清涼なる誘い

作者:皆川皐月

 春。いつもと変わらない、ちょっとした散歩。
 芽吹き咲き誇る真昼の暖かさはなりを潜め、春の宵特有の微かに甘い冷えた空気が、エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)の肌を撫でる。
 日課でも何でもないこの散歩を、今日は珍しく曲がったこと無い角で曲がるくらいには気分が良かったように思う。
 視界掠めた薄桃の花弁一枚、春に微睡むエリヤの瞳に鮮やかに映っていた。そして、白い兎も。
「……うさぎ、?」
 なんでとエリヤが呟く前に、兎はぴょんと跳ねては遠のいていく。
 兎の放し飼いなどこの都内の郊外で見たことも無ければ聞いたことも無い。自然と沸いた疑念。わずかに寄ったエリヤの眉。
 そう思案していれば、エリヤの前を行く兎がくるりと振り返った。
 “ついてこい”とでもいうような動作で、進んではエリヤを振り返る。エリヤとて歴戦のケルベロス。昨年からずっと話題に上がっているデウスエクスの襲撃が脳裏を過ぎった――が、同時に頭を上げた好奇心が擽られて。
「ん……いいよ」
 とんとんと進めた足。
 跳ねる兎が招いた先は、既に操業の終了したらしい菓子工場。
 甘い残りがは場所柄か――と、甘党なエリヤ頬が緩みかけた時。
『さむい。さむいわ』
「――……!」
 ミント色のツインテールを揺らし、氷より真白い肌も青白く、ビターチョコレートより苦みと悲しみ湛えた瞳の少女が、いつのまにか。音も無く、エリヤの裾を握っていた。
『さむい。あたたかいものがほしい。あまくて、あたたかくて、』
 エリヤの耳へどろりと染み込むような少女の甘い声。
 春宵のはずが息白く、気付けばエリヤは指先も真っ赤。まるで冷蔵庫の中にでもいるような背筋震える寒さに包まれていた。
『あなたの髪みたいなあまい蜂蜜に、あなたの心臓くらいのあたたかさを混ぜて。おちゃにしましょう?』

 すてきでしょ。
 そう笑って氷色の兎抱えた少女が微笑みのままに銀の匙を振り上げる。

●芽吹けなかった若葉色
 緊急の一報が入った。
 カツカツとヘリポート途中にある廊下を走り抜ける足音が響く。
「お集まりくださりありがとうございます。では、先にお乗りください」
 説明は中で、と促した漣白・潤(滄海のヘリオライダー・en0270)の瞳には、僅かな焦り。
 全員の着席とベルトの着装を確認したのち、潤は話始める。
「エリヤさんが死神らしい少女に襲撃を受けています。急ぎ、救出を」
 現場が見えた直後から連絡が取れない。
 そう零した潤の肌は月明かりに白く映っていた。
 現場は既に操業の終了した廃工場。
 エリヤを襲った死神が既に人払いを――というよりも、人の近付かない場所へエリヤを誘い込んだのだと簡潔に告げられた。
 ハッチにロックが掛り、浮遊感。
 どこかから飛んできたらしい桜の花弁を巻き上げ、ヘリオンが上昇する。
「死神は、温かさを求めてエリヤさんを襲っているようでした……あと、髪色が甘そう、そも」
 二人の出会いや委細まで見えなかったと、潤は言う。
 ただ見えたのは、死神の一部らしい兎に誘われたエリヤが廃菓子工場で襲われる未来のみ。温もりの一つも感じさせない攻撃を繰り出していた、というところで話は締め括られた。
「どうか、エリヤさんと共にお帰り下さい……お待ちしております」


参加者
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)
ロストーク・ヴィスナー(春酔い・e02023)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
歌枕・めろ(アニュスデイ・e28166)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
 

