アイスエルフ救出作戦～氷の花

■リプレイ

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　大阪城を目指すケルベロスと、それを阻むエインヘリアルや攻性植物たち。
　見た目には、大阪城攻防戦とでも言うべき戦いが起きた。
「数合わせ部隊周辺ニ、整った小部隊……増援用カ」
　空より眺めていたウォリア・トゥバーン（獄界の双焔竜・e12736）は軽く思案した後、仲間の方を向き直る。
　敵の布陣を確認し、どこへ行くかを伝えたのだ。
「丁度良い連中が居タゾ。さァ、戦の時だ」
「了解した。俺たちで先行する！」
　ウォリアの言葉を聞いて北條・計都（凶兆の鋼鴉・e28570）が、キャリバーのこがらす丸のエンジンを吹かした。
「向こうもこちらに気が付いたようであります！」
「望む所！　この作戦にアイスエルフの未来が掛かってるんだ……精一杯暴れて、役割を果たす！」
　クリームヒルト・フィムブルヴェト（輝盾の空中要塞騎士・e24545）はギリギリまで飛んでいたが、会敵の時間とあって翼を畳むことにした。
　滑空しながら計都と並び立ち、一同の戦闘に立って前衛が壁を築く。
　盾役が先行し、ケルベロス達を迎え討とうとしているエインヘリアル達を抑えるためだ。
「ボクが皆様を護るであります！　張りきって陽動を行うであります！」
　クリームヒルトは同胞である彼女達の願いを叶える為、マントを翻し手に符を挟み込む。

　そう、これは大阪城攻防戦などではない。
　この戦いは妖精種族であるアイスエルフ救助こそが目的だ。
　だからこそ大多数を動員しての総力戦ではなく、希望者のみで行う陽動作戦なのである。
「オレがアイスエルフの女性達に望んだのは『自分達の意志で生きる事』だ」
　ロディ・マーシャル（ホットロッド・e09476）は出逢った時の事を思い出す。
　騎士たちは善意に満ちていたが、ありがた迷惑で思考誘導どころでは無い。
　それでも従うしかない彼女たちに手を差し伸べ、協力を申し出たのだ。
「そしてこの願いは彼女達の意志によるもの。だったら、何としてでも叶えてやらなくちゃな」
「仲間を助けるなら手伝うて言うたさかいな。男に二言はあらへん」
　ロディが足を止めると、美津羽・光流（水妖・e29827）は聞こえて来た足音に笑って戦闘態勢を整えた。
（「いまごろ男助ける為に女が体張ってんねんな。佳い女やん」）
　光流は恋人を思い出しつつ、彼の為ならば自分も同じことをしただろうと確信している。
　自分を重ね合わせるからこそ、何より助けてやりたいと共感を覚えるのだ。
「林になってるがこの先は本来、道が開けてる。直ぐに戦闘が始まるぞ」
「……大阪城とその周辺がこうなってもう２年以上。そろそろ本気で何とかしないとね……」
　渡羽・数汰（勇者候補生・e15313）が頭に叩き込んだ地図を思い出して注意を促すと、円城・キアリ（傷だらけの仔猫・e09214）は思わず苦笑した。
　攻性植物に占拠されてあちこち森や林が拡がっているが、この周囲は本来、市街地なのだ。
　大阪城の地下に居る連中を思い浮かべて睨み付ける。
「こっちからなら木々に邪魔されずに戦えるわよ」
「ほんなら行くで！　みな気張りや！」
　キアリが戦えるだけの隙間を見付けると、光流は林の手前で流体金属を散布。
　攻撃態勢にある仲間達の援護を始めた。
「総員突入！」
　計都はこがらす丸に乗ったまま、片手で機巧刀のトリガーを引いた。
　切りつければ六連斬甲、放てばシックスショット。
　愛用の武装ともども、その姿は進軍するロボット兵団の如くだ。
『ダモクレス！？　いや、重装のケルベロスか！』
「その通り。俺達は、地獄の番犬ケルベロス……力なき人の牙となり、人に仇なす神に抗う者だ！」
　計都はこがらすまるから落下する様に分離し、ひとまず目には行った敵と後方の仲間とのルートを阻んだ。
「大物は居ラン。隙に暴れるが良イ！」
　そこへウォリアが林を粉砕しながらやって来て、尻尾を振り回す。
「どうした！　名高き白百合騎士団の実力はこの程度か！　レリ王女側近の肩書きが泣くぜ！」
　数汰は開けた視界に鞭を振るい、二人は当たるを幸いに暴風と化したのである。

