アイスエルフ救出作戦~一人の助け

作者:幾夜緋琉

 大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
 議題は、当然、ケルベロスへの対策である。

『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
 このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
 と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
 ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
 と念を押し、通信を切る。
 この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスに早速。
「先日の大阪都市圏防衛戦、大成功に終わり、多くのアイスエルフを救出する事に成功したッス! 本当、ケルベロスの皆さん、お疲れ様ッス!!」
「でも、ここで救出出来たのは、女性のアイスエルフだけだったんッス。それで、エインヘリアルの第四王女レリは、男性を信用していない様で、アイスエルフの男性はコギトエルゴスム化したまま、拠点であるグランドロンの宝物庫に閉じ込められている様なんッス」
「救出したアイスエルフからは、彼女達の恋人や家族、友人である男性アイスエルフの救出を行って欲しい、という嘆願があったんッスよ!」
「そして、この作戦の為に、有志のアイスエルフ達がケルベロスの元から脱走したと見せかけて大阪城へと戻り、偽の情報で敵を混乱させてくれる様ッス」
「第四王女のレリは偽情報を疑わずに信じて行動する可能性が高く、アイスエルフ救出の潜入作戦を行う事になったッス。潜入作戦は、少数精鋭での隠密作戦になるッスけど、これを成功させる為には、アイスエルフの欺瞞情報通り、大阪城に向けてケルベロスの皆さんが襲撃を駆ける陽動作戦が不可欠ッス!」
「そこでケルベロスの皆さんには、アイスエルフ救出の為の陽動作戦を担当して貰いたいんッスよ!」
 更にダンテは。
「今回、ケルベロスの皆さんが向かう所には、第四王女レリの配下の白百合騎士団のエインヘリアル達と、大阪干渉地域で活動していた『竹の攻性植物』の混成部隊が居る様ッス」
「今回の本務は陽動作戦ッスから、ケルベロスの皆さんには陽動作戦である為に、迎撃に出向いてきた第四王女の騎士団と戦闘しつつ、頃合いを見て撤退すれば、作戦は成功になる筈ッス」
「でも、攻撃された彼らは恐らく仲間達が来るのを待つために、護りを固めつつ、防戦を続ける戦い方をする様ッス。だから、ケルベロスの皆さんは敵を見つけて攻撃し、増援が来る前に撤退というのを繰り返しつつ、敵の目を惹きつける事になるッスよ」
「ちなみに……白百合騎士団と竹の攻性植物以外の敵との遭遇をする可能性も当然ながらあるッス。第四王女や精鋭の騎士達と遭遇した場合、直ぐに撤退して戦闘を避けても良いとは思うッスけど、複数のチームで連携する事が出来れば、有力敵の撃破も可能かもしれないッスよ!」
 そして、最後にダンテが。
「このチャンスを活かす事が出来れば、きっとアイスエルフの皆さんを仲間にする事が出来る筈ッス。どうか、宜しく頼むッスよ!!」
 と、拳を強く振り上げるのであった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
鏡月・空(たゆたう朧月・e04902)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)

■リプレイ

●敵の目を欺きて
 アイスエルフの男達を救出して欲しい、という女性アイスエルフ達の懇願。
 その懇願を受けたケルベロス達は、大阪城近くへと集結。
 その目的は……迎撃に出向く第四王女レリ配下の白百合騎士団や、大阪緩衝地域で活動していた『竹の攻性植物』の混成部隊を陽動し、仲間達の活動を補助すること。
「ーム。アイスエルフ……か」
 と、こめかみを叩きながら、眼を閉じ考えるバーヴェン・ルース(復讐者・e00819)。
 ……仲間達を思い、助けたいという彼女達の願いは美しい……が、これが中々難しい戦いである事は間違い無い。
 それを理解してか、鏡月・空(たゆたう朧月・e04902)は。
「そうだね……やれやれ。今回の作戦は少々ハードになりそうです」
 と肩を竦めつつも、笑う。
 そして、ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)はその手の『太陽の剣【獅子王】』をぐっと握りしめながら。
「例えハードな作戦であろうとも、怯む訳にはいきません! そう、力無い人々を護るのは、私達ケルベロスの役目ですから!」
 と声を上げる。
 更に、鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)も。
「そうですね。まぁ流石に多くを一気に相手にするのは大変ですから、周りと連携し、しっかり連絡を取り合いつつ、ヒットアンドアウェイ……といった感じですかね?」
 と言うと、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)も。
「ええ。最初は余り敵の居ない所に分散して仕掛けましょう。そして多く集まってきたら、一端その場を退避した後に別の所に仕掛ける、と……」
 考えてきた作戦を弾き出す……と、そうしている間に、仲間たちが戦場に向けて、駆けていく。
「兎に角これは、アイスエルフを救出するための大事な作戦だ。気を引き締めて行こうぜ!!」
 と相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が拳を突き上げると、泰地も。
「ああ……我等は陽動部隊……役目を果たすとしよう」
 と仲間達を促しつつ、剣戟の音が響く戦闘区域へ足を踏み入れるのであった。