■リプレイ

●芽吹かずの緑
 咄嗟に飛び退き地を踏みしめた足が、じゃりりと霜を折る。
 予想外の音に一瞬、エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)の視線が足元に取られたのも無理はない。いつのまにか春の面影など一切無く、辺りは冬の様相。まるで温もりなど赦さないとさえ言わんばかりの冷えを死神 プティ・クローリクが放っている。
 実際、エリヤの頬掠めた銀匙は痛み感じるほどの冷気を纏っていた。
「っ……!、は」
『あら、あら、さむい?ねむくなった?』
 吐く息は真白く、呼吸で喉を通る冷え過ぎた空気が刺さるほど痛い。
 短い呼気と自身の体から逃げてしまいそうな熱をかき集め、エリヤは魔術回路を叩き起こす。吐きかけた息をぐぅっと呑み込んで、静かに構えたのは夜搔き集めたような宝玉 ネクロオーブ。
 抵抗薄く動き鈍いエリヤを眺めながら、ひどく楽しげに口元歪めたプティ・クローリクの瞳には愉悦と羨望が滲んでいた。白く凍て落ちそうな吐息さえ熱の証というように舌なめずりをし、細い指で銀匙を撫でて一歩。
 軽やかに、とっ――と地を蹴って。
『いいの。いいのよ、あなたがおやすみしてから、ぜぇんぶ取ってもいいの』
「……ごめんね。ねむいのは、飛んでいっちゃった」
 え。
 顔を上げたエリヤに、場へ着いた時の眠たげな様子など微塵も無かった。プティ・クローリクの息をのむ声。それを気にした風もなく、ぼうっと暗く輝くネクロオーブがエリヤの手元で力を増すと同時、見開かれたプティ・クローリクのビターチョコレート色の瞳と、エリヤの瞳中で蠢いた蝶の羽ばたきがぶつかった。
『うそ……!』
「《我が邪眼》、《目を閉じた蛇》――」
『いやっ』
 抵抗しようにも飛び込んだプティ・クローリクの身は空中で、無防備。
 見上げるエリヤは地に足を付けたまま、わらって。
「《其等の翅で闇に閉ざせ》」
 嵐過ぎ去る―――ではなく、エリヤの黒いローブの隙間で花のような色で灯った魔術回路が発した蝶、それはまるで寒さに肌青白くするプティ・クローリクを包み込むように羽で打ち据えた。
『あっちいって! 踊って、うさぎ!』
「春とはいえ夜はまだ冷える。エーリャ、迎えに来たよ」
 振り抜かれた銀匙から跳び出した兎へ構えたエリヤの視界が、すらりとしたロストーク・ヴィスナー(春酔い・e02023)の背に変わる。
「ローシャくん」
「美味しそうなお嬢さんだこと……ふふ、冗談よパンドラ」
 ロストークと同じく兎押し止めた歌枕・めろ(アニュスデイ・e28166)は、自身の言葉に膨らました頬と頭突きで“だめ!”と意思表示したボクスドラゴン パンドラの様子に唇なぞる余裕を見せた。柔らかすぎる微笑みを崩さぬまま、めろは振り返る。
「エリヤちゃん、怪我はないかしら」
「大丈夫だよ、ありがとう」
 頬には掠り傷。
 それ以外目立った外傷はない。めろが以前目にした眠たげな表情と違い、しかと目覚め見開かれた眼には光があった。ならば予定通りにパンドラの属性インストールで十分―……と判断しためろは指先でガネーシャパズルをなぞる。
 つ、と滑った指の跡をなぞるようにパズルは輝いて。目で追えぬほどの高速を以って即座に組み変わったガネーシャパズルが発したのは、女神の幻影。怒れる女神 カーリーの幻影が咆哮すれば、プティ・クローリクの瞳がほんの少し、エリヤから逸れた。
