アイスエルフ救出作戦～王女の騎士団をひきつけろ！

■リプレイ

●陽動作戦
　デウスエクスによって支配された大阪城へケルベロスたちは近づいていた。
「こんな状況やなければ桜か梅か桃でお花見が出来たのに……」
　ぼやいたのは月宮・朔耶（天狼の黒魔女・e00132）だ。
　季節は春。本来ならばこの大阪城の周囲では美しい花が咲き始める季節だが、楽しんでいる時間はない。
「確かに残念ですけれど、仕方のないことですわ。潜入している皆様のためにも、こちらもしっかりと役目を果たしましょう」
　ルーシィド・マインドギア（眠り姫・e63107）は見ていた地図から顔を上げて大阪城の方を見た。潜入チームの１つに加わっている親友は今ごろなにをしているだろう。
　彼女のためにも力を尽くさなければならない。
　そして男性のアイスエルフたちのためにも。
「白百合を名乗るだけあって女尊男卑なのな」
　それが、朔夜の偽らざる本音だった。
「王女様はどこまで男を信じられないのよ……ここまで来たらもう病気ね」
　コマキ・シュヴァルツデーン（翠嵐の旋律・e09233）は闇をまといながら周囲を観察していた。
　他の者も、隠れる能力を持っていればそれを使いながら、大阪城周辺の緩衝地帯を探索していく。やがて、警戒している様子の敵が見つかった。
「……いましたよ。エインヘリアルが６に、攻性植物が４……合わせて１０人ですね」
　ビスマス・テルマール（なめろう鎧装騎兵・e01893）が双眼鏡を使って見つけた敵の様子を観察する。
「そんなに多いのかよ。クッソ面倒くせェなあ……」
　ジョーイ・ガーシュイン（初対面以上知人未満の間柄・e00706）が言った。サーヴァントも含めればケルベロス側の方が多いが、なんにせよ厄介なことに違いはない。
「けど、やんねえわけにはいかねえもんな。タイミングは任せたぜ。いつでも合わせられるからよ」
　赤茶の髪を逆立てて、ジョーイはいつでも抜けるように武器に手をかける。
　あまり時間をかけると気づかれるので、ゆっくり様子をうかがっている暇はない。
「さーて、陽動らしく派手に行きますか」
　鍔鳴・奏（あさきゆめみし・e25076）は白く縁取りされたフードの下から敵の姿をながめて、武器を構えた。
「上手く陽動してコギトエルゴスムを入手出来ればいいな。その為に頑張るぞ！」
　リーズレット・ヴィッセンシャフト（愛を喰らわば世界まで・e02234）がそんな奏を見上げながら言った。
　防衛役である奏がまず進み、リーズレットがその後方から続く。
　近づいてくるケルベロスたちの姿に、まず白百合騎士団のエインヘリアルが気づいた。
「来たな、ケルベロス！　アイスエルフたちはどうした？　彼女たちを殺したのなら、けして許しはしないぞ！」
　叫びながら敵は態勢を整えているがケルベロスたちの動きの方が当然早い。
「あっちもあっちなりに気にしてはいるようだな。だが……。強いられて生きるンじゃなく、彼らもまた自分たちの選択でその人生が歩めるようになりゃァいい」
　八崎・伶（放浪酒人・e06365）は狙うべき対象を見定めながら呟いた。
「どっちが悪いって話じゃなく。誰でもそういう権利ってもんがあるってコトだ」
　前衛をになう役目の者たちが仲間をかばうようにケルベロスとの間に立ちはだかる。狙うべき場所はそこだった。
「ま、だからこうして争ってるンだろうけどな」
　そして、彼の言葉の通りに、戦いははじまった。

●第１陣との戦い
　先手を取ったのはケルベロスたちの方だった。
　伶は数の多い敵を牽制すべく、まず前衛の敵を狙う。
「散れ、白露」
　青年の言葉に応じるかのように、どこからともなく飛沫が散った。
　空気中の水分を取り込んで生まれた白き露の玉は、弾と化して飛び、広がる。
