機械仕掛けの魔剣

作者:雷紋寺音弥

●忍びよる刺客
 夜の帳が降りた街。公園近くの桜並木に沿って歩けば、ふと人の気配が消えていることに気が付いた。
 普段なら、花見で盛り上がる学生やサラリーマン達の姿があるはずなのに、今日に限って、それはない。不審に思い、首を傾げたところで、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)は自分の後ろに迫る殺気に間一髪気付いて身を翻した。
「……っ!?」
「……ターゲット、発見しました。これより、解析を開始します」
 闇夜を照らす光の剣が、今しがた自分のいた場所を切り裂いていた。その剣を握っているのは、頭部に奇妙な機械を乗せた女。その女が、抑揚のない口調で何事かを繰り返し呟いている。
「だ、誰? ターゲットとか……ワタシ、なんか恨まれることでもした!?」
 いきなりの展開に状況が飲み込めないトリュームだったが、女の方は、そんなことはお構いなしの様子だった。
「生体データ、照合完了。バイオニック・シグナル・パターンの同一性を確認。……新たなる生体ユニットとして、捕縛モードに移行します」
 頭部の機械に仕込まれたレンズが妖しく明滅し、女は光の剣を振り被ると、問答無用でトリュームに襲い掛かって来た。

●剣に操られし女
「招集に応じてくれ、感謝する。トリューム・ウンニルが、デウスエクスの襲撃を受けることが予知された。場所は、公園近くの桜並木だ。至急、援護に向かって欲しい」
 幸いなことに、周囲に人の影はない。が、同時に強力なジャミングが仕掛けられており、こちらから連絡を取ることができないと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に事の詳細を語り出した。
「トリュームを襲撃するのは、MASTER UMBRAと呼ばれるダモクレスだ。見た目は鎧装騎兵の女のように見えるが……本体は、その手に握られた機械剣の方だな」
 女の方は、あくまで機械剣を振るうための生体ユニット。頭部に装着されたヘッドギアでコントロールされ、その身に纏った特殊スーツで肉体の限界を超える挙動を可能にさせられているようだ。
「こいつの狙いは、どうやらトリュームを新しい生体ユニットとして捕縛することらしい。ただでさえ、精神制御と強化服による無茶な動きのせいで、生体ユニットは限界近くまで酷使されているようだからな。MASTER UMBRAにとっては、古い部品を交換する程度の認識でしかないんだろう」
 気になるのは、MASTER UMBRAがトリュームの生命反応をスキャンした際に、今現在の生体ユニットと酷似したシグナルを受信したということだろうか。ユニットにされている女性とトリュームの間に何があるのかまでは分からないが、このまま見逃してくれるはずもなさそうだ。
「念のため言っておくが……機械部品や剣だけを狙って攻撃することで、生体ユニットにされている女を助けようなんて考えるなよ? MASTER UMBRAと女は、魂のレベルでリンクしていると言っても過言ではないんだ。どちらが死んでも、もう片方も死んでしまう……つまり、助け出すことは不可能だ」
 彼女とMASTER UMBRAは生命力さえも共有しているため、剣だけを攻撃したところで意味は無い。生体ユニットの方を攻撃してもダメージを与えられるのは幸いだが、しかし本体のダモクレスが倒されれば、それは即ち生体ユニットの女性も死亡するということである。
「正直、ここまで胸糞悪い話も珍しいが……下手に同情して、返り討ちに遭っては元も子もないからな。トリュームを助けることを第一に考えるなら、非情に徹して倒す以外に方法はないのかもしれない……」
 敵はマインドソードに似たグラビティと、鎧装騎兵のグラビティに似た技を使う強敵だ。機動力も高く、その動きに追従するだけでもかなりの技量を要求される。
 手加減をして勝てるほど、甘い相手ではなさそうだ。戦うからには、それなりの覚悟を決めて欲しい。
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)
藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)

