アイスエルフ救出作戦～オーサカ・バトルフロント

■リプレイ

　大阪都市圏！　山めいて盛り上がった超巨大な植物塊が見下ろすビルの街並み、その一棟の屋上に黒いマントを羽織った人影が降り立つ。周囲を油断なく見回したマキナ・アルカディア（蒼銀の鋼乙女・e00701）は、目元を覆う藍色のサイバーサングラスにマップデータを表示した。いくつかのピンと付箋めいたタグの付いた地図を見つつ、マキナは右耳に手を当てる。
「斥候組、聞こえてる？　そろそろ次の防衛ラインが見えてくる頃合いよ」
　通信ノイズ。地上を音も無く疾駆しながら朧・遊鬼（火車・e36891）が辺りに目を配りつつビルの影に身を隠す。
「今のところ、追っ手は来てないな。マメに隠蔽して来た甲斐があったと見るべきか？」
　深く被ったパーカーフードの奥から飛ぶ眼光が、通りを挟んで反対側のマンション四階のベランダを射る。そこからひょこっと頭を出した叢雲・蓮（無常迅速・e00144）は、通りの無人を確認してジャンプした。飛び込み前転で開きっぱなしの窓にダイブし、着地と同時にマンションの廊下を走り出す。
「わぅ。レイナ姉、ルナ姉、どう？　後ろ、大丈夫？」
『ん、ヘーキ。今んとこ誰もいないっぽい』
『チェニャヴィズにも見てもらってっけど、特になんもなさそう。あ、でも大阪城側に何か見えるって。あれかな？　次』
　その時、ビル壁に黒い円状の影が広がり、赤い瞳が浮上した。影から胸元まで迫り出したマイア・ヴェルナテッド（咲き乱れる結晶華・e14079）は空を見上げ、飛翔する二匹の子竜の視線を追った。通りの奥、道行を塞ぐ竹製のバリケード。その前に立つのは純白の鎧をまとった三人の女騎士、軍服を着た竹槍兵二体と竹爆弾兵。マイアは口元まで影に沈めて呟いた。
「三回目だし、ほぼわかってたようなものだけど…………手薄ねぇ」
　通信ノイズ。マンション屋上で片膝を突いたタクティ・ハーロット（重喰尽晶龍・e06699）が、銀の仮面越しに防衛網を見下ろす。
「あっちこっちで引っかき回してるからな。そっちに人手割いてるんだと思うのだぜ。まあ、それが狙いなんだけどな」
　一方その頃。タクティ達から離れた後方で、レイラ・ゴルィニシチェ（双宵謡・e37747）は手首の腕時計に確かめた。その隣では、ルナ・ゴルィニシチェ（双弓謡・e37748）が長い黒髪の先を指で巻き取る。レイラは降りて来た子竜を肩に乗せて言った。
「時間、ケッコー経つね。そろそろかな？」
「んー……流石に疲れてきたし、もう終わって欲しいかな。汗もかいたし、帰ってシャワー浴びたい……」
「わかるー。うちも髪べったべた」
　話し合う二人の耳に、ジークリット・ヴォルフガング（人狼の傭兵騎士・e63164）の声。
『まだ終わりではない。……接敵する。一旦切るぞ』
　切断音五連続。マンションの影から身を乗り出したジークリットは、やや遠くに見える面々とハンドサインのやり取りをして腰に帯びた刀をつかむ。金の瞳が白百合騎士団団員達の、硬くなった口元を見やった。
（本来であれば正々堂々と手合わせ願う所であるが……）
　ジークリットは親指で鯉口を切る。
（残念であるが、今回は私情を殺しての仕事だ。私の個人的感情で作戦を失敗させては大阪城に潜入した戦友達に顔向けできない）
「三回戦だ。……行くぞ」
　ジークリットは気流をまとい突風めいて竹爆弾兵の零距離に飛び込んだ！　気流が霧散し、爆弾兵が面食らうと同時に抜刀。しかし刃は割り込んだ純白の盾表面を滑って火花を散らす！　爆弾兵を庇った白百合騎士は、兜に入った横一文字のスリット奥でギラリと両目を光らせた。
