アイスエルフ救出作戦~貴姫に捧ぐ反撃の狼煙

作者:秋月きり

 大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
 議題は、当然、ケルベロスへの対策である。

『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
 このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
 と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
 ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
 と念を押し、通信を切る。
 この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。

「大阪都市圏防衛戦、お疲れ様。みんなの活躍で、防衛戦そのものは、大成功よ」
 よって多くのアイスエルフを救出する事に成功した。リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の喜色に富んだ声はしかし、次の瞬間、静かな物へと変貌する。作戦は成功に終わった。だが、それが終わりではないと、彼女の声色が告げていた。
「そう。救出出来たのは女性のアイスエルフだけ。当然だけど、アイスエルフに男性体が存在していない、と言うわけではないわ」
 それは、アイスエルフを先導していたエインヘリアルの第四王女レリの思想に寄る物だった。
 男性を信用していない彼女は、彼らアイスエルフの男性達をコギトエルゴスム化したまま、拠点であるグランドロンの宝物庫に閉じ込められているようなのだ。
「救出したアイスエルフ達から、恋人や家族、友人の救出を行って欲しいという嘆願があったの。……いや、恋人と聞いてがっかりする気持ちは分かるけど、それ以外の子もいるからね」
 安心して欲しい、と胸を叩く。何がと言わないのは彼女らしかった。
 また、この作戦の為に、有志のアイスエルフ達が、ケルベロスの元から脱走したと見せかけて大阪城に戻り、偽情報で敵を混乱させるそうだ。
「第四王女レリの人柄と言うか性格はみんな、承知していると思う。おそらく彼女は、偽情報を疑わずに信じて行動するでしょうね」
 それを利用し、アイスエルフ救出の潜入作戦を行う事となったのだ。
 潜入作戦そのものは少数精鋭での隠密作戦となるが、これを成功させる為には、アイスエルフの偽情報通りに、大阪城に向けてケルベロスが襲撃をかける陽動作戦が不可欠となる。
「つまり、みんなには、アイスエルフ救出の為の陽動作戦を担当して貰いたいの」
 偽情報だけではなく、本格的にケルベロス達が暴れる事で、潜入作戦の成功率を上げようと言うのだ。
「みんなの相手は第四王女レリ、そしてその配下の白百合騎士団のエインヘリアル。それと、大阪干渉地域で活動してた『竹の攻性植物』。つまり、それらの混成部隊になるわ」
 陽動作戦の為、迎撃に出向いてきた混成部隊と戦闘しつつ、頃合いを見て撤退すれば作戦そのものは成功となる。
「敵は偽情報を真に受けているから、襲撃に備える形、いわゆる防戦態勢になるわね。よって、基本は攻撃を仕掛けて増援が来る前に撤退、その後、防衛体制が整っていない別の部隊を発見して攻撃。その繰り返しを行い、敵の目を引きつける事になると思うわ」
 また、もしも第四王女や精鋭の騎士達と遭遇した場合、撤退して戦闘を避けると言う選択肢もある。
「逆を言えば、複数のチームで連携することが出来れば、彼女たちを釣り出して撃破する事も可能ね」
 倒すと言う強い意志を抱く事。そして、その為の策を練る事。無論、それには『彼女たちの連携を如何に崩すか』『増援を阻止するか』も含まれる。
 生半可な手段では時間稼ぎしか出来ない可能性もあるが、それでも、それだけの力をケルベロス達は持っているはず。
「……と、私は信じたい」
 それが彼女の本心で、精一杯の声援である事を、皆は知っていた。
「多くの騎士をみんなに倒された第四王女レリ側の戦意は高い。それを利用すれば有利に戦えると思う。ただ、いくら陽動だと言っても陽動だと悟らせちゃ意味が無いわ。みんな本気で戦うと思うけど、それこそ――レリを倒すくらいの気概で戦う必要があると思うの」
 別に倒しちゃっても構わないけどね。
 ふふりと笑った彼女はそうして、いつもの言葉でケルベロス達を送り出す。
「それじゃいってらっしゃい。良き戦果の土産、楽しみにしているわ」


