アイスエルフ救出作戦~白百合を誑かす

作者:天枷由良

 大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
 議題は、当然、ケルベロスへの対策である。

『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
 このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
 と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
 ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
 と念を押し、通信を切る。
 この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。

●ヘリポートにて
 大阪都市圏防衛戦は無事成功し、多数のアイスエルフを此方に連れ帰ることが出来た。
「けれど、それは女性ばかり。もちろんアイスエルフが男性の存在しない種族なんてわけではなく、エインヘリアル第四王女レリの主義・方針によって、男性は男性であるというだけで一切信用されず、コギトエルゴスムのまま幽閉状態に置かれているらしいわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は語り、手帳を一頁捲る。
「そのコギトエルゴスムの救出嘆願と共に、アイスエルフの皆さんからは救出作戦に協力する意志があると伺っています。具体的には――私たちの元から脱走したと見せかけて大阪城に戻り、ケルベロスが追ってくると偽の情報を流すことで敵軍の混乱を図る……と、そういう話のようだけれど」
 ケルベロスの魔手から逃れたという体のアイスエルフたちに縋りつかれれば、こと女性の危機に対して愚直すぎるレリ王女は、何を疑いもせずに行動を起こすだろう。
 そうしてまんまと騙され、出撃してきたエインヘリアルの一群を陽動部隊が引き付ける一方で、少数のケルベロス部隊をコギトエルゴスム確保へと向かわせる。
 それが次なる戦い、アイスエルフ救出作戦の概要であり――。
「皆には、陽動作戦側を担当してもらうことになったわ」
 ミィルは言葉を区切ると、また頁を捲る。

 陽動作戦の主な相手となるのは、第四王女麾下の白百合騎士団、及び大阪城周辺の“緩衝地帯”で活動していた竹の攻性植物による混成部隊である。
「これまでの戦いで多くの犠牲者を出している白百合騎士団は、特に戦意を漲らせて迎撃に出てくるでしょう。此方も陽動だと悟られるわけにはいかないから全力で戦い、頃合いを見て撤収する。作戦内容を簡潔に述べてしまえば、ただそれだけのことなのだけれど」
 偽情報、つまり“逃げたアイスエルフを追って大阪城まで攻め込もうとしている”という話の信憑性を高めようとすれば、それ相応の戦い方、動き方というものもあるだろう。
 その方策次第では、とりわけ優れた騎士である『沸血のギアツィンス』や『絶影のラリグラス』と、或いは『第四王女レリ』そのものと遭遇する可能性もある。
 これを好機と捉えれば、幾つかの部隊で協力して、有力な敵個体の撃破を狙うことも出来なくはない。――当然、多くを望めば壁は高くなるだろうが。
「ともあれ、どのように動き、戦うのかはケルベロスの皆に一任するところよ。これが陽動作戦であるということを念頭に置きつつ、皆で作戦を立ててちょうだい」
 期待を込めた眼差しでそう言って、ミィルは説明を終えた。


参加者
佐竹・勇華(勇気を心に想いを拳に・e00771)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)

■リプレイ


 日常と非日常、平穏と不穏とを隔てる、くすんだ町並み。
 在るべき者を失って幾ばくか。確然たる荒廃を目の当たりにしながら進むうちに、佐竹・勇華(勇気を心に想いを拳に・e00771)は褪せた風景を見回して、ややぎこちない口調で呟く。
「うーん、どこまで行ったのかなぁ……」
「なかなか見つかりませんね」
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)が同調しつつ、双眼鏡を覗き込む。
「もしかして、もう大阪城の中まで入っちゃったのかな?」
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)も後に続き、人形を抱えたままでくるりと回った。
 その踊るような足捌きの最中、見えた景色にはやはり何者の姿も在らず。
「……厄介な場所に逃げ込まれたものです。アイスエルフ達に逃走を赦したのは痛恨の極みですね」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が四方に響く程度の声音で言えば、アンセルムも落胆を訴えるかの如く溜息を一つ溢した。
 そんな彼と視線を交えて微かに頷いた後、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)は手元の紙片に目を落とす。
 それが示すのは過去だが、まだ現在とも繋がる。自らの居所を確かめ、行く先を判断するには十分有用であって、ケルベロスたちは細い横道やら袋小路などに注意を払いながら、異形に侵された城へと向かっていく。


 けれども、彼方に彼らの目的は無い。
 課せられた使命は陽動。大阪城を飛び出した敵の足止め。
 ならば密やかすぎるのもよろしくない。八人とテレビウム一匹で構成される部隊は、奇襲を受けぬようにと警戒こそすれど、己の存在を秘匿するような術法や工夫は用いず歩みを進める。
 故に不意を突かれることはなく、そして相手の裏をかくこともなく。
 傍目には愚直な侵攻軍と、それを迎え撃とうとする守備隊の戦いは、まるで古の合戦の如く、得物を手にした両者がそれなりに広い通りで相対するところから始まった。

