ミッション破壊作戦～鉄と鋼のファウンデーション

■リプレイ

●一
　愛媛県、四国中央市。
　北に瀬戸内海を望み四国四県に隣接する街の一角に、ケルベロスたちは向かっていた。
　目指す先はダモクレス『ナイトレイダー』の強襲型魔空回廊。目的は回廊の攻撃だ。
「無残なものだな……」
　ヘリオンの窓から地上を見下ろし、地形情報を収集していた目面・真（たてよみマジメちゃん・e01011）は呻くように言った。
　かつて人々の営みがあったであろう街並み、そこは既に瓦礫の山と化している。ひび割れた道路は荒れ果て、もはや往時の原形を留めてはいない。
（「鉄屑共。必ず葬ってやる」）
　『夜襲』の名を冠するダモクレス、ナイトレイダー。オマエたちが刻んだ爪痕は、残らずオレ達が返してやろう――。
　無言の誓いを立てる真の横では、グーウィ・デュール（黄金の照らす運命・e01159）が、同じ旅団の仲間を静かに励ましていた。
「ま、気負わず行きましょう。向日葵さん」
「……ありがとう、ぐーちゃん」
　日向・向日葵（向日葵のオラトリオ・e01744）は沈んだ声で答えると、ぎゅっと砕かんばかりに掌を握りしめた。
　ナイトレイダーの侵攻を阻止できず、取り零したであろう人々の命。それをもう、二度と零すまいと決意するかのように。
（「ようやく倒せる機会が来た。止めなきゃ。少しでもアレを止めなきゃ」）
「もうすぐ、着きそう、だね」
　一方、空鳴・無月（宵星の蒼・e04245）はグラディウスのチェックを終え、すでに降下の準備を終えていた。
「地球の星空を、ダモクレスには、渡せない、から」
　頑張ろうね、と無月はぽつりと言った。
　無表情な彼女が紡ぐ、人々を守るという強い意志が秘められた言葉に、仲間のケルベロスも黙って頷く。
「ここの回廊は中々の難易度のようですね。……激戦になりそうだ」
「ええ。絶対に負けられないのですよ」
　旗楽・嘉内（フルアーマーウィザード・e72630）の言葉に、機理原・真理（フォートレスガール・e08508）が頷いた。二人とも幾度となくミッション破壊作戦に参加してきた経験者だけに、その声は重い。
「グラディウスを失わず、全員揃って、中央市を脱出するのです」
「ええ。是非、そうしたいですね」
　ジュスティシア・ファーレル（エルフの砲撃騎士・e63719）が武器の動作確認を終えた時、降下ポイント到着を告げるブザーが鳴り響いた。
「行きましょうか、皆さん」
「んう。よろしく」
　席を立つジュスティシアの後を、伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）が可愛らしい足取りで後をついて行く。
　彼女もまた、ここの攻略が容易ではないことは十分承知の上。万一の時は、最後の手段も躊躇しないつもりだった。
（「かならず、勝って、帰る」）
　開かれたハッチから飛び降りていく仲間の背を追いかけて、勇名は大空へ飛び出した。

●二
　そびえ立つ強襲型魔空回廊めがけ、真っ先に降下したのは無月と真理だった。
　あっという間に眼前へと迫ってくる回廊のバリアを狙い定め、グラビティ・チェインの光を湛えた剣を、二人はひと思いに叩きつける。
「四国中央市……４つもの県に隣接する場所……」
「この街は名前の通り、色んな物の中心地なのです。交通の要所で、お遍路があって、山と川と自然があって、とても良い街なのです」
　バリアに突き刺さったグラディウスが眩い光を放ち始める。
　切先を向けた地上から、数機のナイトレイダーが編隊を組んで向かってくるのが見えた。そんな彼らを見下ろして、真理と無月は魂の叫びを解き放つ。
「そんな街を夜襲だなんて、絶対ダメなのですよ。卑怯な事は許さないのです……！」
「返してもらう、よ。そこは、あなたたちの場所じゃないんだから」
