なんでもチン!

作者:神無月シュン

 新生活。引っ越しの際に買い替えたのであろう。粗大ゴミとして捨てられた古い電子レンジがあった。
 そこへ、真っ直ぐと走ってくるのは、握りこぶし程の大きさの小型ダモクレス。その見た目は機械で出来た蜘蛛の様。
 小型ダモクレスが電子レンジへと入り込むと、一体化しみるみる姿を変えていく。機械的なヒールを施し、動きやすい様手足まで生えてきたではないか。
「レ・ン・ジー」
 生やした腕で電子レンジの扉をバタバタと開閉し具合を確かめると、満足したように、人の居る方向へと歩き始めた。

●会議室にて
「住宅地で粗大ゴミとして捨てられていた、電子レンジがダモクレスになってしまう事件が発生します」
 集まったメンバーを眺め、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は説明を続ける。
「幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまいます。その前に現場に向かい、ダモクレスを撃破してください」

 このダモクレスは電子レンジが変形した、ロボットのような姿をしている。とは言っても、ワット数とあたため時間のつまみの付いた電子レンジに手足が付いているだけだが……。
「現場は住宅地ですが、共働きの家庭が多く周囲に人は居ません。その為、ダモクレスは商店街の方へ向かって進行を開始するようです」
 放っておくと、商店街に集まっている人たちが犠牲になってしまう。
「ダモクレスは色々なものを体内に入れ加熱して攻撃してきます」
 普段電子レンジに入れてはいけないものも、加熱してくるかもしれない。

「廃棄されたとはいえ、人々に危害を加えるのは望んではいないはずです。何としてもダモクレスを止めてください」
 セリカは説明を終えると、資料を閉じた。


参加者
ミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
 

■リプレイ

●電子レンジは熱を当てて温めているわけじゃない
 ケルベロス達は予知のあった住宅地へとやってきた。
 報告の通り、昼間にもかかわらず、辺りからは生活音の類は聞こえない。子供はこの時間は学校だろうし、共働きの家庭が多いならばこれほどに静かなのも頷ける。
「放置しない限り住民の避難は大丈夫とはいえ、早くに倒すに限る」
 マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)が商店街の方向を確認しながら呟く。
「念のため周りを確認しておくのです」
 宅配や郵便等の訪問者が居ないとも限らない。そう考え、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は軽く周囲を見て回った。
「誰も居ないみたいですよ」
「その辺に猫が居なくて良かったのかもしれマセン」
 真実かどうかはわからないが、濡れた猫を乾かすために、電子レンジに入れ死なせた人がいるという噂を思い出し、モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)は、ほっと胸をなでおろした。
「確か、この道を通るのよね!」
 そう言うと、ミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728)は乗っていたライドキャリバー『乗馬マスィーン一九』から降りた。
「なんでもチンしたら危ないよ。電子レンジは正しい知識を持って使わないと」
 ダモクレスを放置しておいたら、そのうち人間までレンジに入れてチンしてしまうのではと、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)は心配そうにしていた。

 ケルベロス達が商店街への道を塞ぐように立つこと十数分。遠くから二足歩行する電子レンジに手足の生えた、ロボット型ダモクレスが歩いてくるのが見えた。どうやらこちらにはまだ気が付いていないらしい。
「まだこっちには気づいてないみたいだし、先制に一発……」
「マリー、ちょっと待つです」
 今にも飛び出していきそうなマルレーネを真理が後ろから抱きしめた。こうするだけで、マルレーネは止まってくれると真理は知っているのだ。
「いきなり抱き付いて、みんなが見ているじゃないか」
「見たい人には見させておけばいいのですよ。それより私、試してみたい策があるのです」
 真理は名残惜しそうにしながら、マルレーネから離れると冷えたお弁当を道の真ん中に置いた。
「こんなので引っかかるの?」
 桜子が疑問に思う中、歩いてきたダモクレスが冷えたお弁当を見つけた。
「レンジ……レ・ン・ジー」
 元になった家電の本能か、ダモクレスは冷えたお弁当をあらゆる角度から眺め、手に取り電子レンジの蓋を開けると、中に冷えたお弁当を入れ蓋を閉め温めボタンを押した。
「本当に引っかかったの! これはチャンスなの!」
 ミステリスが驚きの声をあげる。皆もまた、まさか引っかかるとは、という顔をしていた……。
 なんにせよ、チャンスなのに変わりはない。ダモクレスがお弁当を温めている間に武器を構え、攻撃を開始するのだった。