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　騎士と名乗ってはいてもエインヘリアルは大人しくはない。
　奇襲によって一方的に攻撃を食らいはするが、即座に陣形を立て直した。
『おのれ！　我が軍団の結束を舐めるな！　直ぐに増援が来るぞ』
『男どもの専横を打倒するまでは、負けるわけにはいきませぬ！』
　螺旋忍軍などとの戦いに慣れているのか、混乱なく状況を把握したようだ。
　そして攻性植物はそもそも戸惑いなどしない。
「……何というか、こいつらの思考パターン、典型的な拗らせ喪女や地雷女のソレよね……」
「アハっ。確かにその通りね」
　キアリと遠野・篠葉（ヒトを呪わば穴二つ・e56796）はひとまず仲間の姿で埋まった視界を確保しながら、手近な敵に攻撃を向けた。
　その力が発動するよりも速く、飛び出す影が他にもあった。
「ボクが抑えておくでありますよ！　今の内に」
「頭を抑える。動きを制限できればそれでいい」
　飛び出したクリームヒルトは札を投げ放ち、仲間達の周辺に結界を敷いた。
　ロディは大凡の位置だけを把握すると、愛用の銃を引き抜いて連続射撃。
　林越しに弾丸を撃ち込み始めたのである。
「よーし、じゃあ、今日の呪いは派手さ重視でいくわよ！　予習と復讐気にしなくていいのは楽でいいわね」
　篠葉は周辺に眠る浪人たちの魂を呼び起こして行く。
　盆踊りには早いかな―と思いつつ、怨霊軍団を編成してぶつけた。
「フリズスキャールヴは二撃目以降は不要、援護であります」
「こっちも忘れないでよね。これで戦闘態勢は整ったわ。アロン！　敵を近付けないで」
　クリームヒルがテレビウムのフリズスキャールヴに指示を出すと、キアリは連鎖の結界を築きつつオルトロスのアロンに声を掛ける。
　これでケルベロスは敵に牽制を掛けた上で、十分な防御態勢を敷いてから闘い始めることになった。

　対するエインヘリアルと攻性植物は合計で十体強。
　サーヴァントを含めたケルベロス側より、多少多い程度である。
　白百合騎士団は即座に戦列を立て直し、腕の立つ物が治療や牽制の範囲攻撃を掛ける。
『慌てるな！　戦列を組み直せ』
『近くに居る仲間が来るまで保たせろ！』
　当然と言えば当然の反応だが、問題もあったろう。
　どちらかといえば数に任せて、治療しきれないほどの集中攻撃をされる方が困るのだ。
　戦いが数分を越えた所で、徐々に戦局が傾き始める。
「クク……悪手だナ。手数を減らすと、こちらはフリーだ」
「まあ教えたらんから仕方無いやろ。男に二言はあらへんけど舌は二枚あるんやで」
　ウォリアと光流は戦いの中で軽く視線を合わせ、ここぞとばかりに攻勢に出ることにした。
　早期に壊滅させて次に行くか、やって来る敵を万全の態勢で迎え討たねばならないのだ。
　このまま押し込んで、相手の方を回復で手いっぱいに追い込む方が楽だ。
「男は一筋、舌は二枚。四季の銘花に囲まれて、八方睨むに良し！」
　光流は指先にグラビティを集めると、その延長線に散った花や草木を集めた。
　硬度を高めて花吹雪による刃を造りあへると、縦横無尽に切り拓いたのである。
「敗者必滅の理、地獄に堕ちる覚悟はできているか？　天に輝く七の星を見よ……オマエ達に死を告げる赫赫たる星こそが我……さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり」
　ウォリアは無数の分身を率いて最初の敵を打ち砕く。
　戦輪や独鈷杵を振りかざし、あるいは三叉戟を突き刺してトドメを刺す。
「次に動けなくなったやつのトドメは頼む。今日は撃って撃って撃ちまくる！」
　ロディがナパームミサイルを撃ち込んで、親ミサイルから子ミサイルが飛び出す。
　そこから孫ミサイルではなく、雨の様に炎を降らせた。

