愛の力を教えてあげる!

作者:一条もえる

「桜が、散ってしまいそうなの」
 唐突な、そして簡潔な知らせで呼び出された機理原・真理(フォートレスガール・e08508)。
「何事かと思ったら……」
 苦笑しながら、『恋人』と並んで歩く。
「ごめんね。桜が、見たかったから。一緒に」
「うぅん。こちらこそ、誘ってくれたお礼を言わないと。確かに、今夜が最後かもしれませんからね」
 真理が枝を見上げたとき、吹き抜けた風が城址公園の桜を揺らした。舞い散った花びらが、ふたりに降り注ぐ。
 枝には若葉が見え始めている。明日の天気は大きく崩れそうで、おそらくそれが花散らしの雨となってしまうだろう。
 まるで雪のように、花びらが舞う。美しい光景に見惚れた真理だったが、思いのほか冷たい風に身を震わせた。急いでやって来たものだから、上着は着てこなかった。
「なにか、温かいもの買ってくる」
 急に呼び出したことで気が引けたのか、そう言い残して駆けていく『恋人』。
「行くなら、一緒に行くのに」
 苦笑しながらも、真理はベンチに腰掛けて待つことにした。買いに行くのはいいが、公園内には売店も屋台もない。近くのコンビニってどこだっけ……?
 などと考えていると、公園内に無数に設けられた灯籠が突然に明滅し、ついにはすべての灯が消えてしまったではないか。頼りになるのは、雲間からのぞくわずかな月明かりだけ。
 気がつけば、見覚えのある影。
「もう帰ってきたんで……いや、違うな!」
 穏やかな表情から一転、真理は立ち上がり、得物を構えた。人ならざる者が発する殺気に、全身の毛が逆立つ。
 迂闊だった。盛りは過ぎているとはいえ、さきほどまではいくらかの花見客はいたのである。それがいつの間にか、誰もいなくなっていた。
「違わない……そっくり同じの、はず。姿も口調も、まるで変わらない……」
「ふざけるなッ! お前なんか、似ても似つかないッ!」
 真理は歯を食いしばりながら、敵を睨みつけた。
 ところが敵は、むしろその突き刺すような視線を受けて全身を震わせ、
「あぁ……素敵。あなたの愛を、感じる」
 と、笑みを浮かべた。
 胸元が大きなモザイクで覆われたその女は、右手を大きく振りかぶると長く伸びた鎖を叩きつけてきた。ハート型のようにも見えるその先が、ベンチを粉々に打ち砕く。
「く……!」
 逃げるならば、『恋人』のいる方。しかし、さほど土地勘のあるところではない。そして、闇夜。
 これも、敵の罠か。襲い来る鎖を避けている間に、真理はかつて天守のあった山頂へと追い詰められていく。

「うーん、まずいことになりそうね」
 焼き鳥をもぐもぐと咀嚼しながら、崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)が唸っていた。
 目の前には、大きな皿に山と盛られた焼き鳥。食べ終わった串を壺に投じて、また新たなもも串を口に運ぶ。
「もぐもぐ……。
 真理ちゃんと連絡が取れないのよ。敵は間違いなく、真理ちゃんを狙ってるっていうのに」
 宿敵の名は、『ラブ・シーカーM』。愛を知りたいが故に、恋人のいる真理を付け狙うのだという。
 時間がない。急ぎ現地に駆けつけなければ。いかに歴戦のケルベロスといえども、ドリームイーターと1対1で戦うとなれば、無事では済まない。
 砂肝の串を頬張りながら、凛は現地の地図を出して指し示した。立て続けに5本ほど、串が壺に刺される。
「もぐもぐ……。
 現場は、もともとはお城だった公園ね。桜並木があるのはこっちの……広場になっているところ。敵と遭遇するのはどうやら、その辺みたいなんだけど」
 凛は嘆息して、つくねを塩とタレとでそれぞれ4本ずつばかり、平らげていく。
「もぐもぐ……。
 挑発に乗っちゃって誘導されたか、そうでなきゃ追い込まれたか、山の方に移動しちゃうみたいね」
 山頂は、かつて天守閣があった一角であるが、現在は石垣の跡などの遺構が残るのみだ。
 そちらに桜はないので、夜に人が寄りつくようなところではない。灯籠もなく、わずかな月明かりだけを頼りに戦うことになる。
 石段はそれなりに険しいが、それでもまだマシな方である。山へ「普通に」登ることが出来る道はそこだけで、残りの三方は急峻な斜面……ほとんど崖となっているのだ。