参加者
シフィル・アンダルシア(アンダーテイカー・e00351)
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
星宮・莉央(星追う夢飼・e01286)
瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)

■リプレイ

●陽動作戦
 大阪城上空、そして周辺は多くの騎士や攻性植物、そしてケルベロス達に占められていた。
 目に見える敵はやはり第四王女配下たる白百合騎士団。まばらに見える緑の影は攻性植物だろうか。
 ケルベロス達が大阪城を襲撃する、と言うアイスエルフ達の流した偽情報は、上手く機能した様だ。よくもまぁ、これだけの騎士と攻性植物達が居たものだと、逆に感嘆すら零してしまう。
「或いは敢えて乗ってきている、とも考えられるよね」
 楽観視せずに最大限の警戒を。ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)が静かに紡ぐ言葉には、その想いが如実に表れていた。
 無論、アイスエルフ達の事を信じているし、彼ら彼女らが自由となる為の手助けをしたい。だからこそ、彼らの襲撃計画には乗ったし、陽動部隊に志願した。
 だが、敵は海千山千の騎士の首魁――第四王女レリなのだ。聞き及ぶ性格は単純であっても、愚鈍ではない。ならば、楽に終わらせてくれる事はないだろう。
「……哀れだな」
 種族そのものがエインヘリアルから離反したヴァルキュリアであるが為か、それとも同性であるが故か。レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)は複雑な表情を浮かべる。
 憐憫の如く紡がれた言葉は、ここには居ないレリへ向けられていた。
「さて。我々の目的はアイスエルフ達の救出。その為の陽動作戦です。彼らの想いに応えるべく、全力を尽くしましょう」
「「応ッ!」」
 やや回りくどい八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)の言葉に、諾と応えたのはクリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)と源・那岐(疾風の舞姫・e01215)の両名。一拍置いて仮面のエルフ――シフィル・アンダルシア(アンダーテイカー・e00351)がこくりと頷く。
 アイスエルフの信頼に応える。アイスエルフ達を助ける。その想いはここに居る誰もが抱く物だった。
「俺はアイスエルフ達に約束したんだ。皆を守る騎士になるって。……その約束は反故に出来ない」
 照れの混じった表情で星宮・莉央(星追う夢飼・e01286)は頬を掻く。如何なる約束とは言え約束は約束。そして、彼の決意は今、述べた通りだった。彼らの騎士になると言う約束を反故にするつもりはない。
「その為にも、この作戦、成功させないとね」
 約束の為に。アイスエルフ達の為に。今、奮わなければいつ奮うのか。
 睨眼を白百合騎士団、そして攻性植物達に向け、瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)は自身の為すべき事を宣言する。
 それが戦いの幕開けだった。

