アイスエルフ救出作戦~潜入チームを援護しろ!

作者:宮下あおい

 大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
 議題は、当然、ケルベロスへの対策である。

『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
 このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
 と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
 ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
 と念を押し、通信を切る。
 この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。

●概要
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は、集まったケルベロスたちを見回した。
「大阪都市圏防衛戦は、大成功に終わり、多くのアイスエルフを救出することに成功しました。しかし、救出できたのは、女性のアイスエルフだけだったようです」
 エインヘリアルの第四王女レリは、男性を信用しておらず、アイスエルフの男性は、コギトエルゴスム化したまま、拠点であるグランドロンの宝物庫に閉じ込められている。
 救出したアイスエルフからは、彼女たちの恋人や家族、友人である男性アイスエルフの救出を行ってほしいという嘆願があった。
「この作戦のために、有志のアイスエルフたちが、ケルベロスの元から脱走したと見せかけ大阪城に戻り、偽情報で敵を混乱させてくれるそうです」
 第四王女レリは、偽情報を疑わずに信じて行動する可能性が高く、アイスエルフ救出の潜入作戦を行うことになった。
 潜入作戦は少数精鋭での隠密作戦となる。これを成功させるためには、アイスエルフの欺瞞情報通りに、大阪城に向けてケルベロスが襲撃をかける陽動作戦が不可欠となる。
「皆さんには、アイスエルフ救出の為の陽動作戦を担当してもらいたいと思いますので、よろしくお願いします」
 敵は第四王女レリ配下の白百合騎士団のエインヘリアルと、大阪干渉地域で活動してた『竹の攻性植物』の混成部隊のようだ。
「陽動作戦のため、迎撃に出向いてきた第四王女の騎士団と戦闘しつつ、頃合いを見て撤退すれば作戦は成功となります」
 撤退するタイミングを間違えなければ成功となる。しかし複数のチームで連携ができれば、有力敵を吊りだして撃破することも可能だ。第四王女レリ、沸血のギアツィンス、絶影のラリグラスらの撃破を狙う場合は、連携や増援の阻止などを考える必要がある。
 戦場となるのは大阪緩衝地帯。そこで潜入するチームの援護のため、敵の目を引きつけることだ。
「これが陽動だと気づかれては意味がありません。本気で攻撃していると思わせるような戦い方が必要になるでしょう。宜しくお願いいたします」


参加者
楡金・澄華(氷刃・e01056)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)

