アイスエルフ救出作戦~定めし命、解放されし時

作者:朱乃天

 大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
 議題は、当然、ケルベロスへの対策である。

『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
 このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
 と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
 ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
 と念を押し、通信を切る。
 この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。

 大阪都市圏防衛戦はケルベロスたちの活躍により、多くのアイスエルフを救出し、大成功を収めることができた。
 ただしその時救出できたのは、どうやら女性のアイスエルフだけだったようである。
 エインヘリアルの第四王女レリは、男性を信用していないようであり。アイスエルフの男性たちはコギトエルゴスム化した状態で、拠点であるグランドロンの宝物庫に閉じ込められているらしい。
「それに救出したアイスエルフから、彼女たちの恋人や家族、友人である男性アイスエルフの救出を行って欲しいという嘆願があったんだ」
 防衛戦の成果を受けて、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が新たな作戦に関する内容をケルベロスたちに話す。
 因みにこの作戦の為に、有志のアイスエルフたちもどうやら協力してくれるらしい。
 彼女たちはケルベロスの元から脱走したと見せかけて、大阪城に戻り、偽情報を流して敵を混乱させてくれるという。
「第四王女レリは、偽情報を疑わずに信じて行動する可能性が高い為、アイスエルフ救出の潜入作戦を行うことになったんだ」
 潜入作戦は少数精鋭での隠密作戦となり、これを成功させるには、アイスエルフの欺瞞情報通りに、大阪城に向けてケルベロスが襲撃をかける陽動作戦が不可欠となる。
「そこで皆には、陽動作戦側を担当してもらいたいと思うから、よろしく頼んだよ」
 そう言ってシュリは引き続き、今回の作戦並びに、敵情報や戦いにおける注意点の説明に移る。
 敵は第四王女レリ配下の白百合騎士団のエインヘリアルと、大阪干渉地域で活動していた『竹の攻性植物』の混成部隊。
 攻撃を受けた敵は守りを固めつつ、増援が来るのを待つといった戦い方をする。従って、敵を見つけ次第攻撃し、増援が来る前に撤退を繰り返しながら敵の注意を引き付ける。
 この戦いは陽動作戦の為、迎撃に出向いてきた第四王女の騎士団と戦闘しつつ、頃合いを見て撤退すれば作戦自体は成功となる。
 多くの騎士をケルベロスに殺された第四王女側は、戦意が高いようだが、それを上手く利用すれば戦いを優位に進めることができそうだ。
 もし第四王女や精鋭の騎士たちと遭遇した場合、撤退して戦闘を避けても良いが、複数のチームで連携することで、有力敵を吊り出して撃破することも不可能ではない。
「後顧の憂いを無くすには、ここで倒しておいた方がいいかもね。その辺りは別チームとの協力が必要になってくるけど、どう戦うかはキミたちに全て任せるよ」
 ひと通りの説明を伝え終わったところで、シュリはケルベロスたちの顔を見ながら、一瞬間を置いて――。
「この戦いで、残ったアイスエルフを救出すれば、彼らも仲間になってくれるはず。だからキミたちの力で、このチャンスを活かして絶対に成功させてほしいんだ」
 期待を込めて激励の言葉を掛けながら、彼らに後を託すのだった。


参加者
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
卯京・若雪(花雪・e01967)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
輝島・華(夢見花・e11960)
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)