　決して避けえぬほどに広がった弾は容赦なく狙った敵へと襲いかかる。５体いた敵前衛をことごとく白露の弾が貫いていた。
　もっとも、この攻撃はただ注意をひきつける牽制に過ぎない。
「アイスエルフたちの選択に、少しでも貸せる力があるンなら――」
　主の想いに応じるかのように、ボクスドラゴンの焔もまたブレスを放っていた。
「先手必勝よ！　ド派手に暴れて戦場を撹乱させてやれ！」
　ジョーイが超加速し、白露が貫いた敵をまとめて蹴散らす。
　敵も反撃をしかけてくるが、ケルベロスたちを倒せるほどの攻撃ではない。
　朔耶の手から伸びた鎖が結界を作り上げて前衛を守っており、さらに槍や竹の武器による威力を減じていた。
「騎士団全員女性なのか…奏君大丈夫？　知らない内に手加減とかするなよっ！」
　奏へと声をかけながら、隊列を乱された敵のうち１体へとリーズレットが飛び蹴りをしかけた。重力を操った一撃が足を鈍らせる。
　着地したリーズレットは反撃に備えて白薔薇の大盾を構えている。
「戦闘中にその心配は無用かなー、と！」
　その盾へ……いや、前衛の仲間たちすべてに対して、奏は強大な力を注いだ。
　パーツを付与して巨大化した盾を防盾のように使用して、リーズレットがバスターライフルを構えている。
　彼自身が身に着けたロングトレンチやジョーイの特注のスーツはもちろんのこと、ボクスドラゴンのモラのモフモフな毛やオルトロスのリキの毛皮も変化していた。
「ソウエンさん……力を貸して下さいね、なめろう超鋼拳っ！！」
　ビスマスがオウガメタルへと呼びかけた。ビスマス結晶のオウガメタルはどこか魚にも似た姿に見える鋼の鬼と化し、リーズレットが狙った敵を痛烈に引き裂く。
　敵の能力はデウスエクスとしては決して高い部類ではない。
　コマキやルーシィドがオウガメタル粒子をばらまいて、致命的な一撃を加える確率をさらに高めている。
　最初の１体が倒れるまで、さして時間はかからなかった。
　奏は傷ついた１体がリーズレットを狙って突き出した槍の前に割り込んだ。
　稲妻をまとった槍に貫かれながらも、奏は平然とした表情で背後の彼女へ声をかける。
「しっかり支えるから、本気で撃って良いよ」
　声をかけながら青年は盾を支えていた。視線を送らずとも、彼女の射線をさえぎる位置は当然避けている。
「ド派手にいっくぞー！　せーのっ、どーん！」
　長身の横を氷のレーザーが通過して、集中攻撃を行っていたエインヘリアルの１体を確実に撃ち抜いていた。
　全力で放った一撃が敵を凍りつかせて、そして砕く。
　最初の１体を撃破したケルベロスたちは次の１体へと攻撃の対象を移した。
　敵もやはり攻撃の対象を絞って撃破しようと狙ってくるが、リキやモラが仲間をかばって攻撃を分散させている。
「大自然の力で、すぐに治します」
　声をかけながら、ルーシィドがより傷の深いモラをアニミズムアンクで大自然と霊的に接続して癒やす。
　彼女は傷ついた仲間たちの回復に注力し、防衛役の１人と２体を支えていた。
　それに、中衛の朔耶やコマキが放つ攻撃も敵を縛って損傷を抑えていた。
「解放……ポテさん、お願いします！」
　ファミリアロッドを使い魔である梟のポルテへと戻して、朔耶は神経回路をも麻痺させる魔法弾を放たせる。
　コマキは動きが鈍ったのを見逃さず、魔力とエーテルで巨大な白い鳳仙花を咲かせる。
「さあさあ、ここにありますは一輪の鳳仙花。タネも仕掛けも……あるのよねー、これが！」
　瞬く間に大きな実をつけた花は、真っ白いエーテルの種を次々に発射してポルテがつけた傷を広げていく。
　一見淑やかな美女に見えるコマキだが、その実かなり好戦的なたちだ。
　爬虫類めいた瞳孔が捕らえて敵を、彼女は容赦なく縛り上げていく。