 大阪城上空に拡がる騎士や攻性植物の数は、合わせて300はくだらないだろう。
(「ひょっとしたら、500にも届くかも知れないよね」)
 自分でも意外なほど冷静だな、と玲子は他人事の様に独白していた。
 敵の数だけ言うならば、ケルベロス達の2倍から4倍と言った処。無論、一体一体が個々のケルベロス達に劣ると言う事もあるまい。彼らは皆、侵略者デウスエクス――異界から進出した神そのものなのだから。
 だが――。
「拡がり過ぎですよ」
 那岐の電撃を纏う刺突は軽やかな言葉と共に繰り出され、騎士の一人を吹き飛ばす。不意打ちでも奸計でもない真正面からの一撃に、身構えた騎士と攻性植物は合わせて九体程。浮き足立たず、彼女達を敵と見定めたその慧眼は、褒めて然るべきだろう。
「それだけなら、ね」
 果たしてレリ王女に付き従う事を是とした彼女達が本当に見る目があるのか。それは判らないよね、と皮肉気に笑ったヒメは緋雨と緑麗で敵の一角――竹の攻性植物だった――を切り結ぶ。ギチギチと悲鳴じみた鳴き声を上げるそれを、更に強襲したのは光すら食い尽くす虚無球体だった。
「戦力不足もここに極まり、ですかね」
 指先に残る魔力の残滓を振り払いながら、紫々彦が溜め息と共に指摘する。
 上空を覆うほどの戦力は、確かに少ないとは言えない。だが、対する大阪城上空は高く、そして広かった。故に、襲撃を警戒するデウスエクス達は薄く広く拡がる陣形を取らざる得ない。対するケルベロス側は事情が異なる。襲撃のみを考えれば、防衛側に付き合って戦力を分散する必要がないからだ。
 そして――。
「おのれっ。神出鬼没な奴らめ!」
「敢えて是と応えよう。――穿て。穿て。穿て。咲いた花が散るように。満ちた月が欠けるように。――私の槍からは逃げられない」
 魔力によって強化されたクリムの身体から放たれた槍撃は舌打ちする白百合騎士団の一体を穿つ。
 小さな悲鳴は痛みに対してか。それとも攻撃を加えられたと言う恥辱に対してか。
(「襲撃の事実があれば、ゲリラ戦に徹する事も出来る」)
 馬鹿正直に白百合騎士団や攻性植物を相手取る必要もない。総力戦になれば勝利がどちらに転ぶかは判らないが、白百合騎士団が浮き足立ち、各個撃破が可能な今であれば、有利なのは襲撃側――ケルベロス達だ。
(「深追いはしない。ヒットアンドウエイを繰り返す。そして……」)
「常に、全力」
 玲子の抜き撃ちは、クリムの攻撃によって傷ついた一体に注がれる。クラッシャーの加護を以って放たれた銃弾に、防御固まりきらない彼女はなすすべもない。ぐらりと身体を揺らし、地面へと落ちていく。
 オートリボルバーから零れる硝煙を吹き消す彼女は、その後を追う事はしなかった。深追いをしないと決めたし、手応えはあった。今頃、この世ならざる異界の侵略者は、光の粒へと消えている頃合いだろう。
「我が名はレイリア・スカーレット。兵站と看取りを司る者。貴様達の命、貰い受ける」
 そして、黄金の光が踊る。前進を光の粒子で覆ったレイリアの吶喊は、ようやく構えを取り始めた敵陣へと突っ込み、深き傷を負わせていく。
 敵もまた騎士。戦いの最中の呼び掛けに応じる筈もないが、しかし、宣誓の一撃に応じぬ理由もない。――それが、白百合騎士団を名乗る彼女達の限界とは露も思わずに。
「もしも、敵を率いていたのがレリ王女ではなく、ハール王女であったら、か」
 ヘリオライダーの予知の通り、アイスエルフの男性達を戦力にと考えるハール王女と、それを否と応えたレリ王女。それが、作戦の明暗を分けていた。
 仲間に精神の盾を施しながら、莉央の心中は複雑な思いを描いていた。
「でも、現実はレリ王女が率い、そして、彼女は重大なミスを犯した」
 思いを引き継いだ呟きを紡ぐのは電光纏う刺突を行うシフィルだ。男性を嫌悪するあまり、戦力不足を招いてしまったレリ王女。その失態が故に、今、ケルベロス達は優位な状況へとなっている。
 ならば、これを利用しない謂われは無い。戦いは始まったばかりなのだ。
 彼女の独白に、7人は無意識に頷いていた。

●ヒットアンドウエイ
 空を覆う敵影は、玲子の推測通りであれば、500足らず。
 紫々彦が指摘した通り、如何に彼女達が作る陣形が拙くとも、その数の暴理――否、脅威が薄れたわけではない。
 故に、その時は来てしまう。
 来ない筈が、なかった。

