隼は蒼空を舞う

作者:椎名遥

 冬は過ぎ去り春が来て。
 道行く人の装いも、寒さに備えたコートにマフラーが姿を消して、冬のものから春のものへと変わりゆく。
 そんな、どこか新しい空気に包まれた人波の中を歩きつつ、
「……あら?」
 リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は、視界の端をよぎった銀の色に振り返る。
 一瞬だけ見えた、地面につきそうなほどの長さの銀の髪。
 その色も長さも、特徴的ではあっても決して珍しいものではないけれど、
「……どうにも、気になるのよね」
 胸中のざわめきに押されるように、リリーは銀の人影を追って歩き出す。
 そうして――、
(「……これは」)
 追跡を始めてほどなくして、リリーは表情を厳しくする。
 足音、影、なびく髪。相手の姿を見失いそうになるたび、それらが手掛かりとなって場所を伝えてくれるおかげで、相手との距離は変わらない。
 付かず、離れず、見失うことも無い一定の距離を保つことができている。
 ――否、
(「保たれている、ね」)
 追いつかれない程度に距離を開けて。
 振り切らない程度に距離を詰めて。
 そうして相手を誘い出す先は……自分に有利な戦場だろう。
(「……さて、どうしよう」)
 そこまで考えて、リリーは胸中で小さく息をつく。
 このまま相手の思惑に乗れば、死地に向かうことになりかねない。
 一方で、相手が『彼女』であるのなら、放置すれば将来の大きな禍根につながるだろう。
 どちらを選ぶにせよ、まずは仲間に連絡を、とポケットに手を伸ばし――、
「――!」
 弾かれたようにリリーが飛びのいた直後、彼女がいた空間を白刃が通り抜ける。
 そのまま止まることなく、首を狙って振るわれる相手の刃。
 内心で歯噛みしつつも、リリーはその刃を手にした得物を操り受け流す。
(「気付かれた――けど!」)
 続けて滑らかな動きで向けられる相手の腕を、『そう動く』と知っていたように伸ばしたリリーの手が外へとそらし、
「それは――知っているのよ!」
 同時に打ち込む反撃が、相手を捉えて跳ね飛ばす。
 そう、知っている。
 この技を、この相手を、そして――その最期を。
「やっぱり、アンタか」
 見据えるリリーの視線の先で、反撃のダメージなどないかのように『彼女』は無言で大剣を構える。
 手にする得物は銃剣から水瓶座を刀身に刻んだ大剣へと変わり、その身に纏うのは黒を基調とした忍び装束ではなく白のドレスを思わせる戦装束。
 見慣れぬ得物に見慣れぬ服装。
 それでも、この相手を忘れることは無い。
 かつて自分から家族を奪い、そして自分の手で打ち倒した宿敵。
「サルベージされていたのね――螺旋射手ヘルファルコン!」


「緊急招集に応えていただき、ありがとうございます――そして皆さん、ご準備を」
 集まったケルベロス達に緊迫した表情で一礼すると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は口早に説明を始める。
「今から数分後、リリーさんが襲撃される未来が予知されました」
 このまま戦えばリリーの敗北は必至。
 だが、取れる限りの手段を用いてもリリーへの連絡を行うことはできないでいる。
「ですので、今からヘリオンを飛ばして現場へと急行します」
 襲撃の未来を変えることができないならば、それを乗り切れるだけの戦力を。
 ……それでも、決着がつく前に間に合うかどうかは運次第。
「戦闘の始まりには間に合わないかもしれませんが……決着までには必ず間に合わせます」
 そう言ってセリカはわずかに表情を曇らせて……すぐに首を振ると、少しでも早く出発できるように必要な情報を口早に語る。
「戦場となるのは、大型ショッピングモールの駐車場です」
 規模に応じた広さを持つ駐車場だけに、広さとしては十分。
 そして、相手の人払いによるものか、周囲に人気はないので避難誘導を考える必要もない。
 故に、考えるべきは相手と戦い倒すことのみ。
「リリーさんを襲撃する相手は『白夜の隼』――皆さんたちが倒した『螺旋射手ヘルファルコン』を死神がサルベージした存在です」
 かつて『螺旋忍法帖』を巡り、金沢城を舞台に繰り広げられた螺旋忍者との戦い。
 その中でケルベロス達と戦い倒された螺旋忍者幹部の一人が、『螺旋射手ヘルファルコン』だった。
「本来の人格はサルベージによって封じられていますが、生前からの能力は健在です」
 大剣による斬撃、棒手裏剣による精密射撃、広域を凍り付かせる冷気の術と、その冷気を剣に収束して撃ち出す射撃術。
 手にする得物は銃剣から水瓶座のゾディアックソードに変わり、それに合わせて操る術も変化している。
 だが、生前から得意としていた精密な射撃能力は、サルベージによる強化と合わせて生前を上回るほどの高みに至っている。
 一度勝った相手、と侮れば不覚を取る恐れもあるだろう。
 それでも、負けるわけにはいかない。
 暗躍に長けた螺旋忍軍幹部の力を得た死神を放置すれば、どれだけの被害が出るのかは想像に難くない。
 それ以上に、大切な仲間であるリリーを死なせるわけにはいかない。
 だから、
「できる限りの速度で急ぎます。皆さん――リリーさんを、お願いします」
 そう言って、ケルベロス達にもう一度頭を下げると、セリカはヘリオンの操縦席へと向かう。


