スウィートヱネミー

作者:猫鮫樹


 今はもう使われていない倉庫。
 人がいないここには沢山の物で溢れていた。
 長い時間放置された物は埃に塗れて、いつかの人に使われていた記憶を思い出すのだろうか。
 廃棄された家電製品の近くを歩き回るモノがあった。
 それは機械で出来た蜘蛛の足のようなものを器用に動かし歩いている。何かを探すように、物色するように握りこぶし程の大きさのそれは倉庫内を歩く。
 ふと、一つの電化製品に足を止めた。
 入り込んだ電化製品は大きくなり、壊れた箇所が治っていく……まるで作り変えるかのような光景。
「ちょこまっしーん!」
 家族で、友達で、あるいは……恋人同士で。
 かつて使われたであろうホットチョコレートマシンはダモクレスとなって、人々を襲うためにチョコレートを撒き散らす。


 湯気があがる温かなマグカップを片手に中原・鴻(サキュバスのヘリオライダー・en0299)はケルベロス達に話し始めた。
「霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)さんが危惧していた通り、今度はホットチョコレートマシンのダモクレスが現れたよ」
 炬燵の次はホットチョコレートマシン。温かいダモクレスにケルベロス達も忙しいだろう。
 マグカップに入ったブラウン色の液体はホットチョコだ。それを一口飲んで、鴻は話を続けた。
「とある倉庫で棄てられていたホットチョコレートマシンがダモクレスとなってるんだけど……このまま放置してしまったら、多くの人々が殺されてしまう」
 被害が出る前に現場に向って倒して欲しいと鴻はケルベロス達に伝える。
 被害が出る前に現場に向って倒して欲しいと鴻はケルベロス達に伝える。
 倉庫の周りに民家はあるものの、すでに避難は完了しているため、ケルベロス達はダモクレスを撃破することに集中して大丈夫だ。
 このホットチョコレートマシンのダモクレスは、チョコを撃ちだすような攻撃をしてくる。かつてカップル達が使っていた可能性を彷彿とさせる、甘いチョコの攻撃はそこまで温度は高くなさそうだ。
「こんな美味しいチョコドリンクを作れる機械が人々を襲うなんて許せないよねぇ。皆、頑張って倒してきてくれないかい」


参加者
神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)
寺井・聖星樹(爛漫カーネリアン・e34840)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

●倉庫に眠る甘いもの
 開け放った扉から溢れんばかりに香るチョコの匂いを確かめながら、神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)は金色の瞳で倉庫の奥で蠢く機械を見つめていた。
 他の仲間達も同じように溢れる甘い香りの元であるホットチョコマシンのダモクレスに視線を向け、いつでも攻撃できるように武器を構え、倉庫内へと入っていく。
 いくつかある窓は割れているものやひびが入ったものがあり、そこから入る光が電気のない倉庫の中を照らし、薄暗いながらもなんとか光源となりえるくらいの明るさはあった。
「ちょこ? ちょこましん?」
 突然の来訪者にガチャガチャとダモクレスは足を動かし控えめに声をあげて警戒すると、上部にある容器に入ったチョコが水音を立てて揺れる。
 家族や友達で楽しくチョコドリンクを作り、飲んでいたであろうその容姿。きっと恋人同士でも楽しく……。
「とーう! リア充臭のするダモクレスなど、チョコごと喰らい尽くすのみ!」
 捕食モードに変形させたサバトスライムを片手に霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)が、リア充を爆発させんばかりの勢いでダモクレスへと攻撃していく。
 丸呑みにしようと向かってくる裁一のサバトスライムをダモクレスは中身のホットチョコを揺らして躱していく瞬間、
「足元……注意……。……もう遅いけど」
 ダモクレスの足元から生える大量の槍。空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)の繰り出す摩天槍楼だった。
 大量に生えてくる槍にダモクレスは避ける場所が見当たらないのか、金属部分には幾重にも傷が入る。それでもチョコが入っている容器は無事のようで水音を響き渡らせている。
「チョコレートは、おいしい……」
 揺れるチョコドリンク。無月はそれを無表情で見つめていると、ボクスドラゴンとともに髭を撫でるカヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)も呟いた。
「チョコならばわしはほろ苦のビターがええのう」
 カヘルはそう言うや否やリボルバー銃を引き抜きダモクレスを撃ち抜くように弾丸を放ち、ボクスドラゴンは甘いものが大好きなのだろうかワクワクした様子を見せて属性インストールを無月へと施していく。
(「……ほっと、ちょこれーと……ですか。……いろいろな、飲み物が、あるの、ですね」)
 甘い匂いを漂わせるダモクレスにあおは飲んだことのないホットチョコレートを考えながら、逃げるダモクレスの動きを弱らせるために唄う。
「……満ちる、朽ちる。……理を翻す、歪曲の、調べ……」
 たどたどしくも響くあおの声。
 そんなあおの唄う声が響く中で、飲んだことのないホットチョコレートに思いをはせるは長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)だ。
 ホットチョコのダモクレスを使っていた人が、家族なのか友達なのか……はたまた恋人なのか。それは分かるわけもないが、裁一がひたすらにリア充爆発! みたいなことを口走って攻撃している様子を見ていれば、カップルで使っていた可能性があるなら別れたから捨てたのか? なんてことを考える。なにかしらの対処はした方がいいのだろうが、考えるとキリがないのだろう。
 ダモクレスの動きを注視しつつ、千翠は流星煌めく飛び蹴りを炸裂させていく。仲間たちの攻撃をうまい具合に避けていくダモクレスは、もしかして回避能力が高いのか。
 前線に立っていた瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)は千翠の煌めくスターゲイザーが放たれるのを確認し、盾役となる自分と無月、そして一緒に前線にいる裁一と城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)に耐性をつけるために紙兵を撒いていく。
 時折ダモクレスの注ぎ口から漏れるチョコドリンクが、床を濡らしそこから匂い立つ甘い香りが鼻につく。換気などされていない、自分達が入ってきた入口の扉は開いてはいるけれども風が循環できる状態じゃあないからか、甘い匂いの充満する空間に灰は少しだけ頭が重くなってくる感覚がしたようだった。灰とともにいるウイングキャットの夜朱は夜朱で、ホットチョコレートに興味津々の様子だ。
 夜朱は後衛陣に清浄の翼を振り撒いていく。
「動くのはいいけれど、まき散らすのは勘弁ね」
 ダモクレスが攻撃を受けたり、逃げたりする度に零れるチョコを見て橙乃はそう言って微笑むと、一撃を放つ。
 SNS投稿が趣味な寺井・聖星樹(爛漫カーネリアン・e34840)は手にしたスマホを仕舞うと、攻撃を受けるダモクレスを見て呟いた。
「ホットチョコマシンって、最初ファウンテンのことかと思ったー」
 聖星樹はボクスドラゴンのロールとともに助走をつけて、ダモクレスの方へ飛びあがり、仲間の攻撃を回避するダモクレスの機動力を奪うために蹴り上げていく。
 奇怪な鳴き声とチョコの甘い香りが充満すれば、なんだかスイーツテロな感じで甘いものが食べたくなってくる気がしてしまう。そんなチョコの匂いにロールがタックルついでに、チョコを舐めようとするのを聖星樹は嗜めては、距離を測りながら仲間たちとの連携を取る。