　しかし、それを防ぐよう騎士団も対応し、カバーに入ったり治癒を行う。
『させぬ！』
　その為、もう一周か二周、同じ様な戦いが続く。
「俺が切り込みます！　回復は任せました」
「了解であります。こちらも全力を保ち続けるであります」
　暫くしてチャンスと見た計都とクリームヒルトは、担当を分け飛び出して行った。
　計都が前進しながら腕部に収納した連装砲を取り出して砲撃し、こがらす丸が敵列を遮断する。
　それの動きを守る様に、クリームヒルトが背中合わせに守りつつ、再び符を使って結界を二重に敷いた。
「……終焉の角笛、今鳴り響く。死へと誘う鎮魂歌のなか汝の魂は冥府へと旅立つだろう」
　数汰は腕を振るいながら、握った拳を開いた。
　圧縮した空気に載せて、音が拡散して行く。
　それは単純な音では無く、エインヘリアルや攻性植物に合わせた音だ。固有振動を浴びせられた事により、彼女達のバランス感覚や体力が奪われて行くのだ。
「ここは……狙いを絞るべき。当たるも八卦、当たらぬも八卦、ってね！　ま、私の呪いは『あたる』んだけど！
　篠葉は範囲攻撃を放とうとして、狙いを変えることにした。
　敵も必死に一同の攻撃を防いでいたが、その中で倒れそうな相手が居たのだ。
　すかさず飛び蹴りを掛けて、脱兎……いや狐の勢いで一撃離脱を掛ける。
『おのれ、よくも仲間を！』
「アロン、先に詰めて！」
　キアリは空いた陣形の穴にアロンを飛び込ませて維持し、崩れた陣列を崩壊させる。
　そして自らは分身を並べ、敵の反撃で傷付いた仲間を庇うことにした。
　無数の幻影を出遅れた攻性植物が薙ぐが、反撃によって誰も倒せなかったことで戦闘のバランスが完全に傾いた。

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　やがて数分が過ぎ、予知するまでもなく闘いの趨勢は変わることはなかった。
　だが一隊を片付けて間もなく、新しい戦いが牙を剥く。
「増援が来るゾ。逃げるよりも此処で迎え討つ方が楽しカロウ」
「その為に来たんだしね。わたしも……うん、やれるだけやるわ」
　ウォリアの言葉に溜息を吐くと、キアリは今の内に全員の治療を施す。
「百合咲く舞台、修羅を包む華の芳珠。刃を種に血を吸い上げてほころぶ白の……Ah――――」
　キアリが歌によって紡ぐのは、白い花弁が雪のように舞い散る漆黒の空間。
　波紋と共に花弁が舞散り、周辺と展開していく。
　散りゆくその花は白百合騎士団の未来を暗示しているのかもしれない。
「さっきより強そうだけど数は少ないみたいね」
「足止め用の部隊と迎撃用の精鋭の差でありましょう。同じ編成があっても仕方無いでありますゆえ」
　篠葉が向かって来るグラビティを感じながら休んで居ると、軽く空を舞って確認したクリームヒルトが教えてくれた。
　今度来る敵は攻性植物が少なめで、足並みも整えられていると……。
「ようやくマトモなのが出て来たか？　ちょうど雑魚ばかりで飽きてきたところだったよ。アンタ相手なら少しは楽しめそうだな」
　数汰は鞭を手元に戻すと、一度休めた気合いを引き絞る様にして意識を切り替えた。
　戦いには血の熱さと同時に、冷静さも必要だ。自らの配置を確認して戦いの準備を整え、万が一も考えて退路は確保しておく。
　もし予想よりも強かったり次の増援が早ければ、目眩ましを掛けている間に逃げられる様に。
「強いのは強いんやけどなぁ。今回の動きであの王女の評価は下がったわ。現実見てへん将としては致命的や」
　光流は肩をすくめながら改めて流体金属を散布。
　レリは悲願を達成する為とは言いつつ、理想だけを追っているようにしか見えない。
「その話は後で。こちらはボクが抑えるであります。ご存分に」
　クリームヒルトは手慣れた調子で再び防壁を築き、戦列を整え始めた。
「せっかくだ。その力をもらっていく！」
　計都も反対方向に進むと、相手の霊力ごと切り裂いた。
　そして拡散するグラビティを我元に吸収し、僅かながらに体力を取り戻しておく。
「精鋭ナラバ頭を潰すか」
　二人が防ぎ留めている間に、ウォリアは先ほどの隊とは真逆に、一点突破でリーダー潰しを狙った。
　指揮官率先で向かってくるところを狙い打ち、速攻で片付けるつもりだ。