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
唯織・雅(告死天使・e25132)

■リプレイ

「――っ!」
 一瞬で間合いを詰め、白夜の隼が打ち込む大剣の連撃。
 同時に切り付けてくるかのような速さの連撃を、舞うような螺旋を描く槍さばきでリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が受け流す。
 その動きのままに操る槍は螺旋の舞を作り上げ、グラビティチェインを伴う磁気嵐を呼び起こし――、
「受けなさい!」
 至近距離から放たれた磁気嵐が白夜の隼を飲み込み荒れ狂う。
 ――だが、
「極光――」
 感情の無い声が響いた直後、吹き荒れる磁気嵐が純白に染まり。
 直後、一点へと渦を巻いて収束する。
 その集束する先――純白の冷気を宿した大剣を掲げ、白夜の隼はリリーを見つめる。
 感情の無い瞳、感情の無い声。
「――大処刑」
「くっ!」
 それでも、放たれた一閃は回避を許さないほどの鋭さでリリーへと迫り、
「古の祈り、守りの印、危害を封じる力をここに」
「さぁ、覚悟しなさい!」
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)の声が響くと同時に、描き出される封印が刃を鈍らせて。
 続く氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)の轟竜砲が鈍らせた刃を撃ち砕く。
「悠乃ちゃん、かぐらさん!」
 友人達の援護に、リリーは表情を明るくして声を上げ。
 同時に、背後から疾る鎖と銃弾が白夜の隼を捉えて跳ね飛ばす。
「折角。眠りに就いたのに……叩き起こされたのは、気の毒ですが……私の友人に、害成すとあれば。話は……別、です」
「うむ。これより義によってスケダチ致す!」
 ライフルを構える唯織・雅(告死天使・e25132)に、クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)も手元に引き戻した鎖を握りなおして力強く頷きを返す。
「皆! ありがとう……」
 戦力として、心の支えとして、大きな助けの到着にリリーは小さく息をつき、知らずのうちに握りしめていた拳をそっと解く。
「間に合った……かな?」
「ええ。本当に――助かったわ」
 ドローンを展開しながら心配そうに見つめるシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)に笑みを返し――そのまま自然な動きで振るう槍は、放たれた棒手裏剣を打ち落とす。
「二度目……いや、三度めかしら?」
 改めて視線を向ける先にあるのは、白夜の隼――蘇った螺旋忍者ヘルファルコンの姿。
 リリーの故郷を滅ぼし、一度は彼女自身の手で倒して決着を得た相手。
「ドーモ。初めまして。ヘルファルコン=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
「金沢城にはわたしも行ったけど、別のところだったから初めましてね」
「……」
 合掌し一礼するクリュティアとかぐらに対し、白夜の隼は無言で身構える。
 かつては自らの意思で感情を殺していた瞳は、今は感情を封じ込められた虚ろな輝きを宿すのみ。
「……と言っても、今の状態だと分からないかしら?」
「可哀想と思わなくもないけれど……」
 小さく首を傾げるかぐらに、リリーもそっと頷いて――手にした槍を白夜の隼へと突きつける。
 死神の道具としてサルベージされたことに、多少の同情はあるけれど……過去の殺戮を許せるわけもない。
 相対したからには必ず叩くと、強い意志を込めてリリーはかつての怨敵を見据える。
「何度でも葬ってあげるわ、アンタの好きには絶対にさせない!」
「これ以上のローゼキは実際許さぬでござる!」