■リプレイ

●戦闘開始!
 大規模なアイスエルフの救出作戦、敵を陽動す側となった8人。緩衝地帯から大阪城へ向けて、攻めているように見せかけ、敵の目をこちらへ向けておくことが役目だ。
 敵は白百合騎士団のエインヘリアルと竹の攻性植物の混成部隊。増援が幾度も襲いかかった。
 楡金・澄華(氷刃・e01056)は斬龍之大太刀――凍雲を構え走る。
「棺に入りたいヤツからかかってこい……! ――この斬撃、耐えられるか?」
 雪月華――セツゲツカ。
 絶対零度の冷気を纏った超高速の連続斬撃。威力は絶大だが、使用者の体に掛かる負担も大きい。
 鉄が重なる甲高い音があちこちから響く。轟音はコンクリートが崩れ、衝撃により爆風が起きた。
 相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は、白百合騎士団に向けて問いかける。もちろん、まともな答えが返ってくるとは思ってない。
「……お前さんら、トップがレリで不安になったことねえの?」
「おまえたちには関係のないことだ!!」
 白百合騎士団は数人がかりで、竜人へ槍を振りかざす。騎士たちの白い甲冑や盾が、太陽の光に反射して光る。
 竜人は太い竜の尻尾を振るい、騎士たちを複数まとめて薙ぎ払う。髑髏を思わせる仮面で顔を隠しているため、竜人の表情までは分からない。
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)も、騎士たちの注意を引くため名乗りをあげる。
「俺はオウガ、柴田鬼太郎。死にたいやつは前に出な!」
 味方の背後にカラフルな爆発を発生させ、爆風を背にした味方の士気を高めまる。
 主人の行動に合わせて、サーヴァントでウイングキャットの虎も羽ばたきで邪気を祓う。まさしく武者猫といった姿だが、それがまた可愛くも見える。
 ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)が走る。
「状況開始。見敵必殺だ、道を斬り開け」
 緩衝地帯には、どこか不釣り合いな桜が舞う。それは幻惑をもたらす桜吹雪。ハルは桜吹雪とともに、敵群を一刀で全て斬り伏せる。
 乱戦。
 出来るだけ派手に、大技を使い、暴れて目立つ。今はそれが最優先だ。
 岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)が、紅蓮の炎を操り、近距離の敵群を焼き払う。
「我々は為すべきことを為すまで! いざ参らん、死中に活を求めて!」
「増援も来る、貴様らに勝ち目などないと知れ!」
 騎士は高く飛び上がり、一直線に天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)を狙う。このグラビティは、ルーンアックスのスカルブレイカーを思わせるが、蛍が後方へと飛びのいた。
「これは生存競争、戦争! ならさ、降りかかる火の粉は払わせてもらうし、私の身近な人を守らせてもらうし、全力で相手をしないとね」
 蛍は自身のグラビティで小型治療無人機の群れを操り、味方を警護させる。
 蛍とほぼ同時。アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)は、ドラゴニック・パワーを噴射した。加速した破城竜槌――ドラゴニックハンマーを振り下ろし、敵を叩き潰す。
「アイスエルフはどこに逃げた?」
「おまえたちに教える義理はない」
 潰された攻性植物を横目に、騎士がトリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)へと斬りかかる。
「せーのっ……くらえっ!」
 トリュームは、ハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾で放つ。
 サーヴァントのボクスドラゴン、ギョルソーは支援のため、皆の間を飛び回り始めた。

●増援
 一戦一戦は短期決戦。けれど、それも数が増えれば、やはり疲弊するし多少なりとも怪我や傷を負う。それはケルベロスといえど同じである。
 白百合騎士団を構成するエインヘリアルと竹の攻性植物の連携。竹鉄砲を放った攻性植物、それを避けようとしたトリュームを狙って、騎士が星座のオーラを飛ばす。
「――トリューム! ……っ!」
 アルベルトがトリュームを庇い、両者ともに地面を転がった。土埃で汚れ、小石や短い木の枝で小さな擦り傷や切り傷を作る。
 それを見たサーヴァント2体は、すかさず駆け寄り、回復にかかった。
「……いたたたっ! ありがとう、アルベルト」
「いや、大事にならなかったなら、それが1番だ」
「よーし、よくもやったな! こうだ!」
 礼を告げると同時に飛び起きたトリュームは絶対零度手榴弾を投げつけ、複数の敵をまとめて凍らせる。
 アルベルトも即座にその場を飛びのいた。
「どけ、でなければ命はないぞ」
 一方、澄華は対峙していた騎士へ踏み込んだ。黒髪が動作に合わせて流れ、空中に線を描く。呪われた武器の呪詛を乗せ、美しい軌跡を描く斬撃を放った。
 続けざまに鬼太郎が追い詰めるように拳を放つ。力任せの単純なパンチ。
 ――入った。
 重い、単純なその一撃は、如何なる魔術防護でも止めることはできない。
 刀と拳を織り交ぜた戦闘スタイル。
「こういう大舞台で俺らオウガの力が生かせる日を待ってたぜ!」
「我が心、燃やせ世界。焼き尽くせ、境界・焔――デッドライン・ブレイズエッジ」
 ハルは増援部隊の一団に向け、焔の剣を振るう。殺界に己が心を映し、自らの領域を作り出す奥義、ブレードライズ。その領域に内包された焔が眼前の敵を焼き尽くす。
 別のエインヘリアルを相手にしていた風太郎も、グラビティを放つ。
「刮目せよ! 煌めけ、我が閃光螺旋! ニルヴァーナッ! アミダ・スパイラルッ! イヤーッ!」
 三千世界を貫く七色の無量光大螺旋――ニルヴァーナ・アミダ・スパイラル。
 風太郎の最愛の女性と編み出したワイルドグラビティ。虹色に輝く無量光大螺旋を風太郎の如意棒に宿して、ドリルのように敵を突貫する超絶奥義。隣で手を添えてくれる相手がいる限り、誰にも負ける気がしない。
「これは生存競争、戦争……ならさ、降りかかる火の粉は払わせてもらう!」
 蛍は武器から物質の時間を凍結する弾丸を精製し放った。
 1体1体確実に、騎士団と攻性植物たちを倒している。しかし増援も来ているため、一見すると数が減ったようにも見えない。
 それぞれが臨機応変に牽制と攻撃、回復と乱戦のように見えて、きちんと連携をとっている。
 竹刀を持った攻性植物と騎士の数人。攻性植物は竜人へ竹刀で斬りかかろうとし、騎士たちはそれぞれグラビティを発動させようとしていた。
「もらった、死ね! ケルベロス!」
 竜人はギリギリまで動かない。敵を限界まで引きつけたその瞬間、黄色の焔が形を成す。
「死ぬのはおまえらだ――そのお綺麗なツラは焼かねえよ。中身までは知らねえけどもな!」
 天焔【怠惰の黄】――テンエン・ゾンネンゲルプ。
 ワイルドの力を黄色の焔の形と成して、敵群へ放つスキル。揮われる黄焔は敵の体内へと潜りその神経を焼き、怠惰を強いる焔。外傷こそほとんど発生しない物の、体内から焼かれるような感触は敵の動きを激しく制限する。