「やはり来たな、ネズミ共ッ！」
「ッ……！」
　騎士の巨大戦斧を斬り下ろしをバク転回避するジークリット！　斧に砕かれた地面が上げる噴煙。ベージュの霧を突っ切った二体の竹槍兵がジークリットを追撃に走った直後、彼女の上空で隠密を解除した遊鬼が獄炎と化した左腕を突き出した！
「燃えろ！」
　左掌が赤黒い熱線を繰り出し通りを横一直線に斬り裂いた！　地に刻まれた筋が大爆発を引き起こし、引きはがされた遊鬼のパーカーフードからナノナノが飛び出す。巨大な炎壁が生み出された一方、百合騎士の一人が竹爆弾兵に指示を出す。
「信号を上げろ！」
　頷いた爆弾兵が腰に下げた拳銃を空へと向けたその時、爆弾兵を黒い影が覆い尽くす。爆弾兵上空に現れたタクティはハリネズミめいて結晶トゲを生やした左腕を振り上げた！
「おっと！　そうは行かないぜ！」
　横っ飛び回避する爆弾兵の居た場所にタクティの垂直落下パンチが直撃！　片膝立ち姿勢で復帰した爆弾兵が再度掲げた信号銃を、ナノナノが尖った尻尾の先で突き刺し刈り取る。信号銃を奪って急上昇するナノナノを見上げ、バスタードソードを構えた白百合騎士が舌打ちをした。
「おのれッ！」
　毒づいた剣騎士はタクティめがけて突進していく！　砂煙の中、立ち上がったタクティは襲い来る騎士の剣をクロスガード！　踏んじばった地面を陥没させつつ、彼は大剣の刃を押し返す！
「蓮！」
「わぅっ！　隙アリなのだーっ！」
　瞬時に盾じみて構えられた大剣の腹に蓮の一閃がぶつかった。バク宙した蓮は大剣斬り上げを側転回避して距離を取る。その背後からしなだれかかったマイアが鎧の胸元に指を滑らせ、騎士の耳元で色っぽく囁いた。
「あらあら。焦っちゃって、可愛いのね」
「っ!?」
　騎士の振り向き斬撃が空を切る。マイアの姿は無く、代わりに騎士の足元から吹き出した黒いスライムが鎧の全身に絡み付いた。離れた場所に立つ騎士がまとったオーラを右手から放ち、剣騎士に取りついたスライムを吹き飛ばす！　同時に、ビルの上から跳躍したマキナは藍色の大剣を横薙ぎに振り被った。
「先と同じように、まずは動きを制限させて貰うわ」
　大剣の柄についたトリガが引かれ、剣の刃がサヤエンドウじみて展開！　マキナが剣を振りかぶると共に大剣は無数のマイクロミサイルを雨の如く降り注がせた。竹バリケード前で起こる群青色の連鎖爆発！　通りを走って来たミミックが大口を開け、大量の金貨を空へと放つ。いくつも噴き上がる青い炎に金貨が満遍なく注がれる中、着地した遊鬼はフードの奥で小さくぼやく。
「取れなかったか。襲撃がバレてるだと……」
「戦場のそこかしこで暴れ回って、よくバレないと思ったものだ」
　爆炎と金貨が吹き飛び、白いオーラの風が吹き荒れる！　蓮を抱えて宙を滑るように後退してきたタクティ、黒いマントをはためかせてムーンサルト回転跳躍したマキナが地に足を着けると共に、三人の白百合騎士と三体の竹兵が進み出てくる。剣を手にした白百合騎士がケルベロス達に切っ先を突きつけた。
「ここから先、ただの一歩も押し通れると思うなよ。……レリ王女の下へは行かせんッ！」
「それはこちらの台詞よ」
　マキナが大剣を取り回して言い返す。
「大阪城周辺から支配地域を広げられたくないの。戦力、削らせて貰うわ」
　次の瞬間、騎士達の上空に無数の光の粒子が集い巨大な魔法陣を生み出した。響くヒールがステップ踏む音。レイラとルナが靴音響かせ手を繋いで華麗に踊る！
「祭壇座の一幕、感想は？」
「時計座の一幕、舞台は速く」