●欺きし目と
 そして、ケルベロス達が足を踏み入れた戦闘区域。
 先に突撃していた仲間達が、様々な所で戦闘を仕掛け……白百合騎士団や、竹の攻性植物達と対峙している。
 そして彼らも……敵陣の一つに狙いを定め、一気に間合いを詰めていく。
『……!』
 そこに居たのは、白百合騎士団8体と、竹の攻性植物4体。
 当然、他の所でも戦闘を仕掛けられている故、彼らは直ぐに臨戦態勢へと入り、ケルベロス達に攻撃を始める。
 しかしその攻撃を、バーヴェンが壁となり、立ち塞がる。
「っ……!」
 唇を噛みしめながらバーヴェンが、白百合騎士団の一閃を受け止める。
 そして、バーヴェンの後方から隠密気流を身に纏い、橘花が気付かれないよう、敵陣へ回り込みながら接近。
「術式弾装填。目標基部の拘束を試みます」
 と『特殊拘束術式付与型徹甲弾』を白百合騎士団に叩き込み、足止め効果を付与。
 そして、バーヴェンが。
「さぁ、敵を惹きつける為の陽動だ。派手に行くぞ」
 と、仲間達に短く告げて、早速。
「喰らえ……!」
 と、『日龍陽光斬』の一閃で竹の攻性植物を叩っ切る。
 早速一体が潰れ、傍らの白百合騎士団が少し驚いた様な仕草を見せる……が、目前のケルベロス達を倒す為に、攻撃の手を緩める事は無い。
 そんな彼女らの攻撃を、素早く空が視界内を動き回り、出来る限り回避。
 流石に全ての攻撃を躱しきることは出来ず、数撃ヒット。
 しかし、それを直ぐに察知した悠乃が、マインドシールドで回復を行い、傷を最小限に封じ込める。
 そして、空の死天剣戟陣と、ロベリアの組み付き、更に泰地が。
「旋風斬鉄脚!」
 と、グラビティの力を纏い、高速かつ強靱な回し蹴りの『旋風斬鉄脚』で、更に周りの竹の攻性植物を続けざまに蹴撃し、倒す。
 そして二刻目になり、白百合騎士団と竹の攻性植物は、合わせて10体程で、一気阿世に攻撃。
 怒濤の如きそれら攻撃を、バーヴェンと空、そしてロベリアの三人が壁となり、他の仲間達に被害が及ばぬ様に対処。
 勿論、敵陣の攻撃をまともに受ければ、早々に倒れかねない故、橘花が三人とは別の方向から攻撃を行い、その注意を多方面に分散させる。
 そして……敵陣の攻撃が一巡した直後に、悠乃がキュアウインドで仲間達を回復し、倒れぬ様に注意しながら、回復。
 そして、バーヴェンが雷刃突で斬りかかり、ロベリアのフォートレスキャノン、そして空が桜花剣舞を、先ずは竹の攻性植物だけに狙いを定める。
 そして、四体居た竹の攻性植物達が全て倒れ、残るは8体の白百合騎士団達。
 流石に竹の攻性植物達が早々に倒されてしまい、目前のケルベロス達が強敵である事を認識した模様。
 そんな、圧倒されている彼女達に対し、泰地が突っ込んで行き、グラビティシェイキングを放ち、列にダメージを与える。
 倒れる事は無いが、少々のダメージに苦悶の表情。
 しかしながら、決して攻撃の手を緩める事はしない……いや、出来ない。
 ケルベロス達が陽動作戦として、白百合騎士団を倒す事が目的であるのに対し、白百合騎士団達にとっては、仕掛けてきたケルベロス達を倒すのが目的な訳で。
 ……いつかは、増援が来てくれる……そんな期待を胸に、彼女達は攻撃し続ける。
 そして、ケルベロス達が仕掛けてから、6分程が経過。
 残る白百合騎士団は、2人程で、かなりの苦境に陥っている。
『っ……これまで、か……』
 と、半ば諦めとも取れる言葉を一瞬呟く。
 ……が。
『諦めるな!!』
 と、後方から凜々しい声が響き渡る。
『……来てくれたか……!!』
 彼女達の絶望の表情が、僅かながらも明るくなった様に思える。
 増援として現れたのは、白百合騎士団が6人、恐らく、一小隊が駆けつけてきた、といった所だろう。
「加勢ですか……皆さん、まだ行けそうですか?」
 と橘花が仲間達の状態を確認。
「まだ……大丈夫です!」
「ーム……そうだな。さぁ、お前達。この先は通さんぞ」
 とロベリアが力強く頷き、更にバーヴェンが白百合騎士団達に戦線布告。
 無論、加勢と合流した彼女達も。
『フフ。その様な事を言ってられるのも、今の内だけだぞ!』
 と、威勢良く声を上げる。
 そして、白百合騎士団はそれぞれが、得意な攻撃で攻撃。
 それに対し、ケルベロス達はディフェンダー陣が仲間達をカバーリング。
 減った体力を悠乃が軸になり回復し、残る者達が同じ敵をターゲットにして、一体、又一体……と倒して行く。
 ……しかし、第二陣の加勢に続く、第三陣はその五分後という短時間で出現。
 流石に白百合騎士団が15人ともなると、ケルベロス六人で対峙するには中々厳しい状況。
「一端、退きましょう……このまま戦い続ければ、更なる増援が来る可能性が高そうです」
 当然、戦場には大きな音が響き渡る……このまま戦い続けても、物量に押しきられるのは間違いない。
「了解」
 と短く頷き、敵の攻撃が一巡したタイミングで……一斉に其の場から退避。
『っ……待て!!』
 と言うが、別方向から綺華の『特殊拘束術式付与型徹甲弾』が撃ち抜かれ、敵陣の先頭に立つ者の足止めを行い、後ろから来る者諸共足止め。
 その隙を突いて、一端戦場を離脱するのであった。