●増援その2
 ギョルソーは皆の支援のため、ケルベロスたちの間を走り回る。蛍へ向けて、竹鉄砲を構えていた攻性植物にタックルをかまし、ギョルソーはそのまま走り抜けた。
 それを視界に収めていた蛍は、心の中で礼を言いながら、空中でアームドフォートを構えた。
「アルベルト! 特別製だよ、ヒーリングバレット!」
 傷口を癒す効果のある薬品が込められた弾を、アルベルトへ向け発射した。
 消耗が激しい者を中心に回復して、皆を支える。それが今回の蛍の役割だ。飛行しながら、射撃と己の拳を使うという戦闘スタイルを活かし、時に皆を上空から支援していた。
「助かった、ありがとう」
 アルベルトは礼を告げると、すぐさまその場を飛びのく。
 同じ頃、もはや数えてもいないが、騎士のひとりが竜人へ突っ込んでくる。
「貴様らなど我らの敵ではない!」
「どの口が言ってんだかな!」
 竜人は凶討で貫いた敵の神経回路をも麻痺させる、稲妻を帯びた超高速の突きを繰り出す。
 竜人と交差するように、ハルが境界剣(ブレードライズ)に雷の霊力を帯びさせ、神速の突きを放った。まるで女性と見紛う容貌で、舞い踊るように剣を振るう。
「敵ではないのは、こっちのほうだ」
「ここを抜けて、大阪城へ向かうでござる!」
 風太郎のこの言葉は、陽動のひとつにすぎない。次いで竹の攻性植物へ向けて、虚無球体を放った。それは触れたもの全てを消滅させる。
 風太郎のグラビティで倒しきれなかった騎士へ、アルベルトが踏み込む。
「そこを動くなよ」
 風神突――フウジントツ。急所を狙った、シンプルだが強烈な刺突。
 着流しに腰に帯びているのは日本刀。和風な格好をしているが、銀髪で瞳は青い。アルベルトの所作に応じて、着流しの裾がなびく。
「はーい、動かないで……ちょっとビリッとくるだけだから!」
 ビリビリビーム! ――ジグ・ザグ・ザッパー。
 トリュームのグラビティだ。装着者の意思でオサレアイテムからレーザー銃に変形する。周囲のグラビティチェインを励起させて吸収し、轟音とともに極太レーザーを発射する。取扱説明書には、こう書いてある。
『ZigZag-Zapperは極めて安全な児童用の玩具です。下記の使用方法を守ってください。重大な災害につながる恐れがあります。人や建物に向けて発射しないでください』
「いたっ……! トリューム! まったく……」
 近くにいた澄華も巻き込まれた。少しビリッときた程度のようで、トリュームへ視線を向けるにとどめ、己の攻撃に集中する。澄華が放った呪われた斬撃は、斬りつけた者の魂を啜る。
「こ、この銃が勝手に撃ったのよ! キャハハ!」
 それを見ていたウイングキャットの虎が、澄華に向けて癒しの翼を羽ばたかせた。
 虎と同時に、主人である鬼太郎もグラビティを発動させる。愛刀「桜牙」を触媒とした剣圧により「負傷」を斬り捨てる。癒しの拳の応用技だ。
「怪我もみーんな纏めて吹き飛ばすぜ!」
 破魔――ハマ。
 赤毛に虎髭。声も大きく、その所作や外見は武者や武将を思わせる鬼太郎の大きな声が響いた。