 悠乃がマインドシールドを、シルディがヒールドローンを走らせて仲間の守りを高め。
 飛び交う支援の中、リリーは槍を構え――、
「――」
「させません」
 ――地を蹴るよりも早く、距離を詰めた白夜の隼がリリーに振るう大剣を、割り込んだ雅が受け止める。
 即座に切り返し、撃ち込まれる二の太刀三の太刀。
 その連撃をライフルを盾に雅が受け止めている間に回り込んだリリーが槍を突き出せば、それを回避して鋭さを欠いた刃を雅が外へと受け流し。
 受け流す動きのままに銃口を突き付け、至近距離から雅が放つライフル弾が白夜の隼を捉えて退かせ、
「逃がしません」
「でござる!」
 逃がさないと踏み込むかぐらを飛び越えて、柱を足場にさらに跳躍する白夜の隼。
 それを追って、クリュティアもまた柱を蹴って宙へと走る。
 柱を足場に、飛ぶように駆ける白夜の隼。
 その背を狙ってクリュティアが放つ鎖は、背中に目がついているかのような動きを見せる白夜の隼に避けられる――だが、それは承知の上。
「かぐら殿、合せるでござる!」
「ええ!」
 攻撃を避けて速度を落とした白夜の隼を、かぐらの雷を纏った蹴りが打ち抜く。
 直撃こそ避けつつも、勢いを殺されて地上に降りた白夜の隼に雅の遠隔爆破とリリーのフォーチュンスターが続けざまに撃ち込まれ。
「迷わずリターン・トゥ・アノヨ致すでござる!」
 それに続けて、白夜の隼の頭上からクリュティアが急襲をかける。
 避けられた鎖を奥の柱に絡みつかせ、そこを支点に大きく振り子のように体と胸を揺らし。
 螺旋を籠めた掌が白夜の隼を大きく跳ね飛ばすも――手ごたえは軽い。
「まだでござる」
 さらに追撃をかけようとクリュティアは地を蹴り――間合いに入る直前で、その体勢が崩れる。
 その脚を貫くのは、跳ね飛ばされながら白夜の隼が放った棒手裏剣。
 それによって生まれた隙はわずかなもの。
 だけど、この相手には大きすぎる隙。
 体勢を立て直し、振るわれるクリュティアの刃をかわして距離を取る白夜の隼の周囲に冷気が満ちる。
 極小の氷の結晶――ダイヤモンドダストを巻き起こす極低温の冷気の渦。
「……セクメト」
「――!」
 突き出す拳と共に撃ち込まれる氷雪を纏う嵐を、雅のウイングキャット『セクメト』が受け止める。
 吹き付ける冷気をキャットリングで相殺し。相殺しきれなかった吹雪を自身の体で受け止めて。
「がんばって、セクメトさん!」
 シルディの手にした黄金の果実の輝きが、吹き飛ばされそうなセクメトを支えて立ち上がらせれば、
 そうして弱まった冷気を突っ切って、リリーと雅が白夜の隼へと肉薄する。
 リリーが突き出す槍をかわし、反撃に振るわれる大剣を雅が受け止め受け流し、
「今回。護り手の、数は…少ないかも、知れませんが。なれば、尚の事…しかと、その仕事。果たさせて…頂きます」
 そうして白夜の隼の注意を惹きつけている間に、悠乃はクリュティアへと駆け寄る。
「大丈夫!?」
「うむ、大事ないでござる」
 悠乃に応えて頷いて、クリュティアは棒手裏剣を引き抜き投げ捨てる。
 その言葉通り、ダメージ自体はそこまで大きくは無い。
 ……だが、
「……流石にやるでござるな」
「ええ」
 クリュティアの言葉に、かぐらも表情を曇らせて頷く。
 リリーと雅。二人の攻撃をさばきながら、かぐらが隙を狙って撃ち込むサイコフォースを飛びのいて回避して――同時に、手裏剣で反撃まで仕掛けてくる白夜の隼。
 その動きに、かぐらの背に冷たいものが走る。
「ここまで強くなりますか」
 金沢場での戦いでは別の相手と戦っていたかぐらは、直接白夜の隼――ヘルファルコンと戦ってはいない。
 けれど、わかることもある。
 当時の螺旋忍軍の強さと自分たちの強さ。
 そこから二年間で自分たちがどれだけ強くなったのかも。
 そして――死神によるサルベージでどれだけ相手が強化されているのかも。
「やっかいですね」
 呟くかぐらに頷く悠乃。
 かつての強敵すら強化して蘇らせる、死神のサルベージ。
 苦戦して倒した相手を手ごまにすることも、その体を奪って強力な死神を作り出すこともできるだろう。
 その一方で、サルベージした因縁ある相手がリリーの前に現れたのは、偶然なのか、それとも『誰か』の意図によるものなのか……、
(「本人のわずかに残った意志がリリーさんを狙わせた? それとも眠らせてくれる相手を探したのかな……」)
 ふと、シルディの脳裏にそんな考えがよぎる。
 無論、それを確かめる術はないけれど……。
「事情なんか知りませんし、興味もありません」
 沈みかけたシルディの考えを、悠乃の声が引き戻す。
 答え合わせのできないことを考えても意味は無い。
 今やるべきは、仲間を守り相手を倒すこと。
 悠乃の送り込むオーラがクリュティアの傷を癒し、軽く動かして具合を確かめるとクリュティアも頷き走る。
「リリーさんの敵なら私の敵です」
「うむ。それだけは確かなことにござるな」