　動きが止めている間に、さらに別の１体がビスマスの海産物型をした気の刃による蹴りと、ボクスドラゴンのナメビスによるタックルのコンビネーションを受けて倒れていた。
　敵もただ黙って倒れているわけではないが、しかしケルベロス側へ致命的な打撃を与えることはできなかった。
　伶の如意棒やコマキの水晶の炎で３体目と４体目が１、２分のうちに倒れ、５体目も大きな傷を負う。
「本当はあのアマをやりたかったがテメーらで我慢してやるよ……！」
　ジョーイは鬼神の如きオーラをまといながら、弱った敵へと向かって行く。
　代々伝わる家宝の刀を振り上げる。
「でぇりゃァァァ！！！！」
　悪鬼羅刹を一撃で倒すといわれる強烈な斬撃が、エインヘリアルを両断していた。
　５分とかからずに敵の数は半数を切った。

●増援たちを撃破せよ
　残る敵を片付け終えた時点でも、１０分は経過していなかった。
「それでは、一時撤退しよう」
　リーズレットは仲間たちに告げると、バイオガスを周囲に散布した。
　その彼女を奏が抱き抱えて移動し始める。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「はいはい、騒がないようにね」
　一瞬驚いた顔を見せたリーズレットだったが、作戦中であることを思い出して大人しく彼につかまって運ばれる。
「ありがと」
　小さな声で告げた彼女のお腹に、モフモフのボクスドラゴンが乗ってきた。
「仲がいいんだな、あの２人は」
「そうですね。面白い方々です」
　走りながら口の端を上げた伶の言葉に、ビスマスが頷く。
「ま、仕事をちゃんとこなしてりゃァ、イチャついたって問題はねェさ。細けぇ事だ」
　ジョーイもさばけた様子で告げた。
　増援が来るまでの間に第１陣を撃破できたのは、陽動がうまくいっていることの証だろう。
　とはいえ、先ほどと同等の数の増援が現れるまで、１分ほどしかかからなかった。
　数分早ければ厄介だったかもしれないが、今はまた同じように片付けるだけだった。
　増援が来るまでの時間を利用して何人かが役割を入れ換え、ケルベロスたちは再びエインヘリアルや攻性植物を撃破していく。
「色々まとめてムカつく事はいっぱいあるが……一番ムッカつくんは、テメェらのやり口が汚い事じゃ！』」
　朔夜は叫びと共に、エインヘリアルの１体を死角から切り裂いて倒した。
　５分もかからずに、増援の敵は残り３体まで数を減らしていた。
　中距離まで退きながら、朔夜は周囲を確認する。
　別の方向からさらなる増援が近づいてきているのを、彼女は見逃さなかった。
「みんな、気をつけろ！　敵がこっちに来てるぜ！」
「さすがに第３陣はさっきよりも早いわね」
　近くにいたコマキが朔夜の言葉に反応した。
　敵が残った状況で増えるのは厄介だが、まだ対応しきれないほどの数ではない。
　バイオガスのおかげで敵から戦況は見えないはずだ。それでも踏み込んでくるだろうが、先手は打てる。
　敵を待ち構えながらも、煌めく猫目石のオーブを掲げて、コマキは次に狙うべき敵を水晶の炎で切り刻む。
　１０体の増援を加えた敵は、ケルベロスたちへ激しい攻撃を行ってきた。１体１体の戦力は高くないが、グラビティでは回復できないダメージは確実に積もっていく。
　ルーシィドはモラに代わって前衛に出ていた。
　体力に自信があるとはお世辞にも言えない彼女だが、それでも交代したことでチーム全体の耐久力には余裕が生まれている。
　竹製の銃から放たれた弾丸が小さな体に撃ち込まれる。身につけたオウガメタルが攻撃を防ぎ、傷を抑えてくれた。
　とはいえ、増援を含めた敵の攻撃は確実にケルベロスたちの体力を削り、そして動きを縛ってくる。