「もぐもぐ……。
 お花見はね、誰にも邪魔されずに自由で、なんていうか美味しく食べなくちゃダメだと思うのよね。
 だからみんな、はやく真理ちゃんを助けてあげよう!」
 ハツ、セセリ、レバーと、次々に串を壺に投げ込みながら、凛は微笑んだ。


参加者
ミルティ・レイリス(グラフティンカーベル・e03498)
日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
駒城・杏平(銀河魔法美少年テイルグリーン・e10995)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
フワリ・チーズケーキ(ふわきゅばす・e33135)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)
藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)

■リプレイ

●愛がほしいの
 石で作られたベンチが、まるで粘土でもあるかのように斬り裂かれ、砕け散る。
「く……!」
 飛び散る破片から目を守りつつ、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は顔をしかめた。
 思わず爪先立って、敵の後ろ……公園の入り口の方を見る。
「人の心配……している場合?」
「黙れ!」
 怒りを露わにして、真理はモザイクめがけてチェーンソー剣を突き込んだ。ライドキャリバー『プライド・ワン』のタイヤも唸りをあげる。
 しかし敵はモザイク越しの布地を斬り裂かれながらも、鎖を叩きつけてライドキャリバーの突進を食い止め、締め上げた。
 真理の肩から白いカモミールを咲かせた攻性植物が伸びて襲いかかったが、敵はそれも弾き返し、モザイクを飛ばしてくる。
 かろうじて避けると、巻き添えをくった桜が真っ二つになって横倒しになった。倒木を避けて仕方なく、後ろに飛び下がる。そこは石段だった。
 次々と襲ってくる鎖を避け、幾度も跳び下がる。貫かれた石段にはその都度に穴があき、だんだんと公園の入り口から遠ざかっていく。
 追いつめられた先は、天守跡だ。
 心を抉る「鎖」は、石垣さえも貫いて吹き飛ばす。飛び散った破片に足を取られてしまい、真理は尻餅をついた。
 そこに、ハート型の切っ先が襲い……!
 顔をしかめたドリームイーターが振り返り、飛来してきたソレに鎖を叩きつけた。「缶」が無惨に砕け散って、伸びた草の上に湯気を上げる液体が降り注ぐ。
 この香りは……。
「紅茶……?」
 呆気にとられた真理が、それが飛んできた方に視線を送る。
「嫌な予感がしたから、戻ってみれば……!」
 そこには、右の手にケルベロスチェイン、左の手に攻性植物の蔓を握りしめたマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)が立っていた。うねうねと山頂に続く石段を登るのももどかしく、両手のそれをさながらロープのように、急斜面を一足飛びに駆け上がってきたのである。
「ごめん。紅茶は後で買い直すから」
 駆け寄って真顔で言うマルレーネに、真理は思わず吹き出した。
「いいですよ、そんなの」
「大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫ですよ。だいたい……」
「守られるだけのお姫様じゃ、ない」
 声を揃えたふたりは笑いあって、手を握る。
 そんなふたりを見つめて、ドリームイーターが微笑む。
「やってきたのね……。ほら、やっぱりそっくり。ここで入れ替わってもわからない……」
 真面目に言っているのだろうが、その言葉を聞いたふたりは敵を睨みつけた。
「私の顔で、真理に微笑むなッ!」
 思わず、一直線に飛び込みそうになるマルレーネ。
「マリー!」
 真理はとっさに、その肩をつかむ。制したようだが、怒りではむしろ勝っていたかもしれない。
「勘違いするな! お前がどれだけ愛を感じたとしても、それはお前への愛じゃないッ!」
 と、怒鳴る。
「あら、そうかしら……」
 楽しげに笑い、鎖を鳴らすドリームイーター。
 左右に散るふたり。真理の攻性植物が猛然と伸びた。敵は鎖でそれを払いのけたが、
「霧に焼かれて踊れ……!」
 桃色の霧が相手を押し包む。強い酸が敵の肌を焼き、纏っていた服を引き裂いた。
「私がどれだけ怒っているか……わかる?」
「愛ゆえに、でしょう?」
 神経を逆なでする笑顔。ギリ……とマルレーネは奥歯をかみしめた。
 対峙するふたり。そこに、仲間の声が聞こえてきた。フワリ・チーズケーキ(ふわきゅばす・e33135)とミルティ・レイリス(グラフティンカーベル・e03498)である。
 ふたりは左右を見比べたが、
「マルレーネお姉ちゃんにそっくり……? うぅん。ホンモノはもっと、やさしくてきれーにゃ!」
「前にも同じようなことがあったけど……最近ハヤリなの? フワリちゃんは、偽物にはならないよね?」
「もちろんにゃ!」
 ふたりは改めて敵に向き直り、(ミルティのビハインド『ミスティ』も加えて)ポーズをとってみせた。
「どっかーん! フワリさんじょーなのにゃ!」
「しゃきーん! ミルティ、そしてミスティもさんじょうッ! ……あ、ミスティ! Vサインはしっかり指伸ばして!」
「……フワリちゃん。それはいいんだけど、焼き鳥のタレ、お口についてるわ。
 」
 と、日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)はティッシュを取り出す。
「にゃにゃにゃ」
「あわわ、ミルティもクリーム、ついてました……」
「ずいぶんと、楽しそうね!」
 そこにドリームイーターの鎖が襲いかかる。
「あら、仲間に入れてほしいの……?」
 遥彼もまた、鎖を放った。空中でぶつかり合って地に落ちる、両者の鎖。
「残念……簡単に縛らせてはくれないのね」
 頬に手を当てて、遥彼は婉然と微笑む。
「おっと、私も忘れてもらっちゃ困る。藤堂武光、堂々猛るこの手に誓って、悪を討つ!」
 と、モザイクを藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)は握りしめた拳を突きつけた。
「いくぞ!」
「はいにゃ!」
「うん♪」
 武光の声とともに、フワリとミルティも動く。オウガメタルの輝きが仲間たちを包み、豊かに実った『黄金の果実』の光が、辺りを照らした。
「まだ、ここにもいるよ!」
 石垣の上、月明かりを背に立つのは駒城・杏平(銀河魔法美少年テイルグリーン・e10995)。
「颯爽登場、銀河魔法美少年テイルグリーン! 助けに来たよ!」
 そして、隣に着地したのは長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)。
「愛……ですか。私もよく理解してはいませんが……」
 シズク、着装。鏡花が小さく呟くと、オウガメタルが彼女の全身を包んでいく。
「確かにマルレーネに……似てる気はするね。でも、本物はもっと素敵な人だよ!」
 アームドフォートから一斉に放たれる砲弾。しかし敵は、杏平が放ったその爆風をかいくぐっていく。
 だが、さすがの敵もこれは見えていなかった。爆炎の中から、鏡花が飛び出してきたのだ。その蹴りが胸元を貫き、ドリームイーターは蕾が膨らみかけたツツジをへし折りながら、吹き飛ばされた。
「相手を苦しめるだけで得られる愛など、ありません。それだけは、わかります……!」