 撃ち込まれるリリーの気咬弾を白夜の隼は飛び上がって回避して、後を追って飛び上がるクリュティアの月光斬を振るう大剣がはじき返し。
 そのまま空中で振るう大剣がリリーを捉えて退かせれば、追撃とばかりに冷気を纏う白夜の隼を雅の銃弾とセクメトの爪が牽制し、続くかぐらの銃弾が白夜の隼を捉えて跳ね飛ばす。
 攻守を入れ替えながら、そして地上だけにとどまらず、時に柱や天井をも戦場にしてケルベロスと白夜の隼は刃を交える。
「ヒールドローンとメタリックバーストはかかっているから、黄金の果実――いや、リリーさんがブレイクされたからもう一回――」
「いえ、守りは私が!」
「なら、メタリックバースト――オウガメタル、みんなに力を!」
 目まぐるしく変化する戦場と戦況。
 それを追いかけながら、いくつものグラビティを使い分けてシルディと悠乃は仲間を援護する。
 相手は自分達よりも数段格上。数で勝っていてもそれだけで押し切れるほどに甘くは無い。
 傷を癒し、守りを高め、狙いを鋭くし、呪縛への耐性を高めて。
 仲間を守り、傷を癒して――その上でなお、確実に勝てるとは言えない。
「願うは此の詩届く者に、月と夜との祝福を……セクメト。そう、簡単に……倒れる訳には、いきませんよ」
 幾度目かになる刃を受け止め、苦しそうな声を上げるセクメト。
 その傷を月光のアリアで回復して鼓舞する雅の声にも、疲労の色がにじんでいる。
 セクメトと力を分け合っている雅の体力は、他の仲間達よりも一段低いものとなっている。
 守りに長けたディフェンダーとして立っていても、仲間をかばい続ければ限界を迎えるのはそう遠いことではない。
 だが――、
「多少の無理は、押し通して。皆を護る仕事……完遂しましょう」
 半ば無理やりにでも呼吸を整えた雅が、力を込めて握りなおした得物を振るって迫りくる氷雪を打ち払い。
 切り開かれた冷気の隙間を縫って、得物を構えたリリーが走り抜け。
 同時に、セクメトの背を飛び越えてクリュティアが駆ける。
 雅とセクメトが限界を迎えるのはそう遠くは無い。
 だが、それまでの間は二人がかりで仲間を守る盾となれる。
「速攻で終わらせるわ。金沢の時みたいに、変な消耗戦はさせないんだから!」
「まだまだ1対1だと無理かもしれないけど、みんなで戦えば勝てないなんてないのよ!」
 渾身の力を込めてリリーが槍を振るい、かぐらが続けざまに放つ銃弾が撃ち込まれる。
 幾度も攻撃は白夜の隼を捉えている。
 相手の限界も決して遠くは無いはず。
 だが、まだ終わらない。
 死者を開放するにはまだ足りない。
「いざ、参るでござ――」
 満身創痍になりながらも、白夜の隼の振るう大剣が背後から飛び掛かるクリュティアの胴を薙ぎ払い。
 続けて、返す刃が身を低くして飛び込むクリュティアを貫いて。
「それはブンシンでござる!」
 消えていく分身を飛び越えて、新たな分身と共にクリュティアが飛び込む。
 上から、下から、前後左右全ての方位から。
「分身殺法 斬影刃!!」
 同時に放たれる多重の斬撃が白夜の隼を幾重にも切り裂いて、
「……終わりにしましょう」
「うん。真の闇でも決して迷わず、獲物を捕らえるその力。一部を借り受け転換し……解き放つ!」
 続けて雅の撃ち込むゼログラビトンの銃弾と、シルディが再現するコウモリの超音波が白夜の隼を捉えて壁へと叩きつける。
 そして、
「リリーさん!」
「カイシャクは任せたでござる!」
「ええ!」
 悠乃の、クリュティアの言葉に頷いて、リリーは槍を巡らせ舞を舞う。
 それは、かつて白夜の隼――ヘルファルコンに止めを刺したリリーの奥義。
 伝承歌で活性したグラビティチェインが螺旋の舞で練り上げられて渦を巻き。
 同時に、白夜の隼の大剣が冷気を纏う。
「応じ来られよ、外なる螺旋と内なる神歌に導かれ――」
「極光――」
 巻き起こる磁気嵐。
 描き出される水瓶座の紋章。
「――その威光を以て破壊と焦燥を与えん」
「――大処刑」
 ぶつかり合う磁気嵐と冷気の刃。
 生み出される一瞬の拮抗。
 それでも雷状に解き放たれた磁気の嵐は止まることなくすべてを飲み込み荒れ狂い――、
「――これで、終わりよ」
 白夜の隼に二度目の死を与えるのだった。