■リプレイ

●解放への狼煙
 ケルベロスとアイスエルフによる共同戦線。
 大阪城にはまだ男性アイスエルフのコギトエルゴスムが、回収されずに囚われたまま。
 そこで女性アイスエルフがエインヘリアル側に協力すると思わせて、隙を衝いての救出作戦を決行することになる。
「皆様のおかげでアイスエルフさん達の信頼を得る事が出来ました。その信頼に応えるためにもこの作戦、絶対に成功させてみせます」
 全てはアイスエルフを救出し、無事に仲間に迎え入れる為。
 輝島・華(夢見花・e11960)は強い決意を込めてこの救出作戦に臨む。
 今回は信頼のおける仲間も一緒にいるから、きっと大丈夫。だから自分は、大事な仲間を傷つけさせないよう、しっかり補佐して守るのみ。
 そうした華の意気込みに、火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)も大きく頷きながら、自分も支えるからねと励まし合い、戦場となる大阪城に乗り込んでいく。
「……陽動? 別に大阪城を攻め落としてしまっても構わんのだろう?」
 七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)は何だかやけに自信満々で、不敵な笑みを浮かべて大阪城を見上げていると。
「……それって、何だかフラグっぽくない?」
 傍らにいたひなみくが苦笑しながらツッコむが、それくらいの気持ちで挑まないとね、とさくらは戦う前からかなり気合の入った様相だ。
「仲間全員――アイスエルフの男女の皆様も含めて、必ず無事に戻れるように。最善を尽くしましょう」
 普段は春陽のように穏やかな、卯京・若雪(花雪・e01967)が凛然とした空気を纏って、己の成すべき意志を示す。
 まずは敵の奇襲を受けないよう、ケルベロスたちは物陰に隠れるようにしながら戦場内を移動する。大阪城の内部では、白百合騎士団たちが竹の攻性植物と一緒になって徘徊し、侵入者を警戒しながら待ち受けている。
 ケルベロス襲撃の報せが敵側に伝わっている以上、奇襲を仕掛けるのは難しそうだと判断し、それならなるべく防衛が手薄な所を狙おうと、様子を窺いながら敵戦力を見極める。
 若雪が若草色の瞳で敵の姿を捕捉し、数を確認。現状ではこちらとほぼ同数といった辺りだろうか。そして指で指し示して合図を送り、それを受け、番犬たちが一斉に飛び出した。
「白豚騎士団! 今日が解散記念日だ良かったな!」
 相対しながら早々に、エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が大声で苛烈に罵倒を浴びせて白百合騎士団たちを挑発すると同時に、戦う者への情熱的な曲を奏でて仲間の戦意を奮わせる。
 救出班を一刻も早くアイスエルフの許に向かわせる為、自分たちは陽動部隊として相手の注意を引き付ける。更にそのことを敵に悟られないように、囮といえども全力で挑む必要がある。
 フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)はその救出班を担う知人の無事を願いつつ、自身は少しでも手助けができるよう、静かに闘志を燃やして立ち向かう。
「精々、派手に暴れて援護してやるとしようか」
 白百合騎士団が動くよりも疾く駆けて、フレイアが刃の如き電光石火の蹴りを挨拶代わりに見舞わせる。
「くっ……!? ケルベロス共、やはり現れたか!」
 アイスエルフからの情報は間違ってはいなかった。それならと、白百合騎士団たちは城の守りを固める為に急いで周囲に増援要請を呼び掛ける。
「ここから先へは、行かせはしない!」
 侵入者を排除すべく、騎士団たちも反撃に出てケルベロスたちに襲い掛かる。
「ここは防ぎ切ります! アメジスト、ルビー、両ドローン! 防壁陣展開!」
 束になって襲ってくる白百合騎士団を、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が正々堂々と真っ向から迎え撃つ。
 父の形見である強固なアーマーと、母のドローンを組み合わせた白銀色の密着型スーツを身に纏い、フローネ自身の紫水晶の盾と一緒にドローンを展開。
 武器を通じて『ココロ』の力が同調し、複合させた防壁陣が張り巡らされ、二つの色が混ざった紅紫の光彩が、周囲を覆って仲間を守る盾と成す。
「まだ敵の数が少ないうちに、なるべく倒しておきましょう」
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が細身の戦槌を振り回し、大砲状に変形させて魔力を注入。施された魔術刻印が、まばゆく光って放った砲撃は、竜が吼えるが如き爆発音を響かせる。
 例え陽動とはいえ、手を抜くつもりは全くない。むしろ今のうちに敵戦力を減らせる機会だと、ケルベロスと白百合騎士団たちの激闘が、今ここに繰り広げられようとする――。