 無骨な――というか、骨そのものの名残を留める大剣を携えたレスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)が、一歩前に出ながら敵軍へと目を走らせる。
 白百合騎士団が四人。それから暫く振りに見る竹の兵隊が七体。はち切れんばかりの肉体を持つ爆弾兵こそ見当たらないが、黒い外套を纏った将官に、槍兵と銃兵が三体ずつ。規律正しく隊伍を組んだまま佇んでいる。
 その光景は何とも不気味だった。沈黙を守る竹の兵隊と、忌むべき男、それもケルベロスを前に怒りを滾らせる白百合の騎士との間に伺える温度差が、尚の事そう感じさせるのかもしれない。
「この先に奴らを匿ってるんだろう。通して貰うぞ」
「……下衆が」
 あからさまな憎悪と拒絶が込められた返答に、レスターは口元を歪ませる。
 さぞ悪人面に映っているだろうが、それならそれで構わないと彼は考えていた。正義の味方を気取るよりかは遥かに気楽で簡単で、おまけに白百合の騎士たちから冷静さをも奪えるだろう。良いこと尽くめだ。
「その感じからすると、やっぱり大阪城に行ってるんだな?」
 さらに続けてラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が声を荒らげ、左右に振っていた竜の尾を勢いよく地面へと叩きつける。
「なら、オレ達もそっちに用がある! 全力で押し通るぜ!」
「……行かせるものか!」
「幾人もの同胞を滅ぼし、アイスエルフ達まで傷つけたその報い! 今此処で受けさせてくれる!」
 煽られては堪える術もなく、白百合の騎士たちは一斉に槍斧を構えた。

 その刃が振り下ろされるより先に、銃声が轟く。
 将官の指揮の下、攻撃態勢を整えた銃兵たちからの一斉射撃。乱れ飛ぶ弾丸の意図はケルベロスの前衛に対する牽制であり、レスターが躊躇いなく盾となって大剣で受け流しつつ、黒鎖を振るい守護の陣を敷く。
 それに加えてラルバが紙兵を撒き、堅実に守りを固めていく一方で。
 レスターと同じ盾役を任せられた絶奈のテレビウムは勢いよく凶器を振りかざし――それをするりと追い抜く形で最前に躍り出たカッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)が、漆黒の大鎌の一薙ぎで銃撃に抗った。
 数多の弾丸が役目を果たせぬままに転がり、そして幾つかが肉を抉る。しかし脚に出来た小さな傷と流れる血と、じくじくとした痛みが恭志郎の散りばめるオウガ粒子によって薄れていくのと、その何もかもを素知らぬ顔でやり過ごしながら平然と立って、カッツェは刃を撫でながら囁く。
「まーた雑魚ばっかり。しかも、あっちは全然美味しそうじゃないし」
 ちらりと蔑みを向けられた事に、竹の兵隊は気付いただろうか。
 言葉も表情もない彼らからはまるで窺えない。その無反応すぎる様は退屈で仕方ない。
 全く、請われなければ誰が相手にするものか。
「あれに比べたらアイスエルフは美味しそうだったよねぇ、黒猫」
「――ッ!」
 いくら男でなくとも、看過できる発言ではなかった。
 恐ろしげな欲望を垣間見せたカッツェに、白百合の騎士が一人、息巻いて斬りかかる。
 ……だが、その太刀筋はあまりにも正直すぎた。予測の範疇を全く超えない斬撃は脅しにもならず、大鎌の持ち主は半身に構え直すだけで槍斧を躱す。
 そればかりか獲物を捉えられなかった刃は虚しく大地を耕し、血気に逸る騎士は大きく体勢を崩した。
「しまっ――」
「白百合騎士団、だっけ? 自分から味見させに来てくれるなんて」
 ちょっぴり嬉しい。では遠慮なく。
 銃撃を凌ぐために使われた大鎌が本来の役割へと転じて、降魔の力を纏いつつ閃いた。

