。だが敵が暴れるより早く、粘りつく様な蒼白き炎弾が直撃し、外殻の亀裂から潜り込んでいく。
「一分一秒でも早く、グランドロンに辿り着いてみせます!」
 それはレオナルドの心の臓、失われた空洞に燃え滾る地獄より分かたれしもの。今は白く変えられた獅子の戦う理由であり、呪いそのもの。
 なれど、彼は畏れを力として、デウスエクスへと立ち向かう。
「もう一曲行くわよ」
「お供しますよ、コマキさん」
 高く響くコマキの歌声が、前に進む勇気を、やわらかな癒しを希う。そのメロディに被せて泣き叫ぶのは、ウルトレスの指と相棒とが生み出す暴力的な音圧だ。
 ――紡ぎましょう、私だけの詩を。
 ――ただ思うままに演る。それだけだ。
 カラーリングは王道のファイアグローではなくあえてのジェットグロー。4003のカスタムが生み出すサウンドに乗せて彼が歌うのは、耳障りな程にしゃがれたデスヴォイス。
 ああ、だがこの矛盾したツインボーカルは――あまりにも、あまりにもしっくりと重なり合って、死闘を繰り広げるケルベロス達の背を力強く押してくれるのだ。
 ダモクレスがさらに数を減らすまで、あと少し。

「俺達にやられりゃ漏れなく地獄行きだ」
 獰猛な笑みを浮かべた鬼太郎が、得物を鞘に納め、ぽきりと指を鳴らした。だが、道を開けろ、とはもう言わない。逃がしてやるつもりもない。
「それでもやるってんだ、覚悟はできてんだろうな――いくぜ虎ァ!」
 ウイングキャットの虎が飛び掛かり、爪を立てる。その後を追って敵に組み付いた鬼太郎。攻撃など受け止めてやるという気迫の源泉は、楯無とまでは言わずとも十分に堅い鎧故か。
「ぶっ潰してやるぜ!」
 オウガの膂力を十二分に生かした、力任せの一撃。そのスタイルを勇猛と呼ぶか粗野と呼ぶかは人次第だが――少なくとも、オウガという種に恥じる事のない戦いぶりには違いない。
「桃の花は邪気を祓う……」
 青地の上には艶やかなる桃華。千の魂を啜るべく鬼に落ちた少女は、妖精を喰らう機械仕掛けの鬼へと、ぴたり切先を向ける。
「……けれど、それだけじゃ終わらせない……せめて教えてあげる、恐怖を」
 赤く、紅く、色を増す瞳。
 斬、と。
 上段から斬った。ただそれだけだった。けれど、それは何百何千と繰り返した所作。全ての無駄を省いた一閃の前には、誰もが動きを止めるしかない。ただそれだけの事だ。
 距離を取って残心を示す千里。その視線の先で、最後の敵が全身から火花を散らし――。
「……やはり、攻性植物ですか」
 内部から覗いたパーツ代わりの植物に、景臣は目を細めた。敵がユグドラシルと化した大阪城に集結している以上、攻性植物の技術が投入されている事もまた必然。
 ならば。

 ――君は、もう手放すな。

「ならば、灰も残らず消し去りましょう」
 菫青の視線の先。機械人形の遥か向こうに見えたのは、逃れ得ぬ宿命、緩慢なる死の影が待つ未来。
 越えてみせよう。この企みも、大阪城への道も。
「たとえ、燃え尽きようとも」
 そう呟いた景臣の輝ける刃が、足掻く敵を貫き――この遭遇戦に爆風の幕を下ろした。


「六個とも確保したわよ」
 コギトエルゴスムを収納したコマキの声に、一同は神殿へと向き直った。その距離は指呼の間。突入口を確保すべく、彼らは攻撃の用意を整える。
 だが。
 突如巻き起こる地響き。そして上昇していく神殿。茫然とそれを見上げ、まだ十五分なのに、とレオナルドが呟いた。
「ビビって逃げたな。情けねー奴ら」
 軽い口調で、しかし鋭い視線で神殿を見やる雅貴。ぐ、と拳を握り――勝ちは勝ちだ、と言い聞かせる。少なくとも、敵を妨害するという作戦は成功したのだから。
 ならば、次は。次こそは。
「……必ず、取り戻す……」
 小さくなっていくグランドロンを見つめ、千里もまた、決意を固めていた。

作者:弓月可染 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。