大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
議題は、当然、ケルベロスへの対策である。
『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
と念を押し、通信を切る。
この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。
●声東撃西
「まずは、大阪都市圏防衛戦、お疲れ様だったな。お前達の活躍で、作戦は大成功に終わった。その結果、多くのアイスエルフを救出することにも成功した」
しかし、救出できたのは女性のアイスエルフのみ。男性を信用していないエインヘリアルの第四王女レリは、アイスエルフの男性を、コギトエルゴスム化したまま拠点であるグランドロンの宝物庫に閉じ込めている。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は新たなる作戦を、集まったケルベロス達へと向かって告げた。
「救出したアイスエルフからは、彼女たちの恋人や家族、友人である男性アイスエルフの救出を行って欲しいという嘆願があった。この作戦の為に、有志のアイスエルフ達がケルベロスの元から脱走したと見せかけて大阪城に戻り、偽情報で敵を混乱させてくれるそうだ」
第四王女レリの性格からして、偽情報を疑わずに信じて行動する可能性が極めて高い。よって、アイスエルフに協力し、男性のアイスエルフを救出する潜入作戦を行う事が決定した。
「潜入作戦はセオリー通り、少数精鋭での隠密作戦だ。だが、これを成功させる為には、アイスエルフの欺瞞情報通りに、お前達で大阪城に襲撃を仕掛けて陽動作戦を行うことが不可欠だ」
今回の任務は、その陽動作戦である。だが、陽動とはいえ敵の戦力も極めて高く、その守りもまた固いという。
「大阪城を襲撃する際、出現が予想されるのは白百合騎士団のエインヘリアル達と、大阪干渉地域で活動していた竹の攻性植物だな。攻撃された場合、こいつらは守りを固めつつ、自軍の増援がやって来るのを待つという戦法を取るようだ」
こちらの作戦は、あくまで陽動。敵を見つけて攻撃しては、増援が来る前に撤退することで、敵の目を引き付けることが目的だ。万が一、第四王女や精鋭の騎士と遭遇した場合、早急に撤退して戦闘を避けるのが望ましい。が、複数のチームで連携する事ができれば、彼女達を撃破するのも不可能ではない。
もっとも、第四王女レリに加え、沸血のギアツィンスや絶影のラリグラスといった精鋭の騎士達は、一筋縄では行かない強さを誇る相手だ。こちらがいかに数を揃えようと、仲間同士の連携や、敵の増援を阻止して孤立させる手段を考えておかなければ、撃破は困難を極めるだろう。それこそ、彼女達を倒したいのであれば、実際に彼女達と戦わない者達の動きこそ、最も重要になるのかもしれない。
「今回の作戦は、潜入チームが作戦を成功させる為の陽動作戦だ。だが、陽動だと気づかれては意味が無いからな。幸い、敵はお前達に多くの騎士を殺されて、随分と戦意が高揚しているようだ。それを上手く利用して、本気で攻撃していると思わせるような戦い方で事に当たれば、より有利に戦うことができるはずだぜ」
このチャンスを上手く生かすことができれば、アイスエルフを新たな地球の仲間として迎え入れることができるかもしれない。
地球の未来と、アイスエルフ達の未来。全ては、この戦いに掛かっている。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
---|---|
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329) |
罪咎・憂女(刻む者・e03355) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820) |
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514) |
瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607) |
●決死の陽動
――大阪城。