 しかし。
 それもまた本懐を遂げるには至らず、カッツェは苛立ちを露わに両腕へと力を込める。
 ぐっと突き出された大鎌から放り捨てられるようにして離れていったのは、竹の槍兵。敵軍の盾役を務める彼らは白百合の騎士を凶刃から庇った後、竹の将官から指示と援護射撃を受けつつ、反撃の構えを見せながら退いていく。
 まずはあれを刈り取らなければ、思うような攻勢は掛けられないだろう。
「そうと分かれば……!」
「纏めて叩けると楽なんだけれど」
 気合を入れて剣を振るい、山羊座の闘気を打ち放った勇華に続き、アンセルムは銀のオウガメタルの力を借りて闇の塊が如き恒星を作り出し、その熱量を余すところなく敵へと向ける。
 ともすれば血気盛んな白百合の騎士まで巻き込もうとするそれに、物言わぬ竹はまた粛々と身を擲って壁となった。
 敵ながら褒めたくなる生真面目さだ。
 もっとも、本当に称賛を贈る者など居るはずもなく。代わりに捧げられるのは、和希が構えた白黒対成す長銃からの制圧射撃。
 口を真一文字に結んだまま、ひたすらに浴びせられる銃撃は漆黒の太陽と相まって、竹槍兵の自由を容赦なく叩き潰していく。
 立ち尽くす竹筒の束など、まさしく的以外の何物でもない。また一段と気合を漲らせながら突撃していったテレビウムが凶器で殴打した一体の槍兵に狙いを定めて、絶奈が砲撃形態の轟竜砲から強烈な破壊の力を撃ち出せば、それは跡形もなく、一瞬で吹き飛んだ。


 たかが一枚、されど一枚。
 失えば、残った者に掛かる負担は当然増える。数度の応酬で残る槍兵も一気に押し切ると、ケルベロスたちは後衛から然程脅威でもない射撃を続ける竹の残党を捨て置き、白百合の騎士へと矛先を向ける。
「ケルベロスめ……ッ!」
 盾役を真っ先に葬ろうとする攻撃の煽りを受けて、思うに任せぬ戦いを強いられた騎士が一人、悔しげに呟く。
「怯むな! 下賤な男どもの、ケルベロスの好きにさせてはならぬ!」
「我らの双肩にはアイスエルフ達の尊厳も掛かっているのだぞ!」
 そう声高に叫びながら、後方からの援護に努めていた二人が、同胞を案じて闘気を分け与えた。
 その様だけを切り取ってみると、彼女らにも彼女らの、一概に悪と呼んで退けられない信念があると実感せざるを得ない。
(「……それが、せめてもう少し違う方に向けられていたなら」)
 恭志郎の脳裏に、そんな考えも僅かばかり過る。
 ほんの一瞬の事だ。彼は囚われの仲間を救うためとケルベロスに命を預け、再び大阪城へと戻ったアイスエルフたちを忘れたわけではない。
 ましてや自軍を支える只一人の癒し手として、その慌ただしさは自身の役割以外を考える余裕など滅多に与えてはくれない。勇敢な(或いは無謀な)戦いぶりを披露する竜の少女を見据えた恭志郎は、彼女に向けて花の装飾が施された指輪を翳し、治癒と守護を兼ねる光の盾を生み出す。
 しかし当のカッツェはと言えば、ちらりと目配せするだけで。
「お前らじゃ相手にならないよ。王女様は何処行ったの? まさか、びびっちゃった?」
 などと頻りに騎士を煽り立て、尚も攻撃を引きつけようとするばかり。
 ああ、常日頃癒し手を務めるようなケルベロスは盾役の背を――ともすれば、四方八方から攻撃されても呻き声一つ漏らさない自分を、こんな想いで支えているのだろうか。
 少しばかり複雑な感情と感謝の念を抱きつつ、恭志郎は先人の振る舞いを思い起こしながら、さらなる治癒を施す機会を冷静に見定める。

 その最中にも、カッツェは挑発を繰り返し。
 それが効果的だと感じたのか愉快に見えたのか。アンセルムまでもが軽やかな足取りで騎士の視界を横切りつつ、口を挟む。
「怖い怖ーい男のケルベロスが、アイスエルフを狙ってあっちからもこっちからも攻めてきてるからね。王女様だって怖気づいちゃうのも、無理ないんじゃないかな?」
「おのれ……レリ様まで愚弄するか!」
 崇高な理想そのものと敬仰するからこそ、哀しいかな、感情は抑えきれない。
 激高して槍斧を振りかざす騎士に、アンセルムは伸ばした如意棒を向けると――あろうことか手を離し、その片端を蹴り飛ばす。
 その突飛な戦法には、彼の戦いぶりを最もよく知る和希でさえ、少々目を奪われた。
 あれは棒術と呼ぶべきか足技と呼ぶべきか。悩ましい。如意棒で突いたのは確かだが。
 ともあれ、間違いなく騎士の教本には記されていない戦い方であり、間合いを計り損ねた白百合の騎士は喉元に痛烈な一撃を受け、苦悶するあまり武器さえも取り落とす。
 そんな瞬間が、ケルベロスに見逃されるはずもない。
「はああああっ!」
 気合の叫びを轟かせながら懐に飛び込んだ勇華が、鋭くもしなやかな回し蹴りを浴びせかける。
 その一撃をまともに喰らい、もんどり打った騎士は和希からも狙われて。
「……ッ!」
 瞳に揺らぐ危うい輝きを糧とするようにして放たれた、長銃からの強烈な光。幾つもの異形の魔法陣を過ぎて拡がり、加速し、討つべき敵に向かって一斉に集まった光に呑まれ、武具の僅かな欠片すらも残さずに消え失せる。
 また一人の散り様を見せつけられて、残る騎士たちはいよいよ言葉さえ無くした。
 ケルベロスに対する戦意だけは膨れ上がる一方だったが――竹軍団には窺えない、その揺らぎこそが皮肉にも彼女たちを掻き乱し、さらに追い込んでいく。