●生命の天秤
 現状では両陣営の戦力差はほぼ五分と五分。
 敵を誘き寄せる以上、そのうち増援もやってくるだろう。ならばその前に、少しでも可能な限り相手の数を減らすことこそが、この戦いを乗り切る為の鍵となる。
「何れは援軍も合流するはずだ。それまでは、一歩たりとも先へは通さない!」
 増援が加われば、数でケルベロスたちを圧倒できることになる。騎士団側は守りに重きを置いた布陣で突破を防ごうとする算段だ。
「それなら力尽くでも、そこをどいてもらうまでですね。私たちは本気ですよ?」
 華がオウガメタルの腕から光の粒子を放出し、仲間の眠れる闘争心を研ぎ澄ます。
「タカラバコちゃん、あんな連中、一緒にやっつけちゃおう!」
 ひなみくが従者のミミックと、息を合わせて同時に動く。
 タカラバコのカラフルな口が開いて飛び出したのは、エクトプラズムで生成された宝石のようなもの。騎士団の乙女たちはそれをアイスエルフのコギトエルゴスムと錯覚したのか、ばら撒かれた偽の宝石を、慌てて拾い取ろうと動きを乱す。
 そこへひなみくが、ウェーブがかった髪にピンクとオレンジ色の花を咲かせて靡かせて。このふわふわに、触れてもいいよと誘惑し、それに釣られて攻性植物たちが寄ってくる。
 ――乙女はいつだって、可愛いを食べて生きていたいものだから。
 だからもっと凍り付くまで、わたしに見惚れていてほしい。可愛い見た目と裏腹の、凍える冷気が彼女の周囲に漂って、攻性植物たちの生命の時を止めんと浸食させる。
「――参ります」
 今度は若雪が、素早く間合いを詰めて攻性植物たちに斬りかかる。
 陰陽の霊力纏いし刃が軽やかに舞い、重く強かに振り下ろされて――対極の調和を成して冴え渡りし一閃は、清かに、静やかに、刹那の余韻を残して攻性植物たちを斬り伏せる。
「ええい! よくもやってくれたな!」
 どれだけ守りを固めても、ケルベロスたちの勢いはそう簡単には止められない。
 騎士たちも星の力で回復させて立て直し、剣を振るって群がる番犬たちを薙ぎ払う。
「背中は任せて、派手にやっちゃって!」
 しかし回復役のさくらがすぐにヒールドローンを飛ばして、仲間の傷を治療する。
 長期戦にも備えた布陣は支援の方も万全で、互いに役割分担しながら支え合う、得意の連携力を活かした戦い方で更に相手を攻め立てる。