●ずっと
「やああッ!」
 愛らしい少年には不釣り合いな、鋼の大剣。杏平はそれぞれの手に握りしめたそれらを振り上げ、十文字に斬りつけた。
 敵の胸から鮮血が飛び散り、その傷跡は「地獄」と化す。
 しかし、
「あはははは、痛いわ。これも、愛の痛みね……!」
 悦楽の妖しい笑みを浮かべたまま、敵は杏平に向けて鎖を放ってきた。締め上げられ、骨が軋む。そのまま杏平は、喬木に叩きつけられた。
「くぅ……しぶといヤツだなぁ……!」
 ケルベロスたちに囲まれたドリームイーター。すでにいくつもの傷を付けられ、服は赤く染まっている。それにも関わらず、むしろそれを悦ぶかのように一同を見渡していた。鎖はジャラジャラと、命を持つかのように這いずっており、迂闊には飛び込めない。
 武光が、額の汗を拭う。
「愛とか言ってるけど……すご~くヤな感じだぞ。
 星を渡り愛を騙り、姿まで騙る悪者! 結婚詐欺の常習犯に違いない!」
「結婚詐欺って、そういうものでしたっけ……?」
 鏡花が困惑したように首を傾げた。
「そんなもんだよ、たぶん。泣かされた人の分まで鉄拳制裁だ!」
 天高く飛び上がった武光は、虹を纏いつつ蹴りを放つ。
「稲妻蹴り七色重力落とし!」
 敵は腕を交差してそれを受け止め、与えた傷は深くない。しかし敵は、武光をギロリと睨みつけた。
 襲い来る鎖。級友たちの姿が浮かび上がる。次々と血塗れになっていく、級友たち。
 助けられなかった。なにもできなかった。私は……ヒーローになんか、なれなかった!
「うわああッ!」
「く……!」
 鏡花がバスターライフルを構え、引き金を引く。敵は凍結光線を浴びて、肩口を凍てつかせながら退いた。
 追撃は防いだものの、鎖が鏡花を襲う。大きく後ろに跳び下がったが、鎖は思った以上に伸びてきた。
 抉られた肩の傷は、そう深くない。深くはないが……。
「涙……? なんで私、涙が……?」
 思い出せない、誰かの記憶。それは鏡花の心を苛み、苦しめた。たまらず膝をつく。
「お星さまキラキラでパワーアップしてるはずなのに……なんて強い敵!」
 でも、負けない!
 ミルティは気を取り直し、ブーツの踵を鳴らしながら幾度も舞い踊る。
「桜の花びらで、みんな元気になーれッ♪」
 舞い散る花びらは、杏平の傷を癒し、武光を襲うトラウマから救う。
「助かった……勇気を、もらえたよ。人は心にひとつ、勇気があれば戦えるんだ。誰とでも!
 ブレイブハート・イグニッション! 堂々猛る勇気がある限り、私はもう絶対に負けない!」
 大声を張り上げる武光とは対照的に、鏡花はかるく頭を下げた。
 鏡花たちが立ち直ったことを確認したフワリは、
「遥彼お姉ちゃん、お月様の力をあーげるにゃ!」
 と、胸の前に生み出した光球を放った。
「ついでに、ねこみみカチューシャもあげるにゃ。いっしょににゃんにゃんあたっくにゃ」
「ありがとう……でも、カチューシャは今はいいわ」
「えー」
「……今日は少し、抑えめにしておかなちゃいけないかしら?」
 苦笑した遥彼が、敵に向き直る。
「愛、ねぇ……。あなた、なんだか私と似ている気がするわ」
 魔導書を開くと、ゴボゴボと汚らしい緑色をした粘菌が沸き上がってくる。
 マルレーネと真理とが、敵に飛びかかった。マルレーネの御業が敵を鷲掴みしたところに、真理のチェーンソー剣が唸りをあげ、肉を引き裂く。
「ああああッ!」
「素敵な声ね。略奪愛も、悪くないのだけれど……ね?
 ねぇ、ふたりとも。むりやり奪っちゃっても、いいかしら?」