●温めるのは本能
「できれば狙アップをお願い」
「お任せ。援護、するですよ!」
 真理は一瞬視線を交わすと、索敵支援に特化したドローンを展開し、マルレーネの周囲に配置した。
「ワタシも援護いたシマス」
 超感覚を呼び覚ます為、前方へオウガ粒子を放出するモヱ。
「ゆっくり準備できて楽ちんなの!」
 ミステリスがドローンの群れを操り、前列に配置する。
 ケルベロス達が戦闘準備を着々と整えている中、ダモクレスはお構いなしにお弁当を温め続けていた。
 電子レンジとしてのプライドだろうか、一度温め始めた物は最後まで温めたいのだろう。
「まずは、その素早い動きを封じてあげるよ!」
「おいで、お前の相手は私たち」
 桜子とマルレーネはこのチャンスを逃さないと、攻撃に移った。2人の攻撃を受けても、ダモクレスは一切動こうとはしなかった。
 上空へと飛び上がった真理が、飛び蹴りをダモクレスへと浴びせると、ライドキャリバー『プライド・ワン』の座席へと着地する。プライド・ワンはそのまま真理を乗せ、ダモクレスに向かって炎を纏って突進する。
 その間にモヱは前列に雷の壁を構築。
「それ、必殺のエネルギー光線だよー!」
「撃つべし! 撃つべし! なの!」
 桜子とミステリスの砲撃がダモクレスに襲い掛かる。
 吹き飛びそうになるのを必死に堪えたダモクレスは、レンジの蓋を開けると温め終わったお弁当を元の場所に置いた。
 そして取り出したのは生卵。
「た・ま・ごをチン!」
 10個の生卵をレンジの中へと入れると、蓋を閉じスイッチを押した。
「電子レンジは便利ですけど、ちゃんと使い方は守らなきゃダメなのですよ。……電子レンジでゆで卵は出来ないのです」
 真理の抗議の声が上がる中、温めは続く……。
 そして、絶妙なタイミングでダモクレスはレンジの蓋を開いた。
 レンジの中の卵が爆発を起こし、桜子たちに向かって卵の破片が飛んでくる。
「あっつ!」
「19よくやったの!」
 ダモクレスの側にいたメンバーが破裂した卵を浴びる中、ミステリスだけは乗馬マスィーン一九が立ち塞がったおかげで難を逃れたのだった。
「霧に焼かれて踊れ」
 仕返しとばかりに、マルレーネは強酸性の桃色の霧を生みだし、ダモクレスを包み込んだ。
「天司さんも援護、するですよ!」
 桜子の元へ索敵支援のドローンを飛ばす真理。
 モヱは卵を浴びた仲間を回復。支援を受けた桜子はダモクレスに向かって蹴り込んだ。
「トラウマボール、くらえなの!」
「これもおまけだ」
 ミステリスとマルレーネ。2人の放った魔力弾とエネルギー光弾が立て続けにダモクレスに命中する。
 ダモクレスが次に取り出したのは無数の金属片。
「いけません……そのようなものは決してチンしてはならないのデス」
 モヱの制止もむなしく、ダモクレスは金属片をレンジに入れると蓋を開けたままスイッチを入れる。
「金属、金属、チーン!」
 スイッチを入れるとすぐに金属片がスバークし、大量の火花が飛び出しケルベロス達に襲い掛かった。