 そして、戦場にはひとまずの区切りが訪れた。
 レスターの右腕から滔々と溢る銀の蛍火で捕らえられた最後の騎士に向けて、絶えず浮かべていた微笑みを狂気で上書きした絶奈が、双眸を大きく開いたままケルベロスとして幾度も唱えた言葉を響かせる。
「今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝――」
 紡がれた音は何重もの陣を作り、槍に似た輝きを喚び、何某かを与えてくれそうな神々しさとは裏腹に、騎士から全てを奪って消える。
 それでも竹の残党は何も変わらず、将官に従って動き続けたが――盾とすべき同胞も、剣となる騎士らも失った僅か四体ばかりの攻性植物たちは唯一の武器である攻撃の正確性すらもケルベロスに摘み取られて、着実に葬られていく。
「……あれ? これで終わり?」
 アイスエルフ救出の為と漲らせてきた気合を十二分に残したまま、ふと訪れた空白をラルバが訝しむ。
 戦端を開いて、まだ10分に満たないくらいか。城の方に変化は窺えず、広い戦場の方々からは微かに叫びや剣戟の音が届いてくるのだが――。

「っ、間に合わなかったか!?」
 程なく聞こえた声に振り向けば、そこには新たな白百合の騎士が六人。
 ついでに竹の銃兵が――僅か二体。
 敵の戦力を完全に把握しているわけではないが、如何にも準備万端という様子だった先程の敵群と比べて明らかにバランスが悪いというか、銃兵はどうにも偶然合流してしまった感が否めない。
(「……それだけ混乱している、ということでしょうか」)
(「だろうな」)
 絶奈の仮定に、レスターが小さく頷く。
 此度の作戦は殆どの部隊が大将首などを無理に狙わず、陽動に徹するべくエインヘリアルの防衛線へとあちこちから襲いかかっているはずだった。
 その勢いに対処しきれず、後手後手に回った結果が遅れて登場した援軍の彼女らなのだろう。
 であれば、これ以上に好ましい事もない。
(「このまま胸を張って、私たちの仕事を続けましょう」)
 また微笑みの下から狂気の片鱗を覗かせつつ、絶奈は改めて決意する。
 ただひたすらに無名の騎士や竹を相手取るだけだとしても、此処での奮闘が最大級の成果に、即ちアイスエルフの救出に繋がればよい。
「……いや、いっそこの侭、本丸まで陥しちまうのも悪くねぇと思うが?」
「そうだな! 全力でそこまで行けば、アイスエルフだって捕まえられるもんな!」
 不敵なレスターの呟きに意気揚々と返して、ラルバが余りある力を込めた両手で宙を裂く。
 解き放たれた雷撃は程なく豹の姿を成すと、騎士の合間を縦横無尽に駆け抜けていく。
「くそっ! かかれ、かかれーっ!」
 部隊を預かるらしき――といっても、他の者と変わり映えしない一人の合図を機に、騎士たちが反撃に転じた。
「どれだけ来ようと負けるものか!」
「黒猫、もし食べ残したら反省だから!」
 勇華が気勢を上げ、カッツェが相変わらずの奔放っぷりを覗かせて、ケルベロスたちも次々に応戦する。

 そうして再び乱戦となった場に、五分ほどの時が流れた頃。
 半減した戦力と同じだけの騎士が駆けつけたのを見て、さすがに八人も息を呑み――。
 さらに僅かな間を置いて、これまでに倒した分を纏めたほどの大軍が迫るのを認めて、さすがに後退った。
(「……これ以上、無理はしない方がいいと思います」)
 絞り出した闘気の渦で遠間の騎士を穿ち、勇華はぐっと陣形を縮めた仲間へと囁く。
 気力は十分だが――やはり戦い続けたことで、盾役二人の負傷は無視できない段階にある。ここから更に二十以上もの敵を、一度に相手取るのは荷が重い。
 陽動という役目も十分果たしたはず。さすがに異論はなく、八人は全員が自力で動けるうちに撤退へと舵を切る。
 その始まりに和希がこれでもかと長銃を連射して、崩れた建物が巻き上げる埃の向こうへと消えた城から、仲間とアイスエルフが無事に戻ることを祈りつつ。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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