 それが起きたのは戦いの開始からおおよそ、五分ほどの時間が経過した時だった。
「援軍だ!」
「援軍っ?!」
 零れたのは異口同音の言葉。それは白百合騎士団の一人と、莉央から紡がれていた。
 同時に強襲した二発の気咬弾はしかし、ケルベロス達に届く事はない。クリムの長槍と那岐の斬霊刀がそれらを切り払い、その進路を妨害したからだ。
 喜色混じりの白百合騎士団の歓声はしかし、次の瞬間。
「――あ、こらっ!」
 踵を返し、全力疾走したケルベロス達によって遙か遠くに置き去りにされてしまう。
 敵前逃亡。戦いを任務とする騎士達では想定出来ない行為を平然とやり遂げたケルベロス達は、乱立する敵陣の中を縫う様に駆け抜けていく。
「当然ながら、敵に付き合う義理はない」
「だね」
 レイリアの独白に、頷くのはヒメだ。ついでとばかりに冥府の冷気と幻惑の桜花が降り注ぎ、敵の一角を牽制する。怯んだ敵の脇を進む際も、疾風が如き速度を維持したまま。そこに迷いはなかった。
 此度、彼らの目的は殲滅ではない。陽動なのだ。故に、敵を倒し尽くす理由はない。
「少しだけ、残念」
 実に戦闘狂らしいシフィルの言葉だけを遺し、ケルベロス達は疾走する。

 そして、幾度と無くヒットアンドウエイを繰り返す脚が止まるのも、また、道理であった。
 目の前に立ち塞がる白百合騎士団と攻性植物の混成軍は、おおよそ十体ほど。度重なるケルベロス達の攻撃で被害を受けているのか、その風体はおおよそマトモとは言い難い。ヒールで体裁を整えているだけ、とも言えた。
(「ま、それは俺らも同じだけど」)
 悟られない様、莉央は嘆息する。
 最初の抗戦から優に三十分は超えただろうか。ヒットアンドウエイを重ねる彼らも、無傷とは言い難い。砕けた鎧や欠けた武器はヒールで修復し、目に見える怪我は塞いでいるものの、身体に刻まれた治癒不能ダメージは当然ながら、蓄積して行っている。
 そろそろ潮時、だとは思う。壊滅に追い込んだ集団はなくとも、倒したデウスエクスの数は10や20では効かない筈だ。作戦の成否を問うならば、成功と言って良いだろう。
「とは言え、『それじゃあさようなら』と言うわけに行かないだろうね」
「少なくとも、半分くらい、かな」
 好戦的な光が宿る集団を前に、紫々彦は嘆息し、シフィルは巨大銃を構える。
 例えばこのまま8人が思い思いの方向に逃げれば、半分くらいは逃げ果せるだろう。だが、逆を言えば半分の犠牲者を生む事になってしまう。それは意味がない。
「だから、ここで頑張るのは意味があるんだよ」
 それが重荷ではないと、ヒメはゆるりと言葉を紡ぐ。
 やる事は今までと同じ。今までと変わらない事が、今、やるべき事。即ち、敵を削り、梳り、突破する。
「さて、行こうか」
 静かな宣言と共に、那岐は清らかな風を纏う刀を構えた。