■リプレイ

●参上、助っ人ヒーロー
 夜桜舞い散る並木道。謎のダモクレスと、それに操られる女の繰り出す鋭い剣技に、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)は早くも押され始めていた。
「ヤバッ! これってもしかしなくても、大ピンチってやつ!?」
 辛うじてハンマーの柄で斬撃を受け止めたが、それでも完全にパワー負けしている。このまま切り結んでいたら、それこそ柄の方が先に溶断されてしまい兼ねない。
 ボクスドラゴンのギョルソーが体当たりを食らわせた隙に、トリュームは相手との距離を取った。その上で、懐から防犯ブザーを取り出すと、声高に叫びながらスイッチを押した。
「くせものじゃ! ものども、であえぃであえーぃ!」
 夜の街に鳴り響く警報。一瞬、ダモクレスが警戒して動きを止めたが……しかし、お約束に反して味方の増援など現れるはずもなく。
(「まあ、本当にこれで、助けが来るなんてことないわよね」)
 何も起こらなかったことで、トリュームはバツが悪そうにスイッチをしまった。
 やはりここは、自分の力で切り抜けるしかなさそうだ。敵を倒すことはできずとも、せめて振り切ることができれば。そう、彼女が思った時だった。
「そこの不法侵入剣! 人の体を奪って不埒な悪行三昧、許さないぞ! 強制退去執行だ!」
 突然、桜の木の上から声がした。見上げれば、そこに立っていたのは藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)。
「待たせたな、トリちん! ブレイブハート・イグニッション! 持ちつ持たれつが人の字ならば、ここで手を取り合うのもまた人の文字! 藤堂・武光、大見参!」
 木の枝の上で、武光は歌舞伎の如く大見得を切った。あまりに唐突な展開に、さすがのダモクレスも、これにはしばし呆然として見上げる他にないようだった。
「袖すり合うも、っちゅう話やね。なんや、面倒そうなんにつけ狙われとんなぁ。無事かー?」
 同じく、救援に馳せ参じた八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が、トリュームの身を案じるようにして前に出る。気が付くと、他にも多数の仲間が彼女の周りを取り囲んでおり、いつの間にか形勢が逆転していた。
「……ど、どう? ワタシを追い詰めたつもりだったみたいだけど、追い詰められていたのは、アナタの方だったのよ!」
 これぞ、まさしく計画通りだと、トリュームはドヤ顔で言ってのける。なんとなく、偶然に偶然が重なっただけのような気もしないではないが、それはそれ。
「こないだはオレの宿縁でトリュームに助けてもらったから、今度はオレが助けるよ! それにしても生体ユニットか……」
 機械に操られる女の姿を前に、フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)が言葉を切った。同じく、ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)も何か思うところはあったようだが、彼女は何も喋らなかった。
「身も心も、既にダモクレスの一部と化しているようですね。ならば……」
 哀しいことだが、本来の安息である死を与えてやる他にない。死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が呟いたところで、ダモクレスは再び本体でもある光の剣を握ると、それを横薙ぎに払うような形で、ケルベロス達に襲い掛かって来た。

●恐るべき魔剣
 生身の人間を自らを動かすための生体ユニットとし、限界まで酷使するダモクレス。MASTER UMBRAの名を持つ機械の剣は、その身に似合わず俊敏だった。
 剣だけの姿では本体移動もできそうにないが、生体ユニットにされている女の方は、強化服の力も相俟ってかなり手強い。加えて、ケルベロス達には火力の起点になる者がいないため、どうしても時間をかけた削り合いへと突入してしまいがちだ。
「スピードにはスピードで勝負よ! 食らえ!」
 現状、唯一敵の速度に追従できるトリュームが、竜砲弾でMASTER UMBRAを撃ち落とす。が、さすがに彼女だけでは、少しだけ足を止めるのが精一杯。すかさず武光が拳を構え、そのまま勢いに任せて殴り掛かろうとするものの。
「援護するぜ! 唸れ鉄拳! ブゥストナックル!」
「モーションパターン予測……回避」
 MASTER UMBRAは生体ユニットを巧みに動かし、およそ人間業とは思えない奇妙な動きで回避した。
「速い……このままでは、捉え切れないな」
「まずは、こちらの態勢を整えるのが先ですね」
 互いに頷き、フレデリとジュスティシアは共に仲間の間隔を極限まで高める、光の粒子を広げて行く。人知を超える反応速度を持った相手を補足するには、こちらも超感覚にて対抗するしかないという判断だ。
 だが、攻撃の準備に手数を欠けば、その分だけ敵もまた自由に動けてしまう。MASTER UMBRAはケルベロス達を静かに見渡すと、そのまま光の剣を構え、凄まじい速度で突撃して来た。
「複数の標的を確認。……殲滅します」
 狙いは最も人の固まっている中衛だ。このスピードと間合いでは、避けようにも避けられない。
「……痛っ!!」
「あかん! 足をやられたわ!」
 トリュームが、瀬理が、それぞれ脚を押さえて態勢を崩した。このままでは、敵の攻撃の良い的だ。すかさず、刃蓙理が大地に宿る惨劇の記憶から魔力を抽出して解き放つも、状況を戻すだけで精一杯である。
 癒し手を引き受けるならば、副次的効果を持つヒールグラビティを用いた方が、味方の強化もできて一石二鳥。しかし、単純な回復力と回復効果に特化した彼女のグラビティでは、間合いの効果を存分に生かせるとは言い難く。
「このまま戦っても埒が明かんで。……うちが突破口を開く!」
 巨大な杭打機を片手に、凍気を纏った杭を叩き込む瀬理。撃ち出された杭は生体ユニットの脇腹を貫き、その傷口から瞬く間に肉体を凍結させた。