「邪魔ですね。それなら氷の中に閉じ込めましょう」
 ウィッカが呪文を詠唱し、地面に五芒星の魔法陣が浮かび上がる。
 巨大な星は蒼く冷たい光を放ち、召喚された氷の精霊が、吹雪を起こして敵集団を氷の嵐で薙いでいく。
「ふふ……私の前に立ち塞がるか。魂を食われ、死を迎える覚悟があってのことだな?」
 ウィッカの援護射撃で相手が怯んでいる隙に、フレイアが巨大な鎌を振り翳しながら敵陣の中に攻め込んでいく。
 『虚』の力が刃に帯びて、禍々しい気を発しながら騎士の乙女を斬りつける。そして生じた傷口から血を啜り、生命力を喰らってフレイア自身の糧となる。
「お……おのれ小癪な真似を! 許さんぞ!」
 深手を負った白百合騎士団員が、ウィッカやフレイアたちに殺意を宿した目を向ける。
 怒りに満ちた形相で、気力を振り絞って瀕死の乙女が剣を振るう。だがここは箱竜のゴルトザインが盾となり、この一撃を防ぐと、直後にエステルが、がら空きになった相手の脇を狙って力を溜める。
「――この戦いには負けない。おまえ達は横暴すぎる!」
 沈むような低い姿勢から、掌底を相手の胸元目掛けて打ち上げる。その瞬間、螺旋の力を放出させて身体の内部に捩じ込んで。衝撃で敵の生命の鼓動を止めて、死に至り、力潰えた騎士団員の肉体が、静かに地面に崩れ落ちていく――。
 一体の敵を撃破したところでも、ケルベロスたちは気を緩めない。
 倒すべき相手はまだ多く残っている、それにこれから合流してくる増援たちも含めれば、長期戦は免れないだろう。
 エステルは足元に横たわっている騎士団員の骸を一瞥すると、視線を残った敵に移して拳を強く握り締め直す。
(「叶うことなら、彼女たちと交わる道もあれば良かったですけれど……」)
 そうすれば、刃を交わすことなく同じ道を歩めたような、そんな未来もあったはず。
 フローネはそうした騎士団たちへの感情を、心の中で抑え込み、今は任務に専念すべきと気持ちを切り替え力を注ぐ。
 秘めたるココロの力を指輪に集め、増幅させた力は光輝く剣と化し、繰り出す刃は未来を切り拓く為――鋼の如き迷わぬ意志で敵を断つ。
 ケルベロスたちは尚も積極果敢に攻め続け、敵の増援の気配を察した6分後――。
「この場は一旦退きましょう」
 戦況を見定めながら、フローネが仲間に呼び掛け指示を送る。
 まだ相手を全員倒し切るまでには至っておらず、更に数が増えるとなれば、こちらも被害が出てしまうだろう。だがそれも全ては作戦の内。被害を最小限に食い止めようと、彼らは急いで戦いから離脱する。
「ふん、我らに恐れを成したか。何度向かってこようと、無駄なことだと思い知るが良い」
 白百合騎士の一人が、退却していくケルベロスたちに警告するが深追いはせず。
 彼女らは、あくまで防衛主体で侵入者を排除していく構えのようだ。
「でもその方が、僕らにとっては都合が良いですが。さて、少し立て直してから次の相手に向かいましょう」
 若雪が壁に凭れ掛かって、時折様子を覗いて索敵し、簡易に回復行為を終えた後、彼らは再び戦いの舞台に戻っていった――。