 戦闘の兆しに、気合いを入れるのは敵方も同じだった。
「行くぞ、皆、気合いを入れろ! このまま、おめおめとケルベロス達を逃すなど、レリ王女に顔向けが出来ると思うな! せめてケルベロスの首級を上げるのだ!」
「ここに来て精神論か……」
 凍てついた冬の空気を纏いながらの紫々彦の言葉は、むしろ憐憫に染まっていた。
 戦いの経過を考えれば致し方ないと思う。
 ヒットアンドウエイの戦術を取るのは自分達だけではない。陽動作戦を考えれば、おそらく多くの同胞達が同じ作戦を執っただろう。
 故に彼女達は有効な戦績を上げる事は出来ず、繰り返される攻撃に精神は疲弊している――おそらく、その心は折れてしまっている。
 ケルベロス達にも疲労が蓄積されていない訳ではない。だが、彼女達のそれはその比ではないだろう。レリ王女の側近としての自尊心、それが彼女達を動かす唯一の原動力に違いない。
「――その”記憶”は夢となる」
 ならばその心を再起不能まで、たたき折ってやろう。
 それがケルベロス達の未来にも、アイスエルフ達の未来にもつながる筈だと、莉央は小さな夢を唄う。瞬くそれは白くも黒くも染まり、エインヘリアル達を幻想に溺れさせていく。
「さて披露するのは我が戦舞が一つ……逃がしませんよ!!」
 那岐の舞踏は風の刃と共に。朱色の鎌鼬は敵を切り裂き、空に鮮血を舞わせた。
「まだだッ。負けられないのだ! 我々は!!」
 裂帛の気合いと共に繰り出される剣戟は、確かにその気概を強く感じさせた。切っ先は紺色の軍服を切り裂き、散る布きれが落葉、或いは羽根の様に思えた。
「そうだろうな」
 ゲシュタルトグレイブを振り回すクリムは律儀にその叫びに応える。
 その口調は普段の彼からは考えられないほどぞっとする鋭利な、それでいて穏やかな物だった。
「だけど、私達の背負っている物も重くてね」
「幾千、幾万の棘を以ちてその身に絶望を刻む……裂き乱れなさい」
 言葉を引き継ぐよう、無数の剣戟が舞った。
 剣舞の主の名はシフィル。切り裂き、突き刺し、エインヘリアルを穿つそれから発する血煙はまるで、こぼれ落ちる薔薇の花弁の様に拡がっていく。
「全術式解放、圧縮開始、銃弾形成。神から奪いし叡智、混沌と化して、神を撃て!」
 動きを止めた騎士団を銃弾が貫く。
 玲子の全魔力を圧縮して放たれた一撃は、エインヘリアルを吹き飛ばし、攻性植物を粉砕していく。
「――射抜く」
 突貫は彼女の専売特許ではない。そう宣言するかの様に繰り出されたヒメの双剣による刺突は紫色を纏い、敵を切り裂く。
 一刀、二刀、三刀。繰り返される無数の突技は剣を構えるエインヘリアルの武具を、そして肉体をも破壊していった。
「――貴様を、冥府へ送ってやろう」
 それは告解。それは葬送。それは終焉。
 レイリアの翼は氷と化し、やがて氷槍の域に達する。投擲された槍は白百合騎士団を、そして、攻性植物を含めた群体そのものを串刺しにする。
 まるでそれは百舌の速贄の様でもあった。
「レリ王女」
 ここには居ない誰かに。レイリアは静かに語りかける。
「男だの女だの、下らない。……一番それに拘っているのは、貴方……いや、貴様達だろう?」
 応えを返す物は何処にも居なかった。

●撤退
「……疲れた」
「いやほんと、お疲れ様!」
 シフィルが荒い息を吐き、その疲労を少しでも軽減しようとヒールを紡ぐ莉央は、労いをも口にする。
 大阪城は未だ視界の端にあり、しかし、この距離まで来ればエインヘリアルや攻性植物も追ってこられまいとの確信があった。
「今は立て直すことで精一杯だろうね」
 眼鏡の先の視線を細めながら、玲子は独白し、ぱたぱたと手を仰ぐヒメは大丈夫と静かに笑う。
 何にせよ彼女達の戦いは終わったのだ。それはとても喜ばしい事だった。
「おおよそ、三十体ほど……だろうね」
「大金星って言って良いんじゃないかな。まぁ、倒す事が目的ではなかったけども」
 クリムが挙げた数字は8人揃っての撃破数だった。あの乱戦の中、カウントを行っていた事に驚くべきか、それともそれだけを撃破した事を誇らしく思うべきか。紫々彦は複雑な苦笑いを浮かべる。
「……突入部隊はどうなっただろうか」
 アイスエルフ達は解放されたのだろうか? レイリアが浮かべた疑問はまだ晴れる事はない。今は、まだ。
 だが。
「きっと、大丈夫」
 確信を込めて、那岐は強く頷く。
 アイスエルフ達が自分達を信じた様に。ヘリオライダーが自分達に託した様に。自分達もまた、彼らを信じる、と。
 金色の瞳に宿る光は、とても強く、そして温かかった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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