 顔を向けられた真理とマルレーネは顔を見合わせ、
「どうぞ」
 と、そろって手のひらを差しのばした。
「ふふ、ありがとう。さぁ、お互いの愛を、舐めあいましょう?」
 敵の悲鳴を遮るように、遥彼の粘菌が口をふさいでいく。
「どう? 私の愛はおいしいでしょう? あなたの愛もおいしいわ。
 他に愛する人がいたって、きちんと愛してあげるわ。もっともっと、しゃぶり尽くしてあげる……!」
「なんだかアレは、見ちゃいけないもののような気がする……」
 半歩退く杏平をよそに、
「私ほどあなたを愛しているものはいない。これほど愛することは、誰にもできない……♪」
 遥彼は敵の耳元で愛を囁く。偏執的なその言葉が脳裏で反響し、ドリームイーターを苛んでいく。
「あは、あはは……素敵♪」
 それでも敵は、恍惚とした笑みを浮かべたままモザイクを叩きつけた。石垣に押しつけられた遥彼は、体が痺れて立ち上がることができない。
「素敵よ、あなたたち。なにもかも溶けて混じり合って……そして、腐り落ちましょう!」
 倒錯した感情が、敵を突き動かしている。
 杏平が背筋を駆け上ってくる悪寒にブルリと身を震わせた。
「そういう特殊な愛情は、僕は遠慮したい!」
 しかし武光は、
「なにが愛だ、この自己愛の化け物め!
 愛情の情は、青い心と書く! 清く澄んだ心、お前にはそれがない! お前の愛は有害!
 烈火と滾り、火柱爆ぜるこの右拳! 勇気は胸に、掴んで見せるは正義の怒り! ならばと撃つは鉄拳だ!」
 限界を超えて高めた炎を拳に纏い、敵の顎めがけて叩きつけた。
「ヴォルカニックゥッ、アッパァァァァッ! そして……バァァァニング・ナッコォォォォゥッ!」
「人の恋路を邪魔しちゃ駄目なんだぞー。めッ!」
「めッ、にゃ!」
 ドリームイーターの身体が宙を舞い、そして大樹の幹に叩きつけられた。
 地に伏す敵の側に近寄って、杏平が可愛らしく叱る。すると、ドリームイーターでさえも荒みや闇が吹き飛ばされてしまう。その横でフワリも真似を(真似だけを)した。
「もっと、もっと愛をちょうだいな……!」
 それでも敵はよろめきながら立ち上がり、鎖を叩きつけるドリームイーター。その切っ先が、マルレーネを貫く。
「奴隷だったことなんて……さほど苦でもない」
 そうだったはず。でも、今はどうしてこんなに悲しいの? それは、あなたがいないから。真理、あなたが側にいないから。今はそのことが、こんなに苦しい!
「マリー!」
 襲い来るモザイクから庇った真理が、手をさしのべる。その手を握りしめるマルレーネ。
「どんな手を使っても、私は負けないです。あなたを倒してみせるですよ……!」
 全身のナノマシンが蠢動する。真理の体を、駆けめぐっていく。
「頑張って、ふたりとも!」
 ミルティが描いた守護星座が、ふたりをはじめ、ケルベロスたちを包んでいった。
「姿を似せても、その言葉に表情。まるで似ていません。
 しょせんは歪んだデウスエクス。心のありようが『人』のものではない。……そう思いますね。
 ……行きます! ハイボルテージ・インパクトッ!」
 鏡花の拳に装着されたガジェット。敵の腹部を貫くと同時に、高圧のグラビティが敵の内部を破壊する。
 よろめく敵を後目に、鏡花が振り返る。
「さぁ、お願いします」
「えぇ!」
「お前も相方の後を追えッ!」
 無数の砲弾、そして炎の弾丸を浴びたドリームイーターは、辺りの闇を打ち消すほどのまばゆい炎をあげて燃え上がり、ついには塵となって風に散った。