　ほとばしる雷光と爆炎が、街の空に放たれた。
　向かってきたナイトレイダーが、グラディウスの攻撃を浴びて爆発し、次々に砕け散っていく。勇名はそれを見下ろしながら、次なる一撃を叩きつけた。
「……んう。ここも、つらいがいっぱい、かなしいいっぱい、か。もやもやする、なー」
　『心』。かつてダモクレスであった勇名が何の前触れもなく得たものであり、彼女が今もその在処を探し続けているものだった。
　惨劇や悲劇を目の当たりにして、グラディウスを用いる時、彼女は確かに実感する。心は確かに、自分の中にもあるのだと。
　この街と、そこに生きる人々の営み。喜びや楽しみを返して貰う。そんな想いを込めて、勇名は魂の叫びを剣に込めた。
「ちからをかして、グラディウス……！」
　勇名の声に応えるように、雷光が回廊へと降り注いでいく。
　防衛部隊と思しきナイトレイダーは僚機が撃墜されるのも構わず、次々にケルベロスへと向かって来るが、グラディウスの力の前には全くの無力だ。
　抵抗することも叶わず、ただ大空の塵となって散華していくデウスエクスの群れ。その様を見下ろす真が、ジュスティシアが、更なる追い打ちを浴びせにかかる。
「鉄屑共が無辜の民を屠るとはイイ了見だな。ならば今度はオレ達が、オマエ達を物言わぬ鉄錆に変えてやる番だ」
　真が剣に込めるのは、ナイトレイダーへの殲滅の意思。
　人々に害を為すデウスエクスを、残らず排除するという誓いだ。
「私の故郷もこんな風にダモクレスに侵攻された。愛する人達もそこで失った。でも今は、お前達に対抗する力がある」
　ジュスティシアが込めるのは、デウスエクスへの怒り。
　死しても尚、人々を侵略の道具として用いる存在への強い憤りだ。
「日向クンの為にも、オマエ達を葬り、この場所を鉄屑共の占拠から解放してみせよう。鉄屑は鉄屑らしく、地球から出て行け！」
「既に犠牲になった人々には詫びる言葉もないけど、これ以上の侵攻は許さない。壊れろ、邪悪な回廊！」
　ただ攻撃を受けて骸を晒す、それが貴様らに許された全てだ――そう思い知らせるように嘉内は剣を振り下ろした。
「人が安らかに眠るべき時間に奇襲して殺戮を重ねるとは……！　睡眠不足と恐怖がどれだけ人の心を苛むか、所詮機械にはわからんか！」
　嘉内は怒りも露わに、叫びを上げた。
　恐らくは彼が直に体験したであろう過去と、そこから来るであろう怒り。嘉内はそれらをグラディウスに残らず注ぎ込み、解き放つ。
「貴様らに怯えて眠れない人々がいなくなるように、貴様らによって命を奪われる人々がいなくなるように、この回廊を破壊する！」
　回廊を雷光が穿ち、爆炎が吹き飛ばし、容赦なく破壊していく。
　そこへ降下した向日葵とグーウィは、静かに頷き合うと、最後の一撃を突き刺した。
「また来たよ！　ナイトレイダーッ！　今度こそ、貴方が奪った体を返してもらうよ！」
　彼女が最初に遭遇した１機のナイトレイダー。それがまだ生きている事を確信しながら、向日葵は魂の叫びを込める。
　かつては倒せなかった。だが、今なら手が届く。
　ただ１機の相手に語り掛けるように、向日葵は大声で言う。
　もう、お前が飛べる時は終わるのだと。
（「うんうん。元気な彼女が、戻って来ましたねぇ」）
　グーウィは向日葵の姿を横目に見ると、負けじと剣の柄を握りしめる。ダモクレスの事情なぞ知ったことではない、という前置きと共に。
「あんたがここにいると多くの人が苦しむ。あっしの大事な人が決着をつけたがってる。これ以上何の理由がいるって言うんですか？」
　シンプルで力強い叫びを込め、二人は同時に力を解き放つ。
「さあグラディウスよ、このクソっ垂れた回廊をぶっ壊し、苦しみと因縁を終わらせろ！」
「これが『彼』から受け継いだ者の使命だもん……。破壊させて貰うよっ！」
　回廊を包む光が脈打つように膨れ上がり、ケルベロスを飲み込んだ。