　やがて仲間達が取りつき、彼の様に攻撃を集中させたり、範囲攻撃うことで動きを抑えつける。
　その成果が現われたのか、それとも単に敵リーダーが盾役だからか、数分後には早くも追いこんで居た。
「後は任せたで！」
　光流が空間ごと文字通りの唐竹割りを決め、クリームヒルトか篠葉のどちらかが放つ霊の弾丸が命中。
　そこへ溢れんばかりの光が訪れた。
「ＭＡＸ！　ぶちかます！」
『くうっ……』
　ロディはアームドフォートを砲撃形態に変形させた。
　エネルギーが直結したそこに、ロディ自身のグラビティも注いで解き放つ。
　これぞ全力全壊の一撃、膨大なグラビティの前にさしもの騎士団も倒れたのである。
「このまま行けるかしら？」
「その為にボクらは居るのであります。陽動が成功するまでやり遂げるのでありますよ！」
　篠葉は怨霊達を放ち、クリームヒルトは霊を弾丸に変えて解き放って居た。
　二人の援護のお陰でリーダは倒れ、敵戦列は崩れ始めている。
「次だ次！」
「気持は判りますけど陣形は崩さないで。狙い撃ちにされますよ」
　数汰が戦場で疾走し、大鎌を振るって音の波を放とうと身構えた。
　それよりも先に計都が先行し、迫りくるエインヘリアルに鉄槌を振り下ろす。
　抑えつけている間に波が迫り、その前に飛びのいたのである。
「終わったら長い休憩をはさんで別グループを叩きに行きましょうか。油断は禁物だけどね」
「そうだな。でねえと動けなくなる奴も出て来る。他の班が後退したら休んでる間も無くなるだろうしな」
　キアリの歌を聞きながら、数汰は周囲の地形を少しずつ思い出して行く。
　戦いはまだまだ続くが、盾役やサーヴァントの中には疲弊している者も居る。
　サーヴァントが退散すれば盾役も庇いきれなくなり、攻撃役も危険になるだろう。
「それまでに今の倍は倒したいですね」
「ハットトリックどころかエース狙いかよ？　いいぜ今日は幾らでも援護してやる」
　戦いながら漏らす計都の冗談ともつかぬ言葉に、ロディはミサイルを撃ちまくりながら景気良く応えた。
「ボク達の戦いは続くというやつでありますね！」
「賛成ダ。だが、その為には、この連中を残らず平らげねバナア……」
　クリームヒルトが敵を防ぎながら微笑むと、ウォリアは牙を剥いてニィと笑った。
　全身を燃え上がらせる彼に続いて、ケルベロス達は二つ目の班を殲滅。
　最終的にこの日のスコアは、合計すると三十を遥かに越えたと言う。

作者：ｂａｒｏｎ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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