『ねえ、なぁにそれ。ちょっと変だわ?』
「あら、温もりを知らない貴女にもこれが感じられる?」
 女性特有の絶対零度とも言うべきか。ぴり、と目に見えて張り詰めた空気に相棒のプラーミァと共に半歩下がりかけたがグッと堪えて。ロストークはバトルオーラの波に身を任せて拳を撃ち、プラーミァは頬を膨らませ火を吐いた。
「月並みだけど、エーリャに手を出すなら僕を倒してからにするんだね」
『ぐっ?!』
「そう思うだろ?リョーシャ、夜くん」
 音速の拳を受け、吹き飛んだ小柄な背の向こうへロストークは言った。
 “なによ”とプティ・クローリクが反論しようとした時だった――、プティ・クローリクの背後で霜の折れる音がしたのは。
『っ?!、この』
「人の……いや、人の弟の命で暖を取ろうなんて、随分だねお嬢ちゃん」
「エリヤを渡す訳にはいかないから、俺達と沢山遊んでめいっぱい暖かくなってよ」
 プティ・クローリクが声の主へ振り返った瞬間、視界いっぱいに青白い獄炎の海鷲が翼を広げていた。細い肩を鋭い爪が寸分違わず抉り焼き、静かな声と同時に腹抜けた雷の刃が引き抜かれる。
 空いた肩口と脇腹から、ぼたりと赤が吹いて。
『次から、次へと……!』
 ぎり、と歯を食いしばりながら地を蹴り距離を取る。
 痛みに浅くなる呼吸。沸き立つ邪魔者への怒り。その全てを隠すことなく、プティ・クローリクは瞳に込めて睨み上げた。
 すれば、足元から青白い獄炎立ち昇らせるエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)は静かな瞳で。並び立つ藍染・夜(蒼風聲・e20064)もまた、真意悟らせない色の瞳と淡い微笑みで自身を見ているではないか。
『犬は、群れてばかり。だからきらいよ』
「水色の兎のお嬢さんには、刺激が強いでしょうか。 お待たせしましたエリヤさん、寒かったでしょう?」
 目的のエリヤが遠くなったことへ悪態をつけば、返ってきたのは女性の声。
 携えたライトニングロッド Seleneの杖先で雷壁を構築しながら、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)は口角を上げ優雅に微笑み返す。なんてことない、少女の癇癪を嗜めるかのように。
 年の割に大人びた余裕を見せた沙耶へ、プティ・クローリクが声を上げようとした時だった。
『っ、そういうのやめ――』
「そんなに温まりたいなら、燃え尽きるまで温めてあげますよ!と、その前に!」
 遮ったのは溌溂とした武蔵野・大和(大魔神・e50884)の大きな声。
 冷えから微かに震えていたエリヤの手を取るや、大和は迷いなくぎゅっと握り込む。垂れ目の瞳を細め人好きする笑顔のまま、己の熱を分け与えるよう込められた祈りがエリヤの手から全身を温め、頬の傷も綺麗に塞がれる。
「はいっ、これで大丈夫です!」
「……ありがとう」
 冷えから赤く染まっていた指先は、今や行き届いた熱でじんわりと温もりから桜色に。握って開いて確かめて、わずかばかり瞳細めたエリヤが礼をすれば大和は力強く微笑んでいた。
 念入りに計画した事態も、形勢も、いとも簡単に逆転してゆく。
 震えるほどの寒さが一つ一つ増えた熱に溶かされ春になってしまう。