 そして、一端戦陣を退き、数分後。
「ーム……さて、今度はあちらに仕掛けるとしよう」
 と、バーヴェンが別の方向に、10人程の白百合騎士団の一個小隊を発見。
 その近くには、追撃の影も見当たらず、単独行動しているのか……それとも、他の仲間達が多少討ち倒した残りなのかは分からない。
 ただ、単独行動している今こそチャンスなのは間違いない。
「それじゃ、惹きつけますよ」
 と、橘花が遠くから再度術式弾を撃つ。
『居たわよ!』
 と、彼女達がっそれに気づき、徒党を組んで仕掛けてくる。
 逃げを装いながら自分の方に引き寄せ……その間に、残る仲間達は身を隠し、挟撃の為に待ち構える。
 そして……自分達の目前を通り過ぎ、橘花に攻撃を仕掛けようとしたその瞬間。
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……!」
 全体重を乗せて、バーヴェンが背後からの『日輪陽光斬』の一閃。
 完全に不意を突かれた白百合騎士団の一体は、その一閃に崩れ墜ちる。
『何っ……!』
 と踵を返すも、その間にロベリア、空、泰地らが次々と仕掛けていき……倒れはしないものの、深手を負う。
 ……しかし、三刻ほどで流石に彼女らも体勢を整え、反撃体勢へとシフト。
 ただ、不意打ちを討った事による動揺は拭いきれず……10人からハイペースで倒れていく。
 そして、不意打ちから8分ほどが経過。
 残り1体まで減らすも、遠くで気付いた白百合騎士団が発見し、彼女の加勢に回る。
 その際に、周囲へと叫び声を上げ、更なる加勢を呼び込む。
「流石に、更なる加勢が来ると厳しいですね……取りあえず、倒せる所まで倒して、撤退しましょう。そしてまた、次の一個小隊を見つけましょう」
 と悠乃が仲間達に告げる。
 今回の作戦は、あくまでも陽動……全てを倒し切る事が目的ではない。
 加勢の加わった第二陣を牽制しつつ……第三陣が視界に入ると同時に、再びケルベロス達は其の場を一気に離脱。
 そんなヒットアンドアウェイの陽動作戦を繰り返しながら、潜入する仲間達がアイスエルフ達を救い出す時を待つのであった。

●風を纏いて
 そして……三度目の陽動中。
 ……遠くの大阪城の方から、更なる増援の影。
「……又、増援か?」
 と空が唇を噛みしめるが……。
「いや……違う様です。あれは……アイスエルフ……」
 悠乃が小声で、仲間達に伝える。
 恐らく、増援を偽装する形で……大阪城からの脱出を試みているのだろう……そうとなれば。
「取りあえず、もう暫し相手したところで撤退とするか?」
「ーム。そうだな……」
 泰地に頷き、バーヴェンはその手の鉄塊剣を力で大きく振り回す。
 その剣戟に、次々と竹の攻性植物が一刀両断にされていく。
 そして、ロベリア、泰地の二人がファナティックレインボウと、セイクリッドダークネスを続けざまに叩き込む事で、更なるダメージを付与。
 そして、空がグラインドファイアで炎を燃え上がらせる。
 その燃え上がる炎の中、泰地がバイオガスを発動させ……更なる煙で周囲を煙に巻く。
「今です!」
 と、悠乃が仲間達を促し、煙に紛れて敵の前から即座に離脱。
 ……そして、煙の晴れる頃には、その姿は無い。
「どうやら、陽動作戦は成功したかな?」
 と泰地にバーヴェンはこめかみを叩きつつ。
「ーム……そうだな。まぁ、この後、レリらがどういった行動に出てくるかは分からんが……」
「だな。まぁ……何にせよ、一端仲間たちの元に戻ろうぜ」
 泰地に皆も頷き……そしてケルベロス達は、大阪城を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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