●誤った使い方は故障の原因
 火花や破裂した卵、高温に熱せられたペットボトルが飛び、ケルベロス達はダメージ以上にいたるところに火傷を作っていた。
 真理とマルレーネが視線を交わし頷き合う。同時に攻性植物を捕食形態に変形。2人の攻性植物がダモクレスを喰らう。
「データサポートを行いマス」
 仲間を庇い、あちこち燃えているミミック『収納ケース』をモヱが治療する中、桜子が光線を発射しダモクレスを攻撃する。
「さあお楽しみの時間なのね。ほーらお前たちご飯の時間なのよー♪」
 ミステリスがハムスターロボを放つ。ハムスターロボたちは仲間たちの元へ走り出し、炎を吸い込み始めた。
 ダモクレスはまたも生卵をレンジの中に入れ、スイッチを入れる。
 破裂した卵の破片がケルベロス達に襲い掛かる。降り注ぐ破片を避けようとするも数が数である。腕に、顔に、一部は首元から服の中にまで熱々の卵が火傷跡を作っていく。
 プライド・ワンに乗りながら、『改造チェーンソー剣』ですれ違いざまにダモクレスを斬り裂く真理。
 モヱは『Magical i-Land』を振るい、雷の壁を展開。
 ミステリスが『アームドフォートType:α[アルファ]』を構え、発射。弾道を追うように桜子が駆ける。着弾と同時、飛び蹴りがダモクレスへと命中し、吹き飛ばす。
 吹き飛んだダモクレスが起き上がると、ペットボトルを取り出し、レンジの中へ。
 膨張したペットボトルが中身を噴きあげながら宙を走る。複雑な軌道を描きながら、真理の元へ。
「っ!?」
 攻撃を受けた真理はプライド・ワンから投げ出され、地面へと叩きつけられた。
「真理!? よくもっ」
 マルレーネは御業でもってダモクレスを鷲掴みにすると、急いで真理の元へと駆け寄った。
「大丈夫?」
「いたた……大丈夫、少し擦りむいただけです」
 真理はマルレーネの手を取り立ち上がると、服の汚れをはたいた。

 普通、レンジにかけてはいけない金属を何度も入れたせいで、レンジの中は火花で黒く焦げボロボロになっていた。
「これなら……金属をチンしようとしているときに蓋を閉めれば自爆したのデハ……」
 そうモヱは考えたが、確実にそうなるとも限らなかったし、何より火花が噴き出す中に飛び込むという危険を考えたら止めておいて正解だったのかもしれない。
 ボロボロになっているのならもう、やる事は一つ。トドメをさすために一同頷き合うと、総攻撃を開始した。
「行くですよ、マリー」
「霧に焼かれて踊れ」
 まずは真理の砲弾の嵐。続けてマルレーネの強酸性の霧が包み込む。
 腕をドリルのように回転させ、突きを放つモヱ。モヱがどいた後ろからミステリスが放った黒色の魔力弾が襲い掛かる。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 桜子の創造した無数の桜の花弁がダモクレスを覆っていく。姿が見えなくなるほど覆われると桜の花弁はやがて紅蓮の炎へと姿を変え焼き尽くさんと燃え上がった。
 炎に焼かれ限界を超えたダモクレスは爆発を起こし砕け散った。

●戦いを終えて……
「さっきのダモクレス、私の! 夜の玩具にするの!」
 使えるものはないかとミステリスは走り出した。
「あ、これまだ温かいのです」
 ダモクレスが温めたお弁当を拾い上げる真理。廃棄されダモクレスになって、電子レンジとして最後のまともな仕事がこれだと思うと、なんだか悲しくなる。
「それじゃ、周りのヒールは桜子におまかせっ」
 桜子が手を振り、壊れた個所の修理に向かう。
「これ……どうしマショウ……」
 モヱの指さした先には、壁や地面にこべり付いた卵の欠片やジュース。
 戦闘で壊れた場所よりも、ダモクレスの攻撃で汚れた面積の方が遥かに広い。このまま放置すれば異臭を放ち始めるだろう……。
「掃除するしか……ないよな」
「それなら商店街まで行って掃除道具買ってくるのです」
 真理はプライド・ワンに乗ると、商店街に向かった。
 住民が帰ってくる前に終わらせようと掃除道具を用意し、掃除を始める。
 ダモクレスとの戦闘よりも、掃除の方に時間を割かれるケルベロス達だった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月19日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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