 悠乃の巻き起こす風が戦場を吹き抜けて、戦いの痕跡を消し去って。
 静けさの戻った駐車場で、クリュティアはほっと安堵の息をつく。
「皆、無事で何よりでござる。これで奴も実際蘇らぬでござろう」
「ええ。今度こそ…無粋な輩に。無理矢理に、叩き起こされれず。ゆっくりと、眠れると…良いですね」
 そう、頷きながら白夜の隼の消えた場所に雅が一輪の白菊を供え、かぐらもそこに向けて手を合わせる。
(「サルベージされるのはわたし達がそもそもの原因っていうのは複雑な気がするわ…」)
 金沢城での戦いでヘルファルコンを討ったから、サルベージで白夜の隼が生まれて今日の戦いに至った。
 無論、その戦いを悔いてはいないけれど……どこか複雑な思いを抱えつつかぐらは手を合わせて。
 シルディもまた、花に向けて手を合わせて白夜の隼の安らかな眠りを祈る。
(「死の決着しかなかったことは悲しいけど、死してもなくならない罪なんてない……よね?」)
 恨みつらみも、一度死した相手に再度向けられることはないと思いたいけれど……、
『何度でも葬ってあげるわ、アンタの好きには絶対にさせない!』
 白夜の隼――ヘルファルコンに向けたリリーの叫びも、きっと否定してはいけないものなのだろう。
「リリーさん……」
「……大丈夫よ」
 シルディの視線に、リリーは複雑な表情を浮かべながらもそっと頷く。
 蘇ってくるなら何度でも葬る、その意志に揺るぎは無いけれど。
(「敵とはいえこんな形で何度も……」)
 死後すらも道具として扱われる姿に、同情する気持ちも確かにある。
「こんな戦いは早く終わらせなくちゃいけない。そうなのよね、きっと」
「そう、だよね」
 そのリリーの言葉に、シルディも頷きを返す。
 サルベージで死者が蘇るのならば、死神勢力を倒すことができたなら死者の魂は行くべき場所へと行けるはず。
 デウスエクスが輪廻の輪の中に入ることができるかはわからないけれど……もしもその先があるのなら、『次』は友となれる道もあるかもしれない。
 だから、
(「おやすみなさい。またいつか」)
 シルディは白夜の隼へともう一度祈りを送る。
 今は安らかに眠れることを祈って。
 いつかの出会いを願いながら。

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月29日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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