ミッション破壊作戦～アスガルドの支配者達

■リプレイ

●竜鱗を纏う兵に占拠された城
　ケルベロスを乗せたヘリオンは本州の最北、青森県を目指す。
　弘前（ひろさき）市は青森の中では西部に位置しており、元は城下町として発展した場所だ。
　その中心には、弘前城がある。
　江戸時代、津軽氏が長く居城する間、落雷によって天守閣が消失。現代に残る天守閣は２００年後に再建されたものだという。
　明治になり、廃城となった後は桜が植えられ、弘前公園として庶民に親しまれる場所となる。
　程なく、桜が開花する頃だろうが、この城は長くエインヘリアルの支配領域となっている。
（「屠竜兵団……」）
　長い赤髪をツインテールにしたヴァルキュリア、グロゼイユ・フィーユデュエルブ（赤酸塊の騎士見習い・e27053）はどうやら、デウスエクス時代に接点があったらしい。
　それだけに、グロゼイユは複雑な思いを抱いていたようだ。
　今作戦を成功させる為、天羽・蛍（突撃戦闘機・e39796）は作戦の流れを確認し、しっかりと独立機動砲台の調整を行う。
　着流しにモノクル、長煙管が特徴的な、アルベルト・ディートリヒ（昼行灯と呼ばれて・e65950）は、弘前城周辺の経路把握に努めている。
　また、アルベルトはこの地域のミッション攻略に来る他のケルベロスチームへと予め、援護要請も入れていた。
「このタイミングで、エインヘリアル叩ける作戦はいいね！」
　水色の髪をポニーテールにしたトリューム・ウンニル（碧き天災の運び手・e61351）は依頼前からハイテンション。
　パンフレットを読み込む彼女は、城を含む弘前公園で通年行われる花見の祭りが見られるよう、今回で撃破したいと意気込む。
「あ、別名鷹岡城って書いてあるし、能ある鷹は爪隠す作戦ね！　意味はあんまないけど！」
　思いつきでも、なかなかユニークな言葉に、メンバー達の表情が和むが、現場到着のアナウンスが流れれば、皆の表情が引き締まって。
「総ての生命を自らの仔だと認識している」
　その言葉の通り、世の中の生物を認識する自称悪魔のユグゴト・ツァン（パンの大神・e23397）。
　どのデウスエクスであろうとも、彼女にとっては仕置きの対象であり、抱擁すべき、捕食すべき対象だ。
「胎内に還れば皆、快楽の極みへと到達するのだ」
「んうー、いこう、ゆぐごとちゃん」
　そこで、無表情でテンション低めなレプリカントの伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）が促す。
　一行は準備を整え、真下にある弘前城目掛けて降下していくのだった。