　着地を果たし、回廊の場所を見上げる向日葵。
　ほんの僅かな沈黙の後、隣に立っていたグーウィが、向日葵の肩をぽんと叩いた。
「何度でも来ればいいんです。何、お遍路よりは早く済みます」
「……うん。ありがと」
　強襲型魔空回廊、破壊失敗。
　ケルベロスはグラディウスを各々の体に固定すると、すぐに撤退を開始した。

●三
　スモークをかき分けて走る８人の鼓動は、心なしか普段よりも速く感じられた。
「……追ってきていますね」
「ええ。先程から、ずっと」
　ジュスティシアの呟きに、嘉内は頷いた。
　自分たちの頭上に、ナイトレイダーが１機。まるで羊の群れを追う猟犬のように、ぴたりと距離を保って着いて来る。
「面倒ですね。恐らく敵は強化版……エース級なのです」
　戦いは不可避――そのことを誰もが覚悟した、その時だった。
（「来る……！」）
　反射的に足を止めた向日葵の目と鼻の先を、緑色のレーザー光が抉り取ったのは。
「帰さないつもり、みたい、だね」
「承知の上なのです。力づくで通るですよ、プライド・ワン！」
　無月と真理らを先頭に陣形を組むケルベロス。そこへ上空から、１機のナイトレイダーが悠然と降下してきた。
「真打ち登場ってことですか」
「そのようだな。行くぞ、皆！」
　ドラゴニックハンマーを構えるグーウィ。前衛に立つ真の真正面から、鋼鉄の翼を広げたダモクレスが右手に装着したレーザーガンブレードを手に迫る。
　無月はグーウィを庇い、全身防御で守りを固め始めた。
　敵は火力が高い。連続して浴びれば、防御に優れるディフェンダーでも落ちかねない。
「ターゲット捕捉―――容赦は、しないですよ」
　真理のアームドフォートの主砲が、ビルの谷間を飛行するナイトレイダーを捉え、砲弾を発射。着弾した弾から、回復を阻害するナノマシンが標的を蝕み始めた。
「飛べるからって、有利とは限らないのですよ！」
　ぐらり、と機体を傾かせるナイトレイダー。プライド・ワンはビルを器用に駆け登ると、壁を蹴って跳躍。炎をまとい、鋼の侵略者に体当たりをぶつける。
　きりもみ回転しながら路上に墜落する敵めがけ、嘉内と真が狙いをつけた。
「なまじ格好良くて主人公機と言い張っても通用しそうなのがムカつきますね。やってることは極悪なのに」
「冷え固まってしまえ！」
　『エメラルドの翼』――翼型の自律兵器を射出し、全方位から射撃を浴びせる嘉内。
　オラトリオの力で飛空しながら、時空凍結弾を連射する真。
　並の敵であれば大ダメージは免れない、クラッシャー二人のコンビネーション攻撃にも、しかしナイトレイダーはまるで怯んだ様子を見せない。
　武装を展開し、ハゲタカのように自分たちの頭上を旋回し始める敵の姿を見上げながら、スターサンクチュアリを発動するジュスティシアは微かな焦りを覚え始めた。
　敵はすぐに襲撃をかけて来るだろう。幾度か切り結んだだけで、此方の仲間たちは大きなダメージを負っている。勇名やグーウィが攻撃の合間に発動する回復用グラビティで、辛うじて戦線を支えている状態だった。
「うごくなー、ずどーん」
「その翼、こいつで折ってやる！」
　ナイトレイダーがまたもケルベロスの前衛を狙い定め、上空から突っ込んで来た。
　勇名の発射した小型ミサイル群のカラフル弾幕が、グーウィの発射した竜砲弾が、次々にナイトレイダーを捉え、回避能力を封じていく。
　敵の攻撃の勢いは全く衰えない。氷のグラビティをまとい、飛来するナイトレイダー。
　ビルの上へ登り、射撃用ポジションを確保した向日葵がフォートレスキャノンを展開すると同時に、氷の力を帯びた斬撃の嵐が、前衛の体力を舐め尽すように奪い去っていく。
（「この火力、まずいのですよ……！！」）
　向日葵を庇ったプライド・ワンが、勇名のドローンもろとも、直撃を浴びて消滅した。