●決死の救出劇
 それから程なくして別の敵部隊と遭遇し、新たな戦いを繰り広げるケルベロスたち。
 我が身を賭して彼らが戦い続けるのは、自分たちを信じてくれるアイスエルフたちの為。
 大切な人の無事を願うのは、種族は違えど抱く心に変わりはない。
「そんな彼女たちの想いに、応えない訳には参りません」
 だからこの戦いは、決して負けるわけにはいかないと。若雪が二本の太刀を舞うかのように振り抜けば、斬撃が大気を裂いて、空間ごと後方に待機していた敵を斬る。
 自分たちを信じて危険を顧みず、大阪城に戻ってくれたアイスエルフたちがいる。
 彼女たちが命懸けで協力してくれるから、この作戦は絶対に成功させなくてはいけない。
「何度転んで、何度躓いて、何度取り落としたとしても! わたしは絶対諦めない!」
 大事なものを、背負ったものを守る為。ひなみくが我が身を厭わず突撃し、地面を強く踏み締めながら、脚を撓らせ振り回し、暴風の如く豪快な蹴りで相手を纏めて薙ぎ倒す。
「ブルーム、お願い!」
 華が命じるその声に、花咲く箒のようなライドキャリバーが、種を蒔くかのように弾を飛ばして敵陣営を威嚇して。華が手にした装置のボタンを押すと、色とりどりの花弁が周囲に舞い、七色の風が仲間を包んで更なる闘志を呼び覚ます。
「こんなところで、私は、私達は――負けるわけにはいかんのだ!」
 人々を護らんとする故、仇討ちを成さんとする故、そしてフレイア自身、英雄の娘に相応しくあらんとする故。これまで幾多の死闘を戦い抜いたフレイアの、不撓不屈の咆哮が――仲間を鼓舞して勇気づけ、奮起を促し味方の心に熱き決意の炎を灯す。
「負けられないのは我らも同じ。貴様ら番犬共を、ここから先には進ませない!」
 騎士団たちもまた、それぞれ矜持を抱いてこの戦いに賭けている。
 互いの意地と信念が、衝突し合って戦闘は一層激しさを増していく。
 おまけにケルベロスたちは連戦の為、見えない疲労が積み重なって、徐々に相手に押され気味になる。それでもさくらは癒し手として、仲間を誰一人とも欠けさせたりはしないと、支援に徹する。
 帰りたい場所があるから、待っていてくれる人がいるから――。
「だから……絶対負けられない!」
 裂帛の気合と共に、さくらが紅水晶の蕾眠りし杖を掲げると。彼女の想いを魔力に変換、癒しの雨を降らせて味方の負傷を和らげる。
「私たちにも、譲れないものがありますから。ここは貴女たちに退いてもらいます!」
 フローネの手にした如意棒が、彼女のココロの力に共鳴し、紫水晶色の炎を纏う。
 そしてフローネは、紫炎を激しく旋回させて渦を巻き、眼前の攻性植物たちを灼き祓う。
「――紅き死の雨、天より降りて焼き尽くせ! この世を煉獄へと変えよ!」
 ウィッカが上空に向けて掌翳し、溢れんばかりの魔力を注ぎ込む。
 虚空に描かれしは紅蓮の光を帯びた魔法陣。五つの始点に投じた魔石が、魔力を膨張させて砕け散り、鋭利な破片が魔術によって炎上しながら敵陣営に降り注ぐ。
 それは正に、天をも焦がす紅き雨の如し――。
 決して力に屈したりはしない――ケルベロスたちの執念を込めた怒涛の猛攻が、やがてこの劣勢を押し返して互角以上の勝負に持ち込んでいく。
「……そろそろここも潮時みたいですね。合流される前に離れましょう」
 華が敵増援の接近を視界に捉え、仲間に退避を促しながら、すかさず退路を確保する。
「どうやら命拾いしたみたいだな。だが何れ、番犬の牙がお前たちの主の喉笛を掻き切りに行く。その前に遺書でも書いて送っとけ」
 撤退していく仲間を見送りながら、最後に殿を務めたエステルが、魔力を乗せた歌を声高らかに響かせて。何者にも囚われない勇壮なる歌に、百合騎士団たちは心揺さぶられて追撃の足を止めてしまう。
 これ以上は敵が追って来ないことを確認すると、エステルは急いで仲間の元へと合流し、態勢を整えながら次の戦いに足を向ける。

 その後も交戦を繰り返し、彼らが仕留めた数は約三十体。
 騎士団側は戦力を広く展開させていたが為、ケルベロスたちの陽動作戦に対処し切れず、全体的にも大きな被害を出してしまう。
 ケルベロスたちは有力敵と戦うことはなく、任務を見事に遂行し、撤退を終えた頃には、潜入チームによるコギトエルゴスム奪取の報せが届く。
 連戦に次ぐ連戦で、流石の彼らも疲れた顔を覗かせる。
 しかしそうした疲労も、勝利の言葉を聞けば心地好く。
 緊張感から解放されたその瞬間、表情に笑顔が戻って。
 互いに喜び分かち合い、暫しの勝利の余韻を噛み締めた。

 ――斯くして救出劇の幕は無事に降り、彼らは新たな仲間を出迎えるのであった。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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