『ひとつも、温かくないじゃない――!』
 ぎゅっと、プティ・クローリクはスカートの裾を握りしめた。

●折れ霜に埋まった色
 打ち据えて、時に弾きあげて。変幻自在のプティ・クローリクの銀匙は酷く厄介。合間を縫って飛ぶ小鳥を撃ち落すことは至難で、柔らかい球のようでその実は鉄球の如き重さで跳ね回る兎たちが壁の様に立ちはだかる。
 幾度目か、全て壊す様に叩き下ろされた銀匙が罅割れたコンクリートを抉り砕く。
「っ、夜くん!」
「だいじょう、……っ?!」
『にがさないから』
「きゃっ」
 立ち昇る砂煙から離脱した夜を追ったのは白い雪玉――否、兎が二匹。
 ぎゅっと体丸めた瞬間、廃工場のコンクリートを砕きながら鉄球の如く跳ね回るや、夜とエリオット庇っためろとパンドラ、ロストークを巻き込み、弾けさせた毛を氷柱に変え、隙間を縫うように突き立てる。
「歌枕さんたちの傷は僕が!」
「サポートは私が」
『ふふっ、やだハリネズミみたい』
 ヒールに奔走する大和を、殺神ウィルスを生成しかけた手を止めた沙耶が咄嗟にサポートする。
 そんな二人と肩で息をする盾役の姿を、小馬鹿にしたような表情でわざとらしく喉を鳴らしたプティ・クローリクが笑っていた。
 既に幾度も打ち合い、プティ・クローリクもケルベロスもその体には血が滲んでいた。が、プティ・クローリクの執念たるや凄まじいものであった。兎も、幾度砕いても加護刻む小鳥の羽ばたきも。自在に伸ばす銀匙も、エリヤ救出時に間へ飛び込み退けた時とより尚研ぎ澄ませて襲い来る。
『ひとつ、もらうね』
「るる、るあ!」
「パンドラっ……!」
 くつくつ笑うプティ・クローリクが片膝付きかけためろの首を掴もうとした時、飛び込んだのはパンドラだった。淡く煌めき輝くその身を躍らせ、宝石のような瞳を吊り上げてめろを護らんと立ち塞がり――……。
『飴玉みたい。つやつやぴかぴか、おあじみするわ?』
 伸ばしためろの手が、パンドラの尾を掠めた。
 銀匙で抉り出し凍てつかせた生命は、まるでプティ・クローリクに呑まれたように溶け消えて。
『ふふふ。あはは!あぁでもやっぱりだめ。やっぱりあなたが良いわ、ねえ“エーリャ”?』
「――きみは」
 プティ・クローリクはどこまでいっても満たされない。
 熱持つ血を浴びても、輝く命を呑みこんでも、発す寒さは相変わらず。細められたビターチョコレート色の瞳には、じんわりと冷えと暗さが増すばかり。
 ああ、寒い。今日はとても、寒い。
 エリヤの脳裏をその言葉が過ぎった時、どんと大きな手が左右から背を叩いた。
 右には、正面からプティ・クローリクを見据えたままのエリオット。
「エリヤ、風邪ひいちまう前に決めるんだろ?」
「エーリャ、ちゃんと伝えたいことがあるんだろう?」
 左には、エリヤを見つめ優しげな顔で瞳細めたロストーク。
 とくんとエリヤの心臓が音を刻む。苛烈な戦いの中、最善手を振るうことに必死になっていた頭の中が不思議と春風でも通り抜けたように冷静になった。
「うん……そうだね、にいさん、ローシャくん」
「リーオとロスの言う通り。ねえエリヤ、春を呼ばねばいけないね」
 瞳細めた夜も、笑っていた。
 夜の刃を抜くような動作に合わせ、マインドリング 禁断が光の刃を織りなし紡ぐ。淡くもどこか暖かい春空色の青。
 ヴ、と空気が震撼した直後、大和の手で幾重にも掛けられたオウガ粒子が夜割く輝きを見せた。一足お先に、と低い姿勢で斬り込んだのは夜。宵隼歌の名に違わぬ一閃が、プティ・クローリクを断つ。
『な、 あなた……!』
 エリヤとエリオットとロストーク、この三人に掛け声など要らなかった。三人に必要なのは細やかな変化という合図で十分。
 夜の一太刀を受けたプティ・クローリクが飛び退こうとした時だった。