かつて、難攻不落の城塞と呼ばれた城跡は、今や攻性植物に支配された緑の地。そこにエインヘリアル達まで集っているとなれば、いよいよ戦の気運が高まろうというものだ。
「現れたな。こちらが暴れてアピールするまでもなかったか?」
敵地へ踏み入れるなり、早速湧いて出た軍勢を前に、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は油断なく敵の総数を数えながら言った。
1つ、2つ……全部で10体は下らないだろうか。鎧に身を包んだ白百合騎士団と、軍隊を思わせる竹の攻性植物たちが一同に会している様は、なかなか節操のなさを感じさせる雰囲気だが。
「さて、新たな仲間を迎えたいものですね……」
迫り来る敵の集団へ、罪咎・憂女(刻む者・e03355)は躊躇うことなく身を躍らせると、抜刀からの素早い一撃で切り伏せる。
「……ッ!?」
凄まじい剣圧から生じる摩擦が炎を呼び、竹の攻性植物達に明らかな動揺が走った。さすがに、一撃で斬り捨てるまでには至らなかったが、それでも敵の目を引き付けるための初撃としては十分だ。
「こちらが本気だと思わせればいいの、ね。まあ、いつだって本気だわ。ここもいずれ取り戻さなければならないもの」
「この戦いでアイスエルフの皆さんの未来が決まるんやね……。よりよい未来を掴み取るためにも、今この場で戦う皆さんの為にも、うちの力を尽くします!」
どうせやるなら、殲滅する気でやってやろう。ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)の鎖が味方を守るようにして広がれば、田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)の放った銀色の粒子が、それに重なるようにして前衛に立つ者達を覆って行く。
「こいつら……持久戦の構えか?」
「上等だ! その程度の壁、我らが力を以て破壊してくれる!!」
炎に対して尻込みする竹の攻性植物達に変わって、白百合騎士団のエインヘリアル達が、剣や斧を手に突撃して来た。が、振り下ろされた刃に対して真っ向から自分の剣を叩き付け、瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)は刃を斬り結んだまま踏み止まった。
「行かせない……このまま押し切る!」
「ぐぅっ! パワーでは、相手の方が上だというのか!?」
力を溜めた武骨な斬撃によって押し込まれ、エインヘリアルが早くも膝を突いた。体格の差こそあれど、星辰の魔力に依存した剣では、寧々花の用いる長剣に対して受け太刀をするのは無謀だったようだ。
「よしよし、行けそうだね。このまま一気に進軍しちゃおう!」
個の力ではこちらが上だと判断し、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)もハンマー片手に敵の群れへと突っ込んで行く。身の守りはビハインドのイリスに任せておき、自身は少しでも多くの敵を引き付けるために暴れ回る。
「なんという気迫……そうまでして、こちらの防衛網を突破しようというのか!?」
「させるな! 陣形を立て直せ!」
己の身を顧みず戦うケルベロス達の姿に、白百合騎士団のエインヘリアル達は、完全にこちらを主力部隊と勘違いしているようだった。同伴している竹の攻性植物達も、それは同様だ。
「さて、食い付いて来たか……。この戦い、吉と出るか、それとも凶と出るか……」
コインを投げつつライフルを構え、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は、にやりと笑う。落下したコインを片手で握り締め、その手を広げて中のコインを見た瞬間……彼のライフルから全てを凍結させる絶対零度の光線が放たれた。
●増援部隊
敵の本陣へ別動隊が突入するのを助けるため、敢えて大暴れして相手の気を引き付ける陽動作戦。
はっきり言って、かなり危険な任務であることに違いはない。敵は個々の実力でケルベロス達に劣るとはいえ、それでも数が数なのだ。
案の定、開戦から数分も経過すると、新たに敵の増援が出現した。その数は、およそ10体ほど。つまり、最初に邂逅した時点での数と同じだけの敵が、一気に現れたことになる。
「どんどん来るね。でも、この程度は想定済みだよ」