●甘さにまみれて
 飛び散る液状のチョコがあおの服を染めていく。
 他の仲間たち……盾役となってくれている無月や灰に比べると、チョコにまみれる範囲は少ないが、すごく甘い匂いがしているのにあおは意識を向けていた。
「これ、は……食べれたり、する、の、ですか、ね……」
 たどたどしく発せられるあおの言葉に、裁一が小さく笑った。
 栄養不足気味の彼女。不摂生な食生活をしているのに裁一は気付いていて、せめて何か女の子らしいものでも摂取すべきだと、真顔サバト状態で思うことがあるのだろう。
 娘を思う父のような裁一は、家族で使われているならばここまで憎悪じみたものはなかったのだろう。恋人と使われていた可能性が少しでもあると思ってしまえば、リア充を爆破させるほどの思いを滾らせては武器から弾丸を精製しては撃ち込んでいった。
「ホットチョコ? リア充の熱を加速させそそうな物など凍ってしまうのです!」
「アツアツのカップルも見てるとあーハイハイって気分になるよなぁ」
 裁一の燃え上がる対リア充の様子を見ていた灰も、いささかうんざりしたように呟いた。ダモクレスとの距離を詰めれば詰めるほど、甘いチョコの香りが鼻に届いてくる現状。
 甘いものは嫌いじゃないが、ここまで充満してしまえばどんどん頭も重くなってくるものだ……。
 チョコ弾を撃ちまくるダモクレスは命中率が高いのだろうか、確実に狙いを付け撃ち込んでくる。そして回避能力も高いのだろう、うまい具合にケルベロスたちの攻撃を回避する。
「こんだけ攻撃してあの動きか……」
 後方からダモクレスの動きを観察していた千翠は考える。
 注ぎ口から発射されるチョコ弾は無月の体に当たれば、衝撃と同時にチョコが衣服を汚してしまう。
 ほろ苦のチョコが好みのカヘルはそんな無月にヒーリングバレットで回復を施し、ボクスドラゴンにも属性インストールでフォローさせていく様子があった。千翠も応戦するために溢れるチョコの元へと舞い踊りながら、たどり着いた考えを口にする。
「このダモクレス、もしかしたらキャスターっぽいな」
「なら、動きを少しでも止めるしかないわね」
 ダモクレスの機動力を奪うためにも攻撃を、状態異常を重ねかけていく。
 千翠が先手を打つために飛び出すと、倒錯する枷を発動させた。蝕む呪いをいくつもの枷へと変えていく。
 それでダモクレスの体や足を拘束すれば、ダモクレスは抵抗しながらもチョコを吐き出してくる。
 響く水音は重さを含んでいるようだ、そのチョコを灰が受け止めていけば夜朱がチョコドリンクを飲んでみたい気持ちを爪に宿して攻撃している。
 橙乃と聖星樹も続くようにチョコをまき散らすダモクレスに向かっていくが、飛び散るチョコが水よりも重さがあるからか灰や無月が盾となって身を挺しても、飛び散るチョコまでをも防ぐことはできなかった。そのため飛び散るチョコはケルベロス達の衣類を汚し、さらには床をも甘いチョコの海へと変えてしまうのだった。