 その細く小さな足が、動かない。足に複雑に絡みつくグラビティチェインに、プティ・クローリクの頬が引き攣った時――白い頬が眩い咆哮に照らされる。
「陽だまりの様な笑顔が守れるなら、私は躊躇うつもりはありません」
 大人びた静かな声の主は沙耶だ。
 沙耶の振り抜いたドラゴニックハンマー The Mallets of Sluggerの轟竜砲がプティ・クローリクへ迫る。
 ぎり、と歯を食いしばったプティ・クローリクは叩き上げる様に轟竜砲を往なした時、唐突に思った。これは幾度目か。避けず弾いた数は幾つだ、と。
『あっ……!』
 じゃらじゃらと三重の鎖が足を取る。
 弾き上げた銀匙を伝い、掠めたことさえ利用して絡みついたそれはプティ・クローリクを捕らえて離さない。
 ひゅうるり、夜空に銀星色の燕が舞う。
「……可哀想な子。やっぱり貴女は、温もりも、暖まり方も、知らないのね」
『うるさい     うるさいうるさいうるさいうるさい!!』
 暗き夜空で煮詰めた蜜色に瞬いためろの瞳に、プティ・クローリクは頭を抱えて吼える。嫌だと、聞きたくないと頭を振って。
 指先に止めた銀星色の燕へ口付け一つ。めろの手中で銀弾と化した燕が、飛ぶ。
「――めろも、貴女と似た人を知ってるわ」
『え?』
 めろの囁きは終わりゆく冬の、踏みしめられた霜の音に吸い込まれ誰の耳にも届かなかったけれど。しかし、どこからか降った桜の花弁を巻き上げた銀の燕は、吸い込まれるようにプティ・クローリクの胸を突き抜けた。
 こふりと、薄く小さな口元から熱持った赤が滴る。ほたりほたりと、解れる様に。
「エリヤさん、決着を!」
 剣戟響く中、大和の声が通った。
 三人の内、先陣を切ったのはロストーク。
 踏み込む姿勢と拳は真っ直ぐに、すうっと細まる瞳には真剣さを滲ませて。
「プラーミァ」
 音速の拳が傾く細身ごと、幾重にも氷を侍らせていたプティ・クローリクの加護を打ち壊す。主に呼ばれるのは名だけで十分と言わんばかりに身を躍らせたプラーミァの火炎は、冷えた色だけを携えた小鳥たちを焼き落とした。
『ことり……!このっ、』
「おいで、白銅炎の地獄鳥」
 どこか優しいエリオットの声と、生物成らざる羽ばたきが聞こえた。
 銀の燕が巻き上げた桜を再び起こす羽ばたき。エリオットの足元から立ち昇った獄炎はただ美しかった。冷えた風を燃やし、溶かし、春を呼ぶ焔の羽ばたきが――。
『いや、 いやよ、こない  で』
「すまないね、お嬢ちゃん」
 泣きそうな瞳で突き出された銀の匙が、エリオットの放った海鷲の爪に燃え落ちる。
 冬が、終わっていく。

 肌切るほどの風は成りを潜め、眠る芽揺り起こす温もりが吹き抜ける。
 いやだいやだとどんなに泣いても、時が進めは季節は巡っていく。何者も、仮初でも生刻むのならば抗う術など無かったのだ。
「寂しかったね」
『うるさいわ』
「寒かったね」
『熱をちょうだい』
「君も、うさぎさんも、鳥さんも――」
 もう逃れる術の無いプティ・クローリク。
 涼やかな色は温もりの赤に包まれて。ひら、ひらと舞う蝶に春の兆しと、雪色の頬包むエリヤの手には熱。
「おやすみなさい」
 エリヤの瞳が瞬いた時、花の如き異形翅の蝶が寒色の少女を攫っていった。

 春が来た。
 薄桃の心と称される形と似た花弁舞う花弁舞う季節が、やって来た。

作者:皆川皐月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月24日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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