研ぎ澄ました渾身の一撃によって、ロベリアは竹の攻性植物を叩き潰しながらも笑って言った。本当は、笑っていられるような状況ではなかったが、それでもここで退いたら最後、目の前にいる敵が他の部隊の障害となり兼ねない。
「囲まれると厄介だな。近づかれる前に、少しでも数を減らすぞ」
「どうせ敵勢力圏内だ、更地にしても問題ねぇ」
ティーシャの繰り出す竜砲弾が敵の足を止めているところを狙い、泰孝が広範囲にミサイルを放って敵を纏めて爆破した。それでも、煙の奥から続々と増援部隊が現れてくるが、そちらが数ならこちらも数で勝負するまで。
「悪いが……それ以上、進ませるわけには行かないのでな!」
憂女の掲げた刃の切っ先が、天空より無数の剣を呼ぶ。飛来した刀剣は次々と敵の足元に突き刺さり、果ては脳天さえも貫いて行き。
「残念だけど、まだ終わりじゃないの。私の攻撃が、残ってるからね」
胸の宝石が光り輝き、ルベウスが手にしたパズルへと魔力を注ぐ。不可思議な力を宿した三角錐に稲妻が走り、呼び出されるは竜の姿を模した雷鳴だ。
「なっ……! し、しまっ……!?」
勢いに任せて剣を振り上げた白百合騎士団のエインヘリアルに、ルベウスの放った電撃の竜が直撃した。黒焦げになって倒れたエインヘリアルに、もはや戦う力は残されていない。
「えぇい、怯むな! 突撃だ! 突撃あるのみだ!!」
竹の攻性植物を叱咤しながら、残るエインヘリアル達も、殆ど捨て身で特攻して来た。それだけ、この地を守ろうという意思が固いということか。
「敵もやりますね……。少しでも戦いやすいように!」
マリアの投げた紙兵が広がり、味方を守る加護となる。それを砕かんとエインヘリアルが迫るが、そこは寧々花がさせなかった。
「行かせないって……言ったはず」
「くっ……小癪な!」
再び鍔迫り合いを始める寧々花とエインヘリアル。今度の相手は、武器が斧だ。力で押し切るには難しい敵だが、しかしパワーだけが寧々花の武器ではなく。
「……甘いよ」
片手で相手の武器を受けながらも、空いた方の手で鋭い爪による一撃を繰り出して、寧々花はそれを敵の脇腹に深々と突き立てたのだ。
「ぐふっ……! ふ、不覚……」
予想もしなかった角度で攻撃を食らい、エインヘリアルの手から戦斧が零れ落ちる。これでまた、1体減った。敵の攻撃は激しさを増していたが、それでもケルベロス達の勢いは、未だ留まるところを知らなかった。
●死中に活を求め
敵の拠点でもある大阪城は、その領内に攻め入れば、当然のことながら抵抗も激しい。初めの内こそ優勢を保っていたケルベロス達であったが、敵の増援が矢継ぎ早に現れるにつれて、徐々に形成不利になっていた。
敵の激しい抵抗により、サーヴァント達は既にその姿を消している。増援も合わせ、実に20体以上もの敵を葬って来たケルベロス達ではあったが、その代償も決して安いものではなかった。
「まだだ……この程度で!」
気合と共に負傷を吹き飛ばそうと叫ぶ憂女だったが、それでも連戦による消耗は隠し切れない。平時であれば一気に負傷を回復することのできる術を用いても、癒えぬ傷跡が着実に彼女の身体へと刻まれていた。
「敵は消耗しているぞ! この機に、一気に叩くのだ!」
増援として現れた白百合騎士団のエインヘリアル達が、一斉に憂女へと殺到する。まずは、防御の要である、彼女を撃破しようということなのだろう。
「耐えてください! 急いで処置します!」
慌ててショック療法を施すマリアだったが、そもそも憂女には、回復できるだけの体力が残されていない。これも全ては、癒えぬ傷が蓄積され過ぎてしまったが故。
「くっ……ここまで……か……」
その身に敵の攻撃を一手に引き受け、仲間を攻撃から守り抜く。しかし、連戦により酷使された憂女の肉体は、既に壁として敵の攻撃を受け止めるだけの余力を失っていたのだ。
「敵の防衛網に穴が開いたぞ! この機に、一斉攻撃だ!」
「ウォォォォッ!!」
白百合騎士団のエインヘリアルの声に合わせ、竹の攻性植物達が、竹筒のような砲塔を構え、一斉に砲弾を発射して来た。次の狙いは、敵集団の中で孤軍奮闘する寧々花だ。炸裂する砲弾は情け容赦なく寧々花の身体に命中し、激しい爆発が巻き起こる。
「やったか……っ! な、なにっ!?」
