アイスエルフ救出作戦～派手に行こうか！

■リプレイ

●陽動作戦開始
「わんさかおるなー」
「陽動、中々大変ですが頑張りますか」
「ま、一緒にがんばろな」
　作戦開始時刻を待つ間、敵部隊の様子を窺っていた八蘇上・瀬理（家族の為に猛る虎・e00484）と久遠・征夫（意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214）が言葉を交わす。
　今回このチームの任務は、大阪城前に展開している敵部隊へと攻撃を行い、大規模な襲撃と思わせ、潜入チームを援護する事。派手に暴れて敵を出来るだけ多く外へと誘き出す。その為にも全チームが同時に仕掛けることが望ましい。
「陽動！　騒ぐのも得意だぜー、オレ」
　作戦開始が待ちきれないと、キサナ・ドゥ（カースシンガー・e01283）は張り切っている。
「陽動とかあまり慣れていないですけど、アイスエルフの救出のために僕達ができることを頑張らないとですね」
　対して修月・雫（秋空から落ちる蒼き涙・e01754）は緊張を解そうと深呼吸を一つ。
「緑色したわさびの仲間が沢山いるっすね」
「私は緑色じゃないですよって、わさびと呼ばないでください～！」
　部隊として展開している竹の攻性植物を眺め、中村・憐（生きてるだけで丸儲け・e42329）の発した言葉に、本山・葵（ユートレマジャポニカ・e04016）がのっかる。２人のやり取りを眺め、場に笑いが起きる。緊張を解すのに一役買ったようだ。
　狙い通りに事が運び、憐と葵はハイタッチを交わした。
　作戦開始の合図を確認し、ケルベロス達は敵の元へと駆け出した。

「来たな！　ケルベロス！」
　白百合騎士団のエインヘリアルの一人が、声をあげる。
　見たところ白百合騎士団のエインヘリアルが５体、竹の攻性植物が５体の混成部隊のようだ。
「あなた達、女であることを誇りをもって戦ってるようですが、特にこの日本では女は男の３歩後ろをついていく心づもりで生きるというのが美しいというもの。それができないあなた達は醜い欠陥品です」
　折平・茜（モノクロームと葡萄の境界・e25654）がそう言って白百合騎士団達を指差す。
「そういうお前は、今、男より前に立っているではないかっ！」
「……これは一本取られましたね」
　茜が軽くおどけると、その態度が白百合騎士団達を更にイラつかせる。
「誰が一番たくさん倒せるか競争しませんか？」
「おまえの騎士団長、で～べ～そ！」
　葵と憐が続く様に挑発を始める。
　そんな中、ラリー・グリッター（古霊アルビオンの騎士・e05288）が一歩前へと出ると、
「白百合騎士団のエインヘリアルと見受けます！　我が名はラリー・グリッター！　同じく騎士として勝負を挑みます！」
　名乗りを上げ、『宝剣「God save the Queen」』を抜くと、切っ先を敵に突きつけた。
　その瞬間、場の空気が一瞬で変わる。
「先程の無礼な奴らとは少し違うようだな。いいだろう……我らに挑んだこと、後悔させてやろう！」
　今、ケルベロス達とエインヘリアル達の長い戦いが始まろうとしていた。

●襲撃
「なに悠長にしとるんよ。殺し合いやろ？　あっは、そんなに死にたいん？」
　咆哮を浴びせ、怯む敵に向かって挑発する瀬理。
「ほらほら、よそ見してると痛い目みるっすよ～」
　注意が瀬理へと向いている中、横から放った憐の光弾がエインヘリアル達を薙ぎ倒していく。
「オレの名前はキサナ。お前たちを倒す名前だ、覚えておけ！」
「我らを倒すだと？　笑わせて……ぐはっ」
　ラリーの様に名乗りを上げたキサナだが、ラリーと違い、名乗りながら突撃していた。反応の遅れたエインヘリアルの１人が突撃を受け、吹き飛ぶ。
「よくも仲間を！」
　仲間が吹き飛ばされ、傍にいた１人が反撃にキサナへと槍を突き出した。
「やらせません。はっ」
「ぐっ！？」
　茜が前に飛び出し、攻撃を受け止めると、すぐさま相手を蹴り飛ばす。
「守りもしっかりとね」
　征夫はドローンを操作すると、最前列へと配置していく。
「まとめて吹き飛ばしてあげます」
　雫が手をあげ黒太陽を具現化。黒太陽から放たれる黒光が敵へと照射される。光を浴び、竹の攻性植物達がもがき苦しむ。
　ラリーが斬撃を放ち、返しにエインヘリアルの槍の一突き。
「なかなかやりますね！」
「おまえも騎士を名乗るだけはある……」
　お互い武器を構え、暫し睨み合う。決闘ならば目の前の敵にだけ集中すればいいのだが、今は集団戦。竹の攻性植物から放たれた銃弾が、ラリーの左足を撃つ。
　ラリーのバランスが崩れた瞬間、接近したもう１人のエインヘリアルの槍が襲い掛かる。
　しかし槍が届くよりも先に、降り注ぐミサイルの雨がエインヘリアル達を吹き飛ばす。
「こっちも１人じゃないんですよっ」
　ミサイルを撃ち終え、煙の中から葵は煙たそうに顔を出した。