　魔法陣が輝き、光の粒子をまとった太い火柱が地に突き刺さる！　膨れ上がるドーム状の爆炎を突っ切って斧と盾を手にした騎士が真っ直ぐ突撃！　迎撃に飛び出したジークリットは刀を収めて拳を繰り出す。拳打を盾でしのぎ戦斧を振りかざす騎士！　ジークリットはサマーソルトキックで盾を跳ね上げた！
「蓮！」
「はいなのだ！」
　居合いの姿勢を取った蓮が一直線に斧騎士の股下を突破！　彼が僅かに刀を抜かれた刀を閉じると共に、斧騎士の両内腿が裂けて鮮血を噴いた。ハイジャンプしたオーラ騎士が斧騎士に両手をかざして純白のオーラを放射。割り込みをかけたタクティはオーラに指鉄砲を向ける。指先に収束する翡翠色の結晶体！
「セット……咲誇れ愚者の華！　晶華ァッ！」
　結晶体が撃ち出され、オーラに突入して内側から爆散せしめる！　氷の蝶の群れを集らせて跳躍した遊鬼がオーラ騎士の懐に入り、氷蝶達を鬼火に変えた。鬼火を右手に集め、鉄拳を繰り出す！
「凍りつけッ！」
「ッ！」
　とっさに両腕を交叉して防御したオーラ騎士が殴り飛ばされ地に突き落とされた。空中後転して着地したオーラ騎士の両腕は凍てつき、交叉したまま動かぬ状態。そこへ超加速したマキナの飛び蹴りが命中！　勢いのまま彼女を蹴り飛ばしたマキナに竹槍兵一体がジャンプからの突き下ろし！　インターラプトしたナノナノがハート型のバリアを張って竹槍を防ぐと同時、竹槍兵の背後に回ったレイラが足場にＳ字を描くように舞った。
「蛇遣い座の一幕、睨まれちゃったら逃げられないよ」
　ナノナノバリアに跳ね返された竹槍兵の背後に魔法陣が浮かび、陣から飛び出した蛇達が迷彩服の各所に絡み付いて締め上げる！　素早く後退するマキナ足元の影が伸び、そこから浮上してきたマイアが周囲に黒球を三つ生成。虚空に磔にされた竹槍兵を鋭く見据える！
「まずひとつ、かしらね」
　だがその横合いに大剣を構えた百合騎士が肉迫！　振り下ろされた剣の腹に子竜のヴィズとチェニャが体当たりをかけて軌道を逸らし、隙を突いたマイアはバックジャンプからの黒球を剣騎士に向かって射出！　コマめいた一回転からの斬撃で黒球を斬り捨てた剣騎士はマイアに向かって一歩踏み込む！　マイアは表情ひとつ変わらず！
「お堅いのかと思ったら、情熱的なのね、貴女」
「御託はいい。その首、もらったッ！」
　大剣が首狩り斬撃を放った瞬間、マイアの頭をミミックが踏み付け屈ませる。首の代わりにミミックの蓋が斬り飛ばされた！　一方、脳天を割りに来る斧斬撃を紙一重で避けたジークリットは斧持つ腕の脇を狙って刀の斬り上げ！　短距離バックした斧騎士の肩鎧の隙間を刃が走り、少量の血飛沫が飛んだ。
「チッ……！」
　表情を歪めた斧騎士は盾を構えて突進を敢行！　シールドバッシュが防御態勢を取るジークリットを弾き飛ばして地に転がせた。斧を高々と振りかぶる騎士の足元で、ふたご座の紋様をあしらった魔法陣が展開。ルナがタップダンスめいて素早く足踏みをする！
「双子座のみちびき、感じてみ？」
　輝く魔法陣が斧騎士を空へ弾き飛ばす！　跳ね起きたジークリットは、背中にくっついたヴィズから黄金色の光を受けてジャンプ！　刀を振り抜き、虚空に虚空で斧を振るわれた斧を弾く。そのまま掲げられた盾の上部に着地し、上から斧騎士を覗き込んだ！
「ふッ！」
　横薙ぎ一閃！　斧騎士の首が刎ね飛ばされ、首の断面からシャンパンめいて血が噴出！　空中にぶちまけられる鮮血を見上げたオーラ騎士に殴りかかるタクティと遊鬼！
「余所見してる場合じゃないんだぜ!?」
「せえええあッ！」
　左ストレートと足狙いの蹴りを、騎士はオーラを溜めた右手と左足を折り曲げて防御する。そのまま二人を打ち払い、足を踏ん張って純白のラッシュ！　遊鬼は自身を庇い、拳の乱打を受けるタクティの後ろから飛び出し獄炎の左腕を突き出した！