●チョコの海に
「え、美味しいなっ」
 ごぼごぼと割れた容器からはとめどなくチョコが溢れるダモクレス。溢れるチョコと攻撃で飛び散るチョコは千翠の口に入ったのだろう、もともと興味のあったホットチョコレートだったが、きっと通常のものと変わらないそれはとても美味しいものだった。
 廻花で仲間を回復していた灰はもうそろそろ、この甘い匂いからおさらばしたいくらいに熱々のチョコに迷惑してるようで、そんな仲間達の様子にカヘルが、
「見た目も攻撃もコテコテでコミカルじゃのう……と思っておったら目の前にチョコじゃのう?!」
 壊された蜘蛛足を動かすダモクレスを見て言えば、まるで返答するかのようにダモクレスのチョコが飛んできてカヘルの腕に纏わりついていた。
「煌煌と、照らされ佇む冬の碧」
 橙乃の澄んだ声が響く。
 チョコに侵食される倉庫内を上書きするかのように降り注ぐは橙乃が作り出す水仙の花。
 花の香りが溢れ、橙乃が作り出した水仙の花弁が舞いダモクレスを攻撃していけば、聖星樹もロールとともに走り出す。
 花の匂いがチョコの匂いを相殺しても、ダモクレスに近づけばやはりチョコの匂いの方が勝っていた。そんなチョコの匂いの誘惑に勝てなかったロールがうっかりダモクレスに噛みついて、カウンターを食らってしまった。
 聖星樹はロールに「こらー」と注意して、高らかに歌いだす。
 聖星樹の歌声にどこからか集まったたくさんの鳥。さえずりが聞こえ、聖星樹の歌声に合わせてダモクレスに飛び掛かり攻撃していけば、ダモクレスの本体は傷やらヒビやらがどんどん増えていく。
「おおーすごい攻撃じゃのう」
 カヘルが聖星樹の歌声に合わせて攻撃する鳥に感心する声をあげた。
「ちょこましぃん……」
 弱るダモクレス、あとは一撃すれば倒せるだろうと皆が思う中……駆け出すは裁一だ。
 溢れるチョコドリンクを睨み、熱々のチョコの甘さを楽しんでいたであろうはカップルだろう。
 そんな可能性を考え力に変えるのだ。
 滾る力を籠める一撃を繰り出そうとする裁一の後方から、後押しするように聖星樹が呟く。それは嫉妬心を煽るような言葉だったのかもしれない。
「高まる嫉妬をこの一撃に! 爆発しろ! 特にリア充!!」
 高めた嫉妬を力に変えた裁一の自爆技。
 ダモクレスに突っ込んで爆発四散するが、裁一自体にダメージはない。ただただ、飛び散ったダモクレスの残骸とチョコ。
 それらは一層甘い香りを倉庫内に漂わせる結果となったのだった。

●お片付けです
 衣類に纏わりつくチョコを剥がしつつ、無月はクリーニングに出そうと心に誓っていた。
「あー甘いもの食べたくなるなぁ」
 衣類を気にしつつ片付けをする無月とは反対に、スイーツテロとなった戦いに千翠は壊れた個所をヒールしながら呟く。それに自分の持ち場をいち早く片していた聖星樹が、
「ケーキでも食べに行きたいな」
 と返しつつ、戦った仲間がうまく写るように調整しながら何枚か自撮りを繰り返していた。
「チョコの匂いのせいでチョコケーキしか思いつかないな」
「本当に……甘いものが食べたい気分にさせるダモクレスだったわね」
 ヒールや片付けで見た目は綺麗になったものの匂いはいまだに充満している倉庫内では、もうスイーツテロでしかない戦いに橙乃もそう呟いて小さく息を吐いた。
 灰は甘い匂いで重くなった頭を振りつつ、ヒールで直っていく倉庫に安堵の息を吐いて自撮りを繰り返す聖星樹を夜朱と眺めていれば、カヘルがボクスドラゴンと一緒にちょっとしたポーズを取っているのが視界の端に感じられた。
 片付けと修復の終わった倉庫内は匂い以外には、チョコの存在は感じられなかった。そんな中であおは静かにダモクレスがいた位置を見つめている。
 無表情ながらも、金色の瞳には何かしらの感情を抱いているようで、裁一があおの隣に立って声を掛けた。
「おや気になりますか」
 その言葉にあおは視線を裁一に向けた。揺れる金色は何を考えているのだろうか。裁一はそんなあおの手をとれば、
「ではホットチョコを飲みに行きましょう! 塩水とかより美味いはずなんで遠慮なく!」
 そんなお誘いの言葉にあおは迷いながらも小さく首を縦に振るのだった。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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