「というわけで。今回も無事に、仲良しさんは救われました。めでたしめでたし」
 ミルティがフワリの頭をなでながら微笑んだ。
「うん。でも……ラブ・シーカーさんたちも天国で幸せになってるといいにゃ。
 ……あのふたりみたいに」
「優しいのね」
 遙彼も微笑んで、頭をなでる。
「そうね。あの子にも、お別れをしてあげましょう」
 そう言って、塵の飛んでいった彼方を望んだ。
「よし。じゃ、ふたりはデート楽しんでね! さらば!」
「お邪魔にならないよう、のんびり帰りましょうか。桜でも眺めながら。
 ……武光さんは、どうします?」
「しょーがないな。抱えて帰ろうか?」
 杏平と鏡花は、トラウマを振り払って疲れ果てたのか、大の字になって倒れた武光の手と足とを抱えて、石段を下っていく。
 後に残されたのは、ふたりだけ。ベンチに腰掛け、舞い散る桜を見上げる。
「……ねぇ、真理。敵を見て、うろたえたりしなかった?」
「実は、もしかするとそういうこともあるかもしれないと思っていたんですけど。
 でも、違ったですから。上っ面だけ似せたところで、表情も仕草も、マリーとは」
「そう」
 それだけ言って、マルレーネは温もりを求めるように身を寄せてきた。真理はその肩に手を回し、引き寄せる。
 風が吹くと、桜の花びらはくるくると舞うように散っていく。
 あぁ、ずっとこの時間が続けばいいのに。……一瞬だけ、そう思った。でも、そうじゃない。
 若芽が芽吹いても、葉が茂っても、その葉がすべて散ってしまっても。
 ずっと、あなたと一緒にいたい。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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