「ご安心下さい　茨の棘に刺されても　あなたがたは決して死にません　ただ眠り続けるだけ」
　血とともに緑の茨がルーシィドの袖からこぼれだす。
　無機物と同化したことで安定している精神が、繁茂する茨にさらなる力を与える。
　茨が消え去るとともに傷も消えていた。
（「リリちゃん……」）
　大阪城の中で戦っているであろう親友の顔を浮かべ、ルーシィドは足に力を入れた。
　他の者たちの中にも、親しい者が潜入している者がいたかもしれない。あるいは、まったく別の理由で戦う者もいるだろう。それぞれの想いを胸に、ケルベロスたちは戦いを続ける。
　時間の経過とともに敵の数は確実に減っていた。
「我が生み出すは青藍の薔薇　常闇より出し無数の薔薇よ、鋭い棘で彼の者を切り刻み、その蔦で薙ぎ払い束縛せよ」
　リーズレットの呼び声に応えて青藍の薔薇が地面から現れ、エインヘリアルの１体を咲き誇る薔薇のオブジェへと変えた。
「慌てずに各個撃破を続けていくぜ」
「おお、言われるまでもねェ」
　伶が鎌で断ち切るとともに体力を奪い取った相手を、ジョーイの刀が月のごとき弧を描いて止めを刺した。
「ポテさん、次はそいつだぜ。偏狭な連中は全員ぶっ飛ばせ」
　朔夜の梟がまた１体を麻痺させたかと思うと、仲間たちがそこに攻撃を集中する。
「ガイアグラビティ……生成完了っ！　マカジキフォーム装着……武装と胸部同時展開っ！」
　ビスマスがマカジキ型の鎧装を装着する。両肩に装備されたマカジキ型の砲台に加えて、胸部装甲も展開して砲口を形作る。
「貫き砕けよ……マカジキフォトン・ブラスターッ！」
　蒼く輝く３連のマカジキ型フォトン弾が傷ついたエインヘリアルへと迫る。
　敵の体を食い破るように貫いたフォトン弾が爆発して、さらに１体を四散させた。
　ルーシィドはオウガメタル粒子を放ってさらに仲間たちを回復するとともに強化している。
　奏のレーザーで凍りついた敵を、コマキが放つエーテルの種が撃ち抜いた。
「これでまた１人……ね」
　たおやかに微笑みながらも、コマキは敵がもう動かなくなったのを確かめる。
　第２陣の敵が全滅し、さらに第３陣もが倒れ始めた。
　だが、さらなる敵はまだ半分も敵を倒さぬうちに、しかもこれまでの倍の数をともなって現れた。
　一気に増えた敵へとケルベロスたちは果敢に応戦する……が、数分のうちにディフェンダーを担っていたサーヴァントたちに続き、奏やルーシィドまでもが倒されてしまった。
「残念だけれど、そろそろ撤退を考えなくてはならなそうね」
「そうだな……あと２人倒されるのも時間の問題だ」
　コマキの言葉に、リーズレットは奏へ心配そうな視線を向けながら言う。
　４人倒されるまでねばるつもりだったが、敵の数が多いので撤退が難しくなりそうだった。
「潜入チームの結果がわかれば撤退の判断ができるんだがな」
　朔夜は周囲を確認していたが、残念ながらはっきりとした戦況の変化は見られない。
「そこは信じるしかねえンだろうな。時間は十分稼いだはずだぜ」
　伶の言葉に仲間たちが頷く。
「しょうがねェな。クッソ面倒くせェが……ホラよっと！」
　ジョーイが怪力で倒れた２人を担ぎ上げる。
「んじゃあとっとと撤退すんぞ！」
「ナメビスくん、退路を切り開きましょう。クロガさんルイさん、力を貸して！」
　ビスマスはハリネズミのようなファミリアを合成し、キマイラを作り出す。
　撤退に邪魔な敵をナメビスとともに吹き飛ばして撃破する。
　大阪城の方角へ皆が視線を送る。彼らの成功を信じて、ケルベロスたちは素早く撤退していった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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