●忠実なる傀儡
 夜の桜並木を背景に、恐るべきダモクレスとの戦いは続く。凄まじいスピードと反応速度を武器とする相手に、なんとか追従するまでの力を得たケルベロス達であったが、しかし火力の低さは如何ともし難い。
 守りを固め、意識を極限まで高めたところで、その後に敵を追い込むだけの攻撃力が絶対的に不足している。せめて、相手の体力を時間差で削る術を持っていれば話は別だったかもしれないが、猛毒や火炎の使い手も、仲間達の中には存在していなかった。
「まだ……行けますか?」
「……ああ、なんとか……な」
 ジュスティシアもフレデリも、いつしか肩で息をしていた。それだけ戦いが長引き、彼らの消耗もまた大きかったということだ。
 トリュームの相棒であるギョルソーに至っては、既に敵からの攻撃から仲間を庇い過ぎた結果、完全に消滅させられてしまっている。火力の差を補うための術が敵の防御を削ることのみというのは、やはり少しばかり無理があったようで。
「機動力……低下……。左腕部及び、右脚部、異常発生……」
 ふらふらとした足取りになりながらも、未だ攻撃を止めないMASTER UMBRA。唯一の救いは、長引く戦いによって敵も全身のあちこちに異常が発生し、攻撃の手が止まったり、目標を見失ったりすることがあるということか。
 もっとも、それはあくまで、そうなる可能性が高くなったに過ぎない話。こちらの消耗も激しい以上、これ以上の長期戦は好ましくない。
「こうなりゃ、一気に決めてやるぜ! 天呼ぶ地呼ぶ人ぞ呼ぶ、外道を倒せと声がする。例え天が見逃すも人に仇為す者を私は決して逃がさない!」
 やたら長い口上と共に、武光は右手の義手を赤熱させると、それを叩き付けんと拳を構えた。その間にも、敵は自分との間合いを詰めてくるが、そんなものは知ったことか。
「堂々猛るこの拳、怒りに焼けた鉄拳だ! 受けろ必砕、赤熱の! ぶぁあにんぐ・ぱんちぃっ!!」
 向こうから来てくれるなら好都合。カウンターよろしく拳を叩き込めば、その凄まじい勢いによって、敵の身体が吹っ飛んで行く。
「……鉄拳制裁!」
 激突した桜の木、諸共に巻き起こる大爆発。それに合わせ、ポーズを決めて背を向ける武光だったが……果たして、彼の一撃だけでは、MASTER UMBRAは沈んでなどいなかった。
「なっ……こいつ、まだ動けるのか!?」
 あまりのことに、驚愕する武光。どう考えても骨が砕け、内臓さえも潰れているはず。
 動けるはずなどない。しかし、そんな状況であっても、MASTER UMBRAは生体ユニットである女性の身体を手放そうとはせず、ケルベロス達との戦闘を続行しようと試みる。
「肉体は既に限界なのに……あくまで、自分を振るうための部品にしか過ぎないということですか……」
「やめろよ……もう、やめろよ!!」
 ジュスティシアの言葉を聞いて、フレデリが叫んだ。見れば、生体ユニットである女性の身体は、既に人間の限界を超えていた。
 左腕は奇妙な方向に捻じ曲がり、右足も爪先が完全に潰れている。脇腹に刻まれた氷結は彼女の半身を覆っており、首さえも奇妙な方向に曲がっている。
 全身打撲に複雑骨折、それに凍傷も負っていることだろう。まともな人間なら、痛みを通り越し、既に意識さえ失っているはず。
 それなのに、MASTER UMBRAに操られる彼女は、未だ攻撃の手を止めようとはしなかった。完全に意識を奪われた今、彼女はMASTER UMBRAに部品として組み込まれた、哀れな操り人形でしかないのだから。
「どうやら、生体ユニットを行動不能にしない限り、勝機はなさそうですね」
「くっ……止まれぇぇぇっ!!」
 ジュスティシアの銃撃が、フレデリの雷撃が、嵐の如くMASTER UMBRAの生体ユニットに襲い掛かる。だが、それでも彼女は止まらない。時折、糸の切れた操り人形のような挙動を見せつつも、その手に握られた剣を真っ直ぐに構え、そのまま一気に突き立てて来た。
「トリちん、下が……っ!?」
 トリュームが狙われていると察し、慌てて武光が前に出る。しかし、彼女に代わり腹部を光の剣が貫いたところで、それが彼の限界だった。
 いくら防御に特化しているとはいえ、元の耐久性が低ければ、それだけ撃破される可能性も高い。ましてや、持久戦においては大元の力、基本の耐久力が物をいう。
「面白くなってきました……この闘い……『覚悟』が道を切り開く……気がする……」
「上等や! 脳天ごと蹴り飛ばす覚悟なら、いつでもできとるで!」
 チェーンソー剣を構える刃蓙理の傍らで、瀬理が叫んだ。ここまで来たら、後は敵の動きを止めて、強烈な一撃で粉砕するのみ。そして、それを成すべき者は、自分ではないこともまた知っている。
「いつまでも、逃げられると思ったら大間違いや!」
 大地を蹴り、その瞬発力を最大にまで生かした瀬理の蹴りが、MASTER UMBRAへと炸裂する。それを左手で受け止めようとするMASTER UMBRAだったが、凍結して十分に動きが取れない状態では、むしろ生体ユニットの方に亀裂が走り。
「そっちには……行かせない……」
 唸りを上げるチェーンソー剣で斬り掛かり、刃蓙理もまた光剣と切り結ぶことで、MASTER UMBRAの動きを封じてみせた。
「さあ、今の内やで!」
「……この哀れな人に……死の安らぎを……」
 止めは任せた。そんな仲間達の意思を受け、にやりと笑いつつトリュームが跳んだ。瞬間、彼女の身に着けていた装飾品が一斉にジェットブースターへと姿を変え、トリュームの身体を大空高く舞い上がらせた。
「キャッハー! ステキー! 正義の味方ってサイコー!!」
 加速の勢いを生かし、一気呵成に急降下。瀬理と刃蓙理が散開して離れたところへ、弾丸の如き勢いで突っ込んで来るトリュームの身体。
「……ッ! システム……オーバーロード……」
 光剣で受けようとするMASTER UMBRAだったが、それよりも早く、トリュームの攻撃は生体ユニットの頭部を直撃し、ゴーグルとヘッドギアを吹き飛ばした。リンクが切れたことにより、暴走したエネルギーの奔流はMASTER UMBRAの本体駆け廻り、そのまま中から爆散させた。
「あぁ……トリューム……。あなたは……私の……」
 崩れ落ちる瞬間、生体ユニットの女性が何かを呟きつつ指を伸ばす。だが、その言葉を全て紡ぎ終わる前に、MASTER UMBRAとのリンクが切れた彼女もまた、物言わぬ冷たい塊となって動きを止めた。