「タクティ、悪いッ！」
「気にするな！　一発食らわせてやるのだぜ！」
　左掌が放射する赤黒の光線をオーラ騎士は連続バク転を打ち回避！　代わりに竹槍兵の一体が空から遊鬼へ飛びかかり、竹槍で彼の首を打つ！
「ぐぁッ！」
　遊鬼が真横に吹き飛ばされ、離れた場所に居たナノナノが彼の方を振り返った。焦った声を上げてそちらへ向かおうとするナノナノを、大剣が後ろから一刀両断！　尻尾に引っかかっていた信号銃を奪い取り、後方の竹爆弾兵へと投げ渡す。純白の鎧に絡み付くマイアとスライム！
「いいの？　騎士様が不意打ちなんてしてしまって」
「黙れ……お前達が言えた義理ではあるまい！」
　マイアを振り払わんとする剣騎士の背後で、竹爆弾兵が信号弾を撃ち上げる。信号銃を投げ捨てた爆弾兵は迫る蓮の居合いをブリッジで回避！　起き上がりざまのヘッドバット反撃を横回転回避した蓮は鋭い剣閃で爆弾兵の片足を斬り落とす。バランスを崩して倒れる爆弾兵から飛び離れつつ、蓮は元気に声を張った。
「マキナ姉ーっ！」
　その時、地に這いつくばる爆弾兵を蒼銀の閃光が照らし出す！　宙に浮きあがったマキナは機械大剣を振り上げ引き金を引いた。大剣が拡大変形！
「Ｃｏｄｅ　Ｓ．Ｔ．Ｒ．Ｕ．Ｃ．Ｔ……，ｓｔａｒｔ ｕｐ． Ｔｏｗ”Ｃｏｒｅ”，ｆｏｒ　ｏｎｅ．……Ｒｅａｄｙ，Ｅｎｇａｇｅ！」
　光が一層強まった刹那、爆弾兵に大量のマイクロミサイルが襲い掛かり藍色の大爆轟で包み込む！　マキナは爆弾兵を呑み込む連鎖爆発に、レーザー刃を発する大剣を大上段から振り下ろした。一際強い爆発が大地を揺るがすのと同時、遠くの大阪城から無数の影が飛び立った。マキナはサイバーサングラス越しに影を見、ズーム。影はアイスエルフの軍勢！
「あれは……アイスエルフ！」
「おおっ!?　ってーことは……！」
　喜色を滲ませるタクティに、一同の表情が僅かに緩む。大剣を握った騎士が鋭く言い放った。
「何をにやついている」
　身構える竹槍兵二体と、白百合騎士団の二人。オーラ騎士は両拳に白い光を充填させる。
「もうじき増援がここに来る。貴様等にはもう勝ち目は無いぞ……！」
　じりじりと間合いを測る四体。肩に止まったチェニャの頭を指先で撫で、レイラは小さく肩を竦めた。
「だってさ。んーじゃ、やることやったし逃げよっか？」
「サンセー。流石に三連戦まで来るとしんどいし、これ以上はちょっとムリめかな」
　ルナが言い、仲間達に目配せをする。各自が小さく頷く中、遊鬼は首を鳴らして呟いた。
「……引き際か」
「なのだよ。ニンジャは潔く撤退するのも重要なのだ」
「いずれにせよ、大阪城で何かあったのは確実だ。下がるべきだろうな」
　蓮とジークリットに、遊鬼は苦笑。彼が左手の炎を燃やすと同時に、マキナが再びサヤエンドウめいて開いた大剣の刃にマイクロミサイルをリロードした。
「ニンジャな……。じゃ、ニンジャらしく引き下がるか。……せぇーのっ！」
　遊鬼とマキナが腕と大剣を振り下ろし、激しい爆発を引き起こす！　噴煙と炎が八人の姿を覆い隠す中、遠ざかる蓮の声が響き渡った。
「オタッシャデー！　なのだよ！」
　身構えたまま静止する白百合騎士とバンブーソルジャーの前で、爆煙が霧散。ケルベロス達の姿は消えていた。

作者：鹿崎シーカー	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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