●グラディウスに魂の叫びを
　ヘリオンを飛び降りた６人のケルベロス達は、エインヘリアルに支配された弘前城を眼下にしつつ、グラディウスを構える。
「地球はお前等のゴミ捨て場でも、牧場でもない」
　真っ先に飛び降りたのは、アルベルトだ。
「……ましてや、日本の美しい名城を汚すなど絶対許さん。清掃の時間だ」
　ドイツ出身のレプリカントである彼はその恰好もそうだが、日本かぶれということもあり、名城を汚す輩への怒りはひとしお強い。
　その想いがグラディウスへと伝わり、刀身を輝かせる。
「せいぜい弘前城の桜の肥やしになって、己の罪を償うんだな」
　アルベルトの刃は半円状のバリアを砕き、強襲型魔空回廊へと深く突き刺さる。
　次の瞬間、雷光が周囲を包み込み、この場のエインヘリアル達の目を灼く。
　その間に、次々にケルベロス達が魔空回廊へと襲い掛かる。
「ワタシ達の力が見たいなら、見せてあげる。見物料はお城の返却を以て代えさせていただきます！」
　トリュームは、この場の屠竜兵団が力を見せろと告げていたことを受け、胸を張る。
「楽しいお花見のためには団ゴロしないとね！」
　勢いのままに、トリュームは突撃していく。
「それじゃはりきって……、どーん！」
　さらに放たれる閃光。巻き起こる爆炎にエインヘリアルは右往左往していたようだ。
「……むかしはお城、とったとられた、してたって、きいたことある」
　グラディウス握り、勇名は自らの考えを訥々と口にしていく。
「だからここは、そういうものかもしれない。でも、もやもやする。……ここをかえしてほしい人が、いるから、かな」
　光るグラディウスに、勇名は目をやる。これを使うことで、彼女は自分の魂……心の在り様を探ってもいたようだ。
「……とられたものは、とりかえす。そのために、もやもやぶつける。……ん。それでいい」
　自分の心が決まったようで、輝きを見せる小剣を勇名は振り上げて。
「だからいくよ、グラディウス……！」
　その刀身を思いっきり振り下ろす。
　爆炎と共に濃いスモークが吹き出し、徐々に周囲を包み込んでいく。
　魔空回廊はそれほどダメージを受けているようには見えないが、一度始めた降下作戦を止めるわけにもいかない。
「砦を確保して勢力を広げる。その考え方は間違っていないよ」
　蛍は地獄化したオラトリオの翼を広げて、一気に迫っていく。
　屠龍兵団は、アスガルドに飛来した邪龍を倒したと主張する。
　そんな彼らが味方だったなら、頼もしい存在となったかもしれないと、蛍は考える。
「だが、現実にはお互いに敵同士。異界の英雄にずっと砦を占拠させておくわけには行かないんだ」
　それだけ、地球に生きる生物の共存圏が失われており、何よりも砦を持った外敵を放置するなど危うい。
「だからさ、地元の人々に望まれない英雄達にはここを去ってもらうよ。行こうか、グラディウス」
　蛍も眩く光らせた小剣の刃を素早く、破壊対象へと突き入れていく。
　続けざまに、ユグゴトが仕掛ける。
「城を制圧した存在は我が胎内を独占したと同意。ならば情け容赦なく、貴様等をお仕置きせねば成らぬ」
　――戦闘が好きならば、私達が相手だと理解せよ。
　ユグゴトは愛を語り、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「されど、番犬は地獄の存在。抱擁の時間だ」
　デウスエクスですらも仔と認識する彼女は、その瞬間に悪事を悉く暴いて。
　――宣言する。貴様等に慈悲は不要。
　ユグゴトは醜悪なる母体の偶像を垣間見せつつ、それに潰され終え、眠るのだと続ける。
「彼等は仔だが、『やり過ぎた』のだ。……故に抱擁を。お仕置きを」
　最後まで淡々と告げたユグゴトは、つかんだままの小剣を振り下ろし、一気に魔空回廊を切り裂く。
　亀裂が入っていく中、最後にグロゼイユが飛び込む。
「かつて、私が仕えていた誇り高き最強の武人、『竜巨人』ベイ……。あなたはベイ団長なのか？」
　エインヘリアルとヴァルキュリアはかつて主従関係にあり、そのベイなる存在はグロゼイユにとって、誇り高い憧れの人だった。
　だからこそ、彼女はこの場にその主がいるのかと尋ねるが、現状反応はない。
「もしそうならば、ここであなたを討つことで、かつての恩を返そう」
　そうでないただの紛い物ならば、団長の名誉の為にもこれ以上のさばらせておくわけにはいかない。
　そこまで毅然とした口調だったグロゼイユが叫び始めて。
「いずれにせよ、屠竜兵団などというふざけた軍団は今日で終わりだ！」
　グロゼイユの中でその団長が率いていた軍団は、以前所属していた騎士団「オルドル・デ・フリュイ」ただ一つであり、それはもう彼女の心の中にしかない。
「弘前の人々のため、私の大切な記憶のため、グラディウスよ、力となれ！」
　強く輝くグロゼイユの刃。
　それを真下へと突き出した彼女は一気に魔空回廊を貫き、地面へと着地する。
　…………。
　次の瞬間、魔空回廊から光が漏れ始め、大きな音を立てて崩壊を始める。
　それが完全に崩れ去ったのを目視で確認し、ケルベロス達は歓喜するのだった。

●エインヘリアル、屠龍兵団
　さほど、破壊成功の確率が高くない状況ではあったが、結果として、作戦は大成功することができた。
　勇名、アルベルトは意気揚々とグラディウスを奪われることが無いよう体に固定し、仲間と共にこの場からの撤収に当たる。
　そんな中、複雑な思いを胸に秘めるグロゼイユはその時、見知った気配を感じて。
　足音を立て、現れた巨漢の戦士。それは、屠龍兵団の長だった。
「団長……」
　グロゼイユが呼びかけるものの、相手は彼女を敵視して告げる。
「構えよ。もはや我らに退路はない」
　敵にとっては背水の陣。それを察し、ケルベロス達も銘々の武器を手にして。
「戯れに別れを告げよ」
　ユグゴトは両手にバールのような武器を手にし、真っ先に敵へと飛び込む。
　先端の曲がった部分を敵の甲冑へと引っかけ、ユグゴトは甲冑の劉林を剥ぎ取ろうとしていく。
　相手が仕掛けてくることを察した蛍も、独立機動砲台から時空凍結弾を発射していき、敵の体を僅かに凍り付かせていく。
　だが、多少体が凍ったところで、エインヘリアルの攻撃は止まらない。
　そいつの豪腕は、ドラゴンすらも退けるほどの威力を持つ。
　ケルベロスの前線でそれを全力で受け止めたアルベルトはオウガ粒子を解き放ち、自らを癒しつつ感覚を研ぎ澄ませる。
　拳を大きく振り抜いた敵が見せたその隙に、勇名は敵の足元すれすれに小型ミサイルを発射していく。
「うごくなー、ずどーん」
　勇名が声にした効果音と同時に、ミサイルは屠龍兵団の長を巻き込んで爆発する。
　だが、その程度では相手は倒れないだろうと、グロゼイユは確信していた。
「集団で戦うときは己の役割を理解し全うしろ……。そう言っていたのはあなたでしたね」
　目の前のエインヘリアルが自身の見知った相手だと疑わぬグロゼイユ。初手は仲間達が持たせてくれたこともあって、攻撃へと乗り出す。
「私だって、いつまでも未熟なままじゃない！」
　斬霊刀を両手に持ち、彼女は衝撃波を放っていく。
「…………フッ」
　その連撃をくらった屠龍兵団長は霊体を裂かれてなお、にやりと笑う。
　再び相手が攻撃をとステップを踏み始めた所で、箱竜ギョルソーが身構える。
　一方で、その主のトリュームだが、様子がおかしい。
　彼女は回復役となるべくヒールグラビティのみ用意し、仲間の回復に当たる心づもりだった。
　だが、現地点で用意していたのは、攻撃グラビティのみ。
「皆を応援するつもりだったけど、仕方ない！」
　割り切りを見せるトリュームはケルベロスチェインを操り、敵の体を縛り付けて動きを止めにかかっていくのである。