だが、それでも寧々花は倒れていなかった。全身の鎧を吹き飛ばされ、漆黒のボディスーツだけの姿になってもなお、彼女は長剣を杖代わりにして踏み止まり、魂の力だけで立ってた。
「まだ……まだだ……よ……」
全身を襲う激痛に耐えながらも、寧々花は迷うことなく敵の集団へと突撃して行く。その勢いに圧倒され、完全に動きを止めた竹の攻性植物に狙いを定め、一度に纏めて薙ぎ払った。
「や、やった……っ!?」
だが、それも束の間。今度は反撃として繰り出されたエインヘリアル達の剣が、彼女の身体を四方八方から貫いて行く。いくら本気で陽動を仕掛けるとはいえ、このままでは彼女が殺され兼ねない。
「さすがに、これ以上は限界かな? でも……ここで退いたら、後が怖いからね」
ならば、せめて倒せるだけの敵は、1体でも多く倒させてもらおう。そう結んで、ロベリアもまた敵の集団へと突っ込んで行く。
「燃え滾れ私の地獄。ロバ耳王の呪いはこの手の中に……さあ。溶けろ、沸き立て! 切り刻め!」
両手の地獄によって溶かされた黄金の剣。それを自在に変形させ、炎と共に繰り出す連続攻撃。
それはさながら、変幻自在の刃と炎による二重奏。さすがに、これには耐えられるはずもなく、寧々花に追い打ちをかけんとしていたエインヘリアルをズタズタに切り裂き、倒したが。
「……ここで退場か。残念……だよ……」
残る敵の反撃を食らい、彼女もまた寧々花に折り重なるようにして倒れて行く。
「前衛が突破されたか。そろそろ潮時だな」
敵をライフルで牽制しつつ、ティーシャは残る仲間達へと告げた。それぞれ、思うところもあったようだが、ルベウスと泰孝も頷いて。
「撤退するなら、後ろは任せて。誰にも仲間を傷つけさせないわ……」
「まあ、そう気負うこともねぇ。どうやら、事は上手く運んだようだからな」
己の命に代えても仲間を守ると告げるルベウスを、泰孝が軽く諭すような口調で制止する。見れば、彼の視線の先には、大阪城より出動するアイスエルフ達の集団が映っていた。
●激闘の果てに
こちらが派手に陽動を仕掛けている隙を突いて、アイスエルフのコギトエルゴスムを救い出す。敵の中枢へ潜り込む、かなり危険な作戦ではあったが、それでも結果としては上々だろう。
「お、終わり……ました、ね……。と、とりあえずは、ですけど……」
満身創痍の身体に鞭打って立ち上がり、寧々花は額の汗を拭いながら大阪城の方へと視線を向けた。最後は撤収するだけで精一杯だったが、他の者達は上手くやってくれただろうか。
「他の方も無事に成功していれば良いのですが……どうなったのでしょうね?」
「心配は要らねぇ。当初の予定通りってやつだろうさ」
憂女の問いに、泰孝がコインをいじりながら答えた。あの時の結果は、自分の勝ち。故に、セオリー通りに戦えば、それ相応の結果が返って来たのだと。
「大阪城からアイスエルフが出撃したようだな。と、いうことは……本体も、上手くやってくれたと考えてよさそうだな」
撤退の際に見えた光景を思い出し、ティーシャが納得したような表情で頷いている。
あのアイスエルフ達は、恐らく増援を偽装する形で、大阪城から脱出しようとしていたに違いない。だとすれば、こちらが大暴れしていた間に、本体は上手く作戦を遂行してくれたと考えて良いだろう。
「それにしても、随分と暴れたよね。これで少しは、敵の戦力も削れたんじゃないかな?」
身体の痛みに耐えながらも、ロベリアはどこか満足気。二度に渡る増援を経て、総計で実に30体以上の敵を撃破したのだから、これは敵にとってもかなりの痛手になったはずだ。
「本当は、敵の主力を潰せればよかったんだけど」
「ま、そこはあんまり、欲張らんことやね」
ルベウスの呟きに合わせ、マリアが言った。
王女と邂逅できなかったことは、果たして吉か、それとも凶か。他の班と連携して事に当たれなかった現状を考えれば、むしろ吉と考えた方が良いのかもしれない。
いずれ、決戦の時が来れば、今回の戦いで生き残った敵とも再び刃を交えることになるだろう。その時は、アイスエルフ達とも肩を並べて戦えるような未来であって欲しい。そんな想いを胸に秘めつつ、ケルベロス達は大阪の地を後にした。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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