●見知らぬ母よ、永久に
 戦いの終わった桜並木。そこに残されているのは、砕け散った機械のパーツと、その中央に倒れ伏したまま動かない生体ユニットの女性だった。
(「完全に動かない、か……。魔剣はナイルの川底にでも沈めた方が良い気がしたけど……」)
 爆発四散した今となっては、それも杞憂だったと刃蓙理は思った。見れば、生体ユニットの女性もまた、完全に静止したまま動かない。
 MASTER UMBRAが破壊されたことで、彼女もまた生命活動を停止したのだろう。最初から分かっていたことだが、なんとも後味の悪い結果である。
(「勝ったのは良かったけど……嬉しくはないかな」)
 半壊状態の義手を庇いつつ立ち上がりながら、武光は露わになった女性の顔に目をやった。
 外見的には、小学校に通っている娘がいてもおかしくない年齢だろうか。それ以外は特に変わったところもない、どこにでもいそうな女性だった。
「えげつない真似をする種族だとは聞いていたけど……ホント、やりきれないな……」
 物言わぬ肉塊と化した女性の姿に、フレデリもまた言葉を切って俯いた。
 同じ命を持つ存在でありながら、デウスエクスにとって、地球人はグラビティ・チェインの補給源であり、有効活用できる資源でしかない。そして、食肉用の家畜や実験用のモルモットにでさえしないような行いを、彼らは実に平然とした顔で行える。
「念のため、司法関係者に連絡をしておきました。彼女の身元が、少しでも解ればよいのですが……」
「そういえば、最後に女が何か言っとったな。なんや、心当たりとかあるか?」
 ジュスティシアに続け、瀬理がトリュームに尋ねた。しかし、そんな彼女の問い掛けに対して首を横に振りながら、トリュームは現場に残されていたゴーグルだけを拾い上げた。
「別に? ワタシの知ってる人じゃなかったよ」
 自分が襲われたのも、たまたま偶然が重なっただけのことだろう。それだけ言って、トリュームは桜並木を背に颯爽と帰って行く。
 本当は、彼女は何か感づいていたのではあるまいか。そう思う者達もいたが、敢えて尋ねることはしなかった。
 世の中には、知らない方が幸せなこともある。そのことを、十分に承知していたから。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月24日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 3/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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