　屠龍兵団の団員はまだ、スモークのなかで統率が取れずにいる。
　この場で唯一戦う団長は、その強靭な肉体を持って殴り、蹴り、猛攻を仕掛けてきていた。
　アルベルトや箱竜ギョルソーが何とかそれを抑えはするが、一撃は非常に強力で、回復が追いつかない。
「さすがだな……」
　最初は斬霊刀『幻想結晶刃』を手に応戦を見せていたアルベルトだったが、次第に体力を減らしてしまい、裂帛の気合を込めた叫びで体力を持ち直す。
　グロゼイユも前線メンバーの危機を察し、分身を纏わせて傷の癒しへと当たっていた。
　それだけに、トリュームとしては悔やまれる状況。
　ただ、それなら先に倒してしまえばいいと、戦場を光の翼で飛び回る彼女は考えて。
「はーい、動かないで……。ちょっとビリッとくるだけだから！」
　オサレアイテムから変形させたレーザー銃を両手に構え、トリュームは一気に極太レーザーを放射していく。
　仲間のつけた傷から、竜鱗の甲冑をボロボロにされてなお、悠然と立ち塞がるエインヘリアル。
　そいつは豪腕で箱竜ギョルソーを殴り倒し、消滅させてしまう。
　蛍は相手の動きを最大限押さえつけてはいると判断し、エクスカリバールを手に殴りかかっていく。
「おおおおお！！」
　だが、決死の覚悟で攻め来るエインヘリアルは猛り、その長い脚でアルベルトの腹に渾身の一撃を叩き込む。
　内臓が破裂するかと思う程の一撃。吐血するアルベルトは危機を察してか、蛍へとグラディウスを託す。
　グロゼイユが急いでアルベルトへとさらに分身を纏わせようとするが、屠龍兵団の拳が彼の胴へと炸裂した。
「この美しい弘前城を……お前など……に……」
　最後まで城を想い、アルベルトは地へと沈んでしまう。
「さすがは、団長……」
　その強さに、グロゼイユは舌を巻きながらも、回復の手を止めるわけにはいかぬと判断し、前線で唯一残るユグゴトへと分身を纏わせていく。
　徐々に、追い詰められている感もあるケルベロス達。
　だが、トリュームが相手の足止めに当たっていることもあって、勇名は相手の動きも鈍っていると確信する。
「ずどーん」
「うぐっ……」
　効果音を発しつつ、彼女が理力のオーラを撃ち込むと、ようやくエインヘリアルがよろける。
　最悪、暴走も視野に入れていたメンバーも多かったが、なんとか相手を追い詰め、ユグゴトが内に秘めたモノを外へと放出した。
「おやすみなさい。還る誰かに永劫の快楽を約束しよう」
　――視るな。触れるな。絶対に。
『最下にて冒涜的な言辞を撒き散らす、病的な世界の主』。
　ユグゴトが発した狂気は一気に屠龍兵団長を追い掛け、精神を侵し、肉体までも食らいつくす。
　そんな団長の最後に、グロゼイユは膝を折って。
「団長……だん、ちょおっ……！」
　脳裏に駆け巡る過去を思い出し、その場で泣き崩れてしまうのだった。

●破壊成功の影で
　改めて、この地のミッション破壊作戦に成功したことで、喜びを見せつつ撤退に転じる。
　まだ、屠龍兵団自体はこの地域に残っている。
　地域の奪還に当たってはミッションに当たるメンバーに任せ、この場を離れたいところだ。
　グラディウスの状況を確認したトリュームはとりあえず、バイオガスを撒き散らしてみる。
　心なしか、それは桜吹雪のような色をしているようにも見えたが、効果を実証する余裕もないので取り急ぎ離脱していく。
　ただ、追手が見えないので、少なからず効果はあったのかもしれない。
「ほら、しっかり」
　蛍が重傷を負ったアルベルトに手を貸し、移動していく。
　勇名はほとんど傷がなかったものの、戦いの疲れからか眠たい目をこすりながらこの場を離れていく。
「団長……」
　最後まで、後ろ髪を引かれる思いでこの場に留まっていたグロゼイユも、仲間に促される形で離脱していったのだった。

作者：なちゅい	重傷：アルベルト・ディートリヒ（レプリカントの刀剣士・e65950）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月12日 難度：普通 参加：6人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 6
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