●撤退戦
 ケルベロスたちは撤退を始める。それなりの数の敵を倒した今、無事な撤退が難しくなる前に、この場を離れるのが最善だろう。
 有力な敵が現れた班もあるようだ。そこに向かうと思しき増援も潰し、一定の戦果は挙げたと言っていい。
「そろそろ引き際か。――私が先を行こう」
 澄華が退路の先行偵察を引き受ける。忍が本業、隠密気流を使い、トリュームのバイオガスと合わせ、速やかに撤退戦に移る。
 トリュームは残っている騎士団と攻性植物に向け、バイオガスを撒き始めた。騎士や攻性植物の目を眩ませるには充分だ。
「ただ今より毒ガス訓練を開始する!! ……ウッソー! でもワタシ、ガスいっぱい撒いてる! 意味はないけど!」
「逃げる気か!?」
「てめえらをぶっ倒すために準備すんだ。邪魔すんじゃねえっての」
 ガスの目くらましを抜け、前方に立ち塞がった騎士。白い甲冑も汚れ、だいぶ消耗しているようだ。撃破するのは容易い。
 竜人はハンマーを砲撃形態に変形させた。
 竜砲弾。
 直撃した騎士の、白い甲冑が割れ地面へ散乱した。乾いた音を立て転がると、もはや道端の小石と見分けがつかない。
「皆、もう少しよ! 今治すから、がんばって!」
 蛍がオーロラのような光で仲間達を包み、状態異常を治療する。
 塵も積もればというが、ダメージも蓄積されれば、やはり戦闘に支障をきたす。まして撤退するところだ。
「虎! 一旦引くぞ!」
 鬼太郎は全身の任意の場所から瞬時に黄金の角を伸ばす。ガスに困惑していた騎士を貫いた。
 主人の言葉に応じたように、虎は近寄ってくる攻性植物に尻尾の輪を飛ばす。
 ハルが飛んだ。虎が尻尾の輪を当てた攻性植物に、空の霊力を帯びた武器で、敵の傷跡を正確に斬り捨てた。展開された無数の刀を内包した領域で、舞うように騎士を斬り刻む。
「みんな、行ってくれ!」
「殿は任せるでござるよ」
 風太郎が伸ばした如意棒で敵を真っ直ぐに突いた。横合いから騎士が斬りかかる。風太郎は後方へ身軽に転回して避けた。
 ギョルソーも皆の撤退を支援しようと走り回っている。
 別部隊のケルベロスたちの戦闘音も聞こえる。
「態勢を立て直すぞ! こっちだ!」
 アルベルトは、皆に声をかけて回り誘導を始めた。

 当班の撃破数、約30体。

 白百合騎士団が大阪城防衛のため、展開していた部隊はケルベロスたちの各個撃破の餌食となる。増援部隊を送り出すが、それも各所で戦うケルベロスたちに対処できず、白百合騎士団にとっては大きな被害となるのだった。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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