　陽動とはいえ、手を抜くつもりはない。長期戦に備え、力を温存しつつも、攻めの姿勢は崩さない。対して敵の方は、増援が駆けつけてから一気に畳みかければいいと、倒されないよう積極的に攻めず守りの姿勢を見せていた。
「ほらほら、守ってばかりで勝つ気あるん？」
　瀬理は蹴りを入れながらも挑発することは忘れない。
　憐が空へと放った槍が分裂し雨となってエインヘリアル達へと降り注ぐ。
　キサナの強烈な一撃に、エインヘリアルが地面へと倒れ伏す。
「まずは１体！」
　茜がチェーンソー剣を振るい、征夫の『妖刀亀斬り』が弧を描く。２人の斬撃を受けエインヘリアルがまた１体その場へと倒れる。
「この辺り一帯を焼き払いましょうか？」
　雫の放つ炎が竹の攻性植物を焼く。炎に包まれた竹の攻性植物はもがきながら、灰になって崩れ去った。
「くっ！　させるかっ！」
　ラリーの一撃を割り込んできたエインヘリアルが盾で受け止める。その後ろから庇われたエインヘリアルの槍の一撃がラリーを襲う。
「無理は禁物です」
　葵がラリーへと駆け寄って治療を始める。
「向こうから敵の増援です。一度撤退しましょう」
　敵の後方から１０体の増援を確認し、雫が皆に合図をする。
　それを聞いた征夫が『携帯発煙筒セット』を取り出すと、雫と２人がかりで発煙筒をばら撒いた。
「『また来る』ぜ、エインヘリアルども！」
「あいしゃるりた～ん！」
　煙に紛れ、キサナと憐が捨て台詞を残し撤退を始める。それに続き全員一斉に撤退した。
　増援に恐れをなしたのだろうと、白百合騎士団達は勝利の声をあげていた。

●襲撃、再び
　勝利に酔いしれる暇も、隊列を組みなおす暇も与えないよう、まだ余力があるケルベロス達はすぐに２度目の襲撃を開始した。休んでる暇はない、攻撃はまだ終わらないぞ、油断するなと。
　負傷していた数名を伝令に下げ、応戦を始める白百合騎士団達。こちらとしても、伝令の妨害をするつもりはない。むしろ好都合。警戒が強まれば強まる程、この場所に戦力をさいてくれるだろう。
「油断しとるから、こうなるんや」
「ぐはっ！」
　瀬理の蹴りを受けエインヘリアルが吹き飛ぶ。続けて憐が縛霊手から光弾を発射。
「目をそらされるより早く　吐息の距離でささやくの　空気に染みた体温　首筋　胸元　滑り落ちてく――さあ、私の肉を汚して？」
　キサナの歌声が響く。歌声が呪いとなってエインヘリアルの内部を破壊していく。
「なんだ……この歌はぐあっ」
　苦しむエインヘリアルへと茜が斬撃を浴びせる。チェーンソー剣の一撃がエインヘリアルの身体を真っ二つに斬り裂いた。
「皆さん全員男嫌いなんですか？」
　征夫が言葉を投げかけながら『妖刀亀斬り』を振るう。
　雫の御業がエインヘリアルを鷲掴みにし、その隙にラリーの飛び蹴りが胴へと突き刺さる。トドメに葵の主砲がエインヘリアルを貫いた。