　ジュスティシアはオウガ粒子を前衛へと散布し、ステルスリーフの発動態勢に入る。
　まるでヒールが追い付かない。だが手を止める訳にはいかない。
「皆さん、回復の時間を稼いで下さい！」
「了解ですよ！」
　フォートレスキャノンで敵を撹乱する真理。オウガ粒子を浴びた真が、オラトリオの翼を広げてナイトレイダーと空中戦を繰り広げる。
「その翼が、それほど自慢か！」
　ブレードを躱し、鋼鬼の拳をカウンターで見舞う真。砕ける装甲と共にナイトレイダーが地面へと叩きつけられた。瓦礫の中からむくりと身を起こした敵の体を、地面から生えた無数の槍衾が封じ込める。
「足元……注意……。……もう遅いけど」
「これで、にげられない」
　無月の『摩天槍楼』だ。追撃で放たれる勇名のケルベロスチェインが素早く地面を伝い、ナイトレイダーの体に絡みついた。
　ナイトレイダーは銛を撃ち込まれた鯨の如く、拘束を解かんと暴れ狂う。真の遠隔爆破とボクスドラゴン『翔之助』のブレスを浴びて動きが鈍った一瞬を見逃さず、嘉内が超重力を込めた剣の一撃を叩きつける。
「食らええええぇぇっ！！」
　ドン、と音を立てて陥没する道路。武器の切先で装甲を抉りながらグーウィの後方から、向日葵が主砲を発射する。
「働いて返せ、ヴィゴラス！」
「これで、吹き飛べ！」
　剥がれた装甲の間隙を、フォートレスキャノンが抉った。
　吹き飛ぶ鋼の破片。反撃のレーザーガンブレードを振るうナイトレイダー。一撃を浴びたグーウィが鮮血を吹き、その場に崩れ落ちる。
「ぐーちゃん！」
「んう。この敵、しぶといなー」
　勇名の鎖を振り解こうと、ナイトレイダーはビルの間をなおも滅茶苦茶に暴れ続ける。
　真理は白の純潔を敵に巻き付け、毒を注入。そのままビルに激突し、立ち上がろうとするナイトレイダーの眼前に真が跳躍で迫る。
「破ッ！」
　放たれる真の蹴剣。ナイトレイダーは顔を踏み砕かれるのも構わず、軋みをあげる機体を起こし、氷の斬撃をなおもケルベロスに振るった。
「うぅ……っ！」
　向日葵を庇い、直撃を浴びた真理の体が、スパークをあげてゆっくりと倒れる。
「後は……頼むのですよ……」
「必ず倒す……任せて」
　ジュスティシアのステルスリーフを浴びた無月が斬り下ろす月光斬を浴び、脚を切られたナイトレイダーが悲鳴のような金属擦過音をたてながら膝をつく。
　決着の時だ。勇名は機械腕を回転させ、ナイトレイダーの胴を覆う装甲板を穿ち始めた。
「ぼくが、よろいを、やぶる。こうげき、おねがい」
「了解！　奴だけは、必ず落とす！」
　嘉内の鎧装から、エメラルドの翼が次々に射出されていく。
　向日葵はそれに頷くと、リボルバー銃を手に飛翔。
　オラトリオの力を開放し、『開放される時間』を発動した。
「奥の手行くよォッ！　うがぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ！！！！」
　嘉内の魔力を用いたビーム射撃。向日葵の銃弾とグラビティ弾。視界を埋め尽くす銃弾を全身に浴びたナイトレイダーは、ついにその身を爆発させ、跡形もなく消えた。
「急ぎましょう。時間がありません」
「んう。わかった」
　真理と勇名はグラディウスと共に、真理とグーウィを担ぎ上げた。
　晴れかけたスモークの中を、ケルベロスは急いで撤退していく。ダモクレスの手に落ちた四国中央市を、いつか人類の手に取り戻すことを誓いながら――。

作者：坂本ピエロギ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月18日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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