　統率を失った集団程、脆いものはない。一度目の攻撃よりも楽に、数体を倒すことが出来た。だからと言って浮かれている余裕はない。敵の数の方がまだこちらよりも多いし、奇襲気味で混乱していた指揮も戻りつつあった。
　憐を庇い銃弾を浴びる瀬理。
「瀬理さん、大丈夫っすか？」
「うちの事はいい。それより攻撃してぇな」
「了解っすよ」
　憐は急ぎ槍を上空へと放った。
　キサナが体を高速回転させ、エインヘリアルへと突撃する。続けて茜が電光石火の蹴りで追撃。２人の攻撃を受けエインヘリアルは力尽きた。
「こいつでトドメだ！」
「久遠さん、援護します！」
　征夫の斬撃が弧を描き……跳躍したラリーが『宝剣「God save the Queen」』を振り下ろした。体重を乗せた一撃はエインヘリアルの盾もろとも体を斬り裂いた。
「もっと時間があれば大きいのもできますけど、これでも充分ですよ！」
　雫が詠唱を終えると、竹の攻性植物の頭上に雷雲が生まれる。落ちる雷が、竹の攻性植物の身体を裂き、命を奪い取った。
「ナノマシン展開、ブーストを開始します！」
　受けた傷を癒すため、看護用ナノマシンを散布する葵。

　戦い続けて、ようやく半数を倒した時、遠くに敵の増援を確認する。
「これほどまでとは…！」
「これはもう無理ですよ、引き揚げましょう！」
　茜と葵が三下感を演出し、撤退を始めた。
「さっきと同じじゃ芸がないしな」
　瀬理は懐から閃光弾を取り出し、敵に向かって放る。
　白百合騎士団達の目が眩んでいる間にケルベロス達はその場を離れた。

●襲撃、三度
「同じ手は食わんぞ」
　三度目ともなると、敵も襲撃に備えていた様で、隊列を組みなおし、万全の状態でケルベロス達を待ち受けていた。
　全力で対処に当たってくれた方が、ありがたいのだが、それを敵側に教える必要はない。
「グゥルァァアアアアッッッ！！！！」
　殺意のこもった瀬理の咆哮が響き渡る。
「これがケルベロスの真の力っす！　くらえケルベロスビィィィーム！」
　憐の両目から青白いビームが発射される。ビームは真っ直ぐに目の前の敵を撃つ。
「目が、目が～！」
　あまりの眩しさに、憐は目を抑えてもがいていた。
「さあ――奪ってみろよ、オレという魂を！」
　長期戦に余力もそれほど残ってないにもかかわらず、キサナは挑発を続け、呪歌を歌う。
「――焼け付く痛みを負うことを拒絶したい。されど、倒れることも逃げることも拒絶したいがゆえに、倒れぬ盾となって在りましょう……！」
　盾として戦場に立ち続けたいという願う茜。その思いが自らの傷を癒していく。
「凍てつけ、鳴龍っ！」
「黒光よ降り注げ、ライジングダーク」
「刃に輝きの洗礼を！　邪悪を貫く怒涛の奔流……受けてみなさい！！」
「ミサイル展開、発射します」

　ケルベロス達は攻撃を繰り返し、弱った相手を確実に仕留め敵の数を減らしていく。
「これならあなた達の長も大したことないですね」
　雷に撃たれたエインヘリアルが倒れる。その姿を眺め雫は白百合騎士団達に向かって言い放つ。そうは言うが、実際のところ皆限界が近い。敵に悟られない様にするには虚勢をはるしかない。
　しかしその虚勢も、一瞬で無駄に終わる。敵の数も残りわずかとなったところ、更なる増援が現れた――その数２０。
　先の襲撃を見越して、増援を要請していたのだろう。
「ちょっとこの数はきついっすね」
　増援の数を見て憐はため息をついた。
「撤退しましょう。しんがりはわたしが」
　茜の提案に皆が頷く。
　この数の戦力をこの場に引き付けることが出来たのだ。陽動としては十分の働きだ。無理に戦い続けて、倒されたり捕まったりしては作戦の意味がない。そう判断した結果、この場から完全に撤退することにした。
「は、話が違いますよ、今回は格下しかいないから楽勝じゃなかったんですか！？」
「挑んでおきながら去って行く卑怯者ではいたくはありませんが、わたし達がそしりを受けるだけで隣人の笑顔に繋がるなら、迷わず受けましょう！」
「今回はこの辺で勘弁したるわ！　次はないでー！」
　口々に捨て台詞を残し、ケルベロス達はその場を後にする。
　後ろからは勝利の声が聞こえる。
　この襲撃の本当の意味を知ったとき、白百合騎士団達がどんな表情をするのか想像し、ケルベロス達は撤退しながら笑みを浮かべていた。

作者：神無月シュン	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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